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戦-39-1 冬期の降雨に伴う雪崩災害の危険度評価に関する研究(2)

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戦-39-1 冬期の降雨に伴う雪崩災害の危険度評価 に関する研究(2)

- 1 -

戦-39-1 冬期の降雨に伴う雪崩災害の危険度評価に関する研究(2)

研究予算:運営費交付金 研究期間:平 22~平 26 担当チーム:雪氷チーム

研究担当者:松澤 勝、中村 浩、松下 拓樹、

坂瀬 修

【要旨】

湿雪雪崩の発生条件の解明に向け、雪崩事例の気象解析と積雪表面の融雪及び降雨の浸透に関する予備的な積 雪観測を実施した。気象解析の結果、降雨を伴う場合の湿雪雪崩の発生は、降雨を伴わない場合よりも雪崩発生 前の気温が低く、気温 0℃以上の積算温度が小さい傾向にあることが示された。積雪観測の結果、こしまり雪や しまり雪に比べて、ざらめ雪は積雪表面における融雪量が多く、積雪下層への浸透が早いことが示された。この 浸透速度の違いにより、ざらめ雪としまり雪の境界で帯水層が形成される様子が観察された。

キーワード:湿雪雪崩、積算温度、降雨量、表面融雪、降雨の浸透

1.はじめに

近年の気候変動に伴い、我が国において冬期の気 温上昇が報告されており 1) 、これによって降水形態 が雪から雨へ、また積雪の性質が乾雪から湿雪へ変 化し、雪崩などの雪氷災害の発生形態などにも変化 が生じることが懸念されている。最近は、寒冷な気 候である北海道においても厳冬期に降雨が生じ、雪 崩の発生が報告されている 2) 。このように、雪崩災 害において、冬期の気温上昇や降雨の増加は、湿雪 雪崩や大量の水を含んだ雪が長距離流下するスラッ シュ雪崩による災害の多発につながる可能性がある が、これらの雪崩の発生条件について不明な点が多 く、雪崩対策の現場において湿雪雪崩の危険度判断 が難しい現状にある。

本研究では、まず湿雪雪崩発生の気象条件を調べ るために、北海道の国道における雪崩発生事例の気 象解析を行った。また、湿雪雪崩の発生機構を明ら かにするため、積雪表面における融雪状況と積雪内 の降雨の浸透状況を把握するための観測を実施した。

2.研究方法

2.1 雪崩発生事例の気象解析

過去 5 年間( 2001 年 4 月~ 2006 年 3 月)の北海道 の国道における災害や事故等の履歴から、雪崩の発 生による通行止め 40 事例を抽出した。 気象解析には、

雪崩発生地点近傍の北海道開発局道路テレメータお よび気象庁アメダスの気温、積雪深、降水量の 1 時 間間隔の観測データを用いた。気温について、観測

箇所と雪崩発生箇所の標高差を考慮した標高補正は 行っていない。また、降水量は、試みとして気象庁 のレーダー解析雨量も収集し、アメダスの降水量と の比較を行った。雪崩事例のうち湿雪雪崩事例の抽 出は災害記録の記述に基づき、雪の乾湿に関する記 述がない場合は、雪崩発生時の近傍気象観測の気温

データが 0℃以上である場合を湿雪雪崩と判断した。

2.2 積雪の表面融雪に関する積雪断面観測 気温や日射による積雪表面の融雪量を把握するこ とを目的とした観測を実施した。観測には、図1に 示す融雪水が排水されるように工夫した容器 (以下、

融雪パン)を用いる方法 3) で行った。

使用した融雪パンは、高さ 5cm 、直径 20cm の円 筒型で、底は網目が 1.2 × 1.2mm のメッシュ構造に なっており融雪水が排水される構造になっている。

この融雪パンに積雪を切り出して収め、質量 m 1 を測

直径20cm

高さ

5cm

取っ手

(3箇所)

底面:メッシュ

(メッシュ間隔1.0、1.2mm)

材質:ステンレス

(厚さ1.5mm)

図1 観測に用いた融雪パンと蒸発パン

(2)

戦-39-1 冬期の降雨に伴う雪崩災害の危険度評価 に関する研究(2)

- 2 - 図2 雪面に設置した融雪パンの状況

定した後に積雪表面に埋めた(図2) 。約 4 時間後に 融雪パンを取り出して質量 m 2 を測定し、質量の差を 融雪水として排出された量とした。さらに、観測中 の積雪表面からの蒸発による質量の損失を把握する ため、融雪パンと同じ形状で底に蓋をした蒸発パン を用いて同様に質量 m e1m e2 を測定し、その差を蒸 発量とした。以上の測定値から、融雪によって流出 した量(融出量 M)を、式(1)より求めた。

( m m ) A ( m m ) A

M = 12e 1e 2 (1)

ここで、 A は融雪パンと蒸発パンの断面積である。

また、融雪パン内に残った融雪水の量を把握する ために、 融雪パン内の雪の含水率と密度を測定した。

含水率は、遠藤式による熱量方式で測定した重量含 水率( % )である。融雪パン内に残った融雪水は、

密度に重量含水率をかけて求めた。観測は、 2011 年 2 月 21 日、寒地土木研究所構内で行った。

2.3 積雪内の降雨の浸透に関する積雪断面観測 降雨の積雪内部への浸透状況を把握するための試 みとして、水で薄めたインクをマーカーとして用い る観測を実施した。 観測では、 降雨前に積雪の密度、

雪温、含水率の鉛直分布を測定し、雪質の観察を行 った。その後、積雪表面に水で薄めたインクを散布 し、翌日、インク散布箇所の積雪断面を掘り出して インクの浸透状況を観察した。

降雨の積雪内部への浸透に関する観測は、札幌の 市街地に位置する寒地土木研究所構内で行った。イ ンク散布前の積雪断面観測を 2011 年 2 月 24 日 15 時から 16 時 30 分にかけて行い、 翌 25 日 9 時にイン クの浸透状況を観察した。この期間の降水量や気温 は、札幌管区気象台の観測値を用いた。

3 .研究結果

3.1 湿雪雪崩発生の気象状況

収集した雪崩 40 事例のうち、35%にあたる 14 事 例が湿雪雪崩であり、そのうち 9 事例で降雨を伴っ ていた。以下では、この 14 事例について、雪崩発生 時および発生前の気象状況を調べた。

図3は、雪崩発生時の積雪深と気温の関係および 発生前 24 時間の最高気温との関係である。 図中のプ ロットは、降雨の有無で区別した。図3 a より、降 雨を伴う場合は、降雨を伴わない場合よりも低い気 温で雪崩が発生しており、 0 ℃以下の事例もある。し かし、図3b の発生前 24 時間の最高気温では、降雨 の有無による気温の違いはみられない。

湿雪雪崩発生における気温の影響をより詳しくみ

るため、 0℃以上の気温を積算した積算温度を求めた。

図4は、雪崩発生前 24 時間、 48 時間、 1 週間の積算 温度と雪崩発生時の積雪深との関係である。降雨を

0 50 100 150 200 250 300 350

-5 0 5 10

雪崩発生時の雪深(

雪崩発生時の気温(℃)

○湿雪雪崩

×降雨を伴う場合

0 50 100 150 200 250 300 350

-5 0 5 10

雪崩発生時の積雪深(㎝)

前24時間の最高気温(℃)

○湿雪雪崩

×降雨を伴う場合

(a) (b)

図3 湿雪雪崩発生の気象条件

雪崩発生の積雪深と( a )気温、 ( b )発生前 24 時間 の最高気温の関係

R = 0.259

0 50 100 150 200 250 300 350

0 50 100

雪崩発生時の積雪深(㎝)

前24時間の積算温度(℃)

R = 0.025

0 50 100 150 200 250 300 350

0 50 100 150

雪崩発生時積雪深(㎝

前48時間の積算温度(℃)

R = 0.790

0 50 100 150 200 250 300 350

0 200 400 600

雪崩発生時の積雪深(㎝)

前1週間の積算温度(℃)

<凡例>

● 降雨なし

○ 降雨あり

― 降雨なしの場合の回帰直線

R 降雨なしの場合の相関係数

(a) (b)

(c)

図4 湿雪雪崩発生の気象条件

雪崩発生時の積雪深と(a)発生前 24 時間の気温 0℃

以上の積算温度、 (b)発生前 48 時間の積算温度、

(c)発生前 1 週間の積算温度の関係

(3)

戦-39-1 冬期の降雨に伴う雪崩災害の危険度評価 に関する研究(2)

- 3 - 伴う場合はばらつきがあり明確な関係が見られない が、降雨を伴わない場合、積雪が深いほど大きな積 算温度のときに雪崩が発生している(図4) 。また、

この傾向は、発生前 1 週間の積算温度(図4c)でよ り明確である。このことは、気温上昇による湿雪雪 崩発生の条件のうち融雪水の積雪下層への浸透に関 連して、積雪が深いほど気温の高い状況が長く続く ことが必要であると示唆される。ただし、この傾向 から外れた事例もあり、積雪の層構造や雪質によっ て湿雪雪崩の発生機構が異なると考えられる。

次に、 降雨と雪崩発生との関係を調べた。 図5は、

雪崩発生前 24 時間について、 雪崩発生箇所近傍の地 上観測による降雨量と気象庁レーダー解析雨量を比 較したものである。図5より、降雨量はレーダー解 析雨量の方がやや少ない傾向にあったため、以下で は地上観測による降雨量を用いた。図6は、雪崩発 生前 24 時間の降雨量と積算温度の関係である。 降雨 量が少ない場合は積算温度が大きく、降雨量が多い 場合は積算温度が小さい傾向があり、気温上昇によ る融雪量と降雨量を合わせた水量が、湿雪雪崩発生 に関係すると考えられる。ただし、降雨時に発生す る雪崩は、降雨前の気象条件に起因する雪質と降雨 のタイミングによって発生機構が異なることが指摘 されており 4)5) 、今後、降雨による湿雪雪崩発生の 気象条件に関する詳細な解析を行う予定である。

0 10 20 30

0 10 20 30

前24解析(㎜

前24時間のアメダス降雨量(㎜)

図5 雪崩発生前 24 時間のアメダス降雨量と レーダー解析雨量の関係

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

0 10 20 30

前24時間の積算温度(℃)

前24時間の降雨量(㎜)

図6 湿雪雪崩発生の気象条件 雪崩発生前のアメダス降雨量と積算温度の関係

3 . 2 積雪の表面融雪に関する積雪断面観測 積雪の表面融雪に関する観測は、こしまり雪、し まり雪、ざらめ雪の3種類の雪質について行った。

観測前の密度は、それぞれ 176kg/m 3 、325kg/m 3

297kg/m 3 で、いずれも含水率 0%の乾き雪である。

これらの雪を収めた融雪パンと蒸発パンを 10 時に 雪面に設置し、 14 時からこしまり雪、ざらめ雪、し まり雪の順に取り出した。

図7は、融出量(融雪パンから流出した融雪量) 、 融雪量(融雪パンに残った融雪量) 、非融雪量(融け なかった量)を密度との関係において比較したもの である。図7a の質量の割合でみると、密度が大き いほど融雪量や融出量の割合が低くなるが、図7b の質量の絶対量でみるとほぼ同じ量が融雪した。ま た、融出量と融雪量を比較すると、こしまり雪では 融出量より融雪量が多く、融雪水が融雪パン内に残 る傾向にあるのに対し、ざらめ雪では融出量の方が 多く、融雪水が比較的早く流出する傾向にあると考 えられる。 しまり雪は、 融出量と融雪量が同程度で、

こしまり雪とざらめ雪の中間の特徴を持つと考えら れる。

0 20 40 60 80 100

100 150 200 250 300 350 400

質量(%)

密度 (kg/m

3

)

非融雪量 融雪量 融出量

( a )

こしまり

ざらめ しまり

0 2 4 6 8 10 12 14

100 150 200 250 300 350 400

質量(kg/m

2

)

密度 (kg/m

3

)

非融雪量 融雪量 融出量

(b)

こしまり

ざらめ しまり

図7 融出量と融雪量、非融雪量の測定結果

縦軸(a)質量の割合(%) 、 (b)質量の絶対量(kg/m 2

(4)

戦-39-1 冬期の降雨に伴う雪崩災害の危険度評価 に関する研究(2)

- 4 - 3 . 3 積雪内の降雨の浸透に関する積雪断面観測

図8は、 雪面にインクを散布する前の雪質、 雪温、

密度、重量含水率の鉛直分布である。観測時の気温

は 5.7℃、天候は曇り時々晴れであった。積雪は、し

まり雪とざらめ雪が交互に存在し、全体的に雪温が 0 ℃に近く、 ほぼ全層で水を含む濡れた状態であった。

特に、雪面から 5cm の積雪の重量含水率は 12 ~ 17%

と高い状態であり、気温による融雪が進行していた ものと考えられる。また、最下層 4cm の積雪の含水 率も 20% と高く、帯水している様子が観察された。

雪面へのインク散布は 16 時 30 分に行った。

図9は、翌日 9 時のインクの浸透状況である。イ ンクを散布してからの降水量は 1.5mm であり、降水 時の気温が 2℃以上であることから、この降水は雨 であったと考えられる。図9のインクの浸透状況を

0 5 10 15 20 25 30 35 40

‐3  ‐2  ‐1 

0  1 

地面からcm

雪温 (℃)

雪温

0 5 10 15 20 25 30 35 40

100  200  300  400  500 

地面からcm

密度 (kg/m3 密度

0 5 10 15 20 25 30 35 40

0  10  20  30 

地面からcm

重量含水率 (%)

含水率(重量)

(a)雪質

<凡例>

● しまり雪

○ ざらめ雪

(b)雪温 (c)密度 (d)重量含水率

図8 インク散布前の積雪断面観測の結果

( a )雪質、 ( b )雪温、 ( c )密度、 ( d )重量含水率 2011 年 2 月 24 日 15 時から 16 時 30 分測定

17 ~ 19cm 26 ~ 27cm

図9 インクの浸透状況 2011 年 2 月 25 日 9 時撮影

みると、地面から 17 ~ 19cm 及び 26 ~ 27cm 付近にイ ンクの濃い層がみられ、浸透した雨水が帯水してい る様子がわかる。積雪深が前日の 37cm から 34cm に 減少したことを考慮して、前日の雪質や密度の鉛直 分布(図8)とインクの状況(図9)を比較すると、

この層は、しまり雪層の上にざらめ雪が形成されて いる箇所と考えられる。杉江・成瀬 (2000) 6) による と、水の浸透速度は雪質によって異なり、高い含水 率の場合、しまり雪よりもざらめ雪の不飽和透水係 数が大きく、水の浸透が早い。よって、今回観測し た帯水層は、しまり雪の上にざらめ雪が存在する層 構造の箇所で形成されたものと考えらる。

4.まとめ

今年度は、湿雪雪崩の発生条件の解明に向け、雪 崩事例の気象解析と、積雪表面の融雪及び降雨の浸 透に関する予備的な観測を実施した。今後は、さら に詳細な気象解析を行うとともに、観測や実験によ って帯水層や積雪内の氷板形成過程について明らか にし、湿雪雪崩の具体的な発生条件の解明及び危険 度評価技術の提案に向けた検討を行っていく。

なお、降雨の浸透に関しては人工雪を用いた室内 実験も行っており、こちらは雪崩・地すべり研究セ ンター作成の報告書「戦-39 冬期の降雨にともなう 雪崩災害の危険度評価に関する研究(1) 」をご参照 いただきたい。

参考文献

1) 気象庁: 「異常気象レポート 2005」 、pp383、2005 年

2) 中村一樹、石本敬志: 「2010 年 2 月下旬に広域に発生

した全層雪崩について」 、 北海道の雪氷、 29 号、 pp8-11 、 2010 年

3 ) 日本雪氷学会編集: 「融雪量の観測」 、積雪ハンドブッ ク、 pp.23-29 、 2010 年

4)Conway, H., and C. F. Raymond : “Snow stability during rain”, Journal of Glaciology, Vol.39, pp.635-642, 1993 5) Heywood, L. : “Rain on snow avalanche events, some

observations”, Proceedings of the International Snow Science Workshop, Whistler, Canada, pp.125-136, 1988.10

6) 杉江伸祐、 成瀬廉二: 「積雪の不飽和透水係数の測定」 、

雪氷、62 巻 2 号、pp.117-127、2000 年

参照

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