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学 位 論 文 要 旨

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Academic year: 2021

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(別紙様式第3号)

学 位 論 文 要 旨

氏名: 渕上 太郎

題目: アフリカツメガエル胚における創閉鎖の解析

(Analyses of wound closure in Xenopus laevis embryos)

生体が損傷を受けると,傷を速やかに閉鎖しなければ,傷口からの病原体などの侵入や生 体内環境の恒常性が乱れることになるため,生体にとって創傷治癒は非常に重要な生体防御 であると考えられる。胚・胎児期における創傷治癒は,成体と比較して表皮による迅速な創 閉鎖を示すことや瘢痕が残らないといった特徴をもつ。しかしながら,胚・胎児期における 迅速な創閉鎖は何が起因となって開始するのか,すなわち創閉鎖開始のシグナルについては 未だ不明な点が多い。本研究では,Xenopus laevisステージ22胚 (眼胞形成期) を用いて,創 閉鎖の開始機構の解明を試みた。

Xenopus laevis胚は,水環境という外環境に直接接した中で発生・生息するため,創閉鎖 開始の要因としてイオン環境の変化に着目した。Xenopus laevis胚の生体内イオン環境に近 い飼育液中では創閉鎖は観察されず,低イオン環境下に曝されると迅速な傷の閉鎖を示すこ とを見出した。特に,Na+またはCl-濃度の低下に対して感受性を示し,その環境下では著し く創領域は減少したのに対し,両イオン濃度がXenopus laevis胚細胞外濃度と等しい条件下 では創閉鎖は起きなかった。これらの結果から,Xenopus laevis胚では,創縁細胞は低Na+ またはCl-濃度によって損傷を認識し創閉鎖へと移行することが示唆される。なお,浸透圧 の変化の可能性も考えられたが,高濃度グルコースによる高張条件下においても創閉鎖を示 したことから,浸透圧の変化によるストレスは創閉鎖の要因とはならないと考えられる。胚 期・胎児期における迅速な創閉鎖は,創縁に集積したアクチン束の収縮によって進行するこ とが多くの研究によって報告されている。しかしながら,本研究において,Xe-nopus laevis 胚における創閉鎖はアクチン細胞骨格に依らない閉鎖様式であることを示唆した結果が得 られた。本研究において見出した不閉鎖条件 (創閉鎖が起きない条件) 下においても,アク チン細胞骨格は創縁に集積しており,Xenopus laevis胚における創閉鎖の進行に創縁に集積 したアクチン細胞骨格は必須ではない可能性がある。次に,創縁細胞の形態に着目したとこ ろ,創閉鎖過程において創縁細胞は一定の形態変化,すなわち創領域への伸張と創縁表皮の 楕円状の肥厚化を示したのに対し,100% NAMでは,創縁細胞は形態を変化させていなか った。Xenopus laevis胚における創閉鎖過程において,創縁細胞の創領域への移動にこのよ うな,いわばµmオーダーの可視的形態変化が重要な役割を果たしていることが示唆される。

Xenopus laevis胚における創閉鎖は,低Na+またはCl-濃度というイオン環境の変化によって

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開始することが明らかにされたため,細胞膜を介したイオンの輸送を調節するイオンチャネ ルやトランスポーターの創閉鎖過程における関与について調べた。本研究では,上皮性Na+ チャネル (ENaC),Cl-チャネル,Na+/K+ ATPase (Na+ポンプ) に着目した。阻害実験の結果 から,ENaCとCl-チャネルの阻害は創閉鎖を制限し,また,ENaCとCl-チャネルを同時に阻 害すると著しく創閉鎖が抑制されたことから,Xenopus laevis胚における創閉鎖過程におい てイオンチャネルの関与が考えられるとともに,ENaCとCl-チャネルが進行過程において共 役的に働く可能性がある。しかしながら,Xenopus laevis胚におけるイオンチャネルやトラ ンスポーターについての知見と解析手段の不足により,創閉鎖に関与するイオンチャネルは これまで同定されていない。本研究では,Cl-チャネルの阻害効果とそのチャネルの創閉鎖 への関与について着目し,免疫組織化学的手法によってCl-チャネルの発現解析を試みた。C

-チャネルの阻害剤として使用したNPPBはClCファミリーに属するClC-2とClC-3を阻害する が,Xenopus laevis胚ではClC-3が発現していることが認められたことから,NPPBの創閉鎖 への制限効果はClC-3が阻害されたことによるものと考えられる。また,創閉鎖の進行とと もに発減パターンの変化がみられ,創領域へと伸長した外胚葉性上皮の先端において強いC lC-3の発現が観察された。in vitroの実験系においてもin vivoと同様にClC-3の発現パターン の変化と伸長した膜の先端においてClC-3の発現が認められた。これらの結果は,ClC-3が,

Xenopus laevis胚における創閉鎖に関与することを強く示唆しており,ClC-3は創縁細胞の伸

張と移動において重要な役割を果たしていることが伺われる。

本研究の結果から,Xenopus laevis胚における創閉鎖を引き起こす上流の刺激源は低Na+ またはCl-濃度であることが明らかにされ,創周辺細胞はイオン環境の変化によって損傷を 認識し創閉鎖へと移行すると考えられる。また,創閉鎖の進行に細胞内外のイオン環境を調 節するイオンチャネルが重要な役割を果たすことを示唆した結果が得られ,創縁細胞の移動 や伸張にイオンチャネルが寄与する可能性がある。生理学的視点を加えた本研究によって,

これまで主流であった組織学・形態学的手法では得られぬ,創閉鎖の機能的因子としてのイ オンチャネルの関与についてのいくつかの知見が得られたと言える。残された重要課題とし て,イオンチャネルの活性解析を遂行することで,Xenopus laevis胚における創閉鎖の機能 についての包括的な理解が進むことが期待される。

参照

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