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リサーチツール特許問題の多様な解決方法について

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(1)

リサーチツール特許問題の多様な解決方法について

著者 井関 涼子

雑誌名 同志社法學

巻 60

号 7

ページ 893‑926

発行年 2009‑02‑28

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011659

(2)

リサーチツール特許問題の多様な解決方法について八九三同志社法学 六〇巻七号

リサーチツール特許問題の多様な解決方法について

井 関 涼 子

  (三九一一)

    1 2 3                4

 

    

5

 

Brola              使 6 7

(3)

リサーチツール特許問題の多様な解決方法について八九四同志社法学 六〇巻七号

1

.はじめに   研究に用いられる手段や装置、材料等のリサーチツールに対する特許権が研究自体の独占につながり、技術進歩を目

的とする特許法の趣旨に反して技術開発を妨げるのではないかという問題が論じられるようになって久しい。一九九〇年初めに米国国立衛生研究所(NIH)がヒトのDNA配列データに関する特許出願を行ったことが国際的に論争を起

こしたことに象徴されるように

ん特究研に際実が権許る阻す対にルーツチーサを害、、とほもて見に的際国はす決判や例事なうよるリもつれさ摘指つ 、科いおに野分学特命生に論は題問のこててじ題らかく早は体自問ら、しかし。るいれ 1)

ど見られず、問題の存在自体を杞憂であると考える学説もあり、法的議論は最近に至るまで活発ではなかった。ところが、近年のバイオテクノロジーの発展、さらには、産学連携の奨励や国立大学の独立法人化などを受けて、研究現場で

ある大学が特許権と深く関わるようになるにつれて、リサーチツールに対する特許権の権利関係を明確化しなければならないという課題がにわかにクローズアップされている。

  研究活動を妨げてはならないという要請だけであれば、我が国には試験、研究としての特許発明の実施には特許権の効力を及ぼさないとする明文規定(特許法[以下﹁特﹂と略称]六九条一項)が存在するため、この規定の活用により

問題は解決するようにも思われる。しかし、事は単純ではない。リサーチツールに対する特許権が対象としている市場は、研究現場そのものである。したがって、研究に当該リサーチツールを使用することに特許権の効力が及ばないとす

れば、リサーチツールに対して特許権を取得することは、およそ意味を持たないことになりかねず、ひいては、優れたリサーチツールを開発することに対するインセンティブを損なうのではないかという懸念がある。リサーチツールは、

開発者と使用者がそっくり重なっているため、リサーチツールの開発と利用の双方の利害を調整することは、とりわけ

  (三九一二)

(4)

リサーチツール特許問題の多様な解決方法について八九五同志社法学 六〇巻七号 難しいと推測され、解決方法として多様な学説や試みが主張されているところである。その方向性としては、試験・研究としての実施に対して特許権の効力は及ばないとする免責規定の活用、強制実施権付与、特許発明のライセンス取得

を円滑化するためのガイドラインの作成の三つが主に検討されている。既に論じられている議論の詳細については先行する論考に譲り、本稿では、新しい動向も交えた比較検討を行うことに焦点を当てたい。検討に当たっては、この問題

につき早くから多くの議論がなされている米国の状況を参考にする。米国では、この問題を巡る法制度も学説の状況も日本とはかなり異なるため、米国の議論を検討することは、多角的な視点を提供するものと考えられる。

2

.リサーチツール特許問題とは   リサーチツールとは何を指すかということ自体が一つの問題であり、明確な定義があるわけではないが

、一般的には、 2

科学者が実験室内で使うあらゆる資源といわれ、例えば、実験用動物や実験装置、スクリーニング方法等の方法などがある。リサーチツールに対する特許が問題になるのは、リサーチツールの中に汎用性が高く代替性の低い、いわゆる上

流技術があり、また、最終製品ではなく研究に用いるものであるという性質のゆえんである。しかし、特定の研究にし

か使われない汎用性の低いリサーチツールもあれば、同じ技術でも扱われる場面によって最終製品であるか研究手段であるかが変わるものもあるため

。一いし難はとこう扱に律て、しと般一ルーツチーサリ 3)

  リサーチツール特許問題とは、リサーチツールの開発と、リサーチツールを用いた研究の双方を促進するためには、リサーチツールの特許権について何らかの制約を必要とするという議論である。一方で、リサーチツールの特許権によ る研究活動の阻害は現実には確認されていない杞憂にすぎず

張り主ういとるうれさ決解よ、に議協の者用利と者利権 4)

  (三九一三)

(5)

リサーチツール特許問題の多様な解決方法について八九六同志社法学 六〇巻七号

や、大学も特許権を取得している以上、他者の特許権の行使を受ける覚悟は必要であり、自業自得であって特段の対策

を要しないという議論もある。

  しかしながら、このような﹁杞憂論﹂に対しては、問題が顕在化していないのは研究者の無知、無関心が原因であっ て、特許についての認識が高まることで状況が劇的に変化する可能性があるとの指摘があり

すのせたり、実施許諾を得るため取縮引費用が研究に影響を与えたりさ萎もないなくとを、潜在的紛争の可能性が研究 争たとえ紛、が表面化して 5)

るおそれもあると論じられている

困し、ていおに織組た散研分律自ういと学大、各究問段のとこるす握把を手者究研るいてし用使がや疑へとこるす分の 。﹁いの学大、もて論つに﹂限得自業自有教なな配へ務業理管くは資で究研・育を源 6)

難性、教員個人に特許調査や実施許諾獲得の責任を負わせることの不当性が主張されており

研ツに関係なく、新しいリサーチーうルを用いることに消極的となりかどツ際リサーチかールが実に特許化されている 用さらに、、いようとする 7)

究を抑制するとの指摘もある

8)

  そもそも特許権は、技術進歩に資する手段として与えられるものであり、技術進歩は研究を通じて達成されることに

鑑みれば、リサーチツール特許に関し、研究活動の自由が阻害されるという問題は重大であり、研究に対する潜在的な萎縮効果の懸念があるというだけでも、対策の必要性を肯定するに十分であると考える。

3

.解決の方向性   リサーチツール特許問題の解決方法としては、問題の複雑さを反映して、三つの方向性について様々な主張がある。

本章ではこれまで検討されてきた論点を素描し、次章で最近の動きを検討する。

  (三九一四)

(6)

リサーチツール特許問題の多様な解決方法について八九七同志社法学 六〇巻七号 ⑴  試験・研究としての実施に対する例外

①   日本の場合

  我が国では、特許法六九条一項において、試験又は研究のためにする特許発明の実施には特許権の効力が及ばない旨 を明記している。しかし、侵害責任を免れる﹁試験・研究﹂の内容について判断した判例はほとんどなく

解と良・発展のいずれかを目的す、る試験・研究のみであると改査対と許発明そのものを調象して、特許性調査、機能 説通、は、特 9)

しており

議ツのこ、に題問許特ルーチ定ーサリ。るなととこい規をしう審造構業産たし討検かど活かるきでがとこるす用な当該 、うよの用使の許特ルーツチーサリ、ばれよにれな特、手は合場るい用てしと段の許めたの究研の別を明発こ 10

会の二〇〇四年の報告書

﹂のサリもてし対に究研関チ機利営非の等学、大らーツとし究研・験試。﹁るいて論ー結とぶ及が権許特のルかこなし別い 非が営が法許特の国し我、持支を説通のこ利営と効区を囲範ぶ及が力のも権許特で為行の利、 11

を﹁目的﹂により限定する理由は、この規定の趣旨が、試験や研究は技術進歩という特許制度の目的を達成する行為であるから侵害責任を免除するというものであるから、この立法趣旨に合致するためには技術進歩目的がなければならな

いと解するからである。これに対して﹁対象﹂による限定は、まさにリサーチツールの特許権の価値を無にすることのないように課せられている制約であると思われる。研究等が本来の用法である研究手段の発明についてまで、研究に使

用することに特許権が及ばないとしてしまうことは、発明の本来の用法に対する権利行使を否定することになるからである。したがって、リサーチツールの利用者であると同時に特許権者でもある大学等の当事者が、リサーチツールに対

する試験・研究の免責規定の適用に躊躇することは理解できる。

  このように我が国の議論の大勢は、リサーチツール特許問題に試験・研究の免責規定は適用できないと考えているが、 通説による﹁試験・研究﹂の解釈は狭すぎるとして、柔軟な適用を主張する見解

特す、もそもそ。る値に聴傾、りあも 12

  (三九一五)

(7)

リサーチツール特許問題の多様な解決方法について八九八同志社法学 六〇巻七号

許発明自体を対象とした研究と、特許発明を手段とした別の研究とは、必ずしも明確に区別できないことも指摘されて

いる

条特に解九六法許るいきで開展てしとつて釈いるあも張主うと議るあできべす論論 行律法の文条の現し施見の用運の度制権実、定裁るす述後、た直や。法に前の論策政、論立制なうよの等正改度ま 13

14

②   米国の場合

  米国特許法には、日本の特許法六九条に該当するような一般的な試験・研究の免責規定は存在しない。判例法上は、﹁試験的使用の例外﹂と呼ばれる法理が存在するものの、その実体は、個人的使用であって特許権を及ぼすことが不当な場 合を救済する意義を持つにすぎないことは、既に拙稿

る究いとるす護保を研機・験試るなと礎基う能歩らけおに等学大、かをるあでのいなし有の進積累の術技、が理法の的 試のここでいたし述詳てはで験論じない。﹁に的使用の例外﹂お 15

研究に特許発明を用いても試験的使用の例外に該当しないという帰結が導かれることになる

16

  医薬品等につき薬事法上要求される販売承認を申請するために必要な試験については、特別な免責規定である米国特 許法二七一条⒠⑴(

B ola r

条項)がある

、﹁価法されたものでありし薬競て争および特許期間回復法立 のと環一整カ調の規定は、先発医薬品メーー。と後発医薬品メーカーの利害こ 17

のイつ二、りおとす示もルトタの律法。すなを部一の﹂ 18

全く異なる法律がセットになって目的を達成しようとするものであり、第一に、後発医薬品許可手続を広げることにより、市場で低価格の医薬品を入手しやすくすること、及び、第二に、先発医薬品メーカーが医薬品の試験を行い、FD

Aの販売承認を待つ間に失った特許期間を回復させることにより、新薬の開発を奨励すること

bb g n, io at lic pp A ru N D ew N d te A A D re A via

と称する、)薬より簡易な試新験薬ー後発医(メーカ品に、簡略新薬申請は 。的である、すなわちが目 19

や手続により販売承認を得られる制度を導入することにより、市場の拡大を許し、また、この米国特許法二七一条⒠⑴

  (三九一六)

(8)

リサーチツール特許問題の多様な解決方法について八九九同志社法学 六〇巻七号

B ola r

条項)により、販売承認を得るための試験に特許発明を使用することにつき侵害責任を免除する一方で、先発医薬品メーカーには、特許期間回復によって新薬開発を保護する制度であり、日本法であれば薬事法改正と特許法改正を

一つの法律で実現することに相当する性質のものである。このことから、法案段階で﹁抱き合わせ法案﹂とも呼ばれており、先発医薬品メーカーと後発医薬品メーカー、それぞれに利益を与えてバランスを取ることにより、全体として米

国の医薬産業の発展を促進しようとするものである。したがって、この米国特許法二七一条⒠⑴(

B ola r

条項)による侵害責任の免除は、後発医薬品メーカーが特許権の存続期間満了後の実施を目的とする販売承認を得るために行う試験

という特殊な状況を念頭においたものであって、少なくとも立法趣旨からすれば、リサーチツール特許の研究への使用に適用されることは射程の範囲外である。

  このように、米国でも従来、試験的使用の例外の法理や条文は、リサーチツール特許問題の解決に利用できるものではなかった。しかしながら、最近、最高裁判決

M er ck K G aA v . I nt eg ra L ife sc ie nc es I,

20 05

)が、新薬開発のための試 20

験について米国特許法二七一条⒠⑴(

B ola r

条項)により特許侵害責任の免除を認めたため、リサーチツールとしての特許発明の使用についても本条の適用があるかどうかを巡って議論が起きている。この最高裁判決による

B ola r

条項の

拡大解釈の動きについては、後に詳述する。

⑵  強制実施権

①   日本の場合

  我が国の特許法では、特許発明の適切な実施を確保するために、一定の場合に行政庁の裁定により、強制的に第三者

に実施権を認める制度を規定している。これには、特許発明が不実施である場合(特八三条)、利用発明に係る場合(特

  (三九一七)

(9)

リサーチツール特許問題の多様な解決方法について九〇〇同志社法学 六〇巻七号

九二条)、公共の利益のために特に必要である場合(特九三条)がある。これらの規定はいずれも、裁定請求の前提と

して特許権者等の権利者と通常実施権許諾の協議が不調に終わったことを要件としており、工業所有権審議会による専門的意見も参酌しながら(特八五条)、権利者の意見を聴取する等の手続を踏んだ上で(特八四条)、特許庁長官又は経

済産業省大臣により、対価の額等の詳細も含めて実施権の設定がなされることとなる(特八六条)。これにより現実に裁定実施権が設定された事例はないが

捉を結を促す効力有のするものとして締約と、﹁諾許施実、てし契﹂刀宝の家伝 21

えられている。実際の運用は、工業所有権審議会が決定した﹁裁定制度の運用要領﹂(一九七五年決定、一九九七年改正

利用ル特許問題の解決に利でツきる可能性があるのは、ーチのー基づいている。これら裁)定実施権のうち、リサに 22

用発明に係る場合と公共の利益のための場合である。

  利用発明に係る場合(特九二条)とは、自己の特許発明が、他人の特許発明等を実施しなければ実施できない場合に、

この他人の特許権に対し、自己の特許発明を実施するために必要な通常実施権を特許庁長官の裁定により設定するものである。したがって、自己の発明が既に完成し特許権を得ていることが前提となっており、リサーチツール特許問題の

場合は、他人の特許発明を利用して開発研究をなす段階において実施権が必要となる場面が多いという点で、この規定を利用できる場合はあまりないと考えられる。また、一九九四年の日米包括合意により、利用関係の場合の裁定実施権

は、司法又は行政手続を経て反競争的とされた慣行の是正、又は、公的な非商業的目的の利用の許可の場合以外には裁定しないことが約された

。ほし得る場合はとをんどなかろうな定こたるよに定規の裁、上実事、め 23

  公共の利益のためにする場合(特九三条)とは、上記﹁裁定制度の運用要領﹂及び、これに先立ち外資審議会専門委員会が一九六八年に出した報告

で活の建設等国民生に施直接関係する分野設共生公れば、国民の命に・財産の保全、よ 24

特に必要である場合や、実施許諾がなされなければ、当該特許発明の利用が期待される分野に企業の倒産等が生じ大量

  (三九一八)

(10)

リサーチツール特許問題の多様な解決方法について九〇一同志社法学 六〇巻七号 の失業者が発生する等の重大な悪影響がある場合と解されている。特許権者が不実施である場合の裁定(特八三条)が、特許権者側に、正当な理由なく特許発明を適当に実施しないという落ち度がある場合であるのに対し、公共の利益のた

めにする特許法九三条の場合は、特許権者が正当に実施している場合でもなお、特許権者の意思に反して強制的に実施権を設定することになる点で、権利者に対する制約が大きいため、適用は慎重にすべきとされ、非常に限定的な場合に

しか適用されないと解されてきた。

  しかし、このような取扱いは、行政的な運用にすぎない。そこで、リサーチツール特許問題と情報通信分野等におけ

る技術標準化の問題も併せた解決に向けて、特許発明の円滑な利用を促進するという観点から、﹁学術及び研究活動に障害となる発明や広く利用される技術標準に障害となる発明﹂についても、特許法九三条に基づく公共の利益のために

特に必要であるときに該当することを﹁裁定制度の運用要領﹂に明示するよう求める提案

のーーワグ会議審造グルプンにおいて検討されたキ 構業産、れさ出らか界業産が 25

R IP T s

に度制権つ実制強の定協い施てはに的際国、らがなしかし。 26

の規定を巡って先進国と途上国との間に緊張関係があることや、米国、欧州の製薬企業団体から、我が国が裁定制度を活用することに対して異議を述べる意見書が出されたこと

、国内的にも反対論 27

たスっかなれら得がサンセンコ、りあが 28

ことから、﹁裁定制度の運用要領﹂の改訂は見送られた

29

②   米国の場合

  米国では、強制実施権に関する米国特許法上の規定としては、国費を原資として得られた特許権に関して、特許権者が相当期間にわたって特許発明を実用化しない場合や、公衆衛生や公共の安全上の理由から必要とされる場合などに、 連邦政府が実施権許諾を求めうる旨が定められている(

m ar ch in r ig ht ,

米国特許法二〇三条)が、他には存在しない。

  (三九一九)

(11)

リサーチツール特許問題の多様な解決方法について九〇二同志社法学 六〇巻七号

特殊な場合に限り特別法

。のるあでみのるす在存が定規ていつに権施実制強ていおに 30

  歴史的には、一九五二年の特許法改正の際などに、強制実施権制度を導入する法案が検討されたことがあるが

れし権を著しく損なうものとて独、米国特許法では忌み嫌わ占の。者れも廃案となっているまた、強制実施権は特許権 、ずい 31

ていると説く学説も多い

32

  上記の日本の利用発明に係る裁定実施権の箇所で述べた日米包括合意において、米国が裁定実施権の設定を避けよう

としていることや、﹁裁定制度の運用要領﹂の改訂に対して米国製薬企業団体から反対意見が提出されていることも、米国においては強制実施権制度の利用に極めて消極的であることの表れであろう。公益判断は議会の任務であるという

考え方が強いことから、強制実施権を設定できるのは、適用要件を特別法で詳細に定める場合に限ると考えられているのかもしれない。

  しかし、学説においては、一定の場合に強制実施権を認めるべきであるという主張

い、請求は認めなしとして実差質上強制実施権を認める止が等す説学ういとるあできべをるい扱い害賠償請求は認めに らや、に合場るれ損め認が害侵、 33

34

も見られることは、注目に値する。リサーチツールの事例ではないが、最近の最高裁判決

e B ay In c. v. M er cE xc ha ng e,

L .L .C .

20 06

と決とは、このような解策たを裁判所も認めうるここっしか、特許侵害を認定つ)つ差止請求を認めなが 35

を示している。

⑶  ガイドライン   上記のように、試験・研究としての実施に対して特許権の効力を及ぼさないよう制限したり、強制実施権を設定する

などの法的対応とは異なり、研究目的での特許発明の利用を認めるかどうかは基本的に当事者間の問題であるとしつ

  (三九二〇)

(12)

リサーチツール特許問題の多様な解決方法について九〇三同志社法学 六〇巻七号 つ、研究への利用が円滑に行われるための環境を整える目的で、ガイドラインによる政策的介入を用いる動きが、国際的に見ても最近、顕著である

36

  先駆けとなったのは、一九九九年に発表された米国におけるNIH(米国国立衛生研究所)のリサーチツールガイドライン

普た研究資金や契約を受け者Hに対して、研究資源ののIンNる。このガイドライはで、バイオ分野におけるあ 37

及と研究に使用する研究資源の譲渡について示したものである。ガイドラインであるから法的拘束力はないが、NIHの多額の研究資金による影響力がある。内容は、非営利機関に対しては簡単な手続によりリサーチツールの使用を認め

ること、営利機関に対しても、内部的使用については最小限の制約の下に使用を認めること、原則として排他的ライセンスを避けること、リーチスルーロイヤリティなどの条件を付さないことなどが掲げられている。

  二〇〇六年には、OECDの遺伝子関連発明のライセンスに関するガイドライン

。資、NIHのものと異なり、政府金あ受領者に限定されず適用されるりで連を遺伝子関発明対象としたもの れ。たはさ表のこ、ガイドラインが発 38

  我が国では、NIHのガイドラインと同じく、政府資金の受領者に対するガイドラインとして、総合科学技術会議が二〇〇六年に﹁大学等における政府資金を原資とする研究開発から生じた知的財産権についての研究ライセンスに関す

る指針

すと資金を受領しているこに政よる国の影響力を活用府。ラた下、国資原資ガイドイ﹂(ンという)を発表し以 39

る趣旨である。したがって、対象者は政府資金の受領者であるが、NIHのガイドラインが、NIH資金と民間資金の双方を受けた研究にも対象を広げ、また、NIH資金受領者であれば、民間企業も含まれるのに対して、日本の国資原

資ガイドラインが対象とする特許権者は、政府資金の受領者のうち大学等に限定され民間企業は除外されており、NIHのものよりかなり狭くなっている。ガイドラインの当初の素案では、民間企業にまで及ぼそうとしていたが、民間企

業の研究活動に対するインセンティブを損なう、あるいは政府資金を受けるインセンティブが低下するとして、経済界

  (三九二一)

(13)

リサーチツール特許問題の多様な解決方法について九〇四同志社法学 六〇巻七号

から強い反対意見が出たためまとまらなかったという事情がある

スるンセイラ、に様同とのれら限に権許特の等学大。 40

を受ける側も大学等に限定されたので、大学間のライセンスの円滑化という性格のものとなった。紛争が生じるのは、大学間というより民間の企業や資金が絡む場合であろうことを考えると、この国資原資ガイドラインが実際的効果を有

する場面は多くないかもしれない。しかし、もともと法的拘束力を有しないガイドラインであるから、現実にこれに基づいた契約を締結すること自体を目的とするというより、ガイドラインの内容を研究コミュニティに周知させ、これが

慣行や規範であるという認識を醸成することもまた、重要な役割であろう。その意味において、研究ライセンスの一つの具体的モデルとして、国資原資ガイドラインは重要な意味を持つと言えよう。また、NIHのガイドラインがバイオ

分野の技術に限定されていたのに対し、国資原資ガイドラインはあらゆる技術分野を対象としている点で広く、一般的ルールであるという有用性を持つ点でも特筆されよう。

  国資原資ガイドラインの内容は、﹁研究ライセンス﹂と呼ばれる、非営利目的の研究のための知的財産権の非排他的実施許諾を活用するというものである。使用について対価を請求することはできるが、特許発明の使用を差し止めない

ことを眼目として、非営利の研究が妨げられないことを目的とする。民間企業が排他的ライセンスを必要とする場合に、これを供与することは許されるが、その場合においても、可能な範囲で、他の大学等に対し研究ライセンスを供与する

権利は特許権者が留保しておくことが望ましいとしており

。両、排他的ライセンスも立させる方策を採っているも らが排な営利の研究活動を非他、的実施権により保障し非 41

  リサーチツール特許の研究における利用は、バイオ分野で特に問題となることから、バイオ分野に適合したガイドラインが必要とされ、総合科学技術会議では、二〇〇七年三月に、﹁ライフサイエンス分野におけるリサーチツール特許

の使用の円滑化に関する指針﹂が出された。これについては章を改めて述べる。

  (三九二二)

(14)

リサーチツール特許問題の多様な解決方法について九〇五同志社法学 六〇巻七号 ⑷  その他   リサーチツール特許問題に対処しうる他の方策としては、リサーチツールがあまりにも上流の研究技術であって、基本発明に当たる場合、そもそも、発明すなわち具体的な技術にまで至っていないとして特許を認めないというやり方が

ある。たとえば、遺伝子配列に関する発明の場合、﹁疾病に関連する遺伝子を探索するために用いられる発明﹂というだけでは、未だ具体的な用途が明確ではないため、発明ではないと解する等である。このように、特許付与の段階で、

あまりに汎用性の高いリサーチツールに特許を認めないことで、効力範囲の広すぎる特許権の成立を阻止でき、有効な場合があると考えられる。しかし、そのような技術の開発者に特許による保護を全否定してしまうことで、発明のイン

センティブを著しく損なう危険性があろう。

  あるいは、リサーチツール特許権の成立も、その使用行為の侵害該当性も認めつつ、権利行使の段階で、差止請求を

認めず、損害賠償にとどめるという方策もある。米国においては、最近の最高裁判決

e B ay I nc . v. M er cE xc ha ng e,

L .L .C .

20 06

、のとは既に述べた。こ方た策は、米国においてはこっしか、特許侵害を認定つ)つ差止請求を認めなが 42

一種の強制実施権を認めたのと実質的には同じであると解されているが、行政庁等の裁定行為とは関係ないため、我が国では、裁定実施権制度とは異なるものと解しており、未だ十分検討されていない方策であると思われる。

4

.日本における最近の動向   現在の日本では、上記の三つの方向性の中で、ガイドラインについては二〇〇七年三月に新たなガイドラインが出さ

れ、これの普及が目下の課題とされている。強制実施権については、現行の裁定制度の活用は難しいと考えられる一方

  (三九二三)

(15)

リサーチツール特許問題の多様な解決方法について九〇六同志社法学 六〇巻七号

で、新たな裁定制度を立法する提案がある。試験・研究としての実施に特許権の効力を及ぼさないとする特許法六九条

の活用については、現在の通説的解釈より広い範囲で認めるという学説も存在するが、これに拠るのは困難とする考え方の方が多いように思われる。

⑴  総合科学技術会議のライフサイエンス分野リサーチツールガイドライン   上で述べたように、技術分野を特定しない、政府資金を受領した研究に関しては既に国資原資ガイドラインが策定されたが、ライフサイエンス分野ではその技術分野の特性から特に、汎用性が高く代替性の少ないリサーチツール特許が

成立することが多く、創薬分野の研究にとって、リサーチツール特許発明を円滑に利用する必要性が高い。一方で、リサーチツールの研究開発のインセンティブのためにその特許権の実効性を確保する要請もあり、これらにつきいかに調

和の取れた解決を図るかが大きな問題である。そこで、上記二〇〇六年の﹁遺伝子関連発明のライセンス供与に関するOECDガイドライン﹂が、研究目的等のための遺伝子関連発明の広範なライセンス供与の考え方を示したこと、及び、

NIHが、ガイドラインを示すとともにリサーチツールの情報を公開して利用促進を目指していることを参照し、我が国でも民間企業も含めてリサーチツールを研究に円滑に使用するという共通理解を形成し、リサーチツール特許の情報

公開を促すことを目指して、二〇〇七年三月に総合科学技術会議が﹁ライフサイエンス分野におけるリサーチツール特許の使用の円滑化に関する指針﹂を打ち出した。

  このガイドラインの特徴は、第一に、民間企業をも対象としている点であり、国資原資ガイドラインも目指しながら合意に至らなかったところであるから、大きな前進といえよう。これに伴い、リサーチツール特許に基づき事業を企図

する民間企業のインセンティブを損なわないための配慮も随所に見られる。たとえば、商品化され市場において一般に

  (三九二四)

(16)

リサーチツール特許問題の多様な解決方法について九〇七同志社法学 六〇巻七号 提供されているリサーチツールについては、適用を除外している。このような場合は、市販されているリサーチツールを利用することにより研究が妨げられることはないため、妥当な配慮であると思われる。ガイドラインの基本的な考え

方は、非排他的なライセンスの供与である点で国資原資ガイドラインと同様であるが、﹁研究段階﹂における使用許諾の場合を対象とし、﹁研究段階﹂とは、基礎研究や事業化段階に入る前の研究を指し、医薬品の場合は治験に入る前の

研究であることを明記している(本ガイドライン(注

。にことで、民間企業の事業配す慮したものと考えられるる

8

))化。ここにおいても、事業段外階に入った後の研究を対象と   また、非排他的ライセンスの供与について、事業戦略上の支障がある場合は除外されており、このような支障がある場合の例として、①リサーチツール自体を商品として一般に販売する事業計画がある場合、②リサーチツール特許を使

用した研究開発を進める間、独占的に使用しなければ他者の参入により商品の事業化が困難になる場合、③大学等が共同研究や大学発ベンチャー等を通じて事業化を行う場合、が挙げられている(本ガイドライン(注

9

))。①については、

リサーチツール自体が商品化されている場合は上述の通りガイドラインの対象外であることと趣旨を同じくし、リサーチツール自体の開発研究のインセンティブ保持のために妥当な制限であると思われる。しかし、②については、リサー

チツール自体の研究ではなく、これを利用した研究を独占するための事情であるから、事業化しようとしている商品が

具体的に定まっている場合であればともかく、抽象的に商品の事業化に支障があるというだけでライセンス供与を拒否できるのであれば、本ガイドラインの存在意義は著しく損なわれかねない。③についても同様に、計画している事業が

明確に具体化され、他者にリサーチツール特許のライセンスを供与した場合に支障があることも具体的に明確である場合に限るべきであろう。このように、②③の場合をどのように運用するかによって、ガイドラインの効果に影響がある

ことに留意すべきであると考える。

  (三九二五)

(17)

リサーチツール特許問題の多様な解決方法について九〇八同志社法学 六〇巻七号

  リサーチツール特許に対する非排他的ライセンスについては、対価は合理的なものにするよう求められ、大学等間で

は無償とすることを推奨している点で、国資原資ガイドラインが明確にしていなかったところを一歩踏み込んだものとなっている。また、対価以外のライセンス条件を許容しており、その場合、学術論文発表の自由を不当に制限しないよ

う留意することが明記されている。しかし、OECDガイドラインが禁止しているリーチスルーロイヤリティ等、リサーチツールを利用して得られた成果の扱いについては、独占的グラントバックの義務など独禁法上問題となる条件を付

さないことという記述に止まり、独禁法による解決に委ねた形になっている。

  本ガイドラインは、非排他的ライセンスの供与を中心とした理念を示すに止まらず、これを実現するための手続や環

境の形成について具体的な指針を示している点も特徴である。すなわち、ライセンスを行うための簡易迅速な手続のため、ひな形となる簡便な書式の作成と公表を大学等に求め、リサーチツール特許とそのライセンス条件等の情報の公開

と活用のために、関係府省には統合データベースの構築を促し、大学等、民間企業にはこれらの情報を統合データベースに提供することを求めている。特に政府資金を原資とする研究から生じたリサーチツールについては、情報提供を原

則とする旨が謳われ、政府資金による影響力を利用して一段強い要請がなされている。また、本ガイドラインの普及のため、大学等、民間企業にライセンスポリシーの整備と公表を求め、政府資金を原資とする研究の公募要領に本ガイド

ラインの遵守を盛り込む、関係府省に対してライセンス対価についての参考事例集の作成と公表を促す等の措置を求めている。ガイドラインは、法的拘束力を持たないため、効力を発揮するためには、リサーチツールの開発、利用に関わ

る研究コミュニティにおいて、ガイドラインが広く普及し、慣行、規範にまで高められることが必要である。本ガイドラインのこのような方向性は、そのための環境作りに向けた着実な措置として評価できるものである。

  最近の動きとして、二〇〇七年一〇月に出された政府の知的財産戦略本部・知的財産による競争力強化専門調査会の

  (三九二六)

(18)

リサーチツール特許問題の多様な解決方法について九〇九同志社法学 六〇巻七号 報告書である﹁知財フロンティアの開拓に向けて﹂(分野別知的財産戦略)のライフサイエンス分野プロジェクトチームの調査検討報告書では、本ガイドラインに従い、リサーチツールデータベースを早急に構築すること、そのために総

合科学技術会議の主導の下で担当省庁の明確化等を行うこと、ガイドラインの普及に向けた具体的取組を実行することや、ライセンス料の相場観形成に向けた取組が要請されている。

⑵  新たな裁定制度の提案   前述のように裁定制度の活用については、特許法九三条に基づく公共の利益のための裁定実施権制度の適用を拡大するために﹁裁定制度の運用要領﹂の改訂を求める提案が、産業構造審議会のワーキンググループにより検討されながら 見送られたことから、現行の裁定制度をリサーチツール特許問題の解決のため利用することは難しいという見解が多いように思われる。一方で、学説上、現行の制度とは異なる新たな裁定制度を提案する見解も見られる

。試験・研究の例 43

外規定は一般的規定として権利制限の度合いが高いという問題があり、他方、ガイドラインは強制力に欠けるのに対し、裁定実施権制度は、権利者が対価を得ることが認められ、細かな条件設定も可能であるため、権利制限の程度を適宜調

節できるという利点があるからである。研究のための新たな裁定実施権制度創設の例として、裁定実施権設定を求めう

る時期的要件を設けて、特許権者の独占期間を保障することや、実施権設定の態様を、設定を受けた本人のみの使用に限ること、特許発明に係る物や方法使用のためのキット等が販売されている場合には裁定実施権を付与できないとする

ことなど、特許権者等の利益にも配慮することが提案されており、興味深い。また、裁定実施権設定のための現行の手続についても見直し、特許権者の防御の機会の保障や、通常実施権の設定範囲や対価以外にも条件を付したり、対価の

決定方法も柔軟になし得るよう改善すべきであるとされる。現行の裁定制度を利用することが困難であるからといって

  (三九二七)

(19)

リサーチツール特許問題の多様な解決方法について九一〇同志社法学 六〇巻七号

裁定制度の活用を断念するのではなく、難点を改めることによって利用できる制度に作り直すという発想は極めて重要

であると考える。

T R IP s

協定の強制実施権の規定を巡って、先進国と発展途上国との間に対立があることや、過去に日本が強制実施権設定の理由を限定すべきであると主張した経緯から、日本が裁定制度の活用を主張することは、国際社 会における立場と矛盾するという懸念があるが

しなわら捕に造構立対的な定固のと国上途展れいと調なを献貢たけ向に協こ際国てっ却、でと発国先、え加にとこる進 特たリは面局問っなと題ーに去サ許チツール、問題とは別の状況であ過 44

得る可能性も考えられるのではなかろうか。

  また、そもそも裁定制度は伝家の宝刀として、当事者間のライセンス交渉を促進する後ろ盾としての意義を有するも のであることに鑑みれば、現実に裁定実施権が設定されることより、制度の存在自体による効果が生じることも考慮に入れるべきであろう

45

5

.米国における最近の動向

⑴  最高裁による米国特許法二七一条⒠⑴(

B ola r

条項)の拡大解釈   米国では、上述の通り、日本特許法六九条一項のような試験・研究一般について特許権の効力の及ばない範囲とする規定は存在しないが、

B ola r

条項と呼ばれる、FDAの承認を得るための申請手続に合理的に関連する試験に特許発明 を使用することは、特許侵害とならないという免責条項がある(米国特許法二七一条⒠⑴)。最高裁判決

M er ck K G aA v. In te gr a L ife sc ie nc es ,

20 05

r B ola r B ola

、すなわち、項条たの立法趣旨は。拡しが)は、この条項適大用される場面を 46

先発医薬品メーカーと後発医薬品メーカーの利害調整の一環として、先発メーカーに特許権の存続期間の延長を認める

  (三九二八)

(20)

リサーチツール特許問題の多様な解決方法について九一一同志社法学 六〇巻七号 代わりに、後発メーカーに対して存続期間中のFDA承認申請のための試験を認めるというものであったから、

B ola r

条項は本来後発医薬品の販売承認申請のための試験への適用を念頭に置いていたのであるが、本件最高裁判決は、新薬

開発のための試験にも区別なく及ぶと判示したのである。

  本件判決の概要は次の通りである。被告(

M er ck

)は研究機関にRGDペプチド化合物を供給し、この研究機関はこ

れを、新薬候補化合物の適性を評価するための前臨床試験に使用した。具体的には、癌や糖尿病性網膜症、リウマチ性関節炎などにおいて重要な役割を果たしている血管形成の研究であり、被告から提供されたRGDペプチドを新薬の候

補として用いたところ、血管形成を阻害できることを発見した。被告とこの研究機関との研究援助契約における研究計画書において、三年間の研究により、最後にはFDAへの新薬申請に至ると記載されていた。

  原告は、このRGDペプチド化合物が原告特許権を侵害するとして訴訟を提起した。CAFCは、被告の研究は、米国特許法二七一条⒠⑴に規定するFDAに所定の情報を提出するための試験ではなく、新薬を開発するための一般的な

バイオ医学研究に過ぎないから、同条の保護は適用されないと判示した。最高裁はこの原審判決を破棄し、原審は、陪審の判断に対する被告の抗弁を否定する際に誤った判断基準を用いた過誤があると判示した。すなわち、特許発明であ

る化合物を、前臨床試験に用いる行為は、その化合物がFDAに提出する対象になる可能性があり、その試験により、

FDCA法(

21 U SC § 35 5

)に基づく薬品の申請に関係のある情報が得られる場合である限り、米国特許法二七一条⒠⑴により保護されると判示し、原審に差し戻した。

  最高裁の判示によれば、米国特許法二七一条⒠⑴の条文は、特許発明である薬品を、FDCA法に基づくあらゆる情報の開発および提出に合理的に関連する利用を含む連邦法の規制に関する行為に使用することを、広く許容しているこ とは明らかである(

E li L illy v . M ed tr on ic 49 6 U S 66 1 , 66 5

66 9

19 90

))。これは、人体に対する薬品の安全性や、医薬

  (三九二九)

(21)

リサーチツール特許問題の多様な解決方法について九一二同志社法学 六〇巻七号

品の有効性やそのメカニズムに関する前臨床試験研究をも必然的に含むものである。さらに、米国特許法二七一条⒠⑴

は、その特許化合物それ自体はFDAに提出する対象にはならない場合であっても、侵害責任を免除するものである。﹁合理的に関連する﹂という本条の要件は、ジェネリック薬のFDA承認につながる行為にのみ限定して解釈されるも

のではなく、あらゆる薬品の承認につながる行為の保護を認めるものである。同様に、それ自体はFDAに提出する情報に含まれない特許化合物であっても、そのことだけで侵害にはならない、と判示した。

  リサーチツールの問題に関して最高裁は、﹁原告は被告の使用がリサーチツールとしての使用であると主張していないし、それは訴訟記録からも明らかであり、米国特許法二七一条⒠⑴がリサーチツールの使用を免責するかどうか、ど こまで免責するかについて見解を述べる必要もないし、述べない

ル補あで体自れそ候たの薬新の究研側っか被もーツチーサリ、裁ら高最も者事当、告、るペであRGはDプチド化合物 本。るいのてし示判事件特案では、原告。﹂許発明と 47

として用いられた事案ではないと解したのであろう。しかし、原審である

In te gr a L ife sc ie nc es I v. M er ck K G aA ,

20 03

)CAFC判決

N ew m an

さ究には特許情報の研可は不発欠であり、特許展技の対における判事は反意術見において、科学 48

れた機器や化合物の作成、改良、調査には特許権者の許諾を要しないと述べていたことから、リサーチツールとしての特許発明の使用との関係をどのように判断すべきかが注目されていた。最高裁がリサーチツールについては判断しない

と断ってはいても、﹁FDCA法に基づくあらゆる情報の開発および提出に合理的に関連する利用を含む連邦法の規制に関する行為に使用することを、広く許容している﹂という判示事項からすれば、リサーチツールとしての特許発明の

使用であっても、FDAに提出するための情報を得る目的である限りは、本条に該当し侵害責任を免除されることになるのが、論理的帰結であると解する説も多い

49

  (三九三〇)

(22)

リサーチツール特許問題の多様な解決方法について九一三同志社法学 六〇巻七号 ⑵  最高裁判決後の下級審判決   本件最高裁判決の後、その差戻審のCAFC判決が出る以前の下級審判決

いつ国米、もていに許為行たし用使特法しす次相がのもる用二適を⑴⒠条一七てとー段ーチツル特許について研究手 裁高最、件本、決判リを引用しつつでサは 50

だ。

C la ss en Im m un ot he ra pie s v. B io ge n Id ec ,

20 05

)メリーランド地区連邦地方裁判所判決

組ス定することによりワクチン投与ケはジュールの安全性を評価する仕特又与ーチン投較ケジュスル伴う副作用を比に 、、原告はク様々なワでは 51

みについての特許権を有していたところ、ワクチンの製造販売等を行う被告が、販売承認後のワクチンの副作用についてFDAに提出しなければならない情報を得るために原告の特許発明を使用したことが、特許侵害であるとして訴えら

れた。この事件では、FDAの販売承認を得るために情報をFDAに提出する場合ではなく、既に販売承認済みの製品に関する試験が問題となっており、また、特許発明を対象とした試験でもなく、これを特許発明の用途そのものである

副作用の調査に用いた点で、まさにリサーチツールとして使用したケースであった。判決は、

M er ck v . In te gr a

最高裁判決を引用し、米国特許法二七一条⒠⑴は、FDCA法に基づくいかなる情報であっても、その作成、提出に合理的に 関連する、特許発明のあらゆる使用に及ぶと判示して、本件における行為にも米国特許法二七一条⒠⑴による免責を適用した

52

 

C la ss en Im m un ot he ra pie s v. K in g,

20 06

)メリーランド地区連邦地方裁判所判決

し管方のめたの理び、及出創のター法シ品い有を権許特てつスに﹂物、ムテデ製創ス的及び管理シ出テ﹂及び﹁独占ム 占、原告は﹁独デ的製品ータのでは 53

ていた。これは、既存の薬品の新規な用法を特定する方法の発明である。被告は、被告が製造している筋弛緩剤

Sk ela xin

の生物学的利用能に対する食品の影響を研究し、これにより得られたデータによりこの医薬の新たな用法を開

発、市場化したが、その際に原告の特許発明を使用したとして原告は侵害訴訟を提起した。被告はこの研究により、食

  (三九三一)

(23)

リサーチツール特許問題の多様な解決方法について九一四同志社法学 六〇巻七号

品が

Sk ela xin

の生物学的利用能に対して顕著な影響を与えることを見いだし、これに基づきFDAに対して請願(

C iti ze n P et iti on

)を行い、

Sk ela xin

の後発医薬品の販売承認を得ようとする者の簡略新薬申請(ANDA)において、摂食及び断食の試験データを要求すべきであることを求めた。また、被告はこの研究成果を含めた

Sk ela xin

についての新薬申

請手続において、医薬品表示の補足をFDAに提出した。

  この事件における特許発明の使用も、特許発明を対象とした試験ではなく、これをリサーチツールとして使用したケ ースであった。また、FDAへの申請も、米国特許法二七一条⒠⑴を立法する際に念頭に置いていた販売承認申請ではなく、請願(

C iti ze n P et iti on

)と医薬品表示の補足を目的とする申請であった。しかし判決は、特許発明の使用により

得られた結果をFDAに提出しているのだから、FDCA法による情報提出に合理的に関連する使用であって、米国特許法二七一条⒠⑴の要件を満たすと判示した。この判決は、﹁

M er ck v . I nt eg ra

最高裁判決は、リサーチツールの使用が 米国特許法二七一条⒠⑴により保護されるか否かについて判示することを明示的に拒否している。

C la ss en

(原告)の(特許)方法は、リサーチツールであると考え得るが、当裁判所は、

M er ck

判決の文言及び条文の忠実な解釈により保

護されることが保証されているこれらのツールの使用に、この免責条項を及ぼすことを認める

。﹂と判示しており、 54

M er ck v . In te gr a

最高裁判決及び条文からすれば、リサーチツールとしての使用が米国特許法二七一条⒠⑴により侵害

責任を免除されることを明言した判決として、地裁判決とはいえ注目される。

  このような中で、二〇〇七年七月二七日に、

M er ck v . In te gr a

最高裁判決の差戻審CAFC判決

が出された。上で述 55

べたように、本件最高裁判決は、FDAに対して情報を提出するために合理的に関連した使用であればすべて米国特許法二七一条⒠⑴による免責を受けられるかのように、無限定と見える程広く免責を認めたとも解されるのであるが、C

AFC判決は、最高裁判決の中に免責規定適用の限界を読み取っている。CAFCは、最高裁が﹁米国特許法二七一条

  (三九三二)

(24)

リサーチツール特許問題の多様な解決方法について九一五同志社法学 六〇巻七号 ⒠⑴は、適切に解釈すると、(FDAによる)規制の承認を得るための道程における経験や失敗を許容するために十分な余地を残している。すなわち、少なくとも、製薬業者が、特許化合物が特定の生物学的プロセスを経て特定の生理学

的効果を生じるために有効であると信じる合理的な根拠を有し、研究が成功したならFDAに提出するものに含まれることが適切であるような研究に、その特許化合物を使用する場合は、その使用は米国特許法二七一条⒠⑴にいう﹃連邦

法による情報の開発及び提出﹄に﹃合理的に関連する﹄ものである

功効れさ識認が果的後学理生やムズニたにメて成が究研のそ、っ行あで究研るれわカ的、学とは候補となる薬物の生物 を分部的たし示判最、﹁な高裁は、﹃合理。﹂関連﹄と 56

したならFDAへの提出に適切に含まれる研究への使用を含むと説明している。﹂と解釈した

にた学研究には及ばないと判示しと的も述べている。このような解釈科礎、薬の免責が基定の医特品開発に無関係のの 高た、最条裁は、本。ま 57

基づき、CAFCにおける争点は、被告の研究が、RGDペプチドが細胞表面の受容体を阻害するという﹁特定の生物学的プロセス﹂と、血管形成阻害の﹁特定の生理学的効果﹂を認識した後で行われたかどうかであった。この観点から

被告の研究を検討した結果、問題となった被告の研究の全てが、RGDペプチドが実験動物において腫瘍を縮小することを発見した後になされていたことが立証されたため、判決は、本件研究は、被告により供給され試験に用いられたR

GDペプチドの血管形成阻害効果の発見の後になされたものであるから、米国特許法二七一条⒠⑴適用要件を満たすと

結論した。このようにCAFCは、本条適用について、﹁候補となる医薬について、(研究の)発端となる生物学的性質と生理学的効果が既に認識されていたかどうか﹂という基準を立てた

科う、はとこるす釈解によのこを条本、てしそ。 58

学的プロセスの特性と、新薬開発を奨励するという立法目的に、共に合致するものであるとしている

59

  リサーチツールの問題について差戻審CAFC判決は、最高裁判決では全ての当事者が本件におけるRGDペプチド

はリサーチツールとして使用されたのではないことを一致して認めたと判示していること、差戻審においても両当事者

  (三九三三)

(25)

リサーチツール特許問題の多様な解決方法について九一六同志社法学 六〇巻七号

がリサーチツールは争点ではないことを強調していることを述べ、最高裁判決の原審としてのCAFC判決における反

対意見(

N ew m an

判事)の立場とは異なり、最高裁の判示も、これを適用した差戻審CAFCの判決も、リサーチツール問題に大きな陰を投げかけたり、リサーチツール発明に何ら甚大な被害をもたらしたりするものではないと述べてい

60

  しかし、リサーチツールに関しては、

R ad er

判事の反対意見がある。

R ad er

判事によれば、最高裁判決は本条の免責

規定を、究極的にはFDAに提出する情報を開発する行為に適用するものであって、﹁特許化合物﹂の範囲を超えて特許方法や特許ツールにまで及ぼすものではない。この免責規定の主目的は、FDA承認のための後発医薬品メーカーの

医薬品研究を許容するところにあり、下院の委員会の報告書によれば、後発医薬品メーカーが後発品の生物学的同等性を確立できるための、限られた量のテストとしての市場化前の行為のみを扱うものであった。下院委員会は、このよう

な試験は特許権者の権利を損なう性質が実質的にはないか、﹁些事﹂であるとしている。

R ad er

判事は、本件最高裁判決はこのような機能に合理的に関連する行為に本条の免責規定を及ぼすものであると述べている。本件で訴えられた四 件の特許のうち、二件は研究室以外では利用できないリサーチツールであり、FDAへの提出手続には関わりのない研究方法である

特ーないのであり、リサチでツールとしてこれらのは﹂承物れらは、FDAの認。のための﹁特許化合こ 61

許は保護されるべきである。仮にリサーチツールに特許保護が得られないとすれば、大学教授や小企業がリサーチツールを研究しこれに投資するインセンティブは損なわれてしまう。一定の侵害責任を免除しつつリサーチツール発明を適

切に保護するための方策として、リサーチツール自体の改良のための研究は許容しながら、リサーチツールの用法のために使用された場合はリサーチツール発明を保護するという外国裁判所の判決が参考となる。

R ad er

判事は結論として、

本件における二件のリサーチツール特許を保護するため、部分的損害賠償につき判断するべく事件を地裁に差し戻すべ

  (三九三四)

(26)

リサーチツール特許問題の多様な解決方法について九一七同志社法学 六〇巻七号 きであると述べている。

  最高裁判決は本条の免責規定を広く認めたという解釈が主流である中で、CAFCの反対意見の中に、このように本

条の立法趣旨に遡って狭く解する見解があることは興味深い。しかし、最高裁は本条が後発医薬品メーカーの試験のためのものであるという主張を明確に否定しており、このような立法趣旨にとらわれていないこと、さらに、特許化合物

に限定し特許方法等を排除する旨も述べていないから、

R ad er

判事の反対意見の中で、そのような限定的解釈を述べた箇所は説得的ではないと思われる。

  CAFC差戻審判決以後のCAFC判決として、

A m ge n v. IT C

20 08

しに関国米りた当害法侵の権許特告原税三がし申にCTIてと三るす反違に条七、為ロ行リスポイエチン等を輸入した

R oc he

はが告原、は訴、組訟参加人社)換エで 62

立てたところ、ITCは本件輸入は米国特許法二七一条⒠⑴に該当し非侵害であるため米国関税法三三七条違反にも当たらないとしたため、このITCの決定について上訴したものである。この事件で原告は、米国特許法二七一条⒠⑴に

よる免責は物の特許のみに及び、方法特許には及ばないと主張したが、CAFCはこれを退けた。しかし、一連の試験行為をすべて一体として判断するのではなく、FDAの承認を得た後の行為は、もはやFDAに提出するために合理的

に関連するものではなく、その部分については免責規定の適用はないとされた。

⑶  判決の検討   以上で検討したように、米国における特許法二七一条⒠⑴による試験的使用の例外は、本来後発医薬品メーカーがFDAによる販売承認を申請するための試験について侵害責任を免除するという特殊な場合に適用されることを意図した ものであったが、

M er ck v . In te gr a

最高裁判決が立法趣旨にとらわれず条文の文言に忠実な解釈を採った結果、FDA

  (三九三五)

参照

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