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Ⅴ ストーキング行為犯罪化の動向

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(1)

一,はじめに

 近年,台湾において,社会を驚かせるストーキング事件が多数あり,事 件に対する議論が盛り上がった。以下は二つ事件が挙げることができる。

一つ目は,中華民国103年(西暦2014年,以下西暦で記載)

9

月にあった

「台湾大学オタク殺人事件」である。一見すると,本件は別れた元恋人同 士の単純な殺人事件であるが,殺人が行われた時点から遡って,男性の方 が別れた後,女性の方に約

2

週間にわたる嫌がらせる行為,ストーキング 行為,住居侵入,恐喝行為をした。この事件を受けて,台湾の立法委員

(国会議員)が2015年

2

4

日に「家庭内暴力防止法」(以下,DV法という)

第63条の

1

に「恐怖的な恋人に関する条項」を立法した。詳しい内容とし ては,改正前の保護命令の保護対象は家庭内のメンバーに限定されていた が,改正後,恋愛のような親密関係のある「家庭内のメンバーでない者」

まで保護の範囲が及んだ。これにより,家庭内のメンバーでない・同棲の 関係を持たない者であっても,現在またはかつて親密関係にある者は,

DV

法第

9

条以下の規定に従い,裁判所に保護命令(通常保護命令,暫時保 護命令及び緊急保護命令がある)を申立することができることになった。

 修正された

DV

法は保護命令の適用範囲が拡大されたが,感情または性 行為をベースとする親密関係(現在またはかつて恋人関係,同性パートナー

王  皇 玉 洪 士 軒 訳

Ⅴ ストーキング行為犯罪化の動向

(2)

シップ)のある者にとどまり,感情または性行為をベースとする親密関係 に属しない者は,DV法の対象外である。以下の二つ目の事例の被害者 は,DV法の適用外であるため,法律上の援助を受けられない状況に陥っ ている。

 二つ目に議論された事例は,2017年12月11日に世新大学の男子生徒が女 子生徒に求愛し,拒否された後,ナイフで女子生徒を刺傷した事件であ る。被害者である女子生徒は高校一年生のころから,その男子生徒にナン パされ,男子生徒からの追求行為を数回拒否した。本事件発生の

1

ヶ月前 に,男子生徒がストーキング行為を行ったため,女子生徒が警察に助けを 求めたことがあった。この事件について,加害者と被害者は前述のような

「恐怖的恋人の関係」を持たないため,新聞の関連記事によると,事件発 生後,警察は本件のストーキング行為を規制する関連法令がないことを理 由として,更なる措置または保護手段をとれないとした。警察に助けを求 めたところから

1

ヶ月後,男子生徒がストーキング行為だけではなく,女 子生徒を刺すという重大な傷害事件を起こすという結果に至った。この事 件により,立法委員(国会議員)は内政部に関連法令を提出するよう要求 した(1)(2)(3)

 以上のような幾つかの世間の注目を浴びたストーキング事件が発生した 後,内政部がストーキング行為を規制するため,「ストーキング行為規制 法草案」を作成し,2018年

4

月19日に行政院会議で通過した後,立法院に 送られ審議入りした(4)。しかし,2019年

4

月30日に,立法院(国会)で与

1) 事件についての詳しい内容は,下記URLを参照してくださいhttps://tw.

news.yahoo.com/世新情殺─高─跟蹤到大學─被砍女學生曾報警求救─093425013.

html (2019.06.30)。

2) 訳者注:内政部は,行政院に属する内政を所管する最高行政機関である。日 本の内務省に相当する。内政部の業務対象は警政,兵役,消防,国土等である https://www.moi.gov.tw/chi/chi_about/organization.aspx (2019.09.17)。

3) 事件についての詳しい内容は,下記URLを参照してくださいhttps://tw.news.

yahoo.com/世新大學刺殺案─藍委籲─跟蹤騷擾防治法─儘速立法─051910063.html

(2019.06.15)。

(3)

党と野党が議論したとき,内政部と警政署(5)は当草案がその他の法律と重 なる部分があり,また事件の数が多く,警察の治安維持機能に影響するお それがあることを理由とし,立法手続を暫く止めることを要求した(6)。そ のため,多数の期待と注目がなされたストーキング行為に対する規制法の 立法手続は急遽に停止した。

 「ストーキング行為規制法草案」の立法停滞の原因の一つは,事件数が 多く,警察の勤務に負担がかかり,かつ警察の治安維持の機能に影響を及 ぼすおそれがあるということにある。このような懸念は,台湾ストーキン グ行為規制法草案が日本法を参考にして作ったものであり,いわば,「警 察関与モデル」を採用し,被害者を保護するということから生じている。

一方,多数の国は「司法関与」と「犯罪化」をミックスするモデルを採択 しているのが現状である。「司法関与モデル」とは,裁判所が保護命令を 発 し, 被 害 者 を 保 護 す る こ と で あ る。 例 え ば ド イ ツ の「暴 力 保 護

(Gewaltschutzgesetz)は,民事裁判所がストーキング,ハラスメントまた は関係のもつれに対し,保護命令を発する根拠となっている。このような

「司法関与モデル」は,台湾の

DV

法と類似点があるが,保護の対象は家 庭内のメンバーによる暴力行為に限らず,知らない者からのストーキン グ,ハラスメントまたは関係のもつれに対しても,被害者が裁判所に保護 命令を申立てすることができる(7)。そのほかにも,多数の国の刑法におい て,「ストーキング行為に関わる罪」が明文化され,いわばストーキング 行為が「犯罪化」され,刑事事件として取り上げられている。このような

4) https://www.ey.gov.tw/Page/9277F759E41CCD91/51450566-1d51-40ee-a9c2- d1a484d24a8b (2019.06.30)。

5) 訳者注:警政署は内政部の管轄の下に属する警察の中枢機関である。警政署 が台湾各県・市政府に置かれた「警察局」を指揮監督をする権限を有する。

https://www.npa.gov.tw/NPAGip/wSite/ct?xItem=68012&ctNode=12575

(2019.09.17)。

6) https://www.rti.org.tw/news/view/id/2020142 (2019.06.30)。

7) ドイツ「暴力保護法」の内容について,王皇玉「跟蹤糾纏行為之處罰:以德 國法制為中心」台大法學論論叢第47卷第4期2364頁以下(2018.12)を参照。

(4)

「ストーキング行為に関わる罪」は,性質上,強要罪と脅迫罪との間に位 置付けられており,19世紀末近代刑法制定の初めにおいては,犯罪行為の 一つとして取り上げられていない。しかし,近時の20年間で,刑法典の中 でそのような行為を犯罪行為とする国は増えてきた。例えばアメリカと欧 州連合加盟国である。

二,欧州連合加盟国におけるストーキング行為の犯罪化の動向

 ストーキング行為は古くから存在した行為であったが,1990年代以前 は,そのような行為が犯罪行為であるとは思われていなかった。1990年に アメリカで「人身攻撃式」のストーキング行為─アメリカカリフォルニア 州の女優

Rebecca Schaeffer

が狂熱のファンに

3

年間ストーキングされ,

最終的には自分の家の前で銃殺された事件があった。この事件後,アメリ カカリフォルニア州は初めてストーキング行為を刑法の規制対象とする

(California Penal Code, Section 646.9)。これが世界初のストーキング対策規 制法である。事件発生後

3

年も経ずして,アメリカの各州においても立法 化が進められ,全米各州及びコロンビア特別区にも,刑法上「ストーキン グ行為に関わる罪」が定められた。1993年には,アメリカ合衆国連邦政府 が,「アメリカ反ストーキング行為模範典」(Model Anti─stalking Code for States)を制定した(8)

 アメリカの立法の影響を受け,1990年の中期から,アメリカと同じコモ ンロー(Common Law)をとった国,例えば,オーストラリア,カナダに おいても続々とストーキング対策規制法が制定された。欧州連合加盟国に も,1990年の中期から,この問題をめぐる議論が段々と増えてきた。その 中に,アメリカと同じコモンローをとったイギリス,スコットランド,ア イルランドでは,1997年にストーキング行為を処罰する規定を刑法の中に

8) 林美薰,林嘉萍(2016),反制跟蹤騷擾,臺灣大步走,婦研縱橫,第105期,

12頁。

(5)

設けた。その立法の背景には,イギリス王室のメンバーがパパラッチのス トーキング行為により,厳重な自動車事故に遭ったことがある。イギリス の社会と学界がそのような事件を繰り返さないよう注意を呼びかけた結 果,「ハラスメントアクト」(Harassment Act)が制定された。同国は,欧 州連合加盟国の中で,一番早く刑法においてストーキング行為を処罰して いる国である(9)

 欧州連合加盟国が積極的にストーキング行為を処罰するきっかけは,

2013年欧州連合理事会が「婦人と家庭に対する暴力を予防及び対抗する条

約」(Convention on preventing and combating violence against women and

domestic violence)が通過されたことである。この条約の第34条には,「加

盟国は他人に対する故意的,重複的脅威行為及びその者が安全に不安を引 出す行為を犯罪化することを確保するため,必要な立法措置またはその他 の措置をとらなければならない」(Parties shall take the necessary legislative or other measures to ensure that the intentional conduct of repeatedly engaging in threatening conduct directed at another person, causing her or him to fear for her or his safety, is criminalized.)と規定されている。このことに鑑みて,

2013年

以降,欧州連合加盟国において,ストーキング行為を処罰する規定を刑法 の中に設けることは普遍的なこととなった。2016年

5

月までに,欧州連合 加盟国28ヶ国全てがその条約にサインした。時系列から見れば,以下のと おりである(10)

9) De Fazio, The Legal Situation on Stalking among the European Member States, Eur J Crim Policy Res (2009), 15, p. 230.

(10) Van der Aa, New Trends in Criminalization of Stalking in the EU, Eur J Crim Policy Res (2018) 24, pp. 327─332.

(6)

 欧州連合加盟国の中で,特別なのは,デンマークである。デンマーク政 府は,ストーキング行為への規制について,他の方法の規制手段もできる ため,必ずしも刑法での処罰が優先されるべきではないと考えている。実 際に,デンマークは欧州連合加盟国の中で,一番早く刑法でストーキング 行為を罰している国であるが,そのモデルは警察関与モデルを採用したも のである。1933年制定されたデンマーク刑法第265条によると,「警察の警 告にもかまわず,他人に嫌がらせ,メールで追求またはその他類似の方法

刑法の改正に伴い,ストーキング

行為が処罰された年 関連条文

1 アイルランド 1997 刑法第10条

2 スコットランド 1997 刑法第39条

3 イギリス 1997 ハラスメントアクト第2a4a

4 ベルギー 1998制定,2001改正 刑法第140条

5 オランダ 2000 刑法第285b

6 マルタ 2005 刑法第251AA

7 オーストリア 2006 刑法第107a

8 ドイツ 2007 刑法第238条

9 ハンガリー 2008制定,2013年改正 刑法第222条

10 イタリア 2009 刑法第612条

11 ルクセンブルグ 2009 刑法第444 2 12 チェコ共和国 2010 刑法第354条 13 ポーランド 2011 刑法第190a 14 スロバキア 2011 刑法第360a 15 スウェーデン 2011制定,2016年改正 刑法第4章第4b 16 クロアチア 2013 刑法第140条 17 ルーマニア 2014 刑法第208条

18 フィンランド 2014 刑法第25章第7条(a)

19 フランス 2014 刑法第222 33 2 20 スロベニア 2015 刑法第134a

21 スぺイン 2015 刑法第172条

22 ポルトガル 2015 刑法第154 A

(7)

でストーキングにより他人の生活の平穏を侵害する場合,罰金または

2

年 以下の懲役に処する。本条における警察の警告の効力は,

5

年とする(11)」 とされており,その条文の立法は1912年に遡ることができる(12)

 デンマークの立法モデルは,欧州連合加盟国の犯罪化モデルとは大きな 違いがあり,主な差異は,デンマークは,ストーキング行為への規制が,

直接に刑法で処罰の規定を設けるのではなく,「行政禁止命令先行」とい う立法モデルをとった点である。詳しく言うと,ストーカーの行為に対 し,被害者がまず警察に援助を求め,必要と認定された場合,警察の長が ストーカーに禁止命令を発する。ストーカーが禁止命令に反しない限り,

刑罰を受けないとしている。禁止命令が発された

5

年以内に,ストーカー が禁止命令に反し,ストーキング行為をした場合のみ,刑罰を科す(13)。 このようなモデルは,日本法と類似している。

三,ドイツ刑法第238条ストーキング行為に関わる罪

(一)保護法益の確立

 台湾刑法はドイツ刑法を受け継いでおり,刑法各論上の犯罪類型につい ては,ドイツ刑法の大半と同じものである。ドイツにおいては初期のプロ イセン刑法典の中で,ストーキング行為に対する処罰規定はなかったが,

2007年 3

月31日に,ドイツの刑法各論の中で,第238条「つきまとい」

(Nachstellung)が定められた。この条文の制定の背景は,ストーキング行 為に対し,刑法における規制の不足を補填することにある(14)。本条文は,

(11) Van der Aa, New Trends in Criminalization of Stalking in the EU, Eur J Crim Policy Res (2018) 24, p. 320.

(12) De Fazio, The Legal Situation on Stalking among the European Member States, Eur J Crim Policy Res (2009), 15, p. 231.

(13) Van der Aa, New Trends in Criminalization of Stalking in the EU, Eur J Crim Policy Res (2018) 24, p. 320.

(14) Schönke/Schröder, StGB, 30. Aufl., 2019, §238, Rn. 2

(8)

自由を害する罪の章にあり,保護法益は個人の自分の生活における人身の 自由と意思決定の自由である(15)。これらのような自由は,学界において 恐喝罪の保護法益と同様と考えられており,恐怖から免れる自由(Frei

von Furcht)(16)または被害者の精神上の安心感に対する保護である。そのよ

うな感覚に対する保護(Gefühlsschutz),いわば被害者の内在の落ち着き

(Ruhe)と平和(Frieden)(17)を保護するのである。また,ある説は,本罪 の保護法益は「安心感」以外に,「自由」(個人の行動の自由と意思決定の自 由)も含まれるとする。なぜなら,ストーキング行為は被害者の現在のラ イフスタイルを変えさせ,住所も変更させるからである。さらに,本罪の 保護法益は心理的・生理的健康が含まれる。なぜなら,立法の当初は,ス トーキング行為は被害者に対し精神的影響(例えば,恐怖感,パニック状態 に陥り,更に,不眠,幻聴,幻視,うつ病など精神疾患に罹ること(18)があると 予想されるからである。

(二)被害者に対する悪影響という要件の必要性

 ドイツは2007年に第238条「つきまとい」が定められたとき,もともと

「結果犯」(Erfolgsdelikt)の立法モデルをとった。条文からみると,行為 者が以下の

5

つの行為のいずれか

1

つを行い,理由なくストーキング行為 を続け,かつ「そのような行為によって他人のライフスタイルを重大な形 で 侵 害 す る こ と」(und dadurch seine Lebensgestaltung schwerwiegend

beeinträchtigt)が認められる場合,

3

年以下の懲役または罰金に処するこ

とができる(19)

(15) Schönke/Schröder, StGB, 30. Aufl., 2019, §238, Rn. 4.

(16) Kinzig, Stalking─ein Fall für das Strafrecht? ZRP 2006, S.257.

(17) Mitsch, Der neue Stalking─Tatbestand im Strafgesetzbuch, NJW 2007, 1237.

(18) Satzger/Schluckebier/Widmeier, StGB, Kommentar, 2. Aufl., 2014. §238, Rn.

1.

(19) ドイツ語の翻訳は以下の論文を参照ください。王皇玉,跟蹤糾纏行為之處 罰:以德國法制為中心,台大法學論論叢第47卷第4期,2018.12,2372頁。

(9)

1

,(目的をもって)他人の近くに出現すること

2

, 電子通信機器もしくはその他通信機器を使用し,または第三者を通 じて他人に接触を試みること

3

, 他人の個人情報の不正使用により,物品またはサービスの注文をし たり,第三者をして接触させたりすること

4

, 他人またはその者の近親者の生命,身体的完全性(インテグリテ ィ),健康,自由の侵害を内容とする脅迫を行うこと

5

,以上の行為に相当するその他の行為を行うこと

 そのような「結果犯」の立法モデルは,被害者が恐怖を感じ,生活に影 響を与えたことを犯罪の構成要件とする。言い換えれば,ドイツの立法モ デルの犯罪構成要件は,ストーキング行為は被害者に対する悪影響があっ たこととする,いわば,「結果志向」の成立要件である。これに対し,被 害者は自分がストーキングされたことを知らなかった場合,自身のライフ スタイルは悪影響を受けないため,本罪も成立しない。

 欧州連合加盟国の立法例からみると,各国におけるストーキング行為の 犯罪成立要件は,被害者に対する悪影響の有無について,立法上の違いが ある。2012年以前から,欧州連合加盟国の中の13ヶ国の刑法に,すでにス トーキング行為の罪則が定められていた。この13ヶ国の立法モデルをみる と,その共通の傾向として,多数の国が立法上とった要件は,被害者がす でにストーキング行為に遭っておりその生活または心理的健康に対し良く ない影響が生じていることである。ストーキング行為の成立につき「被害 者に対する悪影響」が存在することを要件とする主な理由は,ストーキン グ行為の成立の核心の要件が「恐怖」だからである。もし被害者が恐怖を 感じない(例えば自分はストーキングされたことを知らなかった),またはス トーキング行為がもたらされた恐怖により生活または心理的健康に対し悪 影響がなければ,そのような行為は,不可罰なハラスメント(harassment)

であり,処罰可能なストーキング(stalking)行為ではない(20)

(10)

 しかし,被害者がすでにストーキング行為を感じており,その生活また は心理的健康に対し良くない影響があることを犯罪の成立要件とすること に対する批判の意見は少なくない。批判の理由は以下の

2

つがある(21)

(一)刑法から見ると,被害者の心理状態を犯罪成立の要件とする犯罪類型は 少なく,被害者が恐怖を経験することも求められていない。なぜストーキ ング行為罪はそのような要件が要求されるのか。さらに被害者が恐怖を感 じまたは経験したという主観的状態は証明が難しい。

(二)ストーキング行為に動じることのない,恐怖・脅迫を感じない被害者と の間に不平等が生じている。2016年のある実証研究からみると,アンケー ト調査を受け,ストーキング行為に合致した経験のある1430人中,36%の み,ストーキングされたときに恐怖を感じていた。また,性別から見ると,

その研究結果も,女性被害者がストーキングされた後恐怖を感じた比率は,

男性より大きく上回るということも言及されている。

 更に,ある論者はアメリカの立法モデルを倣い,被害者が実際に恐怖を 経験または感じるかどうかではなく,「通常人の基準」(reasonable person

standard)を犯罪成立の要件とすることができると考える。いわば,平均

的な理性のある者の観点から見ると,人に恐怖させるに足り,個別の被害 者が実際に恐怖を経歴しなくても,犯罪が成立するのである(22)。「通常人 の基準」は,実際運用上,被害者の主観的な考えとは関係なく,「客観化 基準」と似たものである。

 ドイツ2007年の立法モデルは,「結果犯モデル」をとり,実務運用上,

(20) Van der Aa, New Trends in the Criminalization of Stalking in the EU Member States, Eur J Crim Policy Res (2018) 24, p. 320.

(21) 詳しい批判内容は以下の論文を参考ください。Van der Aa, New Trends in the Criminalization of Stalking in the EU Member States, Eur J Crim Policy Res

(2018) 24, p. 321.

(22) Van der Aa, New Trends in the Criminalization of Stalking in the EU Member States, Eur J Crim Policy Res (2018) 24, p. 321.

(11)

被害者が恐怖を感じ,または,自身の日常生活がすでにストーキング行為 により変化させられたことを証明しなければならない(23)。例えば,被害 者が加害者を避けるため,出勤時間を早めにしたり,他の通勤ルートや普 段使用していた交通手段を放棄した。さらに,特定の場所を離れたにもか かわらず,相手に住所が知られ,監視されたため,ストーキング行為を避 けようと再度引越しを余儀なくされたという証明である。あるいは,窓に カーテンを引きっぱなしにしたり,仕事場を知られて転職または職を失っ たり,毎日門の外でストーカーがいるかいないかを確認した後に出掛けた り,電話に恐怖したり,無言電話が原因で不眠に陥ったりしたことなども 該当する。

 このような「結果犯」構造により,本罪の解釈は厳しくなり,犯罪が成 立し難いものとなっている。学界においては,犯罪の成立要件が厳し過 ぎ,被害者が挙証責任を負うことから,被害者に対する保障が不足してい るという批判があった。そのような法改正を要求するプレシャーによっ て,ドイツ政府は2016年10月12日にストーキング行為の被害者の保護方法 を改善する草案(Entwurf eines Gesetzes zur Verbesserung des Schutzes gegen

Nachstellungen)(24)を提出した。提出された草案の内容は,「適性犯モデル」

に変更するものである。いわば,ストーキング行為が客観的にみて被害者 のライフスタイルを被害と言うに「相応しい」(ドイツ語でいうgeeignet)

または「十分な」形で変化させているならば,犯罪が成立する。実際に被 害者のライフスタイルが変化させられたのかどうかは成立要件に必要では ない(25)

 このような「適性犯立法モデル」はオーストリア刑法第107a条が採用 したものである。ドイツ刑法第238条は2017年にも修正され,オーストリ

(23) Köhne, Unerwünchte Nähe ─Mehr Opferschutz bei der Nachstellung? ZRP 2014, S.141.

(24) BT─Drucksache 18/9946.

(25) 王皇玉,跟蹤糾纏行為之處罰:以德國法制為中心,台大法學論論叢第47卷第 4期,2018.12,2376頁。

(12)

ア刑法に倣い,ストーキング罪を「結果犯」から「適性犯」に変えた。

(三)特定の目的の有無

 「ストーキング行為」の定義について,欧州連合加盟国の立法の動向と しては,ストーキング行為を例示の方式であげているのが大半である。な ぜなら,そのような立法の方式は,明確に定義していることから,刑事審 判訴追手続において明確な基準を与え,罪刑法定主義に合致するためであ る。ドイツ刑法第238条と同じように,各国では立法時,例示した行為態 様以外に,概括的な方法で「以上の行為に相当するその他の行為」が定め られている。そのような立法の動向の主な原因は,ストーキング行為の行 為態様が多種多様で,列挙する形で全ての行為態様をあげることは不可能 だからである。そのため,条文で定められた行為の態様は,例示にとどま っている(26)

 そのような例示的な方法で定められた「以上の行為に相当するその他の 行為」は,ドイツ刑法第238条の立法理由において,「受け皿構成要件」

(または一般的行為概括要件,Handlungsgeneralklauselとも呼ばれる)として 考えられている。つまり,行為者の行為が,列挙された行為に合致しない が,行為の質と量から見れば,被害者の生活を妨害すると認定された場 合,本罪が成立する(27)。しかし,ドイツのある文献では,そのような条 項が罪刑の明確性原則,また類推適用禁止原則に違反するおそれがあると 指摘されたが(28),多数の文献は,そのような立法モデルはすでにドイツ 刑法に存在しているとする。例えばドイツ刑法第315条道路交通の安全を 害する罪は,「類似かつ危険性のある攻撃行為」というような概括要件の 方式で立法された。このような概括的行為は,単独で存在するのではな

(26) Van der Aa, New Trends in the Criminalization of Stalking in the EU Member States, Eur J Crim Policy Res (2018) 24, p. 322.

(27) 王皇玉,跟蹤糾纏行為之處罰:以德國法制為中心,台大法學論論叢第47卷第 4期,2018.12,2381頁。

(28) Lackner/Kühl, in:Strafgesetzbuch Kommentar, 29. Aufl., 2018, §238, Rn. 5.

(13)

く,条文の前段階で多くの種類の行為態様が例示されているため,構成要 件範囲内の類推適用(innertatbestandliche Analogie)といえる。そのような

「以上の行為に相当するその他の行為」は解釈上及び適用上に明確性があ るため,憲法に反していないといえる(29)

 また,ストーキング行為は,「特定の目的」または「特定の被害者」に 限定されるべきかについて,台湾内政部が提出した立法草案(30)では,日 本法が参考にされ,草案第

3

条の中で,

7

種類の規制すべき行為が列挙さ れた。また,ストーキング行為の定義にも,「特定の目的」が要求され,

具体的には「特定の者に対する慕わしさ,好み,恨み」であるとされてい る。その特定の者,その者の配偶者,直系血族,同棲親族,生活関係が密 接な者に対し,以下の

7

種類の行為を継続または反復して,当該特定の者 またはつきまとい行為をされた者に嫌がらせを行い,または恐怖させるこ とが規定されている。

1, 人または設備で監視,観察,ストーキングを行い他人の行方または活動 を知る

2, 見張り,ストーキング,待ち伏せなどの方法で他人の住所,学校,会社 に接近する

3,無言電話,または拒否された後に電話を続ける 4,デートまたはコンタクトを要求する

5,物を郵送・留置しまたは文字,映像などを送る 6,個人の名誉を害する情報を告知または公開する

7,個人の資料の濫用,または同意なく商品・サービスを注文する

 台湾と日本の立法モデルは,加害者を恐怖的な恋人または愛から生じる 憎しみを追求する者と想定したものである。しかしながら,現実のストー

(29) Schönke/Schröder, StGB, 30. Aufl., 2019, §238 Rn. 23.

(30) 関連する説明は以下の論文を参照ください。王皇玉,跟蹤糾纏行為之處罰:

以德國法制為中心,台大法學論論叢第47卷第4期,2018.12,2384頁。

(14)

キング行為では,加害者が様々な目的をもつ。例えば,1997年イギリスに おいて,ストーキング行為を処罰する規定を刑法の中に設けた立法の背景 は,イギリス王室のメンバーがパパラッチのストーキング行為に遭ったこ とだったが,そのパパラッチのストーキング行為は商業の目的であり,

「慕わしさ,好み,恨み」とは関係がなかった。もしストーキング行為の 目的を特定目的に限るならば,処罰できないケースも存在してしまう。そ のため,ヨーロッパ諸国のストーキング行為罪では,加害者が被害者に対 する「慕わしさ,好み,恨み」という主観的目的が要求されていない。

四,ストーキング規制モデルの採択

(一)警察関与モデル

 ストーキング行為に対し,どのような方法で規制すべきか。過去に内政 部が提出した「ストーキング行為規制法草案」の内容からみると,日本の ストーキング行為等の規制等に関する法律の立法方式を参考にしている。

この立法モデルは拡大した社会秩序維持法のようなものであり,ストーキ ング行為に関する主務機関を警察とし,規制の方法を行政罰と刑罰が交錯 する方式とし,被害者がストーキング行為に遭ったとき,先に警察に「禁 止処分」を申立てすることができる。その内容は,行為者にストーキング 行為をさせないことである。行為者が「禁止処分」に反した場合,過料ま たは刑罰を科するとこができる。前述の欧州連合加盟国の規制と比較する と,デンマーク刑法と似ている。

 本法草案の立法モデルのメリットは,ストーキング行為に対する対応の 窓口(警察)が単一組織として専属しており,法の根拠をもって,ストー キング行為への介入・抑止をすることができる点である。それに対し,法 整備前の現在の状況では,被害者がストーキングされ,警察に被害の届出 を出したとしても,警察は必ずしも受理するとはいえない。受理されて も,警察が社会秩序維持法第89条第

2

号により,ストーキング行為に対

(15)

し,「阻止したが,ストーキング行為が継続している」という状況のみで,

行政罰を処することができる。このような立法モデルも前述したデンマー ク刑法と似ている。すなわち,先に警察が関与するのである。

 しかしながら,警察関与モデルにおいて,警察は被害者が届出をしたと き,「禁止処分」を発することができるが,その手続は行政手続きであり,

司法手続である「令状モデル」より,いずれ挙証の方式,調査・処分の発 行の手続も慎重ではない。また,警察の権限拡大のおそれがある。警察の 仕事の分量と行政効率からみると,内政部と警政署が草案の立法手続を暫 く止めるよう要求した原因は,「警察関与モデル」が,いずれの挙証の方 式または調査の手続においても,警察の仕事に対するプレッシャーを増加 させる点にある。警察の人的資源に上限がある状況の下で,予想されてい る膨大なストーキング行為を規制する業務が,その他の治安維持機能に影 響を及ぼすおそれがあるため,立法手続は暫く止めるべきだということを 内政部と警政署が要求した。

(二)司法関与モデル

 「司法関与モデル」とは,被害者を保護する措置を裁判所が発する「民 事保護命令」に附随させるものという。これはドイツの「暴力保護法」

(Gewaltschutzgesetz)の立法モデルである。台湾の

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法にある「民事保 護命令」制度も「司法関与モデル」の一例である。

 そのような司法関与モデルのメリットとしては,手続面の慎重さがあ る。例えば,司法手続にある証拠調査,証拠提出及びヒアリングなどの手 続が求められる。それに対して,司法関与モデルのデメリットとしては,

時間がかかり,また,被害者が裁判所に申立てしない場合,司法は介入す ることができない点にある。内政部の「ストーキング行為規制法草案」が とった「警察関与モデル」は,ストーキング行為の主務機関を警察とし,

警察が発する「禁止処分」(警察の長が発する「警告命令」)という「警告前 置制度」の目的は,警告を受けた者が自発的にストーキング行為を停止す

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るということである。「警察関与モデル」は,警察職権の行使に関するも のであるため,警察の勤務に負担がかかる傾向が見られる。

(三)犯罪化モデル

 前述の欧州連合理事会条約と欧州連合の加盟国の立法モデルを,本稿で は「犯罪化モデル」と呼ぶこととする。すなわち,刑法の中で直接にスト ーキング行為に対する処罰規定を設けるモデルである。その処罰の規定は 恐喝罪と似ており,被害者が恐怖から免れる自由を保護するものである。

ストーキング行為は法益に対する軽微な侵害であるかもしれないが,欧州 連合加盟国の立法の動向からみると,刑法の中に設ける必要がある。ま た,ストーキング行為の犯罪化の動向は,前述の「警察関与モデル」また は「司法関与モデル」と併行させることができる。そのため,国会で与党 と野党が議論した際,内政部と警政署は当草案がその他の法律と重なる部 分があり,また事件の数が多く,警察の治安維持の機能に影響を及ぼすお それがあることを理由とし,「ストーキング行為規制法草案」の立法手続 を暫く止めるよう要求したが,欧州連合加盟国の刑法に倣い,「ストーカ ー行為罪」を設ける方が良いのではないかと思われる。そうすることによ り,刑法において「恐怖から免れる自由を保護する」ことを重視すること ができ,事件の数が多く,警察の治安維持の機能に影響を及ぼすおそれが あるとの懸念にも解消できる。

五,おわりに

 過去の長年にわたるストーキング行為は,違法性が軽微であるため,刑 法の領域においては,犯罪行為とはならず,刑罰の規定も設けられず,

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法上の規制がなされるのみである。現在では,世界各国は,重大なス トーキング行為からもたらした重大な犯罪または事故が生じた後に,スト ーキング行為の違法性を再考し,ストーキング行為を処罰できる刑法規定

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を設けた。近年台湾政府はドラフトした「ストーキング行為規制法草案」

は日本法を参考として作ったものである。その内容は,先に警察が関与 し,被害者を保護するというものである。しかし,事件数が多く,警察の 勤務に負担がかかり,かつ警察の治安維持の機能に影響を及ぼすおそれが あるため,立法手続は突如停止された。この点については驚きがあり遺憾 の極みでもある。本稿は,以下のことを提言したい。「警察関与」の立法 モデルをめぐっては争いがあることから,その争いを避けるため,アメリ カまたは欧州連合加盟国の立法の方式に倣い,刑法上に直接に関連する処 罰規定を設け,いわば,「犯罪化モデル」を採用することである。そうす ることこそが,人の身体的完全性(インテグリティ)の保護といえるであ ろう。

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参照

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