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Academic year: 2021

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論文の内容の要旨

氏名:山 田 宏 美

博士の専攻分野の名称:博士(獣医学)

論文題名:外傷性脊髄損傷モデルマウスの運動機能回復に及ぼす脱分化脂肪細胞移植の影響に関する研究

交通事故や脊椎・脊髄疾患による脊髄損傷は、麻痺などの重篤な運動機能障害へと転帰する可能性があ るが、現在も有効な治療法は確立されていない。近年、脊髄損傷モデル動物を用いた研究において、人工 多能性幹細胞、神経幹細胞および間葉系幹細胞などを用いた細胞移植治療により、脊髄損傷後の運動機能 回復が促進されることが報告された。細胞移植による機能回復のメカニズムとしては、損傷部位で死滅し たニューロンの代替、オリゴデンドロサイトによる再髄鞘化、および損傷部位で軸索伸長を妨げるグリア 瘢痕の縮小などに起因すると考えられている。これらメカニズムのうち、特にオリゴデンドロサイトによ る再髄鞘化およびグリア瘢痕の縮小は、運動機能回復に大きく寄与することが報告されている。

成熟脂肪細胞に由来する脱分化脂肪(dedifferentiated fat; DFAT)細胞は、種々の疾患を対象とした 細胞移植治療における新規のドナー細胞として有用であることが報告されている。DFAT 細胞は、高い増殖 能と間葉系幹細胞に類似した多分化能をもつ線維芽細胞様の細胞群であり、以下の特性を持つことが明ら かにされている。1)外科手術で廃棄される脂肪組織を利用できるので採材が容易かつ低コストであり、バ ンキングに有利である。2)脂肪組織を構成する細胞の約 80%を占める成熟脂肪細胞から作製されるため、

微量の脂肪組織から DFAT 細胞を大量調整することができる。3)単離した成熟脂肪細胞から取得されるの で均一な細胞群であり他の細胞が混入する危険性が殆どない。これらの DFAT 細胞の特性は、細胞移植治療 の臨床応用における高い安全性と有効性につながるだけでなく、細胞移植治療のメカニズム解析において も有用であると考えられる。本研究では、脊髄損傷モデルマウスの運動機能回復に及ぼす DFAT 細胞移植の 影響の詳細を明らかにすることを目的とした。

1.脊髄損傷後のマウスの運動機能回復と組織変化における評価系の確立

脊髄損傷モデル動物を用いた細胞移植治療に関する研究において、細胞移植に伴う運動機能回復は、細 胞移植後の再髄鞘化による髄鞘面積の増加や、グリア瘢痕の縮小などの損傷組織の変化によって評価され てきた。しかし、いずれの報告においても運動機能回復と損傷組織の変化が一致することを根拠として、

細胞移植の効果を示唆しているが、運動機能回復と組織変化の関連性を統計学的に評価した報告は少ない。

本研究では、脊髄損傷モデルマウスの運動機能回復とそれに伴う損傷組織の変化の相関性について検討し た。

マウスの第 10 胸髄を椎弓切除により露出し、脊髄損傷作製装置(Infinite Horizon Impactor、

60-kilodyne)を用いて圧迫挫滅し、脊髄損傷モデルを作製した。なお、圧迫挫滅しないものを対照区とし た。脊髄損傷 1、3、6、9 および 14 日後に Basso Mouse Scale(BMS)を用いてマウスの後肢の運動機能を 評価した。その後安楽死させたのち、脊髄を採取し直ちに固定した。固定した脊髄は定法に従ってパラフ

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ィン包埋し、脊髄損傷後の再髄鞘化の状況を正確に評価する目的で、横断面および矢状断面に 7μm で薄切 した。その後、HE 染色およびルクソール・ファスト青(LFB)染色による組織学的検索を行った。各断面に おける定量化は、横断面は損傷中心部位、矢状断面は、損傷部位の脊髄正中線上を評価するため、中心管 を通る組織標本を用いて行った。

脊髄損傷モデルマウスの BMS は、損傷後の日数の経過に伴い増加し、運動機能が回復した。組織学的検 索の結果、脊髄損傷後 1〜6 日の脊髄の中心部では出血痕や炎症が観察され、その後 9 日以降ではグリア瘢 痕が観察された。

LFB 陽性面積比(LFB 陽性面積/脊髄面積)は、横断面では損傷 1~3 日後において増加した。矢状断面に おける LFB 陽性面積比は日数の経過に伴い増加し、運動機能の回復と同様の変化を示した。

運動機能回復と再髄鞘化の関連性を調べるため、横断面および矢状断面それぞれの BMS と LFB 陽性面積 比の相関を調べた。その結果、両断面において、BMS と LFB 陽性面積比には有意な正の相関が認められ、運 動機能回復と相関することが示された。横断面および矢状断面の相関係数は、それぞれ 0.5336 および 0.8829 であり、矢状断面の方が BMS と強い相関をもつことが示された。以上のことから、脊髄損傷モデル マウスにおける再髄鞘化は、運動機能に相関し、矢状断面で作製した組織標本を用いる方が横断面に比べ て正確に評価できることが示された。

2.脊髄損傷モデルマウスの運動機能回復に及ぼす DFAT 細胞移植の影響

脊髄損傷モデルラットを用いた過去の報告において、DFAT 細胞移植は運動機能回復を促進することが報 告されている。しかし、移植した DFAT 細胞が再髄鞘化やグリア瘢痕の縮小に寄与するかは明らかでない。

そこで、DFAT 細胞移植がこれらの組織変化と運動機能回復に及ぼす影響と、それらの相関性を脊髄損傷モ デルマウスにおいて分析した。

上記1と同様の方法に従って、脊髄損傷モデルマウスを作製した。脊髄損傷 8 日後、Green Fluorescent Protein(GFP)トランスジェニックマウスの成熟脂肪細胞に由来する DFAT-GFP 細胞(1×105 cells/2μl)

を第 10 胸髄の損傷中心部に注入したマウスを DFAT 細胞区とした。なお、培養液(2μl)のみを注入した マウスを対照区とした。損傷 8(移植前)、9、11、14、17、22、29 および 36 日後に BMS を用いてマウスの 後肢の運動機能を評価した。損傷 36 日後、上記 1 と同様の方法を用いて脊髄を採取し、組織切片を作製し たのち、LFB 染色、免疫組織化学および HE 染色を行った。

脊髄損傷直後におけるマウスの後肢は完全麻痺を示したが、徐々に回復した。その後 DFAT 細胞区の BMS は、損傷 8 日後の細胞移植前に比べて損傷 14 日以降に有意に高い値を示し、損傷 36 日後のマウスの後肢 は接地させた足底へ体重をかけ胴体を持ち上げてステップすることができた。一方、対照区の BMS はいず れの日数においても有意差は認められず、損傷 36 日後においても接地させた足底への体重負荷は観察され なかった。損傷 36 日後の DFAT 細胞区の BMS スコアは、対照区に比べて有意に高い値を示した。

DFAT 細胞移植が運動機能回復を促進した要因を明らかにするため、損傷 36 日後の損傷部位を組織学的に 調べた。再髄鞘化を評価するため、LFB 染色、および免疫組織化学による抗ミエリン塩基性タンパク質(MBP)

抗体陽性の髄鞘の面積比(髄鞘面積/脊髄面積)をそれぞれ定量化した。その結果、LFB および MBP 陽性の髄

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鞘の面積比は、いずれも対照区に比べて DFAT 細胞区で有意に高かった。また、損傷 36 日後における BMS と LFB および MBP の相関性を調べると、いずれも有意な正の相関を示し、それぞれの相関係数は 0.8106 お よび 0.7937 とほぼ一致した。

損傷部位に形成したグリア瘢痕の大きさは、HE 染色による瘢痕の面積比(瘢痕面積/脊髄面積)を用いて評 価した。損傷 36 日後における瘢痕面積比は、対照区に比べて DFAT 細胞区で有意に低い値を示した。次い で、CD11b とコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの発現状況を免疫組織学的に調べた結果、いずれも対照 区に比べて DFAT 細胞区において発現が限局していた。また、炎症やアストログリオーシスの活性化に関連 する中心管の拡張は対照区よりも DFAT 細胞区で抑制された。瘢痕面積比と BMS の相関を調べた結果、有意 な負の相関を示した(r=-0.6414)。さらに、損傷 36 日後の BMS と再髄鞘化およびグリア瘢痕の各相関係 数を比較した。その結果、再髄鞘化の指標である LFB および MBP の相関係数はグリア瘢痕に比べていずれ も高い値を示した(BMS スコアと各面積比の相関係数:LFB 陽性面積 r=0.8106、MBP 陽性面積 r=0.7937、

瘢痕面積 r=-0.6414)。以上の結果から、脊髄損傷モデルマウスへの DFAT 細胞移植による運動機能回復 は、グリア瘢痕の縮小とともに、主に再髄鞘化によって促進されていることが示された。

3.脊髄損傷モデルマウスに移植した DFAT 細胞の動態

脊髄損傷モデルマウスの運動機能が回復する要因として、移植細胞の直接作用および間接作用が報告さ れている。直接作用とは、移植細胞が損傷した脊髄に生着し、神経系細胞へ分化することにより、直接的 に神経回路の再構築に寄与することである。間接作用とは、損傷脊髄における生着の有無に関わらず、移 植細胞が分泌した神経栄養因子が、内因性の再髄鞘化の促進や炎症などの二次損傷の抑制によるグリア瘢 痕の縮小に寄与することである。移植した DFAT 細胞が直接あるいは間接作用によって運動機能回復を促進 したのかを調べるため、移植した DFAT 細胞の動態を分析した。

動態分析のため、上記 2 における損傷 36 日後の脊髄損傷部位から種々の抗体を用いて免疫組織標本を作 製し、観察を行った。

損傷 36 日後の脊髄損傷部位において、移植した DFAT-GFP 細胞が観察された。脊髄内の DFAT-GFP 細胞は、

nestin、APC を発現していた。さらに、DFAT-GFP 細胞は、リング状の形態で MBP を発現するとともに、

neurofilament 陽性細胞を被鞘する形態を示した。これらのことから、損傷脊髄内に移植した DFAT-GFP 細 胞は髄鞘を形成するオリゴデンドロサイトへ分化することが示された。また、脊髄内の DFAT-GFP 細胞は βⅢtubulin(および neurofilament、GFAP を発現した。この結果は、脊髄損傷部位に移植した DFAT-GFP 細胞がニューロンおよびアストロサイトへと分化し、生着したことを示した。さらに、移植した DFAT-GFP 細胞は、脳由来神経栄養因子とグリア細胞由来神経栄養因子を発現することも示された。これらのことか ら、脊髄損傷モデルマウスに移植した DFAT 細胞は、直接および間接作用の両方の作用をもつ可能性が示さ れた。

脊髄損傷モデルマウスに移植された DFAT 細胞は、脊髄損傷部位におけるグリア瘢痕の縮小とともに、主 に再髄鞘化に寄与することにより運動機能の回復を促進することが明らかとなった。本研究によって、成

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熟脂肪細胞に由来する DFAT 細胞が脊髄損傷の細胞移植治療のドナー細胞として有用であることが示された。

参照

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