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2.マネジメント・コントロール・システムにおける組織文化

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要 旨

 マネジメント・コントロール・システム(Management  Control  Systems。以下、MCS と 略称)研究において、組織文化概念をどのように用いるべきか明確な定めはない。そこで本 論の目的は、MCS のツールに対する組織文化の影響に関する研究の意義と課題を明確にす ることである。研究意義を明らかにするため、MCS 研究において組織文化を取り扱う先行 研究のレビューを実施した。また、研究者ごとで様々な組織文化の定義が用いられている中、

これらを整理することで、共通見解として用いることのできる定義を明確にした。

 次に研究課題として、MCS 研究における組織文化研究において採用する研究アプローチ の検討を行い、今後の研究アプローチの概念図を提示した。本論では MCS の具体的なコン トロール手段として予算を取り上げる。そして、予算管理方法に対して組織文化がどのよう な影響を与えるかを明らかにするため、研究アプローチの検討をこの概念図に基づいて行 う。この概念図のもと今後の研究課題を明示し本論の帰結とする。

1.はじめに

1.研究目的

 本論は、「組織文化がマネジメント・コントロール・システムにおけるコントロール手段 に与える影響はどのようなものであるか」というリサーチ・クエスチョンを始点としている。

具体的には、「同一の MCS のツールを用いているにも関わらず、企業間で異なる事象、結 果が生じる要因の 1 つに組織文化が関係しているのではないか」、「MCS に対する組織文化 の影響サイクルはどのように構成されているのか」を明らかにしたいと考えている。本論は MCS のツールに対する組織文化の影響に関する研究の始点として、MCS 概念および組織文 化概念を整理し、研究の意義および課題の提示が目的である。

 本論ではまず、MCS 研究において組織文化がどのように扱われているのかを明確にする。

これにより、MCS 研究を行う上で組織文化を検討する必要性を示す。この検討では、先行 研究を規範的研究と経験的研究の 2 つに分類した上で、それぞれの研究における組織文化の

マネジメント・コントロール・システムにおける 組織文化研究の意義と課題

上田 巧

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取り扱われ方に関するレビューを行う。

 次に、組織文化という抽象的な概念の検討にあたり、先行研究において組織文化がどのよ うに定義されているのかを明らかにする必要がある。このため、組織文化の定義について先 行研究のレビューを行う。このレビューは、研究者ごとに異なる組織文化の共通見解となる 定義を見出すことが目的である。レビューにあたり、飯田[1993]における組織文化の 9 分類を中心に、その他の先行研究における組織文化の定義と比較検討を行う。

 上記の先行研究のレビューにより、MCS を検討するにあたって組織文化を取り扱う必要 性と、組織文化の共通見解となる定義を明確にする。これらが、MCS における具体的なコ ントロール手段と組織文化の関連性の検討における始点となると考えている。そして、

MCS の具体的なコントロール手段に対する組織文化の影響に関する研究における今後の方 向性および研究アプローチを提示し、今後の課題を明確にすることを本論での帰結とする。

2.マネジメント・コントロール・システムにおける組織文化

2.1.  マネジメント・コントロール・システムの定義

 まず、先行研究における MCS の定義について確認し、MCS の目的を明確にする。

 Anthony [1988]は、MCS を「経営管理者が、組織の戦略を実行するべく、他の組織成 員に影響を及ぼすプロセス」(1)[p.10]と定義している。

 Simons [1995]は、MCS を「マネジャーが組織活動の様式を維持または変化させるため に活用する情報ベースの公式的な手順や手続である」[p.5]と定義している。

 また、Merchant and Van der Stede [2017]は、「MCS は、従業員の行動や意思決定の実 行を確実にするために、組織の目的や戦略によって構成される、マネジャーが実行するすべ ての方策やシステムを含むものである」[p.8]と定義している。

 これらの先行研究からわかるように、MCS は戦略目標達成のための組織構成員への影響 システムとして考えられる。この目的に対して、どのようなコントロール手段を検討すべき なのかを次項において考察する。

2.2.  マネジメント・コントロール・システムの拡張

 MCS を戦略目標達成のための組織構成員への影響システムと考えた場合、実際に MCS がどのような手段で組織構成員をコントロールするかの検討が重要となる。

 この検討にあたり、MCS が様々なコントロール手段から構成されるようになったとする MCS の拡張という概念を取り上げる。MCS 概念の拡張とは、戦略の実行のために用いられ

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(1)  この定義は、Anthony [1965]自身が先に示した定義とは微妙に異なる。

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る MCS のコントロール手段が財務的コントロールのみから、非財務的コントロールも含ま れるように変化したと考えるものである。先行研究では、MCS 概念の拡張について次のよ うに指摘されている。Otley [1980]は「様々な目的を達成するために、様々なタイプのコ ントロールが用いられている。そのため、様々な目的を果たすために幅広いコントロール・

メカニズムを同時に用いることは、特定のコントロール手段の影響を分離することを困難な ものとしている」[p.423]と指摘している。Flamholtz [1983]は、「予算や会計システムは、

それら単体ではコントロール・システムとしてみることはできない。むしろ、綿密に設計さ れた組織的コントロールのトータル・システムの一部とみなすべきである」[p.168]と指摘 している。Chenhall [2003]は、「MCS は管理会計システム(Management Accounting Sys- tems。以下、MAS と略称)より広い概念であり、人的コントロールやクラン・コントロー ルなど会計以外のコントロールも含むものである」[p.129]と指摘している。福嶋[2012]

においても同様に、非財務的なコントロールを加味する必要性および MCS をコントロー ル・パッケージとして検討する必要性が指摘されている。

 これらの指摘からコントロール手段の検討にあたり、財務的コントロールだけではなく、

非財務的コントロールも含める必要があることがわかる。

 財務的コントロール以外にも様々なコントロール手段を含める必要性は明らかとなった が、次にどのようなコントロール手段を取り入れて MCS を検討するべきなのかという課題 が生じる。そこで、MCS にどのようなコントロール手段が含まれる必要があるかを検討す る軸となる、コントロール・パッケージ概念を取り上げる。

 財務的コントロールと非財務的なコントロールを一体とし、MCS をパッケージとして捉 える必要があることを主張したのが、Malmi  and  Brown [2008]である。Malmi  and  Brown 

[2008]のコントロール・パッケージに組み込む具体的なコントロール手段は後述する。こ の Malmi and Brown [2008]のコントロール・パッケージ概念が脚光を浴びたことからも、

MCS の概念が拡張しているといえよう。

 以後、MCS におけるコントロール手段が拡張しているとの前提のもと、組織文化を MCS 研究において検討する必要性を示す。

2.3.  MCS における組織文化の研究の必要性

 MCS 概念の拡張により、財務的コントロールのみならず非財務的コントロールも含める 必要性が確認された。非財務的コントロールは多種多様な対象をコントロールの対象として 設定するが、その対象に組織文化も含まれるのかを検討する必要がある。

 ここで MCS 研究において組織文化がどのように位置づけられているかを整理するため、

先行研究のレビューを行う。先行研究を規範的研究と経験的研究の 2 つに分類し、組織文化 に関してどのような研究がなされているのかをレビューする。この先行研究のレビューによ

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り、組織文化が MCS 研究において検討すべき対象であることを確認する。

2.3.1.  規範的研究

 Chenhall [2003]は、「MCS のデザインにおいて、文化は重要になった」[p.152]、「国ご との文化は MCS のデザインに関連している」[p.154]と指摘している。Chenhall [2003]

における文化は、国ごとの文化を前提としているため、組織文化に関する直接的な言及では ない。しかし、国も組織の 1 つとして考えるならば、Chenhall [2003]の指摘は MCS の設 計に関して組織文化が関連していると読み替えることは可能であると考えられる。

 Malmi  and  Brown [2008]は、MCS パッケージのコントロール手段として、①計画、② サイバネティック・コントロール、③報酬と俸給、④管理的コントロール、⑤文化によるコ ントロールの 5 つを取り上げている。⑤の文化によるコントロールは、価値規範コントロー ル、象徴規範コントロール、クラン・コントロールという 3 つの側面から検討がなされてい る。

 Ferreira  and  Otley [2009]では、業績管理システム(Performance  Management  Sys- tems。以下、PMS(2)と略称)のフレームワークのなかで、文化を最外縁に位置づけ、これ らの要因は組織にとって管理可能ではないものとしている[p.277]。しかし、PMS フレー ムワークの中で取り上げている文化は、組織の外部に存在する文化を意図しており、組織内 に存在する組織文化は、広いフレームワークの中で検討対象とすることは合理的であると指 摘している[p.277 注 8]。

 Merchant and Van der Stede [2017]はコントロールの対象となる事象に基づいて、①成 果コントロール(Results controls)、②行動コントロール(Action controls)、③人事コント ロール(Personnel  controls)、④文化によるコントロール(Cultural  controls)の 4 つのコ ントロール手段を提唱している。

 ④の文化によるコントロールは、組織の考え方や価値観から逸脱するような個人に対して 強力なプレッシャーを与えるといった、相互モニタリングの促進を目的としたコントロール である。文化によるコントロールは様々な形態をもって行われる。例として挙げられるのは、

行動規範、グループ報酬、組織内の人員配置、社会的・物理的取り決め、トップの価値観な どである[pp.97-101]。

 以上から、MCS 及び MCS パッケージにおいて、組織文化や組織文化を用いた文化によ るコントロールが MCS 研究において検討すべき事項として取り扱われていることがわかる。

───────────

(2)  Henri[2006a]は PMS と MCS を同様のコントロール・システムとして捉えている[p.78]。よって本 論では MCS の規範的研究の中で PMS に関する言及を取り上げた。

(5)

2.3.2.  経験的研究

 出口[2004]は経験的研究の分類について図表 1 のように示している。出口[2004]は 経験的研究を機能主義と解釈主義の 2 つに分類している。機能主義に基づく研究においては、

定点観測・因果関係に主眼を置いた研究が中心となる。対して、解釈主義に基づく研究にお いては、経時的観測・形成過程に主眼を置いた研究が中心となる。

図表 1:出口[2004]における組織文化研究の分類 基本的組織観/

組織文化観 分析の視点 データの

性質 主たる研究目的

組織文化 研究

機能主義 外部者の視点

客観的な分析

定量的

データ 組織文化の特定、類型化

定性的 データ

組織文化の構造、

変革のモデル・方法論の提示

解釈主義 内部者の視点

主観的な分析

組織のメタファーとしての 組織文化の解釈、記述

[出所:出口, 2004, p.29 より一部抜粋]

 木島[2006]は、組織文化の類型化を目的とした質問調査票による調査を実施した。47 項目の質問を用いて調査を実施した。そして、調査結果を用いて因子分析を行い、創造的・

従業員志向的文化、規範主義的文化、保守的・閉鎖的文化の 3 つの文化特性を抽出した。

 Henri [2006a]は、組織文化およびトップ・マネジメント・チームが作成した PMS との 関係性を明らかにするため、質問調査票による調査を実施した。Henri [2006a]は、組織文 化を柔軟な価値観を有する文化と統制的な価値観を有する文化の 2 つに分類している。この 2 つの組織文化が PMS の使用方法である、モニタリング、関心の集中、戦略的意思決定、

意思決定の正統化の 4 つに影響を与えているかを検証している。

 澤邉・飛田[2009]は、組織文化と MCS の関係を明らかにすることを目的とした調査を 実施した。この調査は、仮説 1:MCS は組織成員の心理的状況に影響を与える、仮説 2:

MCS は企業業績に影響を与える、仮説 3:組織成員の心理的状況は企業業績に影響を与え るという 3 つの仮説の検証を目的としている。この 3 つの仮説に対して、質問対象を会計 コントロール・理念コントロール・社会コントロールに分類し、それぞれに対して質問項目 を設定した。回答をもとに重回帰分析を実施し、仮説に対する検証を実施した。この検証に おいて用いた組織文化類型は、柔軟型文化とコントロール型文化の 2 種類であった。この柔 軟型文化、コントロール型文化は、後述する Cameron and Quinn [2011]における競合価値 観フレームワークの 4 分類を 2 分類に統合したものである。

 Bhimani [2003]は、新しく導入する MAS が有する組織文化を考察し、その MAS が有

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する組織文化と組織構成員が既に有している組織文化がどのように調和するのかを考察して いる。この考察では最終的に、新しい管理会計システム導入の成功に対して組織文化がどの ように影響するかを明らかにしている。この研究は、リサーチ・サイトにおいて 3 か月から 半年の期間を用いてインタビュー、質問調査や内部文書に基づいて内部者の視点から行われ ている。

 Busco  and  Scapens [2011]は、継続的な組織学習と変革のプロセスにおける MAS の変 化の性質、役割、ダイナミクスを明らかにすることを目的として研究を実施した。研究者自 らも新たなシステム導入に携わり、長期間にわたるアクション・リサーチが実施された。こ のアクション・リサーチに基づき MAS および組織文化の変革に際した影響関係を明示した フレームワークを提示している。

 小沢[2013]では、Cameron and Quinn [2011]の競合価値観フレームワークにおける組 織文化類型を用いて質問調査票による調査を実施した。その調査結果のもと、Cameron  and  Quinn [2011]の組織文化評価手法(Organizational  Culture  Assessment  Instrument)を用 いて組織文化を評価している。Cameron  and  Quinn [2011]における「競合価値観フレーム ワーク」および「組織文化評価手法」の詳細な研究手法は後述する。簡単に取り上げると、

組織内における MCS の「現実」と「理想」について質問調査を実施し、その回答を組織文 化評価手法によって評価する。その評価結果から、「現実」の組織文化と「理想」の組織文 化を比較検討することで、組織文化をどの方向に向かって変革しようとしているのかを明ら かにする。

 ここまで記載したように、規範的研究および経験的研究の両者において MCS 研究の中で 組織文化が様々な形で取り上げられている。これは、先行研究が MCS のツールに対して組 織文化が何がしかの影響を与えているとの前提に基づいていると捉えることができる。

 また、Cameron and Quinn [2011]は、TQM(Total Quality Management)の導入に失敗 した多くのケースは、組織文化が導入前から変化しなかったことが原因であると指摘してい る。この指摘から、MCS のツールのみならず組織文化も同時に検討する必要性が明らかに なる。よって、これらの先行研究のレビューにより、MCS 研究において組織文化を取り入 れる必要性を改めて確認した。

 そこで、MCS 研究において組織文化をどの程度重要視すべきかの検討が必要となる。こ の点について、まず組織文化はどの組織にも必ず存在すると考えられる。それならば、組織 文化が MCS のツールに対して何がしかの影響を与えるという事象はどの組織でも認識され るといえる。そのため、全ての組織において MCS のツールに対する組織文化の影響を考慮 する必要がある。つまり、MCS のツールと組織文化は密接不可分な関係として認識する必 要があるといえよう。よって、組織文化は MCS 研究において重要な位置づけにあり、研究 する必要があるものとして認識するべきである。

(7)

2.4.  組織文化の変革可能性

 北居[2016]は、組織文化の変革は非常に困難なものであると指摘している。組織文化 変革の試みの失敗例として、Ogbonna  and  Wilkinson [2003]は、組織文化変革の方法とし てロール・モデルとなるマネジャーを選定し、望ましい組織文化をマネジャーに体現させる 事例を取り上げている。この事例では、選定されたマネジャーがロール・モデルとして望ま しい行動を体現するため、マネジャーに様々な権限を集中させ、その行動および結果を本社 が厳格にコントロールする方策が取られた。しかし、この方策を実施するに当たって行われ た組織再編が、自律性の低下と職務への不安を引き起こすことが特定された。そしてこれら の要因が、組織文化変革における障害となることが明らかとなった。

 また、Alvesson  and  Sveningsson [2016]は、組織文化変革を妨げる潜在的な問題として 次の 2 点を指摘している。1 つ目は、「組織文化変革に対する経験と知識が不足するという 問題と同様に、誰が組織文化変革の役割と責任を負っているか明確になっていない」[p.111]

という問題点である。2 つ目は、「組織文化変革を達成するためのシンボリックで表現力豊 かな管理者と組織による支援が不十分である」[p.114]という問題点である。

 これらの組織文化の変革は困難であるという指摘の根拠は、やはり組織文化そのものが抽 象的な概念であり、具体的なシステムなどとは明らかに異なるということである。

 このように組織文化変革の失敗例や阻害要因が取り上げられるなか、それにも関わらず組 織文化の研究をする目的を筆者は次のように考えている。組織文化研究において、組織文化 の変革をするための手法の話に終始する前に、組織の変革行動の具体的な組織事象としてど のようなことが行われているのかを明らかにすることに一定の意義があると考えられる。つ まり、組織が実際に行っている具体的な組織事象を明確化することが必要である。具体的な 組織事象の明確化によって組織文化の変革が困難であると判断するのであれば、組織文化に 適合するように MCS の設計を変化させるという検討の必要性を明示することができる。つ まり、組織文化を変えることによって MCS が変わるのか、MCS が変わることによって組 織文化が変わるのかを考える起点となるのである。

3.組織文化の定義についての先行研究のレビュー

3.組織文化の定義についての先行研究のレビュー

 飯田[1993]では、「文化」という言葉を意図的に用いた研究のうち、1992 年 12 月まで に各国で発表された 270 余りの文献の組織文化概念を分析した結果として、9 つの概念に分 類をした。その概念分類が図表 2 である。

 この 9 つの概念に対して、研究にあたって用いる概念はどの分類が最適であるか、飯田

[1997]および木島[2006]では図表 2 で記載のように検討がなされている。

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 木島[2006]では、飯田[1993]の第 2 概念の考え方が最適であると判断し、この概念 に適合している加護野[1988]における「組織構成員によって共有された価値、信念、規 範の集合体」[p.114]という定義を用いている。木島[2006]が用いた加護野[1988]の 組織文化について、この定義が汎用的なものであるのか、他の先行研究における組織文化の 定義を図表 3 で取り上げ、比較検討を行う。

 図表 3 において列挙した組織文化の定義に共通して用いられているのは価値観や行動規範 である。そのため、先行研究の定義と比較しても、加護野[1988]の定義を採用すること に遜色はないと判断できる。よって組織文化研究において、加護野[1988]における「組 織構成員によって共有された価値、信念、規範の集合体」の定義を共通見解として使用する ことができると判断した。

 先述の通り、MCS は戦略目標達成のための組織構成員への影響システムである。これを 組織文化の定義を照らし合わせると、どちらの定義も組織構成員に関連するものであること がわかる。組織構成員を軸とした場合、組織構成員を対象とするシステムである MCS およ び、組織構成員に共有された価値、信念、規範の集合体である組織文化の整合性を考慮する ことは、MCS を意図した通りに機能させる要件として重要であると考えられる。

図表 2:飯田[1993]における組織文化概念の 9 分類

概念分類 内 容 飯田[1997]および木島[2006]の検討

1概念 各個別企業の構成員が共有している全ての潜在 的意思決定基準

概念の抽象度が高いため、測定が困難になる と考えられる[木島, 2006]

2概念 各個別企業の構成員が共有している全ての潜在

的意思決定基準および顕在的な意思決定基準 木島[2006]の調査にて使用された概念 3概念 各個別企業の構成員が共有している当該企業に

特有で優れているいくつかの意思決定基準

何が優れているかについて客観的に評価・測 定することができない[木島, 2006]

4概念 各個別企業の構成員が共有している全ての意思 決定基準、およびそれを具現化した行動パターン

観念や理念としての文化と、具現物・具象物 としての文化を峻別することが困難である

[木島, 2006]

5概念

各個別企業の構成員が共有している全ての意思 決定基準やそれを具現化した行動パターン、お よびそれらを構成員に浸透させる媒体や手段

概念の対象物の範囲が広すぎるため、調査に あたり対象を明確にすることができない[飯 田, 1997]

6概念

個別企業の構成員が共有している当該企業に特 有で優れているいくつかの意思決定基準や行動 パターン

何が優れているかについて客観的に評価・測 定することができない[木島, 2006]

7概念

各個別企業の構成員が共有している全ての意思 決定基準やそれを具現化した行動パターン、お よびそれらによって具象化された創造物

概念の対象物の範囲が広すぎるため、調査に あたり対象を明確にすることができない[飯 田, 1997]

8概念 あらゆる企業の構成員が共有すべき普遍的かつ 絶対的な意思決定基準

普遍性・絶対性を客観的に評価・測定するこ とができない[木島, 2006]

9概念 企業による文化振興活動や社会貢献活動 概念と内容が非常に乖離している[飯田, 1997]

[出所:飯田, 1993, p.85 より加筆修正]

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4.組織文化に関する先行研究の研究方法

4.1.  組織文化に関する研究のルール

 飯田[1993]は、組織文化の捉え方に関する多様性を認めたうえで、組織文化研究にお ける 3 つのルールを提示した。①研究内における組織文化の定義を明確にし、同一研究内で

図表 3:先行研究における組織文化の定義

研究者 定   義

加護野[1982] ある組織の成員によって共有されている価値観や行動規範ならびにそれ らを支えている信念

Flamholtz[1983] 組織成員の考えと行動に影響する共有された価値と信条と社会的規範の セット

Denison[1984] 価値観、信念、行動パターンの集合 Rousseau[1990] メンバーに共有された規範的信念 Calori and Sarnin[1991] 価値観のセット

Cameron and Freeman[1991] メンバーの価値観、仮定、解釈 Kotter and Heskett[1992] 共有された価値観および行動様式

Gordon and DiTomaso[1992] 企業内で時間をかけてはぐくまれた、共有され安定した信念および価値 観のパターン

Marcoulides and Heck[1993] 問題解決のための行動規範を生み出す共有された価値観と信念のパターン Burt et al[1994] 共有された価値観および行動様式

松村[1999] 企業に共有されている価値観や行動規範

坂下[2001] 組織の成員によって共有されたシンボル体系や意味体系

渡辺[2002] ある特定の組織の成員が共有している価値観、信念、規範のセット 横田[2004] 企業が重視する企業価値を基盤として、全従業員の行動、つまり企業活

動全般に影響を及ぼす組織規範

木島[2006] 組織成員によって共有された価値、信念、規範の集合体

新江・伊藤[2008] 組織成員に共有された意味体系や価値観であり、そこから派生する一貫 した行動原理

Henri[2006b] 行動規範を作り出すために組織構造やコントロール・システムと相互作 用する共有された価値観

Schein[2010] グループが外部への適応、さらに内部の統合化の問題に取り組む過程で、

グループによって学習された、共有された基本的な前提認識のパターン 横尾[2010] 企業の組織構成員の間で共有された一連の価値体系であり、また、それ

に関連した組織メンバーの間で見られる共通の行動様式 Cameron and Quinn[2011] 価値観、考え方、管理スタイル、パラダイム、問題解決方法

高田[2012] メンバーが共通してもつ『自分たちの組織はこうあるべきだ』を示す理 想図と、それを実現するための行動の規則の集合体

小野[2013] 同じ企業で働く人が共有する価値観、信条、行動規範

櫻井[2014] 従業員によって共有され、次いで、従業員の思想と行動に影響する傾向 にある一連の価値観、信念、および社会規範

(10)

は組織文化概念を使い分けないこと。②組織文化概念のうち、あまりに多くの解釈を生み出 す可能性の高い概念を用いることは避けるべきである。③研究に用いる文化概念を常に翻訳 しながら、読者に伝える努力をする必要がある。

 また木島[2006]は、組織文化をどのように調査するべきであるかを明確にしている。

組織文化に関する調査において質問調査票を用いる場合には、「組織構成員によって共有さ れた価値、信念、規範の集合体」に対する直接的な質問をするべきではないとしている。な ぜなら、組織文化そのものの質問に対する回答には、回答者の組織に対する価値観のみなら ず、個人的な価値観が含まれる可能性が高いためである。また、質問調査票における調査結 果から、組織に対する価値観と個人的な価値観を峻別することはほぼ不可能に近いと考えら れるためである。そのため、組織文化に関する調査を実施する場合には、価値、信念、規範 の集合体から導出される具体的な組織事象に対して質問を実施すべきであるとしている。

 具体的な組織事象は、質問回答者から得られる回答の内容が組織の行動についての客観的 な項目であるため、個々人の価値観が介入する余地が少ないと考えられる。よって、具体的 な組織事象について質問を実施し、そこから「組織構成員によって共有された価値、信念、

規範の集合体」を抽出するための検討・分析を実施すべきであるとしている。

4.2.  MCS 研究における組織文化に関する研究方法の検討

 筆者が今後実施する MCS のツールに対する組織文化の影響に関する研究は、経験的研究 に分類される。経験的研究において機能主義、解釈主義の分類に基づいて先行研究を取り上 げたが、本論においてはこれらの分類の詳細な検討は行わない。

 木島[2006]、澤邉・飛田[2009]における研究は、実証分析研究のため現状を明らかに するためには非常に有用であるといえる。対して、Cameron  and  Quinn [2011]の方法は、

現状を明らかにするためという観点では統計的分析を行っていないため実証分析ではない。

しかし、Cameron  and  Quinn [2011]の方法では、「現実」と「理想」の両者に対して質問 調査を行うことで、企業における「現実」と「理想」のギャップを明確にすることができる。

そして、このギャップから組織が望む変革の方向を識別することが可能となる。このことは、

定点的観測では明らかにすることができなかった組織変革の動きを識別することができるよ うになることを意味していると考えられる。

 Cameron  and  Quinn [2011]では、組織文化を 4 つの分類に類型化している。組織文化類 型の詳細は図表 4 で示した。

 この組織文化の 4 類型を利用してそれぞれの組織における組織文化を評価する手法が組織 文化評価手法(Organizational  Culture  Assessment  Instrument)である。この組織文化評価 手法は、組織の主となる特徴、組織のリーダーシップやマネジメント手法などに対して、4 つの組織文化類型のどの性質をどの程度有するかの回答から組織文化の評価を行う。回答に

(11)

あたっては、4 類型の合計が 100 点になるように回答者に得点を配分させる。その後、質問 項目の 4 類型それぞれの得点を集計し平均点を算出する。その平均点を競合価値観フレーム ワークに当てはめてることで、組織文化の特性を四角形にて表現する。この質問は、「現状」

と「理想」の両側面について実施する。最終的に、「現実」と「理想」の両側面について質 問を実施することによって、両者のギャップが明確になる。

図表 4:競合価値観フレームワーク

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[出所:Cameron and Quinn, 2011, p.39 より筆者作成]

 このフレームワークを採用する理由は、Cameron  and  Quinn [2011]の方法が「現実」と

「理想」のギャップを企業がどのように把握しているかを明らかにできる点で有意性がある と考えているからである。「現実」のみの検討ではなく「理想」も合わせた検討となるため、

そのギャップを組織における変革の指針として明示することが可能となる。そして、その ギャップを埋めるためにはどのような行動・方策を採用しているのかについて同時に質問を 行うことにより、回答企業における現実と理想のギャップを埋めるための「具体的な組織事 象」を抽出することが可能となると考えられる。

 この調査において、「具体的な組織事象」がどのような組織文化を有した組織事象である のかに着目する必要がある。MCS のツールの側面において「現実」を「理想」に近づける ための「具体的な組織事象」を明らかにするが、それが組織文化の側面において適切である か検討しなければならない。なぜなら、「具体的な組織事象」が有する組織文化が、「現実」

から「理想」へ変化するための組織文化として適合的でない場合、その変革行動は失敗に終 わる可能性が高まるためである。櫻井[2014]は、企業の新たな MCS のツールの導入に自 身が携わった経験を取り上げ、組織内の抵抗に直面することで組織文化の側面を検討する必 要性があることを認識したと述べている。つまり、新しいツールの導入による変革を試み、

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失敗に終わるケースが多々あることは、「現実」、「理想」および「具体的な組織事象」が有 する組織文化が適合的でなかったことが原因の 1 つとして考えられる。このように「具体的 な組織事象」が有する組織文化の側面を検討することにより、変革行動が組織内に新たな組 織文化を浸透させることができる行動であるか否か判断することが可能となる。

 上記の研究プロセスによれば、「現実」、「理想」と「具体的な組織事象」を一連のサイク ルとして検討することが可能となる。そして、どのような「具体的な組織事象」によって組 織を理想の方向へと変革していこうとするのかを明らかにすることが可能となると考えられ る。

4.3.  研究対象とする MCS のツールの検討

 ここまで組織文化の定義および研究方法について述べてきたが、最終的に検討が必要とな るのは、MCS のツールの何に焦点を当て、組織文化との関係性を検討するのかである。

 MCS のツールの選択にあたりまず必要とされる要件は、ツールとしての汎用性である。

そして、この汎用性は 2 つの観点から検討される。1 つ目は、数多くの組織において MCS のツールとして利用されていることである。アンケート調査を実施した場合、回答分析結果 の信頼性を高めるため多くの企業からの回答を得る必要がある。そのため、数多くの企業で 利用されている MCS のツールを研究対象として選択することが必要となる。2 つ目は、組 織内の多くの組織構成員が MCS のツールのコントロール対象となることである。これは、

組織内で限られた組織構成員のみを対象とした MCS のツールを対象とした場合、組織文化 の影響の検討範囲が限定的になることを避けるためである。研究に際して、可能な限りその 範囲は広域であることが望ましい。なぜなら、様々な組織構成員がコントロール対象となる ことで、組織全体としての組織文化が MCS ツールに与える影響を捉えることができるため である。

 上記 2 つの観点によると、対象とする MCS のツールは予算となる。清水[2016]の予算 に関する実態調査において、予算管理を実施していると回答した企業が回答企業(192 社)

のうち、90.1%(173 社)となっている。この調査より、予算は多くの企業で用いられてい ることが確認できる。また、予算は組織内の特定の組織構成員をコントロール対象とするも のではない。予算の利用目的は多岐に渡るため、多くの組織構成員がコントロール対象とし て関連していることは自明の事実である。加えて、回答者が質問の意図を理解しやすいこと も調査に適している。そのため、MCS のツールとして予算を対象とする事に合理性が見い 出せると考えられる。

 予算が研究対象の選択における汎用性の要件を充足することは確認した。次に要件として 検討が必要とされるのは、Cameron  and  Quinn [2011]の方法に依拠した研究が可能である かである。つまり、「現実」および「理想」の間にギャップが存在しなかった場合、「具体的

(13)

な組織事象」の検討に研究が発展しない可能性がある。この点に対しては、清水[2016]

の調査において、日本企業における予算管理システムに対する満足度についての調査結果を 利用して検討する。この調査に対する回答は、予算管理システムに対して「十分に満足して はいないが、さまざまな工夫をしており、使用できるレベルである」が 59.5%、「十分に満 足していないが、代替するツールが無いため継続して使用している」が 26.3% であった

[pp.104-105]。この結果から、企業は自社が利用している予算管理システムに対して十分に 満足している状況ではないことが明らかである。

 要するに、予算は多くの組織で広く用いられているが、その利用実態において組織は十分 に満足しているとは言えない状況にある。この十分に満足していないという部分に「現実」

と「理想」のギャップがあると捉えることができる。何が満足していないのか、満足してい ない部分について「現実」と「理想」のギャップはどのように存在するのか。企業が予算管 理システムに対して満足していないという「現実」に対して、どのような「具体的な組織事 象」によって「理想」を実現させるかを明確にすることが重要となる。そして、「具体的な 組織事象」により予算が変革していく中で、組織文化がどのような影響を与えているのかを 明らかにすることで、本研究は変革の実現可能性に貢献できるようになると考えられる。

4.4.  研究アプローチの検討

 研究アプローチを図表 5 にて提示し、アプローチの内容についての解説を行う。

図表 5:研究アプローチ概念図

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 図表 5 の研究アプローチ概念図に記載の番号の順序に応じて説明を行う。

 まず①として、Cameron  and  Quinn [2011]に基づく質問調査票調査を実施する。この調 査では質問調査票に基づき、各企業の予算管理方法について質問を実施する。具体的には、

ヒエラルキー文化、クラン文化、マーケット文化、アドホクラシー文化の 4 類型にそれぞれ

(14)

当てはまるような予算管理方法について質問を実施する。例えば、ヒエラルキー文化におい て想定される予算管理方法としては、「予算はトップ・マネジメントが作成するものであり、

現場はその予算を前提として業務を実行することのみが求められる」といった質問項目を用 いることになる。この際、質問調査票の対象企業に対してはどのような組織文化が背景にあ るのかは伏せて調査を実施する。なぜなら、回答者に組織文化類型を明示しないことで、回 答から個人的な価値観を可能な限り取り除き、具体的な組織事象に対して回答を得ることが 可能となるためである。

 次に②において組織文化の抽出を行うために、質問調査票の結果に基づくサーベイ研究を 実施する。予算管理方法から組織文化を抽出する考え方は、木島[2006]に依拠したもの である。先にも述べたが、「組織構成員によって共有された価値、信念、規範の集合体」に 対する直接的な質問に対する回答は、回答者の個人的な価値観が介入する可能性が非常に高 い。そのため、価値、信念、規範の集合体から導出される具体的な組織事象に対して質問を 実施し、回答の性質から価値、信念、規範の集合体といった組織文化を抽出するようにベク トルが向けられている。①で例示した「予算はトップ・マネジメントが作成するものであり、

現場はその予算を前提として業務を実行することのみが求められる」という予算管理方法の 質問に対する回答からは、統制が厳しい組織文化が抽出される。この抽出された文化特性か らヒエラルキー文化を有する企業であると結論づける。

 ③における抽出の実施内容は②と同一の方法である。企業が「理想」とする予算管理方法 について質問を実施し、その回答結果に基づくサーベイ研究を行う。

 なお、「現実」と「理想」に対する質問項目は同一のものを使用する。なぜなら、同一の 質問項目を使用することによって、「現実」と「理想」の比較可能性を確保する必要がある ためである。

 ②と③の実施によって、「現実」と「理想」の予算管理方法のギャップから、「現実」と「理 想」における組織文化のギャップを明らかにすることができる。このギャップに対して、企 業は「現実」を「理想」に近づけるために何らかの方策を思案、または実施していると考え られる。それが仮に「現実」を「理想」に近づけるための行動と認知されていないとしても、

何らかの変革活動は実施していることが想定される。そのため、「現実」と「理想」のギャッ プを埋めるために行われている「具体的な組織事象」がどのようなものであるかを質問調査 票の要求回答に含める。この「具体的な組織事象」に関する回答から、ギャップを埋めるに 適している組織事象なのかの検討を実施する。これが④の具体的な組織事象の適合性の検討 である。そのために、企業がギャップに対してどのような具体的な組織事象を行っているか について実際の企業から回答から引き出す。これにより、その具体的な組織事象が本当に企 業にとって「現実」を「理想」に近づけるための方策が適切であるかの検討が可能となるの である。また、この具体的な組織事象が組織文化の変革に対してどの様な影響を与えている

(15)

のかも同時に検討することが可能となる。なお、具体的な組織事象に関する検討は、質問調 査票の回答企業の中からアクション・リサーチを実施し、より詳細な現状を把握することも 念頭に置いている。

 この研究アプローチの概念図を用いて検討することによって、実際の企業において MCS のツールである予算に対する組織文化の影響サイクルが、どのように存在するのかを明らか にすることができると考えている。

4.5.  質問調査票における質問事項の検討

 最後に、質問調査票調査を行うにあたって具体的にどのような観点で質問を実施するかを 検討する。この検討にあたり取り上げる先行研究が、Vandenbosch [1999]である。

 Vandenbosch [1999]は、エグゼクティブ・サポート・システム(Executive  Support  System。以下、ESS と略称)としての情報の利用方法が競争力向上に対してどのように影 響を与えているかについて調査を実施した。この調査では情報の利用方法を、①結果の記録、

②理解の促進、③ KPI への集中、④意思決定の正統性の 4 パターンに分類している。この 4 パターンそれぞれの観点から、ESS としてどのように情報が用いられているかについて 質問調査が実施されている。なお、①結果の記録は 4 項目、②理解の促進は 6 項目、③ KPI への集中は 5 項目、④意思決定の正統化は 9 項目の詳細な質問項目が設定されている。

 本研究では、Vandenbosch [1999]における ESS を予算管理方法に変換し、質問調査票 を作成する。予算管理方法にも 4 パターンそれぞれに該当する役割があると考えられる。① 結果の記録としては、予算目標達成に向けての進捗管理が挙げられる。②理解の促進は、予 算が業務内容とリンクし、組織構成員の具体的なアクション・プランに対する理解可能性が 向上することが挙げられる。③ KPI への集中は、予算に対して KPI を組み込むことで、組 織構成員の関心を統一することが挙げられる。最後に④意思決定の正統化は、予算実績の比 較段階で過去の意思決定の是非を判断することが挙げられる。

 このように Vandenbosch [1999]の ESS における情報の利用方法の 4 分類を用いて、予 算の利用目的も 4 項目に分類する。そして、それぞれの 4 項目の詳細な質問内容を作成する。

そして詳細な質問項目に対して、Cameron  and  Quinn [2011]における文化の 4 類型の性質 を表現するような回答項目を作成する。回答者は、組織文化 4 類型の性質を有する回答項目 に対する回答の合計が 100 点になるように得点を配分する。なお、回答の合計が 100 点に なるように作成する質問調査票は回答者に過大なる負担となり、回答率が低下する可能性が 想定される。そのため、回答にあたっては 7 点リッカート・スケールを用いて質問調査票を 作成することも検討している。

 なお、この調査における予算管理方法の具体的な場面や質問内容は次稿に譲ることとする。

(16)

5.おわりに

5.1.  本論での貢献

 本論では、改めて MCS のツールに対する組織文化の影響についての研究の意義を明確に することから開始した。そのなかで、研究者ごとに区々であった組織文化の定義について、

飯田[1993]を中心として、先行研究においてどのように組織文化が定義されているかの レビューを実施した。この結果、組織文化の定義は加護野[1988]における「組織構成員 によって共有された価値、信念、規範の集合体」という定義が共通見解として根底にあるこ とが確かめられた。これにより、今日まで様々な組織文化研究において、各研究者で異なる 組織文化の定義が用いられてきたが、加護野[1988]の定義を基準として MCS における組 織文化研究を行うことができるといえよう。

 次に規範的研究と経験的研究の両面から組織文化研究の必要性および重要性を検討した。

なお、取り上げた先行研究における研究アプローチが機能主義と解釈主義の 2 つに分類のう ちどちらに分類されるかの検討は本論では行っていない。これらの先行研究のレビューによ り MCS 研究において組織文化を取り扱う必要性及び重要性について明確にした。

 筆者の今後の研究アプローチは、質問調査票調査により「現実」と「理想」を明らかにす ることから始まる。「現実」と「理想」を明らかにすることで、両者のギャップを識別する。

そして、そのギャップを埋めるために、どのような具体的な組織事象が発生しているかを実 際のアクション・リサーチに基づいて実施することを検討している。このアクション・リ サーチにおいて、組織文化およびマネジメント・コントロール・システムの影響サイクルが どのように作用しているのかの検討するため、本研究の流れを研究アプローチ概念図として 導出した。今後はこの研究アプローチの概念図の精緻化を図りつつ、実際の調査への進展を 図りたいと考えている。

5.2.  今後の課題

 本研究の今後の課題としては次の 3 つが挙げられる。

 まず 1 つ目に、質問調査票の回答から得られる「理想」を企業全体としての「理想」とし て捉えることができるのかという問題がある。MCS のツールとして予算について質問調査 票を送付する際、送付先としては経理部や経営管理部が対象であると考えられる。しかし、

経理部や経営管理部が有する予算に関する「理想」が必ずしも企業全体としての理想と一致 するとは限らない可能性が十分に考えられる。経理部、経営管理部、営業部など異なる立場 であれば、予算に対する「理想」も異なると考えられる。また、組織の職階が異なることも

「理想」が異なる原因となる可能性がある。このように、組織全体に対しての「理想」の回

(17)

答が、本来の全社的な「理想」と一致しない可能性を認識する必要がある。

 2 つ目は、企業全体が有する「理想」を明確にすることができたとしても、その理想が必 ずしも企業を良い方向へ導く「理想」であるとは限らないという問題がある。まず、何が企 業を良い方向へ導く「理想」なのかという具体的な検討については本論では実施できていな い。「現実」を「理想」へ近づけるために様々な「具体的な組織事象」が実施されるが、「理 想」が過度なものであった場合や、実現不可能なものであった場合が問題となる。誤った「理 想」は本論で掲げる企業を良い方向へ導く「理想」とはほど遠いものとなる恐れがある。近 年日本企業を取り巻く不祥事などは、「理想」が企業を良い方向へ導く「理想」ではなかっ た結果として発生してしまったものと考えることができる。

 最後に、予算管理における具体的な場面の決定については次稿に譲ることとする。予算管 理には、計画機能、調整機能、統制機能の 3 つがあるが、この 3 つの機能のうちどの部分 について具体的にどのように質問を実施するのかについては明確になっていない。この点に ついては、今後予算管理に関する先行研究のレビューとともに検討を実施していきたい。

 以上、3 つの今後の課題を挙げたが、どれも重要な問題であるため今後の研究において継 続的な検討を行っていきたい。

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