-教科横断的・系統的な授業実践を通して-
後藤 壮史
奈良県王寺町立王寺小学校
A Study on the Development of the Students by the Programming Classes
-Through Cross-Curricular and Systematic Teaching Practice-
Takeshi Goto
Oji Town Oji Elementary School
<あらまし> 本稿では、教科横断的・系統的な授業モデルをもとにプログラミング教育を 実践した場合、児童にどのような変容が見られるのかを明らかにすることを目的とした。方 法として、まず先行研究や文科省の指針をもとに、系統的な授業を計画し(手順Ⅰ)、次に 児童の変容を見取るための調査項目を作成した後(手順Ⅱ)、それらをもとに授業実践・事 前事後調査を行い、児童の変容について検討した(手順Ⅲ)。結果、過半数の児童が「難し いけれど、楽しい。」と意欲的に取り組み、スムーズに学習を進め、発展的な課題にチャレ ンジするようになった。一方で条件分岐やデバックなどにつまずく児童も現れた。また児童 のプログラミング教育に関わる資質・能力は「プログラムという概念理解」を除き、9時間 程度の実践で大きく培われていくものではなく、6年間を見通したカリキュラム・マネジメ ントを通して、段階的・系統的に資質・能力を育んでいくことが重要であると考えられた。
<キーワード> プログラミング教育 意識調査 資質能力 評価
1.はじめに 1. 1.背景
昨今のコロナ禍と文科省による
GIGA
スクール 構想の推進が相まって、学校現場では急速なICT
環 境整備が進められている。とくに小学校においては、2020
年度からプログラミング教育が必修化された こともあり、1
人1
台の情報端末の活用とプログラ ミング教育の推進が平行して行われ、現場の教員は 日々試行錯誤しながら、より効果的な実践を生み出 そうと切磋琢磨している。多くの公立小学校では、先行事例をもとに実施す るというよりも、むしろ目の前の課題を解決するた めに活用したり、教員のアイディアを実践に移した りと、「とりあえず使ってみよう」という試行の段階 にあり、その中で各校が独自の有用性を見つけ始め ている。そのような状況において、今後重要となる ことが、児童の資質・能力の成長を見取った有用性
の検証である。
1. 2.小学校プログラミング教育の概観
1. 2. 1.小学校プログラミング教育の実施と評価 文科省(
2020
)はプログラミング教育のねらいに ついて、「①“
プログラミング的思考”
を育むこと、② プログラムの働きやよさ、情報社会がコンピュータ 等の情報技術によって支えられていることなどに気 付くことができるようにするとともに、コンピュー タ等を上手に活用して身近な問題を解決したり、よ りよい社会を築いたりしようとする態度を育むこと、③各教科等の内容を指導する中で実施する場合には、
各教科等での学びをより確実なものとすること」で あると述べている。一方でプログラミング教育の評 価については、「プログラミングを学習活動として 実施した教科等において、それぞれの教科等の評価 規準により評価するのが基本」とし、「プログラミン
グを実施したからといって、それだけを取り立てて 評価したり、評定をしたりする(成績をつける)も のではない。」と述べている。ただし、「プログラミ ング教育のねらいを達成するための学習活動を計画 し実施して、児童の資質・能力の伸びを捉えるとと もに、特に意欲的に取り組んでいたり、プログラム を工夫していたりなど、目覚ましい成長のみられる 児童には、機会を捉えてその評価を適切に伝えるこ と等により、児童の学びがより深まるようにしてい くことが望ましい。」と述べている。つまり評定(成 績)をつけるためではなく、教師の授業改善や児童 の学習成果の向上のために「プログラミング教育の ねらい」をもとに評価しフィードバックすることは 必要だということである。
1. 2. 2.先行研究の動向
小学校プログラミング教育に関する研究は
2003
年ごろに端を発し、様々な教材開発と児童を対象と した実践研究がなされた。2010
年代に小学生でも 取り組みやすいビジュアルプログラミング言語を 使ったソフトを活用することが主流となり、プログ ラミング教育が必修化された2020
年にはビジュア ルプログラミングソフト「Scratch
」の使用方法や授 業展開が検定教科書に掲載されるまでになった。先行研究を概観すると、
2010
年から2016
年ごろ にかけては、大学の附属小学校や公立小学校の課外 活動、大学実施のプログラミング体験教室などの フィールドにおいて実施され、ビジュアルプログラ ミングにおけるブロックの使用状況やフローチャー トの分析、アンケート調査等から成果を検証してい るものが多く見られる(森ほか2011
,萱津・矢澤2016
,長谷川ほか2016
)。文部科学省(
2016
)「小学校段階におけるプログ ラミング教育の在り方について(議論の取りまと め)」が公表された2016
年ごろからは、各教科に関 連付けた実践が多く見られるようになった。磯川ら(
2019
)は、2016
年から2019
年までの小学校プロ グラミング教育の実践研究の動向について、総合的 な学習の時間、算数科、理科を中心に実践研究が行 われており、Scratch
など特定の教材・環境に偏っ て実践研究が行われていることなどを明らかにして いる。1. 3.本研究の目的
小学校プログラミング教育について概観したが、
文科省が方向性を提示したことや、検定教科書が出 されたことにより、ある一定の方向性が見えてきた かのように思う。また、それらをもとにした先行研 究の蓄積により、ビジュアルプログラミングソフト やロボット教材の実用性、それらが児童らの資質能
力に与える影響、実践事例などの成果が蓄積されて きた。しかし先行研究では、限られた対象・環境の 下で実践されたものが多く、今後多くの公立小学校 がこれらの研究を参考にできるよう、一般化されて きたとは言い難い。具体的には、以下のような課題 が挙げられる。
ⅰ)実施対象に偏りがある
先述したように、大学の附属小学校や公立小学校 の課外活動、大学実施のプログラミング体験教室の 児童を対象にしたものが多いため、公立小学校にお ける児童の実態に当てはまるとは言い難い。
ⅱ)実施時間が現実的ではない
教科に位置付けることなく
90
分程度の授業を数 回実施、または1
単元10
時間以上の授業を短期間で 実施しているものが多い。プログラミング教育は教 科ではないため、特別に授業時数が確保されている わけではない。文科省(2020
)においても、カリ キュラム・マネジメントによる教科横断的・計画的 な実施が求められていることから、教科に位置付け ることなく、短期間で多くの時間を捻出することは 現実的ではないと言える。ⅲ)指導者は比較的
ICT
活用能力が高い大学の情報系教員、または
ICT
活用を得意とする 教員が指導しているため、公立小学校における教員 のICT
活用能力の実態に合っているとは言い難い。ⅳ)支援スタッフによるサポート体制がある 児童のつまずきに備え、支援スタッフによるサ ポート体制を構築し、実施している。特別な人員確 保をしない限り、学級担任が
1
人で指導していくこ とが多い公立学校の状況から考えると、学校現場の 実態に合っているとは言い難い。Ⅴ)任意の教科・教材に特化している
1
つの教科・教材に特化し、学習成果を検証して いるものが多い。また高価なロボット教材など、教 材の確保が難しい実践研究も多く見られるため、実 践の再現可能性を考慮していく必要がある。Ⅵ)アンケート等の評価方法に関して、文科省が示 す評価規準とリンクしていない
個々の先行研究においては任意の教材・指導方法 による成果の検証を目的とし、評価項目を作成して いるため、汎用性の確保が難しいと考えられる。ま た公立学校においては、文科省が示した『プログラ ミング教育のねらい』を達成することを目的に学習 活動を進めていることから、使用する評価項目が文 科省の示す評価規準に則していることが求められる。
このように、今後多くの公立小学校が参考にでき るような研究成果を蓄積するためには、先述した課 題を解決し、より学校現場の実態に合った環境の中 で実践研究をすることで、プログラミング教育によ る成果をより一般化していく必要がある。
そこで本稿では、一般的な公立小学校の学校実態 に即した実践環境のもとで、文科省が示す系統的な 授業モデルをもとにプログラミング教育を実践した 場合、児童にどのような変容が見られるかを明らか にすることを目的とする。
方法として、まず先行研究や文科省の指針をもと に、系統的な授業を計画する(手順Ⅰ)。次に児童の 変容を見取るための調査項目を作成し、その信頼 性・妥当性を検証する(手順Ⅱ)。さらに手順Ⅰの授 業計画をもとに授業を実践し、手順Ⅱの調査項目等 を活用し、児童の変容を明らかにする(手順Ⅲ)。
2.手順Ⅰ:授業計画の構想 2. 1.授業計画作成上の留意点
小学校プログラミング教育において、文科省
(
2020
)は、カリキュラム・マネジメントの重要性 を指摘している。冒頭で述べたプログラミング教育 のねらいをもとに、「必要な指導内容を教科等横断 的に配列して、計画的、組織的に取り組むこと」が 重要であることから、本研究では、小学5
年生にお いて文科省が例示するA
分類の「算数:正多角形」の授業だけでなく、その前後において教科横断的に
B
分類やC
分類、D
分類の授業を配列することに留 意した(表1)。表1 小学校プログラミング教育における 学習活動の分類(文科省
2020
)A 学習指導要領に例示されている単元等で実施するもの B 学習指導要領に例示されていないが、学習指導要領に 示される各教科等の内容を指導する中で実施するもの C 教育課程内で各教科等とは別に実施するもの D クラブ活動など、特定の児童を対象として、教育課
程内で実施するもの
E 学校を会場とするが、教育課程外のもの F 学校外でのプログラミングの学習機会
また前章で述べた先行研究と学校現場の実態との 隔たりを小さくするため、①推進校ではなく、一般 的な公立小学校の
1
学年すべての児童を対象に実践 すること、②現実的な実施時間を設定すること、③ 各クラス学級担任が指導すること、④支援スタッフ 等を活用せず、学習環境に工夫を加えることで児童 を支援すること、⑤教科横断的に授業を計画し、一 般的に入手しやすい教材を複数活用すること、⑥文 科省が示すプログラミング教育のねらいと、資質・能力の
3
つの柱に沿って授業を計画・実施・評価す ること、の6
点に留意した。なお、④の学習環境の工夫として、本実践では『ペ アプログラミング』を取り入れた。ペアプログラミ ングとは、主に企業等が生産性を上げるために取り
入れるソフトウェア開発の手法の一つで、プログラ マーが
2
人1
組でペアを作り、「ドライバー」「ナビ ゲーター」と呼ばれる役割を交代しながら、常に意 見交流してプログラミングを行うというものである。小学校プログラミング授業においてもその効果が示 されており、山本・堀田(
2019
)はペアプログラミ ングが1
人1
台よりも児童が計画して協力しながら 学習を展開できることを示した。また中山・森本(
2020
)は、ペアプログラミングを取り入れること で、児童が互いの役割を意識し、ねばり強く、2
人 で教え合いながら取り組めることを明らかにした。よって本実践においても効果的であると考え、本手 法を採用した。
2. 2.授業計画の全体像
本研究は図 1の手順で進めた。実践対象は今年度 から本格的にプログラミング教育に取り組む公立
A
小学校である。A
小学校では、9
月から「プログラ ミングの基礎(総合・3
時間)」についてScratch
を 使って学習した。コンピュータとプログラミングに ついての基礎知識や、Scratch
の基本的な操作方法 やアルゴリズムについて、主にNHK for school
「
Why!?
プログラミング」サイト内の教材を活用し て進めた。また10
月には「正多角形の作図(算数・2
時間)」を行い、Scratch
を使って様々な多角形を 描くことで、図形の性質についての理解を深めた。11
月には「電磁石の強さ(理科・4
時間)」において、micro:bit
を使って磁力を測ったり、電磁石とmicro:bit
を併用したものづくりを行い、12
月には アンプラグドプログラミング学習で電流を制御した「ランタンづくり(図工・
2
時間)」を行った。この ように小学5
年生において文科省が例示するA
分類 の「算数:正多角形」の授業だけでなく、その前後 において教科横断的にB
分類やC
分類などの授業 を配列したり、Scratch
やmicro:bit
を利用したり、アンプラグドプログラミング学習などを行ったりし て、様々な場面を設定することにした。なお、示さ れた時間数は、プログラミングの要素を取り入れた 学習時間のみを示している。これらの実践において は、図 1に示すタイミングで調査①・②(事前・事 後調査)を行い、手順Ⅲにおいて児童の変容を見 取っていく。
図1 プログラミング教育実践計画(5年生)
【 9 月】プログラミングの基礎(教科外・ 3 時間) C Scratch ↓ 調査①
【 10 月】正多角形の作図(算数・ 2 時間) A Scratch ↓
【 11 月】電磁石の強さ(理科・ 4 時間) B micro:bit ↓ 調査②
【 12 月】ランタンづくり(図工・ 2 時間) B
アンプラグド3. 手順Ⅱ:調査項目の作成
3. 1.小学校プログラミング教育の評価
先行研究においても、成果を検証する手段として、
小学校プログラミング教育の評価に触れたものがい くつか存在する。それらは大きく
2
つに分けられ、①特定の対象に特化したもの、②汎用性を持たせた のものがあるといえる。本研究においては、②のよ うに、広く公立小学校でのどのような実践において も活用可能な評価規準を採り上げることにする。
文科省が示す資質・能力の三つの柱やプログラミ ング教育のねらいに沿った評価規準としてはベネッ セ(
2017
)などがある。佐々木ら(2017
)は、こ れらの既存の評価規準を集約し、学年や学習法を越 えた汎用的な評価基準ルーブリックを作成した。ま た足立ら(2020
)は、プログラミング教育における 学習成果を評価する方法の試案として、「プログラ ムをデバックするテストの実施」を挙げている。こ れらのように、主に教師がルーブリックを用いて児 童の資質・能力を見取ったり、テストを実施して数 値的に評価したりする研究が積極的になされている。一方、「プログラミング的思考」については各研究 で捉え方に違いが見られる。プログラミング的思考 について文科省(
2020
)は、「将来どのような進路 を選択しどのような職業に就くとしても、普遍的に 求められる力」であると述べている。つまりプログ ラミング的思考は汎用的でなくてはならず、たとえ ば単に「Scratch
が上達した。」ということではなく、最終的には児童がプログラミング教育として学習し ている内容以外のことに活用できているかを見取る ことが本来のねらいと直結する評価法であることが わかる。これは容易なことではないが、非常に重要 な視点であると考える。
よって本稿においては、「児童が他の場面におい
てプログラミング的思考を活用できているのか」と いう観点も考慮し、調査項目を作成することにする。
3. 2.アンケート項目の作成
先行研究(ベネッセ
2017
)から、高学年(5
・6
年生)における評価規準を抽出し、それらを4
名の 現職教員によって児童らが理解しやすいよう必要に 応じて文章を改良し、高学年用自己評価アンケート14
項目を作成した。また回答者の属性に関する2
項 目「1
.プログラミングの授業は楽しい」、「2
.プロ グラミングの授業はむずかしい」を作成した。以上の手続きによって作成した調査項目を用い て、令和
2
年10
月中旬に、A
小学校5
年生72
名を対 象に事前調査を実施した。作成した計14
項目を示 し、6
段階のリッカート尺度(6
.とてもそう思う、5
. そう思う、4
.少しそう思う、3
.あまりそう思わな い、2
.そう思わない、1
.全くそう思わない)を用 いて質問し、回答を求めた。また同時に、回答者の 属性に関する2
項目について「そう思う理由」、また「今後やってみたいこと」の計
3
点について記述形式 で尋ねた。3. 3.統計分析
調査項目の内容的妥当性を検討するために、現職 教員
4
名による項目内容の妥当性の判定とGP
分析 による項目分析を実施した。また、それらの検討を 経た項目についてCronbach
のα
係数を算出し、内的 整合性の検討を行った(表2)。統計解析ソフトにはjs-STAR
、R
を用いた。現職教員らによる項目内容の妥当性の判定では、
すべての項目において肯定的な反応が示された。
GP
分析においては、14
項目の合計得点を算出し、得点の上位群と下位群(それぞれの群は
50
%)を選No. 質問項目 Mean SD df t-value
1 身近な生活の中にあるコンピュータに気づき、その仕組みを考えられる 4.14 1.35 69.07 4.30***
2 「プログラム」とはどんなものであるか、説明することができる 3.63 1.25 69.01 6.54***
3 「~をしたとき」「もし~なら」というブロックの使い方がわかる 4.82 1.01 68.95 4.29***
4 ブロックをどのような順番・繰り返しで組み立てると良いのかがわかる 4.64 0.88 68.61 4.18***
5 身近な生活の中で「センサー」がどのように活用されているかがわかる 4.47 1.27 69.58 4.93***
6 めあてを達成するために、何をすればよいのか見通しを立てられる 4.51 1.13 60.44 6.85***
7 ものごとの「しくみ」や「きまり」を見つけ、説明することができる 4.03 1.28 65.36 5.79***
動きの細分化 8 大きな動きを、いくつかの小さな動きに分けることができる 4.75 1.06 67.81 6.41***
記号化 9 めあてを達成するために、どのような手立てが必要なのか考えられる 4.67 1.03 68.31 6.64***
類似性
関係性 10 ものごとの「しくみ」や「きまり」を見つけ、他のものごとにあてはめて使うことができる 4.68 1.05 57.48 4.76***
組み合わせ 11 めあてを達成するために、手立てを順番に組み合わせることができる 4.65 1.01 61.88 5.0***
振り返り
(デバック) 12 考えた手順にどんな問題があるのかを考え、改善することができる 4.26 1.14 67.86 6.73***
13 めあてや手順を考え、最後まで計画的にやりとげようとしている 4.69 1.26 69.24 4.13***
14 身近な生活の中のどのような所にコンピュータを使うと便利なのか考えることがある 4.60 1.37 49.87 6.66***
観点
α=0.903 14項目
知識 理解
学びに 向かう 人間性 思考力 判断力 表現力
身近な コンピュータ
活用
コンピュータ への指示
論理的思考
コンピュータ を生かそうと する態度
表2 高学年用自己評価アンケートの各項目と分析結果
別したうえで、それぞれの群において各項目得点の 平均値を算出し、その差を
t
検定で検討したところ、すべての項目で有意差が認められた。これらの結果 から、作成された
14
項目すべての内容的妥当性が 確認できたといえる。また、内容的妥当性の検討を 経た全14
項目についてCronbach
のα
係数を算出 したところ、0. 903
という高い値が得られた。この ことから、14
項目について信頼性を満たしているこ とが保証されたものと考える。4.手順Ⅲ:授業実践と児童の変容 4. 1.方法
今年度から本格的にプログラミング教育を行う
A
小学校の5
年生3
クラス72
名を対象に、手順Ⅰによ り作成した授業計画をもとに実践を進めた。授業者 はそれぞれ学級担任である3
名の現職教員(表3)で ある。主にICT
を活用した実践研究に従事してい るA
教諭(筆者)がリーダーシップを取り、B
教諭C
教諭とともに、全てのクラスにおいて同じ指導案 の下、全11
時間の指導を行った。また指導前には研 修会を開き、授業ではできる限りお互いの授業を観 察し、意見交流しながら、足並みをそろえた指導を 行った。表3 指導者の属性
教員 教職年数 プログラミング
指導経験 苦手意識
A 教諭 13 年目 あり なし
B 教諭 13 年目 あり あり:中
C 教諭 8 年目 なし あり:大
4. 2.児童の傾向と特徴
手順Ⅱにより作成した調査項目を活用し、調査①
(
3
時間学習後)のアンケート結果について分析を進 めた。まず回答者の属性に関する2
項目の得点は表 4、図2、図3のような結果となった。この2
項目を 変数として、参加者72
人を対象にユークリッド距 離の二乗を用いたクラスタ分析(ウォード法)を 行った結果、図 4のデンドログラムが得られた。こ れをもとにクラスタ数を3
つに規定し、各クラスタ のプロフィール分析を試みたものが図5である。まず表 4からわかるように、楽しさの平均得点が 非常に高く、分散値が低いことがわかる。また図 2 のように楽しさを感じている児童が全体の
95%
に 達していることからも、プログラミング教育が児童 らにとってとても魅力的であることがわかる。図 3 からは、74%
の児童が難しさを感じていることも捉 えられる。表4 楽しさ・難しさの得点
mean sd min max
楽しさ
5.38 1.00 1 6
難しさ4.08 1.53 1 6
図2 「楽しさ」の割合
図3 「難しさ」の割合
図4 クラスタ分析の結果
図5 プロフィール分析の結果(期待値)
また図5を見ると、「楽しい×難しい」と感じてい る児童が
42
人(全体の約58%
)いることから、難 しいことは決して否定的なことではなく、むしろ楽 しさの要因になっているのではないかと予想できる。一方で、「楽しくない×難しい」と感じている児童も
12
人(全体の約17%
)いることから、プログラミン グ教育の実施にあたっては、これらの児童のつまず きをなくせるような授業改善やサポート体制を考え ていく必要があると考えられる。本稿では、クラスタ分析により明らかになった
「ⅰ楽しい×難しくない(以後は楽×易群)」、「ⅱ楽 しい×難しい(以後は楽×難群)」、「ⅲ楽しくない×
難しい(以後は苦×難群)」の
3
群の変容に注目し、分析を進めることにする。
4. 3.得点分析
児童の属性を問う
2
項目とプログラミング教育に 関わる14
の自己評価項目について、「楽しさ×難し さ」の3
群と「事前・事後」の2
群を変数とした2
要因分散分析を試みた(表5、表6)。表中の括弧内 の数値は標準偏差を示している。まず児童の属性を 問う2
項目について、共に0.1
%水準で交互作用が 認められた(F
(2
,69
)=9.75
,p<0.001
)、(F
(2
,69
)=9.76
,p<0.001
)。さらに、有意水準α=0.15
と して単純主効果検定を行うと、①楽しさに関しては、「苦×難群」のみ
0.1
%水準で有意差が見られた(F
(
1
,69
)=14.2
,p<0.001
)。また②難しさに関して は、「楽×易群」、「楽×難群」の2
群に対し1
%水準で有意差が見られた(
F
(1
,69
)=10.32
,p<0.001
)(
F
(1
,69
)=9.14
,p<0.001
)。このことから、「① 楽しさ」に関して、始めは「あまり楽しいと感じて いない」児童も、プログラミング学習を9
時間程度 進めることで、「楽しいと感じる」ようになることが わかる。また「②難しさ」に関して、「楽×易群」は「すこし難しい」と感じるようになり、「楽×難群」
は「難しさが和らぐ」ようになることがわかる。一 方で「苦×難群」にとって難しさの程度は変わらな いことがわかる。しかし、先の「①楽しさ」が有意 に高まっていたことからわかるように、決してネガ ティブな意味合いではなく、「苦×難群」の一部は、
難しさの中にも楽しみを感じる「楽×難群」へと変 容したことが推測できる。
次にプログラミング教育に関わる
14
の自己評価 項目について、「楽しさ×難しさ」による主効果で は、「①身近なコンピュータ活用」、「③条件分岐処 理」、「⑫振り返り(デバック)」、「⑬計画的に進めよ うとする態度」の4
項目で、5
%水準で主効果が認め られた(F
(2
,69
)=3.39
,p<0.05
)、(F
(2
,69
)=4.65
,p<0.05
)、(F
(2
,69
)=3.35
,p<0.05
)、(F
(
2
,69
)=3.65
,p<0.05
)。t
検定(α=0.05
,両側検 定)を用いた多重比較によると、いずれの項目にお いても「楽×易群」が「楽×難群」、「苦×難群」よ りも有意に高い結果であった。このことから、「楽×易群」は「①身近なコンピュータ活用」、「③条件分 岐処理」、「⑫振り返り(デバック)」、「⑬計画的に進 めようとする態度」の
4
つの観点に対し、他の2
群 より資質・能力が高いと自覚しているということが わかる。言い換えると、難しさを感じている群は、特 にこの4
つの観点についてつまずいているのではな いかと考えられる。次に、「事前・事後」による主効果では、「②プロ グラムという概念理解」について
0.1
%水準で主効 果が認められ(F
(2
,69
)=22.33
,p<0.001
)、「楽 しさ×難しさ」の3
群間の有意差はみられなかった。このことから、プログラミング学習を
9
時間程度進 めることで、全ての児童において「②プログラムと いう概念理解」が深まるということが考えられる。質問項目 楽×易 群 楽×難 群 苦×難 群 楽×難 事前事後 交互 事前 事後 事前 事後 事前 事後 主効果 主効果 作用
①楽しさ 6.00 5.56 5.64 5.43 3.50 4.58
*** n.s ***
( 0.00 ) ( 0.86 ) ( 0.49 ) ( 0.80 ) ( 0.90 ) ( 1.16 )
②難しさ 1.78 2.67 4.81 4.26 5.00 4.58
*** n.s ***
( 0.81 ) ( 1.14 ) ( 0.74 ) ( 1.40 ) ( 0.60 ) ( 0.90 )
***
:p < .001
表5 楽しさ・難しさに関する比較結果
4. 4.記述分析
回答者の属性に関する
2
項目について「そう思う 理由」、また「今後やってみたいこと」の計3
点につ いて記述形式で尋ね、それらに対しKHcoder
を用 いたテキストマイニングを試みた(図 6、図 7、図 8)。抽出されたワード間の線のつながりによって共 起関係を表しており、円が大きいほどワードの出現 回数が多いことを示す。図6の事前調査の結果を見ると、「楽しい」は「プ ログラミング」や「動かす」といったワードと関連 性が強いことがわかる。また「楽しい」と「難しい」
に関連性があることから、児童らは「難しさ」を「楽 しい」と感じていることがわかる。また楽しい理由 として、「自分」「考える」「動く」などの関連性が強 いことからも、自分でキャラクターなどを思い通り
に動かすことができることに楽しさを感じているよ うである。また「ブロック」「組み立てる」「仕組み」
の関連性からも、ビジュアルプログラミングによっ て直感的に取り組めることが、楽しさの要因となっ ていることが読み取れる。
一方で事後調査結果においては、「
Scratch
」「
micro:bit
」「成功」「達成」「協力」などの言葉が新 たに見られる。これらを他のワードとの関連性から 考察すると、「Scratch
」「micro:bit
」を使った学習 を通して、「成功」したり「達成」したりすることに 楽しみを感じていたのではないかと考えられる。ま たペアプログラミングを取り入れたことにより、仲 間と「協力」しながら学習することに楽しみを感じ ていたのではないかと考えられる。これは山本ら(
2019
)が明らかにしたペアプログラミングの有用質問項目 楽×易 群 楽×難 群 苦×難 群 楽・難
主効果
事前事後 主効果
交互 事前 事後 事前 事後 事前 事後 作用
① 身近なコンピュータ 活用への気付き
4.78 4.83 4.02 4.19 3.58 3.83
* n.s n.s
( 1.31 ) ( 1.38 ) ( 1.26 ) ( 1.44 ) ( 1.44 ) ( 1.03 )
② プログラムという概 念理解
3.89 4.61 3.60 4.29 3.33 4.08
n.s *** n.s
( 1.64 ) ( 1.38 ) ( 1.06 ) ( 0.94 ) ( 1.23 ) ( 0.79 )
③条件分岐処理 5.39 5.22 4.69 4.95 4.42 4.42
* n.s n.s
( 0.92 ) ( 0.88 ) ( 0.92 ) ( 0.94 ) ( 1.16 ) ( 1.31 )
④順次処理・繰り返し 5.11 4.89 4.48 4.57 4.50 4.25
n.s n.s n.s
( 0.83 ) ( 1.32 ) ( 0.86 ) ( 0.99 ) ( 0.80 ) ( 1.06 )
⑤ センサー活用への気 付き
4.44 4.67 4.57 4.38 4.17 4.42
n.s n.s n.s
( 1.46 ) ( 1.46 ) ( 1.11 ) ( 1.34 ) ( 1.53 ) ( 1.31 )
⑥目標への見通し 4.61 4.83 4.64 4.86 3.92 4.42
n.s n.s n.s
( 1.38 ) ( 1.10 ) ( 0.91 ) ( 0.95 ) ( 1.31 ) ( 1.08 )
⑦ しくみやきまりの発 見
4.56 4.72 3.81 4.19 4.00 3.83
n.s n.s n.s
( 1.42 ) ( 1.07 ) ( 1.23 ) ( 1.04 ) ( 1.04 ) ( 1.03 )
⑧動きの細分化 4.83 4.50 4.86 4.43 4.25 4.25
n.s n.s n.s
( 1.20 ) ( 1.50 ) ( 0.95 ) ( 1.13 ) ( 1.14 ) ( 1.42 )
⑨記号化 4.78 4.61 4.74 4.76 4.25 4.42
n.s n.s n.s
( 1.06 ) ( 1.50 ) ( 0.96 ) ( 1.01 ) ( 1.22 ) ( 1.08 )
⑩ 類似性・関係性の適 用
4.78 4.61 4.74 4.76 4.25 4.42
n.s n.s n.s
( 1.06 ) ( 1.50 ) ( 0.96 ) ( 1.01 ) ( 1.22 ) ( 1.08 )
⑪組み合わせ 4.89 4.72 4.62 4.48 4.42 4.33
n.s n.s n.s
( 1.08 ) ( 1.32 ) ( 0.85 ) ( 0.97 ) ( 1.38 ) ( 0.98 )
⑫ 振 り 返 り( デ バ ッ ク)
4.78 4.83 4.19 4.45 3.75 4.00
* n.s n.s
( 1.22 ) ( 1.34 ) ( 1.04 ) ( 1.09 ) ( 1.14 ) ( 1.54 )
⑬ 計画的に進めようと する態度
5.11 5.28 4.67 4.67 4.17 4.42
* n.s n.s
( 0.96 ) ( 0.96 ) ( 1.05 ) ( 1.07 ) ( 2.04 ) ( 1.38 )
⑭ 身近なコンピュータ 活用への態度
5.06 5.17 4.62 4.62 3.83 4.58
n.s n.s n.s
( 1.47 ) ( 1.20 ) ( 1.29 ) ( 1.34 ) ( 1.27 ) ( 1.24 )
*** : p < .001 , * : p < .05
表6 プログラミング教育における資質能力14
項目に関する比較結果<事前> <事後>
図7 プログラミングの授業が楽しい理由(自由記述)
<事前> <事後>
図7 プログラミングの授業が難しい理由(自由記述)
性を支持するものと考えられる。
また図7の事前調査の結果を見ると、「難しい」は
「考える」「組み立てる」「ブロック」といったワー ドと関連性が強いことがわかる。このことから、ビ ジュアルプログラミングへのつまずきがある児童も いることがわかる。また「パソコン」「動かす」や
「文字」「打つ」などのパソコンの操作自体にまだ慣 れていないことも難しさの要因となっている。一方 で事後調査結果においては、「デバック」「友達」
「聞く」などの言葉が新たに見られるが、「機械」に 対する「苦手」意識はみられなくなった。これらを 他のワードとの関連性から考察すると、プログラミ ングを進める上で、とくに「デバック」する際に難 しさを感じているのではないかと考えられる。これ は前節における、「難しさを感じている群は、⑫振り 返り(デバック)につまずきを感じているのではな いか」という考察にも当てはまる。一方で「友達」
に「聞く」ことが解決につながっていると考えられ ることから、ペアプログラミングの有用性も再確認 できる。
図 8の事前調査の結果を見ると、今後やってみた いこととして「ゲーム」「自分」「作る」といった ワードと関連性が強いことがわかる。児童らはプロ グラミングの基礎を学習する過程において、
Scratch
を活用して様々なコンテンツを作り出すこ とができることを知った。その中でも、やはりゲー ムを作ることが一番魅力的であったことが考えられ る。一方で事後調査結果においては、「Scratch
」「
micro:bit
」を活用した具体的な創作物や、「ロボッ ト」を「作る」ことなど多方面にアイディアが広がっ ていることがわかる。また「生活」「役立つ」という ワードからは、micro:bit
を使ったものづくりを通 して、画面上での創作から、実生活に役立つものづ くりへと発想が広がったのではないかと考えられる。さらに「友達」「教える」というワードから、ペアプ ログラミングや児童らの創作物について交流する機 会を通して、意見や情報を交流しながら学習するこ との面白さにも気付き始めたのではないかと考えら れる。
5.まとめと課題
本稿では、一般的な公立小学校の学校実態に即し た実践環境のもとで、文科省が示す系統的な授業モ デルをもとにプログラミング教育を実践した場合、
児童にどのような変容が見られるかを明らかにする ことを目的とした。方法として、まず先行研究や文 科省の指針をもとに、系統的な授業を計画し(手順
Ⅰ)、次に児童の変容を見取るための調査項目を作 成した後(手順Ⅱ)、それらをもとに授業実践・事前 事後調査を行い、児童の変容について検討した(手 順Ⅲ)。本稿で得られた結果は、以下の通りである。
ⅰ)プログラミング教育導入段階において、児童全 体の
95
%が楽しい、74
%の児童が難しいと感 じていた。ⅱ)プログラミング教育に対する「楽しさ×難しさ」
の感じ方により児童をグループ分けすると、
<事前> <事後>
図8 今後やってみたいこと(自由記述)
「楽×易群」、「楽×難群」、「苦×難群」の
3
群を 解釈でき、およそ2
対6
対2
の割合に分かれた。ⅲ)「苦×難群」にとって、プログラミング学習を
9
時間程度進めても、難しさの程度は変わらな かったが、楽しさの程度は有意に向上した。ⅳ)プログラミング学習を
9
時間程度進めることで、全ての児童において「②プログラムという概念 理解」が有意に高まった。
Ⅴ)難しさを感じている児童は、特に「①身近なコ ンピュータ活用」、「③条件分岐処理」、「⑫振り 返り(デバック)」、「⑬計画的に進めようとする 態度」の
4
つの観点についてつまずいているの ではないかと考えられた。Ⅵ)プログラミング学習を
9
時間程度進めることで、「成功」したり「達成」したりすることに楽しみ を感じるようになり、発想の広がりが見られた。
Ⅷ)ペアプログラミングを取り入れることで、協力 して困難を克服したり、友達と意見やアイディ アを交流することへの興味・関心が高まったり した。
これらを総じて言えることは、系統的なプログラ ミング教育を実践すると、過半数の児童が「難しい けれど、楽しい。」と意欲的に取り組み、スムーズに 学習を進め、発展的な課題にチャレンジするように なる。一方で条件分岐やデバックなどにつまずく児 童も現れる。多くの公立小学校では、支援スタッフ 等の活用は望めないという実態を考えると、ペアプ ログラミング等、共同して課題を解決するような環 境を創り出すことも大切である。
また児童のプログラミング教育に関わる資質・能 力は「プログラムという概念理解」を除き、
9
時間 程度の実践で大きく培われていくものではない。6
年間を見通したカリキュラム・マネジメントを通し て、段階的・系統的に資質・能力を育んでいくべき である。そのような観点から述べると、個々の実践 に対して成果を検証するような評価テスト等は現実 的ではないと言えよう。よって学校現場においては、年間を通して評価情報を蓄積し、機会を捉えてその 評価を適切に児童へ伝えたり、総合的な学習の時間 の記録において評価したりすることが最適ではない かと考えられる。
今後の課題として、教科横断的に様々な教材を活 用しながら総合的に学習していくという性質上、ど のような要因が資質・能力の向上へと繋がっている のかを特定することは非常に困難である。また、今 回作成した評価方法が最適であるとは限らないため、
成果の検証方法については再考していかなければな らない。加えて、数か月間では資質・能力の大きな 向上は見込めないことからも、今後はさらに長期に 渡って児童の変容を見取る必要がある。
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