臨場感とVR酔いを考慮した人工現実感環境設計シス テム
田中, 信壽
九州芸術工科大学芸術工学研究科
高木, 英行
Faculty of Design, Kyushu University
http://hdl.handle.net/2324/4479696
出版情報:日本バーチャルリアリティ学会論文誌. 11 (2), pp.301-311, 2006. 日本バーチャルリアリ ティ学会
バージョン:
権利関係:
基礎論文
TVRSJ Vol.11 No.2 pp.301‑312, 2006臨場感と V R 酔いを考慮した人工現実感環境設計システム
田 中 侶 壽 * 1 高 木 英 行
*2Design system of Virtual Reality Environment Based on V R Presence and V R Sickness No buhisa Tanaka *1 Hideyuki Takagi*2
Abstract ‑ W e propose a design method of virtual reality (VR) environment for max‑
imizing V R presence and minimizing V R sickness by controlling angular velocity and visual angle and evaluate this method. The system that materializes the proposed design method has two neural networks. One neural network (NN) learns user's V R sickness characteristics. Another N N learns user's V R presence characteristics. The optimum con‑
dition for user is calculated by combining these two NNs. First, we analyze the overall tendency and the individual variation about the V R sickness and presence characteristic of subjects. As a result, it was confirmed that these two characteristics are in the trade‑off relationship and that the individual variation is large. Next, we evaluate the effectiveness of our proposed design method. This method had a potential to design V R environment that realize low V R sickness and high V R presence taking account of the difference of user's characteristics. Especially, this method worked effectively for subjects who develop heavy symptom of V R sickness.
Keywords : virtual reality, V R sickness, design of V R environment, neural networks
1 はじめに
人工現実感(VR:Virtual Reality)環境は,その利 用範囲を広げ,健康への安全確保が特に求められる労 働環境にまで利用されつつあり [13][23], 長時間スト
レス下での利用を想定した設計が必須になってきてい る.しかしV R環境は,利用の仕方によって不快感や 疲労感ひいては疾病の誘発などV R環境独特の健康被 害を及ぼす危険性が指摘されている [12].
この健康被害の1つに「V R酔い」がある.V R酔い は,頭痛,眩量,吐き気等の症状を強い不快感を伴っ て発症することがあるため,利用者が以後の利用を拒 絶する場合がある.身体面への悪影響に加え, V R環 境に対する嫌悪感という心理面への悪影響をもたらす V R酔いは, V R環境普及のボトルネックとなる可能 性が大きい.
これまでのV R酔いに関する研究は, V R酔い解析 にその主眼が置かれ[10][12] [22], 具体的なV R酔い対 策にまで踏み込んだ研究が未だ少なく
[ 1 7 ] [ 1 9 ] ,
また,V R酔いの発症は個人依存が大きいことが指摘されな がらも
[ 4 ] [ 7 ] [ 9 ] ,
この個人依存性に配慮した対策に関 する研究が少ない[3][6].そこで本研究では,利用者のV R酔い特性の個人依
*1九州芸術工科大学芸術工学研究科
*2九州大学芸術工学研究院
*l Kyushu Institute of Design, Graduate School of Design
*2Kyushu University, Faculty of Design
存性を積極的に認め,これに加えて,利用者の臨場感 特性[18]をも取り込むことで,利用者にとってV R酔 いの抑止と臨場感の向上のバランスを最適とするV R 環境を実現する「V R環境最適化システム」を提案し,
被験者実験を通じてその有効性について検証する.
2 本研究に関する方針 2.1 V R酔い抑止に関する対策方針
V R酔いの発症メカニズムは,未だ明らかになって いない.しかし, V R酔いは,その発症状況や症状が 動揺病と酷似していることから動揺病と同じメカニズ ムで発症すると考えられている.そして,この動揺病 の発症メカニズムには,「感覚混乱説」に端を発するい
くつかの仮説が提唱されている [14][15] [16] [20]. 本研究では「V R環境最適化システム」を設計する にあたって, V R酔いの発症メカニズムをこれらの仮 説をもとに以下のように想定することとした.
1) V R酔いは, V R環境が提供する各種知覚情報の 空間情報間に,空間識の形成ルール(通常は,人が適 応してきた自然環境における物理法則)に反する矛盾 が存在することを前提条件として発症する.空間識
とは,人の空間認識機能によって自己と外界空間と の関係を認識した「身体の平衡制御の基準となる空 間座標系」である.2) V R酔いの発症を導く中枢神 経系のミスマッチ信号は,人の空間認識機構がその 矛盾の存在を検知した時点で生成される.3)この矛
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日本バーチャルリアリティ学会論文誌 Vol.11, No.2, 2006 盾が検知されるか否かは,その矛盾が空間識の形成
をどの程度不安定させるかに依存し,その不安定に させる度合いがある閾値(転倒の危険があるレベルな ど)を越えた際に,矛盾が検知されミスマッチ信号が 生成される.4)ミスマッチ信号は,この矛盾が空間 識の形成を不安定にさせる度合いが大ぎいほど増強
され,より重度のV R酔いの発症を誘発する.
即ち, V R酔いは, V R環境が提供する各種知覚情 報の空間情報間に空間識の形成ルールに反する矛盾が 存在し,かつ,この矛盾が人の空間認識機能に検知さ れることによって発症すると想定した.
したがって, VR酔いを抑止するためには,発症の 前提条件である「この矛盾を解消するか」あるいは,
「この矛盾を人の空間認識機能に検知させないか」の 2通りが考えられる.前者の対策を実現するためには,
VR環境が自然環境と同一若しくは同等の情報をすべ て提供しなければならない.これは,現在の VR技術 の水準,設備投資にかかるコスト,設備の大型化にお ける空間の確保等の面などで実現が難しいのが現状で ある.そこで,本研究で提案する「VR環境最適化シ ステム」は,現状のVR環境が提供している各種知覚 情報の空間情報の情報量をコントロールすることで後 者を実現し,「VR酔いの抑止と臨場感の向上のバラン スを利用者にとって最適とするVR環境」の設計を目 指すこととする.
2.2 提案システムの具体的対象と設計方針 本論文では,視覚情報のみを提供する VR環境(以 後,視覚V R環境と呼ぶ)で提供する身体の天頂方向 中心線(YAW軸)を回転軸とする大地面と平行な等角 速度回転(以後, YAW輯等角速度回転と呼ぶ)表現 の設計に対し,提案「V R環境最適化システム」を議 論・評価するものとする.
視覚V R環境では,視覚情報の空間情報と前庭覚及 び固有覚情報の空間情報間に常に物理法則的な矛盾が 存在する.自然環境で,人が本論文で扱う YAW 軸—
等角速度回転に曝された場合,回転軸から離れた両耳 位置にある前庭器に遠心力による加速度情報が入力さ れるため,視覚情報とは独立して回転を知覚すること ができる.一方,この加速度(前庭覚情報の空間情報)
が提供されない視覚VR環境では,視覚情報の空間情 報と前庭覚の空間情報間に常に物理法則的な矛盾が存 在することになる.固有覚についても同様である.
即ち,視覚VR環境でYAW輯 等 角 速 度 回 転 表 現 を提供する場合は,表現内に角速度情報が存在するだ けでVR酔い発症の前提条件を溝たすことになる.ま た,角速度の高速化は,この矛盾を増大させミスマッ チ信号の増強させる可能性があることに加え,視覚情 報自体の知覚阻害も誘発させる可能性がある.よって,
本表現の角速度情報は,安定的な空間識の形成を左右 する重要な設計パラメータであるといえる.
一方,臨場感の向上は,画角の大きさに依存するこ とが指摘されており [2], VR環境の臨場感を担保す るパラメータとして,画角の大きさが重要な設計パラ メータであるといえる.
そこで提案「VR環境最適化システム」は, YAW 輯等角速度回転表現のパラメータである「角速度」と
「画角」の設計によって視覚情報の空間情報量をコン トロールし,「VR酔いの抑止と臨場感の向上のバラン スを利用者にとって最適とするVR環境」を設計する ことを目指すこととする.
2.3 提案システムの開発上の課題
VR酔いは,臨場感の向上をもたらす高視野角,高 精細の映像をVR環境に利用するほど発症し,重度化 しやすいことが指摘されている [11].即ち, VR酔い の抑止と臨場感の向上を「角速度」と「画角」の両パ ラメータの設計によって図る場合,その効果がトレー ドオフの関係をなすことが想定される. したがって,
VR環境最適化システムの開発上,第一の課題は, V R 酔いの抑止と臨場感の向上のバランスを考慮し,利用 者にとって最適な「角速度」と「画角」を探索するメ カニズムを開発することである.
一方, VR酔いは,その発症要因や症状の程度に個 人差が大きく,多因子多症状のシンドロームであると 指摘されている [7].したがって,第二の課題は,この 利用者の設計パラメータに対するVR酔い特性及び臨 場感特性を掌握し,それを探索メカニズムに反映させ
る手段を開発することである.
3 V R環境最適化システム 3.1 V R環境最適化システムの概要
図1に,本研究で提案する「VR環境最適化システ ム」を示す.また,表1の3つの変数を定義する.
本システムのコンセプトは,「設計パラメータ(「角 速度」と「画角」)に対する利用者のVR酔い特性及 び臨場感特性を獲得し,その利用者の特性に合わせて,
VR酔いの抑止と臨場感の向上のバランスを最適とす る環境条件(最適条件)算出する」というものである.
本システムは,主として,任意の角速度x及び画角 yの環境における利用者の VR酔いの程度s(x,y)を 推定する NeuralNetwork(NN)‑Iを中心とした系統‑S
と,同様に利用者の臨場感の程度p(x,y)を推定する NN‑IIを中心とした系統Pの2系統で構成されている.
本システムは,系統‑S及び‑Pの各々から得られた利 用者のVR酔いの程度s(x,y)と臨場感の程度p(x,y)
より,任意の角速度xと画角yに対する利用者の「V R 酔いの発症のし難さ f(x,y)」と「臨場感の生起しや
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田中・高木:臨場感と V R酔いを考慮した人工現実感環境設計システム
. .
•·-
‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ .
• • • ・ U s e r Test II
.
. Angular Velocity o,... .
Vection Disappearance Angle~
. . ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑
‑‑ ‑ ‑
‑‑‑ ‑ ‑ ‑ .
Angular Velocity : X Y Visual Angle : y
. .
‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑
‑
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•• User Test I •
. . .
• Average of Exciting Velocity~. ' .: Standard Deviation of Exciting' Velocity~
‑ ‑
‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑}匹四咆....
・‑. ‑―̀
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• Past user's data base•
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#‑‑‑‑‑‑ preliminarily measured data
U)
Optimum condition search mechanism
図1 VR環境最適化システム
Fig. 1 System for optimizing virtual reality environment.
表1 本研究で定義する3変 数
Table 1 Three defined variables in this study.
赤
冬 数 定 義
V R酔 い の 励 起 速 度 S状SがQ発の症評す価る症最状もの低うちいずれかの症
(Exciting Velocity) い移動表現速度
ベ ク シ ョ ン の 生 起 率 ベクションが生起している時間がV R (Vection Occurrence Rate) 環境提示時間に占める割合
ベ ク シ ョ ン の 消 失 画 角 ベクションが生起しなくなる限界の (Disappearance Visual Angle) 画角の大きさ
すさg(x,y)」を算出する.次いで,これら f(x,y)と g(x,y)を拮抗させ適合度c(x,y)を算出する.
本システムは,このプロセスを探索空間内のすべて の角速度及び画角の組合せに対して行い,「適合度の個 人モデル」を獲得する.そして,この適合度の個人モ デルにおいて最大値を示す角速度と画角の組合せを最 適条件として出力する.
3.2 系統‑S:V R酔いの程度の推定メカニズム 本システムでは,利用者のVR酔い特性を測る指標 として, SimulatorSickness Questionnaire (SSQ)の Total Scoreを用いることとした.SSQとは,シミュ レータ酔いで発症する 16症状に対して4段階評価で 申告させる主観評価法である [8].
NN‑Iは,任意の角速度xと画角yを入力し,利用者 のその環境条件でのVR酔いの程度s(x,y)(SSQ To‑
tal Score)を出力する.NN‑Iは,この機能をTraining Data Iを学習することで実現する.Training Data I
は,ある特定の角速度と画角,及び,その環境で推定 される利用者の SSQTotal Scoreが列挙されている データベースである.
NN‑Iは,これを学習することで利用者のVR酔い 特性が反映され,(角速度x,画角y)の全環境条件で 利用者のVR酔いの程度,即ち, V R酔い特性の個人 モデルの推定を実現する.
このTrainingData Iを生成するメカニズムがNN‑
IIIである.NN‑IIIは, TrainingData Iに列挙される 各特定環境条件(角速度,画角)での利用者のVR酔 いの程度(SSQTotal Score)を個々に推定する NNを 独立に並列構成したNNの集合体である.
本来, TrainingData Iは,それに列挙される特定 環境条件(角速度,画角)のVR環境のすべてを実際に 利用者に提示し, VR酔いの程度 (SSQTotal Score)
を測定しなければ得られない.少数の特定環境条件下 であるとはいえ,このように実際に測定して利用者の VR酔いの程度を得ることを想定した場合,この測定 自体で利用者に重度のVR酔いを発症させてしまう可 能性は否定できず,その手間と合わせ,これらが実用 上の問題点となることが懸念される.
そこで,本システムは,利用者が発症する軽微な V R酔いの症状を捉え,かつ簡便に測定できる利用者 の「V R酔いの励起速度」(表1)の平均値と標準偏差 から,特定環境条件(角速度,画角)侮に利用者のV R 酔いの程度(SSQTotal Score)をNNによって推定し,
そのデータからTrainingData Iを生成する.この機 能を担うのが, NN‑IIIである.
即ち, NN‑IIIを構成する各NNは,利用者の VR 酔いの励起速度の平均値と標準偏差を入力とし,その NNが担当する特定環境条件(角速度,画角)で推定さ れる利用者の SSQTotal Scoreを出力する.そして,
最終的にNN‑IIIは,各NNが担当する特定環境条件
(角速度,画角)と,その出力値(SSQTotal Score)を 列挙し, TrainingData Iを生成する.よって, NN‑III
を構成する NNは, TrainingData Iに列挙する特定 環境条件数分存在し,個々に異なる特定環境条件の推 定を担当する.VR酔いの励起速度の平均値と標準偏 差は,事前に利用者から数回VR酔いの励起速度を測
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日本バーチャルリアリティ学会論文誌 Vol.11, No.2, 2006 定し獲得する(図 1中のUserTest I).
NN‑IIIを構成する各NNは,各々に用意されたTrain‑ ing Data IIIを学習することで推定を実現する.Train‑ ing Data IIIは,過去の利用者のVR酔いの励起速度 の平均値と標準偏差,そして,そのNNが担当する環 境条件で,過去の利用者が実際に発症したVR酔いの 程度(SSQTotal Score)が列挙されているデータベー
スである.
3.3 系統‑P:臨場感の程度の推定メカニズム 本システムでは,利用者の臨場感特性を測る指標と して,ベクションの生起率(表1)を用いる.ベクショ ンとは,自分が静止しているにも関わらず,自分が移 動した際と同等な視覚情報(移動表現)を得ると自分 が動いているような錯覚に陥る現象である.VR環境 で臨場感をもたらす要因はいろいろあるが,本システ ムの対象が,「視覚VR環境であること」,そしてその 中でも,「移動表現の設計であること」から,臨場感を もたらす要因としてベクションの生起が支配的である と考えてこの指標を採用した.
NN‑IIは,任意の角速度xと画角yを入力し,その 環境条件での利用者の臨場感の程度p(x,y)(ベクション の生起率)を出力する.NN‑IIは,この機能をTraining Data IIを学習することで実現する.Training Data II は,ある特定の角速度と画角,そして,その環境で推 定される利用者のベクションの生起率が列挙されてい
るデータベースである.
このTrainingData IIは,利用者から事前に複数の 角速度条件で測定したベクションの消失画角(表1)を
もとに主として生成され,以下, TDII-1~-4 の 4 つ のグループのデータで構成されている.
TDII‑1)ベクションの消失画角の測定角速度,ベク ションの消失画角,これらの条件に対するベクション の生起率(0%), TDII‑2)探索空間の角速度の最大値,
探索空間の画角の最大値,これらの条件に対するベク ションの生起率(100%と設定), TDII‑3)TDII‑1)と TDII‑2)の各データとの間で,各々線形補間(図 1の Interpolationの働き)しベクションの生起率が50%と なる角速度,同画角,これらに対するベクションの生 起率(50%), TDII‑4)ベクションの生起率が0%であ ると想定される角速度,同画角,これらの条件に対す るベクションの生起率(0%と設定).
NN‑IIは,これを学習することで利用者の臨場感特 性が反映され,(角速度x,画角y)の全環境条件で利 用者の臨場感の程度,即ち,臨場感特性の個人モデル の推定を実現する.
3.4 最適環境条件の推定メカニズム
本システムが算出する適合度の個人モデルは,式(1) によって探索空間内のすべての角速度xと画角yの組
合せに対し算出することで生成される.
c(x,y)=‑a(s,p)・J(x, y)
+
(3(s,p)・g(x, y)2 (1) また,式(1)のVR酔いの発症のし難さ f(x,y)と 臨場感の生起しやすさg(x,y)は,式(2)及び式(3)で 表される.
f
(x, y)=
T SSQmax ‑s(x, y)"'(" SSQmax (2)
g(x, y) = p(x, y) (3) ここでSSQmaxはSSQTotal Scoreの評価値スケー ルの最大値, 1は当該VR環境のVR酔いの重度化し 易さを表す定数である.
r
は,過去の利用者の SSQ Total Score から算出される 0~1 の値で,その値が 1に近いほど,重度化しやすいことを意味する.
また,式(1)のa(s,p)及 び(3(s,p)は, NN‑Iが推 定したVR酔いの程度s(x,y)とNN‑IIが推定した臨 場感の程度p(x,y)によって決まる値である.a(s,p)
はVR酔いの発症のし難さ J(x,y)の設計仕様上の優 先度を, (3(s,p)は臨場感の生起しやすさ g(x,y)の設 計仕様上の優先度を決定する重み係数である.即ち,
VR環境の設計者は, a(s,p)及びf3(s,p)をs‑p平面 上で設計することによって, J(x,y)及 びg(x,y)の優 先度を自由に設定することが可能で,その結果,設計 仕様に合った最適条件の出力が可能となる.
VR環境は,短時間使用が主で臨場感を優先したい 場合や,逆に長時間ストレス環境下の利用が主でVR 酔いの抑止を優先したい場合等,利用条件によって設 計の要求仕様が異なる.提案システムは,このa(s,p) 及び(3(s,p)の設計によってVR酔いの抑止と臨場感 の向上の要求重視割合を変化させ,これら様々なVR 環境設計への要求に対応することが可能となる.な お,本論文では,代表的な設計要求仕様と思われる,
酔いの抑止と臨場感生起の重み付けを等しくする場合 (a(s,p) = (3(s,p) = 1)を取り上げ,評価実験を行う.
3.5 V R環境最適化システムの特長
これらのメカニズムから提案VR環境最適化システ ムは以下の特長を実現できる.
(特長1)簡易で健康面への影響を配慮した測定が可 能な指標 (VR酔いの励起速度,及びベクションの消 失画角)の事前測定データから,利用者の VR酔い特 性及び臨場感特性を推定することを可能とする.
(特長2)推定した利用者のVR酔い特性と臨場感特 性から,両特性が示すトレードオフ関係を利用者個々
に推定し,最適条件を算出することを可能とする.
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田中・高木:臨場感と V R酔いを考慮した人工現実感環境設計システム
従来のVR酔い対策では, VR酔い特性に個人差が 大きいことが指摘されながらも,利用者の大多数を対 象とした設計ガイドラインの考案や,一律に同様の対 策を施す手法が提案されてきた.その大きな理由は,
この個人差に対応したくても,そのために不可欠な利 用者個々のVR酔い特性を獲得するためには,無数の 環境条件に対し,一つ一つ利用者に何度も VR酔いを 実際に発症させながらデータ収集する他なく,健康面 への影響や,時間や手間の問題で困難であったことに ある.
本システムは,特長1及び2によって,これら従来 の研究の問題点へのブレイクスルーを可能にし,広く 利用者の特性に合わせたVR環境の最適条件を算出す
ることを可能とする.
4 評価実験
本研究では, VR環境最適化システムの評価実験を,
本実験の被験者の特性分析実験(実験I)と,本システ ムが算出する最適条件の有効性の検証実験(実験II)の 2部構成とする.以下に実験条件を示す.
実験I及びIIで使用する実験環境を図2に示す.被験 者は,液晶シャッター眼鏡(フィールド周波数:llO[Hz])
をかけて,ベクションの状態報告用のコントローラを 両手で持ち,両足尖及び踵が軽く接するように立つ.
生成した時分割式立体視映像(解像度:800x600)は, 暗室の床上0.95[m]に設置した縦横 1.2xl.6[叫 単 面 スクリーンにプロジェクタ (SONY製 VPH‑1272QJ, 200[1叫(全白時))で背面投影する.
実験用コンテンツは,図 3の立方体閉空間を用いる.
被験者に提示する映像は,被験者が図 3に示す位置に いた場合に得る映像,即ち,視点は閉空間の中心位置,
視線ベクトルは大地面に対して平行とした場合に得ら れる映像とする.移動表現は, YAW軸ー等角速度回転
(反時計回り)とする.また,本コンテンツは,被験者 が本表現の正確な回転状態(回転量,方向など)を認識 しやすいように立方体閉空間とすることに加え,壁面 には白・黒・灰の3色からなる市松模様(5x5)を配す る.両眼視差量は,本立方体閉空間の仮想空間上の大 きさが3.0x3.0x3.0[叫相当となるように設定し,本 視差量を常に維持する.提示画面は縦横比3:4を常 に維持する.
また,予備実験で被験者12名に対して角速度120[0 /s], 水平画角 75[゜]の環境条件で本立方体閉空間に
よるYAW軸等角速度回転を提示し,回転角90,180, 270, 及 び360[゜]の認識度合いを確認したところ,す べての被験者が,すべての角度において土5゜の精度 で回転量を認識できることが確認された.
謝金雇用された被験者は,事前にV R酔いの発症に
図2 実験装置
Fig. 2 Experimental Equipment.
図3 実験用VRコンテンツ Fig. 3 Experimental VR content.
ついてインフォームド・コンセントを得た 22 歳 ~47 歳の15名(男性10名,女性5名)である.全員が,正 常な視力(矯正も含む1.0以上)と正常な平衡感覚(両 脚直立検査(閉眼・開眼)60[s]以上,単脚立位検査(開 眼)30[s]以上,(閉眼)15[s]以上)を有している.
5 実験I:被験者の特性分析実験 実験Iは,以下に示す手順で実施する.
手順I‑1: 表2の各条件でYAW軸ー等角速度回転映 像を被験者に180[s]間提示する(表2及び以下の説明 での画角とは水平画角を意味する).被験者は,コン
トローラの十字キーを操作して,ベクションを感じ ている状態(前方へ押し続けるよう指示),感じてい ない状態(後方へ押し続けるよう指示),判断がつか ない状態(何もしないよう指示)のいずれであるかを 報告する.実験前に必ずSSQTotal Scoreが0であ ることを確認後実施する.
手順I‑2:提示直後, SSQと感想や印象などの聴き取 り調査を行う.
ただし,実験条件の実施順序は,順序効果に配慮 してランダムに決定し,同じ実施順序となった被験 者はいない.実験間隔は最低 5分間設け,次条件の 実験前に実施する SSQでTotalScoreが0の状態ま で回復したことが確認されない場合は,確認できる まで時間間隔を置く.
‑305‑
日本バーチャルリアリティ学会論文誌 Vol.11, No.2, 2006
Table 2
表2 実 験Iの条件
Experimental Conditions of Experiment I.
No. Angular Velocity Visual Angle 1 90 [ 0 /s] 75 [ 0
l
1.1
.
90 [ 0 /s] 52.5 [ 0
l
l.l..l 90 [ 0 /s] 30 [ 0
l
IV 50 [ 0 /s] 75 [ 0
l
V 10 [ 0 /s] 75 [ 0
l
5.1 実験1の結果
5.1.1 被験者の全体的特徴
全体的に画角一定(75[゜])の条件下では,角速度が 速くなるにつれて,被験者のベクションの生起率は大 きくなり,臨場感が高まる傾向を示し(図4(a)),一方,
SSQ Total Scoreは高くなり, VR酔いの症状が重度 化する傾向を示した(図 4(b)).
また,角速度一定(90[0 /s])での条件下では,画角 が大きくなるとベクションの生起率は大きくなり,臨 場感が高まる傾向を示し(図5(a)),一方, SSQTotal Scoreは高くなり, V R酔いの症状が重度化する傾向 を示した(図5(b)).
これらの結果より,被験者の全体的特徴としては,
臨場感が高い条件ほどV R酔いの症状が重くなり,臨 場感が低い条件ではV R酔いの症状も軽くなる傾向が みられた.即ち,臨場感の向上と VR酔いの抑止の関 係は,角速度と画角の変化においてトレードオフの関 係があることが予測される.これは,角速度と画角の 設計によって臨場感の向上と V R酔いの抑止を制御で きる可能性があることも示唆していると考えられる.
5.1.2 被験者の個人差
被験者のSSQTotal Scoreの標準偏差は,平均値が 高い条件ほど大きくなる傾向を示した(図4(b),5(b)).
これは, V R酔いの症状が重度化しやすい条件ほど,症 状の程度に個人差が生じる傾向にあることを示してい る.そこで, V R酔いの症状が比較的重度化した表2 の実験条件No.i,ii及びivでの各被験者のSSQTotal Scoreの平均値をパラメータとしてEuclidean距離に
よるクラスタ分析を行い,本実験の被験者に対する V R酔いの程度の個人差を分析した.
その結果,被験者は, V R酔いの発症の程度によっ て大きく分けて No.1~7 の X 群, No.8~15 の Y 群の 2 群に分類され,かつ Y 群は, No.8~11 の Y-I 群と No.12~15 の Y-II 群に細分類される傾向がみられた.
そこで,同パラメータで群間の多重比較検定(Scheffe のF検定)を行った結果, X群と Y‑I群, X群と Y‑II 群,及びY‑I群と Y‑II群の間でそれぞれ有意差(p
<
O.Ol,p
<
O.Ol,p<
0.05)が確認された.これらより, X群は, Y 群と比較しV R酔いの症状 の程度が有意に重度化する傾向があり, Y群の中でも
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0 0 0 0 8 0 M e / A n g
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L図4
Fig. 4
8 0 6 0 4 0
9﹂
o : : i 1 es i o1 o s s
Visual Angle 75 [゜] 120 I I I I
Max 1
100卜尺:一一―~- ‑ ‑ ‑ -~- ‑
I
20
゜
卜□ L I I I
10 50 90
Angular Velocity [0 /s] (b) 臨場感と VR酔いの角速度特性(画角: (75[ 0 ] )
(平均値,標準偏差,最大値及び最小値)
(a)ベクションの生起率, (b)SSQ Total Score
Angular velocity characteristics of presence and VR sickness (Visual angle: 75[ 0 ] )
(x, び, Maxand Min). (a) Vection occurrence rate. (b) SSQ total score.
9 9
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図 5
Fig. 5
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(b) 120
100
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臨場感と VR酔いの画角特性(角速度:90[ 0 /s])
(平均値,標準偏差,最大値及び最小値)
(a)ベクションの生起率, (b)SSQ Total Score
Visual angle characteristic of presence and VR sick‑ ness (Angular velocity: 90[ 0 /s])
(文,び, Maxand Min). (a) Vection occurrence rate. (b) SSQ total score.
Y‑I群は, Y‑II群と比較しVR酔いの症状の程度が有 意に重度化する傾向があることが確認された.
また, Y‑I群の被験者は,他の被験者よりもベクショ ンの生起率が低くなる傾向がみられた.そこで,表2 の実験条件No.i,ii及 びivにおけるベクションの生 起率の平均値を各群のパラメータとし,群間の多重比 較検定 (ScheffeのF検定)を行った.その結果, Y‑
I群と X群, Y‑I群と Y‑II群の間でそれぞれ有意差 (p
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0.01)が確認された.これより, Y‑I群 のベクションの生起率は, X群と Y‑II群よりも有意 に低いことが確認された.以上のような本実験の被験者の個人差が,最も強く 現れたのがNo.iの条件であった.図6に,条件No.iに おける各被験者の SSQTotal Scoreに対するベクショ
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田中・高木:臨場感と V R酔いを考慮した人工現実感環境設計システム
表3 トレーニングデータ I Table 3 Training Data I.
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No Angular Velocity Visual Angle SSQ Total Score 1 90 [ 0 /s] 75 [ 0
l
NN‑III Unit‑1 Output 2 90 [ 0 /s] 52.5 [ 0l
NN‑III Unit‑2 Output 3 90 [ 0 /s] 30 [ 0l
NN‑III Unit‑3 Output 4 10[0/s] 75 [ 0l
NN‑III Unit‑4 Output 5 10[0/s] 52.5 [ 0 J NN‑III Unit‑5 Output 6 10 [ 0 /s] 30 ゜[l
NN‑III Unit‑6 Output表4 トレーニングデータ II Table 4 Training Data II. 図6 表2No.iでのSSQTotal Scoreとベクションの生起率
Fig. 6 SSQ Total Score vs. Vection Occurrence Rate under the condition of N o.i in Table 2.
ンの生起率を示した.
以上より,本実験の被験者は,高いベクションの生 起率を示すが,その反面,重度のV R酔いを発症する 被験者群(X群), X群と同等に裔いベクションの生起 率を示しながらも, V R酔いをほとんど発症しない被 験者群 (Y‑II群),そして,他の被験者よりもベクショ ンの生起率が低いが,重度のV R酔いを発症する X群 よりも有意にV R酔いの症状が軽い被験者群(Y‑I群) の最低でも 3つの特徴群に分類でき,被験者のV R酔 い特性及び臨場感特性に個人差があることが確認され た.これは,快適なV R空間を設計する為には,被験 者個々の特徴に合わせてV R環境の最適化を図ること が求められてくることを示唆していると考える.
6 実験II:V R環境最適化システムの有効性の検証 実験IIは,以下に示す手順で実施する.
手順11‑1(図1User Test I) : 角速度がO[0 /s]から 毎秒1[0/s]増加する YAW輯等角加速度回転映像 (max: 120[ 0 /s])を被験者に提示し, V R酔いの励起 速度を 5回繰り返し測定する.ただし,各測定回は,
V R酔いの励起速度が測定され次第終了し,次回の測 定に移る.また,測定と測定の間には,本閉空間内 での静止を表現する映像を 30[s]間提示する.5回の 測定後にSSQを実施する.
手順11‑2(図1User Test 11) : 角速度90,50, 10[ 0 /s]のYAW軸等角速度回転映像を被験者に提 示し,画角を 75[0
l
から毎秒1[ 0l
減少させてベク ションの消失画角を測定する.また,測定と測定の 間には,本閉空間内での静止を表現する映像を30[s] 間提示する.最後にSSQを実施する.手順11‑3:手順II‑1及びII‑2から得られた各被験者 のV R酔いの励起速度の平均値及び標準偏差,ベク ションの消失画角の情報をシステムに入力し,探索
No Angular Velocity Visual Angle VOR*2 1 90 [ 0 /s] DVA‑1*1 0 [%] 2 50 [ 0 /s] DVA‑2*1 0 [%] 3 10 [ 0 /s] DVA‑3*1 0 [%] 4 120[0/s] 75 [ 0
l
100 [%] 5 120 [ 0 /s]o [
0l
0 [%] 6 60 [ 0 /s]o [
0l
0 [%] 7 0 [ 0 /s] 0 ゜[l
0 [%]8 0 [ 0 /s] 52.5 [ 0
l
0 [%],
0 [ 0 /s] 30 [ 0l
0 [%] 10 interpolated by using No. l and 4 Data 50 [%] 11 interpolated by using No.2 and 4 Data 50 [%] 12 interpolated by using No.3 and 4 Data 50 [%]*1 DVA‑1‑3: Measured data of user's Disappearance Visual Angle
*2 VOR: Vection Occurrence Rate
範囲(角速度: 0~120[ 0 /s], 画角: 0~1s[ 0 ])の(角 速度,画角)をそれぞれ1[0 /s]及び1[゜]刻みでシス
テムに入力し,式(1)のc(x,y)を最大にする最適(角 速度x,画角y)を探索する.ただし,手順II‑1で5 回の測定すべてで励起速度が測定できない被験者に 対しては,無条件に最適条件を(角速度,画角)=
(120[ 0 /s], 75[゜])と出力する.
手順11‑4:手順II‑3で得られた最適環境条件下にて,
実験Iの手順I‑1同様にYAW輯等角速度回転映像 を被験者に 180[s]間提示し,被験者は,コントロー ラの十字キーを介して,ベクションを感じている状 態感じてない状態,判断がつかない状態のいずれ であるかを報告する.
手順11‑5:提示直後, SSQと感想や印象などの聴き 取り調査を行う.
また,実験IIを行うにあたって構築した図1のシ ステム構成の詳細について以下に説明する.
【実験時のシステム構成の詳細】
本システムは,すべての利用者に対する最適条件の 探索を可能とするために,探索範囲の決定コンセプト を「探索範囲はV R環境の設計仕様から想定し得る最 大限の範囲に設定する」こととした.即ち,利用者の 特性が集中する範囲に探索範囲を絞り探索効率を向上 させるような特別な探索戦略はとらない.よって,本 実験では,角速度の探索範囲の最大値を予備実験で回
‑307‑
日本バーチャルリアリティ学会論文誌 Vol.11, No.2, 2006
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Angular Velocity [0 /s] 図7 VR酔いの励起速度の平均値に対するV R酔いの程度(角
速度:90[ 0 /s], 画角:(75[0]): 過去の被験者12名のデータ Fig. 7 Average of Exciting Velocity vs. SSQ Total
Score(Angular velocity:90[ 0 /s], Vis叫 angle:75[0 ])
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図8 VR酔いの励起速度の標準偏差に対する VR酔いの程度
(角速度:90[0 /s], 画角:(75[0]): 過去の被験者12名のデータ Fig. 8 Standard deviation of Exciting Velocity vs. SSQ
Total Score(Angular velocity:90[ 0 /s], Visual an‑ gle:75[゜])
転角度の認識度合いが確認されている 120[0 /s], 画角 の探索範囲の最大値を視距離とスクリーンサイズの関 係から設定できる最大値の 75[0 /s]とした.
(角速度,画角)を入力してSSQTotal Score(VR酔 い特性)を出力する NN‑Iは,ユニット数(入力層,中 間層,出力層)
=
(2, 2, 1)のfeed‑forward型N Nで実 現し, backpropagation学習則で学習する.学習デー タの入カデータは表 3の(角速度,画角),教師データ となる SSQTotal Scoreは後述の NN‑III出力を用い て学習する.NN‑IIIは表3の条件毎に用意する 6つ のN Nから構成される.(角速度,画角)を入力してベクションの生起率(臨 場感特性)を出力する NN‑IIは,ユニット数(入力層,
中間層,出力層)
=
(2, 2, 1)のfeed‑forward型N N で実現し, backpropagation学習則で学習する.学習 データの入カデータ(角速度,画角)と教師データと なるベクション生起率は,表4の条件を用いる.User Test Iで測定したV R酔いの励起速度からNN‑I 用の学習データを出力するNN‑IIIは, 6つのNN(Unit‑
1~-6: 表3の各条件のSSQTotal Score出力を担当)
で構成する.各々のN Nは,ユニット数(入力層,中 間層,出力層)
=
(2, 2, 1)のfeed‑forward型N Nで実図9 VR環境最適化システムが推定した各被験者の最適条件 Fig. 9 The optimum conditions of each subject calculated
by the this system.
100 Optimum condition
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SSQ Total Score
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図10 最適条件下の SSQTotal Scoreとベクションの生起率 Fig. 10 SSQ Total Score vs. Vection Occurrence Rate under
optimum conditions.
現し, backpropagation学習則で学習する.学習デー タは,予め測定した過去の被験者12名のV R酔いの 励起速度(平均値,標準偏差)を入カデータ,同被験者 らが実際に表 3の環境条件(角速度,画角)で測定され たSSQTotal Scoreを教師データとして用いる.これ ら過去の 12名の被験者は,今回の評価実験の被験者 に含まれていない.本被験者らの角速度90[0 /s], 画角 75[ 0
l
のV R酔いの励起速度の平均値と標準偏差に対 する V R酔いの程度をそれぞれ図7及び図8に示す.6.1 実験IIの結果
図9に,本システムが算出した各被験者の最適条件
(角速度,画角)を,図10には,最適条件における SSQ Total Scoreに対するベクションの生起率を示した.
本最適条件の V R環境下でのベクションの生起率 を平均79.2%(min: 70.2%), SSQ Total Scoreを平均 35.7(max: 44.88)とすることができた.
また,本被験者のうち,実験Iの結果最も環境条件の 最適化が望まれると考えられたX群の被験者では,ベ クションの生起率を平均77.3%(min:70.2%)に維持し つつも, SSQTotal Scoreの平均を39.0(max: 44.88) に抑えることができた.
‑308‑
田中・高木:臨場感と V R酔いを考慮した人工現実感環境設計システム
7 考 察
本 シ ス テ ム が 算 出 し た 最 適 条 件 を 個 々 に 適 用 し た VR環境は,実験条件No.iを被験者全員に対し一律に 適用したVR環境と比較して,ベクションの生起率の 平均値をほとんど低下させずに (1%未満), SSQTotal Scoreの平均値を下げる (12.5)ことができることが確 認できた(図ll(a)).また,この傾向はX群でさらに 顕著に表れ,ベクションの生起率の平均値は2.9%の 低下に抑えつつも, SSQTotal Scoreの平均値を 40.1 低下させることができることが確認できた(図ll(b)). また, Y‑I群に関しては,最適条件下ではSSQTotal scoreの平均値は増加(9.4)したものの,ベクションの 生起率の増加(6.4%)が見られ,実験Iで確認されたベ クションの生起率が有意な低下傾向を示すという Y‑I 群の好ましくない特徴を打ち消すような環境条件をシ ステムが算出している傾向が確認できた(図ll(c)).
さらに,図ll(a)のSSQTotal Score—ベクションの 生起率平面で示した確率楕円(信頼度: 1び)は,表2 の実験条件No.iの場合と最適環境条件の場合で比較 すると最適環境条件で非常に小さくすることができた
(面積比 1:0.167)ことにより,被験者の個人差を小さ くすることにも対応できる可能性も示せたと考える.
本システムが,このようなVR酔いの抑止しつつも 高臨場感を確保できるような環境条件を算出できる事 例を得たことは,高臨場感を実現する環境条件が,直 ちにV R酔いを発症させる環境条件となるわけではな く,両条件間には個人の特性によって値や幅が異なる 幾分かのマージンが存在していることを示唆し,本シ ステムの手法が,そのマージン内のVR酔いの抑止と 臨場感の向上とのバランス状態を探索することを可能 にしたと考える.
これまで,視覚情報による身体の回転表現では 60~
70[ 0 /s]付近で, V R酔いの程度が最大となることが 報告されている [21][5].一方,本実験ではほとんどの 被験者が 60~70[0 /s]を越えても回転速度の増加に伴 いVR酔いの程度が重度化する傾向が見られた.空間 識は, VR環境で同一の視覚情報を提供しても,基準 とする情報は人によって異なり複数存在することが報 告されている
[ 1 ] .
このことは,利用者の空間識の安定 性に影響を及ぼすVR環境の情報が,利用者個々で異 なる可能性を示唆している.利用者が空間識を形成す る上で基準としている情報(空間識基準情報)が異な る場合,同一の移動表現映像をVR環境で提供したと しても,この映像が,利用者の空間識基準情報に及ぼ す影響が異なり,利用者の空間識の安定度合いに大き な差を生じる可能性がある.これらの点から, VR酔 いは多因子多症状であると考えられる.加えて, VR 環境は,連続利用によって利用者は適応を獲得し,100 95
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X Average O90p[t0 imum condition
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40 60 80 SSQ Total Score
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40 60 80 SSQ Total Score
(c) Y‑I group
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100 120
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‑‑‑ 1 O" density ellipse 90(0 Is ] 75(0 ]
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X Optimum condition
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表2No.iと最適条件下におけるSSQTotal Score対ベク ションの生起率の比較(a)全被験者, (b)X群, (c)Y‑1群 Comparison between SSQ total score vs. Vection occurrence rate under the condition of Table.2 No.i and optimum conditions. (a)All subjects, (b)X group and (c)Y‑1 group.
同
‑309‑