鹿児脚綴済論集第60巻第3号(2019年12月)
509自動車損害賠償保障法16条1項における被害者の 損害賠償額支払請求権と労災保険代位請求権の優劣
一最高裁第1小法廷平成30年9月27日判決を踏まえて−
日野一成
■アブストラクト
最判平成20年2月19日民集62巻2号534頁は、自動車損害賠償保障法16条 1項における被害者の損害賠償額の支払請求と老人健康保険の代位請求権の 優劣の問題について、 「被害者優先説」を採った。同判決を受けて、 自賠責 保険実務は、健康保険者等からの代位請求があった場合、従来の扱いであっ た「按分説」から「被害者優先説」の取り扱いに変更されたが、労災保険者 からの代位請求については、労災保険の「損害の填補性」を理由として、従 前の「按分説」を維持した。この問題に対し、筆者は既に、損害保険の研究 誌において、第三者有責の事案では、労災保険が「損害の填補性」というよ りも「公的給付」の色彩が濃い点を指摘し、労災保険の場合も最判平成20年 2月19日が射程し、 「被害者優先説」を採るべきと主張していたものである。
そこで、この問題に対する最高裁判断が待たれていたが、最判平成30年9月 27日民集72巻4号432頁は、 自賠責保険実務が採用する「按分説」を否定し、
「被害者優先説」を採る判断を行った。よって、本稿では、最判平成30年9 月27日における、同問題を概観し、その判断に対する考察を行うものである。
●キーワード
労災給付、 自賠法16条1項、労災保険代位請求権
目次
l.はじめに
510鹿児島経済論集第60巻第3号(2019年12月)
2.最判平成30年9月27日民集72巻4号432頁の概要 3.最判平成30年に対する考察
4. おわりに
1.はじめに
自動車損害賠償保障法(以下、 「自賠法」という) 16条1項において、被 害者による損害賠償額支払請求権と社会保険者の代位請求権が競合した場合 の取り扱いについて、①被害者が優先するという考え方(被害者優先説) と
②両者の損害額を按分するという考え方(按分説)が対立していた'。この点、
従来の自賠責保険実務は、一般に、両者の請求が同質の債権であり優劣関係 にはないとして、②の「按分説」を採用し、社会保険者の求償額と被害者の 総損害額から同求償額を差し引いた額の割合で按分した額をそれぞれに対し て支払うとされてきた2。
これに対し、最判平成20年2月19日民集62巻2号534頁(以下、 「最判平成 20年」という)は、自賠法16条1項における被害者の損害賠償額の支払請求 権と老人健康保険の代位請求権の優劣の問題について、 「被害者優先説」を 採った。同判決を受けて、自賠責保険実務は、健康保険者等からの代位請求 があった場合、 「被害者優先」の取り扱いに変更されたが、労働者災害補償 保険3 (以下、 「労災保険」という)の保険者からの代位請求については、労 災保険が「損害の填補性」を有し、他の社会保険との相違を理由に、従前の
! 森富義明「被害者の行使する自賠法16条1項に基づく請求権の額と市町村長が老人保 健法(平成17年法律第77号による改正前のもの)41条1項により取得行使する上記請 求権の額の合計額が自動車損害砿償責任保険の保険金額を超える場合に、被害者は市 町村長に優先して損害賠償額の支払いを受けられるか」 (ジュリスト1363号) 114頁参 照。森富は社会保険者が優先するという考え方(社会保険優先説) もありうるが、こ の説を主張するものはないようであるとしている。
2 佐野誠「自賠責保険における被樗者の直接請求権と社会保険者の代位請求権の優劣」
(私法判例リマークス39, 2009年) 46頁参照。
3 ここでは、国家公務員災害補償法及び地方公務員災害補償法による補償も労災保険と
して扱う。
日野一成:自動車損害賠償保障法l6Al項における彼害者の損害賠償額支払講求権と労災保険代位請求権の優劣 511
按分説による保険実務が維持されるというものであった4.
この自賠責保険実務が労災保険の代位請求のみを従来通りの「按分説」に よる取り扱いとすることについては、筆者においても損害保険の研究誌で批 判し、第三者有責の事案では、労災保険が「損害の填補性」というよりも「公 的給付」の色彩が濃い点を指摘し、労災保険の場合においても最判平成20年 が射程し「被害者優先説」を採るべきと主張していたものである5o
そこで、この問題についての最高裁判断が待たれていたが、最判平成30年 9月27日民集72巻4号432頁(以下、 「最判平成30年」という)は、 自賠責保 険実務が採用する「按分説」を否定し、 「被害者優先説」を採る判断を行っ た6o
この結果、 「被害者優先説」の妥当性が確認されたものの、 10年間にも及 ぶ自賠責保険実務が採ってきた取り扱いは、被害者保護に惇る行為であり、
甚だ遺憾と言わざるを得ない。本稿では、改めて最判平成30年における、 こ の問題について概観し、その判断に対する考察を行いたい。
2最判平成30年9月27日民集72巻4号432頁の概要 (1)事案の概要
平成25年9月8日午後ll時29分頃、静岡県下の国道上で、A社のトラック 運転手が普通乗用自動車を運転中、中央線を越え、反対車線を走行していた
| 佐野・前掲注2.49頁参照。佐野によれば、自賠責保険実務は、 「自賠責保険者に対し て先に健康保険者からの求償があった場合、 自賠責保険者が被害者に対して通知する。
ただし、被害者が直接請求を行うかどうかまでの確認を行わず、概ね2週間程度待っ ても被害者から請求がなければ健康保険者からの求償に応じる。ここで、被害者から の直接請求があれば、それを健康保険者の求償に優先する」との取り扱いに変更され たとしている。また、労災保険の代位求償については依然として按分説を採用すると
している。
5 拙稿「自賠法16条1項における被害者の請求権と労災保険者の代位請求権の優劣にl則 する一考察」 (損害保険研究第77巻第1号、 2015年) 149頁参照。
6 判例時報2401号23頁、判例タイムズ1458号100頁、金融法務事情2111号71頁、金融・商
事判例1555号8頁、金融・商事判例1559号14頁の各解説に触れた。
512鹿児島経済論集第60巻鋪3り・ (2019年l2月)
X(事故当時60歳)運転の中型貨物動車に正面衝突(以下、 「本件事故」と いう)し、Xが受傷した。Xは、労働者災害補償保険法(以下、「労災保険法」
という)に基づく給付を受けたが、労災保険給付を受けてもなおてん補され ない損害につき、A社加入の自賠責保険の保険会社Yに対して、自賠法16条 1項に基づき、自賠責保険金額を限度とした損害賠償額の支払を求めた。Y は、労災保険給付により政府が代位取得した請求権と按分すべきであると主 張したため、Xが損害賠償額及び遅延損害金(本稿では遅延損害金の問題は 省略する)訴訟を提起。
第1審は、 「自賠責保険は、 自動車の運行によって人の生命又は身体が害 された場合における損害賠償を保障する制度を確立することにより、被害者 の保護を図ることを目的とする制度であり (自賠法1条)、 自賠法16条1項 は、被害者請求によって、被害者が少なくとも自賠責保険金額の限度では確 実に損害のてん補を受けられることにして、その保護を図るものである。し たがって、被害者が、交通事故が原因で労災保険給付を受けたとしても、加 害者に対し賠償を求めることができる損害額の全てがてん補されていなけれ ば、その未てん補損害の額につき、政府に優先して、自賠責保険の保険会社 から損害賠償額の支払を受けられるというべきである」と判示した。
Yは、これを不服として控訴(Xも控訴したが、理由は遅延損害金の扱い)
したが、控訴審においても「1審被告は、控除前相殺説との整合性を理由に
按分説が妥当であるとする。 しかし、いわゆる第三者行為災害において、災
害によって権利を侵害された労働者等の保険給付受給者の加害者である第三
者との関係における請求権の算定において過失割合による減額をした後の残
額から保険給付の価格を控除するとの解釈(控除前相殺説)によったとして
も、本件のように被害者による被害者請求権と政府が代位取得した被害者請
求権の優劣をどのように解するかについては別の問題であって、被害者によ
る被害者請求権が優先すると解することが控除前相殺説に矛盾するものとい
うことはできない。労災保険は、その給付がされれば、使用者は労基法̲上の
災害補償の責任を免れる(労基法84条1項参照)ことなどの点において、使
日野一成:自動車損害賠償保障法l"l項における彼悪者の損害賠償額支払請求権と労災保険代位論求権の優劣 513
用者の災害補償責任の責任保険としての役割を果たしているということがで きるから、控除前相殺説には一定の合理性がある。他方、労災保険は、労働 者の保護を図ることを理念として、保険加入者たる事業主の費用共同負担の 下に保険給付として独自の災害補償を労働者に直接行い災害補償の迅速かつ 公正な実施を行うことを目的とするのであって、 この点から被害者の請求権 が政府の請求権に優先すると解することができるから、控除前相殺説と矛盾 するものとはいえず、 したがって、 1審被告の主張は採用することができな い」として、 1審の被害者優先説を支持した。
そこで、Yが上告。
(2)判旨上告棄却7.
①所論は、自動車の運行によって生命又は身体を害された者(以下「被害 者」という)の直接請求権の額と労災保険法12条の4第1項により国に移転 した直接請求権の額の合計額が自賠責保険金額を超える場合には、被害者 は、その直接請求権の額が上記合計額に対して占める割合に応じて案分され た自賠責保険金額の限度で損害賠償額の支払を受けることができるにとどま る旨をいうものである。
②しかしながら、被害者が労災保険給付を受けてもなお填補されない損害 (以下「未填補損害」という)について直接請求権を行使する場合は、他方 で労災保険法12条の4第1項により国に移転した直接請求権が行使され、被 害者の直接請求権の額と国に移転した直接請求権の額の合計額が自賠責保険 金額を超えるときであっても、被害者は、国に優先して自賠責保険の保険会 社から自賠責保険金額の限度で自賠法16条,項に基づき損害賠償額の支払を 受けることができるものと解するのが相当である。その理由は、次のとおり である。
判決は、遅延損害金の支払請求を棄却した部分を破棄し、控訴審に差し戻しているが、
本問題は確定しており、再戻控訴群の判断等は省略。
514鹿児島経済論集第60巻第33・ (2019年12月)
(i)自賠法16条1項は、同法3条の規定による保有者の損害賠償の責任が 発生したときに、被害者は少なくとも自賠責保険金額の限度では確実に損害 の填補を受けられることにしてその保護を図るものであるから(同法1条参 照)、被害者において、その未填補損害の額が自賠責保険金額を超えるにも かかわらず、自賠責保険金額全額について支払を受けられないという結果が 生ずることは、同法16条1項の趣旨に沿わないものというべきである。
(ii)労災保険法12条の4第1項は、第三者の行為によって生じた事故につ いて労災保険給付が行われた場合には、その給付の価額の限度で、受給権者 が第三者に対して有する損害賠償請求権は国に移転するものとしている。同 項が設けられたのは、労災保険給付によって受給権者の損害の一部が填補さ れる結果となった場合に、受給権者において填補された損害の賠償を重ねて 第三者に請求することを許すべきではないし、他方、損害賠償責任を負う第 三者も、填補された損害について賠償義務を免れる理由はないことによるも のと解される。労働者の負傷等に対して迅速かつ公正な保護をするため必要 な保険給付を行うなどの同法の目的に照らせば、政府が行った労災保険給付 の価額を国に移転した損害賠償請求権によって賄うことが、同項の主たる目 的であるとは解されない。したがって、同項により国に移転した直接請求権 が行使されることによって、被害者の未填補損害についての直接請求権の行 使が妨げられる結果が生ずることは、同項の趣旨にも沿わないものというべ
きである。
(3)最判平成30年に対する考察
①最判平成30年の判旨
最判平成30年の判旨に賛成である。同判旨は、 自賠法16条1項の規定につ
いて、被害者が少なくとも自賠責保険金額の限度では確実に損害の填補を受
けられることにして、同法1条の被害者保護を図るものであるとし、被害者
の未填補損害の額が自賠責保険金額を超えるにもかかわらず、自賠責保険金
額全額について支払を受けられないという結果が生ずることは、同規定の趣
日野一成:自動車損害賠悩保障法l6"項における被智滑の棚普賠悩額支払請求確と労災保険代位請求椎の優劣 515
旨に沿わないとするものであり、 自賠法の被害者保護の観点から極めて妥当 な判断であると考えられる。
この点、最判平成18年3月30日民集60巻3号1242頁は、訴外で被害者が自 賠法16条1項に基づき、自賠責保険認定額(約1809万円) と加害者の賠償金 (32万円)合計約1841万円を受領し、 さらに、訴訟を提起して、 自賠責保険 等の認定額を約320万円上回る認定を行ったことを受けて、その後の裁判例8 では、 自賠責保険の認定額を上回るだけでなく、下回る場合にも妥当すると 解釈しているが、最判30年の判旨では、この下回る場合に矛盾が生じると考 えられ、自賠法16条1項に基づく被害者の請求権行使の場面では、最高裁の 判断は、下回りの場合を排除する可能性が高いものと推定される9.
また、労災保険法12条の4第1項の損害賠償請求権の移転については、制 限的であり、労災保険の目的として、労働者の負傷等に対して迅速かつ公正 な保護をするため必要な保険給付の観点から、労災保険給付の価額の国への 移転は、損害賠償請求権によって賄うことが、同項の主たる目的であるとは 解されず、国に移転した直接請求権が行使されることによって、被害者の未 填補損害についての直接請求権の行使が妨げられる結果が生ずることは、同 項の趣旨にも沿わないとしており、妥当な判断と考えられる。
以下、最高裁の判旨にはないが、筆者が「被害者優先説」を唱える理由に つき、捕捉しておきたい。
(2)最判平成20年と最判平成30年
自賠法16条1項における被害者の直接請求権と社会保険(労災保険を含 む)の代位請求権の優劣は、最判平成20年および最判平成30年により、 「被 害者優先説」で決着したものと考えられる。そして、 自賠責保険実務におい ても、最判平成20年以降も維持してきた、労災保険の請求権に対する特別扱
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自賠法15条の請求を巡る最判平成24年10月l1日裁判所時報1565号1頁を含む。
拙稿「何故、裁判所は支払基準に拘束されないのか−自賠責支払基準下回り判決問題
に対する一考察一」 (損害保険研究第75巻第1号、 2013年)81頁参照。
516鹿児脇経済論集第60巻第3号(2019年l2月)
いも変更せざるを得ないものと考えられる'0.本来、最判平成20年の段階で、
労災保険の扱いも「按分説」ではなく、「被害者優先説」で変更すべきであっ たと考えられるが、最判平成3()年までの10年間に、 「按分説」によって、不 利益を被った被害者に対する自賠責保険実務の不作為は、 自賠法1条の「被 害者保護」の精神に惇るものであり、極めて遺憾であると言う他ない。
この点、最判平成20年の判旨は、 自賠法16条1項の法的性質''について、
「被害者は少なくとも自賠責保険金額の限度では確実に損害の填補を受けら れることにしてその保護を図るものである」としつつ、老人健康保険法41条 1項の性質について、 「医療給付は社会保障の性格を有する公的給付であり、
損害の填補を目的として行われるものではない」としていることから、自賠 責保険実務は、労災保険は「損害の填補」を目的とするもので、 「公的給付」
の目的性は低いとして、労災保険を他の社会保険と区別したと考えられる。
しかしながら、果して、それだけであったと言い切れるのであろうか'2。
(3)労災保険給付の損害の填補性について13
労働基準法は、労働者の傷病や死亡等が「業務上」であることのみを要件 として、使用者の災害補償責任を規定する(労働基準法75条以下)。同責任 は無過失責任であるが、現在では、労災保険法が労働基準法における「災害 補償」を代替しており、実際に労働基準法の規定が適用される余地はほとん
どないと考えられる' '。
'1 伊藤文夫「外│通1人被害者と自賠責保険の取り扱いの現状」日本交通法学会編『外国人 労働者への交通リ故賠俄」 (1992年、有斐閤) 57頁参照。当時、自助車楓害料率算定会 群理室長であった伊藤は、 「裁判例がほぼ固まっている領域につきましては、われわれ は裁判例に従うことが非常に多いc多いというか、基本的に従うべきだと考えており ます」としている。
'1拙稿・前掲注5・ 160頁参照。
'2長野浩三・御池ライブラリーNo.50(御池総合法律事務所、 2019年10月) 17頁参照。長 野は、判例タイムズNol458・ 10()頁を引用して、昭和41年12月26日自賠調第l9号「労 働者災響補俄保険の損害賠償額支払額との調整について」厚生労働省労働韮準局「第 三者行為邪務取引の手引き」を指摘。
'3拙稿・前掲注5・ 170頁参照。
14 中益陽子「安全衛生・労災補償」山川隆一編「プラクテイス労働法」 (2009年、信山社
日野一成:自動車損害賠償保障法l"l劇における砿害脅の損害賠償額支払請求権と労災保険代位論求臘の優劣 517
一方、労働基準法84条1項は、 「この法律に規定する災害補償の事由につ いて、労災保険法(昭和22年法律第50号)又は厚生労働省令で指定する法令 に基づいてこの法律の災害補償に相当する給付が行なわれるべきものである 場合においては、使用者は、補償の責を免れる」'5と規定し、同条2項は、「使 用者は、この法律による補償を行った場合においては、同一の事由について は、その価額の限度において民法による損害賠償の責を免れる」と規定して いる。
これらの規定は、労災補償の価額を上回る民法上の損害賠償請求権は排除 されないことを前提に、使用者の損害賠償責任について、労災給付額が「損 害の填補」にあたると規定しているものと考えられる。すなわち、使用者が 被用者に対して損害賠償責任を負担した場合に、労災保険法による補償が
「損害の填補」にあたるということを意味する。
労災保険の給付内容において、「通勤災害」と「業務災害」は同一であるが、
保険事故としての性質が必ずしも同一でないとの立場から、それらは別個の 制度下に置かれており、 この異別扱いの建前を示すために、 「通勤災害」の 保険給付には、 「補償」の文言が使用されていないとされる'6.
そこで、労災保険の給付について、 「通勤災害」と「業務災害」にわけて、
それらの「損害の填補性」についてさらに考察したい。
①通勤災害
通勤災害は労働基準法上、労災補償の対象とされていない。しかし、労災 保険法が1973年に改正され、通勤災害については、新たな給付として創設さ
出版) 164頁参照。
'易井上浩「改定10版労災保険法を中心とする労災補償法詳説」 (産労総合研究所、2010年)
327頁参照。井上は、労働基準法鋪84条1項に関する厚生労働者の見解として、 「「保険 給付が行われるべき場合に該当しない休業溌初の三日を除き、労災保険に加入してい る事業主はすべて労働基準法上の袖償黄任を負わないこととなる」 (昭和41 ・ 1 ・31基 発第73号)」としている。この点、その理由として、昭和40年の法律第130号による労 災基準法の改正により、それまでリi業主が災害補償義務を免れるのは保険給付の行わ れた限度内だけとされていたのを、 「価額の限度」という字句を削除したからとする。
I6菅野和男「労働法[第9版]」 (弘文堂、 2010年)382頁参照。
518鹿児島経済論集第60巻鋪3り‑ (2019年12月)
れた。すなわち、通勤災害は使用者の支配下で発生したとはいえないので、
業務上の災害にあたらないが、労災保険法上の特別の給付として認めること になったものである'7o
したがって、通勤災害の場合は、使用者の損害賠償責任が肯定されないと の観点からは、労災保険の給付額は、明らかに「損害の填補」に該当しない と考えられる。すなわち、最判平成20年は、少なくとも通勤災害による労災 保険の給付額は射程されるべきであった。
しかし、自賠責保険の実務では、通勤災害も業務災害と区別することなく、
労災保険という括りで、 「按分説」を維持していたものであり、何故、その ような判断になるのか、極めて不可解であり、そこには「被害者保護」を置 き去りにした労災保険と自賠責保険の調整の問題が伺える18o
②業務災害
労災保険法1条1項は、 「労働者災害補償保険は、業務上の事由又は通勤 による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をす るため、必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由又は通勤により負 傷し、又は疾病にかかった労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺 族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、 もって労働者の福祉の増 進に寄与することを目的とする」と規定される。
|司法2条の2は、 「労働者災害補償保険は、第1条の目的を達成するため、
業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に関して保 険給付を行うほか、社会復帰促進等事業を行うことができる」と規定されて いる。
これは、同条項に「保険給付」という文言があるように、 「労働者の業務
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