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ラ カ ン の 精 神 病 論 に 関 す る 一 考 察

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ラ カ ン の 精 神 病 論 に 関 す る 一 考 察

榎 本 譲

0.序

ラ カ ンは精 神 分 析 領域 だ け で な く現 代 フ ラ ソス の哲 学 や 思 想 領 域 に 大 きな 影 響 を 与 え て きた が,彼 の 巨大 な理 論 体 系 の 出発 点 に あ って そ の基 礎 を な して い た の は,精 神 病 研 究 で あ り,と りわ け パ ラ ノイ ア(妄 想 症)の 研 究 で あ った こ

とを忘 れ て は な る ま い。

精 神 科 医 と して,彼 は初 期(1920年 代 末 〜30年 代 前 半)の 活 動 を妄 想 研 究 に 捧 げ て きた 。(そ の成 果 は,彼 の 学 位 論 文 で あ る 『人 格 との 関 係 か らみ た パ ラ ノイ ア性 精 神 病 』 〔L1〕 に ま とめ られ て い る。30年 代後 半 以後 は精 神分 析 家 と して の 活 動 を 開 始 し,か の 有 名 な 「 鏡 像 段 階」 理 論 が構 築 され る 。 こ の理 論 の 土 台 とな った の は,妄 想 症 患 者 に 認 め られ る同 性 愛 的傾 向 や 兄弟 間 の ライ バ ル 感 情(シ ブ リン グ ・ラ イ ヴ ァル リー)に 関す る考 察 で あ っ た。1950年 代 に 入 る と,構 造 主 義 の旗 手 と して一 躍 名 声 を博 す る よ うに な り,生 涯 にわ た って 続 け られ る こ とに な る彼 の セ ミナ ー も この頃 に 開始 され て い る。 そ して1955〜56年 度 の セ ミナ ー で は精 神病 が テ ー マ に取 り上 げ られ,そ れ まで のパ ラ ノ イ ア研 究 が理 論 的 に綜 合 され る と同時 に,心 的 装 置 に関 す る彼 の基 本 図 式 で あ る 「シS 一 マL」 が提 出 され る。 これ は パ ラ ノイ ア性 精 神 病 の構 造 解 明 で あ る と 同 時 に,人 間 の心 的 構 造 一 般 を 示 す 図 式 で もあ った 。

そ れ ゆ え難 解 で知 られ る ラ カ ン理 論 の 基 本 的 な 骨 子 を 理 解 す るに は,彼 の精

神 病 論 を 把 握 して お くこ とが 不 可 欠 だ とい え る。 本論 の 目的 は こ こに あ る。 彼

の思 想 的 歩 み の 前期 に 確 立 され た 精 神 病論 の 考 察 を通 じて,ラ カ ソ思 想 の基 礎

部 分 を理 解 し よ うとす る試 み で あ る 。

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1G2ラ カ ンの 精 神 病 論 に 関 す る一 考 察

ラ カ ン の 精 神 病 論 を 支 え て い る も の は,一 つ に は 書 う ま で も な く精 神 科 医 と し て パ ラ ノ イ ア 患 者 を 扱 っ た 臨 床 的 経 験 で あ る が,他 方 に は,精 神 分 析 家 と し て の 彼 が 生 涯 を 通 じ て 語 り続 け た 「フ 鐸 イ トの 発 見d6couvertefreudie雛 葺e」 が 挙 げ ら れ る 。 ラ カ ソ理 論 の 中 軸 が フ ロ イ トの テ ク ス ト解 読 に 裏 付 け ら れ て い る よ うに,彼 の 精 神 病 論 も ま た フ ロ イ トの 精 神 病 論 か ら離 れ て 考 え る こ と は で き な い 。 本 論 で は,と くに フ 撰 イ ト理 論 と の 関 連 を 重 視 しつ つ,ラ カ ソ の 精 神 病 論 を 検 討 し て ゆ く こ と に す る 。

1.精 神 分 析 に お け る 精 神 病 の 分 類 と そ の 概 念

1950年 代 前 半 に確 立 され た ラカ ソの精 神 病 論 は,ヤ ス パ ース の 「了解 」 論 や ク レラ ンボ ー の 「 精 神 自動 症 論 」 か ら一 定 の影 響 を 受 け て い る と して も,そ の 基 本 的 な枠 組 みや 核 心 を なす 視 点 は精 神 分 析 理 論 で あ る こ とは い う ま で も な い 。 特 に英 国対 象 関 係論 の創 始 者 で あ る メ ラニ ー ・クラ イ ソの影 響 は 大 き い が,何 とい って も彼 の初 期 の妄 想研 究 が精 神 分 析 理 論 に 合 流 した 地 点 は,シ は レーパ ー症 例 な どで 展 開 され た フ 疑 イ トの パ ラ ノ イア論 で あ っ た。 そ こで ラカ ソの精 神 病 論 の検 討 に 先 立 って,ま ず 精 神 分析 的 立場 か らみ た精 神 病 の概 念 に つ い て,フ ロイ トを 中 心 に 概 観 して お くこ とは無 駄 で は あ るま い。

1.1精 神 病 の一 般 的 定 義 と分類

一 般 に精 神 医学 的 な意 味 で の精 神 病psychoseは ,「 病 的過 程 に よ るパ ー ソ ナ リテ ィー の全 体 的 障害 を特 徴 と した 最 も重 度 の精 神 疾 患 」(A.POfot〔D1〕), あ るい はr人 格 の心 的実 在 が外 界 との関 係 に お いて 著 し い障 害 を 受 け た 重 度 の 精 神 疾 患 で,自 己 や他 人 や外 界 に た いす る意 識,感 情,知 能,判 断 力,パ ー ソ

ナ リテ ィ ーの 変 質 を 伴 うもの」(R.Lafon〔D2〕)と 定 義 さ れ て い る。 ま た 精 神 病 は,何 らか の 器 質 的 な 要 因 が あ る と想定 され,純 粋 に心 因性 の要 因に よ る 神 経 症 と基 本 的 に 区 別 され て い る0(な お こ うした点 は一 応 念 頭 に お く と して も,後 に み る よ うに 本 論 の主 眼 で あ る精 神 分 析 的観 点 か らみ た精 神 病 と神 経 症 との 区別 は,器 質 的 変 化 が 存 在 す るか 否 か に 基 づ くもの で は な い 。)

精 神 病 の分 類 と して は,ま ず 外 因性 精 神 病 と内因 性 精 神 病 とに 大 き く分 け ら

れ る。前 者 は,外 傷,腫 瘍,炎 症 な どの外 的 な要 因 の た め に 脳 の 一 部 に 損 傷 が

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ラカンの精神病論 に関す る一考察163 生 じた もの で,例 え ば,せ ん妄,朦 朧 状態,健 忘 症 状 群,昏 迷 状 態,等 が 挙 げ られ る。後 者 は,外 部 か らの要 因 に よ らず 内部 過 程 の変 化 に 基 づ い た 精 神 病 で,器 質 的 変 化 が 想定 され て は い る が証 明 され て は い な い。 具 体 的 に は,精 神 分 裂 病 と躁 醗 病 の 「 二 大 精 神 病」 に大 き く分 類 され る。 わ れ わ れ が 俗 に 言 う

「精 神 病」 とは これ を指 し,精 神 分 析 に お い て対 象 とな る の も これ で あ る。

そ の 中 で 精 神 分 裂 病 は,妄 想型(被 害 妄 想 を主 と した 妄 想 や 幻 覚 を 表 わ す), 緊 張 型(一 過 性 の 興 奮 状 態 な どの異 常 行動 を表 わ す),破 瓜 型(自 閉 性 を 主 と した症 状)の 三 種 に分 け られ る。 この うち妄 想 型 は,数 の上 で は最 も多 い とい わ れ て い る 。 ま た フ ラ ソス式 分 類 で は こ の型 は,伝 統 的 に 「 幻 覚 性 精 神 病 psyclzosehalluci鳳toire」 と呼 ば れ,分 裂 病 か らは 独 立 して 分類 さ れ る 〔D3〕。

広 義 に は 「言 語性 幻 聴hallucinationverbale」 な ど の症 状 を もつ パ ラ ノ イ ア (妄 想 症)も こ こに含 まれ る 。 そ して ラカ ソが,代 表 的 な精 神 病 と して 取 りあ げ る もの も この幻 覚性 精 神 病 で あ る。

1.2フ 獄 イ トに よ る分 類

精 神 分 析 学 的 な分 類 は,神 経 症 の分 類 を も 含め て,今 日で は精 神 医 学 的 な 分 類 と大 差 は な い と言 わ れ て い る 。 だ が 同 じ精 神 病 で も,躁 醗 病 と分 裂 病 とで は 精 神 分 析理 論 か らみ た位 置 づ け は全 く異 な っ て い る。 例 えば 分 裂 病 は,人 生 の 媛 も初 期 段 階 に 現わ れ る 「 妄 想 的 ・分 裂 的 態 勢 」(M・ ク ライ ソ)へ の固着 で あ り,躁 雛 病 は そ れ よ り後 の時 期 に現 わ れ る 「 抑 馨 的 態 勢 」 へ の固 着 とみ な され る。 両 者 の 間 に は 主体 が発 動す る 防衛 機 制 の様 式 に 質 的 な差 が あ り,発 達 段 階 に 関連 した 主 体 の心 的構 造 の違 い が認 め られ る。 こ の よ うに 精 神 分 析 的 な 分類 の 大 きな 特 微 は,単 に 現象 面 か ら記 述 的 な比 較 分 類 が な され る ので はな く,心 的 機 能 の 構 造 に基 づ い て疾 病単 位 の 区別 が な され て い る点 に あ る。 フ ロイ トは 当 初 か ら,心 的 装 置 の構 造 との 関連 で諸 々 の神 経 症 の分 類 を 試 み て いた 。 後期 に 入 って 精 神 病 に 関す る新 た な 視点 を導 入す る際 に も,そ うした 構 造 的 位 置 づ け は常 に 念 頭 に置 かれ て き た。

フ 窟イ トに よ る分 類 は,前 期 と後 期 で は か な り変 化 して い る。 前期(1920年

以 前)に は,精 神 病 は 「自己愛 神 経 症 」 の名 の も とに 一 括 され て い た が,後 期

に は メ ラ ン謙 り一(躁 麗 病)の み が この名 で呼 ば れ,精 神 病 の概 念 は パ ラ ノ イ

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164ラ カンの精神病論 に関す る一考察

アお よび 分 裂 病 に限 定 され る。(な お,ラ カ ソ も精 神 病 論 の枠 内 で は躁 鐙 病 を あ ま り問 題 に して い な い 。)

フ ロイ トが 前期 に 用 い た 自己愛 神 経 症 とい う概 念 は,転 移 神 経 症 との区 別 で 用 い られ て い る。後 者 は,ヒ ス テ リーや 強 迫 神 経 症 な どの いわ ゆ る神 経 症 を 意 味 す る一 般 名 称 で,精 神分 析 に お い て感 情 転 移 が 可 能 な神 経 症 とされ て い る。

これ ら の神経 症 で は,発 話 に よ る 自由連 想 に基 づ き治 療 者 に 対 して無 意 識 が 開 か れ るた め,分 析 治療 が 可能 だ とい う意 味 で あ る。 一 方,今 遜の精 神 病 に 相 当 す る 自己 愛 神 経症 で は,感 情 転移 が起 こ りに くい ため 精 神 分 析 的 治 療 は困 難 で あ る と フ ロ イ トは考 え た 。 この よ うに 彼 が精 神 病 よ りも神 経 症 を 重 視 した 事 実 は よ く知 られ て い るが,こ こに は上 記 の分 類 の根 拠 に な って い る心 的 構 造 に 関 す る彼 な りの 視点 が あ った こ とを忘 れ て は な らな い。

感 情 転 移 が 可能 で あ る とい うこ とは,フ ロ イ トに よれ ば,リ ビ ドー は常 に 対 象 に 向 け られ得 る状 態 に あ り,言 い換}れ ば,前 意 識 系 を 構 成 す る言 語 表 象 と 無 意識 系 の 構成 要 素 で あ る事 物 表 象(対 象 表 象)と の交 流 が 可 能 だ とい うこ と で あ る。 これ に対 して,転 移 が 困難 な 自己 愛 神 経 症(二 広 義 の精 神 病)で は,

(無意 識 的)対 象 が存 在 しな い た め,リ ビ ドー は現 実 的 対 象 や 空 想 的 対 象 に 向 か うYVと な く,ナ ル シ シズ ム的 に 自己 に 向か っ て退 行 す る とい う。 前 期 フ 獄イ トに よ る転 移 神経 症 と 自己愛 神 経 症 の こ う した 分 類 は,主 体 の対 象 に 対 す る関 わ りの構 造 的差 異 に基 づ い て な され て い る。

後 期 に 入 って第 工 局所 論 の 中軸 を なす 超 自我 の概 念 が 確 立 され て ゆ くと同 時 に,自 己愛 神経 症 とい う語 は メ ラ ソ コ リー(躁 醗 病)の み を 指 す もの と して 限 定 され るに 至 る。 メ ラ ン コ リー で は,超 自我 が 肥 大 化 して 自我 を 責 め さ い な む 。 つ ま り 丁自我 と超 自我 との葛 藤 」 〔F1,p181〕 が 生 じ る。一 方(パ ラ ノ イア や分 裂 病 な どの)精 神 病 で は,「 自我 と 外 界 との葛 藤 」 〔 同〕 が つ くられ る。 フ ロ イ トに よれ ば,精 神 病 とは 「 裂 け 目のあ る,ひ び の入 った 構 造 体」

〔F2,p434〕 で あ り,「 妄 想 とは 汚 点 を つ け られ た よ うに,元 来 自我 と外界 との 関係 の裂 け 昌に お こ った も の」 〔同,p180〕 で あ る。 で は,エ ス/自 我/

超 自我 に よっ て構 成 され る心 的 装 置 とい う構 造 体 に 生 じた 「 ひ び」 あ る い は

「 裂 け 則 とは何 か 。 ラカ ンが 精 神 病 論 に お い て 問 うの は この 問 題 で あ る。

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ラカンの精 紳病論に関す る7察165 1.3フ 澱イ トに お け る精 神 病 の諸 機 制

フ ロイ トは,こ の よ うに心 的装 置 の構 造 との 関係 で精 神 病 を 位 置 づ け 分 類 す る作業 と並 行 して,精 神 病 に 固有 な諸 機 制 につ い て の解 明を も行 って お り,こ れ が 彼 の 精 神 病論 の 実 質 的 な 内容 を な して い る。 彼 の神 経 症 論 と比 較 す れ ば, そ れ は体 系 的 な 言 及 で は な く,断 片 的 で,し か もか な り複 雑 で あ るが,簡 単 に 要 約 す る と以 下 の 点 に ま とめ られ る。

精 神 病 に 特 有 な機 制 と して 先 ず 第 一 に挙 げ られ るの は,現 実 か ら の 自 己 愛 (ナ ル シ シ ズ ム)的 な 撤 退 で あ る。 精 神 病 的 な 主 体 は,夢 を見 る場 合 と似 て, 外 界 か らの刺 激 が 遮 断 され た 状 態 に 陥 り,対 象 へ の リビ ドー備 給 の 撤収 を余 儀

な くされ,自 己 愛 状 態 に 退 行 す る。 神 経 症 の場 合 に も この よ うな 回 帰 が み られ る が,対 象 は空 想 の 中に 確 実 に 保 持 され て お り,こ れ が(感 情)転 移 の 原 動 力 と もな る 。逆 に精 神 病 で は,「 無 対 象 」 な 自己 愛 的 状 態 が 再 現 され る。

第 二 は,「 投 射(投 影)」 の 機 制 で あ る。 フ ロイ トは 「 投 射 」 を 最 初 と くに パ ラ ノ イア に 固 有 な機 制 と して記 述 した。 患 者 は,自 分 の無 意 識 的 な動 機 を 他 人 の もの だ と思 い こむ こ とに よ って 防衛 を行 う。 この時,通 常 は意 識 化 され な い 無 意 識 的 な 内 部 が,知 覚 とい う外 的表 層 に映 し出 され る 。無 意 識 が知 覚 表 層 に 躍 り出 て,妄 想 や 幻 覚 を 生 み だす 。 この よ うな 内 か ら外 へ 向 か う運 動 を フ 牌 イ トは 「 場 所 的 退 行Jと 呼 ん で い る。

第 三 は,「 現 実 否 認Verleug瓢 頁gjと 「自我 分 裂Ichspalt膿9」 が挙 げ られ る。 フ ロイ トに よれ ぽ 精 神 病 とは,自 我 と現 実 との 間 で 生Lる 心 的現 象 で あ る が,こ の とき病 者 の 自我 は二 つ に 分 裂 して,現 実 の 容 認 と 「否 認」 とい う二 つ の態 度 を分 離 した ま ま共 存 させ る。 現 実 を 容 認 して い る状 態 で は,一 見 した と ころ正 常 な外 観 が保 たれ,「 否 認 」 の状 態 で は妄 想 が 現 わ れ る。 主 体 に よ る

「 否 認 」 の 中核 を な して い る の は,去 勢 とい う心 的 現 実 を 受 け 入 れ る こ との 拒 否 で あ り,異 性 とい う現 実 的他 在 性 の否 認 で あ る。 否 認 を 土 台 として 形 成 され る 自我 分裂 の機 制 は,未 完 の ま ま に残 され た後 期 フ ロイ トの精 神 病 論 の 核 心 を な して い る。

フ ロイ トが 解 明 した 精 神 病 の諸 機 制 は,ほ ぼ 以上 の点 に ま とめ られ るが,こ

れ らに 関 す る フ ロイ トの テ クス トの解 読 を 通 じて,ラ カ ソ は 「 抑 圧 」,「 投

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166ラ カンの粘神病論 に関す る一考察

射」,「 否 認 」 な どか ら 「排 除forc短sio璃 の概 念 を分 離 したわ け で あ る。

1。4M。 ク ラ イ ン に よ る精 神 病 の 位 置 づ け

排 除 に つ い て は後 に検 討 す る こ と と してラ そ の前 に ラカ ソの精 神 病 論 の背 景 を な す も うひ とつ の支 柱 に つ い て も簡 単 に ふれ て お かね ば な る ま い。 そ れ は メ ラ ニ ー ・クラ イ ソの 「 妄 想 的 ・分裂 的 態勢 」 に 関す る理 論 で あ る。

既 に 述 べ た 理 由 か ら フ ロイ トが 精 神 病 よ りも神 経 症 を重 視 した こ とは周 知 の とお りで あ るが,こ のた め 精 神 病 に た いす る精 神 分析 療 法 は不 可 能 とみ な され て きた 。 ク ライ ソは,い わ ば タ ブ ー視 され て きた この 領 域 で 児童 分 析 を 中心 に 精 神 病 の精 神 分 析 治 療 を 試 み た 先 駆 者 の 一 人 で あ った 。

フ ロイ トが エ デ ィプ ス期(3〜5歳)を 重 視 した の に対 して,ク ラ イ ソは, 幼 児 の離 乳 期(6〜12か 月)に お いて 「 抑 うつ 態 勢」 〔D4〕 が形 成 され,既 に 超 自我 の 発達 が認 め られ る こ とを強 調 した。 こ の抑 うつ 態 勢 で は,主 体 は,対 象 を 統 合 され た 全 体 的 な心 像 と して認 知 で き る よ うに な りこれ を 内部 へ 取 り入 れ るが,同 時 に 自分 自身 の攻 撃 性 がr良 い対 象 」 を破 壊 して しま うこ とへ の不 安 を 抱 く。 この 不安 に 対す る防 衛 と して,万 能 感 に根 ざ した 「 否 認 」 の機 制 が 用 い られ,支 配 感 や 征 服 感 が 現 わ れ る。 躁醗 病 は この段 階へ の固 着 と考 え られ る。 な お,こ の 抑 うつ 態 勢 は,フ 買イ トが い うナ ル シ シズ ム(自 己 愛)的 な段 階 に 相 当 し,ま た ラカ ンの 鏡 像 段 階(6〜18か 月)と も一 致す る 。

後 期 に 入 る と ク ライ ソは,幼 児 の 攻 撃 性 の 成 立 を 更 に 早期 に まで 遡 り,抑 う つ 態 勢 に 先 立 つ 「 妄 想 的 ・分 裂 的 態 勢」 〔D5〕 を 概 念 化 す る。 生後3か 月 以前

の乳 児 期 で は,対 象 も 自我 も共 に 「 良 い」 もの と 「 悪 い」 もの に 分裂 した 状 態 に あ る。 対 象 は まだ 全 体 性 を もた ず,細 分 化 され た 部 分 対 象 と して存 在 す る。

幼 児 は この過 程 で 「良 い対 象 」 を 守 ろ う とす る 〔D6〕 と同時 に,「 悪 い対 象 」 を排 除す る。 この時,被 害 的 な不 安 に 対 す る防 衛 として 理 想 化 が 生 じ る。 しか し良 い対 象 との 同一 視 が適 切 に行 わ れ な い場 合 に は,過 度 の 「 投 射 的 同 一 視」

が 生 じ,「 自己 の分 裂 除 外 され た部 分 が 対 象 に 投 射 され る」 〔 同,p49〕Yと に な る。 これ が精 神分 裂 病 の 固着 点 を 形 成 す る。

ハ ソナ ・ス ィ ー ガル は,幼 児 の初 期 段 階 へ と遡 って ゆ く ク ライ ンの こ うした

研 究過 程 を,精 神分 析理 論 の遡 行 的発 展 とみ な して い る。 つ ま りフ 欝イ トは,

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ラカンの精神病論 に関する一考察167 大 人 の 神経 症 研 究 の過 程 で幼 児 性 欲 や エ デ ィプ ス ・澱 ンプ レ ッ クス を 発 見 した が,ク ラ イ ソは更 に心 的機 能 の構 造 を生 後 数 か 月 に ま で遡 って 研 究 した 点 に, 精 神 分 析 の 発 展 が み られ る と指 摘 して い る 〔D7〕。

と もあ れ ク ラ イ ソの抑 うつ態 勢 お よび妄 想 的 ・分 裂 的 態 勢 の概 念 は,上 述 の よ うに 発 達 段 階 論 的 に 把 握す る こ とが可 能 だ と して も,重 要 な の は こ れ ら の

「 態 勢(ポ ジ シ ョン)」 が,む しろ二 種 類 の基 本 的 な心 的 構 造 と見 な され て い る点 に あ る。 後期 フnイ ト理論 の 継 承 と発 展 と して位 麗 づ け られ る ク ライ ソの 死 の本 能 論 や 超 自我 理 論 は,ラ カ ンの 「 父 の 名」 や象 徴 界 の概 念 の展 開へ の橋 渡 し とな って い る○

以上,ラ カ ソの精 神 病 論 の土 台 を な す フ ロイ トお よびM・ ク ラ イ ソの精 神 病 に 関す る考 え を簡 単 に 概 観 して み た 。

2。 ラ カ ン の 精 神 病 論 と シ ェ ー マL

ラ カ ンの精 神 病論 は,一 言 で い え ば 「父 の 名 の排 除forclusioilCILINoire‑du‑

Pむejと い う表 現 に ま とめ られ る こ とは周 知 の とお りで あ る。 「父 の名 」 とは, 主 体 が 去 勢 の 脅威 を 受 け 入 れ る際 に,自 分 や 他 人 の現 前 と不 在 お よび 男 女 差 な どの 基 本 的 な 分 節 化 を もた らす 掟 と して の能 記 で あ る。 正 常 者 や 神 経 症 の場 合 に は,こ れ は 抑圧 され て 主体 の 内 部 に 留 ま る が,精 神 病 で は,原 初 的 な一 次 過 程 の 作 用 に 従 って 現 実 界 に 棄却 され妄 想 と して再 出現 す る。・

以 上 の よ うに 簡 潔 に ま とめ て し ま う限 り,ラ カ ソの精 神 病論 に は特 に理 解 し 難 い点 もな く,彼 の理 論 全 体 か らみ れ ば 特 殊 な 一 分 野 の 問 題 にす ぎな い か にみ え る○ だ が こ の観 点 は,彼 の 研 究 過 程 の 中 で 単 に 一 時 的 な 考 察 の結 果 と して述 べ られ た 事 柄 で は な い。 そ れ は,初 期 の パ ラ ノ イア 研 究,そ の後 の鏡 像 段 階理 論 の構 築,更 に 象 徴 界/想 像 界/現 実 界 の概 念 の 導 入 を 経 て 最終 的 に1950年 代 前 半 に確 立 され た もの で,彼 の前 期 理 論 の一 つ の綜 合 点 を な して い る と言 って も過 言 で は な い。 事 実,ラ カ ンが フ 獄イ トを 乗 り越 え た 地 点 で 構 想 した 入 間 の 心 的装 置 の構 造 解 明 は,精 神 病 論 と対 を な した か た ちで 設 定 され て い るQフ ロ

イ トの 神経 症 理 論 の変 化 が局 所 論 の展 開 と相 補 的 な仕 方 で 密 接 に 関 連 しあ って

い るの と同様 に,ラ カ ソの精 神 病 論 は彼 の心 的 機 能 に 闘 す る問 主 体 的 構 造 論 と

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168ラ カ ン の精 神 病 論 に関 す る一 考 察

対 を な し て い る の で あ る 。 で は,彼 の 心 的 構 造 理 論 の 中 で 精 神 病 は ど の よ うに 位 置 づ け られ て い る の だ ろ うか 。 更 に,精 神 病 に お い て 「象 徴 界 」 が 問 題 と な る と い う と き,何 を 意 味 し て い る の か 。 「父 の 名 の 排 除 」 の 理 論 は い か な る 他 の ラ カ ン的 問 題 設 定 と 関 連 し て い る の だ ろ うか 。 フ ロ イ ト理 論 と の 関 連 を 重 視 しつ つ,こ れ ら の 疑 問 に 断 片 的 な が ら 何 ら か の 解 答 を 与 え る こ と を 通 じ て,ラ カ ソを 「読 む 」 た め の 手 掛 か りを 探 っ て み る こ と に した い 。

2.1シ ェ ー マL間 主 体 的 構 造 に っ い て

ま ず 最 初 に,ラ カ ソ の 基 礎 用 語 の 解 説 も含 め て,彼 が 構 想 した 人 問 の 心 的 機 能 の 一 般 構 造 と は ど の よ うな も の か に つ い て 概 観 して お こ う。

ラ カ ソ は 数 多 く の 図 式 や 図 に よ っ て 自分 の 理 論 を 定 式 化 し て き た が,な か で も 「シ ェ ー マL」 は 『エ ク リ』 の 諸 論 文 が 書 か れ た 時 期 を 代 表 す る 最 も 重 要 な 図 式 で あ る 。 事 実,ラ カ ン派 の 人hが そ の 理 論 的 基 礎 を 説 明 す る 際 に 必 ず も ち だ す の が こ の 図 で あ る 。 ラ カ ソ 自 身 も 一 定 の 変 更 を 加 え つ つ,何 度 も こ れ を 取 り上 げ て い る 。 心 的 機 能 の 構 造 が ラ カ ソ的 な 仕 方 で 総 括 的 に 示 さ れ て い る か ら で あ る 。 シ ェ ー マLに は 幾 つ も の ヴ ァ リ ア ン トが あ る が,rエ ク リ』 で は 「完 全 な 図 式Schemacompleteと 「単 純 化 し た 図 式Schemasimplifiedの 二 つ に ま とめ ら れ て い る 。 最 初 に 提 出 さ れ た の は 前 者 で あ り,1955年 の セ ミナ ー

〔L4,p134〕 で は 「自 我 の 想 像 的 機 能 と無 意 識 の 言 述 」 と い う表 題 が 付 さ れ て い る 。r完 全 な 図 式 」 は,本 来 パ ラ ノ イ ア や 妄 想 の 基 本 構 造 か ら 導 か れ た も の で,そ の 後 も 精 神 病 に 関 す る セ ミナ ー 〔L5〕 や 論 文(r精 神 病 の あ ら ゆ る 可 能 な 治 療 に 対 す る 前 提 的 な 問 題 に つ い て 』 〔L2〕)な ど で 再 三 に わ た っ て 取

り上 げ ら れ て い る 。 こ の 図 式 で は,人 間 の 心 的 構 造 の 基 本 が ラ カ ン 的 な 仕 方 で シ ヱー マL(1):完 全 な 図 式 シ ェー マL(2):単 純化 した 図 式

[L2.p53][L2 .p548]

(E・)S鴨 ④ ・t・ ・

Sa

(m・ 玉)a ●utre

a

A

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ラ カ ンの 精 神 病 論 に 関 す る 一考 察1G9 典 型 的 に 示 さ れ て い る と い え る 。

一 見 単 純 そ うに み え る こ れ ら の 図 は

,重 層 的 な 多 くの 意 味 あ い を 含 ん で い る 。 こ の 図 の 説 明 に あ た っ て は,本 来 な ら 特 殊 的 な も の(精 神 病 理 的 な 視 点) か ら一 般 的 な も の へ と進 む べ き と こ ろ だ が,こ こ で は 分 か り易 くす る た め に 逆 に 一 般 構 造 か ら 先 に 述 べ る こ と に す る 。

図 は,四 つ の 項 か ら な っ て い る こ と に 先 ず 着 目 で き る 。Sと は,無 意 識 の 主 体Sujetde1'inconscientで あ り,フ ロ イ ト的 な 「エ ス 」 で あ り,欲 望 の 場 で あ る 。Aは,大 文 字 の 〈他 者>1egrandAutreと 読 ま れ,フ ロ イ トの 「超 自 我 」 に 桐 当 す る と 言 わ れ る が,よ り幅 広 い 概 念 で あ る 。 ラ カ ソ は こ れ を 「能 記 の 宝 庫tresordusig鍛ifia撹 」 〔L2,P806〕 と か 「能 記 の 場lieudusi;nifiant」

と 呼 ん で い る 。 と りあ え ず,ラ ソ グlangueの 能 記 的 側 面 に 代 表 さ れ る よ うな 絶 対 的 な 他 在 性 の 場 だ と考 え て お け ば よ い 。

こ のSとAを 結 ぶ 対 角 線 が,無 意 識 の 場 と し て の 「象 徴 界lesymboli騨e」

で あ る 。 つ ま り象 徴 界 は,無 意 識 の 主 体 項 で あ る エ ス と 客 体 項 で あ る く他 者 〉 と の 対 立 関 係 に よ っ て 構 成 さ れ て い る わ け で あ る 。SとAと の 間 に 実 線 が 引 か れ て い な い の は,そ れ ら の 間 に 断 裂 が あ る が ゆ え に,両 者 が 無 媒 介 に 直 接 的 な 関 係 を と り結 ぶ こ と は 不 可 能 だ と い う意 味 で あ る 。 こ の 象 徴 界 は,言 語 と 同 じ く,差 異 と 対 立 に よ っ て 分 節 化 さ れ た 場 所 で あ る 。 ラ カ ソ は これ をr意 識 は 雷 語 の よ うに 構 造 化 さ れ て い る 」 と定 式 化 し て い る 。

一 方 ,(「 単 純 化 し た 図 式Jの)a'は 「自 我 」 で あ る が,ラ カ ン に よれ ば 自 我 は 統 一 体 で は な い 。 常 に 自 我 本 体(a')と そ の 分 身 で あ り理 想 化 さ れ た 像 で あ る 小 文 字 の 他 者a(ま た は 他 我alterego)と に 分 裂 し て い る 。 そ し て 象 徴 界 に お け る無 意 識 の 主 体 か ら み れ ぽ,自 我 は 主 体 で は な く,む し ろ 客 体 的 な 他 在 性 に す ぎ な い 。 だ が 主 体 は,こ の 小 文 字 の 他 者 を 媒 介 と し な い 限 り 自 己 を 実 現 し得 な い 。

そ し て これ らa‑a'か ら 成 る 実 線 部 分 が 「想 像 界1'i搬agi鴛aire」 を 構 成 す

る。 想 像 界 と は,自 我 と そ の 理 想 化 さ れ た 心 像 と の 間 で 繰 り広 げ ら れ る鏡 像 的

同 一 視 と二 者 対 峙 的duel関 係 を 含 ん だ 場 で あ る 。 無 意 識 的 主 体 の 欲 望 は,想

像 界 を 媒 介 と し な が ら,大 文 字 の 〈他 者 〉 に 向 け ら れ る の で あ る 。 「単 純 化 し

(10)

170ラ カ ンの 精 神 病論 に 関 す る一 考 察

た 図 式 」 に お け る 実 線 は こ の 過 程 を 示 し て い る 。

以 上 の よ うに ラ カ ソ6%,フ ロ イ トの エ ス/自 我/超 自 我 か ら な る 第 二 局 所 論 を 再 構 成 して,心 的 機 能 を 上 述 の 四 項 か ら な る 関 係 構 造 と み な し た 。 だ が 彼 は こ れ を 心 的 装 置 の 局 所 論 と い う側 面 か ら だ け で な く,よ り哲 学 的 な 面 か ら,主 客 の 問 主 体 的 な 弁 証 法 的 関 係 を 示 す も の と し て も位 置 づ け て い る 。 「間 主 体 的 弁 証 法 の 図 式Schemadelaclialectiquei1覚ersublective」 〔L2,P904〕 と呼 ば れ る こ の シ ェ ー マLを 理 解 す る に は,ま ず 便 宜 的 に 図 の 左 側 を 主 休 項,右 側 を 客 体 項 と 考 え れ ば 分 か り易 い,と ラ カ ン の 直 弟 子 の グ ロ リシ ャ ー ル は 述 べ て い る 〔D8〕 ◎ つ ま り古 典 的 な 主/客 対 立 の 弁 証 法 図 式 を 基 準 に 考 え る と,こ こ で は 主 体 がSとa'に,そ し て 客 体 がaとAに 分 割 さ れ て い る 。 主 客 が 共 に 二 重 化 さ れ て い る わ け で あ る 。 認 識 主 体 の 問 題 と し て い え ぽ,デ カ ル トの い う 「我 思 う,ゆ え に 我 あ りJepense,doneleSll1S.」 と い う命 題 に お い て,思 惟 主 体 と し て の 「我 」(篇 自 我)と 存 在 の 主 体 と し て の 「我 」(灘 エ ス)と は 別 の も の だ と ラ カ ソ は 主 張 す る 。 だ が こ こ で は 各 項 が 単 に 二 分 割 さ れ て い る だ け で な く,交 差 に よ る 二 重 化 が あ る 。 言 い 換 え れ ば,ヘ ー ゲ ル 的 円 環 を メ ビ ウ ス の 帯 に 置 き 換 え る こ と に よ っ て,内 と外 と の 無 限 の 交 替 が 図 式 化 さ れ て い る 。Sか

らAに 向 か いAか らSへ と 回 帰 す る こ の過 程 は 「循 環 的drculaire」 で あ る が,

「相 互 性 は な くsa簸s・ 鋤 …ci倒,「 非 対 称 的dissym6t・iq・e」 〔L7 ,pl88〕

で あ る 。

しか し こ の8字 形 に 交 差 し た 鷺 ミ ュ ニ ケ ー シ 義 ソあ る い は 発 話paroleの 関 係 に お い て,「 真 の 主 体levraisule切 と は 欲 望 の 主 体Sで は な い 。SはAに 従 属 し てassujettiお り,発 話 の 真 実 を 支 え そ の 証 人temoinと な る 「真 の 主 体 」 は,絶 対 的 〈他 者 〉 と し て のAで あ る 。 「問 主 体 性 」 と は 「真 の 主 体 」 で あ るAと 無 意 識 的 欲 望 の 主 体Sと の 関 係 性 を 意 味 し て い る。

ま た 更 に こ の 図 式 は,精 神 分 析 過 程 に お け る 転 移 関 係 を 示 す 図 で も あ る。 転 移 と は,幼 児 期 の 基 本 的 な 人 間 関 係 が 主 体 と分 析 家 と の 間 で 再 現,反 復 さ れ る 場 で あ る 。 分 析 家 はaの 位 置 に 身 を 置 く こ と を 通 じ て,被 分 析 主 体(S)の 無 意 識 を 開 き,そ こ に 父 性 の 隠 喩(「 父 の 名 」)を 出 現 せ しめ る 〔D9,p255/

D10,p55〕 。 そ うす る こ と に よ っ て 主 体Sが 〈他 者A>へ 語 りか け るparler

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ラ カ ンの 精 神 病論 に 関 す る一考 察171 こ と を 可 能 に す る 。 精 神 分 析 とは,主 体Sを 「真 の 主 体A」 に 結 び つ け る こ と を 縁指 す 「真 の 発 話 繊eVl"c'1.leparole〔L4,p287〕 で あ る 。

精 神 分 析 に お い て 転 移 関 係 と い う根 源 的 な 間 主 体 的 関 係 が 成 立 す る の は,そ の 背 後 に 原 初 的 な エ デ ィ プ ス 的 構 造 が 潜 在 し て い る か ら に ほ か な ら な いQそ こ で わ れ わ れ は 次 に,シ 瓢 一 マLを エ デ ィ プ ス ・ 認 ソ プ レ ッ ク ス の 構 造 的 定 式 化 と い う観 点 か ら取 り上 げ つ つ,精 神 病 の 聞 題 に 接 近 す る こ と に し よ う。

2.2エ デ ィプ ス 構 造 の 図 式 化 と し て の シ ヱ ー マL

主 体 に と っ て の 基 本 的 な 対 象 関 係 は 原 初 的 な 母 と 父 か ら構 成 さ れ る 。 こ の 点 は,上 記 の シ ェ ー マLの ヴ ァ リア ソ ト 〔 例 え ばD11,p213〕 や,別 の 視 点 か ら こ の 図 を よ り詳 細 に 示 し た 「シ ェ ー マR」 〔L2,p553〕 な ど に お い て,小 文 字 の 他 者aの 位 置 にM(Mere母)が 記 さ れ,大 文 字 の く他 者>Aの 位 置 に

P(Pere父)が 記 さ れ て い る こ と か ら も わ か る 。 エ デ ィ プ ス 的 関 係 の 中 で 対 象 関 係 の 基 礎 が つ く られ る と い う こ と で あ る ◎ こ の 観 点 は 精 神 分 析 に お け る 一 般 的 な 考 え 方 で あ っ て,と りた て て 籔 新 し い も の で は な い 。 だ が ラ カ ソ は,エ デ ィ プ ス 的 関 係 を 単 に 子 供 の 発 達 の 一 段 階 と す る の で は な く,人 間 の 間 主 体 的 関 係 の 基 本 構 造 と み な し,そ こ に 象 徴 界/想 像 界/現 実 界 と い う 区 分 を 導 入 す る こ と に よ っ て,フ ロイ トの 観 点 を 新 た に 構 成 し直 し て い る 。

通 常,エ デ ィ プ ス ・コ ソ プ レ ッ ク ス と い う と,3〜5歳 の 時 期 の 子 供 に 異 性 の 親 へ の 愛 着 と 同 性 の 親 へ の ラ イ バ ル 感IJが 芽 生 え る こ とを い い,こ れ を 適 切 に 乗 越 え ら れ な い 場 合 にrの 精 神 疾 患 を 生 じ る と さ れ る 。 こ の 時 期 に 主 体 は,男 の 子 で あ れ ば,「 去 勢 の 脅 威 士 を 受 け て 母 親 へ の 二 者 関 係 的 な 接 近 を 禁 じ られ,父 性 的 な も の に よ る 自 己 の 分 節 化 を 要 請 さ れ る 。 で は 子 供 が こ こ で 立 ち 向 か わ ね ば な ら な い 事 態 と は 何 か 。 た と え ば 「も うお 母 さ ん と一 緒 に 寝 て は い け ま せ ん 」 とか 「人 は い つ か は 死 ぬ ん だ よ 」 と い っ た 親 の 書 葉 を 通 じて ,主 体 が 真 に 直 面 し 問 い か け ら れ る の は 何 な の か 。 ま た,こ の 問 い は 何 に よ っ て な

さ れ る の だ ろ うかo

ラ カ ンに よ れ ば,自 分 の 存 在 の 偶 然 性 と性 に 関 し て 「こ こ に お い て 私 と は 何 か?」 と 問 わ れ る の で あ る。 つ ま り,自 分 は 男 か,そ れ と も 女 か,と い う問 い

と,自 分 は 存 在 し な く て も よ か っ た の か も し れ な い と い う疑 問 が 生 じ る 。

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172ラ カ ソ の 精 神 病 論 に 関 す る 一 考 察

(…)((QueBuis‑jela?)),concernantsonsexeetsacontingenceBans 1'etre,asavoirqu'ilesthommeoufemmed'u17epart,d'autrepart qu'ilpourraitn'etrepas,(…)etlenouantBanslessymbolesdela procreationetdelawort.CL2,p549

これ は フ ロ イ トが エ ロ ス と タ ナ トス,あ る い は 性 の 欲 動 と 死 の 欲 動 と し て 述 べ た 神 話 的 な 二 つ の 流 れ で あ り,性(生)と 死 に つ い て の 主 体 の 問 い か け で あ る 。 フ ロ イ トに よ れ ぽ 人 間 は 本 来,原 初 的 レベ ル で は 両 性 具 有 的 存 在 で あ る 。 子 供 は 内 部 に 対 立 す る 男 と女 を 持 ち,ま た 外 部 に は 愛 対 象 と し て,父 母 と い う 男 女 を 持 つ 。 だ か ら エ デ ィ プ ス 的 関 係 と は 「四 つ の 個 体 間 の 一 つ の 出 来 事 」

〔F3,p280〕 で あ り,本 来 四 つ の 人 格 審 級 か ら 成 る 四 つ 巴 の 関 係 な の で あ る 。 し か し エ デ ィ プ ス 葛 藤 を 通 じ て,父 と母 と い う愛 対 象 と し て の 男 と女 を 前 に し て,主 体 は 自 分 の 身 体 の 半 分 を 捨 て て,男 で あ る か 女 で あ る か の 選 択 を 迫 ら れ る 。 こ う し て い わ ゆ る 「三 角 関 係 」 へ の 偏 極 化polarisationが な さ れ る 。 こ の 性 差 の 分 節 化 は 父 性 的 機 能 を 通 じ て 外 部 か ら 要 請 さ れ る 。 愛 対 象 の 部 分 的 拒 否 を 前 に し て,主 体 の 関 心 は 自我 の 側 に 押 し戻 さ れ,自 己 愛 状 態 が つ く ら れ る 。 こ の 時 自 己 の 存 在 そ の も の に つ い て の 自 己 愛 的 な 問 い か け が な さ れ る 。 主 体 は,例 え ば 親 の 不 在 を き っ か け に 自分 の 死 を 象 徴 的 に 引 き 受 け る こ とを 学 ぶ の で あ る 。

こ の よ うな 試 練 を パ ラ ノ イ ア 的 構 造(ま た は 原 初 的 な 心 的 構 造)を 示 す 「完 全 な 図 式 」 に 則 し て 考 え て み よ う。 小 文 字 の 他 者autreは 「原 初 的 な 対 象 の 能 記1esignifiantde1'objetprimordial〔L2,P553〕 で あ り,愛 の 対 象 と し て の 原 初 的 な 母 で あ る 。 一 方,大 文 字 の 〈他 者>Aは,「 合 法 的 か つ 平 和 的 に 母 を 所 有 す るceluiquipossedededroitlamere,et(…)enpair〔L5,P230〕

人 格 審 級 で あ り,最 終 的 に 他 の 三 項(S,a,a')が 象 徴 的 同 一 視 を 通 じ て 統 合 さ れ る 場 で あ る 。

Nousytrouvonslestroissignifiantsoupeats'identifier1'Autre fanslecomplexed'(Edipe.〔L2,P551〕

そ れ ゆ えAは エ デ ィ プ ス 的 関 係 の 実 現 に と っ て 中 心 的 な 役 割 を 果 た す 。

Saf◎nctionestcentraledapslarealisationde1'(Edipe.〔L5 ,P230〕

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ラ カ ン の 精 神 病 論 に 関 す る 一 考 察173 だ が こ の 第 四 項 は,最 初 は 「排 除 さ れ たforclos」 も の と し て 主 体 の 心 的 体 系 の 外 部 に 存 在 し て い る 。 つ ま り 人 間 の 原 初 的 な 心 的 構 造 は,パ ラ ノ イ ア 的 に 構 成 さ れ て い る わ け で あ る 。

LequatiemetermeestdonneparlesujetBanssarealite,commeCelle forclosedanslesystemeetn'entrantquesouslemodedumortdans lejeudessignifiants,maisdevenantlesujetveritableamesureque cejeudessignifiantsvalefairesignifier.〔L2,p551〕

この 〈 他 者 〉 が 「 真 の主 体 」 とな る こ とに よ って,主 体Sの 無 意識 的欲 望 に 意味 を}/1̲.j主 体 が 現 実 感 あ る生 を生 き る こ とが で き るた め に は,「 父 殺 し」

あ るい は 「 原 抑 圧 」 と呼 ばれ る象 徴 的 試 練 が 越 え られ ね ぽ な らな い 。

で は,こ の よ うな試 練 を通 過 で きな か っ た もの と して の精 神 病 とは いか な る 構 造 を な して い るの か 。 ど うあ れ精 神 病 が エ デ ィプ ス的 関係 と根 本 的 に 関 連 し て い る限 り,そ こに は,「 正 常 な もの 」 と比 較 した 「 異 常 なJ構 造 が あ る ので は な く,む しろ 人 間 の 基 本 的 な心 的機 能 を支 え る或 る構 造 が露 出 して い る だけ で は な いだ ろ うか 。

3.精 神 病 の 構 造

想 像 的 領 域 か ら 象 徴 的 領 域 を 分 離 し た 点 に こ そ ラ カ ソ理 論 の 中 心 軸 が あ る と 考 え る な らば,精 神 病 の 特 殊 的 構 造 を 解 明 す る に あ た っ て も こ の 区 別 を 取 り入 れ る 必 要 が あ ろ う。 そ こ で ま ず,精 神 病 の 想 像 的 機 能 に お け る 特 徴 か ら検 討 し て ゆ こ う。

3.1想 像 界 の 機 能

パ ラ ノ イ ア 性 精 神 病 に お い て は,(局 所 論 的 な 意 味 で)「 鏡 像 段 階 へ の 主 体 の 退 行r6gressionaustadedu搬iroir」 が み られ,想 像 的 構 造 が 優 位 に な り1es structuresiinaginairespr6vale簸tes」,「 前 能 記 的pτ6‑sig難ifi徽ts」 な 「基 礎 現 象phenornenes616me癬aires」 〔以 上L2,p393〕 が 現 わ れ る,と ラ カ ンは 指 摘 し て い る 。 原 始 的 な 心 的 構 造 で あ る 想 像 界 が,象 徴 的 な も の に 支 え ら れ る こ

と な く,そ れ 自体 と し て 単 独 で 出 現 す る と い う こ とで あ る 。

想 像 界 と は,す で に 述 べ た よ う に,小 文 字 の 他 者 の 心 像 と 自 我(a‑a')か ら

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174ラ カ ソの精 神 病 論 に 闇 す る一 考 察

構 成 さ れ る 領 域 で あ る 。 そ の 代 表 的 な 機 能 は,他 者 の 心 像 に よ る 「捕 獲(籠 絡)captation」 と 自 我 に よ る 「無 視 説co誼 葺aiss鎌ce」 で あ り,両 者 に 共 通 す

る 「疎 隔 化(狂 気 化)alienationの 運 動 で あ る 。 こ れ を 具 体 的 に 考 え て み よ う。

ま ず 捕 獲 的 ジ 籠 絡 的 な 機 能 は,フ 惚 イ トが 解 明 した 変 愛 に お け る 「ほ れ こ み 」 〔F4,A227〕 の 状 態 に み られ る 。 ラ カ ソが 師 と 仰 ぐ ク レ ラ ソ ボ ー が 記 述 し た 「恋 愛 妄 想(エ ロ トマ 論 ア)」 に お い て は,こ の 状 態 が 典 型 的 な 仕 方 で 現 わ れ る 。 工 雛 トマ エ ア 患 者 は,し ば し ば 極 度 に プ ラ トニ ッ ク な 恋 愛 を 好 み,時 に は 自 分 と ほ とん ど知 己 の 無 い 他 人 を 盲 目 的 に 恋 す る 。 例 え ぽ,手 紙 が 届 くか

ど う か も わ か ら な い よ う な 相 手 に 夢 中 に な る 〔L5,p53〕 。 中 世 の 恋 愛 物 語 に 似 て,対 象 の 「完 壁 性perfectionが 追 い 求 め ら れ る 。 こ こ で の 他 者 の 心 像 は,第 一 に,「 ナ ル シ シ ズ ム 的 で,心 を 魅 了 し捕 え 込 み,自 己 喪 失 的 で 疎 隔 的 narcissique,captivante,ali6難allte」 〔L3,A204〕 な も の とLて 働 く 。 こ の と き 主 体 が 魂 を 奪 わ れ 捕 ら え 込 ま れ る 他 者 の 像 と は,鏡 像 段 階 論 に お い て 示 され た よ うに,自 己 愛 的 な 己 自 身 の 心 像 な の で あ る。 第 二 は,対 象 と な る 「他 者 は 非 人 格 化 さ れd6perso雌alisa毛io難dera鷺trej〔L5,p54〕,「 疎 隔 化alienati◎ 司 が 進 行 す る 。

小 文 字 の 他 老 の こ の よ うな 籠 絡 的 な 機 能 と相 関 し て,自 我 の 「無 視 」 の 機 能

が あ る 。 ラ カ ンが1930年 代 初 頭 に 扱 った パ ラ ノ イ ア の 女 性 患 者 エ メ は,「 母 親

の 代 理substitutdeSImらrej〔Ll,p282〕 と し て 干 渉 約 に ふ る ま う姉 へ の

無 意 識 的 敵 意 を 処 理 で き な い ま ま,こ の 葛 藤 を 回 避 し て し ま っ た 。 こ の 「無

視Jさ れ た 敵 意 は,彼 女 の 妄 想 の 中 で,迫 害 者 の う ち に 投 影 さ れ て 現 わ れ た 。

被 害 妄 想 の 最 初 の 対 象 と な っ た の は,昇 華 さ れ た 同 性 愛 の 対 象 と して 彼 女 が そ

れ ま で 敬 愛 し て き た 親 し い 女 性 だ っ た 。 エ メ は 最 初 の 子 供 を 流 産 した が,そ れ

は こ の 女 性 の 仕 業 だ と思 い 込 ん だ 。 新 た な 被 害 妄 想 が 生 じ る た び に,そ の 対 象

(迫 害 者)は,工 獄 トマ ニ ア の 場 合 と似 て,エ メ か ら ま す ま す 遠 ざ か り知 己 の

薄 い 人 物 と な っ て い っ た 。 そ して 最 後 に,ラ カ ソの い る 病 院 に 収 容 さ れ る直 前

に,r自 分 を 裏 切 っ た 」 と い う理 由 で 彼 女 が ナ イ フ で 刺 し た 人 物 は,彼 女 が そ

れ 以 前 に は 一 度 も 会 っ た こ と の な い 有 名 な 女 優 で あ っ た 。 こ の よ う に 主 体 の 無

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ラ カ ン の精 神 病 論 に 関す る一 考 察175 意 識 的 敵 意 は,そ の 直 接 の 対 象 か ら遠 ざ か る 「離 心 的centrifugeな 運 動 を 示

し,疎 隔 的 に 働 い て い る こ とが わ か る 。

Toutledelired'Aim6e,(…)peut(…)seco搬prendrecomme凱e transpositioncleplusenpluscentrifugedunehainedontelleveut m6co簸 獄a鴛re1'abjetdirect,〔L1,p282〕

ま た こ こ に は,自 我 の 主 要 な 機 能 と し て,欲 望 の 「無 視 」 が 認 め られ る 。 こ の 無 視 拠6CO瓢aissaaC¢ と は,認 識connaissanceの 一 形 式 だ と ラ カ ソ は い う。

例 え ば,あ る 麦 想 患 者 は,近 親 者 が 死 ん だ 事 実 を 無 視 す る 。 こ の 場 含 彼 は,そ の 人 が 生 き て い る と勘 違 い し て い る わ け で は な い 。 患 者 は,自 分 が 認 め 準 くな い 事 柄 が そYに 在 る と い う こ と を 知 っ て い る の で あ る 〔L3,p190〕 。

人 間 は 己 の 内 部 に あ る 無 意 識 的 欲 望 を 直 接 的 な 仕 方 で 認 識 す るYVと は で き な い 。 人 は そ れ を 他 在 的 な 対 象 性 を 媒 介 と し な が ら 認 識 す る の で あ る 。 こ の 他 在 性 と は,小 文 字 の 他 者autreと 大 文 字 の 〈他 者>!a.utreで あ る 。 そ し て 主 体 の 存 在 を 承 認 す るreconnaitre(再 認)と い う仕 方 で 最 終 的 な 認 識 を 与 え て くれ る の は 〈他 者 〉 以 外 の 何 物 で も な い 。 人 間 の 欲 望 を 最 終 段 階 で 引 き 受 け る の は 言 葉 だ か ら で あ る 。

Ledesir叢 ゴ¢s毛lamaisint6gr6璽ues◎usUl1Lform¢vαbale(…)〔L3, p197〕

しか し,言 語 を 己 の 内部 に未 だ 引 き受 け て い な い段 階 に あ る主 体 が 行 う原 始

的 な 認 識 様 式 は,小 文 字 の 他 者,つ ま り 外 部 に 投 影 さ れ た 自 我 の 像 を 媒 介 と し た 認 識 で あ る 。 自 己 意 識 と し て の 意 識 が 生 じ る の は こ の 時 点 で あ る 。

A.1'arigine,avantlelangage,!edesirn'existequesurleflandela

・elan◎niin・ginai・edu・fadespe・ulaite,P・ ・je紙alielzednns「 誠re・

〔L3,P193〕

Lesuletr¢Pさreetr6co鍛 獄a鴛 ◎figi狼ellement玉edesirpar貰 批erm益diaire・

11051seule臓e慧tdesapropreimage,ma量sducorpsdesonsemblable.

C'estacemoment‑laexactementques'isalechez1'etrehumainla c・簸scie蕪ceentartquec・nsciencedes・i.〔L3,P169〕

フaイ トは 精 神 活 動 の 原 点 を 人 間 の 無 力 性 に 求 め 〔F5,p254〕,充 足 体 験

が 他 者 に よ っ て し か 与 え ら れ な い こ と を 強 調 した 。 ラ カ ンに よ れ ば,こ のr原

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176ラ カ ン の神 精 病 論 に 関す る一 考 察

初 的 無 力 性impuissanceprim懲ve」 の ゆ え に,人 は 己 の 欲 望 を 「自 分 の 外 部 にhorsdelui‑mεme」 先 取 りさ れ た 「幻 影mirage」 〔L3,p160〕 と して 映 し だ す の で あ る 。

「無 視 」 の 機 能 を 中 心 に,「 疎 隔 化Jや 「投 影 」 や 「捕 獲 」 と い っ た 想 像 界 の 諸 機 能 を 通 じ て 行 わ れ る 小 文 字 の 他 者 を 媒 介 と し た 「他 動 性transitivisme」

に よ る原 初 的 認 識 様 式 を,ラ カ ソ は 「パ ラ ノ イ ア 的 認 識connaissancepara‑

no1aq1ユej〔L2,p180〕 と 呼 ん で い る 。

以 上 の よ うに,精 神 病 者 は,「 想 像 界 に 無 条 件 に 癒 着 し て い るquiadherea cetimagi71aire,purementetsimpleme跳 。 」 〔L4,p284〕 。 そ の た め 想 像 界 は そ れ 自 体 の 固 有 な 諸 機 能 を 十 全 に 発 揮 し て い る か に み え る 。 で は 精 神 病 者 の 想 像 的 機 能 は 真 の 意 味 で 円 滑 に 作 動 し て い る の だ ろ うか 。

3.2想 像 界 の 破 綻

パ ラ ノ イ ア 性 精 神 病 に お け る 想 像 的 機 能 は,自 己 充 足 的 に 作 動 し て い る に す ぎ な い 。 想 像 的 な も の を 下 か ら 支 え る 第 四 項 は 排 除 さ れ た ま ま,残 り の 三 項 (S‑a‑a')の 間 で 閉 鎖 的 な 回 路 が 形 成 さ れ る 。 言 い 換 え れ ばa‑a'と い う 「二 つ の 小 文 字 の 他 者 の 上 で 回 路 は 閉 じ ら れ てLecircuitsefermeSUPlesdeux

petitsautres」 〔L5,P64〕 お り,象 徴 界 へ の 結 び つ きnoeudが 断 た れ る 。 ラ カ ソは こ の 状 態 を 脚 が 一 本 折 れ て 三 本 脚 に な っ た 椅 子 に 讐 え て い る 〔L5,p 228〕。Yの 閉 じ た 回 路 の 中 で 或 る 種 の 想 像 的 機 能 が 作 動 し な く な り,「 想 像 界 の 破 綻 が 拡 大 す るledesastrecroissantderimagi狙airej〔L2,p577〕 。

前 述 の エ メ症 例 に 戻 っ て 考 え て み よ う。 エ メ が 離 心 化 す る 妄 想 の な か で 「無 視 」 し た も の は,「 姉 と の 葛 藤conflitavecsas㏄ur」 で あ り 「同 胞 間 の 葛 藤conflitfra毛emelj〔L1,P319〕 で あ っ た 。 シ ブ リ ン グ ・ ラ イ ヴ ァ ル リー と は,自 分 の 反 射 像 と し て の 小 文 字 の 他 者 段 と の 想 像 的 葛 藤 関 係 で あ る 。 こ れ は エ デ ィ プ ス 葛 藤 の 基 本 的 構 成 要 素 を な し,同 性 の 親 と の 葛 藤 を 代 理 す る も の で あ る 。 正 常 な 過 程 に お け る エ デ ィ プ ス 的 心 像 の 統 合 と 内 化 に よ る 象 徴 界 の 形 成 は,こ の 攻 撃 的 関 係 を 通 じ て の み 形 成 さ れ る の で あ る 。

Norinalement,laconquetedelarealisationoedipienne,1'integration

et1'introjectionde1'imageoedipienne,sefaitparlavoie(…)dela

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ラ カ ン の 精 神 病 論 に 関 す る 一 考 察177

relationagressive.End'autrestermes,c'estparlavoied'unconflit imaginairequisefait1'integrationsymboli〈1鷺e.〔L5,P240〕

こ の葛 藤 の第 一 段 階 で主 体 は,す で に 述 べ た よ うに 自己 の 欲 望 を 敵対 す る他 者 の 中に 投 射 して,「 パ ラ ノ イ ア的 」 に 認識 す る。 例 え ば 子供 は,自 分 で友 達 を ぶ って お きな きな が ら,「 あ の 子 が ぼ くを ぶ った 」 と言 う。子 供 は嘘 をつ い

e0のe0

て い る わ け で は な い 。 「文 宇 ど お り,彼 が 他 者 に な っ て い るilest1'autre litteralement」 〔L5,P50〕 の で あ る 。 こ の よ うな パ ラ ノ イ ア 的 認 識 の 根 底 に は,嫉 妬 心 に 基 づ い た 同 胞 間 の 葛 藤(シ ブ リ ン グ ・ラ イ ヴ ァル リ ー)が あ る 。

Laconnaissancediteparanoiaqueestuneconnaissanceinstaureedans larivalitedelajalousie.〔L5,P50〕

兄 弟 間 の 葛 藤 の 本 質 を ラ カ ソ は,ヘ ー ゲ ル の 『精 神 現 象 学 』 に お け る 「主 人 と奴Jの 死 を 賭 し た 弁 証 法 的 闘 い の 中 に 見 る 。 こ の 二 者 対 蒔 的 なduel緊 張 関 係 か ら脱 出 す る に は,相 手(e他 者)を 殺 す 以 外 に 手 だ て は な い 。

Elle(=1atension)n'apasd'autreissueHegelnoes1'apprend queladestructionde1'autie.〔L3,P193〕

例 え ば,フ ロ イ トが 『快 感 原 則 の 彼 岸 』 で 記 述 し た 一 歳 半 の 幼 児 は,母 親 が 外 出 の た め 自 分 の ぞ ぼ か ら 離 れ た と き,こ の 悲 し み を 埋 め 合 わ せ る た め に,糸 の つ い た 糸 巻 を 繰 り返 し 投 げ て 遊 ん だ 。 そ し て 糸 巻 を 投 げ だ し た と き に は 「い な い 」,引 き 寄 せ た と き に は 「い た 」 と 言 葉 に 出 し た 。 子 供 は こ の 孤 独 な 遊 び に 喜 び と 満 足 を 感 じ て い た 。 こ の 過 程 で 子 供 は 先 ず,不 在 に な っ て し ま っ た 敵 意 の 対 象 た る 現 実 の 母 親 を 想 像 的 代 理 物 と し て の 糸 巻 に 置 きxる 。(な お, 小 文 字 の 他 者autreの 具 体 的 形 式 は,現 実 の 兄 弟 姉 妹 や 父 母 の 心 像 に 代 表 さ れ る と し て も,そ れ に 限 られ る も の で は な く,広 く は 身 近 で ア ン ビ ヴ ァ レ ソ トな 感 情 の 対 象 と な る 人 や 物 で あ る 。)そ し て 次 に こ の 想 像 的 対 象 を 投 げ 出 す こ と に よ り,想 像 的 な 演 技 空 間 の な か で 己 の 無 意 識 的 敵 意 を 表 出 す る と 同 時 に,こ れ に 「い な い/い た 」 と い う言 葉 を 与 え て 象 徴 的 分 節 化 を 行 っ た わ け で あ る 。

こ の 象 徴 的 分 節 化 に よ っ て 小 文 字 の 他 者 と の 想 像 的 葛 藤 関 係 は 消 滅 し,象 徴 的 対 立 関 係oppositionsymboliqueが こ れ に と っ て 代 わ る 。 彼 は 想 像 的 対 象 物 を

r破 壊 し 」,そ のr主 人maitreと な る 。

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178ラ カ ソ の 精 神 病 論 に 聞 す る 一 考 察

Il(=1'enfant)serendmaitredelachose,pourautantque;justenmemt, itlad(≦trt亘 愈,〔L3,195ユ

物 を 破 壊 す る と は,事 象 に 名 を 与 え る こ とで あ っ て,「 い な い/い た 」 と い う対 立 的 能 記 を 付 与 す る こ と で あ る 。 こ れ に よ っ て 人b徴 界 に 導 入 さ れ る 。

Toutpartdelapassibilitedenomzner,quiestalafoisdestruction delachoseetpassagedeIachoseauplansymbolique,graceaquoi leregistreprOprenユenth縦mahls'installe.〔L3,P244〕

精 神 病 者 は,想 像 界 に お け る こ う し た 「葛 藤co録f翫 」 ま た は 死 を 賭 け た 闘 い に 勝 ち 抜 く こ とが で き な い 。 い い か え れ ば 想 像 的 葛 藤 を 象 徴 的 対 立 関 係 へ と 置 き 換 え る こ とが で き な い 。 そ の 結 果,彼 自 身 が 死 を 余 儀 な く さ れ る 。J に,「 想 像 的 な 代 理 化 が 行 な わ れ な いaucunesubstitutionimagi鍛aire士 〔L3, p134〕 ○ 例 え ば エ メ の 場 合,敵 意 の 対 象 は 糸 巻 な ど の 想 像 的 対 象 物 に 置 き換 え

ら れ る こ と な く,常 に 現 実 の 他 人 が 選 ば れ る 。 第 二 に,敵 意 は 主 体 に よ り引 き 受 け ら れ る こ と な く;想 像 的 葛 藤 は 回 避 さ れ る 。 「物 の 破 壊Jは 実 行 さ れ な い ○

主 体 の 側 か ら み た こ う し た 敵 意 の 回 避 と い う 現 象 を,次 に 対 象 の 属 性 の 側 か ら 考 え て み よ う。 精 神 病 者 は,対 象 と の 間 に 距 離distanceを 置 く こ とが で き ず,対 象 に 完 全 に 取 り愚 か れ 捕 縛(captureimaginaire〔L5,p231〕)さ れ て

ゆ0s

し ま う。 彼 に と って 対 象 は常 に完 壁 で な くて は な らな い。 さ も なけ れ ぽ 現 実 的

0の ゆ ゆeゆ ゆ

レ ベ ル に お い て 敵 対 物 と な る 。 一 方,上 述 の 「物 の 破 壊Jあ る い は 「原 抑 圧 」 が 成 立 す る(「 正 常 なD過 程 で は,対 象 へ の 備 給 は 常 に 不 完 全 で あ り,備 給

さ れ な い ま ま 無 意 識 の 中 に 消 滅 す る 不 快 な 残 留 物 が 生 じ る 。 CetinvestissementdeI'imagespecualireestuntempsfondamental

delarelationimaginaire,fondamentalenceciqu'ilaunelimiteet c'estquetout1'investissementlibidinalnepassepaspar1'image speculaire.Ilya1121res毛e。 〔L6 ,P41〕

鏡 像 段 階 に お い て 鏡 の 中 の 心 像 に 対 す る 備 給 は,充 分 に 満 た さ れ る こ と は な

い 。 こ の 不 完 全 性 の 峰)え に 無 意 識 的 残 津 が 形 成 さ れ,想 像 界 は 象 徴 界 へ の 結 び

霞 簸Geudを 見 い 出 す 。 ラ カ ソ は こ の 対 象 備 給 の 残 津 を,部 分 対 象 と の 関 連 に お

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ラ カ ン の精 神 病 論 に間 す る一 考 察179 い て 概 念 化 し,「 対 象 小 文 字 のa(objetpetita)Jと 名 づ け た 。(な お これ

は,「 隠 れ たcache対 象 で あ り,「 小 文 字 の 他 者a紺 明 と は 別 の 概 念 で あ る 。)

主 体 が 対 象 と のr葛 藤 」 を 引 き 受 け ら れ ず,対 象 備 給 の 不 完 全 性 を 拒 絶 し て し ま う時,想 像 界 は 象 徴 界 へ の 脱 出 口 を 失 い,閉 じ ら れ た 回 路 の 中 で 「想 像 的 三 脚 の 崩 壊dissolutiondutrepiedi難agi1識a{rej〔L2,P565〕 が 進 行 す る 。

の0

〈父 〉 に な る §毛re」 と い う象 徴 的 な 同 一 視 に 到 達 す る た め に 主 体 が 死 を 賭 け て 行 う 「物 の 破 壊 」 と は,言 い 換 え れ ぽ 「母 の 欲 望desirdelamさre」 を 消 し去 り無 意 識 化 す る こ と で あ る 〔L2,p557参 照 〕。 フ ロ イ トの 表 現 に 従 え ば,「 エ デ ィ プ ス ・ コ ソ プ レ ッ ク ス が 崩 壊 す る と き に は,母 の 対 象 備 給 が 放 棄 さ れ ね ば な ら な いJ〔F3,p279〕 の で あ る 。 だ か ら 想 像 的 葛 藤 を 通 じ て 「母 の 欲 望 」 を 無 意 識 の 中 にr押 し返 すrefouler(抑 圧 す る)」 こ と が 出 来 な か っ た 場 合 に, 精 神 病 の 条 件 が 作 られ る 。

ガ け

シ ュ レー バ ー 症 例 〔F6〕 で は,患 者 は く父 〉 に 「な る 」 こ と が 出 来 ず に, 父 の 欲 望 の 対 象 で あ る 母 と の 同 一 視 を 行 う。 つ ま り 「女 性 に な る 」 道 を 選 択 す る 。 彼 は,「 女 性 的 な 性 愛 感 情 」 を 抱 く よ うに な り,「 自 分 を 神 の 女 と 感 じ る よ うに な っ た 」 〔F6,p302〕 。 主 体 は こ の 想 像 的 同 一 視 の ゆ え に,「 母 の 欲 望 」 を 消 去 す る こ と が で き ず,逆 に こ れ を 「引 き 受 け 」 て し ま う。

Ici1'identification(…)parquoilesujetaassumeledesirdelamere, declenche(…)ladissolutiondutregiedimaginaire.(L2,g565

主 体 は,母 に 欠 け て い る 男 根 と 同 一 視 し て 想 像 的 葛 藤 を 越 え る と い う作 業 を 遂 行 で き な い 。 そ の 結 果,男 の 欲 望 の 対 象 で あ る 女 と 自 己 を 同 一 化 す る 。

Fautedepouvoiretrelephallusquimarquealamere,itluireste

lasolLttiond'ャ…trelafemmequiman(duea鷺xho雛 ユ1篇es。 〔LZ,P566〕

性 の 偏 極 化polarisation(e分 節 化)が な さ れ な い と い う こ と は,身 体 自我 の 境 界 玉 圭miteが 設 定 さ れ な い と い う こ と で あ る か ら,対 象 備 給 に 境 界 が 設 け ら れ ず,「 物 の 破 壊 」 が 遂 行 さ れ な い こ と を 意 味 し て い る 。 精 神 病 に お い て 同 性 愛 傾 向 が 顕 著 で あ る 理 由 は,こ う し た 構 造 的 根 拠 に よ る と考 え ら れ る 。

以 上,精 神 病 の 想 像 界 に お け る 構 造 的 要 因 を 考 え て き た が,既 に 部 分 的 に 述

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180ラ カ ンの 精 神 病 論 に 関 す る一 考 騰

べ て き た よ うに,「 精 神 病 で 用 い ら れ る 諸 機 制 は,想 像 的 領 域 に 限 ら れ る も の で は な いLesmecanismesenjeudanslapsychoseneselimitentpasau

registreimaginaire.」 〔L5,p166〕 。 つ ま り象 徴 界 を 考 慮 に 入 れ る 必 要 が あ る 。 そ こ で 次 に 精 神 病 に お け る大 文 字 の 〈他 者 〉 と の 関 係 が 問 わ れ ね ぽ な ら な い 。r或 る能 記 の 基 本 的 欠 如m翻queessentield'u琵sig設ifia滋 」 〔L5,p227〕, 即 ち 「父 の 名 の 排 除 」 と は 何 を 意 味 し て い る の だ ろ うか 。

3.3精 神 病 と 言 語

「精 神 病 者 が 彼 の 世 界 を 再 構 成 す る と き,先 ず 最 初 に 備 給 を 受 け る の は 何 か?そ れ は 言 葉 で あ る 。Quandlepsychotiquereconstruitsonmonde,

quest‑ce(duiestd'abordinvestiaCesontlesmots.」 〔]し3,P134〕

こ の 観 点 を 最 初 に 提 出 し た の は,ラ カ ソ で は な く フ ロ イ トで あ る 。r無 意 識 に つ い て 』 〔F7〕 の 中 で フ ロ イ トは,タ ウ ス ク の 研 究 を 評 価 し な が ら 分 裂 病 者 の 言 語(分 裂 書 語)の 考 察 を 行 っ て い る。

分 裂 病 の 言 語 は,夢 の 場 合 と 同 じ よ うに,圧 縮 や 置 き換 え な ど一 次 過 程 の 作 用 を 受 け,言 葉 は 物 の ご と くに 扱 わ れ る 。 こ の よ うに 書 葉 が 備 給 さ れ る 理 由 は,抑 圧 に よ る も の で は な く,「 失 わ れ た 対 象 を 再 び 獲 得 し よ う とす る も の で あ り,こ の 意 図 の も とに 対 象 に 至 る 道 を 対 象 の 言 語 成 分 を つ う じ て 進 も う と し て,そ の さ い 事 物 の 代 わ りに 言 語 で 満 足 し な け れ ば な ら な く な る 」 〔F7,p113〕

か ら で あ る 。 こ こ で い う 「失 わ れ た 対 象Jと は,一 般 に 用 い ら れ て い る 意 味 で の 「対 象 喪 失Jで は な い 。 ラ カ ソ の 表 現 に 翻 訳 す れ ぽ 「原 基 的 能 記 の 排 除 」 と い う こ と に な る 。 そ れ ゆ え,「 精 神 病 者 は,言 語 に 住 ま わ れ,取 り愚 か れ て い る lepsychotiqueesthabite,passede,parlelangage.」 〔L5,p284〕 と い え る 。

精 神 病 と 言 葉 と の 関 連 性 は,発 病 の 時 点 で 明 確 に 輪 郭 を 表 わ す 。 精 神 病 前 駆 期 の 患 者 が 精 神 分 析 治 療 を 受 け た 結 果,精 神 病 を 惹 き起 こす ケ ー ス は し ぼ し ぼ 観 察 さ れ て い る 。(そ れ が い わ ゆ る 「転 移 精 神 病 」 で あ る か 否 か は こ こ で は 問 わ な い 。)

先 ず 前 精 神 病prepsychotique段 β 皆で は,主 体 は 「か の よ う なasif」 状 態

(H・ ドイ ッ チ ュ)と か 「偽 り の 自 己 」(ウ ィ ユ コ ッ ト)と い う状 態 に あ り,

自分 の 存 在 を 自分 自身 と し て 感 じ と る こ とが 出 来 な い 。 ウ ィ ニ ほ ッ トは,こ の

(21)

ラ カン の精 神 病 論 に関 す る一 考 察181

「自 分 で な い も のJが 「自 己 と い う単 位 を 身 体 の 中 に 限 定 し,皮 膚 を 境 界 膜 と し て 働 か せ る こ と に 随 伴 し て 現 わ れ る 」 〔D12,A65〕 と し て,境 界 例 と の 関 連 を 重 視 し て い る 。 し か し ラ カ ソに よ れ ば,主 体 が 自 分 を 現 実 的 な 存 在 と し て 感 じ とれ る か ど うか は,最 終 的 に は 身 体 自 我 の レベ ル の 問 題 で は な く,能 記 の 統 合 が な さ れ て い る か 否 か の 問 題 で あ る 。 前 精 神 病 段 階 の 主 体 は 「能 記 の 領 域 に 統 合 さ れ て い な いnon‑integrationdusujetauregistredusignifia撹 」 〔L 5,p285〕 た め に 自 分 に 現 実 感 が も て な い の で あ る 。rか の よ う な 」 状 態 が,エ デ ィ プ ス 的 試 練 を 乗 越 え られ な か っ た た め に 生 じ た も の で あ る と す れ ば,そ れ は 主 体 が 原 基 的 能 記 を 統 合 で き ず,自 己 の 内 部 に 一 定 の 「正 当 な 距 離 」"stesdistancesを 実 現 で き な か っ た た め だ と ラ カ ン は 理 解 す る 〔L5,p 2830

こ の よ うな 状 態 に あ る 主 体 は,精 神 分 析 や 転 移 的 過 程 を 通 じ て 「わ ず か な 挑 発 が 与 え ら れ て もalamoizzdreprovocation〔L5,p285〕,い わ ば 「精 神 自 動 症automatismementa!に 似 た 仕 方 で た ち ま ち 自 発 的 に 発 症 す る の で あ る 。 症 状 は い う ま で も な く雷 葉 ば か りで な く多 様 な 形 式 で 現 わ れ る に せ よ,こ こ で は そ れ ま で 潜 在 し て い た 主 体 の 欠 損 が 「発 言prendrelaparoleす る と考 え ら れ る 。 つ ま り精 神 分 析 を 通 じ て 主 体 が 自 己 の 真 実 を 語 ろ う と し た 瞬 間 に,症 状 が 彼 の 内 部 の 原 基 的 能 記 の 欠 損 を 捉 え,こ れ を 外 部 に 引 き 出 す わ け で あ る。

(…)nousadmettonsqueladefaillancedusujetaumomentd'aborder laparoleveritablesituesonentree,songlissement,Banslephenomene critique,clanslaphaseinauguralsdelapsychose.〔L5,P285〕

例 え ば シ ュ レ ー バ ー 症 例 に お い て は,発 症 以 前 の 段 階 で 患 者 は 「男 性 と し て の 自分 の 役 割 を 果 た し て い る か の よ うに み え たitawaitfairdetenirson

roled'hommej〔L5,p286〕 。 だ が 妄 想 の 展 開 と と も にr分 の 性 に 対 す る疑 問 が 表 出 さ れ,「 女 に な っ て 性 交 を し た ら ど ん な に す ば ら し い だ ろ う」 〔F6,p 292〕 と 空 想 す る 。 フ ロ イ ト風 に 理 解 す れ ぽ,こ れ は 無 意 識 が 知 覚 の 表 層 に 突

出 し た た め で あ り,「 物 」 の 代 わ りに 「言 葉 」 が 備 給 を 受 け た か ら で あ る 。

主 体 の 人 生 の 偶 然 に 左 右 さ れ て,「 事 後 的 」 な 仕 方 で 彼 の 内 部 の 特 殊 的 構 造

が 言 語 を 伝 っ て 妄 想 と い う形 で 露 出 す る 。 「無 意 識 が 表 層 に 現 わ れ,意 識 化 さ

(22)

182ラ カ ンの 精神 病論 に 関 す る一考 察

れ る1'inconscientestensurface,estco1竃scie撹 」 現 象 と し て の 妄 想 に は,い くつ か の 特 微 が み ら れ る 。 第 一 に,「 現 実 感sentimentderealite,〔L5,P

23〕 を 伴 っ て い る と い う点 が 挙 げ ら れ る 。 こ れ は 夢 が 現 実 感 を 伴 っ て い る こ と と似 て お り,フ ロ イ トが 言 う よ うに そ こ に は 「ナ ル シ シ ズ ム 的Jな 性 質 が 認 め られ る 。 既 に 述 べ た よ うに,欲 望 は 先 ず 小 文 字 の 他 者 を 通 じ て 現 実 化 さ れ る わ け だ が,妄 想 に お い て は,「 患 者 自 身 の 発 話 は,患 者 そ の も の で あ る 小 文 字 の 他 者 の 中 に あ るsapropropar◎leestBans1'autrequiestelle‑meme,lepetit

autre,sorしrefletdapssonmiroir,SO21semblable」 〔L5,p63〕 ○ 言L、力為え れ ば,「 主 体 は 文 字 ど お り 自分 の 自我 と話 を す るlesujetpanelitteralementavec SOSmoij〔L5,p23〕 の で あ る 。 妄 想 的 発 話 に 現 実 感 を 与 え る の は,想 像 界

の 書 述 形 式 で あ る 《to》 で あ り,主 体 に 語 りか け て く る 小 文 字 の 他 者 で あ る 。 こ の 現 実 感 は,更 に 象 徴 界 と現 実 界 の 特 殊 な 関 係 を つ く っ て い る 。 例 え ば

「解 釈 妄 想delired'interpr6tatio司 に お い て は,患 者 は そ れ 自 体 意 味 の 無 い 外 界 の 出 来 事 を 自分 に 関 係 づ け,そ こ に 何 ら か の 敵 意 が あ る と 思 い 込 む 。 こ の 時,外 界 の 現 実 は 主 体 に と っ てr侵 害 さ れ た も の で あ り,か つ 意 味 を 与 え る

(能 記 的 な)も の と し て 現 わ れ るlar6a翫6elle‑mernesepresenteCOI71111C

atteinte,coznmesignifianteaussiJ〔L5,P161〕 。 ラ カ ソは こ れ を 「象 徴 的 対 立 関 係oppositionsymbolique」 が 現 実 界 に 導 入 さ れ た と表 現 し て い る が, 解 釈 妄 想 に お い て は 主 体 の 欲 望 が 「発 言prendrelaparole」 す る の で あ る 。 一 般 に ,精 神 病 で は 「無 意 識 が 意 識 化 され るBanslespsychoses,legaest

co獄scie慧t」 〔L5,p335〕 と 書 わ れ る意 味 は,「 エ ス が 語 るgaparleyと い う こ と で あ る 。 ラ カ ソ は,す で に 早 い 時 期 か ら解 釈 妄 想 に あ らわ れ た 欲 望 の 「対 象 的objectif」 な 性 質 に 着唱 し,妄 想 と は 無 意 識 が 外 界 に 出 現 し 対 象 を 捉 え よ

う とす る 「解 釈 的 な 」 運 動 で あ る と考 え て い た 。

Led61ireCStparlui‑memeu7zeactivi£6i㈱pr6ta亀 量vede1'inc・nscient.

Etc'estlaunsanstoutnouveauquis'offreautermeded61圭re d'interpretation.〔L1,P293〕

そ し て こ れ が 後 に な っ て 「欲 望 と は 換 喩 で あ る 」 と い う有 名 な 定 式 と結 び つ

くQ「 抑 圧 」 に み ら れ る症 状 形 成 的 で 「隠 喩 」 的 な 機 能 と は 異 な っ て,欲 望 の

(23)

ラ カ ン の 精 神 病 論 に 関 す る 一 考 察183

「換 喩 」 的 な 働 き は,外 部 に 突 出 し そ れ 自 体 に 欝 葉 を 与 え よ う と す る 「解 釈 」 の 作 用 で あ る 。 精 神 分 析 の 成 立 基 盤 も 欲 望 の こ の 解 釈 的 作 用 に あ る 。

L'雛 重eゴpr《 ≦ 宅aio難co簸cer貧ecefacteur(…)(dueゴaiessayededefinirpar lam{≦to難ymie.L'interpretation,BansSOTIterme,Pointeleclesir,auquel, enuncertainseas,elleesticlentique.Ledesir,c'estensomme

1'interpretationelle‑meme.〔L7,P161〕

換 喩 的 な 言 語 使 用 の 実 例 は,「 運 動 失 語aph&slemotricejに 認 、 め ら れ るQ 運 動 失 語 の 特 徴 は 「失 文 法agramma飴me」 で,こ れ は 「隣 接 性 の 障 害troubles delaco痛gu1£6」 〔L5,p255〕 と 呼 ぼ れ る 。 こ の 失 語 症 の 患 者 に は,電 文 体

が あ ら わ れ,助 詞,助 動 詞,形 容 詞,動 詞 の 活 用 な ど が 省 略 さ れ た りジ 貧 困 に な っ た りす る 。 残 語 と し て は 名 詞 が 残 る ・ 即 ち,命 名 の 機 能 は 保 持 さ れ る が, 統 語 機 能 が 失 わ れ る の が 特 徴 で あ るO

Itspeuventpourtantcorrectementnommer.ltsgardentlacapacite nominative,maispendentlacapacitepropositianzlelle.[L5,p255

だ か ら運 動 失 語 の 患 者 に は,命 名nominationの 機 能 と い う原 始 的 な 換 喩 の 機 能 の み が 残 っ て い る と い え る 。 こ の 働 き は ま だ 言 語 能 力 が 発 達 し て い な い 子 供 に も 認 め ら れ る 。 そ の 一 例 と し て ラ カ ソ は,ア ソ ナ ・ フ ロ イ トが 幼 児 の 頃 に 眠 りな が ら 「大 き な い ち ご,木 い ち ご,プ リ ソ,お 粥 」 と 言 っ た と い う フ ロ イ トの 報 告 を 取 り上 げ,こ れ が 「換 喩 の 最 も 図 式 的 で,最 も基 本 的 な 形 式 で あ る c'estlafOrmelaplusschemati(due,laplusfo捻dame鷺ta夏ede王a211E≦to捻y瓢ie」

〔L5,p259〕 と 指 摘 し て い る 。 こ ど も は,先 ず 自 分 の 欲 望 を 名 づ け る と い う 原 初 的 な 言 語 活 動 を 学 び,こ れ を 土 台 と し な が ら 後 に 隠 喩 的 表 現 様 式 を 学 ん で ゆ く の で あ る 。

パ ラ ノ イ ア 患 者 に も こ の 換 喩 的 機 能 が 典 型 的 な 仕 方 で 現 れ る 。 ラ カ ソは1930

年 代 に 「分 裂 言 語schiz◎phasie」 の 研 究 〔L8,p55〕 を 行 っ て い る が,最 終 的

に は そ の 範 囲 を 定 め るY1...と は で き な か っ た と述 べ て い る 〔L5,p44〕 。 な ぜ な

ら言 語 形 式 の 面 か らみ た か ぎ り妄 想 症 患 者 の 言 語 は,正 常 者 の 言 語 と 基 本 的 に

変 わ ら な い か ら で あ る 。 と は い っ て も 妄 想 の 言 語 に は 幾 つ か の 固 有 な 特 徴 が あ

る 。 と りわ け 能 記 面 で は 「ネ オ ロ ジ ス ム(言 語 新 作)」 が あ げ ら れ る 。 そ し て

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((.; ders, Meinungsverschiedenheiten zwischen minderjähriger Mutter und Vormund, JAmt

Zeuner, Wolf-Rainer, Die Höhe des Schadensersatzes bei schuldhafter Nichtverzinsung der vom Mieter gezahlten Kaution, ZMR, 1((0,

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”, The Japan Chronicle, Sept.

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