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雑誌名 教育実践開発研究センター研究紀要

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小学校社会科教科書における農業の記述と農業に対 する大学生の認識

著者 根田 克彦, 米谷 葵

雑誌名 教育実践開発研究センター研究紀要

巻 23

ページ 227‑231

発行年 2014‑03‑31

その他のタイトル The Explanation of Agriculture in the

Elementary School and the University Students' View of Agriculture

URL http://hdl.handle.net/10105/9838

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1.はじめに

小学校社会科の第5学年は、主として地理的内容を扱 う。小学校学習指導要領第5学年社会の目標の2)は主 として産業に関する学習であり、農業と工業が中心的に 扱われる。

小学校社会科で扱う産業学習のなかで、農業は戦後 一貫して重要な扱いを受けている。北口・広田(1999;

2000)によると、その記述の仕方は、時代により変化し ている。1960年代の教科書では事実の説明的な記述が 主体であるが、1990年代以降の教科書では、一つの事 実に対するいろいろな見方を児童による会話方式で記述 し、児童に考えさせる場を提供する工夫がなされている。

特に食料輸入に関しては、1990年代以降の教科書では 輸入拡大を是認する意見と、輸入を制限して国産農産 物の生産を保護する意見とを対比させて、価値観を押し 付けない工夫がなされているとされている。しかし、食 料の安定的確保という価値観から、農業学習の必要性 が示されることも多い(奥谷他,2010)。この背景には、

日本において農業が衰退産業であるが、食料を安定的 に確保するためには生産活動が絶対的に必要なものであ ると認識がある(林,2008)。

小学校社会学習指導要領解説社会編では、食料生産 が「国民の食料を確保する重要な役割を果たしているこ と」を考えさせるようにするために,国民の主食である 米をはじめとする食料生産の意味を考えることができる ようにすることが指摘されている。さらに、学習指導要 領解説では、農業が国民の食料を確保する際に重要な 役割を果たしていることを考える手がかりとして、海外か ら輸入している食料を調べることが示されている。学習 指導要領解説では食料の輸入に関して是非を示していな いが、日本における食料生産者の工夫と努力を調べるこ とが必要であることを示している。身近な地域のフィール ド調査による農業学習の例では、農業を巡る厳しい現 実を視野に入れ、農業にとっての発展とは何かを考えさ せる試みが提唱されている(伊藤,2012)。

このように、従来の農業学習の研究では、小学校学 習指導要領を踏まえて、農業が産業としては衰退してい るが、国民の生活を支える重大な役割を担うとの観点を 持つものが主体である。日本の食料自給率を高めるため には、日本の農業を守ることが必要であり、その価値観 を児童に認識させることは必要かもしれない。しかし、

近年、環太平洋パートナーシップ(以下TPP)協定を推 進する立場から、日本の農業が必ずしも衰退産業とはい 根田克彦

(奈良教育大学 社会科教育講座(地理学))

米谷葵

(奈良教育大学 大学院教育学研究科)

The Explanation of Agriculture in the Elementary School and the University Students' View of Agriculture

Katsuhiko NEDA

(Department of Social Studies, Nara University of Education)

Aoi YONETANI

(Graduate School of Education, Nara University of Education)

要旨:本研究は、小学校社会科の第5学年における農業の記述を分析した。その結果、教科書は日本の農業が衰退してお り、日本の食料自給率を高めるために、日本の農業を大切にするとの方向性が示されていた。奈良教育大学生の農業に対す る認識も、教科書の記述とほぼ一致する。しかし、小学校で思考力を育成する授業を行うためには、例えば環太平洋パート ナーシップ(TPP)の討論をする際に、教科書の見解だけではなく、それに反対する立場からのデータも児童に示し、児童に 最終的な判断をさせる必要があろう。

キーワード: 小学校 Elementary school、社会科 Social studies、農業 Agriculture、

教科書 Textbook

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えず、食料自給率の低下も問題ではないとの意見が出さ れている(山下,2013)。それらの見解が正しいかどうか は別にして、小学校の授業でTPPの様な時事問題を考 えさせることは、思考力を育成するために効果的である と考える。2008年の学習指導要領改訂で重視された「確 かな学力」とは,基礎的知識の定着と,それと両輪を なす児童の思考力・判断力・表現力等をはぐくむことで ある。児童の思考力を育成するためには、一つの価値観 を教えるのではなく、事実に基づいて考察し,児童自ら が自分の価値観を形成することが必要となる。TPPの例 では、輸入を自由化するかどうかということを児童が判 断するために、多面的な観点からのデータに基づいて指 導する必要がある。

そこで、本報告では、現在の教科書における農業の 記述を検討し、どのような価値観が読み取れる構成に なっているかを検討したい。前述のように、小学校第5 学年の社会では、農業の学習が重要な地位を占める。

以下では、小学校第5学年社会の教科書における農業の 記述を検討して、教科書における日本の農業が児童にど う認識されるように構成されているかを明らかにする。さ らに、奈良教育大学生が持つ農業に対する認識を検討 する。

2.教科書における農業の記述

本章では、小学校の教科書における農業の記述を検 討する。対象とした教科書は、社会科の小学校教科用 図書発行出版社のなかで大手である東京書籍、教育出 版、光村図書、日本文教出版の小学校社会第5学年の 教科書である。

各教科書の内容は、基本的に同じ構成となっている。

農業という産業の学習であるが、農業ではなく、食料生 産が章の題名として用いられており、これは農業が国民 生活と関係することを示唆する題名である。

4種の教科書のすべてで、以下の内容がすべて含まれ ている。1)児童が食べている食材がどこから来たのか を調べる、2)主要水田地域の生産の工夫と努力(個人 の農家と生産地の農協などの組織の工夫と努力)、3)日 本の農業の特徴と食料自給率、4)米以外の作物の主 産地、5)食料の将来像を考えることである。それぞれ の内容に関して、図表が示され、また児童自らがスーパー マーケットで産地の名称を調査し、電子メールで資料を 請求、インターネットで検索して資料を集め、解答を自ら 発見する過程が示される。さらに、6)調べたことをまと めて発表することと、7)将来の食料の安定供給に関して、

児童が何をするべきか考えさせることが、東京書籍発行 の教科書(以下、会社名のみを示す)を除くすべての教 科書で示されている。このうち、1)から5)までが、井 田(2005)のいう地理的見方・考え方を育成するプロセ スであり、7)が態度を育成するプロセスである。

次に、上述した1)から7)までのそれぞれに関して、

各教科書の記述を詳細に検討する。

2. 1 食材がどこから来たのか調べる

食材がどこから来たのか調べることに関して、東京書 籍がアイスクリーム、他の教科書が給食の食材がどこで 生産されたものかを調べることを示している。しかし、

光村図書を除くすべての教科書は、この段階では食料 輸入と自給率の検討を掘り下げることはせず、われわれ の主食である米の主生産地を調べ、その中の1地域を事 例として米の生産を調べる次の節につなげている。

2. 2 主要水田地域の生産の工夫と努力

米の生産地として選定されている地域は、すべての教 科書で東北から北陸にかけての日本海側の平野である。

どの教科書でも、記述されている内容にほとんど違いは ない。すなわち、自然環境とコメの生産地との関係から、

水田地域に適する自然環境を検討することが示され、土 地利用図や雨温図、月別日照時間などが資料として示さ れる。次に、ある水田専業農家を事例として、その世帯 の農業カレンダーを示して、個人的な生産の工夫と努力 が示される。さらに、国による圃場整備、農協による機 械化と流通改善への取り組み、農業試験場による品種 改良の取り組みが示さる。ここで強調されていることは、

水田稲作農家が消費者のためにおいしくて安全な農業 に取り組んでいることである。すべての教科書で、化学 肥料を用いない有機農業への取り組みが示されている。

なお、多くの教科書で、水田が水を貯えること、多種類 の生物の生息場所であることにより環境保全に寄与して いることが示される。さらに、棚田は環境保全ばかりで はなく美しい日本の景観を維持することが示される。こ れらのことから、水田耕作が単に食料を生産しているだ けではなく、日本の景観や文化に寄与することに気がつ かせることが意図されている。

2.3 日本の農業の特徴と食料自給率

前節で示したように、農家が稲作に積極的に取り組ん でいる事例が紹介された後で、そのような農家が心配す ることとして、日本の農業の実態に関する分析が行われ る。この分析では、庄内平野に限定した分析を行う光 村図書を除くと、すべての教科書が日本全体の農業構造 に関するグラフを示している。

すべての教科書で共通するグラフは、年齢別農業人口 の変化であり、そのグラフから読み取れることは、農業 人口の減少と農業従事者の高齢化である。次に、光村 図書を除くと、日本における米の生産量と消費量の変化 のグラフが示されており、そこからは生産量と消費量の 双方が減少していることが読み取れる。東京書籍と教育 出版は、耕作をやめた田畑の面積と耕作放棄地の変化 と土地利用の変化を示すことにより、田畑の減少が示さ

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れる。庄内平野のことに限定する光村図書でも庄内平野 における農業人口の減少と高齢化の進展,コメの集荷量 と消費量の変化が示されている。

すなわち、すべての教科書で農業の面積、人口、生 産量と消費量が減少しており、日本の水田農業が衰退 傾向にあることを示しているといえる。さらに、教育出 版と日本文教出版は、米の一部輸入割り当てに言及し、

それが日本の農業に悪影響を与える可能性を示唆する農 家のコメントを紹介している。

2. 4 米以外の作物の主産地

米以外の農産物の主産地に関しては、野菜と肉・牛乳 などの生産と輸送の工夫と努力が示されており、さらに、

それらの生産と自然環境との関係が示される。教育出版 は、野菜別の産地の雨温図を示し、自然環境と野菜の 主産地との関係を検討している。光村図書は、同じ作物 が異なる気候の地域で生産される理由を考えさせること が示される。

2. 5 食料の将来像

食料の将来像に関しては、どの教科書でも日本の食 料自給率の変化と主要国との比較のグラフを示している。

光村図書を除くと、日本と外国との価格差のグラフを示 すことにより、日本の農産物価格が高いことを示してい る。教育出版は米10a当たり生産コストを示すことにより、

日本の農産物価格が高い理由を説明している。その説 明では、日本の農産物は、高価でも安全であることを 暗に示す傾向にある。すべての教科書で、児童に対し 日本の食料生産の課題とその解決策を考えさせている。

日本の食料自給率が低いことを是正するべきであると明 記する教科書はないが、すべての教科書で安全な食料 品を安定的に確保できるようにすることと、地産地消の 取り組みが示されている。

なお、光村図書は将来の世界人口と世界の栄養不足 人口を示し、日本文教出版は将来の世界人口の将来予 測を示すことにより、将来における食料不足の可能性を 示している。これらのことは、日本の食料自給率が低い ことにより、われわれの食生活が脅かされる可能性があ ることを示すものであろう。なお、安全な食料の安定的 確保の必要性が示されているが、日本で生産される食料 品が輸入食料品より安全であることを明確な証拠に基づ いて示す教科書は日本文教出版だけである。日本文教 出版は、中国からの輸入食料品の残留農薬に関する新 聞記事を示している。なお教科書で触れていないが、マ スコミの過熱報道とは逆に,食品検査に基づく中国の違 反率が実は低かったとの指摘がある(荒木、2013)。

2. 6 調べたことをまとめて発表すること

日本文教出版を除くすべての教科書で、食料生産の 章のまとめとして、今まで学習したことを自分なりにまと

めて議論し、プレゼンテーションをする項目がある。東 京書籍はテレビ番組のための絵コンテの作成、教育出版 は新聞の作成が示される。東京書籍は、日本の食料自 給率が低いにもかかわらず、日本では生産調整により利 用されていない水田があることが示し、「どうしてこの美 しい水田が草だらけになったのか」というクイズが出され ている。教育出版は、新聞を作成する際のテーマを班ご とに定めることにしており、例として示されているのは「安 全な農業」である。

2. 7 将来の食料の安定供給

将来の食料の安定供給に関して、児童が何をするべ きか考えさせることが、東京書籍を除くすべての教科書 で示されている。日本文教出版は、日本の食料生産の ための行動を考えることをテーマとし、例として食料自給 率を上げる,食料をたいせつにする、食品の安全性に 気をつける、生産技術の援助をすることが、示されてい る。教育出版は2ページを用いて、二つの行動に関する テーマが示されている。第1に、買い物の計画を立てる ことと、第2に、外国人に日本の食料のよさを紹介する ということである。前者に関しては、スーパーマーケット で価格の異なるシイタケから一つを選び,その理由を説 明させることが課題とされている。国産シイタケは高価で、

外国産シイタケは安価である。教科書では、国産でも外 国産でもどちらを選んでもよく、その理由がきちんと説 明できればいいと書かれている。

2. 8 教科書における農業の記述

以上、第5学年社会の各教科書の記述は、次のように まとめることができる。どの教科書でも、産業学習の一 環としての農業生産の学習は、児童の食生活との関係を 軸としている。学習指導要領の記述に従い、各教科書は、

順序は異なるが次の構成を示す。

第1に、児童にとって身近な食料品がどこから来たか を調べる。第2に、日本の主要水田地域における農業 生産と流通の工夫と努力を示す。第3に、米以外の農産 物の主要産地の特徴を示す。これら農産物の生産地は、

気候など自然環境との関係で考察されており、日本の農 業の歴史が簡単に紹介されている。第4に、日本の農業 構造の分析である。農業構造の様々な指標に関するグ ラフが示され、グラフの読解が重視されている。それら のグラフから読み取れることは、日本の農業人口が減少 し、高齢化していること、耕地面積が減少していること である。第5に、日本の食料自給に関する分析であり、

多くの図表が示され、児童がそれを読み取ることにより、

問題を把握できるような構成になっている。それにより、

日本の食料自給率が低いことと、日本の農産物の価格 が高いことが示されている。第6に、食料自給率が低い こととの問題に関して調査したり考えたりしたことを討 議・発表し、さらに、児童それぞれが安全な食料品を

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確保するためにいかに行動するべきかを考えさせている。

さらに,すべての教科書で日本の食料自給率の低さ が、われわれの食料を安定的に確保する点で問題視さ れている。だが,日本文教出版を除くと、海外からの輸 入食料品の危険性を明確に示してはいない。一方、すべ ての教科書で,日本の農家による安全でおいしい農産物 を生産する工夫と努力が示されている。

学習指導要領では、農業が国民の食料を確保する重 要な役割を果たすことを考えさせることが示される。上 記の教科書の記述はそれに忠実に従うものであるが、日 本の農業は産業として衰退傾向にあり、海外の農産物に 比べると日本の農産物価格は高いが安全であることが明 瞭に読み取れる構造になっている。また、食料生産が 環境保護と結びつくことや、棚田が歴史的景観保護に寄 与していることが示されている。これらの事例は、農業 が経済合理性だけで把握することができないものである ことを示唆するものである。地産地消の取り組みを紹介 することは、日本で生産された農産物を積極的に支持し、

日本の食料自給率を高めるための努力をすることを示唆 するものであろう。これらのことは、教科書の記述により、

日本の農産物が世界に輸出できるほどの競争力を持たな いとの認識を児童に持たせることになろう。小学校の授 業でTPP問題を取り上げ、賛成・反対の立場から議論さ せようとする場合には、教科書とは逆の観点を示すよう な資料を教師が提示して、議論を一方的にしないような 配慮が必要であろう。

3.奈良教育大学生の農業に対する知識と認識

小学校における農業の学習が、どれだけの影響力が あるか不明であるが、大学生が日本の農業にいかなる 認識を有しているのか、そのことを明らかにするために、

奈良教育大学生に対して、日本の農業に関する認識に関 するアンケート調査を行った。調査は、2012年6月7日に 行い、93人の回答のうち1人を除きすべての学生が1回生 である。

日本の農業の特徴に関して知っていることをどんなこ とでもいいので、箇条書きで書かせた結果が図1である。

回答数は549であった。同じ内容の回答を類型化した結 果、18に類型化することができ、それらに含まれない18 回答を「その他」とした。「その他」のなかには、棚田・

焼畑が5,日本が水資源に恵まれていることが3、食料 自給率がカロリーベースでないとの回答が2あった。

18類型の回答を、さらに日本の農業の衰退など負の側 面を示すものと、近代化しているなどの正の側面を示す もの、中立的なものに区分した。農業構造とは直接関係 ないが、低い食料自給率は農業の負の側面に含め、高 価格との回答は品質の良さと関係するので正の側面に含 めた。中立的な回答には、水稲作に言及するもの(水田 が多い、稲作中心)、農業の地域差(地域により異なる

農産物)、自然環境との関係、地産地消などがある(図1)。

日本の農業の負の側面に関する回答は、全回答数の 57.6%を占め,低い食料自給率を除くと44.6%となる。そ の中で最多数を占めるのは高齢化に関する記述であり、

農地や農業人口の減少という農業の衰退に関する回答、

経営規模の小規模性と農外収入に依存する兼業に関す る回答がほぼ同数ある。

一方,ガラスハウスやビニールハウスを利用した近郊農 業や,機械を用いた集約的で生産性が高い農業のことに 触れた、いわば日本の農業の正の側面に関する回答は全 体の17.5%であり、負の側面に比べると半分以下である。

次に、中立的な側面である回答に関しては、水稲作 であること、米を主体としているとの回答が全回答の 13.9%を占め、日本の農業が稲作中心であるとの認識が 強いことがわかる。地域により農産物が異なることによ り多様性があるとの回答がそれに次ぐ。日本の自然環境 が産地の形成に影響するとの回答も、日本の農産物の 多様性に関する回答とみなせよう。自然環境により農産 物の種類が異なるとの回答は、主として野菜の生産を念 頭に置いているようであった。

次に、TPPに対する賛成か反対かの意見を尋ねたとこ ろ、93人中81人(87.1%)が反対、賛成が5人、7人がど ちらともいえないとの回答であった。

反対と回答した81人の反対理由として最も多くを占め たのが,日本の農業が衰退するとの理由であり(回答数 58人)、次いで安価な農産物が大量に輸入されるとの回 答(回答数57人)であった。この二つの理由を双方とも に回答したのは44人であった。この44人は、TPPに参加 することにより、日本に安価な農産物の輸入が増加して、

図1 奈良教育大学生の農業に対する認知(2012年)

(2012年6月アンケート調査)

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日本の農業が衰退すると考えていることになる。さらに、

20人がTPP参加により日本の食料自給率がいっそう低下 すると回答した。また、輸入農産物は安価だが危険であ るとの回答が8人いた。

一方、賛成の理由として、日本の消費者は日本の農産 物を購入することを挙げたものが2人であった。その理由 は、日本のコメの品質がいいことと、危険な海外産農産 物を消費者が選択しないためである。一方、2人が農業 技術や競争力が向上すると回答し、1人が安価な農産物 の輸入が消費者利益になると回答した。

どちらでもない、を選択した7人のうち、4人が品質の 良い日本の農産物の輸出が可能と回答し、残りは農業が 衰退するが消費者利益になること、日本の農業の見直し が行われることを挙げていた。

これらのことから,奈良教育大学生が持つ日本の農 業に関する認識は,小学校第5学年の教科書で示され た内容とほぼ一致するものである。この認識が小学校の 教育によるものであるといえないだろうが,農業の専門 的な勉強をしていない本学の学生にとって,農業の一般 的知識が小学校第5学年の教科書の記述と同様であるこ とは、教科書の内容が、一般的な見解と一致することの 反映かもしれない。

4.まとめ

本報告では、日本の小学校第5学年社会の教科書に おける農業構造の記述を検討した。教科書の記述によ ると、日本の農業は衰退しており、海外から安価な食料 品が入ることと食料自給率が低下していることが示され、

日本の食料自給率を高めるために、日本の農業を大切 にするとの方向性が示されているといえる。奈良教育大 学生の農業に対する認識も教科書の記述とほぼ一致す る。奈良教育大学生の90%近くがTPPに対して反対して おり、TPPに関する討論を行える状態ではないといえる。

小学校で思考力を育成する授業を行う場合、教科書に 示された資料だけでは一つの価値観が優勢であるので、

議論することは困難となろう。教室でTPPの討論をする 際には、教科書で示したようなデータだけではなく、そ れに反対の立場から示されたデータも児童に提示し、児 童それぞれが日本の農業をいかに評価するか自分で判断 させるような指導が必要であろう。

文献

井田仁康(2005):『社会科教育と地域—基礎・基本の 理論と実践—』NSK出版,57-59.

伊藤貴啓(2012):小学校社会科における地域事象の教 材化と教師の力量形成(Ⅰ)—地域農業学習の授業 実践分析から—.愛知教育大学研究報告教育科学編,

61, 191-200,

奥谷信也・佐藤登・魚住政男・澤本章(2010):農業学 習における稲と米.山口大学教育学部研究論叢(第3 部),59,131-139.

北口まゆ子・広田純一(1999):教科書に見る農業・農 村の位置づけの変化—小学校社会科を対象に,20年 前と現在—.農村計画論文集,1,199-204.

北口まゆ子・広田純一(2000):小学校社会科教科書 における農業・農村の取り上げ方—戦後から現在ま で—.農村計画論文集,2,187-192.

荒木一視(2013):食品流通と食品情報の流通の乖離.(土 屋純・兼子純編:『小商圏時代の流通システム』古今 書院),121-138.

林 琢也(2008):中学校社会科地理的分野における農 業・農村学習の新たな視点.中等社会科教育研究,

27, 93-102.

山下一仁(2013):『日本の農業を破壊したのは誰か』講 談社.

参照

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