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(1)

QT延長症候群(先天性・二次性)とBrugada症候群の診療に関するガイドライン

Guidelines for Diagnosis and Management of Patients with Long QT Syndrome and

Brugada Syndrome (JCS 2007)

目  次

Ⅰ.序文………1207 1.ガイドライン作成の背景………1207 2.ガイドラインの基本方針………1207 Ⅱ.総論………1207 1.QT延長症候群の概論 ………1207  1.先天性QT延長症候群 ………1207   1)頻度と遺伝形式 ………1208   2)遺伝子異常と臨床的特徴 ………1208    ① LQT1 ………1209    ② LQT2 ………1209    ③ LQT3 ………1209    ④ その他の遺伝子型(LQT4,LQT5,LQT6,LQT7) …1209    ⑤ Jervell-Lange Nielsen症候群 ………1209   3)予後 ………1210  2.二次性QT延長症候群 ………1210   1)二次性QT延長症候群の原因 ………1210   2)二次性QT延長症候群の発生素因 ………1210 2.QT延長症候群の発生機序 ………1211  1.QT延長症候群の発生機序解明のためのアプローチ …1211  2.先天性QT延長症候群における異常T波の細胞学的成因 …1211  3. 先天性QT延長症候群における著明なQT延長とTdPの発 生機序 ………1211  4.二次性QT延長症候群におけるQT延長とTdPの発生機序 …1211  5.まとめ ………1212 3.Brugada症候群の概論 ………1213  1.Brugada症候群とは ………1213  2.Brugada症候群の疫学 ………1213  3.Brugada症候群の臨床所見 ………1214 合同研究班参加学会:日本循環器学会,日本心臓病学会,日本心電学会,日本不整脈学会 班長 大 江   透 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 循環器内科 班員 相 澤 義 房 新潟大学大学院医歯学総合研究科循 環器学分野 新   博 次 日本医科大学多摩永山病院内科 奥 村   謙 弘前大学循環器呼吸器・腎臓内科 笠 貫   宏 東京女子医科大学循環器内科 鎌 倉 史 郎 国立循環器病センター心臓血管内科 櫻 田 春 水 東京都立広尾病院循環器科 矢 野 捷 介 長崎国際大学健康管理学部 吉 永 正 夫 鹿児島医療センター小児科 協力員 青 沼 和 隆 筑波大学大学院人間総合科学研究科 循環器内科学 協力員 池 田 隆 徳 杏林大学医学部附属病院第二内科 草 野 研 吾 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 循環器内科 清 水   渉 国立循環器病センター心臓血管内科 杉 薫 東邦大学医療センター大橋病院循環器内科 住 友 直 方 日本大学小児科 永 瀬   聡 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 循環器内科 西 崎 光 弘 横浜南共済病院循環器センター循環器内科 藤 木   明 富山大学第二内科 蒔 田 直 昌 北海道大学大学院医学研究科循環病態内科学 小 川   聡 慶應義塾大学呼吸循環器内科 児 玉 逸 雄 名古屋大学環境医学研究所心血管分野 田 中 茂 夫 狭山中央病院 中 田 八洲郎 湘南東部総合病院ふれあい湘南循環器センター 平 岡 昌 和 労働保険審査会 (構成員の所属は2007年9月現在) 外部評価委員

(2)

 4.Brugada症候群の予後 ………1215 4.Brugada症候群の発生機序 ………1215  1.Brugada症候群の遺伝子異常 ………1216  2.特徴的心電図の機序 ………1216  3.日差変動の機序 ………1217  4.伝導遅延の関与 ………1217 Ⅲ.先天性QT延長症候群の診断 ………1217 1.概論………1217  1.小児期のQT延長症候群の診断上の問題 ………1217  2. 胎児期,乳児期早期におけるQT延長症候群の診断の問 題 ………1218

 3.乳児突然死症候群sudden infant death syndrome ……1218

 4.学校心臓検診での問題 ………1218

2.心電図診断………1219

 1.補正QT時間値(QTc値) ………1220

 2.Torsade de pointes ………1220

 3.T-wave alternans ………1220

 4.Notched T wave in 3 leads ………1220

 5.年齢不相応の徐脈(low heart rate for age) …………1220

3.負荷テスト(運動負荷,薬物負荷など) ………1221  1.運動負荷 ………1221  2.カテコラミン負荷 ………1221  3.顔面浸水試験 ………1221  4.経口糖負荷試験 ………1221 4.ホルター心電図・T-wave alternans ………1221  1.ホルター心電図 ………1221  2.T-wave alternans ………1222 5.臨床電気生理検査………1222  1.TdPの発生機序 ………1222  2.電気生理学的特徴 ………1222  3.臨床電気生理検査の適応 ………1222 6.遺伝子診断………1223 Ⅳ.先天性QT延長症候群の治療 ………1224 1.概論………1224  1.急性期治療 ………1224  2.心事故リスクの予測 ………1224  3.植込み型除細動器 ………1224  4.薬物治療 ………1225  5.その他の治療 ………1225 2.薬物治療………1225  1.β遮断薬 ………1225  2.ベラパミル ………1226  3.カリウム ………1226  4.ニコランジル ………1226  5.Na+チャネル遮断薬 ………1226  6.硫酸マグネシウム ………1226 3.非薬物治療………1226  1.植込み型除細動器(ICD) ………1226  2.ペースメーカ植え込み ………1226  3.左心臓交感神経節切除術 ………1226 Ⅴ.二次性QT延長症候群の診断と治療 ………1227 1.概論………1227  1.薬剤性QT延長症候群 ………1227  2.徐脈依存性QT延長症候群 ………1227  3.薬剤性,徐脈性以外の二次性QT延長症候群 ………1228 2.薬剤性QT延長症候群 ………1228  1.診断 ………1228  2.治療 ………1228 3.徐脈依存性QT延長症候群 ………1228  1.病態・臨床的意義 ………1228  2.治療 ………1229 4.薬剤性,徐脈性以外の二次性QT延長症候群 …………1229  1.心疾患によるQT間隔の延長 ………1229   1)急性心筋梗塞あるいは急性心筋虚血 ………1229   2)心筋症とうっ血性心不全 ………1229  2.非心疾患によるQT間隔の延長 ………1229   1)糖尿病および代謝異常 ………1229   2)中枢神経疾患 ………1229  3.治療 ………1229 Ⅵ.Brugada症候群の診断 ………1230 1.概論………1230  1.診断基準と現状 ………1230  2.Na+チャネル遮断薬負荷ならびに非侵襲的検査 ……1231  3.臨床電気生理検査の意義 ………1231  4.遺伝子診断 ………1232 2.心電図診断(自動診断を含む) ………1232  1.心電図診断の基準 ………1232  2.本邦における心電図診断の基準 ………1232 3.負荷テスト(薬物負荷,運動負荷,など) ………1233  1.臨床的意義 ………1233  2.薬物負荷試験 ………1233   1)有症候性の場合 ………1233   2)無症候性の場合 ………1233  3.その他の負荷テスト ………1233 4.加算平均心電図など………1233  1.加算平均心電図 ………1233  2.体表面電位図 ………1234  3.心拍変動 ………1234  4.T-wave alternans ………1234  5.QT間隔 ………1234 5.臨床電気生理検査………1234  1.Brugada症候群の電気生理学的特徴 ………1234  2.臨床電気生理検査の適応 ………1235 6.遺伝子診断………1235 Ⅶ.Brugada症候群の治療 ………1236 1.概論………1236  1.Brugada症候群の予後 ………1237  2.リスクの層別化 ………1237  3.治療のガイドライン ………1238   1)薬物治療 ………1238   2)非薬物治療 ………1238 2.薬物治療………1238  1.急性期の心室細動(electrical storm)の予防 ………1238  2.慢性期の心室細動の予防 ………1239 3.非薬物治療………1239 (無断転載を禁ずる)

(3)

序 文

1

ガイドライン作成の背景

 先天性

QT

延長症候群と

Brugada

症候群は,各々の患 者の

70

%と

20

%にイオンチャネル蛋白の責任遺伝子異 常を認め,チャネル病に分類されている1),2).しかし, 遺伝子異常が必ずしも予後や治療とは直接結びつかない ことが判明し,また遺伝子異常の認めない孤立性の症例 も多い.従って,実際の臨床現場では,心電図,臨床症 状,および突然死の家族歴などを総合的に判断して診断 している.  先天性

QT

延長症候群の診断は,

Schwartz

らが報告し た診断基準を用いることが多い3).これは,心電図所見, 病歴,家族歴からそれぞれの程度に重みをつけて診断基 準が作成されている.その後,先天性

QT

延長症候群は 単一の遺伝子異常でなく,少なくとも

10

個の異なる遺 伝子異常があり,各々のタイプで病態が異なっているこ とが判明し,診断基準の見直しが検討されている1).二 次性

QT

延長症候群は,

QT

延長を来す明らかな要因が ある場合に診断される.しかし,明らかに

QT

延長を来 す直接的な原因の他に,

QT

延長を増幅させる先天性素 因が報告され,先天性と二次性との区別が曖昧になって きた4),5)

Brugada

症候群の診断に関しては,

2005

年に開催され

2

回目の

consensus conference

では,

type 1

coved

型)

の心電図が右胸部誘導の一つ以上に認められることに加 え,

1

)多形性心室頻拍・心室細動が記録されている,

2

45

才以下の突然死の家族歴がある,

3

)家族に典型的

type 1

の心電図がいる,

4

)多形性心室頻拍・心室細動 が電気生理検査により誘発される,

5

)失神や夜間の瀕 死期呼吸を認める,のうち一つ以上を満足するものとし ている6).この報告は必ずしも本邦での

Brugada

症候群 における臨床経験とは一致していない.本邦では

type 2

3

の場合も,一肋間上で典型的な

type 1

の心電図にな る症例があるので,

type 1

と同様に重要視している施設 が多い7)

QT

延長症候群と

Brugada

症候群の治療は,

1

)症状の 有無,

2

)突然死の家族歴の有無,

3

)発作の頻度と重 症度,

4

)心電図所見の異常の程度,

5

)電気生理検査 の結果などに基づいて,無治療,薬物治療または非薬物 治療が選択される.突然死の予防として最も確実なのは 植込み型除細動器であるが,予防的治療に関しては各国, 各施設で異なっている.  今日まで発表されている不整脈に関する欧米および本 邦のガイドラインは,特定の診断法や治療法の観点から 作成されたものが主である.本ガイドラインでは,疾患 (

QT

延長症候群や

Brugada

症候群)を診療する観点から, 種々な診断法および治療法の有用性について検討した.

2

ガイドラインの基本方針

 本ガイドラインは,

QT

延長症候群と

Brugada

症候群 の診療に関して,総論と各論に分けて作成した.総論と しては,診断と治療に必要な基本的な知識としての臨床 的特徴,予後,および発生機序を解説した.各論として は,

1

)先天性

QT

延長症候群における診断,

2

)先天性

QT

延長症候群おける治療,

3

)二次性

QT

延長症候群に おける診断と治療,

4

Brugada

症候群における診断,

5

Brugada

症候群における治療,の

5

項目に分けて検討し た.診断に関しては,心電図を含む非観血的な検査,臨 床電気生理検査などの観血的検査および遺伝子診断の臨 床的意義を検討した.治療に関しては薬物治療と非薬物 治療に分けて,各々の有用性を検討した.また,無症候 性の場合の診断・治療は有症候性の場合と異なるので, 両者を分けて検討した.  本ガイドラインでは,従来の方法に準じて,各診断法・ 治療法の適応に関する勧告の程度をクラスⅠ,クラスⅡ, クラスⅢに分類し,その証拠のレベルとして,レベル

A

, レベル

B

,レベル

C

を出来る限り附記した.このガイド ライン策定の手順としては,

1

AHA

ACC

のガイド ライン8)

2

)公表されている本邦のガイドライン9)−11)

3

)海外での報告(疫学調査,研究報告など),

4

)本邦 での報告(疫学調査,研究報告など),

5

)班員の臨床経 験,を基にして作成した.  なお,このガイドラインの作成に当たり,いままでに 報告されている循環器学会合同研究班のガイドラインと 整合性があるように特に考慮したが,適応のクラス別で 一致しない場合はその違いを付加として記述した.

総 論

1

QT 延長症候群の概論

QT

延長症候群(

LQTS

)は,心電図に

QT

延長を認め,

(4)

torsade de pointes

TdP

)と呼ばれる特殊な心室頻拍, あるいは心室細動などの重症心室性不整脈を生じて,め まい,失神などの脳虚血症状や突然死を来たしうる症候 群である.

QT

間隔は脈拍の影響を受けるので,一般に

Bazzet

式を用いて補正

QT

間隔(

QTc

)とする.

QTc

に は性差があり12),男性では

470 msec

以上,女性では

480

msec

以上であれば

LQTS

の可能性が高く,男性で

410

msec

以下,女性で

430 msec

以下であれば

LQTS

は考え にくいとされている.

LQTS

では,

QT

延長のみならず,

T

波の形態異常や著明な

U

波を伴うことが多い.

LQTS

は大きく先天性と二次性に分けられる.これらのうち, 先天性

LQTS

には明らかな遺伝性を認める例(

Romano-Ward

症候群と

Jervell-Lange Nielsen

症候群)のほかに,

遺伝関係が明瞭でないかあるいは遺伝関係の調査が困難 な例(特発性

LQTS

)も含まれる(表1).一方,薬物, 電解質異常,その他の原因などで生じたものが二次性

LQTS

である(表1).

1

先天性 QT 延長症候群

(先天性 LQTS)

1)頻度と遺伝形式

 先天性

LQTS

の頻度は必ずしも明らかではないが,出 産

2,000

件におよそ

1

件の割合で先天性聾唖が発生し, 先天性聾唖をもつ例

6,557

例のうち

14

例(

0.21

%)に

LQTS

を認めたとする報告がある13)

Moss

らの報告で は特発性を含めた遺伝性

LQTS

の発端者

328

例のうち

7

%が先天性聾唖であったとしている14)

Romano-Ward

症候群については,

1960

年代に

Romano

Ward

が別々に先天性聾唖を伴わない

LQTS

の家系を 報告したのに始まる15)−17)

Romano-Ward

症候群は常染 色体優性遺伝形式をとり,患者の子供には原則として

50

%に本症候群の遺伝子異常が伝えられ,また患者の 両親のいずれかに本症候群の遺伝子異常を認めると考え られる.したがって,家系内の縦の世代に連続して多発 するという特徴がある.

Romano-Ward

症候群の興味あ る特徴として,性差を認めることである.この点につい て,橋場らは

16

家系

159

例の検討で,症状のある男性 例では多くが

20

歳未満に失神発作や突然死を起こし, 以後症状の軽快を認める例があるのに対して,女性例で は

10

歳以降に発症することが多く

30

歳以降の発症も少 な く な い こ と な ど を 報 告 し て い る18)

Jervell-Lange

Nielsen

症 候 群 に つ い て は,

1957

年 に

Jervell

Lange-Nielsen

が先天性聾唖を伴う

LQTS

の家系が初めて報告 された19).本症候群は常染色体劣性遺伝形式をとるため に,その頻度は少なく,通常は孤発または同胞内発症に 限られ,親子などの

2

世代にわたる出現はきわめてまれ である.

2)遺伝子異常と臨床的特徴

 先天性

LQTS

は,心筋細胞におけるイオンチャネルや 他の細胞膜構成蛋白の調節に関係する遺伝子の異常が原 因とされており,現在では

60

70

%の家系で遺伝子異 常が見つかっている.

Romano-Ward

症候群は,現在ま でに

10

個の遺伝子型が報告されており,それが確認さ れた順番に

LQT1

LQT10

と呼ばれている(第Ⅲ章;先 天性

QT

延長症候群の診断,

6

項;遺伝子診断).

Jervell-Lange Nielsen

症候群も

2

つの遺伝子座に連鎖する家系が 表 1 QT 延長症候群の分類 先天性 QT延長症候群  遺伝性 QT延長症候群   Romano-Ward症候群(常染色体優性遺伝)   Jervell-Lange Nielsen症候群(常染色体劣性遺伝):先天性聾亜を伴う  特発性 QT延長症候群 二次性 QT延長症候群  薬物誘発性    抗不整脈薬:Ⅰ群薬(キニジン,プロカインアミド,ジソピラミドなど)       Ⅲ群薬(アミオダロン,ソタロール,ニフェカラント)       向精神薬:フェノチアジン系(クロルプロマジンなど),三環系抗うつ薬       抗生物質・抗ウィルス薬:エリスロマイシン,アマンタジン       抗潰瘍薬:H2受容体拮抗薬(シメチジンなど)       消化管運動促進薬:シサプリド       抗アレルギー薬:テルフェナジン       高脂血症治療薬:プロブコール       有機リン中毒  電解質異常    低 K+血症,低 Mg2+血症,低 Ca2+血症  徐脈性不整脈   房室ブロック,洞不全症候群  各種心疾患    心筋梗塞,急性心筋炎,重症心不全,心筋症  中枢神経疾患   クモ膜下出血,頭部外傷,脳血栓症,脳外科手術  代謝異常     甲状腺機能低下症,糖尿病,神経性食欲不振症

(5)

見つかっており,それぞれ

JNL1

JLN2

と呼ばれている.  以下,遺伝子型に対応した臨床的特徴について述べる. ① LQT1

1991

年に

Keating

らは遺伝子連鎖解析によって

11

番 染色体短腕

11p15.5

にある癌遺伝子の

Harvey ras-1

と本 症候群の遺伝子異常との間に密接な関係ある可能性を指 摘したが,変異の存在は確認されなかった20)

1996

Wang

らは,

LQTS

家系から同じ遺伝子座にあり,電 位依存性

K

+チャネル遺伝子をコードしている

KCNQ

(または

KvLQT

)に遺伝子異常を同定した21)

KCNQ

6

回 貫 通 型

K

+チ ャ ネ ル を コ ー ド し,

1

回 貫 通 型 の

minK

蛋白と協調して遅延整流

K

+電流(

I

K)の遅い成分 (

I

Ks)を形成する22),23).この

I

Ks電流は活性化,脱活性化 が非常に遅いので,頻脈時には完全に脱活性化しないう ちに次の脱分極が生じるため,

I

K全体に対する

I

Ks成分 の割合が増加し,活動電位持続時間が短縮する.この電 流は交感神経β受容体刺激により調節され,正常では交 感神経β受容体刺激によって外向き電流の

I

Ksが活性化 して

QT

間隔が短縮する.しかし,

KCNQ

に遺伝子異 常を有する

LQT1

患者では,この反応が障害されている ため,交感神経β受容体刺激により内向き

Ca

2+電流の 増加がそのまま再分極の遅延につながり,不応期のばら つきや活動電位第

3

相に早期後脱分極が生じて心室性不 整脈の発生をきたすことになる.

LQT1

患者では,交感 神経系が優位となる運動時や情動的ストレス時に失神発 作や突然死をきたしやすく,水泳中の心事故が多いこと も報告されている24).心電図では大きく幅広い

T

prolonged T wave duration

)が特徴的である25)

② LQT2

1995

年に

Curran

らが家族性

QT

延長症候群の

6

家系か

7

番染色体長腕

7q35-36

に存在して電位依存性

K

+チャ

ネルをコードしている

HERG

遺伝子に

6

ヶ所の変異を報

告 し た26)

HERG

Human

ether-a-go-go related gene

の略で

KCNQ

と同様に

6

回貫通型

K

+チャネルをコード

し,

minK-related peptide 1

MiRP1

)と云う

1

回貫通型

の蛋白と協調して遅延整流

K

+電流の速い成分(

I

Kr)を 形成する27)

I

Krは細胞外

K

+濃度が減少すると流れにく くなり,交感神経β受容体刺激には反応しない.

I

Krは 活性化が速やかで,

I

Ksとは反対に通常の心拍数あるい は徐脈時の再分極に関与して,活動電位持続時間を短縮 する.

HERG

遺伝子の変異があると外向き電流の

I

Krが 抑制されて活動電位持続時間が延長して心電図の

QT

延 長につながる.

HERG

遺伝子の変異を有する

LQT2

患者 では,電話のベルや目覚まし時計のアラームなどの聴覚 刺激によって失神発作や突然死が起こりやすいことが知 られている28).また,出産前後が多いことも報告されて いる.心電図では,平低化した

T

波やノッチを伴う

T

small or notched T wave

)が特徴的である25)

③ LQT3

1995

年に

Wang

らが家族性

LQTS

2

家系から

3

番染 色体短腕

3p21-24

に存在し,電位依存性

Na

+チャネルを コードしている

SCN A

遺伝子に変異があることを報告 した29).この遺伝子異常によって

Na

+チャネルの不活性 化が障害され,活動電位第

2

相以降にも持続的に内向き 電流が流れて,

QT

延長をきたす30).この遺伝子異常を 有する

LQT3

患者では,

QT

延長が徐脈依存性を示し, 失神発作や突然死は安静時や睡眠中に起こりやすいこと が報告されている24).心電図では,

LQT1

LQT2

の患 者の場合とは異なってきわめて特徴的な所見を呈し,

T

波の始まりが遅れて(

ST

部が長い)出現する(

delayed

onset of T wave

)25) ④ その他の遺伝子型(LQT4,LQT5,LQT6,LQT7)  その他の遺伝子型の臨床所見については,その頻度が 少ないこともあって系統だったものは報告されていな い.  

LQT4

の 原 因 遺 伝 子 の

Ankyrin-B

が 最 近 同 定 さ れ,

Na

+

/K

+ ATPaseや

Na

+−

Ca

2+交換系電流(

I

Na−Ca)などの細 胞膜蛋白の発現に関与することが報告されている31)

LQT4

患者では,突然死が運動後や情動ストレス時に多 く認められ,心電図所見としては安静時の著明な

QT

延 長が運動後にさらに強くなり,安静時の著明な洞性徐脈, 正弦様

TU

波と

long pause

後の

2

相性

T

波などが特徴的 な所見とされている.  

LQT5

は,

KCNQ

チャネルと協調して働く

minK

蛋白 をコードする

KCNE

に変異が認められ32)

I

Ks電流が関 与して

LQT1

と同様に運動や情動ストレス時に失神発作 を起こすことが多い.  

LQT6

HERG

チャネルと協調して働く

MiRP1

の変 異が報告されている27).安静時の

QT

延長は運動によっ てさらに延長し,運動時や薬剤投与時の

TdP

などが報告 されている.  

LQT7

は 周 期 性 四 肢 麻 痺 と 骨 格 異 常 を 合 併 す る

Andersen

症候群で33),その原因遺伝子として

KCNJ

同定されている34).臨床的には失神や突然死などをきた す重症例は比較的少ないとされているが,低カリウム血 症時に心室性不整脈が増悪することが報告されており, 心電図所見としては,前胸部誘導の著明な

U

波が特徴的 所見とされている. ⑤ Jervell-Lange Nielsen症候群

Jervell-Lange Nielsen

症候群は,きわめてまれな疾患

(6)

で あ る が, 現 在 ま で に

KCNQ

の 変 異 に よ る

JLN1

KCNE

の 変 異 に よ る

JLN2

が 報 告 さ れ て い る35),36)

KCNQ

は心臓以外に腎臓,脾臓,胎盤,肺などに発現 し21),またマウス内耳の血管条においても発現すること が報告されている35).血管条は内腔側から辺縁細胞層, 中間細胞層,基底細胞層の

3

層からなり,

KCNQ

チャ

ネルと

minK

蛋白は辺縁細胞層の

apical membrane

に局 在して

K

+の分泌に関与する37)

K

+分泌が抑制されると 内リンパの容積が減少し,有毛細胞も変性,脱落してい く38).前述のように

Jervell-Lange Nielsen

症候群は常染 色体劣性遺伝を示し,ホモ接合体でのみ聴覚障害が出現 する.ヘテロ接合体を有する両親には聴覚障害は認めら れないが,これはヘテロ接合体でも

K

+の分泌は減少し ているが,内リンパの容積を減少させるほどではないこ とによる.

3)予後

 これまでに報告された多数例の調査では,先天性

QT

延長症候群の死亡率は

0.9

2.6

/

年とされているが, 初回発作が突然死である症例もある.近年の遺伝子型に よる層別化の試みでは,

QTc 500 msec

½以上の

LQT1

LQT2

,男性の

LQT3

は危険度が高いとされている39)

LQT1

患者における心事故の初発年齢は

LQT2

LQT3

患者に比較して若く,

20

歳以降における心事故の初発 は少ないとされている.また,心事故の初発年齢は男性 が女性に比較して若く,

LQT1

の男性患者の調査では全 例が

15

歳以下で心事故が発生したという報告がある40) β遮断薬の投与は

LQT1

LQT2

患者の心事故を減少さ せるが,投与前の心停止を既往歴にもつ例では,β遮断 薬投与開始後の

5

年間に

14

%の例が致死的な心事故を起 こすと報告されている41)

Schwartz

らによれば,失神 発作の初発は平均

14

歳で,約半数は

12

歳までに失神発 作が生じる.失神発作の出現後

1

年以内の死亡率は

20

% 以上で,

15

年間に半数以上が死亡する.初回の心事故 が突然死になることもまれではなく,

7

8

%程度に認 められる42)

2

二次性 QT 延長症候群

(二次性 LQTS)

1)二次性 QT 延長症候群の原因

 先天性

QT

延長症候群以外に,薬剤や徐脈などが原因 で二次的に

QT

延長がおこり,

TdP

が発生することがあ る.これらは二次性

QT

延長症候群あるいは後天性

QT

症候群と呼ばれる.二次性

QT

延長症候群の分類とそれ をきたす薬剤や要因は表

1

に示した.このうち抗不整脈 薬については古くからキニジン失神として知られてい る.抗不整脈薬による

TdP

の頻度は,

2.0

8.8

%とされ るが43),44),抗不整脈薬以外の非循環系薬剤である向精 神薬,抗生物質,抗真菌薬,抗アレルギー薬,消化器疾 患薬なども

QT

延長をきたす45)−50).これらの抗不整脈 薬以外の薬剤による

QT

延長の頻度は

1/1

10

万人と見 積もられている50)  徐脈になると著明な

QT

延長をきたし

TdP

が発生する 例がある13),51)−53).この様な徐脈によって正常範囲を超 えて

QT

が延長するものは,徐脈依存性

QT

延長症候群 と呼ばれる.従って,洞不全症候群や房室ブロックなど の徐脈では,徐脈自体に加え

QT

延長による

TdP

も死因 となる.  その他の原因としては,電解質異常(特に,低

K

+血症) による例が良く知られている54).神経性食欲不振症

anorexia nervosa

)55)

Liquide diet

56), 甲 状 腺 機 能 低 下

症57),58),による

QT

間隔の延長から

TdP

を生じる報告が ある.また,中枢神経疾患の急性期には

QT

また

QTU

の延長や,深い陰性

T

波を示す例がある59).特にくも膜 下出血60)あるいは頭蓋内出血61)に伴って

QT

間隔が延長 し,

TdP

を生じる例がある.くも膜下出血

70

例のうち,

26

%に

500msec

以上の

QT

延長を認め,そのうち

3

例で

24

時間以内に

TdP

を生じたと報告されている60)

2)二次性 QT 延長症候群の発生素因

 二次性

QT

延長症候群における

QT

延長の機序は,多 くの場合

I

krが抑制されることより生じることが判明し ている62)−64)

I

Krが抑制されると,先天性

QT

延長症候 群と同様に,

QT

延長が延長し早期後脱分極(

EAD

)が 発生して

TdP

が起こる.しかし同じ薬剤を用いても,一 様に

QT

延長をきたすとは限らない.これは薬剤や徐脈 に対する個体差や感受性の差異があることを示してお り,さらにこの個体差の背景には心筋のイオンチャネル のレベルでの遺伝子異常や

SNP

が想定されている48),65)− 68).また,併用薬物や食品が抗不整脈薬の肝臓での代謝 を阻害したり,抗不整脈薬剤の蓄積や作用の増強を招き,

QT

延長の原因になることも多い69),70).一方,徐脈や期 外収縮などにより

RR

間隔の延長は,抗不整脈薬の投与 や電解質異常による

QT

延長の増悪因子となる52),71).二 次性

QT

延長症候群は女性により多くみとめているが 72),その原因は完全には解明されていないが,心筋のチ ャネルにおける性ホルモンの影響も一因と考えられてい る.

(7)

2

QT 延長症候群の発生機序

QT

延長症候群(

LQTS

),特に先天性

LQTS

における

QT

延長の成因と

Torsade de Pointes

TdP

)の発生機序 を論ずるには,イオンチャネル機能に関係する遺伝子 異常を切り離して考えることはできない.先天性

LQTS

の遺伝子診断の詳細は,第Ⅲ章−

6

項:先天性

QT

延長 症候群の遺伝子診断の項にゆずるが,先天性

LQTS

Romano-Ward

症候群では,現在までに

10

個の遺伝子型 が報告されている73).いずれの遺伝子型でも,外向き

K

+電流が減少(

LQT1

2

5

6

7

),内向き

Na

+電流 が増加(

LQT3

9

10

),または内向き

Ca

2+電流が増加

LQT4

8

)することにより活動電位持続時間(

APD

) が延長し,共通の表現型である心電図上の

QT

延長を呈 する.

1

QT 延長症候群の発生機序解明の

ためのアプローチ

LQTS

患者における

QT

延長や

TdP

の発生機序解明の 臨床的アプローチとして,電気生理検査時にカテーテル 電極を心内膜に押し付けることにより,心筋局所の活動 電位波形を記録する単相性活動電位(

monophasic action

potential

MAP

)記録が用いられてきた51),74)−77)

MAP

は,拍動心において心筋細胞外から心筋細胞内の活動電 位波形を記録する方法である78)

MAP

の振幅や第

0

立ち上がり速度(

Vmax

)は細胞内電位の実測値を反映 しないが,第

2

相から第

3

相にかけての再分極過程は比 較的忠実に反映され,

MAP

持続時間と活動電位持続時 間(

APD

)や有効不応期はよく相関する.  一方,実験的アプローチとしては,動脈灌流心室筋切 片標本を用いた実験的

LQTS

モデルによる検討から,

QT

延長,各遺伝子型の異常

T

波の細胞学的成因や

TdP

の発生機序がさらに詳細に解明された79)−81).動脈灌流 心室筋切片は,心室筋各層,すなわち心外膜(

Epi

)細胞, 心筋中層に存在し

APD

の長い

mid-myocardial

M

)細胞, 心内膜(

Endo

)細胞,プルキンエ細胞,の活動電位と 貫壁性双極心電図の同時記録を可能とした実験標本であ る.

2

先天性 QT 延長症候群における

異常 T 波の細胞学的成因

 先天性

LQTS

で頻度の多い

LQT1

LQT2

LQT3

患者 では,それぞれ幅広い(

broad-based

T

波,ノッチを伴 う平低(

low-amplitude

notched

T

波,

ST

部分の長い (

late-appearing

T

波が特徴的とされている82).動脈灌 流左室心筋切片を用いた薬理学的

LQTS

モデルにより, いずれの遺伝子型でも,

Epi

細胞から

Endo

細胞にかけ ての貫壁性の活動電位プラトー相の電位勾配が異常

T

波 の成因に関与することが示唆されている79)−81)

3

先天性 QT 延長症候群における

著明な QT 延長と TdP の発生機序

MAP

記録を用いた臨床研究により,

QT

時間の延長は

MAP

持続時間(

MAPD

)の延長によることが証明され(図 1)51),74),また,イソプロテレノールやエピネフリンな どのカテコラミン点滴静注により早期後脱分極(

early

afterdepolarization

EAD

)様の

hump

が記録され(図1)

74),75)

TdP

1

拍目の心室期外収縮の機序として,

EAD

からの撃発活動が関与することが直接的に証明されてい

る75).一方,カテコラミン投与により心室筋各部位の

MAPD

のバラツキ(

spacial dispersion of repolarization

SDR

)も増大し,

TdP

の維持には

SDR

の増大によるリ エントリーも重要と考えられる74).その後,動脈灌流左 室心筋切片を用いた薬理学的

LQTS

モデルにより,先天 性

LQTS

患者における

TdP

の細胞学的成因がさらに明ら かとなった79)−81)

LQT1

LQT2

LQT3

の各モデルでは, しばしば心室期外収縮(単発または連発)の

2

段脈に引 き続いて自然発生

TdP

が誘発される(図2−A,B).自 然発生

TdP

を認めない場合でも,

APD

が最短の

Epi

細胞 からの単発期外刺激により容易に

TdP

が誘発される79), 80(図2−C).

TdP

の引き金となる心室期外収縮は,比 較的

QRS

幅が狭く,心内膜細胞側からのペーシング波 形と同じ極性を示すことから,

M

細胞または

Endo

側の プルキンエ細胞を起源とする

EAD

からの撃発活動が機 序であると考えられているが,心外膜から発生している 可能性も否定されていない.一方,いずれの

LQTS

モデ ルでも,

M

細胞の

APD

の相対的な延長により

transmural

dispersion of repolarization

TDR

) が 増 大 し て お り,

TdP

2

発目以降の機序には,心室筋各部位の

SDR

の増 大に加えて,貫壁性の

TDR

の増大を基質とするリエン トリーも重要であると考えられる.図3に臨床的および 実験的検討により考えられる先天性

LQTS

QT

延長お よび

TdP

の発生機序を示す.

4

二次性 QT 延長症候群における

QT 延長と TdP の発生機序

 二次性

LQTS

では,

IA

群やⅢ群抗不整脈薬などの

I

Kr 遮断作用を有する薬剤,低

K

+血症などの電解質異常, および徐脈などを原因として発症する場合が多い.一部

(8)

の二次性

LQTS

患者では,

LQT1

LQT2

LQT3

の原因 遺伝子上の変異が報告されており68),83),84),軽度のイオ ンチャネル機能異常が存在するため,

I

Kr遮断作用のあ る薬剤などの増悪因子が加わった場合に,後天性

LQTS

に特徴的な巨大陰性

T

波や著明な

QT

延長を認め,

TdP

を発症するものと考えられている.動脈灌流心室筋切片 標本で,

I

Ks遮断により潜在的な

K

+チャネル異常を模擬 し,これに

I

Kr遮断薬を追加することにより作成した後 天 性( 薬 剤 誘 発 性 )

LQTS

モ デ ル で は85)

I

Ks遮 断 薬 (

Chromanol 293B

)の少量投与で,

QT

時間は軽度延長 するが

TDR

は変化しない.しかし,

I

Kr遮断薬の

E-4031

を追加投与すると,

Epi

細胞の

APD

M

細胞や

Endo

胞の

APD

に比べ著しく延長し,これに伴い

QT

時間と

TDR

は著明に増大し,薬剤誘発性

LQTS

TdP

発症直 前にしばしば認める巨大陰性

T

波が再現される.また, 主に

Epi

細胞から

EAD

が出現し,

TdP

が発生することも 報告されている85)

5

まとめ

 先天性および二次性

LQTS

のいずれにおいても,著明 な

QT

延長や異常

T

波の成因には,心室筋

APD

の著明な 延長と,貫壁性の活動電位プラトー相の電位勾配および そのバラツキの増大が関与する.

TdP

の機序としては,

TdP

1

拍目の心室期外収縮は

EAD

からの撃発活動を 機序とするが,

TdP 2

発目以降の機序には,貫壁性およ び心室筋各部位の再分極時間のバラツキの増大を基質と するリエントリーと考えられる. 図 1 先天性 QT 延長症候群の単相性活動電位(MAP)記録 先天性QT延長症候群(LQTS)患者と対照群患者におけるイソプロテレノール(1μg/分)持続点滴前後の単相性活動電位(MAP) 記録  各段とも上からV3誘導,右室前壁(RVant)または右室中隔(RVsep)のMAPを示す.心房ペーシングにより心拍数は500msec に固定にしてある.先天性QT延長症候群では,イソプロテレノール後に修正QT時間(QTc)の延長(570→620msec1/2)に一致して, MAP上に早期後脱分極(EAD)が出現し(矢印),90%MAP持続時間(MAPD90)も延長(325→420msec)している.これに対 して対照群では,イソプロテレノール前後ともEADは記録されず,QTc,MAPD90とも変化は認めない.(文献74から引用)

(9)

3

Brugada 症候群の概論

1

Brugada 症候群とは

Brugada

症候群は心電図で右脚ブロック様波形と,

V1

V3

誘導における

coved

型または

saddle back

型の

ST

上 昇を呈し,主として若年∼中年男性が夜間に心室細動 (

VF

)で突然死する疾患である.本症候群は

1992

年,

Brugada

らによりその疾患の概要が報告されたが86),そ の後の研究により,東南アジアにおける夜間突然死症候 群87)や,日本における“ぽっくり病”88)の主たる原因疾 患であると考えられている.本疾患には失神や

VF

等の 症状を伴う有症候性と,心電図異常を有するが症状のな い無症候性があり,有症候性の予後は概ね不良だが,無 症候性の予後は一部を除いて比較的良好とされている. これらには一般に器質的心疾患は認められないが,心筋 の

Na

+チャネルのαサブユニットをコードする

SCN5A

遺伝子の変異が

15

25

%で認められる2)

2

Brugada 症候群の疫学

Brugada

症候群の有病率,発症率に関しては数多くの 報告がある89)−97).しかしながら

Brugada

症候群は報告 された当初,右脚ブロックを伴うとされていた86)ことか ら,当初は右脚ブロックを合併する症例を

Brugada

症候 群とし,かつ右前胸部誘導において,

J

点で

0.1mV

以上

の上昇(

coved

型または

saddle back

型)を

ST

上昇と定

義していた.現在では

Brugada

症候群には正常

QRS

幅 の症例が

1/3

程度存在することが判明しており98),右脚 ブロックは必須の所見とされなくなっている. 図 3 先天性 QT 延長症候群の QT 延長と TdP 発生機序 貫壁性(Epi-M-Endo 細胞)再分極時間のバラツキ(内因性) 遺伝子異常(KCNQ1,KCNH2,SCN5A,ANKB KCNE1,KCNE2,KCNJ2,CACNA1C,CAV3,SCN4B) QT 延長 貫壁性再分極時間 (不応期)のバラツキ↑ QT 延長 貫壁性再分極時間 (不応期)のバラツキ→ 再分極電流↓ 各細胞群 APD の均一な延長 M 細胞 APD の選択的延長 EAD からの異常自動能(期外収縮)  β受容体刺激 Torsade de Pointes(リエントリー) LQT1-10 LQT2,(6),3 LQT1,(5)

(IKs↓,IKr↓,IK1↓,lateINa↑,[Ca2+]I,ICa↑)

図 2  動脈灌流左室心筋切片標本の先天性 QT 延長モデルにお いて誘発された Torsade de Pointes M,心外膜(Epi)細胞の活動電位と心電図(ECG)の同時記録 A,Bは,LQT1,LQT2モデルで誘発された自然発生Torsade de Pointes(TdP),Cは,LQT3モデルで心外膜細胞からの単発 期外刺激により誘発されたTdPを示す.自然発生TdPの第1拍 目の心室期外収縮は比較的QRS幅が狭く,心内膜側からのペ ーシング波形(S1)と同じ極性を示すことから,M細胞または 心内膜側プルキンエ細胞を起源とすると考えられる(A,B). 一方,M細胞の活動電位持続時間(APD)が著明に延長し,貫 壁性再分極時間のバラツキが増大した状態で,APDが最短の Epi細胞からの期外刺激により容易にTdPが誘発されることか ら,TdPの2発目以降の機序は,リエントリーの可能性が示唆 される(C).(文献79,80,81を改変)

(10)

Miyasaka

らは,守口市の

40

歳以上の健診で,右脚ブ ロックで

0.1mV

以上の

ST

上昇を呈する人は全体で

0.70

%,男性では

2.14

%に達すると報告している89).また

Funahashi

らも右脚ブロックを伴う

0.1mV

以上の

ST

上 昇を

0.14

%に認め,そのほとんどが男性であったとして いる90).一方,

Matsuo

らは長崎原爆の被爆健診受診者 の心電図において,

0.1mV

以上(右脚ブロック非合併例 を含む)の

ST

上昇を

0.15

%に認めている91)  これら

ST

上昇に関してはそのタイプを

coved

型に限 定すると,頻度はかなり減少する.

Atarashi

らは右脚ブ ロックと,

0.1mV

以上の

coved

ST

上昇を呈した人の 比率は

0.16

%であり,その全員が男性であったと報告し ている92).また

Miyasaka

らはその比率を

0.12

89),戸 兵らは

0.07

%(全員男性)93)

Funahashi

らは

0.045

%(全 員男性)90)と報告し,欧州では

Hermida

らが

0.1mV

以上

coved

ST

上昇の有病率を

0.1

%と報告している94)

ST

上昇を

J

点>

0.2mV

とした検討は

Sakabe

らから出さ れている95).彼らは

18

才以上の

10

年間の健診データに

おいて,

coved

型または

saddle back

型の

ST

上昇が平均

1.22

%に,

coved

型の

ST

上昇が平均

0.28

%に認められ, そのほとんど(

97

%)が男性であったと報告している.  一方,小児,または学童における本症候群の頻度は, 成人に比べ著明に少ない.戸兵らは小中学生で

0.1mV

以 上 の

coved

ST

上 昇 が

0.01

% に 見 ら れ た と し93)

Yamakawa

らは右脚ブロックを伴う

0.1mV

以上の

coved

型または

saddle back

型の

ST

上昇が,

6

才∼

15

才の

0.054

%に認められ,その

91

%が男児であったと報告してい る.彼らは,

Brugada

型心電図を示す症例の比率は年齢 と共に増加し(

6

才:

0.01

%,

9

才:

0.05

%,

12

才:

0.08

%,

15

才:

0.23

%),

coved

型 の 頻 度 は

0.039

% で,

0.2mV

以上の

coved

ST

上昇(

type 1

)の頻度は

0.005

%にすぎないとも述べている96).同様に

Oe

らも

21944

人の

6

才児の健診成績から,

type 1

の頻度は

0.005

%で,

type 2

3

を含めた

Brugada

症候群の頻度は

0.02

%である と報告している97).以上より,日本人学童の

type 1

心電 図の有病率は

0.005

%程度,成人の有病率は

0.1

0.2

% 程度で,加齢と共にその比率は増加すると推測される.  

Matsuo

らは,初診時に

50

才以下の被爆健診受診者の

40

年間の心電図記録から,

Brugada

症候群の発症率は年 間

0.014

%であり,

30

台から

40

台にかけて発症のピーク があり,その平均発症年齢は

45

才で,男性は女性の

9

倍も

Brugada

症候群になりやすいと報告している91)  これらの健診症例のほとんどは無症候性

Brugada

症候 群と思われるが,その予後は概ね良好である.

Matsuo

らは

40

年間で

32

人中

7

人の予期せぬ死亡(うち

5

人は 突然死)があったとし91)

Sakabe

らは平均

4

年の経過観

察で

69

人中

saddle back

型の

1

人が95)

Miyasaka

らは平

2.6

年の経過観察で

98

人中

saddle back

型の

1

人が死亡 し89)

Atarashi

らは

3

年間の経過観察で,

67

人中

coved

型の

1

人に

VF

が生じたと報告している92).これらの報 告では不整脈死または突然死が生じた比率は,年間約

0.5

%(

180

人∼

280

人に

1

人)であるが,

Hermida

Oe

らの報告では,

4

年または

7

年の経過観察にも関わらず, 死亡者はいない94),97)

3

Brugada 症候群の臨床所見

(表2)  本症候群は男性に多く,欧米の報告では全症例の

72

76

%を男性が占める99)−102)

45

才未満での突然死の 家族歴は,全体の

22

55

%の症例に認められると報告 されている.しかしながらこれら家族歴や性比率は登録 表 2 日本と欧米の Brugada 症候群の特徴 循環器病委託研究 Brugada* Priori** 有症候 無症候 有症候 無症候 有症候 無症候 総数(例) 144 268 144 190 48 152 男女比 139/5 251/17 120/24 135/55 152/48 平均年齢(才) 51.2 53.4 41 突然死(家族歴) 19% 15% 34% 72% 29% 初発年齢(才) 33 46 33 夜間発症率 66% 心室性不整脈出現率 51% 心房細動出現率 29% 12% 薬剤負荷陽性率 53%(50/96) 63%(97/154) 41.50% VF誘発率(EPS) 71%(87/123) 52%(65/125) 73% 33% VF/VT誘発率(EPS) 81% 62% 65% 68% SAECG陽性率 70%(66/95) 63%(89/141) VSA誘発率 22%(15/67) 18%(7/38) VF:心室細動,VT:多形性心室頻拍,EPS:電気生理検査,SAECG:加算平均心電図,VSA:冠攣縮 *文献100より引用 **文献101より引用

(11)

の手法により大きく異なる.無症候性の多くを有症候性 の家系から抽出した欧米の研究でこれらの比率が高い が,主として弧発例が集積された本邦の登録調査(循環 器病委託研究)では男性の比率が

94

%と多く,突然死 の家族歴を有する例も

16

%にとどまっていた103)

VF

発作は安静時または夜間睡眠中に生じやすい.委 託研究では夜間(

20

時から

8

時)発症例が

66

%を占め, その

51

%で急性期に心室期外収縮が認められた.また

VF

の他に心房細動(

AF

)も合併しやすく,有症候性で

29

%,無症候性で

12

%に

AF

が認められ,そのほとんど が発作性

AF

であった.さらに冠攣縮性狭心症や神経調 節性失神も合併しやすいことが知られており,委託研究 では冠攣縮性狭心症がアセチルコリンまたはエルゴメト リンで

20

%前後の症例に誘発されていた103)  本症候群ではピルジカイニド,フレカイニド,アジマ リン等の

Na

+チャネル遮断薬投与後に

60

90

%の例で

ST

が上昇し,一部の例では心室性不整脈や交代性

T

波 が出現することが知られている104)−106).一方,運動負 荷中やイソプロテレノール投与中には

ST

上昇が改善(正 常化)するが,負荷後や投与後には再上昇する.この他,

Ca

2+拮抗薬,β遮断薬,向精神薬,低

K

+血症,発熱等

ST

が上昇することが報告されている6).また

60

80

%の症例で加算平均心電図が陽性となる106)−108).委託 研究では薬剤負荷後

type

1

ST

上昇を呈したのは,有 症候性

53

%,無症候性

63

%,運動負荷後に

ST

再上昇が 認められたのは,有症候性

76

%,無症候性

74

%,加算 平均心電図で

3

指標のうち

2

指標以上を満たした陽性率 は,有症候性

70

%,無症候性

63

%で,いずれも両群間 に有意な差が認められなかった103)  電気生理検査(

EPS

)では

2

連発または

3

連発の心室 早期期外刺激で

50

80

%の例に

VF

や多形性心室頻拍 (

VT

)が誘発され,その誘発率は無症候性よりも有症候 性で有意に高いとされている99)−102).委託研究において も,

VF

誘発率は有症候性が無症候性に比べ有意に高か ったが(

71

vs 52

%),

VF/

多形性

VT

の誘発率には差 が認められず(

81

vs 62

%),

VF

は右室心尖部よりも 右室流出路からの期外刺激で誘発されやすかった(

27

vs 59

%)103)

4

Brugada 症候群の予後

 これまでの欧米の登録研究では,有症候性の予後は悪 く,

VF/

心蘇生群では

17.4

/

年,失神群では

6.2

/

年 の頻度で,重篤な心事故を発症する.また無症候性も

3.7

/

年の頻度で心事故を発症するが,中でも自然の

type 1 ST

上昇を有する例の心事故発生率は

6.2

/

年で あると報告されている99),100).しかしながらこれら欧米 の研究では,安静時または薬剤負荷後に

type 1

となる例 だけを登録対象としている.つまり,それ以外のタイプ

Brugada

症 候 群(

saddle back

例 や

12

誘 導 心 電 図 で,

ST

上昇が

2mm

に達さない例など)の予後は未検討であ り,明らかにされていない.   委 託 研 究 で は す べ て の タ イ プ の

ST

上 昇 を 伴 う

Brugada

症候群を対象として,

2001

年より

2005

11

月 までに計

468

例(有症候性:

163

例,無症候性:

305

例) が集積された.その結果,有症候性は平均

32

ヶ月(最 頻値:

45

ヶ月)間経過観察され,

27

例(

17

%)に心事 故(

VF

による

ICD

作動:

25

例,死亡:

2

例)が認めら れた.このうち

24

例は

VF/

心蘇生群に,

3

例は失神群に 出現した.無症候性は平均

36

ヶ月間観察され,

4

例(

1

%) で心事故(

VF

による

ICD

作動:

2

例,死亡:

2

例)が認 められた.これにより有症候性のうち,

VF/

心蘇生群の 年間心事故発生率は

11.5

%となり,従来の欧米の報告 (

VF/

心蘇生群:

17.4

%)に近似したが,失神群の年間 心事故発生率は

1.4

%で欧米の報告(

6.2

%)より有意に 低かった.また,無症候性の年間心事故発生率も

0.5

%で, 欧米の報告(

3.7

%)に比べ明らかに低かった.この数 値は疫学調査における年間の突然死発生率と一致してい た.また,

type

1 ST

上昇を有する(薬剤負荷後の

ST

上 昇を含む)無症候性の年間心事故発生率も

0.68

%,この うち安静時の心電図で

type 1 ST

上昇を示す群の年間心 事故発生率も

1.0

%で,欧米の報告の

6.2

%より有意に低 いことが判明した.

4

Brugada 症候群の発生機序

Brugada

症候群は,明らかな器質的心疾患を有さず,

12

誘導心電図の右側胸部誘導(

V1-V3

)における特徴 的な

ST

上昇と心室細動(

VF

)を主徴とする症候群とし て報告された86)が,その後の検討により,症状を有さず 特徴的な

ST

上昇のみを示す症例も少なくないことが明 らかとなってきた.特徴的な

ST

上昇には上向きに凸の

coved

型(弓型)と,下向きに凸の

saddle back

型(馬の

鞍型)があり,とくに

coved

型が

VF

発生に密接に関係 していると考えられている.

2002

年の第

1

Brugada

症 候群コンセンサス会議では,特異的な

ST

上昇が

3

つの パターンに分類された109)が,

2005

年の第

2

回目の会議 では

Na+

チャネル遮断薬の投与の有無にかかわらず,

coved

ST

上昇を示すことが診断の必須条件となって いる6).さらに

1

VF

2

)多形性心室頻拍,

3

45

歳以 下の突然死の家族歴,

4

coved

ST

上昇の家族歴,

5

(12)

因が不明であり,

SCN A

以外の遺伝子異常や,その他 の要因の関与が考えられる.同定された

SCN A

の変異 遺伝子を用いた発現実験・機能解析によれば,

Na

+チャ ネル機能異常には,

Na

+チャネルの機能欠損,

Na

+チャ ネ ル ゲ ー ト 機 構 の 異 常, 細 胞 内 蛋 白 移 送 の 異 常 (

trafficking defect

)などが報告されているが,共通する 機能異常は

Na

+電流の減少(

loss of function

)である2), 112),113)

Na

+電流の

loss of function

Brugada

症候群の特徴的

な心電図波形や

VF

発生との関連については,現時点で は

Antzelevitch

らの犬の動脈灌流右室心筋切片を用いた 実験的

Brugada

症候群による右室心筋細胞の貫壁性電位 勾配での説明が最も有力視されている(図4)113),114)

2

特徴的心電図の機序

 心外膜細胞と心内膜細胞の活動電位波形を比較する と,脱分極は心内膜側細胞で早期に生じ,再分極は心外 膜側が早期に終了する.したがって,活動電位持続時間 (

APD

)は心内膜側細胞で延長している.さらに活動電 位第

1

相の

notch

形成に違いがある.心外膜細胞では第

1

相に

notch

を認めるのに対して,心内膜細胞では

notch

を認めない.ヒトを含めた多くの動物で,この

notch

形 プログラム刺激による

VF

誘発,

6

)失神発作,

7

)夜間 瀕死期の呼吸のうち

1

つ以上を認める場合を

Brugada

症 候群と診断すると記載されているが,今後の研究によっ てはこの診断基準も変わる可能性がある.また,本邦で は通常肋間の右側胸部誘導記録では

ST

上昇が軽度ある

いは

saddle back

型であっても,高位肋間記録で

coved

ST

上昇を示す場合も,

Brugada

症候群と同様の電気生理 学的基盤を有するものと考えている専門家が多い.これ は,異常部位とされる右室流出路の電気的現象が上方の 肋間の右側胸部誘導心電図でより反映される症例が存在 するからである.

1

Brugada 症候群の遺伝子異常

Brugada

症候群のなかには家族性の発症も少なくな い.

1998

年に,ヒト心筋

Na

+チャネルαサブユニットを コ ー ド す る

SCN A

の 変 異 が 報 告 さ れ た2). し か し,

SCN A

の変異が同定されるのは

Brugada

患者の

18

30

%である.さらには,

SCN A

は,

3

型先天性

QT

延長症 候群や

Lev-Lenegre

病,家族性洞機能不全症候群の一部 の例における原因遺伝子でもあり110)

1

つの遺伝子変異 により

2

つの病態が合併する症例や異なる表現形を示す 家族例の報告もある111).また,残りの

70

80

%では原 文献113より改変引用 図 4 Brugada 症候群において推定される心電図変化の機序

(13)

成には一過性外向き

K

+電流(

I

to)が直接的に関係する.

I

toは同じ心外膜細胞でも,左室に比べて右室とくに右室 流出路で豊富である.また,

notch

形成には,第

0

相脱 分極に関与する

Na

+電流や

notch

に引き続く

dome

の形成 に関与する

L

Ca

2+電流も間接的に影響する.

I

toや他の 外向き

K

+電流である遅延整流

K

+電流(

I

k),

ATP

感受性

K

+電流などの増加,あるいは内向き電流(

Na

+

Ca

2+ が減少した場合には,心外膜細胞の

notch

がさらに深く なり,引き続く

dome

形成に影響を及ぼす.心内膜側の 細胞ではこのような変化は起こらない.したがって,正 常状態の右側胸部誘導では

ST

部分はほぼ基線に記録さ れる(図4−A)が,心臓の活動電位の立ち上がり(脱 分 極 ) に 大 き く 関 与 す る

Na

+電 流 の 抑 制(

loss of

function

)があると,

I

toと拮抗することができないため 心外膜側細胞の

notch

が深くなる.その結果,心外膜側

細胞でいわゆる

spike and dome

の形状が顕著となる.こ

の際,電位勾配により

ST

の上昇(

J

波)が認められるが,

心外膜側細胞の

APD

延長が軽度で,心内膜側細胞の

APD

より短いままであれば,

saddle back

ST

上昇とな る(図4−B).さらに,内向き電流が減少すると(内 向きの

Ca

2+電流背景の減少も関与する),

notch

は大きく 深くなり,これに続くドーム部分が遅れて心外膜側細胞 で活動電位の再分極が心内膜側より遅れる.この結果, 上に凸の

ST

上昇に続いて

T

波の終末部は陰性化する(図 4−C). こ の 形 状 が

Brugada

症 候 群 の 特 徴 と さ れ る

coved

ST

上昇である.

Notch

がさらに深くなり,

Ca

2+ 電流の流入が不活化されると

dome

が消失する(

loss of

dome

).これらの

dome

の遅延や消失は心外膜細胞間で も不均一に生じるため,心外膜間細胞間で

dome

が消失 する細胞と保たれる細胞が近接すると,細胞間で再分極 時 間 の 大 き な ば ら つ き が 生 じ( 図4−D),

phase 2

reentry

が生じる(図4−E).

3

日差変動の機序

ST

上昇には経時的な変化がみられることも知られて いる.また,

Na

+チャネル遮断薬,

Ca

2+チャネル遮断薬, β遮断薬,三環系あるいは四環系抗うつ薬,α交感神経 刺激薬などの薬剤や,迷走神経緊張,発熱などにより

ST

上昇が顕著になることがある115).とくに,

Na

+チャ ネル遮断薬に鋭敏なことから,診断のためにも用いられ る.本邦ではピルジカイニド

1mg/Kg

10

分かけて静 注する方法が行われることが多い.β交感神経刺激薬で あるイソプロテレノールなどは,

Ca

2+電流の流入を促進 することにより

ST

上昇を改善させる115)

I

toの遮断作用 のあるキニジンによっても

ST

上昇が正常化する症例や

VF

発生が抑制される例がある116),117)

4

伝導遅延の関与

 このように再分極異常による説明でも

Brugada

症候群 の発生機序は説明可能であり,臨床例でも右室流出路の 心 内 膜 側 お よ び 心 外 膜 側 の 単 相 性 活 動 電 位 で,

Antzelevitch

らの実験と類似した波形が記録された報告 がある118).しかし,

Aiba

119)

Antzelevitch

らと同様 の実験モデルに高感度光マッピング法を用い,心室期外 収縮とその後に引き続く多形性心室頻拍や

VF

の機序を 検討したところ,心室期外収縮は

dome

が消失した部位 と保たれている部位が近接し,

AP

の電気的勾配が大き くなると

phase 2 reentry

により発生するが,引き続いて 生じる頻拍が多形性心室頻拍で自然停止するか,あるい は

VF

へと移行するかの違いには伝導遅延の関与がある 可能性を示した.また,

Brugada

症候群例では加算平均 心電図で心室遅延電位が記録される例が多いこと107) 右室流出路心外膜側の電位記録で分裂電位が記録される 例があること120)

QRS

幅の広い例や左軸変異のある例,

HV

時間の延長例がみられること,

SCN A

の変異が認め られている例でも若年時ではなく

30

50

代になって

VF

が発生しやすくなることなどは

Brugada

症候群の発症機 序に再分極異常のみならず伝導異常の関与があることが 示唆する所見と考えられる.また,

ST

上昇も脱分極異 常で説明可能とする報告もある121),122)  したがって,

Brugada

症候群における

VF

の発生や維 持には,再分極の異常のみではなく,その程度は不明で あるが脱分極異常(伝導異常)も関与しているものと考 えられる.また,解剖学的な異常である組織の線維化の 関与も否定できない123),124)

Brugada

症候群の発生機序 には未だ不明な点もあり,さらなる検討が必要である.

先天性QT延長症候群の診断

1

概 論

1

小児期の QT 延長症候群の診断上の

問題

QT

延長症候群は両側性難聴と心電図上

QT

延長を示 す 常 染 色 体 劣 性 遺 伝 形 式 を と る 症 候 群(

Jervel and

Lange-Nielsen syndrome

)として

1957

年に最初に報告さ

参照

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