成人前期における非製造業の小企業従業員の職業性ストレスに関する探索的研究 [ PDF
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(2) かった。 CES-D 得点が大幅に cut-off-point を超えた info.16. 識しながら生活し,健康を保ってきたのか》と定めた。. には,極力深める質問を避ける等の配慮をした。. (2)Step2:概念の生成. 4.調査内容. info.01 info.08 のデータについて分析テーマに関するデ. (1)フェイスシート(性別,年齢,同居家族, ,職種,勤. ータの関連箇所(ヴァリエーション)に着目し,類似のヴ. 務年数,残業時間,最終学歴,業種,従業員数) ァリエーションがないか,反対のデータ例がないかを検討 (2)CES‐D . する作業を繰り返し,複数の類似のヴァリエーションが得. (3)半構造化面接による質問 . られた際に概念を生成した。以下,具体的な概念の生成手. 「どのような立場でどのような仕事をされてますか」 「職. 続きについて記述する。 (以下,概念を<>,カテゴリーを. 場の雰囲気はどうですか」 「自分の仕事や職場の良いと. 【】 ,ヴァリエーションを「」 ,定義を . で表記). ころ,悪いところを教えてください」といった質問を. 分析テーマに基づいて「ね,売り上げが下がっとったけ. 元に自由に語ってもらい,適宜深める質問を行った。 . ん,まあ俺来て今上げれたけん,まあ自信じゃないけどね,. 5.分析手続き. まあやってけるみたいな (info.02)」という箇所に着目した。. 分析手続きについては全て木下(2003)を参考に行った。. そしてそのデータの背後にある意味を汲み取りながら(木. 具体的な方法については結果にて詳述する。. 下,2003)類似の発言が無いか,他のデータを確認した。. . 結果, 「4 人なり 5 人の動きでもう会社が回っているわけな. Ⅲ 結果 . ので,やっぱ,自分がこう,欠けただけで会社のあのシス. 1.info の属性. テムがガラッと変わってしまうっていう,まあそれなりの. 本研究における info.の属性を Table1 に示した。. やりがいもある(info.07)」等,他のデータからも複数のヴァ リエーションが得られたため,ある程度説明可能な概念に 成りうると判断し,分析ワークシートのヴァリエーション 欄にこれらのヴァリエーションを記述し,“人数が少ないた め,会社に貢献できていると言う実感や,自分に任せても らっていると言う実感をもてることで,やりがいや満足感 を持つことが出来る。”と定義し,概念名を<自身の必要性 を実感>として,それぞれを分析ワークシートに記入した。 また,解釈が恣意的にならない様,反対の意味にあたる データ(対極例)の有無を検討した結果を理論的メモ欄に 記入し,複数の対極例が見つかった場合はその対極例を新 たな概念とした。この様に分析テーマに基づいてデータの. 2.分析経過. 関連箇所に着目し,類似例,対極例が無いかという視点で. M-GTA は質的分析であるため,読者に最大限批判の機会. 他のデータの検討を繰り返して概念を生成していった。. を与えられるように分析過程を示す必要がある。以下,分. (3)Step3:概念の精緻化. 析経過について可能な限り具体的なデータ例を用いて示す。. info.09 info.13 のデータを加えて分析を行った。この段. なお具体例以外のデータについても同様の分析を行った。. 階では既に前段階にて生成されている概念があるため,生. 分析経過は以下の5つのステップに分けられる。M-GTA. 成済みの概念についての類似例,対極例が無いかという視. の分析においては研究する人間(筆者)の視点を定めて分. 点と,これまで生成されていない新たな概念が生成される. 析を行うことが重要であるが,視点が恣意的になりすぎな. 可能性は無いかという視点でデータを検討した。. いよう,また,研究者自身の視点を明らかにするため,各. (4)Step4:継続的比較分析から理論的飽和. ステップの分析を終えるごとに,臨床心理士もしくは臨床. これまでに得られた概念が妥当なものであるかを検討す. 心理学専攻の大学院生によるスーパーヴィジョンを受けた。. るためさらに info.14 info.17 のデータを加え,同様の分析. (1)Step1:分析テーマの設定. を行った。結果,新たな概念が生成されることは無かった。. まず info.01 info.04 のデータを概観し,データの意味を. このことから今回生成した概念は,少なくともある範囲の. 解釈しながら,データに即した,かつ研究目的に沿った分. 小企業従業員については,ある程度の安定性があるだろう. 析テーマを検討し《成人前期の小企業従業員が現在勤める. と判断した。更なる調査によって生成した概念をより広範. 企業に勤めてからの自分自身と周囲の環境をどのように認. に拡大する可能性は理論的には無限(例えば木下,1999 な. . 2 .
(3) ど)であるが,それゆえ研究の目的を照合した上で「限定. Ⅳ 考察. のための基準を定めること」 (Flick,1995)が重要だと思わ. 1.小企業従業員の職業性ストレスに関する仮説的知見. れる。本研究の目的は,成人前期における小企業従業員の. 上述の分析結果により,先行研究では指摘されていない,. 職業性ストレスについて探索的に明らかにすることであり,. いくつかの仮説的知見が得られた。. 分析経過の中で,先行研究では指摘されていない様な仮説. (1)仮説的知見1. 的知見が複数得られたため, (内容は後述)小企業従業員の. 『小企業従業員は企業が組織立ってないことを中心とする. 職業性ストレスに関して一つの枠組みを提供しうるものと. 小企業特有のどうしようもなさを感じている。 』. 判断し,先述したある程度の安定性を以て理論的飽和に代. 中小企業に関する先行研究においては,涌井(2010) ,山. え,概念生成のための分析を終了した。また,質的研究に. 本ら(2006)によって,メンタルヘルス問題に対する規定. おいては,得られたデータの共通性に基づく最大公約数的. が整っていないことが指摘されていたが,小企業において. な部分と,個別性に基づく最小公倍数的部分を同時に扱う. は,メンタルヘルス問題以前に,そもそもの企業としての. ことが可能である(水野, 2004) 。本研究では,3名以上の. 規定が曖昧であることが分かった。そしてそのこと自体が. info.からヴァリエーションが得られていない概念について. 大きなストレッサーとして存在し,かつ種々のネガティブ. は個別性が高いと判断し,その後の分析から削除した。. な認識を生み出しており,この点はいわゆる大企業従業員. (5)Step5:カテゴリー生成. には考えられないストレッサーであると言える。. 生成された概念同士の関係をデータに基づいて一つずつ. また,坂井(2006)等によって人間関係の難しさが指摘. 確認していき,概念同士の関係の集まりであるカテゴリー. されていたが,具体的に組織立ってないがために,<社員. を生成した。また,概念同士の関連からさらにカテゴリー. が育たない>,<勤務年数と年齢の齟齬>によってやりに. 同士の関連についても検討した。 (結果は後述) 。. くさが生じるといった問題があることが確認された。また. 3.分析結果のまとめ. 家族経営などの小企業独特の狭い人間関係だからこその. 本研究の目的はあくまで仮説生成であるため,以降説明. やりにくさ についても確認され,一口に人間関係と言っ. する知見は本研究の分析対象となった info.に限定されるも. ても,小企業特有の複数の問題が見出されたと言えよう。. のである。以下,結果図(Figure1)及び小企業従業員の職. (2)仮説的知見2. 業性ストレスに関する仮説モデルとしてカテゴリー間の関. 『小企業特有のどうしようもなさに対して,同一の事象を. 係図(Figure2)を示す。なお結果図中の① ④は以下に考. 人間らしい温かみがある,自身の必要性を実感できるとポ. 察する仮説的知見の導出根拠である。. ジティブに捉えることで健康を保つことができる。 』. . 3 .
(4) の準備>と自ら環境を変えようと考えることで健康を保と うとするのではなかろうか。 2.小企業従業員の職業性ストレスに関する仮説モデル Figure2 に関して, ストレッサーから症状の発生に至る過 程の中で,職場環境に関しては【社長の従業員理解】の有 無が重要である。 【人間らしい温かみ】はストレッサーとも なり得るため, 【相互扶助】によってでしか対処できない。 個人要因に関しても, 【自身の必要性を実感】できるか等の 廣川(2004)をはじめ,多くの先行研究では小企業のネ. 認識による対処が多く認識によってでしか対処できない可. ガティブな側面に目が向けられてきた。. 能性もあり, 【一般的な対処】の中で<割り切る>ことがで. 確かに本研究からも【小企業特有のどうしようもなさ】. きるか<第三者への相談/愚痴>が可能か等の対処能力の. に,いわゆる大企業とは異なるネガティブな要因が数多く. 有無が大企業従業員以上に重要になる可能性が示唆された。. 挙がった。しかしながら,「裏を返せば」そのネガティブ. 3.小企業従業員へのメンタルヘルス対策の可能性. に認識しているのと同一な事象をポジティブにも捉えてい. まず,小企業自体が<組織立ってない>ため,先行研究. ることも見出された。具体的には,仕事の量,質,裁量権. で指摘されていたように,メンタルヘルス対策を実施する. に関して,<一人当たりの負担・責任の重さ>はあるもの. のであれば,外部機関と連携していくことになるであろう。. の,だからこそ<自身の必要性を実感>できるということ,. 対策の中には予防的なポピュレーションアプローチと,治. また,先行研究において,しばしば指摘されていた人間関. 療的なハイリスクアプローチがある(有元,2008) 。前者に. 係の難しさ(坂井,2006 他)について,【人間らしい温か. おいては【人間らしい温かみ】があるにもかかわらず【本. み】があるなど,むしろ少人数で人間関係が充実している. 音を話せない】というギャップに対して,研修型のグルー. からこそ働きやすいといった側面もあることが見出された。. プアプローチが考えられる。全員参加が可能であるため,. (3)仮説的知見3. 大企業以上に有用性が高いのではなかろうか。また,後者. 『人間らしい温かみがあるにも関わらず,本音を話せない. においては援助者が小企業従業員の置かれている職場環境,. 感じがある。 』. 制度が無い分融通の利く可能性のあること,転職,独立志. info.10,11,14,15 からは【人間らしい温かみ】と【本音を. 向が緩衝要因になり得ること,小企業独自のポジティブな. 話せない】のカテゴリーに当てはまるヴァリエーションが. 側面も多々あること等を理解しておく必要があると言える。. 得られた。仮説的知見2に見られた様に小企業において【人 間らしい温かみ】を持てることは重要であるが,その温か. Ⅴ まとめと今後の課題 . い関係を維持するために【本音を話せない】感じがあるの. 1.まとめ . ではないかと考えられる。 【人間らしい温かみ】によって繋. 本研究では成人前期の職業性ストレスについて M-GTA. がっていられる感じが大企業以上に強い分,いわゆる本音. を用いて探索的に検討した結果,①小企業特有のストレッ. と建前の使い分けの葛藤も強いではないかと考えられる。. サー,②ポジティブに捉えていること,③本音と建前の使. (4)仮説的知見4. い分け,④独立,転職によるキャリア形成に関する4つの. 『自身の成長のため,独立のためというモチベーションを. 仮説的知見と仮説モデルが得られた。また小企業従業員へ. 持つことで,また実際に転職,独立によって環境を自ら変. のメンタルヘルス対策は外部機関との連携が前提となるこ. えることで,健康を保つことができる。 』. と,研修型グループアプローチの有用性,援助者による小. 成人前期には,人は夢を形成し,ある程度実現できる目. 企業従業員の職場環境の理解の必要性が考えられた。. 標を達成しなければならないが(Levinson,1978) ,そもそ. 2.今後の課題. も組織立っておらず,また適正配置先も限られている(藤. 上述の知見はあくまでも本研究の info.に限定されるもの. 代,1998)小企業においては,将来の見通しが立ちにくく,. であり,今後対象者を増やす,大企業との比較を行うなど,. 同一企業に勤め続けることによってキャリアを形成してい. 得られた仮説的知見を検証する更なる研究が求められる。. くことに限界があるのではないかと考えられる。また,大. 本研究における分析テーマは《健康を保ってきたプロセ. 企業においては,仕事や職場に関してストレスを感じた際. ス》であったため,ストレスによる症状が発生してからの. にも,配置転換等が期待できるが,小企業においては期待. 回復過程については検討していない。今後<組織立ってな. できないため,<自身の将来のための成長><独立のため. い>小企業の中での回復過程を検討する意義はあろう。. . 4 .
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