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(1)

ジェラルド・シュピンドラー ドイツにおけるコー ポレート・ガバナンス : 「企業の健全性および総 会決議取消に関する法規制の現代化に関する法律 (UMAG)」による変更

著者 久保 寛展, 早川 勝

雑誌名 同志社法學

巻 58

号 1

ページ 293‑334

発行年 2006‑05‑31

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000010941

(2)

ドイツにおけるコーポレート・ガバナンス 同志社法学五八巻一号 二九三︵二九三︶

ジェラルド・シュピンドラー ドイツにおけるコーポレート・ガバナンス

﹁企業の健全性および総会決議取消に関する法規制の現代化に関する法律︵UMAG︶﹂による変更

久  保  寛  展︵訳︶ 早  川    勝

.序文

.責任に関する法規制の効率化

1.株主訴訟および特別検査

  

a) 株主総会決議による請求権の行使

  

b) 株主訴訟︵株式法一四八条︶

    ⑴ 訴訟許可手続

     ⒜ 最低行使要件

     ⒝ 義務違反を知る前の取得

    ⒞ 会社のための期間の設定     ⒟ 不正または重大な義務違反に対する疑義

    ⒠ 会社の福利に相反しないこと

    ⒡ 手続法上の諸問題

    ⒢ 会社に対する訴訟の催告

    ⑵ その他の手続

     ⒜ 会社による訴訟の承継および複数の訴訟

     ⒝ 費用負担の規制

     ⒞ 株主との合意︵株式法一四九条︶

  

c)特別検査

翻   

(3)

ドイツにおけるコーポレート・ガバナンス 同志社法学五八巻一号 二九四︵二九四︶

2.経営判断の原則の導入

3.小括

.株主総会に関する規律

1.情報請求権および発言権

  

a)質問権および発言権の制限

  

b)株主総会の開催前の情報提供頻繁に行われる質問

2.基準日および株主の資格の証明

Aktionärsforum3.株主広場︵ 総会決議取消の可能性の制限

1.提供されなかった情報に基づく取消

Spruchverfahren2.決定手続︵︶の援用

3.恐喝的な総会決議取消訴訟および総会決議無効訴訟

訴訟手続停止の解除︵Freigabeverfahren

Ⅵ.

︿資料﹀改正株式法一四八条および一四九条の試訳

Ⅰ .序文

﹁ 企 業 の 健 全 性 お よ び 総 会 決 議 取 消 に 関 す る 法 規 制 の 現 代 化 に 関 す る 法 律

Gesetz zur Unternehmensintegrität und

Modernisierung des Anfechtungsrechts︶︵以下UMAGという︶﹂は︑一九六五年株式法以後における最も重要な株式法の改正で

あるといえる︒UMAGは︑一方では︑株主訴訟を導入するこ

とによって︑機関構成員の責任の追及を効率化するものであり︑他方では︑決議取消訴訟の要件を強化するものである︒本

稿では︑訴訟が許可されることによって︑同時に発生する多く

の問題を詳細に検討したい︒

  株式法の改正はとどまることを知らない

︒続発する企業スキ 1

ャンダルの結果として︑コーポレート・ガバナンス政府委員会

の広範な報告書

ならびに第六三回ドイツ法曹大会の決議 2

―き集中的になされた議論を経た後︑立法者は︑一九六五年株 に基づ 3 ―式法以来の最も重要である改正の礎石として︑UMAGを成

立させた

―︒本法は︑それに先立ち集中的に議論された 4

に蓄積された改革をかなり含んだものである︒その改革は︑こ ―すで 5

れまでのドイツの株式法体系の中核部分︑あるいは不十分な部

分に対する批判を整備するものである︒新法の焦点は︑一方では︑会社の名における株主訴訟を簡易化して機関構成員の責任

体系を改善することにある︒これは︑濫用的訴訟や訴訟の取下

げに係る取決めを防止するための手続上の規制によって補足されている︒さらに︑明らかに理由のない訴訟が提起された場合

における総会決議の登記に関する改正︑ならびに総会決議にお

ける質問権および発言権の濫用を不可能にするための株主総会に関する改正では︑重要な改革がなされている︒最後に︑立法

者は︑たとえば株主に対する株主総会の招集通知︵株式法一二

五条二項︶を簡易化するために︑新たなメディアもしくはインターネットを多用している

6

(4)

ドイツにおけるコーポレート・ガバナンス 同志社法学五八巻一号 二九五︵二九五︶

Ⅱ .責任に関する法規制の効率化

  UMAGは︑一方では︑会社に対する機関構成員の責任に基づく請求権を︑株主の側から行使するための最低行使要件を実

質的に引き下げているが︑他方では︑﹁アメ﹂として︑機関関

係上の義務に係る法規整を変更し︑また濫用的訴訟に対する防止策を設けるよう準備している

7

1.株主訴訟および特別検査   ドイツ株式法にとって特徴的なことは︑長い間︑―すでに周 知のことであるが―取締役または監査役の責任について︑本当

にわずかな裁判例しかなかったことである︒その理由は︑かなり以前から知られている︒つまり︑一方では︑取締役に対する

賠償請求権の行使が監査役会の権限に属すること︑他方では︑

株主総会を通じて会社に対して賠償請求権の行使を強制させるための株主もしくは少数株主の行使要件が厳格すぎたことであ

る︒たしかに︑判例によると︑監査役会が︑取締役に対する賠

償請求権の行使を見合わせることができるのは厳格な要件の下でのみ可能である旨をはっきりと判示した

︒しかし︑依然とし 8

て監査役の基本的な利益衝突が存在している︒なぜなら︑取締

役に対する賠償請求権の行使は︑原則として︑取締役を十分に監視しなかったという非難を暗黙のうちに含んでいるからで

ある

︒さらに︑特別代理人の選任に関する少数株主権︵株式法 9 な改正がなされている︒ ものではない︒それゆえ︑これらの問題については︑次のよう 一四七条三項︶は︑少数株主のための固有の訴訟追行を定めた

 a)株主総会決議による請求権の行使   UMAGでは︑株主総会の単純多数決議に基づく賠償請求権

の行使︵株式法一四七条︶については抜本的な改正を行わない一方︑資本の一〇パーセントまたは一〇〇万ユーロの額面額の

株式保有という少数株主権の最低行使要件︵株式法一四七条二

項二文︶について変更し︑請求権行使のための特別代理人を裁判所に申し立てることができることを定めたにすぎない︒しか

し︑これは︑訴訟許可手続に関する株式法一四八条の新規定を

勘案すれば︑あまりにも時代遅れであると思われる︒ここでは︑株主訴訟の場合と異なり︑たとえば不正な行為もしくは法律ま

たは定款の重大な違反がなければならないという要件は定めら

れていない︒

b)  株主訴訟︵株式法一四八条︶

  株式法一四七条三項の旧規定が定める従前の少数株主権に代 わるものとして︑株式法一四八条の新条文に導入された株主訴訟手続

は︑一方では︑訴訟をしたがらない会社に代わって少数 10

株主が一種の訴訟担当︵Prozessstand︶によって訴訟を追行す ること︑他方では︑会社に訴訟を買い取らせて金銭を得るような﹁強盗訴訟︵räuberischen Klagen︶﹂から会社を守るための

予防措置として︑とくに本訴の前に行わなければならない訴訟

(5)

ドイツにおけるコーポレート・ガバナンス 同志社法学五八巻一号 二九六︵二九六︶

許可手続︵株式法一四八条︶を定めたことに特徴がある︒⑴ 訴訟許可手続⒜ 最低行使要件

  まず︑︵合算して︶資本の一%または一〇万ユーロの額面額を保有する小数株主に限り︑会社の住所がある地方裁判所にお

いて︑取締役および監査役の注意義務︵株式法九三条︑一一六

条︶違反に基づく当該機関構成員に対する訴訟の許可を求める申立てをすることができる︵株式法一四八条︶︒この最低持株

要件は︑旧法よりもかなり引き下げられている︒もともと参事

官草案において定められていた取引所価格の一〇万ユーロ

う異なる持株要件は︑一方では市場価値の確定という実際上の とい 11

重要な問題のために︑他方ではあまりにも低いと感じられた持

分比率の基準に比して額面額の方が有利となるように︑立法手続の枠内において変更された

︒ここではまさに︑インターネッ 12

ト上の株主広場︵Aktionärsforum株式法一二七条a︶や︑小

株主の間で簡易になされるコミュニケーションが︑行使要件に達するための重要な手段となる︒その役割は︑草案が明らかに

目指していたことでもある

︒これに対応する株主間の協力関係 13

は︑訴訟の追行や︑とくに和解

の結果を含めて︑民法上の組合として構成される における訴訟の終結に係る相応 14

⒝ 義務違反を知る前の取得 ︒ 15

  形式的にみれば︑申立人は︑次のことを証明しなければならない

︒それは︑申立人︵もしくはその前者︶が︑公表に基づき 16 証明しなければならない 通じて公表された場合には︑申立人は︑株式を取得した時点を る︒それゆえ︑生じうる義務違反が伝播力に富んだメディアを 機関構成員の義務違反を知る前に株式を取得していたことであ

17

︒長期間にわたる義務違反の場合に

は︑最初の公表が重要となる︒なぜなら︑最初の公表によって

違反に対する疑念が申立人に生じるからである︒さらに︑その

公表は︑生じうる義務違反について詳細にわたる必要はない︒法律の文言によれば︑主張された会社の損害を公表することで

も足りる︒しかし︑たとえば評判を失うことになるような非財

産的損害の公表では足りない︒

  株主が実際に知ったかどうかについては︑︵知らなければな らない

Kennen-Müssen

︺という︶法律の明確な文言がある

ので︑普通一般にメディアにアクセスできた限りにおいて問題になることはない︒申立てをする株主が知り得なければならな

かったかどうかという基準は︑たとえばプロの株主と同等に扱

うことはできないので︑思慮のある平均的株主に合わせなければならない︒さらに︑外国の株主については︑生じうる義務違

反について国内での公表を知らなければならないかという問題

に答えることは容易ではない︒外国の株主は︑金融仲介業者を介して他の国で投資することを意図していることを考慮する

と︑当該株主は企業の経済的展開から目を離してはならない︒

その結果︑この場合においても︑国内において公表されるときは︑当該外国の株主は知っているということができよう︒他方︑

(6)

ドイツにおけるコーポレート・ガバナンス 同志社法学五八巻一号 二九七︵二九七︶ 規定の文言によると︑たしかに株主がすでに義務違反を知っていたが︑この義務違反がまだ公表されていなかった場合については︑これを除外していない︒このため︑訴訟を提起する目的のためにのみ短期間に株式が取得されることを排除しようとする株式法一四八条一項二文一号の保護目的は︑その限りにおいて効果を失うことになる

18

  さらに︑立法者の見解によれば︑取得の時点については︑そ れぞれ個々の﹁最低行使要件を満たす﹂株主が重要となる

︒そ 19

れゆえ︑株主が共同する場合において︑最低行使要件が満たされる場合には︑依然として申立ては許可される︒もっとも︑法

律は︑株主の共同による濫用的訴訟の提起を回避しようとする

目的から︑共同して株主が原告になることを阻止することがある︒⒞ 会社のための期間の設定

  さらに︑株主は︑訴訟を提起するために会社に設けられた相当な期間内に︑当該会社が何も行わなかったことを証明しなけ

ればならない︒それゆえ︑会社に対してはっきりと要求するこ

とが必要である︒その期間に関しては︑一方では︑会社が訴訟の提起を欲しないことを明確に意思表示するための期間の設定

は不要であるとする見解があるが

︑立法者自身は︑当該会社が 20

訴訟の提起の意思表示をするには二ヶ月が相当であるとみなしている

︒その期間は︑必要な助言や情報を求めることを含めて︑ 21

監査役会を招集する場合における二週間︵株式法一一〇条一項 二文︶の期間を考慮に入れても十分である︒この場合︑請求権を行使するという会社の単なる意思の表明では足りない

⒟ 不正または重大な義務違反に対する疑義 ︒ 22

  実質的にみると︑機関構成員が不正または法律もしくは定款

の重大な違反によって会社に損害を生じさせたという事実につ

いて︵株式法一四八条一項二文三号︶︑その疑義を正当化することができる場合に︑訴訟の許可がなされる︒それは︑明白

23

たは重大な疑義ではなく

︑﹁

単純な﹂疑義

24

である

︒この場合

疑義は︑不正にも︑重大な違反にも︑損害にも︑一切の要素に関係している︒それゆえ︑決して損害が確定していなければな

らないわけではない︒逆に︑損害が生じるおそれがあるだけで

は足りず︑むしろ︑損害がすでに発生していることを承認できる根拠のあるきっかけがなければならない︒したがって︑予防

型の不作為を求める訴訟は︑株式法一四八条一項二文三号によ

って提起することはできない︒訴訟を許可するには︑すでに疑義が存在すれば十分であるので︑本案手続において︑たとえ義

務違反が普通の程度かまたは軽微なものと判明するにすぎない

場合であっても︑受訴裁判所の決定後に︑訴訟の許可が認められなくなるわけではない

25

  実際には︑株式法九三条一項に挿入された﹁企業家決定﹂︑

または﹁不正﹂および﹁重大な違反﹂に対する限界は︑経営判断の原則に対する限界と共通して︑おそらく最も悩みの種とな

るであろう︒刑法上の背任︵刑法二六六条︶の広範な領域を含

(7)

ドイツにおけるコーポレート・ガバナンス 同志社法学五八巻一号 二九八︵二九八︶

めて︑すべての可罰的行為が﹁不正﹂に数えられる一方︑その他一切の誠実義務違反も﹁不正﹂の中に入る︒その場合には︑

違反が重大であるかどうかは問題ではない

︒したがって︑たと 26

えば刑法二六六条

反についても責任を追及することができる︒これに対して︑そ に定められた背任の前段階にある誠実義務違 27

の他一切の義務違反については︑当該違反に対して特別な重大

さが必要であり︑その結果︑依然として経営判断の原則︵株式法九三条一項二文︶に含まれないにもかかわらず︑追及するこ

とができない義務違反のグレーゾーンが残ったままである

︒そ 28

の限りでは︑株式法一四七条三項の旧規定にも広く合致することから︑これについて展開された判例上の原則を適用すること

ができる

⒠ 会社の福利に相反しないこと ︒ 29

  最後に︑会社もしくは機関構成員のための最後の﹁セーフ・

ハーバー﹂が定められている︵株式法一四八条一項四号︶︒そ

れは︑賠償請求権の行使よりも優位する会社の福利という根拠である︒もっとも︑これに相応しい事案は︑連邦通常裁判所が

アラーグ・ガルメンベック判決においてすでに論じたように︑

あまり観念できるものではない︒たとえば︑法的な責任追及が問題となりえない︑公衆における会社の名声︑経営環境の侵害︑

営業活動に対するマイナスの影響︑または取締役の活動妨害の

ように︑企業の福利のための重要な根拠が存在しなければならないけれども︑これにより損害賠償請求権の行使が妨げられる ことにはならない

請求権の行使に﹁重要な﹂根拠ではなく︑その行使よりも﹁優 ︒立法者は︑連邦通常裁判所と異なり︑賠償 30

位する﹂根拠について論じようとする︒これにより︑通常の場

合には︑責任訴訟が許可される可能性は高いが︑優位する利益を慎重に考慮した場合には︑この訴訟について会社の福利に関

する株式法一四八条一項四号により許可できないことを明確に

しなければならない

づけることはおそらく不可能であると思われる︒ごくわずかな ︒ところが︑優位する利益を内容的に結論 31

損害額についても︑追随型訴訟︵me-too-Klagen︶に基づき会 社に対して費用リスクが生じるならば︑会社の福利を根拠として提出することもできるのである

︒既判力を有する判決または 32

合意がなされていない限りでは︑除斥期間の存在により︑常に︑

新たな損害賠償請求を時効期間内に提出することもできる

れに対して︑営業上または業務上の秘密については︑最初から ︒こ 33

会社の福利を根拠として持ち出すことはできない︒なぜなら︑

ここでは︑秘密保持の手続上の可能性については︑たとえば株式法一四五条四項を類推して︑守秘義務を負う検査役を通じ

て︑裁判所が考慮しなければならないからである︒

  結局︑裁判所は︑優位する会社の福利という枠組みにおいて行使された損害賠償請求権の額についても審査しなければなら

ない︒立法者によれば︑裁判所は︑訴えられた機関構成員の財

産割合との関係において過大な金額となる場合には︑それに応じて訴訟の許可を禁止することができる

︒これに対して︑完全 34

(8)

ドイツにおけるコーポレート・ガバナンス 同志社法学五八巻一号 二九九︵二九九︶ な請求の棄却ではなく︑一般的な手続上の諸原則により正当であると思料される額での部分的な訴訟の許可については︑許されている︒  どのような根拠が会社の利益に優位しうるかについては︑受訴裁判所が︑単独で法的問題として判断しなければならない︒

たとえ会社が︑費用負担の規制︵株式法一四八条六項二文︶において︑会社の福利が優位となる根拠を受訴裁判所に通知する

義務を負うとしても︑当該裁判所は︑会社の機関の評価に拘束

されるものではない︒そうでなければ︑訴訟の許可の決定は︑まさに機関の意向しだいとなるからである

︒しかしながら︑裁 35

判所は︑会社が提出した根拠に対して︑当然に慎重に取り組ま

なければならない︒⒡ 手続法上の諸問題

  たしかに︑どのような手続上の方法により訴訟の許可を与え

なければならないかは︑法律の規定から直接に読み取ることはできない︒通常の民事訴訟上の手続は︑許可手続に続く本訴手

続にも適用される一方︑許可手続における手続上の諸原則が定

められている︒これにより︑機関構成員に対して

しての意見表明の機会が付与されている︵株式法一四八条二 ︑法定審問と 36

項︶︒裁判所は︑要件︵株式法一四八条一項二文︶を具備すれば︑

訴訟を許可しなければならない︒裁判所の裁量の余地は︑たとえば会社の福利を評価する場合における判断の余地と同様に︑

あまり存在するものではない︒UMAGでは︑許可の手続を地 方裁判所に移送し︑要件を具備する場合には︑さらに商事部に移送する︒ここでは︑各州に手続を集中させる可能性も存在する︒さらに︑上訴として︑法律違反に基づく抗告を排除した即時抗告が定められる︒  表面的には︑本手続は︑非訟事件に類似しているが︑別段の定めがない限り︑非訟事件手続法の規定を準用する規定︵株式法一四二条八項︑一四五条五項参照︶は存在しない︒むしろ︑

ここでは費用負担の規制や︑さらには主張責任および証明責任

について︑一般的な民事訴訟上の諸原則を適用することによって

︑申立人の主張が明らかにされる︒ 37

  訴訟の許可が拒絶されると︑会社または他の株主に対して︑

既判力の効果が生じることにはならず︑その結果︑拒絶されることにより︑会社または他の株主の側から新たな訴訟許可手続

の進行が妨げられることにはならない︒もっとも︑裁判所は︑

事実上︑新たな申立てが新たな根拠を含んでいるかどうかに注目することであろう

⒢ 会社に対する訴訟の催告 ︒ 38

  ところが︑訴訟の許可に成功することは︑自動的に本訴手続に移行することを意味しない︒むしろ︑申立人である株主は︑

遅くとも申立てを許可する決定の既判力の発生後三ヶ月内に︑

再度相当な期間を定めて会社に訴訟を提起するよう催告した上

で︑訴訟を提起しなければならない

︵株式法一四八条四項一

文︶︒ここでも︑相当な期間が︑前もって︵二ヶ月︶定められ

(9)

ドイツにおけるコーポレート・ガバナンス 同志社法学五八巻一号 三〇〇︵三〇〇︶

なければならないであろう︒その場合には︑本訴の許可の要件が問題となるために︑たとえば訴訟費用の援助の申立てのよう

に︑申立てが成功することを条件に訴状を提出することはでき

ない︒なぜなら︑この場合には常に︑前もって訴訟を提起するための会社に対する事前の催告が必要となるからである︒もっ

とも︑この催告は︑株主が相当な期間を定めて会社に訴訟の提

起を催告したが︑訴訟を提起しなかったことを証明する訴訟許可手続の要件としての期間︵株式法一四八条一項二号︶に代え

ることができる︒なぜなら︑会社は︑手続に参加することによ

って当該手続の現状を知り︑かつ︵取締役に対する請求の場合には︶監査役会会長を通じて適時に監査役会を招集することが

でき︑また相当な期間を設定することができるからである

会社による訴訟の承継および複数の訴訟⒜  ⑵ その他の手続 ︒ 39

  議会の審議の過程においてはじめて︑会社はいつでも訴訟を

承継できるように︑当該会社による訴訟の承継ならびに当該会社による本訴提起に関する規制が明定された︵株式法一四八条

三項

︶︒この規制が必要とされたのは︑会社に対する給付︵損 40

害賠償︶だけを請求できる︑訴訟担当としての株主訴訟と︑会社の固有の訴訟との複雑な相互作用のためであった︒訴訟継続

が続行する間は︑いずれの当事者も当該事件を別々に継続させ

ることは許されないのである︵民事訴訟法二六一条三項一号

41

︶ ︒

この原則を崩すことにより︑会社はいつでも手続を承継するこ とが認められることになった︵株式法一四八条三項

継を通じて︑会社は︑法律で定められた当事者の交替により︑ ︶︒訴訟承 42

すでに行われた証拠調べも含めて手続の現状に立ち入ると同時

に︑みずから訴訟を提起することになる︒この場合︑別の株主訴訟を提起することはできない︒これは︑新たな意見の陳述や

証拠調べなどにもつながる

43

  訴訟を終結させる合意は︑取締役に対する損害賠償請求権の成立から三年後あるいは賠償義務者の支払不能など一定の場合

に和解できるとする︑株式法九三条四項三文︑四文の要件に服

する︵株式法一四八条六項四文

の期間の制限は無視される︒訴訟を進行させた少数株主につい ︶︒ただし︑この場合には三年 44

ても︑会社の訴訟追行にある程度のコントロールを行なわせる

ために

︑参加を告知される︵株式法一四八条三項三文 45

46

︶ ︒し

かし

当該少数株主の権限は︑補足的な事実の主張に大幅に制限され

るので︑手続上︑訴訟を追行する会社の処分を禁止することは

できない

%きるとし︑他方では一〇の少数株主に限り議事録に異議を留 ︒もっとも︑一方では一%の少数株主が訴訟を開始で 47

めるという形で和解を妨げることができるにすぎない︵株式法

九三条四項三文︶ことには︑依然として違和感が残る︒

  しかし︑訴訟担当であるとすると︑他の株主に対しても︑相

応の効果を伴うことになる︒ある訴訟係属に異議が唱えられる

と︑この異議は︵事後に︶訴訟許可手続を行う他の株主にも影響を及ぼす︒それにもかかわらず︑立法者が複数の訴訟を許可

(10)

ドイツにおけるコーポレート・ガバナンス 同志社法学五八巻一号 三〇一︵三〇一︶ することは︑法律からも理由書からも明らかである︒立法者が︑

ある事実について非効率な訴訟追行がなされる可能性を懸念す

ることは︑正当であると思われるからである︒それゆえ︑複数の訴訟が許可されていることを前提に︑複数の訴訟を併合する

ことも可能である︵株式法一四八条四項四文

︶︒これによれば︑ 48

株式法一四八条四項四文に基づき訴訟を併合するには︑個々の各申立てについて別々に訴訟許可手続の要件︵株式法一四八条

一項一号ないし四号︶を満たしていなければならないが︑現に

申し立てられている必要はない︒もっとも︑実質や内容のない追随型の訴訟は︑防止されるべきである︒そのために︑立法者

は︑訴訟許可手続の要件としての会社の福利︵株式法一四八条

一項四号︶を通じて︑またこのような訴訟によって発生する費用リスクを考慮して︑このような訴訟を防止しようとする

︒そ 49

れでも︑訴訟許可手続︵株式法一四八条一項︶に申立ての除斥

期間がないことからすれば︑実際上︑重大な利益衝突が解明されないおそれがないとはいえない︒それゆえ︑受訴裁判所が証

拠調べを行うという証拠調べの直接性を理由として︵民事訴訟

法三五五条︑三九七条︶︑すでに実施された証拠調べについては︑手続の全体に利用するために︑反復して利用されることが

求められる

︒最後に︑他の株主は︑訴訟が許可された後は︑補 50

助参加として訴訟に参加することはできない︵株式法一四八条四項三文︶︒

  結局︑会社のための訴訟担当は︑判決の既判力に影響を及ぼ すことになる︒その判決の既判力は︑会社の請求権︵および反対請求権︶にも他の株主にも拡大される︒賠償請求権の時効についても︑訴訟の許可を求める申立てが既判力をもって棄却されるまで中断する︵株式法一四八条二項三文︶︒訴訟手続にお

いて和解がなされた場合にも︑会社および他の株主に対して和

解の効力が生じる︵株式法一四八条五項二文︶︒もっとも︑この和解は︑取締役に対する会社の賠償請求権について一定の場

合に和解ができるとする株式法九三条四項三文の要件

の下での 51

み許されるにすぎないが︑訴訟許可手続の過程においては︑会社の賠償請求権を処分できないので︑株式法九三条四項三文の

要件に拘束されるものではない

︒たしかに︑会社による訴訟の 52

取下げについて規定が設けられるが︵株式法一四八条六項四文︶︑訴訟担当の場合における株主による賠償請求権の行使は︑

実体法上の要件︵株式法九三条四項︶の下でのみ︑これを取り

下げるか︑あるいは和解することができる

株主による不十分な訴訟追行︵十分でない事実の主張や欠席な ︒他の株主は︑少数 53

ど︶を妨げることはできないので

︑その訴訟追行は︑会社によ 54

るコントロールに頼らざるを得ない︒⒝ 費用負担の規制

  訴訟許可手続では︑とくに費用負担の規制が広範に設けられ ている︒これは︑一方では訴訟担当という性質︑他方では濫用的訴訟に対する相当な費用リスクの負担という趣旨による

︒こ 55

れにより︑会社が︑訴訟許可手続において︑自己の利益が妨げ

(11)

ドイツにおけるコーポレート・ガバナンス 同志社法学五八巻一号 三〇二︵三〇二︶

られる理由を明らかにした場合には︑申立人である株主が︑算定可能な

費用リスクを負うことになる︵株式法一四八条六項一 56

項︶︒これに対して︑訴訟が許可された場合には︑敗訴当事者

による訴訟費用の負担の原則︵民事訴訟法九一条︑九二条︶が妥当する︒株主は︑訴訟担当者として行動することから︑たと

え訴訟が棄却される判決が下されても︑原則として費用の補償

を求める実体法上の請求権が当該株主に付与される︵株式法一

四八条六項五文

57

︶︒

ただし

︑濫用的な行動を阻止するために

58

株主の故意または重大な過失による不正確な主張

によって︑訴 59

訟の許可がなされたものでない場合に限る︒会社が株主から訴訟を承継するか︑あるいは会社がみずから訴訟を提起する場合

には︑当該会社は︑株主に対して︑訴訟の承継または訴訟の提

起時点までに発生した費用を補償しなければならない︵株式法一四八条六項四文︶︒なぜなら︑会社による費用の負担によっ

て︑当該会社が訴訟の追行を承認したことが︑明らかになるか

らである

時点までに発生した費用については︑株主に対する費用の補償 ︒会社による訴訟の承継に基づく費用や︑訴訟の提起 60

︵株式法一四八条六項五文︶に関係なく︑当該会社に発生する︒

  裁判所による特別代理人の選任を定めていた旧株式法一四七条三項の規定の廃止を前提に︑株主が申立人として共同で行動

する場合︑あるいは共同訴訟人として共同で行動する場合に

は︑原則として権限を受けた者に限り︑費用が補償されることによって︑会社に生じる過大な費用リスクが軽減される︵株式 法一四八条六項六文︶︒これによって︑各共同訴訟人に対する費用の補償を定める他の手続上の原則とは異なり

︑共同訴訟人 61

の間で重大な利益相反がある場合や特殊事情がある場合の制限

は︑無視される

⒞ 株主との合意︵株式法一四九条︶ ︒ 62

  立法者は︑決議取消訴訟の場合についても︑株主訴訟︵株式

法一四八条︶の場合についても︑株主間の訴訟手続に係る合意に基づき︑最低行使要件を引き下げたときに生じうる﹁恐喝的

訴訟﹂という重大な危険に注目した︒取締役の会社に対する損

害賠償の履行に関連して︑もともと株主訴訟に尽力する小株主の経済的インセンティブ自体は少ない︒なぜなら︑小株主は︑

当該訴訟から得られる利益は少なく︑たとえ得られたとして

も︑わずかな範囲でのみ間接的にしか得ることができないからである︒したがって︑株主が他人の利益を図るような動機や︑

連帯感のようなものを持っていることを無視すると︑次のよう

な危険が生じうることを否定できない︒つまり︑決議取消訴訟の場合と同様に

︑金銭をせびる意図をもつ﹁恐喝的株主﹂が︑ 63

訴訟のイニシアティブを保持するために︑当該給付訴訟の終結

の合意をなすように直接に原告株主に話をもちかけるという危険である︒もっとも︑このような合意については︑厳格な要件

により防止されている︵株式法九三条四項

︶︒訴訟許可手続︵株 64

式法一四八条︶における株主の合意にあまり厳格な要件︵株式法九三条四項︶を課さないという意見に対して

︑会社があまり 65

(12)

ドイツにおけるコーポレート・ガバナンス 同志社法学五八巻一号 三〇三︵三〇三︶ にも容易に訴訟を承継でき︑ひいては厳格な要件を設けた株式法九三条四項の効果を失わせると指摘されることは︑まさに正当である

三条︶が株主の訴訟担当により行使される結果︑ここでも合意 ︒結局︑取締役に対する会社の賠償請求権︵株式法九 66

に係る厳格な要件︵株式法九三条四項︶を設ける必要があるこ

とを想起しなければならない︒

  したがって︑立法者は︑訴訟を許可する場合において︑一方

では︑訴訟を終結する株主の合意を完全に禁止するという極端

な方法と︑他方では︑会社とその機関構成員に対して生じうる恐喝の危険との間において︑折衷的な解決法を発見しなければ

ならなかった︒その解決法としては︑会社が給付を行う場合で

あっても︑会社に従属する第三者が給付を行う場合についても︑一切の給付を含めて︑合意全体が開示されることがあげら

れる︵株式法一四九条二項二文︶︒開示することは︑給付が有

効であるための条件ではあるが︑訴訟の効果として生じるものではない︵株式法一四九条二項三文︑四文

︶︒潜脱行為を防止 67

するために︑原告株主間の合意︑原告株主と会社との間の合意︑

原告または会社のために行為する第三者との間の合意についても︑すべての形式の合意が開示されることになる

︒さらに︑財 68

産的価値ある一切の会社の給付が含まれることにより︑給付と

手続の終結との間に何らかの形で因果関係さえ存在すれば

の給付がどのような形式であっても問題ではなく︑また誰が受 ︑そ 69

益者であるかについても重要ではない︒したがって︑原告株主 と緊密な関係にある第三者との任意の顧問契約についても含まれることになり

︑監査役との契約に関する株式法一一四条の解 70

釈と異なり

どうかを問わない ︑少なくとも給付が間接的に原告の利益になったか 71

︒このことから︑法律上︑給付と手続の終結 72

との間に機能的または経済的関係があれば足り︑単に形式的に

条件が付されているにすぎない場合では足りない︒

  したがって︑﹁恐喝的な﹂合意のリスクが完全に除去された

わけではないが︑かなりの程度︑低下したといえよう︒なぜな

ら︑開示を必要とすることから︑会社についても当該会社に従属する第三者についても︑その機関構成員は︑過大または不当

な給付を株主と合意することができないからである︒たとえ株

主が訴訟の外で暗黙のうちに給付を伴う訴訟の取下げを合意したとしても︑当該株主は︑給付の返還請求を受ける危険を負う︒

この危険が生じるのは︑不当利得︵民法八一四条︶の原則と異

なり

給付がなされた場合における当該給付の返還請求が︑法律上定 ︑開示しないことにより効果が生じないにもかかわらず︑ 73

められているからである︵株式法一四九条二項五文

︶︒この場 74

合︑取締役は︑このような給付の返還を請求する義務を負うだけではない

︒この給付は︑通常は︑法的な根拠なく行われてい 75

るので

︑禁止された出資の払戻しや︑会社の機関構成員の背任 76

行為としても判断することができるのである︒また︑会社は︑たとえば自己の子会社も含めて︑自己のために行為する第三者

が行なう給付についても責任を負う

︒たとえ株主でない場合で 77

(13)

ドイツにおけるコーポレート・ガバナンス 同志社法学五八巻一号 三〇四︵三〇四︶

も︑たとえば大口債権者またはメインバンクとして会社に対して経済的利益を有する者についても︑本規定の意味における第

三者とみなしうるかどうか︑さらにこの第三者の範囲を拡大で

きるかどうかについては︑あまりはっきりしない︒可能な限り︑恐喝がなされる可能性を回避する観点が重要であろう︒

  さらに︑立法手続において︑訴訟手続だけでなく︑訴訟が許

可される前段階においても︑和解のためのインセンティブは︑恐喝をなす株主の要求や面倒な訴訟を防止するために生じなけ

ればならないと指摘されたことは正当である︒このような危険

を防止するのは︑一方では︑訴訟が許可された後ではじめて和解できるとすることによって︵株式法一四八条五項︶︑和解の

効力が許可の後で会社に対し有利にも不利にも生じるとするも

のであり︑他方では︑和解が有効となるための要件を︑訴訟許可手続の前段階であれ︑訴訟許可手続中であれ︑訴訟を回避す

るために締結される合意にもかからせていることである︵株式

法一四九条三項︶︒また︑既判力を有する訴訟の許可の後にはじめて︑申立てを公告する義務を負うことも︵株式法一四九条

一項︶︑便乗者や故意による虚偽の申立て︑恐喝のおそれを防

止する目的に役立つものである

78

c)  特別検査   賠償請求権の行使に係る手続の強化に必要な方策が︑情報の 入手である︒これについて︑従前から株式法が定めていた方策は︑特別検査である

︒UMAGにおいては︑訴訟許可手続︵株 79 式法一四八条︶に関連して︑従前になされた種々の勧告提案

実行に移すことにより︑業務執行の過程等の監査に関する特別 を 80

検査︵株式法一四二条二項︶について︑裁判所に特別検査役の

選任を申立てる最低持株要件が︑資本の一%または一〇万ユーロの額面額に引き下げられている

︒この場合には︑最低持株要 81

件を満たすために

︑株主が連携する可能性を指摘することがで 82

き︑この可能性は︑ウェブサイト上の株主広場︵株式法一二七条a︶を通じて容易に実現することができる

︒しかしながら︑ 83

この特別検査の申立ては︑株主訴訟との関連では︑不正または

法律もしくは定款の重大な違反のおそれがある場合に制限されている︵株式法一四二条二項一文

︶︒また︑申立人は︑株主訴 84

訟と同様に︑少なくとも申立てに係る決定時点まで株式を保有

し︑かつ株主総会の三ヶ月前から当該株式を保有していたことを証明しなければならない︒もっとも︑非訟事件手続が重要で

あることから︑この事実は︑職権により探知されるものであり

85

申立人は特別検査の原因を疏明することで足りる

解では︑訴訟許可手続︵株式法一四八条︶の場合と同様に︑誤 ︒立法者の見 86

った行為により発生した損害と相当な関係にない特別検査に係

る費用や︑当該特別検査により﹁不利な効果﹂が生じる場合には︑その申立てが相当であるかどうかの審査が行われる

︒さら 87

に︑コーポレート・ガバナンス政府委員会の提案

により導入さ 88

れた措置であるが︑立法者は︑申立人が故意または重大な過失によって不正確な主張をして特別検査役が選任された場合に

(14)

ドイツにおけるコーポレート・ガバナンス 同志社法学五八巻一号 三〇五︵三〇五︶ は︑当該申立人に費用を負担させることによって︵株式法一四六条︶︑その濫用を防止している

︒この主観的要件は︑たしか 89

にここでは場違いのようにも思われるが︑申立人自身が機関と同一の情報の提供を受ける可能性は少ないので︑最初から濫用

的な申立てを捉える必要があることを考慮すると︑正当である

と思われる︒これは︑不法行為に関する民法八二六条と比較すれば︑立法者は確実にその要件︵故意による行為︑加害行為の

意図︶の引下げを意図していたことを示している

︒恐喝的な株 90

主を防止することは︑特別検査の回避に係る合意を公告させることによって図られている︵株式法一四二条二項三文︑一四九

条︶︒

  一方では︑株主訴訟の準備のための株主による情報提供の要求と︑他方では︑秘密保持に対する会社の利益との間における

崩れやすいバランスについては︑結局︑取締役の次の権利︵株

式法一四五条四項︶が重要となろう︒つまり︑﹁優位する会社の利益が存在し︑その利益が不正または法律もしくは定款の重

大な違反の主張と密接不可分なものではない﹂場合には︑取締

役は︑特別検査役の監査報告書に一定の事実を記載しないことを裁判所に申し立てることができるという権利である︒この規

制は︑検査役に一定の秘密保持義務を課した一九三七年株式法

一二一条三項二文においても見出される︒しかしながら︑この保護条項は︑一九六五年の改正の際に︑たとえ会社に著しい不

利益を与える事実であっても︑株主総会の判断に必要なとき は︑当該事実は監査報告書に掲げられるとする︑旧株式法一四五条四項の規定において廃止された

︒これにより︑かつて立法 91

者は︑一九六五年にこのような保護条項を意図的に放棄したわけであるが︑これは︑その保護条項が特別検査の任務になじま

なかったからであるとされる

︒しかし︑UMAGでは︑取締役 92

の申立てがない限り︑たとえ会社の不利益となる場合にも︑原則として一定の事実が公表されることになる

︒この株式法一四 93

五条四項の新規定によって︑企業に損害を加えるために営業機

密を探り出す可能性はなくなり︑ひいてはこの場合において少数株主による特別検査の申立てに係るインセンティブについて

も奪うことになる︒同様に︑特別検査役の監査報告書とともに︑

商業登記のために営業上の秘密が記載された申請書類が提出された場合において︑これによって会社に重大な損害が生じるお

それがあるときは︑何人に対しても︑その公表は阻止されなけ

ればならない

べ尽すことを阻止するために︑再度︑営業上の秘密を保護する ︒したがって︑とりわけ︑特別検査役が会社を調 94

法律上の手当て︵株式法一四五条四項︶がなされている一方︑

不正または法律もしくは定款の重大な違反のおそれを正当化する事実がある場合のように︑少数株主権として適法に申し立て

られた特別検査︵株式法一四二条二項︶に限り︑株式法一四五

条四項の新規定が適用される

訟事件手続に基づく職権探知主義に基づき︑裁判所がそのよう ︒しかし︑この場合において︑非 95

な場合であると判断することは困難であると思われる

96

(15)

ドイツにおけるコーポレート・ガバナンス 同志社法学五八巻一号 三〇六︵三〇六︶

  株主総会が選任した特別検査役と異なる別の特別検査役を︑少数株主権として裁判所に申し立てる場合についても︑最低持

株要件︵株式法一四二条四項︶は引き下げられている︵資本の

一%または一〇万ユーロの額面額︶︒もっとも︑特別検査役の選任が株主総会においてすでに決定された場合において︑株主

の申立てによる別の特別検査役の選任の理由については︑不正

または法律もしくは定款の重大な違反があった場合のように個別の要件を設けてはいない︒これについては︑とくに当該特別

検査役が監査の対象に対する必要な知識を有しない場合︑監査

に対して予断が懸念される場合︑または監査の信頼性に疑義が生じた場合のように︑選任された特別検査役の属性に問題があ

ると思料される場合をあげている︵株式法一四二条四項

97

︶ ︒し

たがって︑特別検査役の属性については内容にわたる︵特別の︶改正は行われていない

︒結合企業との営業上の関係に関する特 98

別検査︵株式法三一五条二文︶においても︑株式法一四二条二

項所定の引き下げられた最低持株要件︵資本の一%または一〇万ユーロの額面額︶に平仄を合わしている︒

  取締役の申立てによる特別検査︵株式法一四五条四項︶に関

する新たな規制に関連して︑裁判所の管轄権を集中させるために︑監査役会の構成に関する手続︵株式法九七条以下︶と同様

に︑各州に対する法令上の授権が導入されている︵株式法一四

二条五項︶︒特段の定めがない限り︑非訟事件手続を用いることも︑同様である︵株式法一四二条八項

︶︒したがって︑特別 99 がその管轄地にある地方裁判所にあり 検査役の選任に関する管轄は︑区裁判所ではなく︑会社の住所

︑また民事部に代わって 100

商事部に移送される︵株式法一四二条五項三文︑四文

︶︒これ 101

に対応して︑裁判所による監査役会の構成の決定に関する株式法九八条一項一文についても︑同様に変更されている︒さらに︑

管轄を集中させ︑権限を集約させるために

︑特別検査と︑訴訟 102

許可手続︵株式法一四八条︶による責任訴訟との間においても調整が行われている

103

2.経営判断の原則の導入   経営判断の原則︵Business Judgement Rule︶︵株式法九三条 一項二文︶の導入については︑非常に議論されたところである

104

この導入は︑実体法上︑原則として機関構成員の責任リスクが強化されたことによって︑重大な義務違反に限界を設ける必要

があったことを前提としている︒参事官草案において︑主観的

要件の引下げに対して批判されたことは正当であるけれども

要件の引下げに関するさらなる審議の過程において︑義務違反 ︑ 105

の確定が客観的レベルで判断されることになった

106

  しかし︑当初抱かれた印象とは異なり︑ドイツ法においては抜本的に改正する必要はないと思われる︒というのも︑以前か

ら長い間︑取締役が︑裁判所のコントロールに服しない企業家

的自由裁量の余地を有することが認められており︑さらに連邦通常裁判所の判例においても︑このことがはっきりと確認され

(16)

ドイツにおけるコーポレート・ガバナンス 同志社法学五八巻一号 三〇七︵三〇七︶ ていたからである

︒第六三回ドイツ法曹大会 107

およびコーポレー 108

ト・ガバナンス政府委員会

における提案を実行に移す際に︑経 109

営判断の原則に関する株式法九三条一項二文の規定に何ら変更が加えられたわけではない︒しかし︑個々の法律要件について

は︑いまだ解釈上の問題が残っている︒

  まず︑﹁企業家﹂決定を︑これと異なる別の決定と区別することは︑将来的にも重要であると思われる

︒不確実な状況の下 110

で行われ︑かつ予測することが必要となる多くの決定について

は︑確実に企業家決定に含まれる

とが妥当するとは限らない場合として念頭に置かれるのは︑予 ︒もっとも︑必ずしもこのこ 111

測に基づく要素がほとんどないけれども︑企業政策に基づく決

定であって︑法律上要請されている決算に係る決定の選択権を行使する場合である︒従来と同様に

︑誠実義務を含む法律上の 112

義務については︑セーフ・ハーバー︵株式法九三条一項二文︶

に含まれない

若干のグレーゾーンが依然として残されている︒それゆえ︑外 ︒それでも︑本稿では簡単に触れるしかないが︑ 113

国の法律から生じる義務についても︑どのような要件の下で経

営判断の原則により免れるのかという問題が生じる

為をますます規制することになれば︑将来的には︑多義的であ ︒企業家行 114

り不確定な法概念を解釈するに当たって機関の責任がどのよう

な状態にあるべきかという︑より問題の核心に向かわなければならない︒この場合において︑立法者は︑個別事案によっては

有責性を必要としないことを指摘し

︑少なくとも一つのヒント 115 問題についても︑同様に明らかにしなければならない 対して︑経営判断の原則がどの程度の影響を及ぼすのかという を与えている︒これに関連して︑第三者に対する機関の責任に

ら法律上の義務と異なる義務として経営判断の原則︵株式法九 ︒最初か 116

三条一項二文︶を捉えるならば︑経営判断の原則の第三者に対

する効果は考えられない︒

  法律上要求される﹁適切な情報に基づく決定﹂についても︑

同様である︒とくに立法理由書において強調されるように︑こ

の根拠が前提とするのは︑情報入手のためにどの程度の費用がかかり︑当該情報にどの程度の効用があるかについての企業家

決定である︒それゆえ︑決して専門家の鑑定意見や型どおりの

市場分析が要求されているわけではない︒むしろ︑ある決定のために︑どのような情報が有意義でありかつ必要であるかの判

断に対して︑経営判断の原則が妥当するのである

︒したがって︑ 117

ある決定を行う場合には︑広く情報に依拠したことが法的に要求されるであろう

︒取締役全員による決定が重要なのか︑ある 118

いは個々の担当部門での決定に限り重要なのかによっても︑情

報に依拠した判断なのかどうかを区別することができる

場合において︑立法者は︑明確に﹁⁝情報に依拠した当時の取 ︒この 119

締役の見通しが変わったこと﹂を意識的に捉えようとして

いる

120

  最後に︑﹁会社の福利﹂のために取締役が行為したことが法

律上要求されており︵株式法九三条一項二文︶︑立法者は︑こ

(17)

ドイツにおけるコーポレート・ガバナンス 同志社法学五八巻一号 三〇八︵三〇八︶

のことを︑子会社やグループ全体を含めた長期的な収益の増加や競争力の強化として理解している

︒しかし︑企業の利益に反 121

しないことや︑持分保有者の利益を一面的に指向したことのよ

うに

︑あまりにも多くのことをこの概念に含めるべきでは

ない

︒なぜなら︑立法者は︑漠然とした基準である企業の利益 122

を解釈する際の最低限のコンセンサスのみ考慮に入れたにすぎ

ないからである

行動しなかった結果として︑利益衝突が生じる余地がなかった ︒むしろ︑取締役が自己の私利私欲から直接に 123

こと

を法律上明らかにすることが重要である︒このことは︑以 124

前においても︑誠実義務の枠組みにおいて考慮されていたことである

︒しかしながら︑自己の利益の追求の結果として生じる 125

利益が

︑会社の福利から間接的に導かれるにすぎない限り

では

︑今後もたとえば株式相場や成果に連動する報酬については ︑適法なものとみなされなければならない︒このことは︑ 126

︵当然に︶適法であることを意味している︒これに対して︑監

査役の注意義務および責任に関する株式法一一六条が︑取締役に関する株式法九三条を準用することによって︑結果として監

査役の独立性の問題が生じている︒この場合︑法律上︑監査役

の兼任によって利益衝突が生じうることを依然として

一方で︑具体的な事案においては︑監査役の誠実義務 黙認する 127

に基づき 128

利益衝突が公表されることを要求している︒この公表義務は︑

監査役の退任にまで及ぶけれども︑立法者は︑この原則としての問題を株式法九三条一項二文により規制しようとしていな い︒なぜなら︑立法者は︑機関構成員が自己の利益衝突を公表する場合について︑そもそも例外があることを認めるととも

に︑公表した場合には︑会社の福利のために行動したと推定す

ることが合理的であって︑事後的にあとづけることができると考えたからである

129

  これに対して︑主張責任および証明責任に関する改正は行わ

れていない︒改正前株式法九三条の規定において︑取締役が自己の義務違反について免責される場合がなければならないこと

は︑すでに認められていたところである

︒UMAGの立法理由 130

においても︑経営判断の原則に関する主張責任および証明責任は︑取締役の側にあることが確定されている

131

3.小括   最低持株要件を広範に引き下げた株主訴訟を導入することに

よって︑ドイツの株式会社のイメージはかなり変化することに

なる︒裁判所がどのように訴訟許可手続を運用するか︑また立法者が取り入れた高いハードルが実際に﹁恐喝的な﹂訴訟に対

して効果があるのかどうかは︑将来︑確定されることとなろう︒

もっとも︑その場合において︑機関構成員に対する訴訟の洪水は生じないと思われる︒なぜなら︑小口の一般株主にとっては︑

会社の賠償請求権を行使する経済的なインセンティブが低いか

らである︒いずれにしても︑立法者がより望ましいコーポレート・ガバナンスのために重要かつ正しい一歩を踏み出したこと

参照

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