Hilbert
空間における直交関数系と完全性Systems of Orthogonal Functions and Completeness in Hilbert Spaces
非線形解析研究室
BV12054
滝澤 集 指導教員:竹内慎吾 教授1
はじめに本研究では
Hilbert
空間において重要な概念である正規直 交系や完全性を扱う.
完全性に関する判定条件や, Walsh
関 数系といった具体的な関数系の完全性を議論し, Hilbert空間 についての理解を深めることを目的とする. Hilbert空間の定 義等については[1]
を,
直交系に関する用語や理論は[2], [3], [4]
を参考にした.2 Hilbert
空間の正規直交系H
を複素Hilbert
空間とし,
その内積を( ·, · ),
ノルムを∥ · ∥
で表す. (ϕ
n) = ( ϕ
n)
∞n=1をH
の列とする.定義
2.1
列に関して以下を定義する. (i) ( ϕ
n)
の有限線形結合∑
Nn=1
a
nϕ
n全体(自然数 N
とスカラー 列(a
n)
は任意)がH
において稠密であるとき, (ϕ
n)
はtotal
であるという.
(ii)
すべてのϕ
nと直交するH
の元が0
のみであるとき, (ϕ
n)
はcomplete (
完全)
であるという.
(iii) H
の任意の元f
に対して, f= ∑
∞n=1
a
nϕ
nを満たすスカ ラー列(a
n)
が一意に存在するとき, ( ϕ
n)
はbasis
であると いう.定義
2.2
列( ϕ
n) ⊂ H
において( ϕ
n, ϕ
m) = 0 (n , m)
となると き( ϕ
n)
は直交系であるという.
特に,
各n
に対して∥ϕ
n∥ = 1
となるならば( ϕ
n)
は正規直交系(ON : Orthonormal system)
であるという.
さらに, complete
な正規直交系を完全正規直交系
(CON)
という.任意の
H , { 0 }
は必ず完全正規直交系を含んでいる.これは
Gram-Schmidt
の直交化とZorn
の補題から示される.
2.1
正規直交系に関する同値性定理
2.3 ( ϕ
n)
をH
における正規直交系とする.このとき,次 の5
つの性質は同値である.
(1) ( ϕ
n)
はcomplete
である.(2) ( ϕ
n)
はtotal
である.
(3)
任意のf ∈ H
に対し,次が成り立つ:∑
∞ n=1| ( f , ϕ
n) |
2= ∥ f ∥
2(Parseval
の等式).(4)
任意のf ∈ H
に対し,次が成り立つ:f = ∑
∞n=1
( f , ϕ
n) ϕ
n(Fourier
式級数展開).したがって
( ϕ
n)
はbasis
である.
(5)
任意のf , g ∈ H
に対し,次が成り立つ:( f , g) = ∑
∞n=1
( f , ϕ
n)(g , ϕ
n) .
2.2
完全性の判定条件区間
(a , b)
上の可測関数w
に対し,∫
ba
| f (x) |
2w(x) dx < ∞
を満たす可測関数f
全体の集合をL
2((a , b) , w)
で表す.
特にL
2((a , b) , 1)
を単にL
2(a , b)
で表す.補題
2.4 (Lauricella
の判定条件) V
を ノ ル ム 空 間 と す る. ( ψ
n)
はV
においてtotal
であり,また( ϕ
n)
は( ψ
n)
に関してtotal
とする.
このとき( ϕ
n)
はV
においてtotal
である.
した がってV
がH
ならば完全である.
この定理
2.4
は稠密の連鎖性より示される.( ϕ
n)
をL
2(a , b)
における正規直交系とする.
補題2.4
と定理2.3(3)
を用いて,正規直交系の同値関係2.3(3)
から, L2(a , b)
において次の同値関係を導くことができる.
( ϕ
n)
は完全⇔ ∑
∞n=1
∫
b aϕ
nψ
kdx
2=
∫
b a|ψ
k|
2dx
∀k .
この
( ψ
k)
としてある種の階段関数系をとると次を得る.定理
2.5 (Vitali
の完全性の判定条件){ϕ
n: n = 1 , 2 , . . . }
をL
2(a , b)
における正規直交系とする.
このとき次の同値関係 が成り立つ.( ϕ
n)
は完全⇔ ∑
∞n=1
∫
r aϕ
ndx
2= r − a
∀r ∈ (a , b) .
定理
2.3(3)
は完全性の基本的な判定条件ではあるが,空間内のあらゆる要素
f
について考えなければならないことか ら,
一般的には使われない.
その点補題2.4
や定理2.5
は工程 が少ないので比較的有用である.例
2.1
関数系{ e
inx√ 2 π : n = 0 , ± 1 , ± 2 , . . . }
は
L
2( −π, π )
で完全である. 定理2.5
を適用することでこの 関数系の完全性を示すことができる.
実際,
定理2.5
から∑
∞ n=−∞∫
r−π
e
inx√ 2 π dx
2= r + π
が成り立てばよい.
左辺の無限級 数がどのような値をとるかはFourier
級数展開を用いること で求められる.3
直交関数系における完全性3.1
多項式系と完全性定義
3.1 { p
n: n = 0 , 1 , 2 , . . . }
を多項式の集合とする.任意の
n
に対してp
nの次数がn
であるとき,この多項式の集合 はsimple
であるという.
定理
3.2 (
多項式系に関する完全性) (a , b)
をR
上の有限また は無限な区間とし, wを(a , b)
上で可測かつw(x) ≥ 0 (a.e.)
と なる重み関数とし,
次の条件を満たすとする:
∃
r > 0 :
∫
b ae
r|x|w(x) dx < ∞.
このとき
,
任意のsimple
な多項式集合{ p
n: n = 0 , 1 , 2 , . . . }
はL
2((a , b) , w)
で完全である.定理
3.2
の証明の概要は次のようになる. f (x)をp
nに直 交する関数とし, f . 0
としよう.
次の式を考える.
F(z) =
∫
b af (x)e
izxw(x) dx , z = x + iy .
F(z)
がの正則であることを示し,
一致の定理を適用するとF(t) =
∫
b af (x)e
itxw(x) dx = 0 , t ∈ R
が導ける
.
これよりf (x) ≡ 0
を得る. f (x) . 0
と矛盾するか ら完全性が得られる.4 Rademacher
関数系とWalsh
関数系定義
4.1 (Rademacher
関数系)r
n(x) B sgn(sin(2
nπ x)) , n = 1 , 2 , . . . .
この関数は
1 / 2
n−1周期であり,半周期ごとに1
と− 1
の値 をとる.
この関数系はL
2(0 , 1)
で直交するが完全ではない.
定義4.2 (Walsh
関数系) 定義4.1
をもとにWalsh
関数系は 次のように定義される.
w
1(x) ≡ 1
w
k+1(x) = r
n1+1(x)r
n2+1(x) · · · r
nN+1(x) , k = 1 , 2 , . . . , k = 2
n1+ 2
n2+ · · · + 2
nN, n
1> · · · > n
N≥ 0 .
例
4.1 k = 3
とする. このとき3 = 2
1+ 2
0であるからn
1= 1 , n
2= 0 , N = 2
とおくことができる.
よってk = 3
のときWalsh
関数のグラフは図1
のように表される.O y
1 x
1 4
3 4
図
1: w
4(x) = r
2(x)r
1(x)
定理
4.3 Walsh
関数系はL
2(0 , 1)
において完全正規直交系で ある.定理
4.3
の証明の概要は次のようになる. Walsh
関数系は
Rademacher
関数の積からなっているので, 正規性はRademacher
関数の性質から明らかである. 直交性については
Walsh
関数の内積に関して考え,
関数の周期に着目することで得ることができる.完全性については
∫
1 0f (x)w
k+1(x) dx = 0 , k = 0 , 1 , . . .
の左辺を
f (x)
の原始関数F(x)
で表すことで,有理数x
において
F(x) = 0
を得る.
稠密性から区間(0 , 1)
においてF(x) ≡ 0
となり,完全であることが示される.5
おわりに本研究では
Rademacher
関数系やWalsh
関数系に触れるに とどまったが,他に似たような関数系としてHaar
関数とい うものがある. Haar
関数系の完全性の証明にはVitali
の判定 条件がかかわっており,例2.1
を含めて,この判定条件の重要 性が見て取れる.
参考文献