長崎大学教育学部紀要 一自然科学 ‑ N0.75,31‑42 (2007.3)
沖縄県 中城湾の石灰質堆積物中の脂質組成 と分布
近 藤 寛
長崎大学教育学部地学教室 (平成18年10月31日受理)
Li p i dCo mp o u n dsa n dDi s t r i b u t i o ni nt h eCa r c a r e o usSe d i me n t s f r o mt h eNa ka g us u k uBa yo fOki n a waPr e f e c t u r e
HiroshiKoNDO
DepartmentofGeology,FacultyofEducation,NagasakiUniverslty (ReceivedOctober31,2006)
Abstract
The12carcareoussedimentsamplesfrom theNakagusukuBayofthesoutheasternpartof theOkinawaIslandofOkinawaPrefecturewereanalyzedforthemudcontents,CaC0,,813candlipid compounds・Thesurveyedareaaredividedinto3areas,thatis,bayhead,midbayandstrait・
TheL/H (L≦C2。,H≧C21)ofn‑alkanesislowerinthebayheadsediments.TheL/Hofn‑al‑ kanesishigherinthemidbaysedimentsandstraitsediments.
Atotalof1641desmethy1‑sterolswereidentified・Themeanvalueofthe4‑desmethyl‑sterols inthellsedimentsis2.08〝g/gwithoutonesedimentsamplethatthecontentofSt.llSedimentis
15・09yg/g・The41desmethy1‑Sterolsarerichinthebayheadsedimentsamples.
Thepredominant4‑desmethyLsterolsarecholesterol,brassicasterol,stigmasterolandβ‑sito‑
sterol・InatriangulardiagramofC27,C28,C29‑SterOIs,thesedimentsofthestraitareplottedon"Open marine"・Thesedimentsofthemidbayandbayheadareplottedon"estuarineorbay".
Fattyacidsconsistofsaturatedfattyacids,andmono‑andpoly‑unsaturatedfattyacids・Satu‑
ratedfattyacidswerethemostabundantcompoundsclasssuchasC16,C22,C24andC28.Themono‑
unsaturatedfattyacidssuchasC16:1,C18・landpoly‑unsaturatedfattyacidssuchasC2.:4,C2.:5Were theabundantcompounds.
Thepresenceofunsaturatedfattyacidsimpliesthattheorganicmatterhavenotundergone extensivedegradationoralteration.
32 近 藤 寛
1 .はじめに
浅海の炭酸塩堆積物は,生物 を構成する石灰質硬組織の遺骸 に由来す るもので,黒潮な どの暖流域の支配下 にある浅海域 には,炭酸塩堆積物が豊富 に分布 している。筆者 らは, 浅海の炭酸塩堆積物 にふ くまれる脂質組成 として,長崎県五島列島福江 島の富江湾か ら採 取 した堆積物試料 について炭化水素,アル コール,ステ ロール,脂肪酸,有機炭素同位体 比81
3
C値 を報告 している (近藤 ほか,1992;1993)0本論では,沖縄県沖縄島南部の中城湾か ら採取 した炭酸塩堆積物 に含 まれる脂質組成の 分布 と特徴 について報告す る. また,堆積物 に含 まれる有機物の813C値 の分析結果 につ いて も報告す る。
2. 中城湾の概要
中城湾は沖縄島の南東部 に位置 し,奥行 き15km,幅20km のほぼ四角形 をした湾であ る。北側 の勝連半島 と南側 の知念半島問の沖合部は,津堅島, ウガ ン礁,久高島な どのサ ンゴ礁か らなる島々が連なっている。 これ らの島々の内側は,サ ンゴ礁の浅瀬か らなる潟 湖性 の湾であ り,水深 は10‑ 40mの比較的平坦な海底地形 とな って いる。 中城湾への 出入 口は,津堅島 とウガン礁間の幅4km,深さ50mのニ ッロが大きい。他の出入 口は幅, 水深 ともに小さく潮流が速 い (氏家 ・興津,1979)(第1図)0
中城湾は外海 との潮流の出入 りが多い開放的な湾である。 中城湾 の海域は,南西部の与 那原湾域 を湾奥部bayhead,中央部 を湾央部midbay,湾 口部の海峡 を海峡部straitの3海域 に区分 している。
なお,各海域の堆積物は一般的 に次 の特徴 をもつ もの としている。湾奥部bayheadは, 河川か ら運ばれた泥が堆積 し含泥量が高い。湾央部midbayは,湾の固有水塊 による堆積 物であ り泥質砂〜泥である。海峡部straitは,海水の流入 によ り岩盤が露出した り,また, 粗粒な堆積物 となっている。
Fig・1 Bottomtopographyandsampling
locations Fig.2 Distributionofmudcontents
沖縄県中城湾の石灰質堆積物中の脂質組成と分布 33
3.試料採取 と分析方法
1992年3月 16日に中城湾 の12地点 にお いて, エ クマ ン ・バー ジ採泥器 によ り堆積 物試料 を採取 した。 陸上 の土壌が流れ込 んで いる と思われ る中城湾 の湾奥部 にある与那原 湾 の5地 点 (St.1,9,10,ll,12), 湾 央 部 の5地 点(St.2,3,4,5,6), 湾 口の海 峡部 の2地点(St.7,8)か ら堆積物 を採取 した (第 1図)0
採取 した堆積物 の表層0‑ 3cmまでの堆積物 を試料 とし, ‑20℃ の冷凍庫で分析 時 ま で保存 した。
粒度分析は砂質部 を節分法でお こなった。含泥量は水師 によ り分離 した泥 を硫酸 アル ミ ニ ュウムで凝集 させ,乾燥後 の重量 を求 めた。貝殻 な どの炭酸 カル シュウム含有量は5%
塩酸処理前後 の重量差 によ り求 めた。有機炭 素 同位体 比813C値 は東京都立大学理学部分 析化学教室 にて測定 した。
脂質 の分析方法 (近藤,2005)につ いては, 1NKOH/メタ ノール溶液 によ るケ ン化 液か らn‑ヘキサ ン/ ジエチルエーテル
( 9: 1 )
混合液 によ り,脂質 の中性成分 を抽 出 した。中性成分抽 出後 に,塩酸 によ りpH‑ 1以下 として脂質 の酸性成分 を抽 出 した。
各成分 の分離 は,薄層 クロマ トグ ラフィー によ り中性成分 を炭化水 素,多環芳香族炭化 水素 ・アルデ ヒ ド・ケ トン,脂肪族 アル コール・4‑メチルステ ロール,4‑デス メチルステ ロー ル に分画 した。 また,酸性成分 につ いては脂肪酸 を分画 した。
脂質成分 の定量は ガス ク ロマ トグ ラム (HewlettPackard社 製,5890シ リーズⅡ)を用 いた。使用 したカ ラムはDB‑5(内径0.32mmX長 さ30m,微極 性) であ る。脂質成分 の 同定はFinniganmatINCOS‑50GC/MSによ り行 った。 カ ラムはDB‑5で ある。
Table1 AnalyticaldataofsedimentsfromNakagusukuBay St.I)epthCaCO3 斑ud 61ac sediment
(m )
% % % 。
mmesArea 123456789012111 00089798780088009
08311052213541
20 99 16 59 7 49 8 59 17 64
614577718201 234533
9.0 ‑18.0 mddyfinesand 7.1 ‑17.5 muddyfinesand
●●●●5570
2 ‑17.1 muddyfinesand 7 ‑16.8 finesandymud 6 ‑17.7 muddyfinesand 4 ‑17.6 muddyfinesand 0.2 ‑15.9 mediumsand
‑15.6 verycoarsesand 9.0 ‑18.0 mediumsand 7.9 ‑18.5 mediumsand 38.4 ‑19.0 mediumsand 28.9 ‑18.3 muddyfinesand
Bh
姐 Fg FB 此 Fg
ststBhBhBhBHean 22 78.7 29.0 ‑17.5
Bh:bayhead mB:midbay St:strait
34 近 藤 寛
4. 結果 と考察
4‑ 1 粒度組成,炭酸カルシュウムCaCO3量,有機炭素同位体比813C
粒度組成,炭酸 カル シュウムCaCO3量,有機炭素同位体比813Cの分析結果は第 1表 に 示 した。
粒度分析の含泥量 については,湾奥部の与那原湾の堆積物は含泥量が 8‑ 38% と少な い砂〜泥質砂 である。湾央部では含泥量が 30‑ 56% と高 くな り,細粒砂〜細粒砂質泥 である。湾 口の海峡部では泥をほとん ど含 まない中粒〜極粗粒砂である (第 2図)。なお, 中城湾堆積物の底質 については氏家 ・興津 (1979)の報告がある。
炭酸カル シュウムCaCO3量 については,湾奥部の与那原湾では炭酸 カル シュウム量は 49‑ 71% と高 い。湾央部 で も炭酸 カル シュウム量 は 88‑ 90% と大 き くなっている。
中城湾湾 口の海峡部では最 も大 きく,炭酸カル シュウム量は 98.7‑ 99.1%になっている (第 3図)0
有機炭素同位体比813C (%。)の分布 (第 4図) については,湾奥部 の与那原湾 の堆積 物 の813C値 は最 も小さく, ‑ 18.0‑ ‑ 19.0%。であるO湾央部〜海峡部では 1 15.6‑ I
15.9%。を示すが,炭酸 カル シュウム量が多 い試料 ほど813C値が大 き くなって いる。 これ らの813C値は富江湾の炭酸塩堆積物 における813C値 (近藤 ほか,1993) と同様な値 を示 している。
海洋 プランク トンは813C値が ‑ 19‑ ‑ 22%。の報告がある (酒井 ・松久,1996)。 また, 海の藻類は813C値が‑ 17‑ ‑ 18%。,二枚貝は813C値が ‑ 18
.
4%。(Sackett,1989)と報告されている。 なお,有機炭素同位体比813C (%。)は,陸起源有機物 と海洋起源有機物で 大きく異なる ことを利用 して陸起源有機物の割合が求めることがなされ るが,海洋起源の 有機物の813C値は, ‑ 19%。とされている (石渡, 1988)0
Fig.3 DistributionofCaCO3 Fig,4 Distributionofa 13C
4‑ 2 脂肪族炭化水素 (アルカ ン)
脂肪族炭化水素 (n‑アル カ ン) は,
C
14‑C
37‑アル カ ンを検 出 して定量 した。含有 量 (〝g/g)は 0.09‑ 3.60〝g/gである (第 2表)。 アルカ ン含有量の分布 (第 5図)は,沖縄県 中城湾の石灰質堆積物 中の脂質組成 と分布
Table2 n‑Alkanesdataforsurfacesediments fromNakagusukuBay
St. n‑Alkanes
〝g/g
L / H
CPI PeaksSediments
mmeS
00310>lO>17377454385678333●●●●●●●●●●●●り一23323112222
205551胡587232176155173●●●●●●●●●■●■000000110000
29384oO1O>2300323321102263●●●●●●●●●●●●000000000030
123456789012111 l1752312'''●■911qV2232●■●■''1QV913223 l15332●■l'999222'●■'‖りH叩‖叩222 79121'5112「ulhl123 571322''●■991223'''l19332
mddyfine mddyfine muddyfine finesandy
a..パuam弧mdsssm
zmddyfinesand muddyfinesand mediumsand verycoarsesand mediumsand mediumsand mediumsand muddyfinesand
臥
戚
瓜Ea 此
Egstst馳BhBh蝕把ean 0.52 0.60 2.62
Bh:Bayhead mB:hidbay St:Strait
Fig.5 Distributionofn‑alkanes(〝g/g) inNakagusukuBay
35
Fig.6 DistributionofL/Hofn‑alkane
湾奥部 の与那原湾のSt.11では3.60〃g/gで あるが,他 は0.09‑ 0.38〃g/gである。 これ らの値 は富江湾 の炭酸塩堆積物 におけるアルカ ン含有量 (近藤 ほか,1993)に近い。閉 鎖的な湾であ り泥質堆積物 に富む厚岸湾 (近藤,2005),東京湾 (近藤ほか,2004),大 村湾 (近藤 はか,1990)にお けるアル カ ン含有 量の1/10以下である。 中城湾 の炭酸塩 堆積物は,アルカン含有量が小さい。
アルカンのL/H比の分布 (第
6
図)は,湾奥部の与那原湾 のSt.11では0.17と小 さい。湾奥部で
L/ H
比が小 さくなって いるのは,陸上の高等植物起源 の有機物 に由来す るC
29,36 近 藤 寛
C
31な どのアルカ ンな どが多い ことによる と考 え られ る。一方,湾央部〜海峡部ではアル カ ンのL/H比 は大 き くな り,St.7‑ 8で は1.2‑ 1.3で ある。湾央部〜海峡部で は,覗 地性 の海洋生物 に由来す る有機物 の寄与が大 き く,C15,C17,C19な どのアル カ ンが多 いことによると考 え られ る。
4‑ 3 n
‑ア ルコール
n‑アル コール含有量は,0.51‑ 2.18〝g/gである (第3表)0n‑アル コールの炭素数 のピー クの分布 は,湾奥部 の与那原湾 のSt.10,11ではC28が ピー ク とな っている。一方,拷 央部 のSt.2,3,4,5,6では,C22が ピー クで ある。湾 口の海峡部 のSt.7,8では,C.6
が ピーク となっている (第3表)0
Table3 AIcoholsdataforsurfacesedimentsfromNakagusukuBay St. n‑AIcohols
〟g/g L/H
C
PI
Peaks P〝g/hytg naoI Sedimements Area0963005618513620255454652●●●●●●●●●●●●001100140060
466666624624211121222222+̲AAL++̲̲AAA204444442668222222222122'●,'●■''''''''62222266680021222.22111222
29670374120028891915683095.5.5..6.6.6.3.3.も5.7.4.
575953鵬32鵜95785547313●●●●●●●●●●●●000000000000
48002497100932601142659002●●●●■●■●●●●●l122110001511
12345とU789012111
0 muddy 9 muddy 6 muddy fine muddy 5 muddy
ddddd弧弧弧TT,'弧弧SSSmSSeee∫eennnana・l・l・ln・l・l∫∫∫a∫fS
mediumsand verycoarsesand mediumsand Tnediunsand 瓜edil班 Sand muddyfinesand
臥
畑 地 曲 畑
地stst蝕Bh馳B光ean 1.29
暮
0.54 5.52 ‑ ‑ ‑ 1.51 Bh:Bayhead mB'.hidbay St:StraitFig.7 Distributionofn‑alkanes(〃g/g) Fig.8 Distributionofsterols(〝g/g)
沖縄県 中城湾 の石灰質堆積物 中の脂質組成 と分布 37
n‑アル コール のピー クについて,湾奥部の与那原湾 の堆積物 は陸上 の高等植物起源 の 有機物が多 いので炭素数が多い
C
28な どのアルコール に富む と考 え られる。一方,湾央部 や湾 口の海峡部の堆積物は,海洋の動物 プランク トンな どの現地性の生物起源の有機物に 富むので,炭素数が少ないC16やC22な どのアル コールが多いと思われ る。n‑アル コール のL/H比は,n‑アルカ ンと同様 に陸上の高等植物起源 の有機物が多 いと 考 え られる湾奥部の堆積物では小さく,海洋生物 に由来する有機物の寄与が大きい湾 口の 海峡部 の堆積物では大きい (第3表)0
アル コール含有量 の分布 図 (第7図) につ いて,湾奥部 のSt.11では15.03pg/gであ り最大である。湾央部のSt.3では2.18〝g/g,St.4では2.12〃g/gとやや大 きい
4‑ 4 4‑メチルステ ロール
4‑メチルステ ロール (4‑methyl‑sterol)として,デ ィノステ ロールdinosterolを定量 した。
このdinosterolは,植物 プランク トンである渦鞭毛藻類起源 の有機物 を示す生物指標化合 物 (バイオマーカー) とされている (DeLeeuweta1.,1983;Robinsoneta1.,1984).
dinosterol含有量 (〃g/g) (第4表)は,含有量が特 に大きいSt.18の0.71〝g/gを除いた 11試 料 の平均値 は,0.18yg/gで あ る. 湾央 部 のSt.3,4,5,6の泥質砂 は,dinosterol 含有量が0.24‑ 0.31と大き く,渦鞭毛藻類が起源 とされ るdinosterolは これ らの泥質砂
に多 く堆積 していると思われる。なお, 中城湾堆積物のdinosterol量は,厚岸湾,東京湾, 大村湾な どの泥質堆積物 と比較するとかな り少ない。
Table4 SterolsofsedimentsfromNakagusukuBay
4‑desmethyト dino‑ colesterol β‑sito‑ Sedimentsname Area sterol sterol steroI
St,. FLg/g FLg/g pg/g
0 / .
pg/g0 / o
1 2.29 2 1.94 3 2.21 4 2.96 5 2.47 6 2.22 7 1.29 8 1.93 9 1.97 10 1.96 11 15.09 12 1.67
866277452070●●●■●●●●●●●●344566756886211111111111
0963856100513620255454652●●●●●●●●●●●●001100140060
715239310237●●●●●●●●●●●●37100001651029222112132221
438459161073554544264433●●●●●●●■●●■●000000000030
054718663314212232001171●●●●●●●●■●■●000000000000
mddyfinesand muddyfinesand muddyfinesand finesandymud muddyfinesand mddyfinesand mediumsand verycoarsesand mediumsand mediumsand mediumsand meddyfinesand
hちちBちpU▲し⊥LhhhhB∩mmmmSSちBBB
凡ean 2.08
'
0.18' 0.46*22.1 1.06事17.0Bh:Bayhead mB:把idbay St:Strait I:St.11を除 く
38
Fig.9 Distributionofβ‑sitosterol(%)
し 、 ′ RG '
‑ ‑ ● ‑2 ∫ 0
P20t
1‑2 ‑ . ●か ●
●
\
一一.一・一二‑
●
Fig.10 Distributionofcholesterol(%)
4‑5 4‑デスメチルステロール
41デスメチルステロール (4‑desmethyl‑sferol)は16種 を定量 した (第4表)。湾奥部の St・11の15・09pg/gを除 き,11試料 の平均値 は2.08yg/gである. この含有量は厚岸湾, 東京湾,大村湾な どの泥質堆積物 に比較す ると最 も少ない。
主要なステ ロールは,cholesterol(G),brassicasterol(I),stigmasterol(Q),β‑sitosterol(U)であ る。 これ らは4‑デスメチルステ ロールの60‑ 70%を占めている。
4‑デスメチルステ ロール含有量の分布 は,湾奥部 のSt.11で最 も大 きい。湾央部の含 泥量が大 きいSt.3,4,5,6の堆積物は,ステロール含有量が大 きくなっている (第8図)0
陸上 の高等植物起源 とされ るBISitosterol(U)(%)の分布 は,湾奥部 では比較的大 き く 16・0‑ 23・8%である。湾央部では小 さくなっているが,湾 口付近のSt.5,6ではやや大 きい (第9図).β‑sitosterolが湾奥部の堆積物 に多 いことは,湾奥部で813C値が小さい こ とに対応 し,陸上の高等植物起源 の有機物が多 いものと考 え られる。
C‑28Ⅰ+A
C‑27
Fig・ll C26 ‑ C27‑ C29SterOIs
沖縄県中城湾の石灰質堆積物 中の脂質組成 と分布 39 動物 プ ランク トンな どに多 いcholesterol(G)(%) の分布 図で は,海域 によ る分布 の 違 いが明瞭でな い (第10図)。なお, ステ ロール骨格 に2重結合が あるcholesterol(G), stigmasterol(Q)は,変質 によ り2重結合が失われてcholestanol(H),Stigmastanol(R)のスタ
ノール となる. これ らのスタノールは,湾 口の海峡部 のSt.7では少なかった.
4‑デス メチルステ ロール を用 いて起源物質 と堆積環境 を知 る方法 として,Huangand Meinschein(1979)は,C27,C28,C29ステ ロールの3成分比 によって堆積環境 を区分 して
いる。 この方法 によ りC27 (E+G),C28 (Ⅰ+M),C29 (Q+U)を3成分 として三角 ダイ ヤグラムを描 いた (第11図)。 中城湾 において,外洋openmarineとされ るものはSt.7, 8の2地点だけである。 この他 の10地点は,入 り江〜湾estuarineorbayに区分 される。
4‑6 脂肪酸
脂肪酸 については,直鎖飽和脂肪酸,不飽和脂肪酸,分枝脂肪酸が検 出された (第5表)0 それ らの炭素数の分布 については第 12,13図に示 した。
直鎖飽和脂肪酸 について炭素数 の分布 は,湾奥部のSt.10,ll,12ではC28が ピーク であ り
C
16はやや少ない。 しか し,湾 口の海峡部 にあるS t .7
,8
は,C
16が ピークであ り C24も多いので直鎖飽和脂肪酸のL/H比は,他海域 の試料のL/H比よ りも大きい。湾央部のSt.2,3,4,5,6の地点では,C22,C24,C16の直鎖飽和脂肪酸が多 くなっている (第 12図)0
Table5 FattyacidsdataforsurfacesedimentsfromNakagusukuBay
total n‑sat nonopolybranchn‑satmonopolybranch Sediments St.(
〝g / g )
(〝g / g )
L′H CPⅠ (〝g / g )
(%)muddysand 1 11.3 6.5 3.6 4.9 2.8 0.2 1.8 57.6 24.6 1.915.9 muddysand 2 10.0 6.1 5.3 6.3 2
.
4 0.l l.4 60.9 23.8 1.314.0 mddysand 3 13.4 8.0 4.5 4.8 3.3 0.3 1.8 59.5 24.6 2.413.6 sandymud 4 17.2 10.3 3.1 4.7 4.1 0.4 2.3 60.3 24.0 2.413.2 muddysand 5 1.3.0 7.8 2.8 6.1 2.8 0.4 2.0 59」7 21.6 3.215.6 muddysand 6 14.9 8.4 4.6 5.4 3.8 0.5 2.3 56.3 25.4 3.215.1 sand 7 25.5 13.8 8.9 4.6 9.0 1.5 1.2 54.0 35.4 5.9 4.7 sand 8 16.9 9.2 11.9 9.9 6.0 0.9 0.9 54.2 35.2 5.1 5.4 sand 9 8.4 4..7 3.8 4.9 2.2 0.2 1.3 55.7 26.0 2.316.0 sand 10 11.9 6.6 3.8 5.5 3.2 0..4 1.7 55.6 27.0 3.513.9 sand 11 69.4 40.6 4.4 4.4 15.4 2.411.0 58.5 22.2 3.515.8 muddysand12 9.0 5.4 4.4 4.5 2.1■0.l l.4 60.0■23.l l.215.6total:totaloffattyacids. n‑sat:satllratedfattyacids.
mono:monounsaturatesfattyacids. poly:polyunsaturatedfattyacids.
branch:branchedfattyacids.
40 近 藤 寛
山 ⊥止 m J
u J 山 丘 ⊥ 山
m m 山
'2/brStl2 10
0 盟
10
0
●/■ 20 10
St‑7 0
●J● 20
10
0山
」
山 上 ] ⊥ 山・l. St‑8
:0.ou J 山 丘 山 ⊥ m J
16 20 24 28 16 20 24 28 16 20 24 28
Fig.12 Percentagecomposition offattyacids
生物体 の脂肪酸 について陸上の高等植物は C24,C26,C28を頂点 とす る偶数優位性 を示 し (EglintonandHamilton,1967),現地性の生物である藻類,動植物 プランク トンはC16の 直鎖飽和脂肪酸やモ ノ不飽和脂肪酸であるC16:1, C18:1な どが多い (Johnseta1.,1979)0 湾奥部の堆積物では直鎖飽和脂肪酸のC28が ピークでC16が少ない ことは,陸上の高等植 物起源の有機物 に富む ことを示 している。一方,湾 口の海峡部 にあるSt.7,8はC16が ピー クであるので,現地性 の生物 に由来す る有機物が多 いことを示 している。
不飽和脂肪酸 については,モ ノ不飽和脂肪酸 はC16:1,C18:1が多 い。多不飽和脂肪酸 は C20:4,C20:5が多 くみ られ る。なお,分枝脂肪酸 については C15のものが多い (第 13図)0
不飽和飽和脂肪酸 における炭素数 の分布 は,湾 口の海峡部 にあるSt.7,8はモ ノ不飽 和脂肪酸 C16‥1や C18‥1が多い。 また多不飽和脂肪酸である C20:4と C2。‥5が多 くみ られ る。
これ ら以外の試料ではSt.10を除き,モ ノ不飽和脂肪酸ではC18:1が最大であ りC16=1が 次 に多い。多不飽和脂肪酸ではC20:4とC20‥5が多 くなっている。
分枝脂肪酸 につ いては,湾 口の海峡部 にあるSt.7,8はC15が少ないが,湾奥部 と湾 央部の試料は,C15が多 いという特徴がみ られる (第 13図)0
モ ノ不飽和脂肪酸の C16:1,C18:1な どと多不飽和脂肪酸の C2。‥4,C20=5,C22=4,C22:5
な どは,海洋 の藻類 に特徴的 に含 まれている。 また,多不飽和脂肪酸の存在は,有機物 を 作 る脂質が海洋の生物か らもた らされ,その有機物 の破壊 と変質があま り進んでいない こ とを示す とされている (Smithet.a1.,1983)。 中城湾の堆積物 に多 くの不飽和脂肪酸が含 ま れていることは,堆積物 中の有機物の破壊や変質があま り進んでいないものと考 え られ る。
沖縄県 中城湾の石灰質堆積物 中の脂質組成 と分布
L山 ⊥ L止 ⊥
branchedfattyaCids ‑ polyunsaturatedfattyacids
‑‑‑ . hOnOunSattJratd fattyacids
Fig.13 Percentagecompositionofunsaturated andbranchedfattyacids
41
5.まとめ
中城湾 を湾奥部,湾央部,海峡部 に区分 した。湾奥部は砂〜泥質砂,湾央部は細粒砂〜
細粒砂質泥,海峡部は中粒〜極粗粒砂である。CaCO 3量は約50%以上であ り海峡部では 99%に達す る。813C値は湾奥部で最 も小さい。
n‑アルカ ン量は少な く厚岸湾な どの泥の1/10程であるoL/H比は湾奥部で小さく,高 等植物起源 の
C
29,C
31な どが多 い と考 え られ る。湾央部〜海峡部では海洋生物 による C15,C17,C19な どに富み,L/H比が大きい。アル コールの炭素数の ピー クは湾奥部がC28,湾央部がC22,海峡部がC16で ある.拷 奥部は高等植物起源 の有機物 に富み,湾央部や海峡部は海洋生物 の有機物 に富む と考 え ら れ る。L/H比は,湾奥部で小さく海峡部で大 きい。
4‑メチルステ ロールのdinosterol量は湾央部 の泥質砂で大 きい。主な4‑デス メチルス テロールは,cholesterol,brassicasterol,stigmasterol,β‑sitosterolであるOステ ロール量は湾 奥部で最大である。β‑sitosterolは湾奥部で多 く高等植物起源 を示す。cholesterolは海域 に
42 近 藤 寛
よる分布 の違 いが明瞭でない。C27,C28,C29ステ ロールの 3成分比による と,海峡部 の 2地点はopenmarine,他の10地点はestuarineorbayに区分 される.
直鎖飽和脂肪酸 の炭 素数 の ピー クは,湾奥部がC28,海峡部がC16である。湾央部 は C22,C24,C16が多い。湾奥部は高等植物起源 の有機物 に富む ことを示 し,海峡部は海洋 生物源の有機物が多い ことを示す。不飽和飽和脂肪酸は海峡部では C16‥1,C18‥1や C2。=。, C2。=5が多 く,他 の海域では C18=1,C16:1が多 い。C15の分枝脂肪酸 は海峡部で少な く, 湾奥部 と湾央部で多い。不飽和脂肪酸が多 く含 まれ る中城湾堆積物は有機物の破壊や変質 が進んでいないと考え られ る。
参考文献
DeLeeuwJ.W.,IreneW.,RijpstraC.,SchenckP・A.andVolkmanJ・K・(1983):Free,esterifiedandresidual boundsterolsinBlackSeaUnitIsediments.Geochim.CosmochimActa47,4551465.
EglintonG.andHamiltonR.J.(1967):Leafepicuticularwaxes.Science,156,1322‑1335.
石渡良志 (1988):東京湾への陸源有機物の流入 と堆積. 沿岸海洋研究 ノー ト,25, 127‑133.
JohnsR.B.,NicholsP.D.andPerryG.J.(1979):FattyacidcompositionoftenmarinealgaefromAustralian waters.Phytochem.,18,799‑802.
近 藤 寛 (2005):厚岸湖 ・厚岸湾堆積物 中の脂質組成 と分布 .長崎大教育紀要 自然,73,9‑20.
・石渡 良志 ・山本修一 (1990):大村湾堆積物 中の脂質成分 の分布.Res.Org.Geochem.7, 21‑26.
(1992):富江湾炭酸塩堆積物 中の脂質成分の特徴.長崎大教育 自然研報,47,
・福 田久美子 (1993):富江湾 の炭酸塩堆積物 に含 まれ る脂質 の組成 と分布.
長崎大教育 自然研報,48,47‑64.
倉橋淑子 ・石渡良志 (2004):東京湾堆積物 中の陸起源有機物 と脂質組成.長崎大教育紀 要 自然,70,9‑24.
RobinsonR.,EglintonG.,BrassellS.C.andCranwellP.A.(1984):Dinoflagellateoriginforsedimentary4(l 一methylsteroidsand5α(H)‑stanols.Natwe,308,439‑442.
SackettM.K.(1989):Stablecarbonisotopestudiesonorganicmatterinthemarineenvironment.InHandbook ofEnvironmentalIsotopeGeochemist77.eds.FritzP.andFontesJ.Ch.139‑169,EIsevier,Am sterdam . 酒井 均 ・松久幸敬 (1996):安定同位体地球化学.ト403,東大 出版会.
SmithD.J.,EglintonG.andMorrisR,J.(1983):ThelipidchemistryofaninterfacialsedimentfromthePeru ContinentalShelf:Fattyacids,alcohols,aliphaticketonesandhydrocarbons.Geochim.Cosmochim.
Acta47,222512232.
氏家 宏 ・興津昌宏 (1979):沖縄本島 ・中城湾の底質解析. 月刊海洋科学, ll,1008‑1018.