• 検索結果がありません。

フィンテックが迫る大学教育の改革と 慶應義塾大学での取り組み

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "フィンテックが迫る大学教育の改革と 慶應義塾大学での取り組み"

Copied!
3
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

14 JUCE

Journal 2018年度 No.

3

2.フィンテックと雇用機会の喪失

この限られたスペースでフィンテックの全容を詳 らかに説明することはできません。そこで、本節で はフィンテックが雇用に与える影響について概観し ます。鍵となる言葉は、フィンテックがもたらす業 務・サービスの「自動化」と「分散化」です。

まずは、フィンテックにおける自動化の代表的事 例である

RPA

について説明します。

RPA

とは

robotic process automation

の略で、従来は人が行っていた定 型作業を自動化する仕組みの総称です。製造業にお ける生産工程での定型作業の自動化は第1次産業革 命の時代からあります。一方、書類作成や顧客対応 における定型作業の自動化は、ごく最近まであまり 進んでいませんでした。しかし、AIによるテキスト 解析や音声解析の発達を受けて、経理などでの書類 作成やカスタマーセンターでの顧客対応をAIで代 行・支援できるようになりつつあります。もっと複 雑な業務の自動化も進んでいます。例えば、金融機 関における融資の判断は伝統的に人間が行ってきま した。しかも、与信の判断材料となる情報は、年齢、

職業、所得や担保物件の価値などの限られたもので した。しかし、人々の日々の行動(

SNS

での交友関 係、ポイントカードなどで記録された購買履歴や位 置情報、フィットネス・アプリで収集された運動時 間など)に関する膨大な情報が収集・蓄積されるよ うになったため、これらのビッグデータをAIによっ て解析することで信用度を推測できるようになりま した。そのため融資判断を

AI

に委ねる金融機関が出 始めています。このように単純作業から高度な判断 を要する業務まで「自動化」で置き換わっていくと、

事務部門で必要な人員の数が劇的に減少してしまう かもしれません。

もう一つのキーワード「分散化」の影響も見てみ ましょう。伝統的な金融機関の決済管理システムは

特 集

A I 人材、A I 活用人材の育成を考える

1.はじめに

フィンテック

(fintech)

は、金融

(finance)

と技術

(technology)

を合わせた造語です。学問としてフィ

ンテックは、金融サービスに最新の

ICT

(情報通信 技術)を融合させて新しい価値を創造することを目 指す学際的な研究領域です。フィンテックと一言に いっても、内包される技術と応用範囲は多岐にわた ります。例えば、ビットコインに代表される仮想通 貨、スマートフォンを活用してのキャッシュレス決 済、不特定多数から資金調達を行う手段としてのク ラウド・ファンディング、機械学習・

AI

(人工知能)

を活用したビッグデータ解析などの言葉をニュース などで見聞きされた方も多いと思います。

これらの技術が普及すると、銀行や証券会社など の金融機関が伝統的に行ってきた業務を代替できる ようになるとともに、そこで働く人々の職場が消滅 してしまうかもしれません。そのためフィンテック を絶好のビジネスの機会とみなすICT関連のスター トアップ企業のみならず、この動きを脅威とみなす 既存の金融機関、そしてフィンテックの普及が経済 と社会に与える影響を憂慮する各国の監督官庁や中 央銀行などをも巻き込んで、フィンテック研究を推 進する動きが国内外で加速しています。

本稿では、このようなフィンテックをめぐる現在 の状況を踏まえた上で,まずフィンテックの勃興が 産業と雇用に与える影響について概観します。続い て「フィンテック時代」において大学が直面する問 題を大学教育の出口としての就職状況の変化と企業 が大学、特に文系学部での教育に求める質の変容の 観点から説明し、大学が取るべき改革の方向性を提 案します。最後に本学経済学部でのフィンテック教 育の試みについて紹介し、その経験に基づく今後の 課題について述べて結論とします。

慶應義塾大学経済学部附属経済研究所

FinTEKセンター長 中妻 照雄

フィンテックが迫る大学教育の改革と

慶應義塾大学での取り組み

(2)

15 JUCE

Journal 2018年度 No.

3

中央集権的で閉鎖的な構造をしています。これは安 全性の観点からは望ましいのですが、新たなサービ スを追加するには不便な構造となっています。そこ で、オープンなインターネット経由で行う新しい決 済や与信のサービスの開発・提供と異業種の参入を 促す目的で、外部の業者が預金者の口座情報などを 取得できる仕組み(オープンAPI)を開放すること が進められています。この動きが加速していくと、

様々な金融サービスがスマートフォンのアプリ上で 完結するようになることが期待されます。これにキ ャッシュレス決済の普及が合わさると、人々が金融 機関の店舗や

ATM

に足を運ぶ必要はほぼなくなる でしょう。現在、金融機関は店舗・ATM網を維持 するために多くのコストを負担しています。顧客が 利用しない設備を維持する意味はないので、将来的 には店舗・ATMはなくなり、それに伴ってそこで 働いている人もいらなくなります。したがって、

「分散化」の流れもまた人員削減に繋がることにな ります。

あまり悲観的なことばかりを言うのは気が引けま すが、フィンテックの進展が既存の金融業務に従事 している人々の雇用を奪うことになるのは否定でき ない側面です。そして、日銀のマイナス金利政策や 人口減に伴う資金需要の減少などフィンテックとは 直接関係しない要因の影響もありますが、昨年来、

日本の主要金融機関は人員削減、新規採用の抑制、

店舗の統廃合などを次々と打ち出しています。

3.フィンテックが迫る大学教育の変革

以上のようにフィンテックの普及によって失われ る可能性が高い雇用は、ホワイトカラーと呼ばれる 事務系の職種に集中しています。そして、このホワ イトカラーの職場に多くの学生を輩出してきたの が、いわゆる文系の学部です。ここに筆者が所属す る本学経済学部を2018年3月に卒業した学生の主 な就職先の統計があります(表1)

経済学部の定員は1学年1,200名ですから、単純 計算で約400名の学生が金融・保険業に就職してい ることになります。これだけでも十分大きい数字 なのですが、

RPA

による事務職の消失は金融業に 限りませんから影響はもっと大きくなるでしょう。

今は人手不足で学生達も売り手市場を謳歌してい るように見えますが、そう長くは続かないと思い ます。

さらに、フィンテックは雇用の量だけでなく、

職場で要求される知識とスキルの質も変えつつあ ります。日本は学歴社会であると言われて久しい ですが、実のところ企業は大学教育に価値を見出 しているのでなく、優秀な若者を選抜する篩(ふ るい)として大学(特に入試)を利用しているに すぎないのではないでしょうか。つまり、企業は、

難関校に入学できた学生は頭がいいので要領よく 仕事を覚えてくれる、体育会系であれば肉体と精 神が鍛えられていて頼もしい、といった期待をも っているため、大学で学んだ内容ではなく学歴フ ィルターで難関校出身者を選んで採用するわけで す。これは経済学では「シグナリング」と呼ばれ る現象です。この慣習の前提にあるのは、企業は 大学を卒業した学生に「白紙の状態」で入社して もらい、長い時間をかけて

OJT (on the job training)

で業務に必要な知識とスキルを叩き込んで企業戦 士に鍛え上げればよいという発想でしょう。しか し、

AI

が文字通り24時間戦える企業戦士となり人 間に取って代わる時代において、

OJT

を前提とした 人事が行き詰まることは目に見えています。さら に、OJTは特定の企業内でしか通用しないノウハウ の習得において威力を発揮しますが、企業の枠を 超えて行われるオープン・イノベーションとは相 容れない性格のものです。

さて、このような事態の変化に従来型の文系教 育を受けた学生は対応できるのでしょうか。今ま では大学の4年間は青春を謳歌し、就活を頑張っ て内定をもらい、仕事のことは入社後に考えれば よかったのです。しかし、

AI

の普及と日本型

OJT

終焉は、エントリー・レベルの職種が消滅して本 当の意味での即戦力の人材のみが雇用される時代 の始まりを意味します。この流れに対応できなけ れば、教育機関としての大学の存在意義が疑われ かねません。

それでは、これから社会に出る学生達に大学は どのような教育を行えばよいのでしょうか。筆者

特 集

表1 本学経済学部卒業生の主な 就職先(2018年3月卒業)

経済学部 大学全体

※慶應義塾大学ガイドブック2019より作成 金融・保険業 32

.

7% 21

.

3%

サービス業 20.7% 17.8%

情報通信業 13.4% 16.2%

製造業 11

.

5% 18

.

1%

卸売・小売業 8

.

0% 9

.

1%

(3)

16 JUCE

Journal 2018年度 No.

3

究者や実務家を含む外部の講師を招いて、AIやブ ロックチェーンなどのフィンテックを支えている 基幹技術、それがもたらす恩恵と問題点などにつ いて講演していただきます。さらに、経済学の視 点から、フィンテックが金融機関、資本市場、マ クロ金融政策などに与える影響についても学びま す。

最後の『フィンテックの理論と実践

b

』は非常に ユニークな科目です。まず、①インフラストラク チュア、②資金決済、③顧客サービス、④プラッ トフォームなど、4つのフィンテックの主要領域 の中から1つを選び、フィンテック関連のプロダ クトの提案のためのピッチビデオを作成し、履修 者全員で参加したいプロジェクトに対して投票を 行います。次に評価の高かったいくつかのプロジ ェクトを実現するため、4名程度でチームを編成 し、協力企業から派遣されたメンターの指導の下 でプロダクトの開発を行います。これと並行して 毎週の授業では、フィンテック企業を立ち上げる ためのノウハウとデータサイエンスの基礎を学修 します。そして最終報告会では、学生が開発した プロダクトのピッチを行い、優秀チームの選考と 表彰を行って半期の授業を締め括ります。この授 業は、学生による起業の推進を目的としてデザイ ンされています。なぜなら日本では諸外国と比べ て学生の起業が少なく、これがフィンテックに限 らずテクノロジー部門全体での日本の遅れの一因 と考えられるからです。この科目だけを2017年度 に試験的に先行開講したのですが、初年度にも関 わらず学生達がユニークな提案を次々と出してく れて協力企業や審査員にも大変好評でした。

本学のフィンテック教育プログラムはようやく 緒に就いたばかりですが、履修者300名を超える科 目もあり、幸先の良いスタートが切れたと思いま す。現状は3・4年生向けの教育が中心ですが、

今後は1・2年生向けにプログラミングやデータ サイエンスの教育を整備するとともに、大学内の 理工系学部との連携、さらには英語でのフィンテ ック教育の充実を図って、海外、特にアジアから の人材の取り込みを進める方針です。

このプログラムに触発された学生が始めたスタ ートアップの中からユニコーン企業が誕生する日 を担当者一同とても楽しみにしています。

は、多様な学問のショーケースとしての教育では なく、学生の実社会での活躍を想定して体系化さ れた知識の伝授とスキル向上の機会の提供が大学 の使命ではないかと考えます。しかし、筆者のよ うに大学一筋で生きてきた人間に実務の話をしろ と言っても無理がありますので、カリキュラムの 編成のためには企業の協力が必要不可欠です。企 業が積極的に大学教育に関与できる仕組みを用意 し、学生に企業の実態を知ってもらう機会を設け ることが大事です。これは、学生にとって実務で 必要とされる知識とスキルを知る機会であるとと もに大学での学修の動機付けにもなることが期待 されます。そして、大学の教員も専門とする学問 の特性に応じて実務に即した教育を行う。つまり、

学生・大学・企業が「三位一体」となった教育を 行い、学生が卒業して出社した第1日目から仕事を 始められるようにするのです。このアイディアは 現段階では理想論にすぎませんが、これから大学 が生き残っていくためには必要不可欠な改革であ ると筆者は確信しています。

4.本学経済学部での取り組み

以上のような危機意識に基づき、学生にフィン テックとそのインパクトを知らしめ、フィンテッ ク時代に備えてもらうため、本学経済学部では

Centre for Finance, Technology and Economics at Keio (FinTEK, http://fintek.keio.ac.jp/) を2017年6月に設

立し、その全面的支援の下で2018年4月よりフィ ンテック教育プログラムとして

KPMG

ジャパン寄附講座

『フィンテックとソーシャル・インフラストラ クチュア

a

b

(春学期・秋学期開講)

みずほ証券寄附講座(協力・日本IBM)

『フィンテックの理論と実践a』(春学期開講)

フィンテック実践講座

『フィンテックの理論と実践b』(秋学期開講)

を設置しました。

まず『フィンテックとソーシャル・インフラス トラクチュア

a

b

』では、フィンテックの最前線 で働く実務家を講師として招き、フィンテック・

ビジネスの国内外での最新の実例を紹介しつつ、

フィンテックのサービスを提供する際に企業が直 面する諸問題とその解決方法の概説を行っていま す。

一方、『フィンテックの理論と実践a』では、研

特 集

参照

関連したドキュメント

問題文は、歴史的系譜を遡りながら、また、特にハイエクの思想に焦点を当てることによ

また、本問では、特例法の生殖機能喪失要件の「目的」が(問題文中で)特定されていない

今日は 今日は CNS CNS つあーです。 つあーです。  教室で教室で CNS CNS のことを少し説明してから、のことを少し説明してから、 魔人魔人○村 ○村 氏 氏が生息する秘境、が生息する秘境、 CNS CNS リサーチエリア リサーチエリア に足を踏み入れます。 に足を踏み入れます。... 並列処理サーバ 並列処理サーバ SP SP 

21(Tue), 22(Wed)8:45~16:45 文 人日 柳田 利夫 日本史特殊ⅡG 平常点 文 人倫 山内 志朗 キリスト教概論Ⅱ 定期試験期間内試験 1 月 24 日(金) 2 70 131A

【様式2】 大学名等 教育プログラム・ コース名 対象者 修業年限(期間) 養成すべき人材像 修了要件・履修方 法 履修科目等 教育内容の特色等

1  物理講師の内多です。  今回は

本章では,戦術ベースコーチングを行う為に開発した,プレーデータの入力と分析に よって選手の特徴を知ることのできる, TT Analyzer

で両者に違いは見られなかった。また巻号の違い