『言海』の音象徴語
著者 平 弥悠紀
雑誌名 同志社大学日本語・日本文化研究
号 11
ページ 1‑21
発行年 2013‑02
権利 同志社大学日本語・日本文化教育センター
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000012988
要 旨
大槻文彦著『言海』において見出し語として立てられた和語の音象徴語(異な り語数 315 語、延べ語数 325 語)について調査を行い、以下の特徴を明らかにした。
『言海』には、語頭がパ行である語は載せられていない。採録された音象徴語の タイプは、多い順に、「ABAB」、「ARAR」、「AッBリ」、「ARリ」、「AB」となって おり、この上位 5 位までのタイプで、全体の 7 割以上を占めていた。
また、『言海』では、古語と俗語について記号が付されており、古語として扱わ れている語は、奈良時代に見られる「AB,ABB,ABラ、ABAB,ARラ、ARAR,A,
AA」タイプの語、俗語には、中古になって現れる「ABリ・ARリ」、中世になって 現れる「AッBリ、AンBリ」タイプの語が多かった。
語頭の音については、パ行音であるものが採録されていないこと、バ行音の語 も比較的少数であることから、多い順に「サ行」、「カ行」、「タ/ハ行」となって おり、同時期に出版された『和英語林集成』(第 3 版)や現代音象徴語では「ハ行音」
がトップであるという様相とは異なっていた。
語末の音は、多い順に「リ」、「ラ」、「ロ」、「促音」となっていて、『和英語林集成』
(第 3 版)とほぼ同様であった。現代音象徴語を採録した『擬音語・擬態語の読本』と、
「リ」が 1 位である点では同様であったが、異なる点としては、「ラ」が上位を占め、
また、撥音は上位ではなかった。
キーワード
日本語 『言海』 音象徴語 語基1 はじめに
大槻文彦(1847〔弘化 4〕〜 1928〔昭和 3〕年)の『言海』は、1884〔明治 17〕年に成稿、
1889〔明治 22〕年から 1891〔明治 24〕年にかけて四分冊で刊行された。収録語は、和語、
漢語、外来語等、計 39103 語である。本辞書は、明治における「日本普通語」の辞書とし て最も整備されたものであり、近代的な意味での国語辞書の最初のもので、以後の国語辞 典の範となったと言われている。大槻は、「本書編纂ノ大意」に以下のように述べている。
『言海』の音象徴語
Sound Symbolic Words Occurring in Genkai
平 弥悠紀
(一) 此書は、日本普通語ノ辭書ナリ。凡ソ、普通辭書ノ體例ハ、專ラ、其國普通ノ單語、
若シクハ、熟語(二三語合シテ、別ニ一義ヲ成スモノ)ヲ擧ゲテ、地名人名等ノ 固有名稱、或ハ、高尚ナル學術專門ノ語ノ如ヲバ収メズ、…(略)…其固有名稱、
又ハ、或ハ、專門語等ハ、別ニ自ラ其辭書アルベク、又、部門ニ類別スルハ、類 書ノ體タルベシ。此書編纂ノ方法、一ニ普通辭書ノ體例ニ據レリ。」
(「本書編纂ノ大意」p.1)
又、「凡例」においても、
(一) 此篇ニハ、古言、今言、雅言、俗言、方言、訛言、其他、漢語ヲ初トシテ、諸外國モ、
入リテ通用語トナレルハ、皆収メタリ、然レモ、甚シキ古言ハ、漏ラセルモアリ、…
(「凡例」p.1)
とあり、本辞書が、固有名詞や学術専門の語を収めず、「普通語」すなわち「通用語」
を収めた辞書であると記されている。従って、採録された音象徴語についても、当時 一般に用いられていたものであると考えられる。
本稿では、『言海』に採録された音象徴語について調査を行い、その特徴を明らかに したいと考える。なお、本調査は、明治 22 年 5 月 15 日に刊行された『言海』の 628 刷(昭 和 6 年)3 月 15 日刊)を底本とし、底本の欠損や汚れを他の版本で補い、2004 年にち くま書房から発刊された『言海』を使用した。
2 『言海』の音象徴語一覧
『言海』の見出し語は、本辞書の巻末の「言海採収語…類別表」によると、和語(21817 語)、漢語(13546 語)、和漢熟語(2724 語)、外来語(549 語)、和外熟語(235 語)、
漢外熟語(217 語)、和漢外熟語(13 語)、外外熟語(2 語)の計 39103 語である。
本稿では、和語の音象徴語について扱う。見出し語の中から、音象徴語を抽出すると、
「さらりと」「にこにこと」のように「と」を伴った形のもの、わずかではあるが「さやに」
「づたづたに」のように「に」を伴った形のもの、「ころころ」「にやにや」「こってり」
のように「と」も「に」も伴わない形のものが見られる。拍数の少ない 1 拍語(例:さと、
つと)、2 拍語(例:しとと、さやに)、3 拍語(すかりと、しめらに)には「と」や「に」
を伴う形が多く、4 拍語にも「ほろほろと」「つたつたに」のような例もあるが、ほと んどは「と」や「に」を伴わない形で立項されている(「と」「に」に付した二重下線
=は平による)。また、本稿「4 語頭の音」で述べるが、語頭がパ行音の語を載せて いないのが特徴でもある。
音象徴語の中には、いくつかの用法をもつものも少なくない。「からから」は、以下の 語釈のように、(一)笑い声、(二)物が乾いたときの様子、(三)金属と金属が打ち当た
るときの音、という 3 つの用法が挙げられているが、別立てすることなくまとめている。
からから〔副〕(一)高ク亮ニ笑フ聲ニイフ語。「―ト打笑フ」呵呵(二)物ノ乾上リタル 状ヲ、音ニツキテイフ語。「―ト乾ク」(三)金屬ノ器ナドノ相當ル音ニイフ語。「―鳴ル」
しかし、「すたすた」と「すたすたに」のように別語として扱うべきもの、「ひしと」、
「さらさら」、「どろどろ」のように、語形は同じでも、擬音語として用いられる場合と、
擬態語として用いられる場合に、語義に関連性が見出せず、別語として扱ったほうが よいと思われるものについては、以下のように別立てしている。
すたすた〔副〕急ギ歩ム状ニイフ語。「―駈ケル」
すたすたに〔副〕寸寸 次條ノ語ニ同ジ。
ずたずたに〔副〕寸寸〔古言、をたをたにノ轉〕細カニ斷レ斷レニ。「―ニ切ル」寸斷 ひしと〔副〕緊シク壓サレテ鳴ル聲ニイフ語。「此ノ床ノ、比師跡鳴ルマデ嘆キツルカモ」
ヒシヒシト蹈ミ鳴ラシツツ」ヒシヒシト。只、食ヒニ食フ音ノシケレバ」
ひしと〔副〕…(略)…緊シク。ツヨク。キツク。ハゲシク。緩ミナク。「腕ヲ―握リ」
心ニ―カケテ…(略)…互ニ、ヒシヒシト、取リ組ミテ」…(略)…
さら―さら〔副〕物ノ觸レ合ヒテ立ツ音ニイフ語。…(略)…
さら―さら〔副〕(一)物事ノ、障リナク滞リナク成リ行ク状ニイフ語。「―ト書キ流ス」
(二)クドクドシカラヌ状ニイフ語。
どろどろ〔副〕雷鳴、又ハ、橋上ノ馬車行人ノ響ナドニイフ語。トドロニ。ゴロゴロ。
轟轟 殷殷
どろどろ〔副〕泥ノ如ク盪ケタル状ニイフ語。
「ひしと、さらさら、どろどろ」は何れも擬音語を先に挙げ、次に擬態語を別立てしている。
又、見出し語としては立てられていないが、語義説明の中に、いくつかの音象徴語 が見られる。上記の「ひしと」の説明のように、音象徴語を他の類似の音象徴語によっ て説明している語が多く見られ、説明の中に「ひしひしと」の形が出てくるが、見出 し語としては「ひしひしと」は立てられていない。「みしみしと」についても同様で、「み しと」の説明の中には「みしみし」の形があるが、見出し語としては立てられていない。
(「ひしと」「みしと」「よよ」の項目について、 は平による。)
みしと〔副〕強ク押ス状又音ニイフ語。…(略)…重ネテ、みしみしトモイフ。…
よよ〔感〕…(略)…泣く聲。オイオイ。「―ト泣キヌ」殿ノ御前、サクリモ―ニ泣カ セ給フ」君ニ
因リヨヨヨヨヨヨト、ヨヨヨヨト、ネヲノミゾ泣ク、ヨヨヨヨヨヨト」
「よよ」の例文の中には、2 拍の「よよに」以外に、4 拍の「よよよよと」、6 拍の「よ よよよよよと」の形も見られるが、2 拍の「よよ」のみが立項されている。
本稿においては、見出し語として立てられた語のみを調査の対象としたところ、延 べ語数 325 語(異なり語数では 315 語)の音象徴語を抽出した。そして、これまでの 調査と同様に、語基の形態から、AB型(ふっつ、ざぶざぶ、にっこり等、2 拍語基で 第 2 拍がラ行音以外の音象徴語)、AR型(きらり、くるくる、そろりそろり等、2 拍 語基で第 2 拍がラ行音の音象徴語)、A型(ふっ、ぱっぱ、りんりん等、1 拍語基の音 象徴語)の 3 つに分類したものが【表 1】〜【表 3】である。拙稿(2009)において、
AR語基の語の中でも「Aリ」語基の語だけが、他とは異なる特徴を有していることを 明らかにした。擬音語としての用法をもつ語は、3 つの型の中でAR型が最も少なく、
全体の約 27.1%であるにもかかわらず、「Aリ」語基の語では、擬音語としての用法を もつ語は 81.0%にも上り、AR型の擬音語は「Aリ」語基の語に集中し、1 拍語基のA 型に近い特徴を有していることから、その成立において、1 拍語基に「リ」が添加され て成立した可能性を示唆した。つまり、A型のバリエーションとして、「Aッ、Aン、A−、
AA、Aリ」と捉えることの可能性を述べた。このようにAR型は、2 拍語基のAB型と 1 拍語基のA型の中間に位置するような特徴をもっているため、本稿においても便宜 的に、AB型、AR型、A型の 3 つに分類して、特徴を探っていく。
【表 1】2 拍語基の音象徴語(AB型、Bはラ行音以外)
1 − 2 1 拍語 2 拍語 3 拍語 4 拍語
6 拍以上の語 重複型 その他の型
k−s かさかさ
きしきし くすくす こせこせ
こそこそ こっそり
k−z きざきざ
けざけざ(と)
こざこざ
k−t かたかた
かちかち くたくた(と)
こつこつ
こってり
k−p かっぱ(と)
k−b かば(と)
こぼこぼ(と)
k−n きなきな
k−m こんもり
k−j くよくよ
g−k がっかり①
がっくり ぎっくり
g−s ぎっしり
ごそごそ
g−z ぎざぎざ
g−t ぐたぐた
ごたごた
g−w ごわごわ②
s−k しくしく しっくり
すかり(と) すっかり
すき(と) すっきり
すっく(と) すくすく(と)
せかせか
そっくり
s−g すごすご
s−t したした(と)
しと(と) しとしと しっとり
すたすた すたすた(に)
s−d しどろ(に)
s−p さっぱり
しっぽり すっぱり すっぽり
s−b さぶり(と)
しぼしぼ(と)
すぶり(と)
すべすべ
s−n しなしな
しぬ(に)
しの(に)
s−m さめざめ(と)③
しみみ(に)
しみら(に)
しみじみ④
しめら(に)
しめじめ(と)⑤
s−j さや(に) さやさや
すやすや
そよ そよそよ
s−w さわさわ
さわざわ⑥
s−φ しおしお⑦
さいさい⑧
さえさえ⑨
sj−k しゃっきり
sj−b しょぼしょぼ しょんぼり
z−k じくじく ずかずか(と)
ぞくぞく
z−s ずっしり(と)⑩
z−t じたじた
じとじと ずたずた(に)⑪
[づたづた(に)]⑫
z−b ざんぶ(と) ざぶざぶ ざんぶり
ずば(と)
ずぶり(と) ずぶずぶ(と)
t−k とっくり(と)
t−z たじたじ
t−t つたつた(に)
t−p たっぷり
t−b つぶつぶ(と)
[3]
とぼとぼ
t−m ちんまり
t−j つやつや(と)
t−w たわ(に) たわわ(に)
t−φ たおたお(と)⑬
tj−k ちょっくり
tj−b ちょぼちょぼ ちょんぼり
d−k どくどく
d−s どさり(と) どっさり
d−b どんぶり
h−k はき(と) はきはき はっきり
ひかひか
ふっくり h−s ひし(と)[2]
ひそひそ ひっそり ふさふさ(と)
h−t はた(と)
ひた(と)
ふたふた(と)
ふつ(と)
ふつ(に)
ふつふつ ふっつり ほとほと
h−n ほんのり
b−k びくびく びっくり
b−s ばさ
b−j ぼんやり
n−k にこり(と) にこにこ(と) にっこり ぬけぬけ(と)
n−s のさのさ
のそのそ
n−t のとろ(に)
n−d のど(に) のどのど(と)
n−b のびのび
n−m なみなみ(と)
のめのめ
n−j なよなよ(と)
にやにや
nj−k にょっきり
m−k むかむか
むく(と) むくむく(と)
めっきり m−s みし(と)
m−z まざまざ(と)
むず(と)
m−j むやむや
もやもや
j−k ゆっくり
j−s ゆさゆさ(と)
j−t ゆったり
j−b よぼよぼ
w−d わだわだ(と)
w−n わなわな
w−j わやわや
φ−k うか(と) うかり(と) うかうか うっかり うきうき
φ−s あっさり
いそいそ(と)
うっすり
φ−z うざうざ うんざり
いじいじ⑭
うじうじ⑮
おじおじ⑯
おずおず⑰
φ−t うつらうつら
うとうと うっとり おちおち
φ−d おどおど
φ−n うねうね
φ−m おめおめ⑱
φ−j うようよ
φ−w うわうわ⑲
φ−φ おいおい⑳
計 21 語/ 23 語 16 語/ 16 語 102 語/ 106 語 44 語/ 44 語 1 語/ 1 語 184 語/ 190 語(異なり語数/延べ語数)
※)① 「がっかり」、⑳「おいおい」はA型のバリエーションとして捉えることも可能であるが、
AB型に分類しておく。
② 「ごわごわ」は「ごはごは」と表記されており、「g−w」に入れる。
⑦ 「しおしお」は「しほしほ」、⑧「さいさい」は「さゐさゐ」、⑨「さえさえ」は「さゑさゑ」
⑩「ずっしり(と)」は「づつしりと」と表記されている。
⑪ 「ずたずたに」、⑫「づたづたに」は見出し語としてはどちらも立てられている。
⑬ 「たおたお(と)」は「たをたをと」と表記されている。
⑭ 「いぢいぢ」、⑮「うぢうぢ」、⑯「おぢおぢ」、⑰「おづおづ」は「いじいじ、うじうじ、おじおじ、
おずおず」とし、「φ−z」に、⑲「うわうわ」は「うはうは」と表記されており、「φ−w」
に入れる。
③ 「さめざめ」、④「しみじみ」、⑤「しめじめ(と)」、⑥「さわざわ」は第 3 拍が連濁を起こ しており、一般語から音象徴語化した可能性が高いが、AB型のバリエーション「ABAʼB」
として扱う。
⑰ 「おずおず」、⑱「おめおめ」は、拙稿(1994)においては、動詞連用形、終止形の重複形、
形容詞語幹の重複形、名詞の重複形は、音象徴語として扱わない立場をとり、「怖づ」、「怖む」
との結びつきも強く意識されることから、調査対象から除外したが、現代音象徴語辞典1に は収録しているものが多く、本調査においては用例に算入した。
【表 2】2 拍語基の音象徴語 (AR型、Rはラ行音)
1 − 2 1 拍語 2 拍語 3 拍語 4 拍語
6 拍以上の語 重複型 その他の型
k−r からり(と) からから
きらきら きりきり くらくら くるり(と) くるくる
けらけら(と)
けろり(と)
ころり(と) ころころ こーろこーろ(に)①
kj−r きょろきょろ
kw−r くゎらり(と)
g−r がらがら
ぐらぐら ぐるり(と) ぐるぐる ごろごろ
gw−r ぐゎらり(と)ぐゎらぐゎら
s−r さらり(と) さらさら[2]
すらり(と) すらすら するり(と) するする(と)
そろり(と) そろそろ
z−r ざらり(と) ざらざら
じりじり じろり(と) じろじろ ずるずる ぞろり(と) ぞろぞろ
t−r たらり(と) たらたら
ちら(と) ちらり(と) ちらちら ちりちり(と)
つらつら つるつる てらてら とろり(と) とろとろ
d−r だらだら づらり(と)
どろどろ[2]
h−r はらはら
ひらり(と) ひらひら ひりひり ふらふら へろへろ ほろり(と)
ほろろ(と)
ほろほろ(と)
hj−r ひょろひょろ
b−r ばらり(と) ばらばら
ぶらぶら ぶるぶる ぼろぼろ
n−r ぬらぬら
ぬるぬる のろのろ
nj−r にょろり(と)
j−r ゆらり(と) ゆらゆら
ゆるり(と) ゆるゆる よろよろ
φ−r いらいら
うらら(に) うらうら うろうろ おろおろ
計 1 語/ 1 語 26 語/ 26 語 52 語/ 54 語 0 語 1 語 80 語/ 82 語(異なり語数/延べ語数)
※)「むらむら」は「物ノ處處ニ群ガレル状ニイフ語。」とあり、現代語のように、ある感情や衝 動がわき起こってくるという場合の用法ではないので、用例として扱わない。表中にも示し ていない。
① 「こーろこーろ(に)」は「こをろこをろに」と表記されている。
【表 3】1 拍語基の音象徴語 (A型)
1 − 2 1 拍語 2 拍語 3 拍語 4 拍語
重複型 その他の型 6 拍語 k き(と) きっ(と)
こーこー(と)①
kw くゎっ(と)
g ぐっ(と)
gj ぎょっ(と)
s さ(と) ささ
さっ(と)
さっさ(と)
しん(と)
そ(と) そそ そっ(と)
sj しゃん(と)
z ざざ
ざっ(と)
じっ(と)②
ぞっ(と)
t つ(と)
とんとん とどろ(に)③
tj ちゃん(と)
ちょー(と)④ ちょーちょー⑤
d どー(と)⑥
どっ(と)
どーどー⑦
どんどん
h はっ(と)
ふ(と)[2]
ほほ hj ひょー(と)⑧
p ひょっ(と)
b ばっ(と)
nj にょーにょー(と)⑨
j よよ[2]
w わんわん
φ あ あー⑩
あっ(と)
計 6語/7語 26 語/ 27 語 2 語/ 2 語 7 語/ 7 語 0 語 0 語 41 語/ 43 語(異なり語数/延べ語数)
※) 「たんと」、「とんと」、「そぞろ」、「すずろ」、「ちと、ちょと、ちょいと、ちょっと」は用例 として扱わなかった。
「ばうばう」は漢語「茫々」とし、用例に算入していない。
① 「こーこー」は「こうこう」と表記されている。「A−A−」タイプとした。
② 「じっ(と)」は「ぢつと」と表記されている。
③ 「とどろに」はA型のバリエーション「AAʼ ロ」として扱う。
④ 「ちょー(と)」は「ちやうと」、⑤ 「ちょーちょー」は「ちやうちやう」と表記されている。
⑥ 「どー(と)」は「どうと」、⑦ 「どーどー」は「どうどう」、⑧ 「ひょーと」は「ひやうと」、
⑨ 「にょーにょー(と)」は「ねうねうと」と表記されており、「う」は引き音節とした。
⑩ 「あー」は「ああ」と表記されている。「AA」と考えることもできるが、「A−」タイプとして扱った。
【その他の型】(10 語)
うねくね、がたひし、しどろもどろ(に)、ちぐはぐ、ちらほら、つくねん(と)、てきはき、ぬらくら、
ばらりづん(と)、ひいふっと
現代語について、金田一(1978)は、反転を表す語基「ころ」を例として以下のよ うに述べる。
……形の対立も、擬態語において微妙なちがいを表す。各々の形がよく揃っている、
反転を表す「ころ」について言うならば、「ころっ」は転がりかけることを、「ころん」は 弾んで転がることを、「ころり」は転がって止まることを表す。また、「ころころ」は連続 して転がることを、「ころんころん」は弾みをもって勢いよく転がることを、「ころりころ り」は転がっては止まり、転がっては止まることを表す。「ころりんこ」は、一度は転が りはしたが、最後に安定して止まって、二度と転がりそうもないことを表す。(p. 20)
すなわち、語基「ころ」を重複したり、語基に促音や撥音や「−リ」を添加したり 挿入したり、更に促音・撥音・「−リ」の添加形や挿入形を重複するという方法をもって、
種々の形を生み出し、意味を分化しているのであるが、【表 2】によると『言海』では
「ころり、ころころ、こーろこーろ」の 3 つのバリエーションを収録している。語基「こ ろ」についてだけでなく、他の語基についても、同一語基のバリエーションはそれほ ど多くは見られない。AB・AR・A型全ての型について、最も多くのバリエーション をもつものは、語基「うか」と語基「さ」で、それぞれ「うか、うかり、うかうか、うっ かり」、「さ、ささ、さっ、さっさ」の 4 つの形を載せる。3 つのバリエーションのものは、
語基「ころ」以外では、「しと、しとしと、しっとり」、「ざんぶ、ざぶざぶ、ざんぶり」、「はき、
はきはき、はっきり」、「ふつ、ふつふつ、ふっつり」、「にこり、にこにこ、にっこり」、
「ちら、ちらり、ちらちら」(以上、【表 1】・【表 2】・【表 3】に網掛けで示す。)である。
辞書という性質ゆえに、『言海』においても、音象徴語は基本的な形の語のみを収録し ていると言える。
3 『言海』の音象徴語のタイプ
【表 1】〜【表 3】の音象徴語を、さらに型別に拍数ごとに分類すると【表 4】、タイ プごとに分類すると【表 5】のとおりである。
【表 4】型別に見た音象徴語 (表中の用例数は異なり語数)
1 拍語 2 拍語 3 拍語 4 拍語 5 拍語 6 拍以上 計 2 拍語基 AB型 21
22 16
42 146
198 0
0 1
2 184
AR型 1 26 52 0 1 80 264
1 拍語基 A 型 6 26 2 7 0 0 41
その他 0 8 1 1 10
計 6 48 47 213 1 3 315
【表 5】タイプ別に見た音象徴語 (表中の用例数は異なり語数/延べ語数)
2 拍語基 1 拍語基
その他 計
AB型 AR型 A型
1 拍語 A(6/7) (0) 6/7
2 拍語 AB(21/23) AR(1) AA(5/6)
Aッ(14)
Aン(3)
A−(4)
(0) 48/51
3 拍語 AッB(2)
AンB(1)
ABB(2)
ABラ(2)
ABリ(7)
ABロ(2)
ARリ(24)
├Aラリ(12)
├Aリリ(0)
├Aルリ(4)
└Aロリ(8)
ARラ(1)
ARロ(1)
AAʼロ(1)
AッA(1)
(0) 44/44
4 拍語 ABAB(98/102)
ABAʼB(4)
AッBリ(36)
AンBリ(8)
(AR)×2(52/54)
├(Aラ)×2(24/25)
├(Aリ)×2(4)
├(Aル)×2(8)
└(Aロ)×2(16/17)
(Aン)×2(3)
(A−)×2(4)
(8) 213/219
5 拍語 なし なし なし (1) 1/1
6 拍語 (ABラ)×2(1) (A−R)×2(1) なし (1) 3/3 計 184/190 80/82 41/43 10/10 315/325
採録された音象徴語をタイプ別に見ると、一部のタイプの語に集中していることが わかる。AB型の語は「ABAB」と「AッBリ」に集中しており、2 拍語の「AB」がそ れに続く。AR型の語は「ARAR」と「ARリ」に集中し、そして、A型では「Aッ」
が最も多い。6 拍語は、2 拍を 3 回、あるいは 3 拍を 2 回繰り返した形であるが、わず かに 3 例のみである。「よよ」について前述したごとく、例文の中には、4 拍、6 拍の 形も見られるが、見出し語としては立てられていない。全体では多い順に、「ABAB」(98 例)、「ARAR」(52 例)、「AッBリ」(36 例)、「ARリ」(24 例)、「AB」(21 例)となって おり、この上位 5 位までのタイプで、全体の 7 割以上(315 例中 231 例)を占めている。
どの時代にどのようなタイプの語が現れるか、音象徴語の歴史的変遷については、
鈴木〔森田〕(1953・1984)、山口(2002)により調査がなされており、山口の「語 型の変遷図」(pp. 34 〜 35)によると、奈良時代に見られるタイプとして、「A、AA、 AB、ABラ、ABロ、ABAB、ABB、ABC」が示されている。本稿ではAB型のうち、
第 2 拍がラ行音のものをAR型として調査を行っているため、該当するタイプを表中 に で示した。「ABAB・ARAR」タイプは、奈良時代から現代に至るまで、音象徴 語の典型的なタイプであるが、『言海』においても同様で、「ABAB・ARAR」タイプは、
315 例中合わせて 150 例(用例数は異なり語数。以下同様。)と、全体の約半数を占め ている。「AB」は 21 例(ARを加えると 22 例:用例数は異なり語数。以下同様。)と 比較的多く、「A、AA」、「ABラ・ARラ、ABロ・ARロ」も数例見られる。「ABC」タイプ を除き、奈良時代に見られるタイプは全て収録されている。
また、「ARAR」タイプの内訳を見ると、「(Aラ)× 2」は 24 例、「(Aロ)× 2」は 16 例と、語末が「ラ、ロ」のタイプが多く、現代語では「かりかり、きりきり、くり くり、こりこり、…」のようにごく一般的に用いられる「(Aリ)× 2」タイプの語は、『言 海』にはわずか 4 例しか採録されていないのが特徴的である。
山口(2002)は前掲の「語型の変遷図」に、明治時代以降出現するタイプとして「A ンッ、A−ッ、AA−ッ、AA−ン、ABッ、AB−ッ、AッB−リ、AッB−ン、ABABッ、ABBッ、
ABB−ン、ABB−」(2 拍語基はABで統一)を挙げるが、『言海』には 1 例も見られない。
特に、促音、撥音、引き音節が 2 箇所以上に挿入、添加された形は、俗的、臨時的な イメージを伴うので、辞書の見出し語としては不適切であり、立項されないのは当然 のことと考えられる。
『言海』では、いくつかの語について見出し語の上に記号を付している。「標ノ種種」で、
以下のように説明する。
{ …………古キ語、或ハ、多ク用ヰヌ語、又ハ、其注ノ標。
‡…………訛語、或ハ、俚語、又ハ、其注ノ標。
それぞれの記号の付された語について、タイプごとにまとめて【表 6】に挙げる。
【表 6】「{ 」「‡」の付された語
型 タイプ { の付された語 ‡ の付された語
AB型
AB さやに・しとと・しぬに・しのに・
のどに・ふつに
うかと
ABB しみみに
ABラ しみらに・しめらに
ABリ うかりと
ABロ のとろに
ABAB けざけざと・こぼこぼと・さやさや・
したしたと・しぼしぼと・すくすく と・すたすたに・つたつたに・つぶ つぶと[3]・のどのどと・ふたふたと・
わだわだと
いじいじ・うかうか・うじうじ・
うようよ・うわうわ・おどおど・
きなきな・こせこせ・じくじく・
しょぼしょぼ・すたすた・せかせか・
ちょぼちょぼ・とぼとぼ・のさのさ・
のそのそ・のめのめ・よぼよぼ・
ABAʼB しめじめと・さわざわ
AッBリ あっさり・うっかり・うっすり・
うっとり・がっかり・がっくり・
ぎっくり・ぎっしり・こってり・
しっぽり・すっぱり・すっぽり・
ちょっくり・にょっきり
AンBリ うんざり・しょんぼり・ちんまり・
ちょんぼり
AR型
ARラ うららに
ARリ けろりと・じろりと・にょろりと
ARAR うらうら・おろおろ きょろきょろ・じろじろ
A−RA−R こーろこーろに
A型
A きと・さと
AA そそ・よよ[2] ざざ
Aッ きっと ぎょっと
A−A− こーこーと・にょーにょーと その他の
型
うねくね・がたひし・つくねんと・
ぬらくら
「{」の付された語は「古語」と考えられるが、奈良時代に見られる「AB、ABB、ABラ、
ABAB、ARラ、ARAR、A、AA」タイプの語が多く見られる。「ABロ」はタイプとし ては奈良時代に存在するが、「のとろ」は『日本国語大辞典』(第二版, 小学館)(2001)
では『日本大文典2』の例を挙げる。前田(1991)は、『言海』の「古語の認定はかな
り限定された範囲のもので、文語文に用いうる可能性のある古語は一般語に入れた可 能性がある。」と分析しているが、音象徴語に関してもかなり限定されており、古語と して扱われた音象徴語は奈良時代に見られるタイプの語に集中していることから考え ると、音象徴語に関しても、文語文に用いうる可能性のある語は一般語に入れた可能 性が高いと思われる。つまり、奈良時代の語で、「多ク用ヰヌ語」(前掲の「標ノ種種」
の説明)を「古語」として扱ったのではないだろうか。
一方、「‡」は「訛語・俚語」と注記がなされているように、「俗語」と考えることができる。
語末が「リ」になるタイプが多いが、鈴木〔森田〕(1953)によると、語末のラ行音は、
「上古は語基の母音に調和してラまたはロ(乙)をとつたが、リは全く見えないのである。
これはこの種の語に限らず、他の、接辭のついたものを見ても同様である。リは中古 より見え出し、それに代つてロは次第に姿をけし、近古にはラも亦リに壓倒されてゆ く。」という変遷を辿っており、中古になって現れる「ABリ・ARリ」、中世になって現 れる「AッBリ、AンBリ」タイプの語に「‡」は付されている。「ABAB・ARAR」タイ プの語で「‡」の付された語には、「いじいじ、うじうじ、こせこせ」等、俗なイメー ジ、マイナスイメージの語が多い。「AッBリ、AンBリ」タイプの語にも、プラスイメー ジの語は少ないように見受けられる。
4 語頭の音
『言海』の巻末に「言海採収語…類別表」を載せるが、音象徴語が和語の中でどの程 度見られるのかを、「言海採収語…類別表」に書き込む形で示したものが【表 7】である。
【表 7】言海採収語 語別
部類 音象徴語 和語 計 音象徴語/計
あ 4 1396 1696
33 / 6177
い 3 1287 1800
う 19 1070 1244
え 0 119 318
お 7 945 1119
か 13 1704 2576
58 / 7353
き 11 454 1256
く 15 778 1404
け 3 165 869
こ 16 755 1248
さ 23 861 1784
90 / 7700
し 30 1100 3412
す 24 550 768
せ 1 131 1004
そ 12 288 732
た 8 860 1695
52 / 5370
ち 14 242 997
つ 12 706 822
て 2 301 768
と 16 636 1088
な 2 577 731
21 / 1994
に 6 239 480
ぬ 4 171 183
ね 1 235 330
の 8 224 270
は 11 903 1713
47 / 4717
ひ 15 740 1127
ふ 12 446 995
へ 1 105 339
ほ 8 250 543
ま 1 627 803
9 / 2612
み 1 602 723
む 5 247 340
め 1 208 334
も 1 286 412
や 0 362 503
11 / 1224
ゆ 7 244 298
よ 4 326 423
ら 0 9 266
0 / 928
り 0 1 324
る 0 6 34
れ 0 0 189
ろ 0 3 115
わ 4 259 396
4 / 1028
ゐ 0 79 165
ゑ 0 57 146
を 0 263 321
計 324 21817 39103 325 / 39103
『言海』の見出し語の構成比を見ると、多い順に、サ行(19.69%)、カ行(18.80%)、
ア行(15.80%)、タ行(13.73%)、ハ行(12.06%)であるが、音象徴語について延べ語 数では、サ行(28.57%)、カ行(18.41%)、タ行(16.51%)、ハ行(14.92%)、ア行(10.48%)
である。「言海採収語…類別表」では、清濁、拗音も全てをまとめて、語頭の文字によっ ての分類であるため、さらに詳しく語頭の音を音節ごとに見ると【表 8】になる。
【表 8】語頭の音 (AB型・AR型・A型・その他の総計:表中の用例数は異なり語数)
計 か 7 き 7 く 6 け 3 こ 12 きゃ きゅ きょ 1
38 か行 58(18.4%)
くゎ 2
が 6 ぎ 2 ぐ 5 げ ご 4 ぎゃ ぎゅ ぎょ 1 ぐゎ 2 20
さ 15 し 20 す 17 せ 1 そ 8 しゃ 2 しゅ しょ 2 65 さ行 92(29.2%)
ざ 7 じ 7 ず 9 ぜ ぞ 4 じゃ じゅ じょ 27 た 7 ち 8 つ 7 て 2 と 6 ちゃ 1 ちゅ ちょ 3 34 た行
44(14.0%)
だ 1 で ど 9 10
は 6 ひ 9 ふ 8 へ 1 ほ 6 ひゃ 1 ひゅ ひょ 3 34 は行 44(14.0%)
ぱ ぴ ぷ ぺ ぽ ぴゃ ぴゅ ぴょ 0
ば 4 び 2 ぶ 2 べ ぼ 2 びゃ びゅ びょ 10
な 2 に 4 ぬ 4 ね の 8 にゃ にゅ にょ 3 21 21( 6.7%)
ま 1 み 1 む 5 め 1 も 1 みゃ みゅ みょ 9 9( 2.9%)
や ゆ 7 よ 3 10 10( 3.2%)
あ 4 い 3 う 19 え お 7 33 33(10.5%)
わ 4 4 4( 1.3%)
ら り る れ ろ りゃ りゅ りょ 0 0
315
『言海』の「語法指南」において、「半濁音ハ、圏點ヲ加ヘテ用井ル、其數、五ツアリ。
…(略)…半濁音 波行 ぱ、ぴ、ぷ、ぺ、ぽ、」(p. 3)と説明はあるが、見出し語の 語頭の音について、パ行音の語は載せられていないのである。
ひかひか〔副〕煌煌光リキラメク状ニイフ語。ピカピカ。
ふたふたと〔副〕圁膊ク音ニイフ語。バタバタ。パタパタ。
上記の「ひかひか」、「ふたふたと」の語釈の部分に、「ピカピカ」、「パタパタ」( は平による)という語頭にパ行音の語が見られるが、見出し語としては立てられていない。
現代語の場合については、日向(1991)によると、次のように書かれている。
語頭に立つ音節を見てみよう。『日本国語大辞典』の見出し語の構成比は多い順に、
か行(21%)−さ行(19%)−あ行(16%)−は行(13%)
一方、本書に収録した擬音語・擬態語では、
は行(29%)−か行(24%)−さ行(16%)−た行(13%)
の順になっている。は行が断然多くて、あ行(5%)が意外に少ないという結果である。
この数値は、派生する濁音・半濁音を含むものであるが、例えば、は行では濁音・半濁 音が半数を越えるというのが特徴的である。(「擬音語・擬態語を演出する音」p. 306)
現代音象徴語のハ行音については、濁音・半濁音が半数以上を占めているが、『言海』
には語頭が半濁音の語を載せない上、濁音の語も比較的少ないため、ハ行音の語が他 の資料に比べて少ないという結果になっている。1886〔明治 19〕年に出版された『和 英語林集成』(第 3 版)においても現代語と同様、ハ行音が 1 番多い。
【表 9】語頭に多く用いられる音
1 2 3 4
『擬音語・擬態語の読本』 ハ行 18% カ行 16% サ行 14% タ行 6%
『和英語林集成』(第 3 版) ハ行 29% サ行 22% カ行 17% タ行 13%
『言海』 サ行 29% カ行 18% タ行/ハ行 14%
語頭がラ行音の語は、歴史的にも、また現代語においてもごく少数であるが、『言海』
には 1 例も載せられていない。
5 語末の音
【表 10】AB 型の語末の音 (表中の用例数は異なり語数)
計 か 6 き 4 く 9 け 1 こ 1 きゃ きゅ きょ
21 か行 22(12.0%)
くゎ
が ぎ ぐ げ ご 1 ぎゃ ぎゅ ぎょ
ぐゎ 1
さ 5 し 3 す 1 せ 1 そ 5 しゃ しゅ しょ 15 さ行 26(14.1%)
ざ 5 じ 4 ず 2 ぜ ぞ じゃ じゅ じょ 11 た 12 ち 2 つ 3 て と 5 ちゃ ちゅ ちょ 22 た行
26(14.1%)
だ 1 で ど 3 ぢゃ ぢゅ ぢょ 4
は ひ ふ へ ほ ひゃ ひゅ ひょ 0
は行 15( 8.2%)
ぱ 1 ぴ ぷ ぺ ぽ ぴゃ ぴゅ ぴょ 1
ば 2 び 1 ぶ 4 べ 1 ぼ 6 びゃ びゅ びょ 14
な 3 に ぬ 1 ね 1 の 1 にゃ にゅ にょ 6 6( 3.3%)
ま み 3 む め 4 も みゃ みゅ みょ 7 7( 3.8%)
や 9 ゆ よ 5 14 14( 7.6%)
あ い 2 う え 2 お 2 6 6( 3.3%)
わ 6 6 6( 3.3%)
ら 3 り 51 る れ ろ 2 りゃ りゅ りょ 56 56(30.4%)
促音 0 0
撥音 0 0
引き音節 0 0
【表 11】AR 型の語末の音
計
ら 27 り 28 る 8 れ ろ 18 りゃ りゅ りょ 80 80(100%)
促音 0 0
撥音 0 0
引き音節 0 0
【表 12】A 型の語末の音
計
か き く け こ きゃ きゅ きょ
0 か行 0 くゎ
が ぎ ぐ げ ご ぎゃ ぎゅ ぎょ
ぐゎ 0
さ 2 し す せ そ 1 しゃ しゅ しょ
4 さ行 4(11.4%)
ざ 1 じ ず ぜ ぞ じゃ じゅ じょ
た ち つ て と ちゃ ちゅ ちょ 0 た行
0
だ ぢ づ で ど ぢゃ ぢゅ ぢょ 0
は ひ ふ へ ほ 1 ひゃ ひゅ ひょ
1 は行 1( 2.9%)
ぱ ぴ ぷ ぺ ぽ ぴゃ ぴゅ ぴょ
ば び ぶ べ ぼ びゃ びゅ びょ
な に ぬ ね の にゃ にゅ にょ 0 0
ま み む め も みゃ みゅ みょ 0 0
や ゆ よ 1 1 1( 2.9%)
あ い う え お 0 0
わ 0 0
ら り る れ ろ 1 りゃ りゅ りょ 1 1( 2.9%)
促音 14 14(40.0%)
撥音 6 6(17.1%)
引き音節 8 8(22.9%)
語末の音については、型によって様相を異にする。AB型の語末の音で最も多いのは
「リ」で、184 例中 51 例である。AB語基に添加して「ABリ」となったものは 7 例で あるが、「AッBリ」タイプの語末が 36 例、「AンBリ」の語末が 8 例となっている。
AR型は、第 2 拍がラ行音の語であるので、現代語のように「ころりっ、ころん」の ような形も可能性としては考えられるが、『言海』には、AR型の語末が促音、撥音、
引き音節の語は 1 例もない。AR型の場合も、「リ」が 80 例中 28 例と最も多く、「ラ」
も 27 例とほぼ同数である。その内訳を見ると、「ARリ」タイプの語末が 24 例で、ほ とんどがこのタイプの語に集中している。しかし、「Aリ」語基の語は 1 例も見られない。
第 2 拍が、「リ」以外の「AR」語基に添加する形で、「ARリ」のタイプの語が派生し ている。語末の「ラ」は、2 拍語基の重複した「AラAラ」タイプの語末が 24 例である。「A リAリ」タイプの語はわずか 4 例で、AR型の語末の「リ」は「ARリ」に、「ラ」、「ロ」、
「ル」は、「ARAR」タイプの語基末であるという特徴が見られる。
A型は 41 例と、用例数が少ないが、語末については、促音が 14 例で最も多い。次 いで引き音節が 8 例、撥音が 6 例である。「AA」タイプの語も 4 例あり、語頭と同じ 音が語末にくるが、A型の場合は、促音、引き音節、撥音に集中している。
【表 13】語末に多く用いられる音(表中の数字は異なり語数)
1 2 3 4
『擬音語・擬態語の読本』り (18%) 促音 (16%) 撥音 (14%)
『和英語林集成』(第 3 版)り (32%) ら ( 8%) 促音 ( 5%)/ろ ( 5%)
『言海』
AB型 り 51 た 12 く/や 9
AR型 り 28 ら 27 ろ 18 る 8 A 型 促音 14 引き音節 8 撥音 6
すべての型 り 79(25%) ら 32(10%) ろ 22( 7%) 促音 15(5%)
現代語の場合、前掲の日向(1991)では、以下のように述べる。
本書収録語の語末を見ると、多い順に、
り(18%)−っ(16%)−ん(14%)
という結果になっている。「っ」や「ん」が多いのは容易に想像がつくが「り」がトッ プであったのはやや意外というべきか。
ともあれ、ら行音や促音・撥音が、擬音語・擬態語の持つ、音と意味との必然性と いう特性を演出している大きな要素となっているようだ。この三つの音節が、擬音語・
擬態語の半数の語末を支配していることになる。(「擬音語・擬態語を演出する音」p.306)
『言海』の全ての型をまとめると、【表 13】に示すように、多い順に「リ(25%)」、「ラ
(10%)」、「ロ(7%)」、「促音(5%)」となっている。『擬音語・擬態語の読本』は、現 代音象徴語のみを採録したものであり、ラ行音以外では、音象徴語の特性とも言える、
促音、撥音の占める割合が高かったが、『言海』は国語辞書であり、音象徴語のみを採 録した『読本』とは性質も異なっているからであろう。『言海』では「リ」に次いで、「ラ」
が第 2 位、「ロ」が第 3 位であるということも、『読本』とは異なっている。拙稿(1998)
の調査では、室町時代末期の『日葡辞書』においても、当時、語末は「リ」になるま で語形を拡張しており、語末が「ラ」「ロ」であるものは、語末が「リ」になるものに 比べて、古い時代のものが多いと言える。第 4 位は促音であるが、『読本』では 16%で あるのに対して、『言海』では 5%であり、それほど多いとは言えない。『読本』で第 3 位の撥音(14%)は、『言海』では、6 例(2%)のみで、上位の語ではない。また、前 田(1991)は、『言海』では、古語、俗語を区別する意識が明確にされていると述べて いる。『読本』では促音、撥音、引き音節といった要素が多くなれば、口語的、俗語的 で臨時的な語といったイメージが強くなり、古語、俗語を明確に区別する辞書には採 録されにくくなると考えられる。『言海』の音象徴語の語末の音は、『和英語林集成』(第 3 版)とほぼ同様の様相を示していると言える。語末が「ラ」である音象徴語は上代か ら見られ、語末が促音、撥音の語よりも、俗語性からは遠く、国語辞書には採録され やすかったのではないかと考える。
6 結び
本稿では、『言海』において見出し語として立てられた和語の音象徴語(異なり語数 315 語、延べ語数 325 語)について調査を行った。『言海』には、語頭がパ行である語は 載せられていない。採録された音象徴語のタイプは、一部のタイプに限定されており、
多い順に、「ABAB」、「ARAR」、「AッBリ」「、ARリ」、「AB」となっており、この上位 5 位 までのタイプで、全体の 7 割以上を占めていた。用例数は多くないが、奈良時代から見 られる古いタイプの語「A、AA、AB、ABラ、ABロ、ABAB、ABB」も採録されている。
また、『言海』では、古語と俗語について記号が付されており、古語として扱われ ている語は、奈良時代に見られる「AB,ABB,ABラ、ABAB,ARラ、ARAR,A, AA」タイプの語、俗語には、中古になって現れる「ABリ・ARリ」、中世になって現 れる「AッBリ、AンBリ」タイプの語が多い。「ABAB・ARAR」および「AッBリ、AンBリ」
タイプの語で俗語として扱われている語には、マイナスイメージの語が多かった。
語頭の音については、パ行音であるものが採録されていないこと、バ行音の語も比 較的少数であることから、多い順に「サ行」、「カ行」、「タ/ハ行」となっており、同 時期に出版された『和英語林集成』(第 3 版)や現代音象徴語では「ハ行音」がトップ であるという様相とは異なっていた。
語末の音は、多い順に「リ」、「ラ」、「ロ」、「促音」となっていて、『和英語林集成』
(第 3 版)とほぼ同様であった。現代音象徴語のみを採録した『擬音語・擬態語の読本』
と、「リ」が 1 位である点では同様であったが、異なる点としては、「ラ」が上位を占め、
また、撥音は上位ではなかった。
『言海』は、「日本普通語ノ辞書」であり、また、古語、俗語を区別する意識が明確 であることから、口語的、俗語的で臨時的な語は採録されにくかったのではないかと 考える。今後、明治期に刊行された他の辞書類に関しても調査を行い、個々の資料に おける音象徴語の特徴を詳細にし、当時の様相を明らかにしたい。
注
1 天沼寧編(1974)『擬音語・擬態語辞典』(東京堂出版)には「おずおず」、浅野鶴子編(1978)
『擬音語・擬態語辞典 角川小辞典 12』(角川書店)には「おずおず」と「おめおめ」、阿刀田稔子・
星野和子編(1993)『擬音語擬態語使い方辞典第 2 版』(創拓社)には「おずおず」が採録さ れている。
2 ジョアン・ロドリゲス著『日本大文典』は、1604-08 年に刊行された。
参考文献
金田一春彦(1978)「擬音語・擬態語概説」,浅野鶴子編『擬音語・擬態語辞典』角川書店 鈴木〔森田〕雅子(1953)「語音結合の型より見た擬音語・擬容語―その歴史的推移について―」
『国語と国文学』345 号,pp.46-61.
―(1984)「擬声語・擬音語・擬態語」,鈴木一彦・林巨樹編集『研究資料日本語
文法④修飾句独立句編副詞・連体詞・接続詞・感動詞』明治書院,pp.159-201.
日向茂男(1991)『擬音語・擬態語の読本』小学館
平弥悠紀(1994)「『日葡辞書』と『和英語林集成』に於ける音象徴語」『同志社国文学』第 40 号,
pp.146-158.
―(1998)「中世末期の音象徴語の語基―『日葡辞書』を中心として―」『国語語彙史の研 究 十七』国語語彙史研究会編,和泉書院,pp.169-195.
―(2009)「『Aリ』語基の現代音象徴語」『同志社大学日本語・日本文化研究』第 7 号,
pp.1-16.
前田富祺(1991)「近代辞書の古語と文語―『和英語林集成』と『日本大辞書』をめぐって―」,
大友信一博士還暦記念論文集刊行会編『辞書・外国資料による日本語研究』和泉書院,pp.201- 217.
山口仲美(2002)『犬は「びよ」と鳴いていた』光文社