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の合併症を起こしたことが分かりました そのなかで一番多かったのは肺炎です 合併症を起こした子どもの約半数が肺炎になりました また 発病者の40% 以上が入院し 9 人の子ども達が脳炎になり いまだに後遺症で苦しんでいる子どももいます 2007 年度の麻しん流行においては 子どもたちよりも10 代 2

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 したがって、体内で増えるけれども症状が出ない、無症候性の病原体保有者というケー スもあります。

2 麻しん、風疹、水痘、流行性耳下腺炎について

(1)麻しん

 麻しんは、麻しんウイルスというウイルスによってひき起こされる感染症です。麻しん は、前述した空気感染、飛沫感染、接触感染とさまざまな感染経路を示し、その感染力は きわめて強いのが特徴です。比較するのは難しいですが、麻しんの感染力は、あらゆる感 染症の中で一番強いといえるかもしれません。  まったく免疫のない集団の中に一人発病者がでた場合、その人が何人に感染させる可能 性があるかという計算があります。(感染効率といいます。)麻しんは約15 〜 20人に感染 させるといわれています。毎年流行するインフルエンザでも、感染効率は、実はせいぜい 1人か2人です。それに比べると麻しんの感染効率は非常に高いことがわかります。  麻しんのウイルスに免疫を持たない人が、このウイルスに曝露感染した場合、すぐに発 病はせず、10日間前後の潜伏期間を経て発病します。これがインフルエンザやノロウイル スとの大きな違いです。例えば、保育所で1人だけ患者が出た時、スタッフは不安を感じ ながらも、翌日もその翌日も患者が出ないために安心してしまいます。しかし、10日ほど が過ぎて忘れた頃に5、6人まとめて患者が出る、つまり忘れたころに他の人が発病すると いうのが麻しんの特徴です。  麻しんの合併症には肺炎、脳炎、中耳炎、グループ症候群、SSPEなどがあります。 2000年に大阪で麻しんの調査を行ったところ、大阪では推定で9,000人、子どもたちを中 心に麻しんの患者さんが出ました。合併症発症率は32.6%で、つまり10人中3人が何らか 図2

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の合併症を起こしたことが分かりました。そのなかで一番多かったのは肺炎です。合併症 を起こした子どもの約半数が肺炎になりました。また、発病者の40%以上が入院し、9人 の子ども達が脳炎になり、いまだに後遺症で苦しんでいる子どももいます。  2007年度の麻しん流行においては、子どもたちよりも10代、20代の人の脳炎が多く報告 されました。先進国では致死率は低下していますが、合併症発症率・入院率は高く、日本 においても同様であり、いまなお重篤な病気であることに変わりはありません。  また、よく受ける質問に、「麻しんは子どものうちにかかったほうが軽くすむのです か?大人になってからの麻しんは重症化するのですか?」というものがあります。私は、 「子どもであろうと大人であろうと、重症化します」とお答えしています。年齢による違 いはありません。  確かに大人が麻しんにかかった場合に入院する率は高いのですが、1998年に沖縄で麻し んの流行があった際には、子どもばかりが約10人、麻しんにかかり結果的には亡くなりま した。0歳〜 2歳の子どもが中心でしたが、肺炎で亡くなった子どもが一番多く、次に多 かったのが脳炎でした。麻しんでは、やはり大人よりも子どもが多く亡くなっています。  なお、当然のことながら、大人であっても症状は軽くはありません。特に妊娠している 女性がかかると、まずお母さんの命に危険が及びます。また、流産、死産、早産の危険性 が高くなります。一方、風疹の場合は、先天性風疹症候群と呼ばれる奇形を持った子ども が産まれる可能性がありますが、麻しんにおいては、そういった可能性は低いです。  麻しんには、麻しんワクチンが非常に高い効果があり、その有効性は95%以上です。こ れ以上効果の高いワクチンは他のワクチンでもあまりありません。  10代、20代で発病する人の中に、ワクチンを1回接種したにもかかわらず免疫がつかな 図3

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 現在は、日本でも2006年から接種回数が2回になりました。韓国に遅れること10年、ア メリカに遅れること20年です。  麻疹のワクチンの副反応というのは、多くは発熱です。しかし、これは弱毒化された麻 疹のウイルスが体に入ったために起こる反応なので、ワクチン反応と呼んでもいいかもし れません。このように軽く麻しんにかかることによって免疫がつくのです。20 〜 30%の 方が発熱し、約10%の人に発疹が出ます。副反応における脳炎発症というのは100 〜 150 万接種に1例といわれていますが、実際はもっと低いと考えられます。  実際に麻しんにかかると500 〜 1,000に1人が脳炎になります。麻しんの感染時の合併症 は先進国でも約30%、また日本における脳炎あるいは死亡する確率は1,000人に1 〜 2人で す。有効な治療法はなく、唯一の医学的対抗手段はワクチン接種です。  上記の図は臨床経過を示している図ですが、麻しんは、潜伏期、カタル期、発疹期、回 復期の4つに病期が分かれます。  潜伏期は感染してから発病するまでの期間を指します。問題となるのは、次のカタル期 です。発疹はカタル期には、ほとんど出ませんが、コプリック斑とよばれるものが口内に できます。大臼歯の反対側、頬の内側に赤いプツプツができるのですが、それをコプリッ ク斑といいます。小児科の先生は、そのコプリック斑を見て麻しんであることの診断をし ますが、コプリック斑を見たことがない先生であれば見落としてしまいます。したがって、 カタル期における平均3日間は麻しんだと気づかれずに過ごしてしまうことが多いのです。  この他には、目やに、鼻水、くしゃみ、の症状が出ますが、これは麻しんの特徴的な症 状とはいいがたいものです。しかし、ウイルス排出のグラフが示しているとおり、ウイル スが最も排出されるのはカタル期の末期です。つまり、非常に感染しやすい時期というこ 図4

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とです。  カタル期の次の段階である発疹期に入り、発疹を見て麻しんだと気がついたときは、既 にある程度の日数が経っていることになります。  熱が出始めるカタル期の1日前(潜伏期末期)から感染性はあるといわれています。例 えば、保育所で「あの子が麻しんだ」と分かるまでに5日くらいかかるのです。そしてそ の子どもが毎日通園するとして、仮に火曜日に熱が出たとすると、その1日前の月曜日か ら木曜日までの4日間が感染可能期間となります。金曜日に発疹が出て、病院に連れてい き麻しんだと診断された場合、保育所に連絡があるのがおそらく土曜日となります。そう すると月曜日から金曜日まで5日もたっていることになります。麻しんは、感染後72時間 以内にワクチンを打てば発病を防ぐことができる可能性があるとされていますが、5日た つとワクチンを接種しても間に合いません。  麻しんの特徴であるコプリック斑をより早く見つければ良いですが、なかなかそういう わけにいきません。コプリック斑に気づかない場合、カタル期に麻しんと診断することは 困難なため、周囲に感染拡大させてしまう場合が多くあります。  特に10代、20代の人が麻しんに感染した場合、少々熱があっても仕事に行く、遊びに行 く、あるいは旅行に行くため、広範囲に感染を広げてしまう可能性が高くなります。もし、 保育士が麻しんだった場合、たくさんの人、子どもたちに麻しんのウイルスを感染させて しまうことにつながりますので、慎重に対応していただきたいと思います。  特に周囲で流行している場合や、保育所内で麻しんの患者さんが出た場合は、十分に注意を してください。感染症情報センターのホームページ(http://idsc.nih.go.jp/index-j.html)に は、その場合の対応についても載っていますので、ご覧下さい。 『麻しん』感染症発生動向調査  2007年の麻しんの発生動向調査について説明をします。全国3000カ所の小児科医院から の報告です。基本的に届出の対象は14歳以下の子どもたちです。  図5は、1997 〜 2007年までのグラフを重ねていて、横軸が1年間を週割りしたものです。 第1週〜 53週。それから縦軸が1件のお医者さんに、全国平均で1週間に何人の患者さんが 来たかをあらわしています。  2007年の麻しんはグラフにもあるとおり、過去の2001年の流行や、例えば1997年、2000 年、2002年の流行などに比べて、非常に少ないですが、2004年、2005年、2006年の過去3 年に比べると多くなっています。2001年の大流行のあとで全国に「1歳の子どもたちに麻 しんのワクチンをプレゼントしよう」というキャンペーンが始まり、急速に流行が治まっ てきましたが、2007年は過去3年に比べるとずっと多い発病者数になっています。

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 図6は年齢別グラフです。0歳の子どもたちの割合はあまり変わっていません。0歳児の 大半はワクチンを接種していません。感染機会が増えて、その分だけ患者発生数も増えて います。  違うのは1 〜 5歳児の割合が、例年に比べると非常に少ないことです。例年であれば5歳 以下の子どもたちというのが60 〜 70%を占めていたのですが、平成19年には、40%を 切っています。これは明らかにワクチン接種率が上がっている効果です。1歳でのワクチ ン接種率が上がっているので1歳から5歳まではワクチンによって守られているということ 図5 図6

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になります。  逆に、ワクチンを接種してから長い年月がたっている10 〜 14歳が、例年に比べると ずっと多いことが分かります。 『成人麻しん』の感染症発生動向調査  次に、保育士に非常に深く関係がある成人麻しんのことにふれます。成人麻しんは1999 年の4月から調査が開始されましたが、下記グラフが示すとおり患者発生数が過去最高を 更新中です(2007年6月時点)。  しかし、先程の小児科医療機関の3000 ヶ所という定点数に比べると、成人麻しんの基幹 定点は450 ヶ所しかなく、非常に少ない数であるため、推計値を出すことは困難です。例 えば450 ヶ所から何人の患者さんが出ているので、推計で全国で何人の発病者がいる、と いうことはいえません。しかし、例年と比べた場合、非常に多いことは事実です。2001年 の流行の時の数字も超えています。  過去の麻しんの流行における成人麻しんの発病者数は、子どもの麻しんの10分の1程度 であるといわれています。したがって、流行規模そのものは、約30万人が発病したといわ れている2001年の大流行のほうがはるかに大きいといえます。2007年において、このよう になっているのは、2001年の流行時の10分の1にあたる、2 〜 3万人が大人の麻しん患者で あるという理由からです。これは調査開始以来、最大値を更新しています。 図7

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 次は年齢別グラフです。2007年6月現在、麻しんの患者さんは20代前半が最も多く、次 が20代後半です。  では、その理由は何でしょうか。実は、1978年に麻しんのワクチンは定期予防接種とし て公費負担化されことがあります。そのときの1歳児が現在の30歳です。したがって、今 の30歳以下の人は大半がワクチンを1回受けていることになります。しかも、その世代に おいては、麻しんが大きく流行することはなくなっていました。  一方、現在の30代前半の年齢の人は、麻しんにかかるのが普通でした。あるいは、ワク チンを接種している人と、そうでない人が混ざっているという状況です。それは、麻しん のワクチンが定期予防接種化されたとき、今の30代前半は当時2歳〜 5歳だったためです。 30歳以下の人については、同世代の人が全員、普通にワクチンを受けている世代で、大半 がワクチン1回接種の人です。こうした30歳以下のワクチン1回接種の人が麻しんの自然感 染を受ける機会もないまま、ワクチン接種から長い年月がたってしまったことが、現在20 歳前半を中心に発病者が出ている理由です。  20代の患者さんの報告数が全体の約半数以上を占め、15歳から20代後半までで全数報告 の約8割、30代前半までを入れると9割を超えます。  麻しん流行のニュースが流れた際、50歳以上、特に70歳、80歳の人から、「不安です」 との声が寄せられますが「60歳以上の人はだれも発病したという報告はないから安心で す」とお伝えしました。その世代の人が子どものときにはワクチンなどなかったため、ほ とんどの人は麻しんにかかっているはずだからです。  基幹定点からの成人麻しんの報告では、報告地域及び南関東地域を含めた報告数はとも に増加傾向が続いています。第21週の報告数は、1999年の調査開始以降では最高値となり ました。この関東地域における麻しんの流行の特徴は、10代、20代での患者発生数が増加 図8

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していることによるものです。  麻しんは春から夏にかけて流行する感染症であり、その流行のピークは日本では5月中 となることが多いのですが、2007年の流行では5月下旬になってもまだ報告数の減少が見 られませんでした。 ワクチン接種の奨め  2007年の麻しんの流行の理由には、先程もお話しました1978年の麻しんワクチンの定期 予防接種化以降に幼児期を迎え、麻しんワクチンを1回接種している10代〜 20代における 麻しん発生数の増加が大きく関与しているものと考えられます。  したがって、10代〜 20代の保育士で、いまだに麻しんにかかったことがなくて、ワクチ ンも接種したことがない人がいたら早期にワクチンを接種してください。  また、ワクチンを既に接種した人のごく一部(20人に1人程度)が免疫未獲得者といわ れています。むかしは、こういう人は麻しんの流行時に麻しんにかかっていましたが、最 近の免疫未獲得者には流行がほとんどなかったために、麻しんにかからず過ごしてきてい るという状況があります。加えて、ワクチンを1回接種して免疫も獲得できた人でも、麻 しんのウイルスの曝露感染機会(発病にいたらないまでにも感染する機会)が激減してい ることにより、感染によって免疫力を維持する機会がないのです。この状況は、実は日本 だけではなく過去にアメリカや韓国でも見られ、特異的な現象ではありません。1回接種 の人が非常に増え、しかも麻しんそのものの流行が非常に減った場合には起こる現象です。  2007年の傾向は少し違いますが、2001年の大流行も、あるいはそれ以外の過去の大流行 も、やはり流行の中心は1歳児でした。したがって、過去にわが国において見られたよう な麻しんの大流行を防ぐためには、1歳早期における麻しんワクチン接種率を高く維持し なければなりません。1歳の子ども達における麻しんワクチンの接種率が下がると、麻し んが大流行します。ワクチンを接種していない1歳児は麻しんに一番かかりやすいので、1 歳になったらすぐにワクチンを接種するように勧奨してください。  なお、なぜ0歳児で接種しないのかと思われるかもしれません。これは難しい話ですが、 産まれてきた赤ちゃんには、お母さんからもらった抗体があります。これを移行抗体とい いますが、この移行抗体の中には、麻しんの抗体も含まれています(お母さんが麻しんの 抗体を持っていない場合と一部の例外を除く)。この抗体によって産まれてすぐの赤ちゃ んは麻しんにかかりません。そのため、0歳児に麻しんのワクチンを接種しても、お母さ んからもらった抗体が邪魔をして麻しんのワクチン由来のウイルスが体の中で増えないた め、免疫はつきません。お母さんからもらった抗体が100%完全になくなるのが1歳である という理由から、1歳でワクチンを接種するように指導されています。しかし、大半の子 どもたちは生後9か月で抗体がなくなってしまいます。また、最近では多くの子どもたち

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児には絶対に免疫が無いので、1歳になったらすぐにワクチンを打つことが必要だという ことです。  麻しんワクチン既接種者の多くが1回接種である現状が続くかぎり、今回の流行が治 まったとしても今後再び同じようなことが繰り返されるだろうと思われます。この1回接 種の人についても対策が必要です。それには1回接種の人達が全員、2度目のワクチンを接 種することが最も効果的な方法ですが、それを推奨したことにより1歳児用のワクチンが 足らない事態にでもなったら、それはそれで大変なことです。別の方法としては、ワクチ ンを接種したことがない人、麻しんにかかったことがない人を最優先にワクチンを接種す るという方法です。つまり、最優先されるべきは、麻しんのウイルス感染によって重篤化 が容易に想定される未接種・未罹患者、次いで第1期の定期接種を受けた後で長い年月が 経過した人であると考えられます。  当然のことですが、保育所に通っている2歳〜 5歳の子どもで、まだワクチンを接種した こともなく、麻しんにかかったこともないという子どもは、早急にワクチンを接種するよ う勧奨してください。  なお、保育所で麻しんが流行り始めた場合、その施設にいる0歳児の子どもに接種する かしないかというのは医師の判断になりますので、相談が必要です。場合によっては緊急 接種が必要です。  保育所で平時からしておくことでは、麻しんのワクチン未接種、麻しんにかかったこと のない子どもたちを、まず把握することが必要です。  入園前、転入前などには、健康状況調査において、ワクチンの接種歴と麻しんの既往歴 については把握されているところが大半だと思いますが、未接種・未罹患者にはワクチン 接種を勧奨してください。特に麻しんのワクチン接種は大切です。入園後には接種状況を 確認してください。  そして、状況把握をする際に、よく抜けているのが職員のみなさんの状況です。病院な 図9

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どでは既に常識になっていますが、勤務開始前の健康状況調査において、保育士のみなさ んが麻しんのワクチンを接種したか、接種していないか、麻しんにかかったことがあるか どうか確認することが必要です。特に20代の人というのは、こうしたことをおろそかにし がちです。いまの大学生にも共通していることですが、麻しんワクチンの接種が済んでい るか否か、あるいは麻しんにかかったことがあるかないかを聞いても「不明」である場合 が圧倒的に多いですが、こうしたことは母子手帳などで確認できます。未接種・未罹患者 にはワクチン接種を勧奨してください。  (たった1人でも)麻しんの患者さんが出たら何をすべきか。  まず他の欠席者の欠席理由を把握してください。場合によっては、1人出たときには既 に複数名の感染者が出ていることが非常に多くあります。感染者と濃厚接触をしていた人 に対して適切に対応しなければなりません。保育所で考えられる濃厚接触者とは、特に同 じクラスの子どもたちです。接触者の範囲を明らかにする必要があります。ただ、保育所 などの施設内にいる子どもたちに関しては、同じフロアの子どもたちを中心に、ほとんど 接触していると考えるべきです。  感染者に対する発病予防については、医師と相談となりますが、接触してから3日以内 であればワクチン接種によって感染発病を予防できる可能性があります。これは健康保険 が適用となります。さらに6日以内であれば、ガンマグロブリンを注射することによって 発病を抑えることができる可能性がありますが、これは血液製剤なので、ガンマグロブリ ンを接種するべきかどうかについては、保護者と医師の相談により決定することになりま す。血液製剤は、私は個人的にはあまり推奨しませんが、入院するよりは良いという理由 で投与される場合もあります。 図10

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 次に、感染拡大防止策についてです。  まずは、麻しん発生状況を保育所を利用する家庭に知らせてください。パニックや風評 被害を防ぐ正しい方法とは、正確な情報を正確に流すことだと考えます。  保育所や学校などで麻しんの患者さんが出た場合、通園・登校前に、自宅にて検温を実 施し、37.5℃以上あった場合は休むことを指導していただきたいです。  次は、よくある麻しんアウトブレーク(病気の感染が爆発的に広がること。)の際の 誤った対応です。  これはいまだにあることですが、施設内に第一例が出た場合に、すぐ対応すれば間に合 うにもかかわらず、「たかが麻しん」と軽く見て何も対応をしないことです。  10日以上が過ぎ、数名の発病者が出て、いわゆる第二波が認められても、最初の先入観 が邪魔をするのか、やはり適切な対応がされないのです。そして、さらに10日が経過し、 より多くの発病者が出てくることになります。発病者が次々に現れ、慌てて未発病者にワ 図11 図12

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クチン接種を行うことがありますが、結局は多大な労力と費用を要します。しかも、この 時点ですでに手遅れで、麻しんが地域レベルで流行し広がっているということが多く見ら れます。  上記はワクチンの接種のスケジュールですが、こちらは2006年から変わりました。麻し ん、風疹の混合ワクチンになり、第1期、第2期となっています。もし保育所内に1歳以上 の子どもでワクチンを接種していない子どもを発見された場合は、ぜひワクチン接種を勧 奨してください。

(2)風疹

 風疹もワクチン接種率が上がったことにより、流行の規模は、過去に比べ、非常に小さ くなりました。風疹は麻しんほど重症化しませんし、入院率も高くありません。放ってお いたとしても、水痘やおたふくかぜに比べ、症状は軽いと思います。  では、なぜ風疹が麻しんと同じように定期予防接種化されているかです。風疹の症状は 発熱、発疹、リンパ節腫脹の3つがありますが、症状持続期間がいずれも短く、発熱も、 麻しんでは免疫未獲得者であれば全員が発症しますが、風疹は患者数の約半数程度の割合 です。重篤な合併症として血小板が減る、あるいは脳炎になることはありますが、脳炎の 確率も麻しんより低く、また血小板減少性紫斑病は3000人に1人であり、これもしばらく 図13

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 これは、抵抗力のない妊婦さんが妊娠初期に風疹に感染した場合をいいます。妊婦さん が発症しなくても、風疹ウイルスが胎盤を通じて胎児に感染します。その結果、出生児が 先天性風疹症候群となることがあります。  その主な症状には聴力障害、視力障害、心奇形、知的障害、糖尿病などがありますが、 特に聴力障害はよく知られています。  保育所で風疹が流行ると、保育所に来ている子どもたちの母親のなかには、妊娠してい るケースも多く、こうした危険にさらされています。ちなみに2004年は、先天性風疹症候 群の子どもの出生報告が前年よりも増加しています。  なお、風疹が定期予防接種化されていることにはもう一つ理由があります。風疹が流行 すると、妊娠初期に風疹にかかり、先天性風疹症候群で産まれる子どもたちよりも多くの 人工妊娠中絶の数が増えます。風疹に感染したことが理由による中絶は、統計が取りにく い状況であり、風疹の隠れた負の側面です。

(3)水痘

 水痘は例年冬から春にかけて流行し、夏休み期間中に一気に収まり、冬に再び復活する という流行形態をとっています。  水痘とおたふくかぜに関しては、日本ではいまだにワクチンが定期予防接種化されてい ません。特に水痘は保育所では毎年のように集団感染が起こっていると考えられます。  この状況は、あまりよいことではありません。水痘は水痘になるだけではなく、水痘・ 帯状疱疹ウイルスの初感染によって発生し、このウイルスはそのまま人の神経細胞に一生 住み続けます。そして、体力が低下したときに帯状疱疹が出る原因となるのです。通常は 2週間前後の潜伏期間を経て発病し、発疹、倦怠感、発熱を主症状として発症します。感 染経路については、麻しんと同じ空気感染ですので非常に感染力が強いということがあり ます。 図14

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 現在、わが国における水痘は、発症者の多くが学童期前であり、遅い場合でも小学校低 学年ごろまでに大半の小児が罹患します。最も多いのは保育所や幼稚園の子どもたちです。  健康な小児においては、水痘は罹患者(発病者)の大半が順調に経過し、その予後は良 好です。ただし、免疫力が低下している子ども、ネフローゼでステロイドを飲んでいる子 ども、小児癌になっている子ども、あるいは成人が発症した場合は重症化します。特に免 疫が低下している子どもたちは命にかかわることもあり、場合によっては死亡することも あります。

(4)おたふくかぜ

図15

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 おたふくかぜは2005年の夏まで流行していましたが、その後、秋ぐらいから流行が収ま り、今年2007年における流行は小さいものとなっています。通常は4年〜 5年に1度の割合 で大きな流行になります。  おたふくかぜもワクチン接種が唯一の予防方法であり、ワクチン接種には90%以上の効 果があるといわれています。  おたふくかぜのワクチンが原因で無菌性髄膜炎になることがあり、日本では現在、 MMRワクチン(麻疹・おたふくかぜ・風疹の三種混合ワクチン)は使用してはいけない ことになっていますが、世界の他の国では現在でもMMRワクチンが使われています。  患者との接触時における予防策については、接触当日のワクチン接種には症状を軽くす る効果はありますが、発症予防は困難であると考えます。  なお、先ほどの麻しんや水痘の場合は、接触後3日以内にワクチンを打てば、高い確率 で発病を防ぐことが可能であるといわれています。  おたふくかぜは、麻しんや水痘の患者さんに比べると、もう少し年齢が高い3 〜 6歳の 子どもが中心になります。  通常は1 〜 2週間で軽快する予後良好の病気ですが、10人に1人が髄膜炎になるといわれ ています。また、500 〜 1000人に1人が難聴になることが最近分かってきました。これは 片方の耳が聞こえなくなり、回復の余地がないことを意味しています。聞こえないのが片 方だけの耳であるため、保護者や保育士たちも気がつかないことが多く、小学校入学時の 聴力検査で初めて分かる場合もあります。あるいは、電話を取るときに決まって片方でし か聞かないなどから分かることもあります。これまでは、20,000 〜 30,000人に1人といわ れていましたが、最近では、もっと多いということが分かってきています。  ほかにも、おたふくかぜが、睾丸炎、卵巣炎、膵炎等の合併症を起こす場合があります。 ウイルスに免疫を持たない乳幼児が集団で生活している保育所等の施設では、集団発生を 起こす場合もしばしばあります。 図17

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 保育所に通っている子どものワクチン接種率は、通っていない子どもよりも低いことが、 実際に調べた結果で明らかとなっています。水痘のワクチン接種率も同様に低い結果とな りました。  施設内の集団感染を防御するには、ワクチン接種を勧奨し、免疫を持っている子どもの 割合を増やすしかありません。  2005 〜 2006年、堺市と吹田市、愛媛県松山市の保育施設の人にご協力をお願いし、水 痘とおたふくかぜのワクチン接種率を調べてたところ、結果は通常30%前後であるものが 20%以下の接種率でした。保育所に通っている子どもたちの接種率が低いということは、 そのぶん集団感染も起こりやすいと考えられます。

(5)まとめ

 これまで挙げた疾患というのはワクチン予防可能疾患といいます。  有効な治療法はなく、感染力が強いためにワクチン以外に確実に予防する手段はありま せん。  当然のことですが、子どもにワクチンを接種することは、子ども個人を将来にわたって 守ることででもあり、その子が守られることによって施設内の周りの子どもたちも守られ ます。  また、保育所は先に述べた4つの病気に関しては高いリスクのある職場であるので、保 育士は子どもたちのみならず、その家族のため、そして自身のためにも、特に麻しん、風 疹、ついで水痘、おたふくかぜに免疫があるかを調べておくことをお奨めします。  子どもたちにうつされたとしても、発病して保育士から別の子どもたちにうつしてしま 図18

参照

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