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住居集合の空間構造を表すモデルの比較

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Academic year: 2021

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(1)

住居集合の空間構造を表すモデルの比較

―シリア・ハブール川沿い地域を事例に―

伊藤香織,小口高

Comparison of Models Representing the Spatial Structure of Settlements - A Case of the Area along the Khabur River, Syria -

Kaori ITO and Takashi OGUCHI

Abstract:

In this paper, an information theoretical approach to gain knowledge about spatial model of building distribution is presented. According to the Minimum Description Length criterion, a model which results in shorter code word length to describe the building data gives better representation of the underlying structure of the distribution. Three models are assumed for the case of the houses and buildings along the Khabur River, Northeast Syria.

The model coding each coordinate needs 20 bit/datum, the model with the notion of a village, or grouped buildings, needs 14.9 bit/datum, and the model with the notion of a village and a distance from the river needs 14.5 bit/datum. The latter gives the better spatial structure.

Keywords: 集落(villages),ハブール川(the Khabur River),符号語長(code word length),

MDL

基準(Minimum Description Length criterion)

1

はじめに

都市や集落のような集住の空間構造には,地域 に依存する側面と人間が集まって住まうことの普 遍性とが同時に表れている.特に原生的な村落や 自然環境の影響が卓越した地域における集落は,

自然・地理条件,社会・文化・産業のあり方,住 民の世界観などをより明快にその空間に映し出し ていると考えられ,そうした集落の空間構造を明 らかにしようとする試みが従来より数多く行われ ている(東京大学生産技術研究所原研究室,2006

など).さらに近年では,地理情報技術の浸透によ り,集落や集落内建物の立地の特徴を解明するた めに空間統計の手法を用いた研究も散見される

(渡部・臼田・太田,2004 など).建物や集落の 立地を点データとして考えると,最近隣法,K 数法などの空間統計解析によって対象領域全体の 点分布の基礎的性質を捉えることができるが,こ れらは集中・分散の度合いのような特定の性質に 関する指標を与えるものであり,異なる空間構造 概念に対しては異なる指標を用いる必要がある.

そこで本稿では,複数の空間構造概念のモデル を比較するために,集落や建物の配置に内在する 伊藤:278-8510千葉県野田市山崎2641

東京理科大学理工学部建築学科 e-mail: [email protected]

(2)

空間構造把握のための情報理論的アプローチを検 討する.続いてシリア・ハブール川沿い地域の建 物のデータについてモデル化を行い空間構造の一 端を把握することを試みる.

2

調査地域と建物データ

2.1.

対象地域

本研究ではシリア北東部のハブール平原に位置 するユーフラテス川支流のハブール川沿いを対象 地域とした(図1(a)).対象地域内の住居集合とし ては,小さな町規模のものもあるが,多くはより 小さなアッシリア人もしくはアラブ人集落であり,

原生的な村落が散在する地域とみなされる.メソ ポタミア地方の西端に当たるこの地域では,アラ ビア語でテルと呼ばれる古代の集落が積み重なっ てできた遺跡の丘が散在し,現在もその丘の上に 集落が築かれていることが多い(Nishiaki and Le

Miere, 2006)

.集落周辺は綿,小麦などの耕作地と

なっている.建物は伝統的には日干し煉瓦の組積 造であるが,現在は鉄筋コンクリートとコンクリ ートブロックを組み合わせた建物も多い(図1(b))

2.2.

データ

シリアではその政治的社会的情勢から町や集落 の状況について詳細な実地調査することは困難で

あるため,本研究では,高解像度衛星画像を用い て建物の配置を得た.QuickBird 画像(分解能約

60cm

のパンクロマティック画像,オルソレディ,

2005

5

月撮影)(図1(c))から,GIS上で地域

内の各建物の位置および河道をデジタイズした.

3

空間構造把握の方針

我々は,仮定したモデルが実際の建物データに内 在する空間構造をいかに“良く”表しているかを,

Minimum Description Length

(MDL)基準を用いて 捉える.以下にその考え方を概説する.

3.1. MDL

基準

MDL

基準はモデル選択基準のひとつであり,実 データとモデルの選択肢が与えられたときに,実 データを最短の符号語長で記述できるようなモデ ルを最適なモデルとして選択するものである(下 平ほか,2004)

本研究では,対象地域の建物配置が本質的にも っている構造(モデル)に基づいて偶然実現した ひとつの現われが,実際の建物配置であると考え る.

MDL

基準に照らすと,この実際の建物配置を より短い符号語長で記述できるモデルが,内在す る空間構造をより適切に表すものと考えることが できる.

(a) 分析対象地域

1 分析対象 (b) 対象地域の住居 (c) 対象領域の衛星写真

(3)

3.2.

二分木構造

ここでは,最適探索の容易さを考慮し,建物位 置の記述に木構造を用いる.簡便なモデル化のた めに領域全体を正方形とし,x,

y

各方向交互に二 等分していき,各辺を

2

D/2等分した正方形を最小 単位(葉)とする.この分割構造が深さ

D

の完全 二分木に対応する.本分析では

D=20

とする.対 象領域をカバーする正方形の一辺を

25.6km

とし,

最小単位は一辺

25m

の正方形となる.

4

モデル化とその評価

本稿では,3 つのモデル(=空間構造)を仮定 し,それぞれのモデルの下で対象地域の建物位置 を記述する符号語長を求め,建物分布に内在する 空間構造を考察する.

4.1.

モデル

A:個々の建物を記述

対象範囲内のすべての建物の位置を記述すると

きに,もっとも簡易なモデルのひとつは,個々の 建物の座標を記述していくものであろう.ここで は,各建物が二分木のどの葉に存在するかを記述 することになる.木の深さ

D=20,すなわち{0,1}

20

個の並びによって位置を記述するので,建物

1

棟の記述に符号語長

L

A

/N=20[bit]を要する.ただ

し,Nは総建物データ数である.

4.2.

モデル

B

:集落を使って建物を記述

次に,集落を記述しその中で個々の建物を記述 するモデルを考える.そのために,刈り込まれた

(あるノードから下をまとめた)二分木を考え,

次のようなモデルを仮定する.

(1)

刈り込まれた木の各末端ノード(集落 1)は それぞれ固有の建物密度をもつ.

(2)

各ノード内では,建物は固有密度にしたがっ て一様に分布する.

2 モデルBによる最適集落分割

(a) モデルBによる分割 (b) モデルCによる分割 3 モデルBとモデルCによる集落分割の部分拡大と建物分布

4 建物の川からの距離度数分布

(4)

伊藤(2002)によると,このモデルによる符号 語長

L

Bは次のように書くことができる.

( log ) 1 log

2

2 1

2 12

B i i i

i i

L N p D d N R

N

⎧ ⎛ ⎞ ⎫

⎪ ⎪

= ⎨ − + − + ⎜ ⎟ + + ⎬ −

⎪ ⎝ ⎠ ⎪

⎩ ⎭

ただし,ノード

i

において

d

iはノード深さ,Ni 建物データ数,piは建物立地確率で

p

i

= 1

であ る.また

R

p

iを記述するための桁数(中括弧内 第二項)を記述する固定桁数である.

L

Bを最短にする木が,このモデルに最も適合す る集落分割と言える.

L

Bを最短にする木を探索し

た(図2,図3(a))ところ,建物

1

棟の記述に要

する符号語長は

L

B

/N=14.9[bit]となった.

4.3.

モデル

C

:集落と川を使って建物を記述

次に,モデル

B

に加えて集落内の建物密度は川 からの距離に依存するというモデルを考える.そ こで,建物の立地は川からの距離

l

に応じた確率 密度関数

f(l)を持つとし,ノード i

における建物密

p

iの代わりに,pi

f(l

i

)で重み付けした q

iを用 いる.ただし

q

i

= 1

である.建物データから河 道中心線の最短距離を集計した度数分布(図 4)

を元に経験的に

q

iの最尤推定値であるl

q

iを得る.

このとき,実際に立地した建物データ数

N

i

f(l

i

)

で重み付けする.このモデルによる符号語長

L

C は次のように書くことができる.

l

( )

l

l

( ) ( )

log 1 log 2 1

2 12

i

C i i i i

i i

i i i j j j

L q N q D d N R

q q f l N f l N

⎧ ⎛ ⎞ ⎫

⎪ ⎪

= ⎨ ⎪ ⎩ − + − + ⎜ ⎜ ⎝ ⎟ ⎟ ⎠ + + ⎬ ⎪ ⎭ −

=

L

Cを最短にする木を求め(図3(b)),建物

1

棟の 記述に要する符号語長は

L

C

/N=14.5[bit]となった.

5

考察と今後の課題

集落概念を導入することによって,建物位置を 記述する符号語長は

20[bit]から 14.9[bit]に減少し,

川からの距離の概念を導入することによって,さ

らに

14.5[bit]に減少した.この地域の建物立地は,

まとまって集落を形成する性質が強く,密度が川 からの距離に依存する性質をもつことが確認され

た.符号語長の減少幅がその構造の強さを示して いると言える.ハブール川畔に連綿と集落を築い てきた地域の空間構造が符号語長減少によって確 認されたことは,本方法の有効性を示している.

本稿では

1

つの対象について

3

つのモデルを比 較し,手法の確認を行った.異なる地域に対して 同一モデル化を行えば,その空間構造の強さの比 較ができるであろう.今後,集落の中の建物配置 の概念をモデルに導入するなどモデルの精緻化が 考えうるが,モデルを複雑にすると多くのデータ を要することは,より詳細な空間構造モデルを検 討する際の課題といえよう.

1) ここでは二分木の制約内で空間が分割されるため,1 つの集落とみなせても複数に分割される場合がある.

また,密度の低い集落が散在しているときには集落群 としてひとつにまとめられる場合がある.このように ノード自体が集落そのものとは言えないが,全体の中 で見て建物がほぼ一様に分布しているまとまりとい う意味で,ここでは集落と解釈することにする.

付記

本研究の一部は,平成

16~18

年度科学研究費補 助金基盤研究(B)『GISを活用した居住と自然環境 との相互関係の解析』(研究代表者:小口高,課題

番号

16300294)の補助を受けて行われた.

参考文献

伊藤香織(2002)時空間を特徴づける領域分割の最適化に 関する研究,「日本建築学会計画系論文集」556,341-348.

下平英寿・伊藤秀一・久保川達也・竹内啓(2004『モデ ル選択基準』,岩波書店.

東京大学生産技術研究所原研究室(編)2006『住居集合 論Ⅰ・Ⅱ[復刻版],鹿島出版会.

渡部展也・臼田裕一郎・太田一行(2004)時間距離に基づ くクラスター分析を用いた縄文時代における遺跡グル ーピング手法の研究,「GIS―理論と応用」12,2,99-108.

Nishiaki,Y. and Le Miere, M. (2006) The Oldest Pottery Neolithic of Upper Mesopotamia: New Evidence from Tell Seker al-Aheimar, the Khabur, Northeast Syria, Paléorient, 31(2), 56-68.

参照

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