博 士 ( 農 学 ) Mee Son
学位論文題名
CatalyticMechanism and IVIolecular Structure of a‑Glucosidase from Yellow Dent Corn
( イ エ ロー デ ント コ ーンぱ ーグルコ シダーゼ の機能と 構造に関す る研究)
学位論文内容の要旨
Q‐グルコシダーゼ(a‑D‑glucoside glucohydrolase,EC 3.2.1.20)は、a‑グルコシド結合を有 する基質を非還元末端側から加水分解し、Q‐グルコースを遊離するエキソ型の酵素である。
微生物・植物・動物に普遍的に存在し、澱粉・グリコーゲン・オリゴ糖などの代謝に関与する 重要な糖質加水分解酵素のーつである。特に、 植物組織の澱粉分解において最終的にグルコー スに導く酵素はa‑グルコシダーゼである。重要な作物の1つにコムギが挙げられるがヽこの 種子発芽時にa‑グルコシダーゼの阻害剤処理を行うと澱粉分解が低下レ、本酵素の基質であ るマルトースの大量蓄積が認められる。また、イネなどの単子葉植物の登熟期にも酵素漕陸が 発現する。従って、穀類の澱粉合成・分解時においてエネルギー供給を行うなど重要な役割を 担う酵素と考えられている。トウモロコシの種子にも本酵素活性が認められる。本研究では、
重要な飼料用作物であるイエローデントコーンの種子内にあるa‑グルコシダーゼに着目し、
2種類の酵素の存在を示し、それらの性質や蛋白構造を解析した。それと同時に、Q‐グルコ シダ―ゼに見られる分子内転移反応についても究明を行った。
(1)2種のQ‐グルコシダーゼの単離、性質および構造
種子破砕液から2種のa‑グルコシダーゼの精製を行った。両者は、表面荷電や疎水性が異 なり、陽イオン交換体や疎水クロマト担体を用いて両酵素(ydcgIおよびydcg IIと仮称)を 分離し精製を行った。両酵素は非変性条件における電気泳動では単一のバンドを与えるが、
SDSを 用 いた 変 性条 件 の電気 泳動では 、ydcgIは82 kDaと7kDaの 、ydcg IIは88 kDaと7 kDaの分子量を示す蛋白バンドを示した。それぞれの酵素標品から得られた分子量が異なる2 つの因子は、ゲル濾過、イオン交換および疎水クロマトなどの分離操作で分割できないため、
立体構造内に強固に組み込まれていると想像された。大サブュニット( ydcgIの82 kDaヽ ydcg IIの88 kDa)のN‑末端アミノ酸酉己歹IJは、全一次構造が明らかにされた植物Q‑グルコシ ダ―ゼのN‑末端から約100アミノ酸離れた領域に高い相同性を示した。従って、翻訳後にこ の部位が特異的な切断を受け‑2つのサブュニットが形成されると推察された。前駆体の存在 も確認でき、本酵素のユニークな翻訳後修飾の一端が究明された。一方、両酵素の小サブュニ ―140−
ット(7 kDa)のN‑末端は閉塞されていた。
ydcgIお よ びydcg IIの 性質 を 解 析し た 。 至適pHは 極く 僅 か 異な る カ 弋pHや 温度 に 対 する 安 定領 域 は ほ ぼ一 致 し た。 基 質 に対 す る 作用 を 定 量的 に 解 析し 、2つ のa‑グルコ シダー ゼは 似 た特 異 性 を 示す こ と が認 め ら れた 。 各 基質 へ の 分解 カ はydcgIの方が若 干高い 。マルト オ リゴ 糖および 可溶性澱 粉に高い活性を示し、a‑グルコ二糖類についてはマルトース(a‑l,4‐結 合) よルニゲ ロース(a‑l,3‐ 結合)を 速く切 断する特徴を有していた。コジビオース(a,‑l,2
‐結合)も良好な基質とするが、イソマルトース(a‑l,6‐結合)やトレハロース(a‑l,1ー結合)
には 殆ど作用 を示さな かった。a‑l,6一結合に対する加水分解カが低いため、糖転移作用ではイ ソマ ルトース やパノー スの蓄 積が認め られた 。また、i)マルトースなどのホロシド基質への活 性は 大きいが 、アリルQ‐ グルコシ ドなど のへテロシド基質への作用は低いことやii)アミノ酸 配 列の 保 存 性 から 、 両 酵素 はQ−グ ル コ シダ ー ゼ のフ ァ ミ リーIIに属す ることが 判明し た。
(2) a‑グル コシダ ーゼが示 す分子内 糖転移 作用
本 酵 素の研 究過程でa− グルコシ ダーゼが 触媒す る分子内 糖転移 作用の可 能性が 得られた 。 実験 に必要な 酵素量を 考慮し 、大量入 手が可 能であり 、かつ 、本酵素 と同様にa‑l,6‐グルコ シド 糸吉合( イソマル トース )の分解 能が全 くないミ ツバチa‑グルコシ ダーゼを用いて解析を 行 った 。 本 酵 素を 高 濃 度の グ ル コー ス に 作用 さ せ ると イ ソ マルト ースが大 量に生 成した。Q
‐グ ルコシダ ーゼは加 水分解 反応の他 に糖転 移反応な らびに 縮合反応 を触媒する。ミツバチ酵 素は 糖転移作 用でイソ マルトースを生成せず、a‑1,4‐結合のマルトースを与える。また、縮合 作用 は脱水反 応であり 、加水 分解作用 の逆向 きに進行 するた め、縮合 反応で直接的にグルコー スか らイソマ ル卜ース は生成 できない と考え られた。 本現象 を詳細に 解析し、次の結果が得ら れ た。1)グ ルコ ー ス から イ ソ マル ト ー スの 生 成 反応 に お いて 、 生 成 量の 経 時 変化 は 時間 に 対 して 直 線 性 を与 え ず 、反 応 初 期に 立 ち 遅れ(lag)が 認め ら れた。 すなわち 、グル コースか らイ ソマルト ースに至 るまでに中間物質が存在し、中間物質を経由゛しイソマルトースが形成さ れる ことカヾ 示唆され た。2)その 際、イ ソマルトース出現の前にマルトースやコジビオースな ど が生 成 さ れ 、こ れ ら の反 応 初 期におけ る経時 変化は直 線的で あった。 従って、 この現 象は
「 グル コー ス→マル トース(or/andコジ ビオー ス)→イ ソマル トース」 の反応機 構によ ると考 えら れた。次 に、本機 構を証 明するた め、逆 向きに進 行する 反応(イ ソマルトース→マルトー ス(or/andコジ ビオース )→グ ルコース )を調 べた。イ ソマル トースに 大量の酵 素を作 用させ ると 、グルコ ースの遅 い生成 が観察さ れた。 この際、グルコースの生成曲線にはlagが見られ、
中間 物質経由 の反応で あるこ とが判明 した。 反応液を 経時的 に分析す ると、コジビオ―スやマ ル卜 ースがグ ルコース よりも 速く生成 するこ とが観察 され、 「イソマ ルトース→マルトース(
or/andコジ ビオース )→グ ルコース 」から 成る逆向 き反応 が確認さ れた。本反応の第一段階で あ る「 イソ マルトー ス→マ ルトース(or/andコ ジビオー ス)」 は分子内 糖転移反 応と考 えられ る 。本 現象 でtま 安価なグ ルコー スからイ ソマル トースが 蓄積さ れ、分解 されない 。イソ マル トー スは高機 能素材と して食 品産業で 活用さ れ、また 、良好 な生理作 用を示すので付加価値の 高い 反応と考 えられる 。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
Catalytic MechanlSnlandMOleCularStruCture Of〔 いG1uCOSidaSefromYe110WDentCOrn
( イ エ ロ ー デ ン ト コ ー ン 口 ― グ ル コ シ ダ ー ゼ の 機 能 と 構 造 に 関 す る 研 究 )
本 論 文 は 、 英 文153頁 、 図84、 表12、7章 か ら な り 、 他 に 参 考 論 文2編 が 添 え ら れ て い る 。 a‐グルコシダーゼ(a‑D‑glucoside glucohydrolase,EC 3.2.1.20)は、Q‐グルコシド結合を有する基質を 非還 元末端側 から加 水分解し 、Qー グルコースを遊離するエキソ型の酵素である。微生物・植物・動物に 普遍 的に存在 し、澱 粉・グリ コーゲン ・オリ ゴ糖など の代謝 に関与する重要な糖質加水分解酵素のーつ であ る。特に 、植物 組織の澱 粉分解に おいて 最終的に グルコ ースに導 く酵素 はQ一 ダルコシダーゼであ る。 重要な作 物の1つにコ ムギが挙 げられ るが、こ の種子 発芽時にa‐グルコシダーゼの阻害剤処理を行 うと 澱粉分解 が低下 し、本酵 素の基質 である マルトー スの大 量蓄積が認められる。また、イネなどの単 子葉 植物の登 熟期に も酵素活 性が発現 する。 従って、 穀類の 澱粉合成・分解時においてエネルギー供給 を 行 うな ど 重 要な役 割を担う 酵素と 考えられ ている 。トウモ ロコシ の種子に も本酵素 活性が 認められ る。 本研究で は、重 要な飼料 用作物で あるイエローデントコーンの種子内にあるa−グルコシダーゼに着 目し 、2種 類の酵素 の存在 を示し、 それら の性質や 蛋白構 造を解析した。それと同時に、a‐グルコシダ ーゼに見られる分子内転移反応についても究明を行った。
(1)2種のQ‐グルコシダーゼの単離、性質および構造
種子破 砕液から2種 のQ− グルコシ ダーゼ の精製を 行った 。両者は、表面荷電や疎水性が異なり、陽イ オ ン交 換 体 や疎 水クロ マト担 体を用い て両酵素(ydcgIおよびydcgIIと仮称 )を分 離し精製 を行った 。 両酵素 は非変性 条件に おける電 気泳動 では単一 のバンド を与え るが、SDSを用 いた変性 条件の電気泳動 では、ydcgIは82 kDaと7kDaの、ydcg IIは88 kDaと7kDaの分子 量を示す蛋白バンドを与えた。それぞれ の酵素 標品から 得られ た分子量 が異な る2つ の因子は 、ゲル 濾過、イ オン交 換および 疎水クロマトなど の分離 操作で分 割でき ぬいため 、立体 構造内に 強固に組 み込ま れていると想像された。大サプュニット (ydcgIの82 kDaヽydcg IIの88 kDa)のN―末端アミノ酸配列は、全一次構造が明らかにされた植物Q‐グル コシダ ーゼのN‑末 端から 約100ア ミノ酸 離れた領 域に高 い相同性 を示した 。従っ て、翻訳 後にこの部位
夫
哲
英
淳
春
村 藤
木 内
森
授 授
授
教
教 教
助
査 査
査
主 副
副
が 特異 的な 切断 を受 け、2つの サプ ュニ ット が形 成されると推察された。前駆体の存在も確認でき、本 酵 素の ユニ ーク な翻 訳後 修飾 の一 端が 究明 さ れた 。一 方、 両酵 素の 小サ プュニット(7 kDa)のN‑末端 は 閉塞 され てい た。 また、2種のaーグルコシダ ーゼの内部アミノ酸配列も異なっており、本酵素遺伝子 が少なくとも2つ存在することが判明した。
ydcgIお よびydcg IIの性質を解析した。至適pHは極く僅か異なるが、pHや温度に対する安定領域はほ ぽ 一致 した 。基 質に 対する作用を定量的に解析 し、2つのQ‐グルコシダーゼは似た特異性を示すことが 認 めら れた 。各 基質 への 分解 カはydcgIの方 が若 干高い。マルトオリゴ糖および可溶性澱粉に高い活性 を示し、Q−グルコ二糖類についてはマルトース(a‑l,牛結合)よりニゲ口ース(a,‑l,3一結合)を速く切断 する特徴を有していた。コジピオース(a‑l,2一結合)も良好な基質とするが、イソマルトース(a,‑l,6‐結 合)やトレハ口ース(a‑l,1結合)には殆ど作用を示さなかった。Q―1,6‑結合に対する加水分解カが低い た め、 糖転 移作 用で はイ ソマ ルト ース やバ ノ ースの蓄積が認められた。ま た、i)マルトースなどのホ ロシド基質への活性は 大きいが、アリルQ_グルコ シドなどのへテロシド基質への作用は低いことやii冫 ア ミ ノ 酸 配 列 の 保 存 性 か ら 、 両酵 素はQ‐ グ ルコ シダ ーゼ のフ ァミ リーnに属 する こと が判 明し た。
(2)a‐グルコシダーゼが示す分子内糖転移 作用
本酵素の研究課程でa‐グルコシダーゼが触媒する分子内糖転移作用の可能 性が得られた。実験に必要 な酵素量を考慮し、大量入手が可能であり、かつ 、本酵素と同様にa‑l,6‐グルコシド結合(イソマルト ース)の分解能が全くないミツパチq―グルコシダーゼを用いて解析を行った 。本酵素を高濃度のグルコ ースに作用させるとイソマルトースが大量に生成 した。a゜グルコシダーゼは 加水分解反応の他に糖転移 反応ならびに縮合反応を触媒する。ミツバチ酵素 は糖転移作用でイソマルトースを生成せず、a−1,4結 合の マル トー スを 与える。また、縮合作用は 脱水反応であり、加水分解作用の逆向きに進行するため 、 縮合 反応 で直 接的 にグルコースからイソマル トースは生成できないと考えられた。本現象を詳細に解 析 し、 次の 結果 が得 られ た。 1) グル コー スか らイソマルトースの生成反応において、生成量の経時 変 化は時間に対して直線性を与えず、反応初期に立 ち遅れ(lag)が認めら゛れた 。すなわち、グルコースか らイ ソマ ルト ース に至るまでに中間物質が存 在し、中間物質を経由しイソマルトースが形成されるこ と が示 唆さ れた 。2) その 際、 イソ マル トー ス出 現の前にマルトースやコジピオースなどが生成され、 こ れら の反 応初 期に おけ る経 時変 化は 直線 的 であ った 。従 って 、こ の現 象は「グルコース→マルトー ス (or/andコジ ピ オー ス) →イ ソマ ルト ース 」の 反応機構によると考えられた。次に、本機構を証明す る ため 、逆 向き に進 行する反応(イソマルトー ス→マルトース(or/andコジピオース)→グルコース) を 調べ た。 イソ マル トースに大量の酵素を作用 させると、グルコースの遅い生成が観察された。この際 、 グルコースの生成曲線にはlagが見られ、中間物質経由の反応であることが判 明した。反応液を経時的に 分析すると、コジピオースやマルトースがグルコ ースよりも速く生成することが観察され、゛「イソマル トース→マルトース(or′a.ndコジピオース)→グルコース」から成る逆向き反応が確認された。本反応 の第一段階である「イソマルトース→マルトース (or/andコジピオース)」 は分子内糖転移反応と考え られ る。 本現 象で は安価なグルコースからイ ソマルトースが蓄積され、分解されない。イソマルトー ス は高 機能 素材 とし て食品産業で活用され、ま た、良好な生理作用を示すので付加価値の高い反応と考 え られる。
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以上のように本研究は、イエローデントコーン種子に存在する2種類のQ―グルコシダーゼの単離、性 質および構造の解析、翻訳後修飾や分子内糖転移作用の証明を行ったものであり、植物aーグルコシダー ゼ の 構 造 と 機 能 を 考 え る う え で 学 術 的 に 貴 重 な 基 礎 的 知 見 を 提 供 し て い る 。 一
よって審査員一同は、Mee Sonが博士(農学)の学位を受けるに十分な資格を有するものと認めた。