【実践報告】久留米大学教職課程年報 2019, 第 3 号, 3-12.
LTD 基盤型研修プログラムの実践と効果
− 教員免許更新講習での試み −
須藤 文 ・ 安永 悟
(久留米大学 非常勤講師) (久留米大学 文学部)
【キーワード】LTD 話し合い学習法, 協同学習, 教員免許更新講習, アクティブラーニング
1. 問題と目的
協同学習に依拠した LTD 話し合い学習法(安永・須藤, 2014:Learning Through Discussion、
以下 LTD と略す)は、論理的な言語技術(看・聞・読・話・書)や思考能力の育成にとって理想 的な学習法であり、コミュニケーション能力やディスカッション能力を磨く効果的な訓練法で ある。近年その有効性と汎用性の高さが認められ、高等教育の専門性を超えて、徐々に広がり を見せている(安永,印刷中)。
この LTD を中核に組み込んだ授業開発の枠組みとして図1に示す「LTD 基盤型授業モデル
1」 がある(安永, 2017, 2018, 印刷中; 安永・須藤,2018)。本モデルは「LTD を学ぶ」基礎段 階と「LTD で学ぶ」応用段階で構成されている。基礎段階では、基本的な技法を体系的・重層 的に導入し、くり返し訓練する(図1の LTD コアパッケージ)。そのなかで協同学習の考え方 を体験的に理解させ、最後に LTD を伝える。一方、応用段階では基礎段階で培った協同学習の 考え方と技法に基づく LTD が、高等教育のあらゆる場面で活用できることを示している。学内 における講義や演習はもちろんのこと、学内外における実験・実習や体験型学習など、学問領 域や授業内容、授業形態を問わず活用できる。基礎段階で獲得された協同学習の考え方と LTD を含む協同学習の技法により、学習活動は活発になり、大きな授業成果を期待できる。
この LTD 基盤型授業モデルに依拠した実践例が報告されている。まず、安永・須藤・松永・
徳田(2014)は本モデルに沿って初年次教育科目 である「教養演習Ⅰ」(1 年次前期 15 コマ)を展 開している。本科目は、新入生の大学生活への円 滑な移行を援助することを目的とした。なかでも 主体的かつ能動的な学習法を身につけること、論 理的な言語技術を獲得し、対話力と文章作成能力 を向上させることが目標であった。授業実践の結 果、授業開始時から2か月の間に、批判的思考態
1
図中の RR は「ラウンドロビン」 、TPS は「シンク=ペア=シェア」 、PBL は「PBL テュートリア ル(問題基盤型学習法) 」 、TBL は「チーム基盤型学習」を表す。
傾聴 ミラー
リング
特派員
LTD RRジグソー
TPS
(LTDを学ぶ段階)
LTDコアパッケージ
基礎段階
臨地実習 現場
・社会
PBL
・TBL 実験
・実習 討論
・講義
(⽂章作成)
応⽤段階
(LTDで学ぶ段階)
協同学習の理論・協同の精神
図1.LTD基盤型授業モデル
度や協同の認識、ディスカッション・スキルなどに対する自己認識の向上が認められている。
また、須藤・安永(2014)は看護学生(1 年次前期 15 コマ)を対象に LTD コアパッケージ に沿って LTD を導入し、論理的な言語技術の基礎づくりをおこなった(基礎段階)。この第 1 段階を前提に、第 2 段階ではディベートを用いて論理の組み立て方と相手を説得する討論力の 育成を、そして第 3 段階ではエッセイの作成を通して文章作成力の向上をめざした(応用段 階)。その結果、論理的な言語技術が向上し、仲間との人間関係が改善した。また、授業で作 成したエッセイ 2 編が全国コンテストに入選している。
さらに、須藤・安永(2017)は LTD 基盤型授業モデルにそって教職科目「討議法」(3 年次 後期 15 コマ)を実践している。教員採用試験において課される集団討論や面接、小論文に対 応できるだけの論理的な言語技術を獲得させることが目的であった。第 1−2 講では協同学習の 理論を、第 3−6 講では LTD を用いた読解を指導した(基礎段階)。その後、第 7−13 講は LTD 過程プランを活用した集団討論を、第 14−15 講では LTD 過程プランを活用した小論文の指導を おこなった(応用段階)。この授業を通して、協同学習の基本的な理論を理解でき、文章作成 や討論に LTD を活かせた。また、授業時間外で実施した模擬授業において、協同学習の代表的 な技法を実践で活用することも確かめられた。
長田(印刷中)は、医療教育の領域で広く導入されている PBL テュートリアル(問題基盤型 学習、以後 PBL と略す)の改善に向け、LTD を活用した授業づくりを試みている。彼の実践は LTD 基盤型授業モデルの枠組みで理解できる。つまり、本モデルの基礎段階にそって LTD を伝 えたあと、応用段階として PBL を展開している。その結果、学習成績が従来の PBL と比較して 向上することが認められている。
LTD 基盤型授業モデルは学内の授業科目のみならず、学外における実習においてもその有効 性が示されている(石田, 2015;野上・山田・野中・田中・中村, 2016)。安永(2011)は学 外実習を前提とした授業科目「心理インターンシップ」(3 年次通年科目)を展開している。
本科目においては 2 週間の現場実習がメインとなるが、それ以上に、事前指導と事後指導に力 を入れている。事前指導が LTD 基盤型授業モデルの基礎段階に、実習と事後指導が応用段階に あたる。基礎段階で協同学習の理論と技法を獲得できている学生たちは実習先でも高い評価を 受けることが知られており(宇治田, 2015)、「心理インターンシップ」でも大きな成果が報 告されている。
このように、高等教育の学生を対象とした授業科目を LTD 基盤型授業モデルに沿って計画・
実践することにより、大きな成果をえられることが報告されている。そこで問題となるのが、
LTD 基盤型授業モデルに沿って授業を計画・実践できる教師の育成である。本報告では、その ような教師の育成を目的とした研修会を紹介し、その有効性を協同に関する認識とグループ学 習に対するイメージの変化、および参加者の事後アンケートを参考に検討する。
今回対象とした研修は LTD 基盤型授業モデルに依拠した教員免許更新講習である。改正教育
職員免許法の成立により 2009 年 4 月 1 日から教員免許更新制が導入された。その目的は「そ
の時々で求められる教員として必要な資質能力が保持されるよう、定期的に最新の知識技能を
身に付けることで、教員が自信と誇りを持って教壇に立ち、社会の尊敬と信頼を得ることを目
指すものである」(文部科学省,2007)。主体的・対話的で深い学び(以下、アクティブラー
ニングと略す)の実践が求められている現在の学校教育において、アクティブラーニングの基
盤となる協同学習の理論と技法を理解した教師の育成は解決すべき喫緊の課題である。この意 味において、本講習は教員免許更新制の趣旨にかなう試みと理解できる。
2. LTD 基盤型授業モデルに依拠した教員免許更新講習の概要
本報告で取り上げる教員免許更新講習は、2018 年 8 月 1 日〜3 日に、久留米大学で開講した 全 12 コマ(4 コマ×3 日間、1 コマ 90 分)の講習である。本講習は選択科目であり、講習のテ ーマは「協同学習による授業づくり」であった。以下、本講習の基本情報を述べる。
(1) 講習目的 三日間にわたる講習の目的は「①協同を基盤とした教育実践力を養う」と「② 活動性の高い授業を実践できる」の 2 点であった。この講習目的は「自他の変化成長を実感で きる授業づくりを同僚と共に楽しむ」という講師が抱く「ねがい」と共に、講習の冒頭、受講 者と共有・確認した。
(2) 参加者 受講者は小学校、中学校、高等学校の教師が大半を占め、一般の会社に所属する 受講者が 1 名、現在所属のない受講者が 2 名いた。年齢は、30 代 23 名、40 代 8 名、50 代 29 名、計 60 名(女性 41 名,男性 19 名)であった。
講師は本研究の著者二人であった。第一著者が実践的な側面を中心に、第二著者が理論的な 側面を中心に、互いの持ち味を活かしながら、進行とファシリテーターを交代で務めた。
(3) グループ編成 できるだけ異質なグループになるように、男女・年齢・学校種を考慮した 4 人グループを 15 グループ編成した。講習の二日目にグループを再編した。
(4) 使用教材 本講習ではテキストとして「LTD 話し合い学習法」(安永・須藤, 2014)を採 用した。また、必要に応じて、資料や学習プリントを作成し、使用した。
なお、本講習では独自に作成したスライド資料を多用した。スライドは二種類あり、一つが 講習内容の理解を促す「説明スライド」であり、一つが活動を明示する「指示スライド」であ った。指示スライドのなかには授業内容を仲間と確認する「確認タイム」と授業内容に基づき 議論を深める「検討タイム」が含まれていた。両者とも、協同学習の基本構造である「課題明 示・個人思考・集団思考」に沿った構成となっていた。
(5) 基本構成と展開法 本講習は「LTD 基盤型授業モデル」を中核に、現場で活用できる具体 的な内容を織り込んだ構成とした。具体的な授業の展開方法として、安永(2012)が提案してい る「対話中心授業」の流れに沿って、上記のスライドを映写しながら展開した。なお、対話中 心授業は協同学習の基本的な理論と技法に裏打ちされた「個人思考・集団思考・クラス対話」
の流れを基本とした授業展開をいう。
3.講習内容と展開
三日間にわたる講習の内容と展開を表 1 に示す。表 1 に沿って講習の流れを次にまとめる。
≪一日目≫「1.導入・講習内容」 まず、本講習三日間の目的と内容を伝えた。その際、講習 の目的だけでなく、目的に至るまでの学習ステップも明示し、受講者と共有した。これは協同 学習で重視している「単元見通し」を意識した構成であった(杉江, 2004)。また、講習の進 め方や主な使用教材についても簡単に説明した。
「2.仲間づくりと基本技法」 次に、学びの場づくりをおこなった。初めて出会った者同士が、
いきなりグループになって話し合うことは難しい。そこで、異質集団を強調したグループ編成
の考え方や座席の配置の仕方を伝えたあと、自己紹介による仲間づくりをおこなった。自己紹
介の内容は「姓名(漢字・由来)、出身・お国自慢、いまの体調・気分」の三点であった。そ の際、メモは取らずに、傾聴することを指示した。
「3.基本技能のアレンジ」 協同学習の観点から、上記の自己紹介による仲間づくりに込め られた創意工夫、すなわち、話し合いの基本スキルである「傾聴」と「ミラーリング」、協同 学習の基本構造である「課題明示・個人思考・集団思考」を伝えた。これら重要な概念につい ては「確認タイム」を設定し、理解したことを自分の言葉で表現し、グループで話し合うこと により、その場で理解を深められるようにした。その際、「確認タイム」が協同学習の基本技
表1.教員免許更新講習(三日間)の内容と展開、キーワードと技法 (注、技法は「 」で示す)
講習の内容と展開 講習のキーワードと「技法」
1日目 1. 導入・講習内容 講習の内容、進め方、教材、単元見通し 2. 仲間づくりと基本技法
(1) グループ編成・環境整備 異質集団、4人グループ、座席配置 (2) アイスブレイク 協同による自己紹介
3. 基本技法のアレンジ
(1) 学習の基本技法 「傾聴・ミラーリング」「シンク=ペア=シェア」「ランドロビン」
協同学習の基本構造(課題明示・個人思考・集団思考)
(2) 技法のアレンジ 「シンク=ライト=ペア=シェア」「ライト=ペア=スイッチ」「特派員」
4. 看図アプローチ
(1) 看図作文 非連続型テキスト(絵図)をつかった作文指導 (2) 看図アプローチ 協同学習ツール
(3) 体験・絵図「ふろしき」 「要素抽出・関連づけ・外挿」「学びの出会い」
5. これからの教育
(1) 求められる人材 社会人基礎力、学士力、生きる力、現場で活躍できる人材、人間尊重社会 協同実践、協同の精神、科学的探究
(2) 方法としてのAL アクティブラーニングの実践的・理論的定義、協同学習の技法と理論 (1日目の授業の振り返り) 授業記録紙
2日目 6. 前日の振り返り
(1) あいさつ・授業通信 傾聴、仲間への関心、一日の見通し 7. 協同学習の基本理論
(1) 協同学習の定義と特徴 認知と態度の同時学習、意図的な計画、公平な取組、意味ある学習 協同の学習観、社会に開かれた学び
(2) 協同の精神と意義 協同の精神、社会的手抜き、基本的信頼感、支持的・協同的風土 (3) 協同・競争・個別 協同を前提とした競争・個別、グループ間競争、切磋琢磨 8. 協同学習の基本要素
(1) ジョンソンの5要素 肯定的相互依存、促進的相互交流、個人の二つの責任、
集団スキルの促進、活動の評価、「ジグソー学習法」
(2) ケーガンの4要素 参加の平等性、活動の同時性 (グループ再編)
9. LTD話し合い学習法
(1) LTDの基礎 LTDの理念・目的、LTD過程プラン、
(2) 予習とミーティングの方法 知識との関連づけ、自己との関連づけ、「ジグソー学習法」
10. LTDの体験的理解
(1) 分割型LTD 役割分担、活動の見通し、主観と客観の区別
三色ボールペンの活用、論理的な文章構成とLTD過程プラン (2日目の授業の振り返り) 授業記録紙
3日目 11. 前日の振り返り
(1) あいさつ・授業通信 傾聴、仲間への関心、一日の見通し 12. LTDの実践例・小学校モデル
(1) 分割型LTD LTDの45分授業への応用例、PISA型読解力の育成 (2) 小5国語科での実践 国語科・説明文の単元での実践
(3) 学習成果 認知面(学力)、態度面(QUテスト)
13. LTD基盤型授業モデル
(1) 活動性の高い授業 対話中心授業、教授学習ユニット
(2) 学習技法の導入活用法 技法の体系的・重層的活用、LTDコアパッケージ 14. 授業づくりと効果
(1) LTD基盤型授業の成果 高等教育の実践成果
15. 講習全体の振り返り 「まずは仲間から(仲間が一番)」