微分積分学 I
浪川 幸彦 July 3, 2007
5 積分
「積分」という言葉には,全く異なる二つの意味がある。すなわち d
dxF =f(x) という 最も簡単な微分方程式の解である「不定積分」と(この理由から,一般の微分方程式の解を
「積分」ということがある),関数 y =f(x) のグラフの描く図形の(符号付き)「面積」を 意味する「定積分」とである。歴史的に言えば後者は古くギリシャ時代にさかのぼり,前者 は微積分学の成立を待って初めて登場した概念である。そしてこの全く性格の違う両者が実 は分かちがたく結びついている,という驚くべき定理がライプニッツによる微積分学の基本 定理である。
物理などのいろいろの問題で,ある量が定積分によって表示され,その値を実際に求める 手段として,不定積分による解法があるという仕組みが微積分学の基本の枠組みである。
実は定積分そのものの考え方はギリシャ時代からあったが,その厳密な基礎付け,より正 確に言えば「面積」という概念の厳密な定義が得られたのは19世紀も半ばになってからで,
リーマンによるものである。しかしこの定義も学問の進歩と共に不十分となり,前世紀のル ベーグによる新たな定義に始まる「測度論」「関数解析」の隆盛を見た。
高等学校の数IIIでは,微積分学の基本定理の命題によって定積分を「定義」し,上に述 べた理論の本質的困難を回避しているので,こうした数学の進歩の流れが見えない。ここで も時間の関係で,リーマンによる定積分の定義をきちんと説明することはできないが,その 考え方と,そこにきわめて大きな理論的困難があることは理解していただきたい。
この定積分の「定義」を別にすると,本章の内容は計算のスキルを身に付けることがほと んどである。この意味では皆さんには取り組みやすい。ただし講義で丁寧に「問題練習」を やっている時間はないので,ここに挙げた練習問題,あるいは他の参考書のそれを「自分で」
解くことで,身に付けていく必要がある。
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CA07s-10 2
5.1 不定積分
皆さんは不定積分の方法の基本をすでに高校で学んでいる。
ここではその一段高度なパターンを学び,すべての有理関数が不定積分可能であることを 知る。
5.1.1 原始関数
まず微分の逆操作としての不定積分を考える。
Definition 5.1.1 (Text p.162). 関数 f(x) に対し,F0(x) = f(x) となる関数 F(x) を f(x) の原始関数あるいは不定積分とよび
Z
f(x)dx で表す。
Proposition 5.1.2. 関数 F(x), G(x) が同じ関数 f(x) の原始関数であれば,両者の差は 定数である。
Corollary 5.1.3. 関数 f(x) の一つの原始関数 F(x) が知られるとき,すべての f(x) の 原始関数は F(x) +C, C は定数,の形に表せる。
Remark. したがって上の事実を数式としては Z
f(x)dx=F(x) +C
と書く。このC を積分定数という。不定積分は何かと問われたら,必ずこの積分定数を付け て答えなければならない。ただいちいちこれを付けると煩瑣になるので,その場合には「積 分定数は省略して書く」と断って,これを省く。特にこのプリントでは以下そうしている。
5.1.2 不定積分の基本性質
微分法の基本性質から,ただちに不定積分についての次の基本性質が得られる。証明は簡 単で両辺を微分して等しければ,差が定数となることを用いればよい。
Proposition 5.1.4 (線形性 Text p.164).
Z
(αf(x) +βg(x))dx=α Z
f(x)dx+β Z
g(x)dx.
Proposition 5.1.5 (置換積分 Text p.165ff ). x =x(u) を u の関数で微分可能かつそ の微分が連続であるとするとき,
Z
f(x)dx = Z
f(x(u))dx dudu.
Remark. ここで積分記号の後ろに dx を付けた巧みさが分かる。
CA07s-10 3 Corollary 5.1.6.
Z
f(x2)xdx = 1 2
Z
f(x2)d(x2) Z
f(sinx) cosxdx = Z
f(sinx)d(sinx) Z f0(x)
f(x)dx = log|f(x)| Proposition 5.1.7 (部分積分 Text p.168ff ).
Z
uv0dx=uv− Z
u0vdx
Example 1.
Z √
1−x2dx= 1 2(x√
1−x2+ arcsinx) 置換積分,部分積分のいずれでも可能
Example 2. In = Z
sinnxdx, Jn= Z
cosnxdx, n≥2 とおけば
In = −1
n sinn−1xcosx+ n−1 n In−2
Jn = 1
ncosn−1xsinx+ n−1 n Jn−2
Example 3. I = Z
eaxcosbx dx. J = Z
eaxsinbx dx, a2+b2 6= 0
I = eax
a2 +b2(acosbx+bsinbx) J = eax
a2 +b2(−bsinbx+acosbx)
Exercise 1. 次の関数を積分せよ:
1)x2e−x ;2) 1
√x+ 1 +√x ;3)xnlogx ;4)ex−e−x
ex+e−x ;5)arcsinx
Exercise 2. 次の不定積分の漸化式を求めよ:
1)In = Z
(logx)ndx ;2)In=
Z xndx
√x2+ 1 Exercise 3. I =
Z sinxdx
sinx+ cosx, J =
Z cosxdx
sinx+ cosx を求めよ。
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5.1.3 有理関数の積分
有理関数,三角関数の有理関数など,一群の関数は一定のやり方で不定積分が可能である ことが分かっている。前者については部分分数展開を用いる。これらの詳細は教科書に載っ ているのでそれに委ねることとし,ここでは練習問題のみ掲げる。
Exercise 4. 次の関数を積分せよ:
1) 1
x3−1 ;2) 5x−4
2x2+x−6 ;3) x x2−2x+ 2 Exercise 5. 次の関数を積分せよ:
1) 1
sinx ;2) 1 sin2x
Remark今まで出てきた無理関数の積分で,根号の中の多項式はたかだか 2次であった。こ
れは意味のあることで,例えば
Z dx
√x3−1 は初等関数による積分を持たない。しかしこの 積分およびその逆関数は,初等関数のかなたにある 楕円関数というさらに美しく深い数学 の世界を形作っている(例えば 高木貞治「近世数学史談」(共立出版)を参照)。
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