社団法人 電子情報通信学会
THE INSTITUTE OF ELECTRONICS,
INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS
信学技報
TECHNICAL REPORT OF IEICE.
離散値ベクトル再構成のための近似メッセージ伝搬アルゴリズム
早川 諒† 林 和則†
†
京都大学大学院情報学研究科 〒606-8501
京都市左京区吉田本町E-mail: [email protected], [email protected]
あらまし 本稿では,離散値をとるベクトルをその次元よりも少ない数の線形観測から再構成する
SOAV
(Sum-of-Ab-solue-Value)最適化のための低演算量なアルゴリズムを提案する.その導出では,まず圧縮センシングのための近似
メッセージ伝搬(AMP: Approximate Message Passing)アルゴリズムのアイデアを利用して,SOAV最適化に対す る確率分布を構成する.さらにその確率分布の周辺化のためのsum-product
アルゴリズムを近似することによって提 案アルゴリズムAMP-SOAV
を導出する.計算機シミュレーションにより,AMP-SOAVが離散値ベクトルをその次 元より少ない数の線形観測から再構成可能であることや,その特性が状態発展法を用いた理論解析の結果とよく一致 することを示す.キーワード 近似メッセージ伝搬アルゴリズム,状態発展法,SOAV最適化,離散値ベクトル
Approximate Message Passing Algorithm for Reconstruction of Discrete-Valued Vector
Ryo HAYAKAWA
†and Kazunori HAYASHI
†† Graduate School of Informatics, Kyoto University, Yoshida-Honmachi, Sakyo-ku, Kyoto, 606-8501 Japan E-mail: [email protected], [email protected]
Abstract This paper proposes a low-complexity algorithm to solve the sum-of-absolute-value (SOAV) optimiza- tion, which reconstructs a discrete-valued vector from its possibly underdetermined linear measurements. Taking advantage of the idea of the approximate message passing (AMP) algorithm for compressed sensing, we firstly con- struct a probability distribution associated with the SOAV optimization. Then, we approximate the sum-product algorithm for the marginalization of the distribution to obtain the proposed algorithm, called AMP-SOAV. Sim- ulation results show that AMP-SOAV can reconstruct the discrete-valued vector from its underdetermined linear measurements and its performance can be well predicted by our theoretical results via state evolution.
Key words approximate message passing algorithm, state evolution, sum-of-absolute-value optimization, dis- crete-valued vector
1.
ま え が き離散値をとるベクトルを,その次元よりも少ない数の線形 観測から再構成することは信号処理における重要な問題であ る.ディジタル通信においては一般に信号は離散値をとるた め,そのような離散値ベクトルの再構成として捉えられる問 題が多くある.例えば,
M2M
(Machine to Machine
)通信 におけるユーザ検出[1]– [3]
,過負荷MIMO
(Multiple-Input Multiple-Output
)信号検出[4]
,FTN
(Faster-than-Nyquist
) 伝送[5], [6]
などである.これらの問題に対して最良の特性を達 成する最尤推定のアプローチは組み合わせ最適化問題に帰着し,その計算量は問題の規模に対して指数的に増大する.その ため,特に大きな規模の問題に対しては計算量の少ないアルゴ リズムが必要となる.一方,スパースなベクトルを不十分な線 形観測から推定するアプローチが様々な分野で注目を集めてい る.例えば通信における応用例としては,通信路推定,無線セ ンサネットワーク,アレー信号処理などが挙げられる.そのよ うな問題に対して,圧縮センシング
[7], [8]
は未知ベクトルのス パース性を効果的に利用することで再構成を行う手法として知 られている.しかしながら,離散値ベクトルは一般には必ずし もスパースではないので,圧縮センシングを離散値ベクトルの 再構成に用いるのは適切ではない.— 1 — - 279 -
一般社団法人 電子情報通信学会 信学技報
THE INSTITUTE OF ELECTRONICS,
INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS
This article is a technical report without peer review, and its polished and/or extended version may be published elsewhere.
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IEICE Technical Report
IT2016-94,SIP2016-132,RCS2016-284(2017-01)
離散値ベクトルを再構成するための新たな手法として,
SOAV
(Sum-of-Absolute-Value
)最適化が近年提案されてい る[9], [10]
.SOAV
最適化は圧縮センシングのアイデアを離散 値ベクトルの再構成に対して応用し,ある凸最適化問題を解く ことで再構成を行う.観測雑音が無視できる場合には,その最 適化問題は標準線形計画問題として解くことができる.さら に,Douglas-Rachford
アルゴリズムやADMM
(Alternating- Direction Method of Multipliers
)などの近接分離法[11]
を用 いることにより,より効率的に最適化を行える.しかしながら,離散値ベクトルの再構成に対する近接分離法のアルゴリズムに は行列同士の積や逆行列の計算が含まれており,大きな規模の 問題においては依然として大きな計算量が必要となる.
本稿では,圧縮センシングに対して提案されている近似メッ セージ伝搬(
AMP: Approximate Message Passing
)アルゴリ ズム[12], [13]
のアプローチを利用して,SOAV
最適化のため の低演算量なアルゴリズムであるAMP-SOAV
を提案する.AMP-SOAV
の導出では,まずSOAV
最適化に対する確率分布を構成し,対応するファクターグラフにおける確率伝搬法 の
sum-product
アルゴリズム[14], [15]
を考える.そのアルゴ リズムに対して大システム極限をとった後にさらに近似を行 うことでAMP-SOAV
を得る.AMP-SOAV
の式は,圧縮セン シングのためのAMP
アルゴリズムと基本的には同じ形をし ており,それぞれの弱しきい値関数のみが異なっている.本稿では,
AMP-SOAV
の導出に加えてその特性を状態発展法(
state evolution
)[12], [16]
によって解析的に評価し,正確な 再構成に必要な条件を得る.計算機シミュレーションにより,AMP-SOAV
が二値のベクトルをその次元より少ない数の線形観測から再構成でき,その特性が状態発展法による解析とよく 一致することを示す.
本稿では,以下の記法を用いる.転置を
( · )
T,単位行列をI
,成分がすべて1
のベクトルを1
,成分がすべて0
のベク トルを0
で表す.ベクトルv = [v
1· · · v
N]
T∈ R
N に対し てそのℓ
1ノルムとℓ
2ノルムをそれぞれ∥ v ∥
1= !
Nj=1
| v
j| ,
∥ v ∥
2= "!
Nj=1
v
j2によって定義する.また,ベクトルv
の 成分の平均を⟨ v ⟩ =
N1!
Nj=1
v
jで表す.sgn( · )
は符号関数を 表す.2. SOAV
最適化のための提案AMP
アルゴリ ズム本節では,まず
SOAV
最適化[9], [10]
について簡単に述べる.その後,圧縮センシングのための
AMP
アルゴリズム[12]
と似 たアプローチにより,提案アルゴリズムであるAMP-SOAV
を 導出する.2. 1 SOAV
最適化SOAV
最適化は,離散値をとるベクトルb = [b
1· · · b
N]
T∈ { q
1, . . . , q
L}
N⊂ R
Nをその線形観測y = Ab (1)
から再構成するための手法である.ここで,
y = [y
1· · · y
M]
T∈ R
Mおよびs1
· · ·
sj sN· · ·
· · ·
· · ·
· · · · · ·
e−β(12|s1−1|+1
2|s1+1|) e−β(12|sj−1|+1
2|sj+1|) e−β(12|sN−1|+1 2|sN+1|)
δ
! y1=
N
"
i=1
a1,isi
# δ
! yθ=
N
"
i=1
aθ,isi
# δ
! yM=
N
"
i=1
aM,isi
#
図 1 確 率 分 布(4) の フ ァ ク タ ー グ ラ フ:N 個 の 円 は 変 数 ノ ー ドs1, . . . , sN で あ る .上 側 の N 個 の 四 角 は 関 数 ノ ー ド exp!
−β"1
2|sj−1|+12|sj+ 1|#$
(j= 1, . . . , N)を表し,下 側のM 個の四角は関数ノードδ%
yθ=&N i=1aθ,isi
' (θ =
1, . . . , M)を表す.
A =
⎡
⎢ ⎢
⎢ ⎣
a
1,1· · · a
1,N.. . . . . .. . a
M,1· · · a
M,N⎤
⎥ ⎥
⎥ ⎦ ∈ R
M×N(2)
である.簡単のため以下では二値ベクトルの場合を考え,
b ∈ { 1, − 1 }
NかつPr(b
j= 1) = Pr(b
j= − 1) = 1/2 (j = 1, . . . , N), E[b] = 0, E[bb
T] = I
とする.SOAV
最適化では,b − 1
やb + 1
がそれぞれおおよそN/2
個の零成分を持つこと を利用してb
の推定値ˆ b = arg min
s∈RN
1
2 ∥ s − 1 ∥
1+ 1
2 ∥ s + 1 ∥
1subject to y = As (3)
を得る.
2. 2
グラフ上のメッセージ伝搬SOAV
最適化のためのAMP
アルゴリズムは,最適化問題(3)
に対する確率分布µ(s) ∝ )
N j=1exp
*
− β + 1
2 | s
j− 1 | + 1 2 | s
j+ 1 |
,-
· )
M θ=1δ .
y
θ= /
N i=1a
θ,is
i0
, (4)
への確率伝搬法
[14]
を近似することによって得られる.ここで,β > 0
であり,δ 1
y
θ= !
N i=1a
θ,is
i2
は超平面y
θ= !
N i=1a
θ,is
i上の
Dirac
測度を表す.β → ∞
の極限で,(4)
の分布は(3)
の 解を台とする一様分布となるので,各変数s
j(j = 1, . . . , N)
に 関する周辺化を確率伝搬法を用いて行うことにより(3)
の解を 得られる.確率分布(4)
のファクターグラフは図1
のようにな り,sum-product
アルゴリズム[15]
におけるメッセージ計算はν
j→θt+1(s
j) ∝ exp
*
− β + 1
2 | s
j− 1 | + 1 2 | s
j+ 1 |
,-
· )
ζ=θ|
ˆ
ν
ζt→j(s
j), (5)
- 280 -
ˆ
ν
θt→j(s
j) ∝ 3
δ .
y
θ= /
N i=1a
θ,is
i0 )
k=j|
ν
kt→θ(s
k)ds
\j, (6)
と 書 け る .
ν
jt+1→θ(s
j)
は 変 数 ノ ー ドs
j か ら 関 数 ノ ー ドδ 1
y
θ= !
N i=1a
θ,is
i2
へのメッセージであり,ν ˆ
θ→jt(s
j)
は関 数ノードから変数ノードへのメッセージである.また,t
は繰 り返し回数を表し,4
( · )ds
\jはすべてのs
i(i = | j)
に関して積 分(周辺化)を行うことを意味する.2. 3
大システム極限次に大システム極限(
M, N → ∞ , M/N = ∆
)を考えメッ セージ計算(5), (6)
を近似する.以下では,計算を簡略化す るためにa
θ,j∈ { 1/ √
M , − 1/ √
M }
とする.行列A
の成分がi.i.d.
で平均0
,分散1/M
の確率分布に従っていれば,同様の アルゴリズムが導出可能である.大システム極限において,
ν ˆ
tθ→j(s
j)
と対応する累積確率分 布は平均z
tθ→j/a
θ,j,分散τ ˆ
θt→j/βa
2θ,jのガウス分布で近似でき る[13]
.ただし,z
tθ→j= y
θ− /
i=j|
a
θ,ix
ti→θ(7) ˆ
τ
θt→j= /
i=j|
a
2θ,iτ
it→θ(8)
であり,
x
ti→θとτ
it→θ/β
はそれぞれν
ti→θ(s
i)
の平均と分散を表 す.これを利用して,メッセージν ˆ
θt→j(s
j)
を平均z
θt→j/a
θ,j, 分散τ ˆ
θt→j/βa
2θ,jのガウス分布の確率密度関数ˆ
ν
θ→jt(s
j) ≈
5 βa
2θ,j2πˆ τ
θt→jexp
6 β 2ˆ τ
θt→j7 a
θ,js
j− z
θ→jt8
29
(9)
で近似する.式(7)–(9)
を用いると,ν
ti→θ(s
i) (i = | j)
の平 均と分散のみからν ˆ
θt→j(s
j)
の近似値を計算できる.次に,ν
i→θt(s
i) (i = | j)
の平均と分散を得るため式(9)
を式(5)
に代 入し,ν
j→θt+1(s
j)
をν
jt+1→θ(s
j) ≈ f
β⎛
⎝s
j; /
ζ=θ|
a
ζ,jz
ζt→j, ˆ τ
t⎞
⎠ (10)
と近似する.ここで,
f
β(s; u, c)
∝ exp
*
− β + 1
2 | s − 1 | + 1 2 | s + 1 |
,
− β
2c (s − u)
2-
(11)
はs
を変数とする確率密度関数である.なお,式(10)
の導出 においては,τ ˆ
θt→j≈ τ ˆ
tのようにすべてのτ ˆ
θt→jを辺θ → j
に 依存しない値τ ˆ
tに近似している.f
β(s; u, c)
の平均と分散をそ れぞれF
β(u, c), G
β(u, c)
とすると,x
tj→θとτ
jt→θ/β
がそれぞ れν
tj→θ(s
j)
の平均と分散であることから,以下の漸化式が得 られる.x
t+1j→θ= F
β⎛
⎝ /
ζ=θ|
a
ζ,jz
ζt→j, τ ˆ
t⎞
⎠ , (12)
u η(u, c)
0 1 1 +c
1
−1
−1
−1−c
図2 弱しきい値関数η(u, c)
z
tθ→j= y
θ− /
i=j|
a
θ,ix
ti→θ, (13)
ˆ
τ
θ→jt+1= β M
/
i=j|
G
β⎛
⎝ /
ζ=θ|
a
ζ,iz
tζ→i, τ ˆ
t⎞
⎠ . (14)
さらに,
τ ˆ
θt+1→jを辺θ → j
に依存しない値ˆ τ
t+1= β
M /
N i=1G
β⎛
⎝ /
M ζ=1a
ζ,iz
tζ→i, τ ˆ
t⎞
⎠ (15)
に近似する.
2. 4 β → ∞
の極限式
(4)
の確率分布の最頻値がβ → ∞
の極限で最適化問題(3)
の解となるため,β → ∞
としたときの更新式(12), (13), (15)
の形を求める.具体的には,F
β(u, c)
とG
β(u, c)
の値を計算す る.β → ∞
のとき,F
β(u, c)
の値は式(11)
のf
β(s; x, c)
の指 数部分の最大値をとるs
によって定まり,F
β(u, c)
→ arg min
s∈R
*+ 1
2 | s − 1 | + 1 2 | s + 1 |
, + 1
2c (s − u)
2-
(16)
= η(u, c) (17)
となる.ここで
η(u, c) =
⎧ ⎪
⎪ ⎪
⎪ ⎪
⎪ ⎪
⎪ ⎪
⎪ ⎨
⎪ ⎪
⎪ ⎪
⎪ ⎪
⎪ ⎪
⎪ ⎪
⎩
u + c (u < − 1 − c)
− 1 ( − 1 − c < = u < = − 1) u ( − 1 < u < 1) 1 (1 < = u < = 1 + c) u − c (1 + c < u)
(18)
は
SOAV
最適化(3)
に対する弱しきい値関数(soft threshold- ing function
)である(図2
参照).分散G
β(u, c)
は平均η(u, c)
の近傍でのf
β(s; u, c)
の値を調べることにより得られる.例え ば,− 1 < u < 1
でη(u, c) = u
の場合,u
の近傍のs
に対して— 3 —
- 281 -
も
− 1 < s < 1
が成り立つ.よって式(11)
からf
β(s; u, c) ∝ exp
*
− β − β
2c (s − u)
2-
(19)
∝ exp
*
− β
2c (s − u)
2-
(20)
となる.したがって− 1 < u < 1
の場合はf
β(s; u, c)
はガウス 分布として近似でき,その分散はG
β(u, c) = c/β
となる.一方1 < = u < = 1 + c
でη(u, c) = 1
の場合f
β(s; u, c)
はラプラス分布exp 7
−
β2| s − 1 | 8
で近似でき,その分散はG
β(u, c) = 8/β
2と なる.以上をまとめるとβG
β(u, c) → c η
′(u, c) (β → ∞ )
と書 け,更新式(12), (13), (15)
は以下のように表せる.x
t+1j→θ= η
⎛
⎝ /
ζ=θ|
a
ζ,jz
ζt→j, ˆ τ
t⎞
⎠ , (21)
z
θ→jt= y
θ− /
i=j|
a
θ,ix
ti→θ, (22)
ˆ
τ
t+1= τ ˆ
tM
/
N i=1η
′⎛
⎝ /
M ζ=1a
ζ,iz
tζ→i, τ ˆ
t⎞
⎠ . (23)
2. 5 AMP-SOAV
更新式
(21)–(23)
を用いると,1
回の繰り返しにつき2M N +1
個の変数を計算する必要がある.その計算量を更に削減するた め,x
tj→θとz
tθ→jをそれぞれ辺j → θ
とθ → j
に依存しない 値x
tjとz
θtに近似する.[13]
にあるように,x
tj→θとz
θ→jt をそ れぞれx
tj→θ= x
tj+ ∂x
tj→θ+ O + 1
N ,
, (24)
z
tθ→j= z
θt+ ∂z
tθ→j+ O + 1
N ,
, (25)
と表せると仮定する.ただし,
∂x
tj→θ と∂z
θt→jはO(1/ √ N )
であるとする.式(24)
と式(25)
を式(22)
と式(21)
に代入す ると,大システム極限においてx
t+1= η(A
Tz
t+ x
t, τ ˆ
t), (26) z
t= y − Ax
t+ 1
∆ z
t−1⟨ η
′(A
Tz
t−1+ x
t−1, ˆ τ
t−1) ⟩ , (27) ˆ
τ
t= τ ˆ
t−1∆ ⟨ η
′(A
Tz
t−1+ x
t, τ ˆ
t−1) ⟩ , (28)
を 得 ら れ る .こ こ で ,x
t= [x
t1· · · x
tN]
T お よ びz
t=
[z
1t· · · z
Mt]
T であり,x
t がt
回目の繰り返しにおけるb
の推定値となる.以上の式
(26)–(28)
がAMP-SOAV
の更新式で ある.ベクトル同士の和および行列とベクトルの積のみから なっているためその計算量はO(M N)
となり,近接分離法に よってSOAV
最適化(3)
を解くアルゴリズムの計算量O(M
2N )
よりも小さいオーダーとなる.式
(26)–(28)
はパラメータのない更新式となっているが,ˆ τ
を 最適化すべきパラメータとみなすアプローチも考えられる[12]
. 例えばパラメータλ > 0
と誤差σ
t2:= ∥ x
t− b ∥
22/N
を用いてˆ
τ
をλσ
tと置き換えれば,式(26), (27)
はx
t+1= η(A
Tz
t+ x
t, λσ
t), (29) z
t= y − Ax
t+ 1
∆ z
t−1⟨ η
′(A
Tz
t−1+ x
t−1, λσ
t−1) ⟩ (30)
と書ける.実際にアルゴリズムを実行する際にはb
は未 知であるから,b
の代わりにsgn(x
t)
などを用いてσ
t2=
∥ x
t− sgn(x
t) ∥
22/N
とする必要がある.以降は,式(29),(30)
からなるアルゴリズムについて考える.AMP-SOAV
の更新式の形は,基本的には圧縮センシングに対する
AMP
アルゴリズム[12]
と同一である.唯一の違いは弱 しきい値関数η
であり,スパースベクトルの再構成においては 通常η(u, c) = sgn(u) max {| u | − c, 0 }
という形をとる.3.
状態発展法を用いた特性解析状態発展法
[12]
はAMP
アルゴリズムの特性を解析するため の理論的枠組みである.圧縮センシングの場合と同様に,大シ ステム極限においてAMP-SOAV
によって得られる推定値の誤 差σ
t2= ∥ x
t− s ∥
22/N
はσ
t+12= Ψ(σ
2t) (31)
によって予測できる.ここで,Ψ(σ
2) = E B*
η +
X + σ
√ ∆ Z, λσ ,
− X -
2C
(32)
であり,X
は未知ベクトルb
の成分が従う確率分布に従う確率 変数(今回はPr(X = 1) = Pr(X = − 1) = 1/2
),Z
は標準ガ ウス分布に従う確率変数である.あとで見るようにΨ(σ
2)
は上 に凸であり,さらにΨ(0) = 0
であるから,d(σdΨ2)D D D
σ↓0
< 1
が成 り立てば(31)
の更新式による系列{ σ
2t}
t=0,1,...は0
に収束す る.実際,d(σdΨ2)D D
D
σ↓0< 1
ならばΨ(σ
2) < σ
2(σ
2> 0)
であり,σ
2t+1= Ψ(σ
t2) < σ
2t が成り立つ.Ψ(σ
2)
をσ
2で微分するとdΨ
d(σ
2)
= 1
∆
* Φ
+
−
√ ∆
σ (2 + λσ) ,
+ Φ 1
− λ √
∆ 2
− Φ +
− 2 √
∆ σ
, + 1
2 -
+ 2
σ √
∆
* φ
+ √
∆
σ (2 + λσ) ,
− φ + 2 √
∆ σ
,-
− λ
√ ∆
* φ
+ √
∆
σ (2 + λσ) ,
+ φ 1 λ √
∆ 2- + λ
2* Φ
+
−
√ ∆
σ (2 + λσ) ,
+ Φ 1
− λ √
∆ 2- , (33)
が 得 ら れ る .こ こ で ,φ(z) =
√12π
exp 1
−
z222
, Φ(z) = 4
z−∞
φ(z
′)dz
′ はそれぞれ標準ガウス分布の確率密度関数と 累積分布関数である.d(σdΨ2) をさらに微分するとd
2Ψ d(σ
2)
2= 4 √
∆ σ
5* φ
+ √
∆
σ (2 + λσ) ,
− φ + 2 √
∆ σ
,- (34)
- 282 -
iteration
0 10 20 30 40 50
σ2
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1
theoretical (state evolution) empirical (N=50, M=40) empirical (N=100, M=80) empirical (N=300, M=240) empirical (N=500, M=400) empirical (N=1000, M=800)
図3 推定値の誤差(∆= 0.8)
iteration
0 10 20 30 40 50
σ2
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1
theoretical (state evolution) empirical (N=50, M=30) empirical (N=100, M=60) empirical (N=300, M=180) empirical (N=500, M=300) empirical (N=1000, M=600)
図4 推定値の誤差(∆= 0.6)
となる.
λ, σ, ∆ > 0
よりd(σd22Ψ)2< 0
なので,Ψ(σ
2)
は上に凸 である.したがって,d(σdΨ2)D D
D
σ↓0< 1
,すなわち+ 1
∆ + λ
2,
Φ 1
− λ √
∆ 2
− λ
√ ∆ φ 1 λ √
∆ 2 + 1
2∆ < 1 (35)
が成り立てばσ
t+12= Ψ(σ
t2)
から定まる系列{ σ
2t}
t=0,1,...は0
に収束し,AMP-SOAV
による再構成が成功する.ただし,以 上の議論は大システム極限におけるものであり,問題のサイズ(N, M )
が有限の場合には式(35)
の条件は必ずしも十分では ない.4.
シミュレーション結果計算機シミュレーションにより,
AMP-SOAV
の特性を評価 する.観測行列A ∈ R
M×Nの成分はi.i.d.
で平均0
,分散1/M
のガウス分布に従うとする.図
3
と図4
に,AMP-SOAV
による推定値の経験的な誤差σ
2t= ∥ x
t− b ∥
22/N
と状態発展法(31)
を用いた解析的な予測 を比較した結果を示す. 図3
では∆ = 0.8
とし,(N, M) = (50, 40), (100, 80), (300, 240), (500, 400), (1000, 800)
に対する 特 性 を 評 価 し た .図4
で は∆ = 0.6
お よ び(N, M) = (50, 30), (100, 60), (300, 180), (500, 300), (1000, 600)
と し た .∆
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1
λ
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4
図5 λb(∆)
σ2
0 0.5 1 1.5
Ψ(σ2)-σ2
-0.1 -0.08 -0.06 -0.04 -0.02 0 0.02
λ=0.9λ b(∆) λ=λ
b(∆) λ=1.1λ
b(∆)
図6 Ψ(σ2)−σ2 (∆= 0.8)
弱しきい値関数
η
のパラメータはλ = 10
とした.問題の サイズが大きい場合には,状態発展法を用いた解析的な予測と 経験的な特性が良く一致することが分かる.図
5
に d(σdΨ2)D D D
σ↓0
= 1
を満たすλ
の値を∆
の関数λ
b(∆)
とし て示す. 曲線λ
b(∆)
は,大システム極限においてAMP-SOAV
による再構成が成功する領域と失敗する領域の境界となってい る.曲線の下側の領域ではAMP-SOAV
による推定値の誤差は0
とならず,上側の領域ではAMP-SOAV
はb
の正確な推定値を 与える.図よりAMP-SOAV
がN
次元二値ベクトルを正確に再 構成するには少なくともN/2
個より多くの観測が必要であるこ とが分かる.図6
はΨ(σ
2) − σ
2をσ
2の関数としてプロットし たものであり,∆ = 0.8
およびλ = 0.9λ
b(∆), λ
b(∆), 1.1λ
b(∆)
としている.その曲線と直線Ψ(σ
2) − σ
2= 0
との交点が関数Ψ(σ
2)
の固定点を表す.AMP-SOAV
が失敗する領域に属するλ = 0.9λ
b(∆)
の場合にはΨ(σ
2)
が正の固定点をもっており,状態発展法による系列
{ σ
2t}
t=0,1,...は0
に収束しない.一方,λ = 1.1λ
b(∆)
の場合には,Ψ(σ
2)
は正の固定点をもたないた め状態発展法による系列{ σ
2t}
t=0,1,...は0
に収束する.図
7–8
では,AMP-SOAV
による再構成の経験的な成功率を 評価する. ただし,経験的な評価においては,アルゴリズムの繰— 5 —
- 283 -
λ
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3
recovery rate
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
N=1000, M=900 (∆=0.9) N=1000, M=800 (∆=0.8) N=1000, M=700 (∆=0.7) N=1000, M=600 (∆=0.6) λb(0.9) λ
b(0.8) λ b(0.7) λ
b(0.6)
図7 再構成の成功率(N= 1000, M= 900,800,700,600)
λ
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3
recovery rate
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
N=1500, M=1200 N=1000, M=800 N=500, M=400 N=300, M=240 N=100, M=80 N=50, M=40 λb(0.8)
図8 再構成の成功率(∆= 0.8)
り返し回数を
t = 500
としたときにσ
t2< 10
−3となる場合を成 功とする.図7
では未知ベクトルの次元をN = 1000
とし,観 測数をM = 600, 700, 800, 900
とした.垂直な直線はそれぞれ∆ = 0.6, 0.7, 0.8, 0.9
に対する境界の値λ
b(∆)
を表す.直線の 左側が失敗する領域であり,右側が成功する領域である.どの∆
に対しても失敗する領域では成功率がほとんど0
であり,成功す る領域で急激に成功率が上昇している.ただし,成功する領域で も境界付近では成功率が1
になっていない.その理由の一つは アルゴリズムの繰り返し回数をt = 500
に制限していることであ り,もう一つは問題のサイズ(N, M)
が有限であることである.問題のサイズによる成功率の変化を示すのが図
8
であり,∆ = 0.8
として(N, M) = (50, 40), (100, 80), (300, 240), (500, 400), (1000, 800), (1500, 1200)
の場合の成功率をプロットしている.問題のサイズが大きくなるにつれて,成功率が
1
に近づいてい ることが分かる.5.
ま と め本稿では,
SOAV
最適化のための近似メッセージ伝搬アルゴ リズムであるAMP-SOAV
を提案した.また,状態発展法を用 いてAMP-SOAV
の特性を理論的に解析し,AMP-SOAV
が二値ベクトルを完全に再構成するための条件を示した.計算機シ ミュレーションにより,
AMP-SOAV
が二値ベクトルを再構成 可能であることや,その特性が理論解析と一致することを示し た.今後の課題としては,雑音がある場合への拡張や,具体的 な信号処理の問題への応用などが挙げられる.謝辞 本研究の一部は,科学研究費補助金(研究課題番号
15K06064, 15H2252
)の助成を受けたものです.
文 献
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