§1.復習(群・剰余群)
今回は「群」の利用がカギになります.そこで,まずはこれまで学んできた群 の復習から始めましょう.
【群の例】
固定された
3
つの点A, B
,C
があり,正三角形p
1p
2p
3が,p
1はA
に,p
2はB
に,p
3はC
に置かれているとします.この△p
1p
2p
3の重心を中心に120
°回転 させる操作をσとします. また,∠A
の二等分線に関する対称移動をτとしま す.これらにより,いくつかの“操作の合成”をしてみましょう.まず,
s
2= s × s
は,A
A
A
s s
→ →B C B C B C
となり,これは,△
p
1p
2p
3の重心を中心に240
°回転させる操作です.また,s s s
s
3= × ×
なら,A A A A
s s s
→ → →B C B C B C B C
となり,これは何の操作もしないことと同じです.
次に,
t
2= t × t
はどうなるでしょうか.これは,A A A
t t
→ →
B C B C B C
となるので,何の操作もしないことと同じです.
p
1p
2p
3p
1p
1p
2p
2p
3p
3p
3p
3p
3p
3p
3p
3p
3p
1p
1p
1p
1p
1p
1p
1p
2p
2p
2p
2p
2p
2p
2では,
s × t
とt × s
はどうなるでしょうか.t s ×
は、A A A
t s
→ →B C B C B C
であり,
t × s
は,A A A
s t
→ →B C B C B C
です.
つまり,
s × t
は∠C
の二等分線に関する対称移動を表しており,t × s
は∠B
の 二等分線に関する対称移動を表しています.重要なこと(と後で分かるのですが)は,
s t t s × ¹ ×
であるということです.さらに,
s
2× t
は,A A A A
t s s
→ → →B C B C B C B C
となり,これは∠
B
の二等分線に関する対称移動となっているので,s
2× t = t × s
であることが分かります.以上により,
e
を“何もしない”操作(何もしないのに操作とは違和感があります が,“操作”という観点で以下を考察したいのでこの表現をお許しあれ)であると考えれ ば,{ e , s , s
2, t , s × t , s
2× t }
は,固定された
3
つの点A,B,C
に頂点がある正三角形p
1p
2p
3を,固定された3
つの点A,B,C
に頂点がある正三角形に移すp
3p
3p
3p
3p
3p
3p
3p
3p
3p
3p
1p
1p
1p
1p
1p
1p
1p
1p
1p
1p
2p
2p
2p
2p
2p
2p
2p
2p
2p
2“合同変換”
全体を表します.そしてこの集合は,操作の合成を演算として,“群”をなしま す.それを確かめるには,以下のような乗積表が重宝します:
・
e s s
2t s × t s
2× t
逆元e e s s
2t s × t s
2× t e
s s s
2e s × t s
2× t t s
2s
2s
2e s s
2× t t s × t s
t t s
2× t s × t e s
2s t
t
s × s × t t s
2t s e s
2s × t
t
s
2× s
2× t s × t t s
2s e s
2t
この群は,“3次対称群”とよばれ,
S
3と表されます.また,t s s t t
s
3=
2= e , × =
2×
なる関係式が成立っています.これ迄に学んだ“置換”を用いると,
s
には÷÷
ø çç ö è æ
1 3 3 2 2
1
,t には÷÷
ø çç ö è æ
2 3 3 2 1 1
が対応することが分かり,これらを用いて次のように計算できます:
÷÷ ø çç ö è
= æ
÷÷ ø çç ö è
× æ
÷÷ ø çç ö è
= æ
2 3 1 2 3 1 1 3 3 2 2 1 1 3 3 2 2
2
1
s
,÷÷ = e
ø çç ö è
= æ
÷÷ ø çç ö è
× æ
÷÷ ø çç ö è
= æ
×
= 3
3 2 2 1 1 2 3 1 2 3 1 1 3 3 2 2
2
1
3
s s
s
,= e
÷÷ ø çç ö è
= æ
÷÷ ø çç ö è
× æ
÷÷ ø çç ö è
= æ
3 3 2 2 1 1 2 3 3 2 1 1 2 3 3 2 1
2
1
t
,÷÷ ø çç ö è
= æ
÷÷ ø çç ö è
× æ
÷÷ ø çç ö è
= æ
× 3
3 1 2 2 1 2 3 1 2 3 1 2 3 3 2 1
2
1 s
t
, 23 3 1 2 2 1 2 3 3 2 1 1 1 3 3 2 2
1 t s
t
s ÷÷ = ×
ø çç ö è
= æ
÷÷ ø çç ö è
× æ
÷÷ ø çç ö è
= æ
×
,÷÷ ø çç ö è
= æ
÷÷ ø çç ö è
× æ
÷÷ ø çç ö è
= æ
× 1
3 2 2 3 1 1 3 3 2 2 1 2 3 3 2 1 s 1
t , s t ÷÷ = t × s
ø çç ö è
= æ
÷÷ ø çç ö è
× æ
÷÷ ø çç ö è
= æ
× 1
3 2 2 3 1 2 3 3 2 1 1 2 3 1 2 3
2
1
【部分群】
ここで,つぎのような問題を考えてみましょう.
3次対称群
S
3の部分集合が群になることはあるか.あれば,それを全て求めよ.まずは,群の定義により“単位元”
e
がなければ群にはならないことを確認し ておきましょう.そのうえで,(1)
H
1= { } e
とすると,これは群になるでしょうか.・
e
逆元e e e
この表から分かるようにこれは群になっています.
(2)
H
2= { } e , s
とすると,これは群になるでしょうか.・
e s
e e s
s s s
22 2
Ï H
s
なので,群にはなりません(演算が閉じていない).(3)
H
3= { e , s , s
2}
とすると,これは群になるでしょうか.・
e s s
2 逆 元e e s s
2e
s s s
2e s
2s
2s
2e s s
この表から分かるようにこれは群になっています.この
H
3は3次巡回群”Z
3と なっています.(4)
H
4= { } e , t
とすると,これは群になるでしょうか.・
e t
逆 元e e t e
t t e t
この表から分かるようにこれは群になっています.この
H
4は“2次巡回群”Z
2 となっています.同様にして,
H
5= { e , s × t } , H
6= { e , s
2× t }
も“2次巡回群”Z
2となることが分 かります.★ (問)それを確かめてみましょう.
このような作業を続けていくと,
S
3の部分群は,(S
3自身も含めて){ } e , { e , t }, { e , s × t }, { e , s
2× t }, { e , s , s
2}, S
3 の6つあることが分かります.【軌道分解(剰余分解)】
さて,今,
G y G
H G
G x x
x
H = {
1,
2, × ×× ,
n} Ì
( は群とし, は の部分群であるとします), Î
のとき,y × H , H × y
はそれぞれ,} , , , { },
, , ,
{ y x
1y x
2y x H y x
1y x
2y x y
H
y × = × × × ×× ×
n× = × × × ××
n×
を表すものとします.すると,
S
3の部分群のうち,例えばH
4に対して,“左から”
s
をかけると,
s × H
4= s × { } { e , t = s , s × t }
となることが分かるでしょう.また,
“左から”
s
2をかけると,
s
2× H
4= s
2× { } e , t = { s
2, s
2× t }
となることも分かるでしょう.従って,
4 2 4 4
3
H H H
S = È s × È s ×
となっています(下図参照):H
4s × H
4s
2× H
4{ } e , t { s , s × t } { s , s
2× t }
~ S
3の部分群H
4による右軌道分解~いわば,
S
3が3つの“軌道(剰余類ともいう.昨日の講義ノートを参照)”に分割 されており,しかも,これらの軌道は互いに交わらない
ようにできています.このような方法で,
S
3 を分割することを,S
3 の部分群H
4による右軌道分解 といいます.次に,H
4に対して,“右から”
s
をかけると,
H
4× s = { } e , t × s = { s , t × s } = { s , s
2× t }
となることが分かるでしょう.また,“右から”
s
2をかけると,
H
4× s
2= { } e , t × s
2= { s
2, t × s
2} = { s , s × t }
となることも分かるでしょう.従って,
2 4 4
4
3
= H È H × s È H × s
S
となっています:H
4H
4× s H
4× s
2{ } e , t { s , t × s = s
2× t } { s
2, t × s
2= s × t }
~ S
3の部分群H
4による左軌道分解~これまた,これらの軌道は互いに交わることがありません.このような方法 で,
S
3 を分割することを,S
3 の部分群H
4による左軌道分解 といいます.今,
S
3 の部分群H
4による右と左の軌道分解を比較してみると,これらは異 なるものであることが分かります:H
4s × H
4s
2× H
4{ } e , t { s , s × t } { s , s
2× t }
この軌道↑と同じ軌道はある↓ けれど,他の2つの軌道は下の2つの軌道のいずれとも同じでない
H
4H
4× s H
4× s
2{ } e , t { s , t × s = s
2× t } { s
2, t × s
2= s × t }
★ (問)
S
3 の部分群H
5による右軌道分解と左軌道分解をしてみましょう.上記と同様、左右で軌道分解が異なることが分かるはずです.また,
H
6による右軌道分解と左軌道 分解をしてみましょう.これまた,左右で軌道分解が異なることが分かるはずです.次に,
S
3 の部分群H
3による右軌道分解 および,S
3 の部分群H
4による左軌道分解 をしてみましょう.すると,前者は,4 4
3
H H
S = È t ×
H
4t × H
4{ e , s , s
2} { t , t × s = s
2× t , t × s
2= s × t }
~
S
3 のH
4による右軌道分解~となり,後者は,
t
× È
=
4 43
H H
S
H
4H
4× t
{ e , s , s
2} { t , s × t , s
2× t }
~
S
3 のH
4による左軌道分解~となることが分かります.
この二つの軌道分解を比較してみると,これらは 同じものである
ことが分かるでしょう.それもそのはずで,
t × H
3= H
3× t
だからです:このように,
左右の軌道分解が一致するようにできる部分群 を特に,
“正規部分群”
と呼びます.
先走りますと,
Galois
理論とはこの正規部分群に支えられた理論なのです.
S
3の正規部分群は,このH
3と,{e }
と,S
3の3
つです.★(問)これを確かめてみましょう.
【剰余群(商群)】
さて,ここで
Galois
の天才ぶりの一端をご覧いただきましょう.Galois
によれば,正規部分群による軌道分解で生ずる軌道同士で演算を定義することができて,各軌道をひとつの元と見て 新しい群
を誕生させることができるというのです.これは一体,どういったことでしょ うか.
今,
N = { x
1, x
2, × ×× , x
n}
(x
1= e
とする)を群G
の正規部分群であるとします.このとき,ここまでで見てきたように,
y
mN y
N y N
G = ×
1È ×
2È × ×× È ×
のように軌道分解することができます(ただし,
y
1= e
とします).これら
m
個の軌道は全て同じ個数の元からなり,かつ各軌道は互いに交わりが ありませんので,G
の元の個数は,mn
です(Laglange
の定理といいます).また,
{
1 i,
2 i, ,
n i} ,
i
x y x y x y
y
N × = × × × ×× × N × y
j= { x
1× y
j, x
2× y
j, × ×× , x
n× y
j}
であり,これら
n
個の元同士で作ったn
2個の元からなる集合{
( x
1× y
i) × ( x
1× y
j)
,( x
1× y
i) × ( x
2× y
j)
,…,( x
1× y
i) × ( x
n× y
j)
( x
2× y
i) × ( x
1× y
j)
,( x
2× y
i) × ( x
2× y
j)
,…,( x
2× y
i) × ( x
n× y
j)
…
( x
n× y
i) × ( x
1× y
j)
,( x
n× y
i) × ( x
2× y
j)
,…,( x
n× y
i) × ( x
n× y
j)
} を考えると,実は,これは,n
個の元からなる集合} ) ( , , ) ( , ) {(
)
( N × y
i× y
j= x
1× y
i× y
jx
2× y
i× y
j× ×× x
n× y
i× y
j と一致する のです.つまり,
“見かけ”
は
n
2個の元から成っているのですが,実は元はn
個しかないというわけです(つ まりダブって登場する).ちょっと不思議な感じがするかもしれませんが,実際,そうなるのです.
このことを,今考えている3次対称群
S
3を例として見てみましょう.①
H
3× e ( = H
3)
の3個の元と,H
3× e ( = H
3)
の3個の元との演算で作られる9 個の元からなる集合は,H
3× e = { e , s , s
2}
ゆえ,{ e , s , s
2, s , s
2, e , s
2, e , s }
ですが,ダブりが確認できますから,やはりこれは見かけ上は9個の元からな る集合ではあるものの,実際は,
{
2}
3
) , ,
( H × e × e = e s s ( = H
3)
と一致していることが分かるでしょう.②
H
3× e ( = H
3)
の3個の元と,H
3× t
の3個の元との演算で作られる9個の元 からなる集合は,H
3× e = { e , s , s
2}
,H
3× t = { t , s × t , s
2× t }
ゆえ,} , , , , , , , ,
{ t s × t s
2× t s × t s
2× t t s
2× t st t
ですが,これまたダブりが確認できますから,やはりこれは見かけ上は9個の 元からなる集合ではあるものの,実際は,
} , , { )
( H
3× e × t = t s × t s
2× t ( = H
3× t )
と一致していることが分かるでしょう.③
H
3× t
の3個の元と,H
3× t
の3個の元との演算で作られる9個の元からな る集合は,H
3× t = { t , s × t , s
2× t }
ゆえ,} , , , , , , , ,
{ e s
2s s e s
2s
2s e
ですが,これまたダブりが確認できますから,やはりこれは見かけ上は9個の 元からなる集合ではあつものの,実際は,
) }(
, , { )
( H
3× t × t = e s s
2= H
3 と一致していることが分かるでしょう.なるほど,どうやら成り立っていそうだなと実感してもらえればここでは十 分です.今日は,群の話はあくまでも復習ですので,深入りをしないでおきま す.ここでは,証明は省略して先を急ぎます.
さて,そうすると先ほど作った(見かけ上)
n
2個の元からなる集合は,( N × y
i) × ( N × y
j)
と表記されるのが自然なことでしょう(事実,一般にこのように表記されます). すると,
( N × y
i) × ( N × y
j) = ( N × y
i) × y
jということになり,これすなわち,
軌道同士の演算が定義された ということになります.
この定義によって得られる
× t È
=
3 33
H H
S
の軌道分解における各軌道同士の演算 は次のようになります:・
H
3H
3× t
逆 元H
3H
3H
3× t H
3H
3× t H
3× t H
3H
3× t
なるほど,
{ H
3, H
3× t }
が群をなしていることが分かるでしょう.そして,この場合,これは
2
次の巡回群Z
2となってい ることも分かると思います.このようにして作られる群を,
群
G
の正規部分群N
による剰余群(商群)と呼び,
N G /
と表します.ここでの例ですと,
2 3
3
/ H Z
S @
というわけです.
では,次の問題を演習することで理解の定着を図りましょう.
【問題】
固定された
4
つの点A, B,C,D
があり,正方形p
1p
2p
3p
4が,p
1はA
に,p
2はB
に,p
3はC
に,p
4はD
に置かれているとします.このとき,この正方形の合同変換の操作 は,操作の合成を演算として群G
をなします(この群G
は“二面体群”と呼ばれます).(1)それを乗積表を作ることにより示してみましょう.
(2)
G
の正規部分群は全部で10
個あります.それを全て見つけてみましょう.その10
個の内,1つの軌道が4
つの元からなる正規部分群(どれでもよい)と,1つの軌道 が2
つの元からなる正規部分群(これもどれでもよい)とによる剰余群はどのようなも のとなっているか調べてみましょう.(解答)
(1)何もしない操作を
e
,対角線の交点I
の周りに90
on ( n = 1 , 2 , 3 )
回転する操作を
s
n,辺AB, BC, CD, DA
の中点をそれぞれE, F, G, H
とするとき,直線
EG
に関する対称移動をt
1,直線FH
に関する対称移動をt
2,直線AC
に関する対称移動をt
3,直線BD
に関する対称移動をt
4とする(図示 してみましょう)と,{ e , s
1, s
2, s
3, t
1, t
2, t
3, t
4}
は,操作の合成を演算と して群をなすことが次の乗積表によって分かる:・
e s
1s
2s
3t
1t
2t
3t
4 逆 元e e s
1s
2s
3t
1t
2t
3t
4e
s
1s
1s
2s
3e t
4t
3t
1t
2s
3s
2s
2s
3e s
1t
2t
1t
4t
3s
2s
3s
3e s
1s
2t
3t
4t
2t
1s
1t
1t
1t
3t
2t
4e s
2s
1s
3t
1t
2t
2t
4t
1t
3s
2e s
3s
1t
2t
3t
3t
2t
4t
1s
3s
1e s
2t
3t
4t
4t
1t
3t
2s
1s
3s
2e t
4(2)
G
の10
個の正規部分群は以下の通り:{ } { } { }
{
1 2 3}
7{
2 1 2}
8{
2 3 4}
6
4 5
3 4
2 3
1 2
2 1
, , , ,
, , , ,
, , ,
, , ,
, ,
, },
, { }, , { },
{ ,
t t s t
t s s
s s
t t
t t
s
e N e
N e
N
e N e
N e
N e N e
N e G
=
=
=
=
=
=
=
=
このうち,例えば,
4
個の元からなる正規部分群N
6によって,剰余群G / N
6は,下のような剰余分解(軌道分解)
1 6
6
È × t
= N N
G
N
6N
6× t
1{ e , s
1, s
2, s
3} { t
1, s
1× t
1= t
4, s
2× t
1= t
2, s
3× t
1= t
3}
~
G
の正規部分群N
6による軌道分解~により,乗積表は
,
・
N
6N
6× t
1逆 元
N
6N
6N
6× t
1N
6N
6× t
1N
6× t
1N
6N
6× t
1 となり,G / N
6@ Z
2(2
次巡回群)となっていることが分かる.また,例えば,
2
個の元からなる正規部分群N
2によって,剰余群G / N
2は,下のような軌道分解
3 2 2 2 1 2
2
È × s È × s È × s
= N N N N
G
N
2N
2× s
1N
2× s
2N
2× s
3{ e , t
1} { s
1, t
1× s
1= t
3} { s
2, t
1× s
2= t
4} { s
3, t
1× s
3= t
2}
~
G
の正規部分群N
2による軌道分解~により,乗積表は
,
・
N
2N
2× s
1N
2× s
2N
2× s
3 逆 元N
2N
2N
2× s
1N
2× s
2N
2× s
3N
2N
2× s
1N
2× s
1N
2× s
2N
2× s
3N
2N
2× s
3N
2× s
2N
2× s
2N
2× s
3N
2N
2× s
1N
2× s
2N
2× s
3N
2× s
3N
2N
2× s
1N
2× s
2N
2× s
1 となり,G / N
2@ Z
4(4次巡回群)となっていることが分かる.(注意)この二面体群
G
は,D
4と書かれます.昨日の春木先生の講義録の1.3
を参照してください.§2.E.Galoisの示したこと
フランスの数学者
E.Galois(1811~1832)は
5次以上の代数方程式には根の公式が存在しない ことを証明しました。
同時代人のノルウェーの数学者
N.Abel(1802~1829)は,体(たい)の理論
を用いてこのことを証明しました.(注意:イタリアの
P.Ruffini
(1765~1822)が最初にこのことを主張したよう で(ただし,証明は不十分),今日,“Abel-Ruffini の定理”と呼ばれているよ うです).Galois
がAbel
と異なるのは,Galoisは,このことを“群”
の問題に置き換えてそれを明らかにしたことです.いわば,
群と体とのからみあい が
Galois
理論 の中核をなすのです.ところで,体とはどのようなものでしょうか.それを次章で学びましょう.
§3.体とはなんだろうか?
2
つの自然数を足すと,その結果は必ず自然数になります.ところが,引く場合はどうでしょうか.この場合は自然数にならないことが あります.たとえば,1と
2
を考えてみましょう.2-1
なら答えは1
で,自然数になっていますが,1-2ですと,答えは-1で すから,自然数になっていません.ここで用語の復習をしておきましょう:数の集合
X
とその上で定義されている演算・に対し,任意の
x , y Î X
に対して,x × y Î X
のとき,X
は演算・に関して閉じている といい,X y
x × Ï
となるx, y
が存在するとき,X
は演算・に関して閉じていない といいます.従って,
X = N ,
・を+や-とすると,自然数は加法に関しては閉じているが,減法に関しては閉じていない となります.
Q Z N
X = , ,
で,・を+,-,×,÷としたときの閉じている場合は○,閉じて いない場合は×で表すと,次のようになります:・ +(加法) -(減法) ×(乗法) ÷(除法)
N
(自然数) ○×
○
×
Z
(整数)○
○
○
×
Q
(有理数) ○○
○
○
一般に,集合Xが,加減乗除全てに関して閉じているとき,Xは 体
をなしているといいます.
つまり,有理数は体をなしているというわけです(有理数体と呼ぶ).
この他には,有理数を含む実数や,実数を含む複素数も体になります(実数 体,複素数体).また,これらの体から新しい体を作ることもできます.例えば,
有理数体
Q
に2
を付け加えて,なおかつ加減乗除に関して閉じる ようにしてできる集合などがそうです.ここで,注意して欲しいのは,Q
に2
を付け加えただけの集合Q È { } 2
は体にはならないということです.これは次のことからすぐ分かります.たとえば,
{ } 2
2 3 ,
1 Î È
- Q
ですが,
6 2 2
3 , 1 3 2 , 1 3 2 , 1 3 2
1 + - - - - = -
-
・・・ (※)はいずれも
Q È { } 2
に入っていません.では,Q
に{ } 2
を付け加えるだけでなく,加減乗除に関して閉じるようにした集合はどのように表されるでしょうか.
これは,
) , (
2 a b Q
b
a + Î
の形で表される集合になります.なぜ,このような形で表すことができるのかを 示すには相当の準備が必要になりますので,ここでは省略します.ただし,(※)
を見ると,なるほどそんな感じがするな,と思ってもらえるのではないでしょ うか(例えば,
÷÷ ø
ö çç è
æ = -
- 6
2 2
3
1
なら( , )
6 , 1
0 b a b Q
a = = - Î
です).★(問)このような形の数(つまり,
a + b 2 ( a , b Î Q )
)の集合が加減乗除に関 して閉じていることを確認してみましょう.さて,一般に,有理数体
Q
に,a Î Q
を付け加えて作られる体のうち,最小の ものをQ ( ) a
と表すとき,( ) a
Q
は,Q
にa
を添加してできるQ
の拡大体 と呼ばれます.さて,さきに
Galois
理論の構造の中核をなすのは 群と体とのからみあいであるといいました.このことをお話することとしましょう.
Galois
の理論を,体の理論によって整理したのは,ドイツの数学者R.Dedekind
(1831
~1916
)やオーストリアの数学者E.Artin
(1898
~1962
)です.とりわけ重要な役を担うのが,
体の自己同型写像 といえます.
この体の自己同型写像こそが,群と体とをからみ合わせる役を担っているの です.
§4.体の自己同型写像とは?
まず,簡単にこれまで体験してきたであろう写像の例を挙げて,復習してみ ましょう.以下で,
R
は実数体とします.① f : R ® R f ( x ) = 1
1 0 x
② f : R ® R f ( x ) = x
0 x
③ f : R ® R f ( x ) = 2 x
0 x
④ f : R ® R f ( x ) = x
20 x
これに,高校数学で学ぶものも加えておきます:
⑤ f : R ® R f ( x ) = ( x + 1 ) x
20 x
これらを考察してみましょう.
①は,
x
が変化してもf (x )
は1のまま変化しない,いわば“足踏み”です.②,③は,
x
が実数全体を動くと,f (x )
も実数全体を動いて,なおかつ,x ¹ y
な らf ( x ) ¹ f ( y )
です.いわば,スタートが異なればゴールも異なっています.④は,
x
が実数全体を動くと,f (x )
は非負の実数を動きます.そして,スター トが異なってもゴールが同じことがあります.例えば,f ( 1 ) = 1 = f ( - 1 )
です.⑤は,
x
が実数全体を動くと,f (x )
も実数全体を動きますが,スタートが異な ってもゴールが同じことがあります.例えば,÷
ø ç ö è
= æ
÷ = ø ç ö è æ-
3 1 27
4 3
2 f
f
です(これは高校数学で極値や変曲点を学ぶと分かります).
一般に,集合
X
の数を集合X
の数に対応させる写像f
の中で,I.
x ¹ y
ならf ( x ) ¹ f ( y )
であるものを「単射」
といいます. ~単射とはスタートが異なればゴールも異なる写像~
また,
Ⅱ.任意の
y
に対し,f ( x ) = y
となるx
が存在するものを「全射」
といいます.
Ⅲ.「全射」であり,なおかつ「単射」であるものは
「全単射」
と呼ばれます.
したがって,さきに挙げた写像は
,
① ④は全射でも単射でもない ②,③は全単射 ⑤は単射ではありませんが,
全射ではある,ということになります.因みに,自然現象の記述によく用いら れる写像である
f : R ® R f ( x ) = e
xは全射ではありませんが,単射ではあります.さて,次に,①から⑤までの写像で,
“加減乗除を保存する”
ものはあるでしょうか.つまり,和(差,積,商)の写像は写像の和(差,積,
商)になるでしょうか,例えば,
①では,
x , y Î R
に対し,f ( x + y ) = 1 , f ( x ) + f ( y ) = 1 + 1 = 2
により,保存していないことがすぐにわかります.このようにしてみると,
f ( x ) = x
だけは,和差積 商全てを保存することが分かります.★ (問)実際にそれを確認してみましょう.
一般に,体
X
に対し,全単射写像f : X ® X
が和差積商全てを保存する場合,f
を体X
の自己同型写像といいます.さきの例ですと,
f ( x ) = x
は実数体R
の自己同型写像というわけです.こんな 例もあります.有理数体Q
の拡大体における自己同型です:(例)
( ) { a b a b Q }
Q
X = 2 = + 2 | , Î
に対し,f ( a + b 2 ) = a + b 2
はX
の自己同型写 像になっています.また,g ( a + b 2 ) = a - b 2
もX
の自己同型写像になってい ます.これらの事柄を示すために,有理数体
Q
の拡大体(これを)K
(とおく)の 自己同型写像f
に関する性質はどのようなものがあるのかを調べることにしま しょう.有理数体
Q
の拡大体Kの自己同型写像f
に関する重要な3
性質:(性質1)
f ( 0 ) = 0
(性質2)
f ( 1 ) = 1
(性質3)任意の
x Î Q
(有理数)に対して,f ( x ) = x
(注意1)(性質3)は(性質1)と(性質2)の2つから導き出されます.
(注意2)(性質3)の見方は,
Q
はK
の自己同型の不変元の集合(固定体)であるということです.(性質1)は,
0 = 0 + 0
で,この両辺に自己同型写像f
を施すことにより示されます.(性質2)は
1 = 1 ´ 1
の両辺にf
を施すこと,およびf
の単射性により示されます.(性質3)は,n Î N
に対して,n = 1 + 1 + × ×× + 1
ゆえ,
f
を両辺に施すことによりf ( n ) = n
が,また,- n = 0 - n
ゆえ,f
を両辺に 施すことにより,f ( - n ) = - n
を示すことができます.よって,m ( ) ¹ 0 , n Î Z
に対 し,m n m f
n f m
f n ÷ = = ø
ç ö è æ
) (
) (
となるわけです.これらの性質によって,
X = Q ( ) { 2 = a + b 2 | a , b Î Q }
に対し,( a b 2 ) a b 2
f + = +
とg ( a + b 2 ) = a - b 2
が
X
の自己同型写像になっていることを示すことができます.★ (問)それを示してみましょう.
示す過程で,
X = Q ( ) { 2 = a + b 2 | a , b Î Q }
の自己同型写像は,f
とg
だけしかないことも同時に分かります.そして,写像の合成を演算として,自己同型写 像の集合
{ f , g }
は次の表から分かるように,2次巡回群Z
2をなします:・
f g
逆 元f f g f
g g f g
(単位元は
f
) このように,体の自己同型写像の集合が群をなすことが分かり,なるほど,群と体とが絡み合う様子が垣間見ることができました.ここまでの種々の準備 によって,ようやくお待ちかねの
Galois
理論そのものに触れることができます.では,本編の始まりです.
§5.代数方程式の根の公式が存在するとはどういうことか そもそも,
“代数方程式
f ( x ) = 0
に根の公式が存在する“とはどういったことを指すのでしょうか.
(注意)本稿では,解ではなく,“根”ということにします.
それは,
係数の加減乗除とべき根(n
a ( a Î F )
の形の数)をとるという操作だけで根を求めることができれば,公式が存在するといい,そうでなければ存在し ない
ということです.これをノルウェーの数学者
Abel
は体の拡大という視点で次の ように言い換えました:方程式
f ( x ) = 0
の係数を含む体をF
0(係数体と呼ぶ)とし,この係数体F
0から始めて,以下のような,べき根を添加して作った体(巡回拡大体という)の列
F
lF F
F
0Ì
1Ì
2Ì × ×× Ì
( )
m jj j j m
j j
j
F a a F a F
F
+1=
j, Î ,
jÏ
に対して,その方程式の全ての根が体
F
l(根体という)に見出すことができること です.記号に圧倒されそうですが,まずは,2
次方程式x
2+ ax + b = 0
の場合で 確か め て納得し ま し ょ う .ご承 知の通り , こ の方程式の根の公式は ,2
2
4 b
a
x = - a ± -
です.今,係数体
F
0はQ
としておきます(すなわち,a , b Î Q ( = F
0)
)(1
stSTEP) a , b ( Î F
0)
に対し,a
2- 4 b
を計算する(加減乗除).(2
ndSTEP) a
2- 4 b
の2
乗根を計算する(べき根).(3
rdSTEP) a
2- 4 b
に- a
を足す,又は,- a
から引く.(加減乗除)(4
thSTEP) - a ± a
2- 4 b
を2
で割る(加減乗除)すなわち,
a , b ( Î F
0)
に対し,a
2- 4 b ( Î F
0)
のべき根a
2- 4 b
をF
0に添加し て作った拡大体F
1= F
0( a2 - 4 b )
の中に,2
次方程式x
2+ ax + b = 0
の2
つの根が 収まる,ということです.Abel
は,4
次方程式までなら,このような作り方で,方程式全ての根を含む ような拡大体に到達することができるけれど,5
次以上の方程式についてはそれ ができない,と主張しました.その主張を
Galois
は“群”の問題に置き換えて明確にしました(いわゆるGalois
理論).まずは,2次方程式のGalois
理論を眺めてみましょう.尚,以降では係数体を
F
,根体をK
と書くことにします.§6. 2次方程式の
Galois
理論2
次方程式px
2+ qx + r = 0
は,両辺をp ( ) ¹ 0
で割ることにより,2
+ ax + b = 0
x
…①とすることができます.今,係数体を
F
とします.すなわち,a , b Î Q ( = F )
と し,①の異なる2
根をa , b
とすると,“①の根体(すなわち,①の全ての根を含む最小の体)”
K
は,) , ( ) ,
( a b Q a b
F
K = =
となります.ここで,(
x = a
は①の根ゆえ)2
+ aa + b = 0
a
…②が成り立つので,
K
の“F
上の自己同型”(すなわち,F ( = Q )
を固定体とするK
の自己同型)f
を②の 両辺に施すと,(注 意)先に述べた(性 質
3) に よ り , f
はQ
を不変にす る( つ ま り ,)
, )
( q q q Q
f = Î
ので,単に“K
の自己同型f
”を②に・・・,でもよいのですが,あえて書いている理由は後述(§8にて)します.
{ } ( )
{ ( ) } ( ) 0
0 )
( )
(
) 0 ( ) ( ) ( ) (
) 0 ) (
2 2 2 2
= + +
\
= + +
\
= +
+
\
= + +
b af
f
b f
a f f
f b f a f f
f b a f
a a
a a
a a
a a
となり,
f (a )
も①の根であることが分かります.よって,f
は,次表のように,
f
1またはf
2となります:f
1f
2a
の行き先(像)a b
b
の行き先(像)b a
ここで,( )
( a - b
2)
f
を考えると,
f
がf
1であろうと,f
2であろうと,( )
( ) { ( ) }
{ }
( ) ( ( ) )
) ( ) (
2 2
2 2 2
a b b
a
b a
b a b
a
-
= -
=
-
= -
= -
f f
f f
となります.つまり,
( a - b )
2はK
の自己同型写像f
の不変元である というわけです.ここで,さきの(性質3)の逆である
x x
f
2( ) =
ならばx Î Q
(有理数)である も成り立ちます.(証明)
x = p a + q Î K , p , q Î Q
に対し,( )
q p
q f
p f
q f p f x f
+
=
+
=
+
= b
a a
2 2
2 2
2
) (
) ( ) ( ) (
q p q
p + = +
\ a b
( - ) = 0
\ p a b
となるが,a ¹ b
ゆえ,p = 0 \ x = q Î Q
■根体
K
根体K
「
x Î K - F
の場合のAut ( K / F )
の元の像(行き先)」と,「
x Î F
の場合のAut ( K / F )
の元の像(行き先)」のイメージ図このことから,今,
f
2( ( a - b )
2) = ( a - b )
2(すなわち,( a - b )
2がf
2の不変元で ある)なので,( a - b )
2Î Q
であることが分かります.つまり,
f
2によって,( a - b )
2の正体が判明したとい うわけです.もとより,根と係数の関係から,a + b = - a
で,a Î Q
ゆえ,î í ì
= -
= +
有理数 有理数
b
a b a
となり,この連立方程式を解くと,
x
x
係数体
F
f
1( x )
f
2( x )
x x f x f
=
= ( ) )
(
21