Ⅰ.はじめに
注射部位に生じることのある硬結は,患者自 身に違和感や苦痛をもたらすだけでなく,注射 を行う看護師にとって,エビデンスに基づいた 正確な注射実施の妨げや困難感の原因となって いる(高橋・菊池・三浦,2003).特にも筋肉 内注射(以下,筋注とする)後に生じる硬結の 影響は大きく,看護師は日々の業務の中で,硬 結していない他の注射部位を選択する努力をし ていること,注射可能な領域が少ないため困難
を抱えていること,患者が痛みや違和感などで 困っている様子に気付きながらも効果を実感で きるケアが無く苦悩していること(高橋・武田,
2015)などが示されており,筋注後硬結の発生 を防ぐことの方策の検討が必要である.
筋注に関する先行研究では,筋注用薬剤が皮 下組織に投与された場合の安全性の検討(武田,
2004)や筋注部位における血管や神経損傷のリ スク検討(佐藤・藤井・佐伯・新實・渡邉・小 澤・中野,2007)(佐藤・藤井・佐伯・新實・
抗エストロゲン薬筋注後に発生する硬結の特徴と看護師の対応
小向敦子 1) ,高橋有里 1) ,鈴木美代子 1) ,藤澤望 1) , 及川正広 2) ,武田利明 3)
Characteristics of induration after intramuscular injection of anti-estrogen and correspondence of nurses
Atsuko Komukai 1) ,Yuri Takahashi 1) ,Miyoko Suzuki 1) , Nozomi Fujisawa 1) ,Masahiro Oikawa 2) ,Toshiaki Takeda 3)
要 旨
抗エストロゲン薬であるフルベストラント筋注後に発生する硬結に対する予防的な看護ケアを検討するた め,硬結の特徴と看護師の対応について明らかにすることを目的とした.看護師を対象に質問紙調査を行っ た結果,硬結を経験した看護師は64.0%であり,硬結は1.0 ~ 2.0cmの大きさで,押してわかる深い位置で触 れ,治療期間中消失しないものが多かった.硬結を経験した看護師のうち,84.4%が「薬液注入のしにくさ」
等で困っており,59.4%が患者の困難に気付き痛みや違和感を伴う様子を確認していた.硬結に対し何らか の対応を行ったのは23.4%であった.内容は冷却やマッサージ等の「硬結への処置」,注射部位をずらす等の
「注射時の工夫」で,効果を確認できたのは12.0%であった.
フルベストラントによる硬結は,本薬剤を使用する期間継続して観察されており深部組織内での強い変化 が伺えた.多くの看護師は硬結に気付いても何もできず,対応を行った看護師もケアの効果を実感できてい なかった.また「注射部位をずらす」工夫を行うと同時に「正確な部位に施行しないと硬結が生じる」との 認識もあり,両殿部に注射しなければならない本薬剤投与の特徴から生じるジレンマを抱えていると考えら れた.
キーワード:筋肉内注射,硬結,フルベストラント,看護師の対応
受付日:令和 2 年 9 月 4 日 受理日:令和 2 年 11 月 20 日
1)岩手県立大学看護学部 Iwate Prefectural University, Faculty of Nursing
2)東北福祉大学 健康科学部 Tohoku Fukushi University,Faculty of Health Sciences
3)前岩手県立大学 看護学部 Iwate Prefectural University, Faculty of Nursing
篠田・小澤・中野,2009),筋注時の穿刺深度 の検討(菊池・高橋・小山・石田,2009)など があり,いずれも正しい部位・位置への筋注施 行の重要性が示されている.筋注後に生じる硬 結に関する先行研究では,持効性抗精神病剤 であるハロペリドールデカン酸エステル注射 液:ハロマンス®(以下、ハロペリドール)に おいて生じる硬結の本態について,薬剤に添加 されているゴマ油由来の油滴が大きく組織内に 残り,その周辺の炎症反応が長時間持続するこ と(高橋,2017)が明らかとなっている.その 硬結の本態を踏まえ,ハロペリドールにおい ては,硬結予防として投与部位の筋収縮運動 の介入が行われ,効果が示されている(高橋,
2019).一方,乳がん治療剤であるフルベスト ラント注射剤:フェソロデックス®(以下、フ ルベストラント)もハロペリドール同様にヒマ シ油が添加された油性製剤であり,硬結の発生 率は23.2%(アストラゼネカ株式会社:医薬品 インタビューフォーム,2020)と高い値を示し ている.フルベストラントは,ホルモン受容体 陽性乳がんの治療に用いられる薬剤の一つであ り,閉経後進行再発乳がんの二次ホルモン療法 剤として欧米諸国などで使用されており,日本 では2011年に4週毎500mgの投与が薬事承認さ れた(山下,2019).生命の危機的な内臓転移 がないままにホルモン療法の選択肢を失った症 例や,抗がん剤治療中に副作用の蓄積で治療継 続が困難になった症例にも効果が期待できると する報告(上徳・黒川・馬場・佐藤・渡邉・高 橋,2013)もあることから,乳がん患者にとっ て治療への望みを託すような位置付けであると 考える.フルベストラントに起因した硬結に関 する先行研究(原・篠崎,2017)では,硬結予 防のためのケアはほとんど実施されておらず,
わずかにマッサージが行われていたとされてい る.筋注後に行うマッサージの目的・効果には,
薬剤の吸収を促すことや痛みの軽減などがある とされているが,マッサージにより筋肉組織傷 害を引き起こすこともあるため,使用する薬剤 の特徴を十分に理解したうえで慎重に実施する 必要性が示されている(上野,2011).特に薬 剤を速やかに吸収させることを目的としない徐 放性注射剤においては,マッサージの必要性は エビデンスに乏しいことが指摘されており(上 野,2011),マッサージの方法によっては,本来,
筋肉内に封じ込めておきたい薬剤が皮下へ漏出
する可能性も考えられ,漏出した薬剤による組 織傷害が生じるリスクがあると考えられる.以 上のことから,フルベストラント筋注後の硬結 に対する,予防的看護介入の必要性は明らかで あり,ケア方法の確立が望まれる.
先に述べた通りフルベストラントは,ハロペ リドールと同じ油性製剤であるが、油の基材は 異なっている.ハロペリドールで効果が示され た投与部位の筋収縮運動は,フルベストラント でも同様に有用なのかを検討するため,基礎資 料として,まず,臨床で生じている硬結の特徴 を捉えること,看護師が行っているケアの現状 を把握することが必要と考えた.
なお,本研究における硬結とは,筋注後に注 射部位の組織が正常の状態とは異なり,硬化し た状態と定義し用いる.
Ⅱ.研究目的
抗エストロゲン薬であるフルベストラント筋 注後に認められる硬結に対する予防的な看護ケ アを検討するため,硬結発生の特徴と看護師の 対応と意識について明らかにする.
Ⅲ.研究方法 1.研究対象
東北地方の3県においてフルベストラント使 用実績のある医療機関に勤務する看護師.
2.データ収集期間
令和元年6月~令和元年10月 3.データ収集方法
東北地方3県の,フルベストラント使用実績 のある38施設の医療機関において,乳がんに罹 患し同薬による治療を受けている患者の看護経 験がある看護師に対し質問紙調査を実施した.
質問紙は医療機関の看護部門の長宛てに郵送 し,対象となる看護師への配布を依頼した.回 答後の回収は,返信用封筒を用いて個別に行っ た.
4.調査内容
注射部位に硬結ができた経験の有無,硬結の
大きさと形,どのように触れたか,腫脹・熱
感・発赤の有無,硬結に対する治療や処置,硬
結が継続して観察された期間について,患者の
様子,看護師として困ったこと,硬結に関する
特徴,工夫していることや考えについて調査を 行った.対象者の概要として,性別,年齢,看 護師経験年数を確認した.
5.分析方法
各項目の単純集計を実施した.自由記載項目 については,アフターコーディングを行い,集 計および内容分析を行った.
また,①硬結が継続して観察された期間,② 硬結ができたことで患者に困っている様子が あったか,③硬結が生じたことで困った経験が あったかのそれぞれについて,フルベストラン ト筋注時の工夫の有無との関連性をPearsonの カイ二乗検定を用いて分析を行った.
Ⅳ.倫理的配慮
本研究は,研究者が所属する機関の研究倫理 審査委員会の承認を得て実施した(承認番号 19-8).研究の趣旨,目的,方法,内容,倫理 的配慮,協力の可否による不利益が生じないこ と,回答は任意であることを明記し,質問紙の 回収をもって研究に同意を得たものとした.対 象者の情報は本研究のみに使用し,施設や個人 が特定されることがないよう,記号をつけて管 理することを説明した.調査で得られたデータ は鍵のかかる場所で厳重に保管し,研究終了後 は速やかに消去すること,研究結果は公表を予 定するが,その際に施設や個人が特定されるこ とは一切ないよう配慮を行うことを約束した.
Ⅴ.結果 1.対象者の概要
質問紙は374部郵送し,有効回答数は100部 であった(回収率26.7%).対象者は男性1名
(1.0%),女性99名(99.0%),平均年齢(標準偏差)
は45.3(SD10.5)歳,看護師としての平均経験 年数(標準偏差)は21.9(SD10.2)年であった.
100名のうち,硬結の経験があったのは64名で あった.
2.抗エストロゲン薬筋注後の硬結発生の特徴 看護師からは,それぞれ1例ずつ硬結発生事 例についての報告を求めた.事例について条件 設定などは行わなかった.硬結を経験した看護 師の回答64例を分析対象とした.
看護師がフルベストラント筋注後に発生を認 めた硬結の大きさは1.0 ~ 2.0cmが最も多く30 例(46.9%),次いで2.0 ~ 3.0cmで15例(23.4%)
であった(表1).形状は丸い形が最も多く33 例(51.6%),次いで楕円形で3例(4.7%)であっ た(表2).硬結がどのように触れたかについ ての質問では,「押してわかる位置で触れた」
18例(28.1%), 「深い位置で触れた」9例(14.1%)
など硬結が触れた位置についてと,「硬く触れ た」11例(17.2%), 「コロンと触れた」6例(9.4%)
など触れた際の印象についての回答などが得ら れた(表3).硬結に伴い以下の症状が見られ たか確認したところ,「腫脹」については,有 りが20例(31.3%),無しが43例(67.2%),不明 が1例(1.6%)であった.「熱感」については,
表1:フルベルトラント筋注後に発生した硬結の大きさ n=64
有りが9例(14.1%),無しが54例(84.4%),不 明が1例(1.5%)であった.「発赤」については,
有りが11例(17.2%),無しが52例(81.3%),不 明が1例(1.6%)であった.硬結がどのくら い継続して観察されたかについての質問では,
「治療期間はずっと」が最も多く17例(26.6%),
次いで「2か月」7例(10.9%),「1か月」5 例(7.8%)の順であった(表4).硬結を発見 した際の状況については,看護師によって発見 されたのは55例(86.0%),患者からの申し出 により発見されたのは2例(3.1%)であった(表 5).また,看護師が硬結の発見に至った経緯 については,腫脹や発赤などの視覚的情報から 気付いた例が7例(10.9%),注射部位選択時 などに看護師が触れることで気付いた例が55例
(86.0%)であった(表6).
3.抗エストロゲン薬筋注後の看護師の対応と 意識
フルベストラント筋注後に硬結ができたこと を経験した看護師64名のうち,硬結に対して 何か治療や処置を行ったという看護師は15名
(23.4%)で,46名(71.9%)は何もしなかったと 回答した.硬結に対して治療や処置を行った15 名からは,25件の具体的な実施内容があげられ,
「冷却」や「湿布貼付」「マッサージ」などの<
硬結そのものに対する処置>が9件(36.0%),
「注射位置をずらす」「ゆっくり注入する」な ど<注射施行時の工夫>が8件(32.0%).「経 過観察」「患者へ説明する」「医師に報告し指示 を仰ぐ」など<患者への配慮>が8件(32.0%)
であった(表7).これらの介入により,硬結 に対する効果を確認できたと回答したのは3例
(12.0%)であった.
硬結ができたことで“患者に困っている様子 があったか”の質問では,38名(59.4%)の看護 師が「困っていた」と回答した.患者の症状と して最も多かったのは「痛み」で24例(37.5%),
表3:フルベルトラント筋注後に発生した硬結に触れたときの様子 n=64
表2:フルベルトラント筋注後に発生した硬結の形 n=64
表4:フルベルトラント筋注後に発生した硬結が継続して観察された期間 n=64
表5:フルベルトラント筋注後に発生した硬結の発見者 n=64
表6:フルベルトラント筋注後に発生した硬結を発見した経緯 n=64 次いで「違和感」が20例(31.3%),その他「か
ゆみ」7例(10.9%), 「動かしにくさ」2例(3.1%),
「皮膚の変化」2例(3.1%)などが確認されて いた.
硬結ができたことで“看護師として困った経験 があったか”の質問では,54名(84.4%)の看護 師が「困った経験がある」と回答した.困った 内容として最も多かったのは「薬液が注入しに
くい」で30例(23.1%),次いで「硬結部位を 避けると他に適切な注射部位がない」が27例
(20.8%),その他「不安」19例(14.6%), 「怖い」
14例(10.7%),「ストレス」13例(10.0%)など があげられた.
硬結ができた事例や状況に共通する特徴につい
ては, 「痩せていると発生しやすい気がする」 「脂
肪が少ない方がなりやすい」など<患者の体型
に関すること>が10例(47.6%), 「正しい部位(位 置)や深さで実施しない」 「ゆっくり注入しない」
など<注射手技に関すること>が4例(19.0%),
その他「長期投与」「良く揉まない」などの特 徴があげられた.
硬結に関して工夫していることについては, 「注 射部位を変える」「正しい部位の選択」「ゆっく りと注入する」「深くしっかり刺入する」など
<硬結発生を防ぐための工夫>が60例(79.0%),
「薬液を温める・常温にする」「筋注後に穿刺部 を冷やす」など<筋注に伴う疼痛に対する工夫
>が8例(10.6%), 「実施前中後の説明や声掛け」
「患者の注意深い観察」など<その他(患者に 対する工夫)>が8例(10.4%)あげられた(表 8). また,①硬結が継続して観察された期間,②硬 結ができたことで患者に困っている様子があっ たか,③硬結が生じたことで困った経験があっ たかの3項目について,それぞれフルベストラ ント筋注時の工夫の有無との関連性を分析した ところ,①硬結が継続して観察された期間につ いては, 2か月未満と2か月以上の2群に分け て分析した結果,P=0.217(>0.05)にて有意差 なしとの結果となった.②“患者の困っている 様子があったか”の質問に対する回答との分析 では,P= 0.362(> 0.05)にて有意差なしとの 結果となった.③硬結が生じたことで“(看護 師自身が)困った経験があったか”の質問に対 する回答との分析では,P= 0.409(> 0.05)に て有意差なしとの結果となった(表9).
Ⅵ.考察 1.抗エストロゲン薬筋注後の硬結発生の特徴 筋注は,患者にとって身体的苦痛のみならず,
精神面でも恐怖や不安を感じやすい処置といえ る.特にも長期に渡り,一定間隔での筋注を継 続して行わなければならない場合,患者は治療 期間中断続的に経験する苦痛と直面することと なる.患者の苦痛を最小限に留めるためには,
副作用や合併症の発生が少なく,効果的な治療 が行われることが望ましい.また,副作用や合 併症はできるだけ早期に発見し,適切な対応や 注意深い経過観察が行われる必要がある.
本研究において,フルベストラント使用経験 のある看護師の6割以上が硬結を経験している ことは,それだけ患者に何らかの影響を及ぼし ていることが明らかとなった.報告されたフル ベストラントの筋注に起因する硬結の特徴は,
腫脹や熱感・発赤が生じていたものが少なく,
視覚的な認識ができない例が多かった.そのた
め,多くの看護師は,患者に触れることで初め
て硬結に気付いていた.硬結の多くは看護師が
発見していることから,筋注後も継続して,治
療経過とともに患者の状態を注意深く観察して
いることが伺えた.患者からの訴えで硬結の発
見に至った例は少なかったが,患者からは,硬
結発生に伴い「痛み」や「違和感」を感じてい
る様子がみられていた.患者からの申し出が少
ない点においては,その要因や背景を調査する
ことが今後の課題といえる.患者が硬結を自覚
表7:フルベルトラント筋注後に発生した硬結に対し行ったケア(複数回答) n=64
していた場合,「いつ気が付き」「どのように認 識しているか」を確認する必要性が考えられた.
患者はしばしば,看護師に対して遠慮する様子 がみられるが,そこには患者 ‐ 看護師間の信 頼度が関係しているとされている(関谷,2005).
仮に,患者が硬結の存在を早期に自覚していた にも関わらず,看護師に申し出ることを遠慮し ている場合,あるいは「仕方のないこと」「なっ て当たり前のこと」と捉えている場合,更には 硬結そのものに気付いていない場合において
も,治療内容とともに,硬結発生の可能性につ いての十分な説明と,患者が気兼ねなく治療に ついて語る機会を設けることが必要である.特 にも本薬剤による治療は,再発乳がん患者に とって治療への望みを託すような位置付けであ ることから,患者は「この治療が出来なくなっ てしまったら他に頼れる治療方法が無い」と いった不安を抱いている可能性がある.その点 も踏まえ,患者が副作用を自覚した際に申し出 やすい関係性を構築することも,看護師に求め 表8:フルベルトラント筋注における硬結に関して工夫していること(複数回答) n=64
表9:フルベルトラント筋注時の工夫と看護師の経験との関連
られる役割であると考える.
先述の通り,フルベストラントの硬結発生率 は23.2%と高い値が示され,使用上の注意とし て「硬結に至ることがあるので注射部位を毎 回変更するなどして十分に注意して投与する」
(アストラゼネカ株式会社:薬剤添付文書,2020)
ことが必要と書かれている.使用量,回数,方 法については,症状に合わせて医師が決めるこ とが前提であるが,通常,成人へ使用する場合,
初回・2週間後・4週間後・以降4週間ごとに フェソロデックス®筋注250mg を左右の殿部 に1筒ずつ,計500mg筋肉内投与を行う.つま り, 1筒の容量は5mLであることから, 1回で 左右両方の臀部に5mLずつ薬液が筋注される ことになる.同じ油性徐放性製剤であるハロペ リドールは,通常1回量50 ~ 150mgを4週間 間隔で筋肉内投与する」(ヤンセンファーマ株 式会社:薬剤添付文書,2020)としており,投 薬量や投与間隔は症状に応じて適宜増減ならび に間隔を調整するものとされているが,投与間 隔はフルベストラントと基本的に変わりないと いえる.しかしハロペリドール1筒は1mLで あり,基本的に筋注部位は1箇所のみで実施さ れる.薬液投与量が各5mLと多いことや筋注 施行が2箇所という点からみても,フルベスト ラントはより硬結になりやすいことが伺える.
本研究で確認された硬結は,1.0 ~ 2.0cmの 大きさが最も多く,次いで2.0 ~ 3.0cm,さら には3.0cm以上の硬結も確認されていた.そし て,硬結の触れる位置について,「押してよう やくわかる位置に触れた」「深い位置に触れた」
との回答が多く,硬結が継続して観察された期 間は「治療期間ずっと」 「2か月」の回答が多かっ た.これは先行研究(高橋・武田,2015)で示 されている,油性の持効性製剤は水性よりも大 きな硬結が生じやすく,軽減してもすっかり良 くならないとの結果と同様であり,油性製剤で 生じる硬結の特徴を示していると考えられた.
フルベストラント筋注に関する症例報告で は,硬結が生じてから縮小や治癒までに4ヵ 月を要したとする報告が複数ある(長島,2015)
(上徳他,2013)(磯貝・吉岡・山田・湯川,2019).
本研究においても,報告された硬結の多くは,
看護師が注射部位を選択する際に発見されてい ることから,前回投与において生じた硬結が次 回投与時も消失していないことがわかる.
以上のことから,フルベストラントによる硬
結は,視覚的に発見しづらく,多くは看護師が 筋注施行時に患者に触れることで発見している こと,患者が硬結発生に伴い「痛み」や「違和 感」を感じている様子がみられること,深い位 置でフルベストラントを用いた治療期間中継続 して観察されており,深部組織内での強い変化 が持続していることが特徴と考えられた.
2.抗エストロゲン薬筋注後の看護師の対応と 本研究において,フルベストラント筋注後に 意識 硬結ができたことを経験した看護師は,64.0%と 半数以上であった.その一方で,硬結に対して なんらかの治療や処置を行ったという看護師は 23.4%と少ない結果であった.その背景には,
なんらかの介入を行ったが,その効果を確認で きたと回答した看護師が16.0%と少なかったこ とが関連していると考える.高橋・武田(2015)
は,筋注製剤の先行研究において,看護師が硬 結に対してなんらかのケアを行っても確実な効 果を実感できておらず,苦悩していることを明 らかにした.本研究においても,硬結に対して 行ったケアのうち,<硬結そのものに対する処 置>は32.0%に留まり, 「次回の注射時にずらす・
ゆっくり注入する」や「硬結の経過観察」など 硬結そのものに働きかけるケアではないものが 多かった.また,硬結発生後に行った「冷却」
や「(薬液を)ゆっくり注入する」といった対 応は,筋注に伴う疼痛の緩和を目的とした場合 の効果は示されている(岩本・大川・山田,2006)
が,硬結そのものを消退させる効果は明らかと なっていない.このことから,看護師が硬結に 対して行っている処置は,硬結に伴う症状(疼 痛や熱感など)に対しては効果があるといえる が,硬結そのものに対する効果は明確ではなく,
一度発生してしまった硬結に対してなんらかの 処置を行っても確実な効果を実感できないこと を裏付けているといえる.看護師はその実態を 経験的に感じており,自信を持って積極的なケ アが行えていない状況が考えられた.
次に,硬結に伴う“患者の困っている様子”に
ついては,59.4%と半数以上の看護師が認識して
いることがわかった.フルベストラントの添付
文書に記載されている副作用のうち,内分泌方
既治療薬の閉経後乳がん患者を対象として実施
された国内第Ⅰ/Ⅱ相試験によると,対象症例
56例中38例に副作用がみられ,注射部位疼痛16
例(28.6%),注射部位硬結13例(23.2%),ほて り8例(14.3%),注射部位掻痒感6例(10.7%)
の順で多かったとされている.本研究において も,患者の様子として看護師が気づいていたの は「痛み」や「違和感」,「かゆみ」などが多く あげられている.本研究は,患者からの申告で はなく,看護師が患者の様子から認識した副作 用症状であるが,国内相試験と類似した傾向を 看護師が認識できていたといえる.
また,硬結を経験した看護師は,硬結が発生 する特徴について「痩せていると発生しやすい 気がする」「脂肪が少ない方がなりやすい」な ど<患者の体型に関すること>について多くあ げていた.更に,「正しい部位(位置)や深さ で実施しないこと」や「ゆっくり注入しないこ と」など<注射手技に関すること>によっても 硬結が発生しやすいことが複数あげられてい る.これは,看護師が日々の筋注施行時に,患 者の体形などから注射部位の選択や深度などを 解剖学的にアセスメントしている事の裏付けで あり,筋注施行時に患者の個別性に沿った判断・
考察をしていると考えられた.
本研究では,84.4%の看護師が硬結発生により
「困った経験がある」と回答しており,主な理 由は「薬液が注入しにくい」「硬結部位を避け ると他に適切な注射部位がない」などであっ た.先に述べた症例報告でも示されているよう に,硬結やそれに伴う皮膚ダメージは,治癒ま でに長期間を要するため,繰り返し筋注を受け なければならない患者の苦痛は大きいことが伺 える.また,看護師にとって,硬結が生じたこ とによる薬液注入のしにくさは注射施行そのも ののストレスのみならず,期待される治療効果 が得られないのではないかという怖さや不安が 付随するものと考えられた.特にも,フルベス トラントによる治療の位置付けから,患者が置 かれている状況を認識している看護師にとっ て,自分の注射手技が患者に与える影響を考え なければならないことは,大きな精神的負担と なっている可能性があるといえる.フルベスト ラントは,毎回両殿部に投与しなければならな いことから,一度硬結が生じてしまうと新たな 注射選択部位が限られてしまうことや, 1回投 与量が5mLと多いことから,正確に筋肉内に 投与しなければ組織傷害が生じるリスクがある ことなどが硬結予防をより難しくさせている.
看護師は,硬結が発生してしまった後の対処方
法として「注射部位をずらす」という工夫を行っ ていたが,同時に「正しい部位(位置)や深さ で施行しないと硬結が発生する」という認識も 持っていることから,本薬剤投与の特徴から生 じるジレンマを抱えていると考えられた.
また,フルベストラント筋注時の工夫の有無 は,看護師の経験に影響されているのではない かとの仮説から,関連について分析を行った が,いずれも有意差なしの結果であった.両群 間の関連性について統計的な有意性は明らかに ならなかったが,本研究で得られたデータの傾 向としては,硬結の発生に伴い,自身および患 者の困った経験をした看護師の方が,していな い看護師よりも筋注時の工夫を行っている数が 多かった.これは,看護師が硬結発生における 経験を踏まえて,硬結に対して何らかの工夫を 行っている可能性が推測される.
以上のことより,本研究において,看護師は フルベストラント筋注における副作用としての 硬結を認識し,患者の困難に気付き,なんらか の処置や対応を行っていたが効果は実感できて いないこと,硬結発生後の筋注において注射手 技などで工夫をしていること,硬結の特徴や硬 結発生に伴う看護師の経験と筋注時の工夫の有 無との関連性は明らかにならなかったが,本研 究では自身および患者の困った経験をした看護 師は筋注時の工夫を行っている可能性が推測さ れた.
また,硬結の特徴で述べた様に,フルベスト ラント筋注後に生じる硬結は,視覚的に発見し づらいため,多くは筋注施行時に看護師が発見 し,患者の困難に気付いても,効果があるケア を提供できていない現状は,筋注を施行する看 護師に多様な困難を生じさせていると考えられ た.しかし,自らの手技が患者の効果的な治療 に影響することの責任やストレスを抱えながら も,治療期間中患者を常に気遣っている状況は,
患者の治療に対する身体的・精神的負担軽減の
みならず,治療への前向きな参加に繋がる重要
な援助を看護師が行っていることを示したとい
える.一方で,硬結そのものに対しては,効果
的な看護ができていないことから,根拠に基づ
いた看護援助方法を確立することが今後の課題
である.そしてハロペリドールにおける先行研
究で硬結予防に効果が示されている「投与部位
の筋収縮運動」はフルベストラントによる硬結
に対しても同様に効果があるのか,また,硬結
によって生じる「痛み」や「違和感」に対する 効果的なケアは何なのかを明らかにする必要性 が示唆された.
Ⅶ.結論 フルベストラント筋注後に生じた硬結は,1.0
~ 2.0cmで押してわかる深い位置で触れ,治療 期間中ずっと継続して確認されており,これら は油性製剤で生じる硬結の特徴と考えられた.
また,視覚的に発見しづらく,多くは看護師が 筋注施行時に患者に触れてはじめて発見されて いること,患者が硬結発生に伴い「痛み」や「違 和感」を感じている様子がみられることもフル ベストラント筋注後に生じる硬結の特徴と考え られた.
看護師はフルベストラント筋注における副作 用としての硬結を認識し,患者の不快感に気付 いていた.しかし,なんらかの処置や対応を行っ たのは23.0%であり,硬結そのものへの効果が 明確ではない処置であったことから,多くは実 施した効果を確認できていなかった.また,硬 結が発生することは,患者や看護師に多様な困 難が生じることを経験的に理解しており,患者 の個別性に応じた注射実施や発生予防のための 工夫を行っていたが,こちらも明確な効果は確 認できていなかった.
硬結発生後に看護師は,「正確な部位への注 射施行」と「刺入部位をずらすこと」でのジレ ンマを抱えており,毎回,両殿部に筋注しなけ ればならない本薬剤投与の特徴による困難の大 きさが示唆された.また,硬結は,発生後長期 化する傾向にあり,患者や看護師に多様な困難 を生じさせていることから,硬結を発生させな い予防的看護介入の必要性があることが示唆さ れた.
謝辞 本研究の実施にあたり,お忙しい中ご協力く ださいました看護師様,および研究承諾をいた だいた施設の看護部長様に,心から感謝申し上 げます.
文献 ア ストラゼネカ株式会社(2020):医薬品イン タビューフォーム フェソロデックス®筋注 250mg(第7版).
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Abstract
The present study was conducted to clarify the characteristics of induration after intramuscular injection of fulvestrant, an anti-estrogen agent, based on a questionnaire survey of nurses in order to devise suitable preventive measures. The survey revealed that 64.0% of the nurses had experienced such induration in patients. The induration had varied in size from 1.0 to 2.0 cm, was deeply seated when pressed, and did not disappear during the treatment period. Among the nurses who had experienced induration, 84.4% expressed concern about lack of a suitable injection site, and 59.4% were aware that the patient was experiencing pain and discomfort as a result. Among the cases of induration, 23.4% responded to treatment such as cooling and massage, or a change in the injection site. The effect was confirmed in 12.0% of cases. Since induration persisted during the period of drug use, it was considered that marked change had occurred in the deep tissue. Many nurses were unable to do anything to alleviate the induration, or were unable to observe any effect of care. Although there was a common recognition that use of a different injection site was necessary, there was also a consensus that if the injection site was not appropriate, then induration would occur, thus representing a dilemma due to the characteristics of the drug administration method.