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国際義務 の 「
継 続 的侵 害」概 念
一
手続 的義務 にかかる時間的管轄についての一考察
前 田 直 子
目 次
1 2 3 (1)国 家 責任 条 文 第14条(国 際 義 務 の 違 反 の 時 間的 範 囲) (2)国 家 責任 条 文 第13条(国 に対 して有 効 な 国 際義 務) (3)認 定 基 準 の 相 対性 4 お わ りに は じ め に 国 際 義 務 違 反 と な る 「継 続 的 侵 害 」 行 為 の 認 定 一 ヨ ー ロ ッ パ 人 権 条 約 に 関 す る 三 つ の 事 例 か ら (1)B/ecic v. Croatia事 件 大 法 廷 判 決(2006年3月8日) (2)Silih u. Slovenia 大 法 廷 判 決(2009年4月9日)(3)Uarnava and Others v. Turkey 大 法 廷 判 決(2009年9月18日) 国 際 義 務 の 継 続 的 侵 害 と 認 定 基 準 の 相 対 性 1項 及 び2項 1 は じ め に 第 二次 世 界 大 戦 後 に登 場 した 人権 の 国 際 的保 障 制 度 にお い て 、 普遍 的 あ る い は 地域 的人 権 諸 条 約 が 果 た して い る役 割 や そ の発 展 は、 す で に周 知 の事 実 で あ る。 しか し近 年 、 そ れ ら国 際 人権 法 の 一般 国際 法 に対 す る位 置づ け につ い て は意 見 が わ か れ る とこ ろで あ る。 条 約 、 法 源 、 国家 責 任 な ど既存 の 国 際法 の枠 組 み や 原 理 原 則 が 、 人権 法 の
202 京 女法 学 第1号
生 成 や 発 展 の 基 礎 と な っ て い る こ と に 異 論 は な い が 、 国 際 人 権 法 に 特 有 の 法 事 象 が 多 くみ ら れ る よ う に な っ て き た こ と も確 か で あ る 。 ま た 同 時 に 、 そ の よ う な 「特 殊 性 」 は 一 般 国 際 法 の 発 展 に も取 り込 ま れ て い る の で は な い か と い う 指 摘(1)もあ る 。 現 に 、 強 行 規 範(jus cogens)や 対 世 的 義 務(obligation 8㎎ αo配研63)の 概 念 、 外 交 的 保 護 や 主 権 免 除 を は じ め 、 武 力 行 使 や 領 域 問 題 な ど、 様 々 な 国 際 法 領 域 を め ぐ る 問 題 に つ い て 、 人 権 あ る い は 人 権 法 の 要 素 が 影 響 を 与 え て い る 。 国 際 社 会 に お け る 人 権 の 主 流 化(mainstreaming of human rights)現 象 は 、 必 ず し も 国 際 人 権 法 の 発 展 の み の 功 績 で は な い で あ ろ う が 、 人 権 法 の 基 盤 で あ る 人 権 概 念 や 人 権 の 保 護 ・尊 重 と い う価 値 が 、 ひ ろ く 国 際 社 会 に お い て 共 有 さ れ て き た 証 拠 と 言 う こ と は 可 能 で あ る 。 し か し な が ら他 方 で 、 国 際 人 権 法 も 条 約 な ど の 法 的 文 書 を 主 要 な 存 立 基 盤 とす る こ とか ら 、 一 般 国 際 法 か ら完 全 に 乖 離 す る こ と は 、 自 ら の 出 自 や 存 在 意 義 を否 定 す る こ と に も な りか ね な い 。 条 約 か ら導 か れ る 国 家 義 務 の 内 容 ・ 性 質 や 構 造 、 履 行 義 務 の 形 態 、 条 約 の 解 釈 適 用 や 留 保 に 関 す る 規 則 な ど、 今 日 で は 独 自 の 発 展 が 指 摘 さ れ て は い る が 、 そ の 「独 自 の 」 発 展 が 無 条 件 に 歓 迎 さ れ て い る 訳 で は な い 。 国 際 人 権 法 も ま た 、 伝 統 的 な 国 家 主 権 の も と に 、 国 家 に よ る 自 発 的 な 合 意 の も と に 引 き受 け られ た 価 値 や 義 務 に よ り成 り立 つ も の と も考 え られ る 。 本 稿 は こ の よ う な 背 景 か ら、 国 際 人 権 法 、 特 に 人 権 条 約 の 解 釈 適 用 に お け る 一 般 国 際 法 の 影 響 に つ い て 、 極 め て 限 定 的 な 範 囲 に つ い て 、 か つ 予 備 的 な 考 察 を行 う こ と を 目 的 とす る 。 前 述 の とお り、 国 際 人 権 法 と一 般 国 際 法 の 相 関 関 係 は 多 岐 の 分 野 に 見 ら れ る が 、 網 羅 的 に す べ て を扱 う こ と は 筆 者 の 能 力 を超 え る の で 、 こ こ で は 従 来 の 筆 者 の 関 心 に 沿 っ て(2)、人 権 に 対 す る 「継 続 的 侵 害 」 概 念 が 、 条 約 実 施 機 関 に よ る 時 間 的 管 轄 や 受 理 可 能 性 の 決 定 に い か (1)M.T. Kamminga and M.Scheinin eds., The Impact of Human Rights Law on General International Law, Oxford,2009.
(2)拙稿 「時 間 的管轄 にお ける 『継 続 的侵 害 』概 念一 規 約 第26条 との 関係 につ い ての 一考 察一 」 『社会 システ ム研 究』 第6号(京 都大 学)、2003年 、129-143頁 。
国 際義務 の 「継続 的侵 害」 概念(前 田) 203 な る 影 響 を与 え て い る の か に つ い て 、 ヨ ー ロ ッ パ 人 権 条 約(3)にお け る 手 続 的 義 務 に 関 連 す る 事 例 を も と に 、 国 連 国 際 法 委 員 会(lnternational Law Commission:ILC)国 家 責 任 条 文(4)とも照 ら し あ わ せ な が ら 考 察 し て い き た いo
2
国際義務 違反 とな る 「
継続 的侵 害」行為 の認定
一 ヨー ロ ッパ 人権 条約 に関す る三つの事例 か ら
ヨー ロ ッパ 人権 条 約 や 自 由権 規 約(5)にお い て 、人 権 条 約 上 の権 利 へ の締 約 国 に よる 「継 続 的 侵 害 」 を扱 っ た事 例 は数 多 く存 在 す る。 と りわ け財 産権 保 護 に 関す る事 例 に関 して は、 トル コの北 キ プ ロス侵 攻(1974年)に よ るキ プ ロ ス系 住 民 の 財 産 権 侵 害 の 事例 、 東 欧諸 国の 旧社 会 主 義 政権 に よ り収 用 され た住 居 等 個 人 財 産 の 民 主化 後 の新 政 府 に よ る返 還 ・賠 償 に 関 す る差 別 的取 扱 い の事 例 、 同 じ く東 欧 諸 国 にお け る 第二 次 世 界 大 戦 の 戦 後処 理 に伴 う個 人財 産 の没 収 の事 例 等 、 同一 の 法 的事 実 関係 に基 づ く大 量 の 中立 が見 られ る。 そ れ らの事 例 にお い て は、 申立 人 が主 張 す る、 締 約 国 に よる条 約 上 の 権利 侵 害 を生 ぜ しめ る原 因 と考 え られ る行 為 が 、 一 見 して 当 該締 約 国 に対 す る条 約 義 務 の発 効 日よ り も前 に と られ て い る こ とが 問 題 とな って い る。 こ の こ と は 条約 実 施 機 関の 時 間的 管 轄 の 認 定 に 決定 的 な要 素 と な る と と もに、 仮 に時 間 的管 轄 の設 定 にあ た っ て認 定 され た 国家 の権 利 侵 害 行 為 が 、 国 内救 済 手 続(3)人 権 及 び 基 本 的 自 由 の 保 護 の た め の 条 約(Convention for the Protection of Human Rights and Fundamental Freedoms)。1950年 採 択 、1953年 発 効 、1998年11月 第11議 定 書 及 び2010年6月 第14議i定 書 に よ り 改 正 。
(4)The International Law Commission's Draft Articles on Responsibility of States for Internationally Wrongful Acts(the text in the annex of the GA resolution 56/830f
12December 2001)。 条 文 テ キ ス ト及 び 国 際 法 委 員 会 に よ る コ メ ン タ リ ー は 、 James Crawford, The International Law Commission's Articles on State Responsibility:Introduction,
Text and Commentaries, Cambridge,2002に も 所 収 。
(5)市 民 的 及 び 政 治 的 権 利 に 関 す る 国 際 人 権 規 約(lnternational Covenant on Civil and Political Rights)。1966年 採 択 、1976年 発 効 。
204 京女 法学 第1号 に関 す る もの で あ った場 合 、 申立 権 に かか る手 続 的 な受 理 可 能 性 要 件 で あ る 6箇 月 ル ー ル(6)の適 用 に も少 なか らぬ影 響 を与 え る。 本 章 で は まず 、 ヨー ロ ッパ 人 権 条 約 に 関す る三 つ の事 件 を題 材 に、 条約 義 務 違 反 を問 わ れ た国家 行 為 が 、 どの よう に継 続 的侵 害 と して構 成 され た の か とい う認定 の方 法 につ い て考 察 す る。 (1)B'vec'c v. Croatia事 件(7)大 法 廷 判 決(2006年3月8日) ク ロ ア チ ア 国 籍 のBlecic(以 下 、中 立 人)は 、ク ロ ア チ ア の ザ ダ ル(Zadar) 市 内 の 公 有 住 宅 を 貸 借 し て い た が 、1991年7月26日 に ロ ー マ 在 住 の 娘 を 訪 ね た と こ ろ 、 同 年8月 末 か ら ク ロ ア チ ア 国 内 で の 武 力 衝 突 が 勃 発 し、 中 立 人 は ロ ー マ か らザ ダ ル に戻 る こ とが 困 難 と な っ た 。 間 も な く 中 立 人 に対 す る 公 的 年 金 の 支 給 や 、 住 宅 へ の 水 道 ・電 気 な どの 供 給 も停 止 し た 。 1991年11月 、 あ る 家 族 が 申 立 人 の 留 守 宅 に 押 し 入 り、 そ の 住 居 を 占 有 し 、 中 立 人 が 住 居 に 戻 る こ と を 阻 む た め に 脅 迫 を 行 っ た 。そ の 後 ザ ダ ル 市 当 局 は 、 中 立 人 が 正 当 な 理 由 な く半 年 以 上 に わ た っ て 住 居 を留 守 に し た こ と は 住 居 法 に 反 す る と し て 、 貸 借 契 約 の 終 了 を 確 認 す る 訴 訟 を提 起 した(8)。 ザ ダ ル 地 方 裁 判 所(Municipal Court)は1992年10月9日 の 判 決 に お い て 、 申 立 人 は1991年7月26日 か ら1992年5月15日 ま で 住 居 を 留 守 に して お り、 そ の 間 ザ ダ ル で は 武 力 紛 争 は 発 生 し て い た が 、 市 民 に対 す る 退 避 命 令 は 出 さ れ て い な か っ た の で 、 紛 争 を 理 由 と して 申 立 人 が ロ ー マ か ら帰 国 し な か っ た こ と に 正 当 性 は な い と し て 、 当 該 住 居 の 貸 借 契 約 の 終 了 を 決 定 した(9)。 申 立 人 は 判 決 を 不 服 と し て ザ ダ ル 州 裁 判 所(County Court)に1993年3 月10日 控 訴 した 。 控 訴 審 は 、 第 一 審 判 決 は 中 立 人 が 当 該 公 有 住 宅 に 帰 還 で き な か っ た 理 由 を 適 切 に 考 慮 し て い な い と し て 、 事 件 を 第 一 審 裁 判 所 に 差 し戻 (6)ヨー ロ ッパ 人権 条約第35条1項 。 テキス トにつ い ては後掲 注(33)参照 。 (7) (s) (9)
Bleèiè v. Croatia, Judgment of 8 March 2006 [GC], Application no. 59532/00. Ibid., paras. 20 — 21.
国際 義務 の 「継 続 的侵害 」概 念(前 田) 205 し た(10)。差 戻 し 審 に お い て 、1994年1月18日 ザ ダ ル 地 方 裁 判 所 は 、 再 度 、 市 当 局 の 主 張 を 認 め 、 申 立 人 の 公 有 住 宅 の 貸 借 を 終 了 させ る こ と を 決 定 し た 。 し か し 州 裁 判 所 が こ の 判 決 を 覆 し、 申 立 人 の 主 張 を 認 め た と こ ろ 、 市 当 局 は ク ロ ア チ ア 最 高 裁 判 所 に 上 告 した 。1996年2月15日 、 最 高 裁 判 所 は 州 裁 判 所 の 第 二 審 判 決 を覆 し、 第 一 審 判 決 を 支 持 し た ⑳。 中 立 人 は1996年11月8日 、 憲 法 裁 判 所 に提 訴 し、 彼 女 の 住 居 ・財 産 権 と公 正 な 審 理 に 対 す る 権 利 が 侵 害 さ れ た と 主 張 し た が 、1999年11月8日 憲 法 裁 判 所 は 、 申 立 人 の 憲 法 上 の 権 利 は 侵 害 さ れ て い な い と して こ れ を 棄 却 し た(な お 、 こ の 間 の1997年11月5日 に 、 ク ロ ア チ ア に 対 して ヨ ー ロ ッ パ 人 権 条 約 が 発 効 し 、 ヨ ー ロ ッパ 人 権 委 員 会 ・裁 判 所(当 時)の 個 人 申 立 の 審 査 権 限 も受 諾 さ れ た)(12)。中 立 人 は 、2000年5月6日 に 本 事 件 を ヨ0ロ ッ パ 人 権 裁 判 所 (以 下 、 人 権 裁 判 所)に 対 し、 条 約 第8条(私 生 活 及 び 家 族 生 活 の 尊 重 に つ い て の 権 利)(13)、第 一 議 定 書 第1条(財 産 権)(14)の侵 害 で あ る と し て 申 し 立 て た 。 ク ロ ア チ ア 政 府 は 、 時 問 的 管 轄 に 関 す る 先 決 的 抗 弁 と し て 、 本 事 件 は 同 国 に 対 す る ヨ ー ロ ッパ 人 権 条 約 の 発 効 前 に 生 じ た 事 件 で あ り、 申 立 人 が 公 有 住 (10)Ibid., para.26. (11)Ibid., Para.30. (12)Ibid., paras.31-33. (13)ヨー ロ ッパ 人 権 条 約 第8条(私 生 活 及 び 家 族 生 活 の 尊 重 につ い て の 権 利) 1 す べ て の者 は 、 そ の 私 的 及 び家 族 生 活 、 住 居 及 び通 信 の 尊 重 を受 け る権 利 を 有 す る。 2 こ の 権 利 の 行 使 につ い て は 、 法 律 に 基 づ き、 か つ 、 国 の 安 全 、 公 共 の 安 全 若 し く は 国 の 経 済 的 福 利 の た め 、 ま た 、 無 秩 序 若 し くは 犯 罪 の 防 止 の た め 、 健 康 若 し くは 道 徳 の 保 護 の た め 、 又 は他 の 者 の 権 利 及 び 自 由 の 保 護 の た め 民 主 的 社 会 に お い て 必 要 な も の 以 外 の い か な る 公 の 機 関 に よ る 干 渉 も あ っ て は な ら な い 。(松 井 芳 郎 編 集 代 表 『ベ ー シ ッ ク 条 約 集2011』(東 信 堂)参 照 。 な お こ れ 以 降 に お い て 、 同 条 約 の 規 定 を 引 用 し て い る 部 分 に つ い て は す べ て 同 じ。) (14)ヨー ロ ッパ 人 権 条 約 第 一 議 定 書 第1条(財 産 の 保 護i) す べ て の 自然 人 又 は 法 人 は 、 そ の 財 産 を平 和 的 に 共 有 す る 権 利 を 有 す る 。 何 人 も、 公 益 の た め に 、 か つ 、 法 律 及 び 国 際 法 の 一 般 原 則 で 定 め る 条 件 に従 う 場 合 を 除 くほ か 、 そ の 財 産 を 奪 わ れ な い 。 た だ し、 前 の 規 定 は 、 国 が 一 般 的 利 益 に基 づ い て 財 産 の 使 用 を規 制 す る た め 、 又 は税 そ の 他 の 拠 出 若 し く は罰 金 の 支 払 い を 確 保 す る た め に 必 要 と み な す 法 律 を 実 施 す る権 利 を 決 して 妨 げ る もの で は な い 。
206 京 女法学 第1号 宅 へ の 居 住 権 を 有 し て い な い こ と は 最 高 裁 判 所 の 判 決 に よ っ て 確 定 し て お り、 同 判 決 も 条 約 の 発 効 日 よ り も前 の も の で あ る の で 、 人 権 裁 判 所 は 時 間 的 管 轄 権 を 有 さ な い と 主 張 し た(15)。こ の 点 に つ い て 人 権 裁 判 所 小 法 廷 (Chamber)は 、 申 立 人 の 居 住 権 の 終 了 は 単 一 の 決 定 で は な く一・連 の 裁 判 所 判 決 に よ る も の で あ り、 最 終 的 に は ク ロ ア チ ア に 対 す る 条 約 発 効 後 の 憲 法 裁 判 所 判 決 で 確 定 し た こ と を理 由 と し て 、 自 ら の 管 轄 を 認 め た ⑯。 人 権 裁 判 所 大 法 廷(Grand Chamber)は 、 ク ロ ア チ ア が 小 法 廷 で の 手 続 に お い て 、 時 間 的 管 轄 の 問 題 を提 起 し て お ら ず 、 裁 判 所 が 自 ら の 発 意 で 時 間 的 管 轄 に つ い て 検 討 した こ と に触 れ つ つ 、 当 該 事 件 の 事 実 関 係 が 、 条 約 機 関 の 管 轄 に 部 分 的 に 含 ま れ て い る よ う な 事 例 に つ い て は 、 自 ら が 再 度 時 間 的 管 轄 に つ い て 決 定 を 行 う こ と は 条 約 第34条(個 人 の 中 立)(1のに 照 ら し て 正 当 で あ る と説 明 した 圏。 そ れ まで の 判 例 法 の 検 討 に 関 し て は 、 条 約 発 効 日 を 境 と し て 、 そ れ 以 前 の 国 内 裁 判 所 等 に お け る 判 決 ・決 定 に つ い て は 、 即 時 的 行 為(instantaneous acts)で あ っ て 、 条 約 発 効 日 よ り も後 へ の 継 続 的 侵 害 状 況 を 引 き起 こ す も の で は な い 、 ま た 条 約 発 効 日 よ り後 に 出 さ れ た 国 内 裁 判 所 判 決 を 、 条 約 発 効 日 以 前 の 出 来 事 か ら切 り離 して 捉 え て 、 遡 及 的 効 果 を も た せ る こ と は 、 国 際 法 の 一 般 原 則 に 反 す る で あ ろ う との 見 解 を示 し た(19)。 こ こ で 注 目す べ き は 、 大 法 廷 が 、 申 立 人 が 主 張 す る 条 約 上 の 権 利 侵 害 の 発 生 原 因 と な る 「事 実 」 と、 そ れ に 対 す る 国 内 「救 済 」 との 相 関 を 、 時 間 軸 と (15)Ibid., Para.56. (16)Ibid., paras.60-62. (1のヨ ー ロ ッパ 人 権 条 約 第34条(個 人 の 中 立) 裁 判 所 は、 締 約 国 の 一 に よ る条 約 又 は 議i定書 に 定 め る 権 利 の 侵 害 の 被 害 者 で あ る と主 張 す る 自然 人 、 非 政 府 団 体 又 は 集 団 か ら の 中 立 を 受 理 す る こ と が で き る 。 締 約 国 は 、 こ の 権 利 の効 果 的 な行 使 を 決 して 妨 げ な い こ と を 約 束 す る 。
(18)Ibid., paras.63-72.大 法 廷 は 、(a)大 法 廷 の 先 決 的 抗 弁 を 検 討 す る 権 限 、(b)裁 判 所 の 時 間 的 管 轄 へ の 制 限 、 の 二 点 か ら検 討 して い る 。
国際義 務の 「継続 的侵 害」 概念(前 田) 207 の 関係 で捉 え なお して い る点 で あ る。 申立 人 は、救 済 の不 備 を権 利 侵 害 の 理 由 と してあ げ て い るが 、そ もそ も救 済 が 必 要 で あ る とす る な らば、そ れ は遡 っ て、 当該 事 件 に 関す る事 実 が既 に条 約 違 反 の状 況 をつ く りだ してい た とい う 前 提 に立 た ね ば な らず 、 当 該事 実 の発 生 が 条 約発 効 日 よ り も前 の 出来 事 で あ れ ば、 当然 条 約 実 施 機 関 と して は、 当該 事 実 の合 法違 法 の判 断 を行 う こ とは 不 能 で あ る とい う立 場 を先 例⑳に触 れ なが ら確 認 して い る。 時 間 的管 轄 の 設 定 に不 可 欠 で あ るの は、 中立 人が 主 張 す る権 利侵 害 が いつ の時 点 で 発 生 した のか を正確 に決 定 す る こ とで あ る と して い る⑳。 こ う した 立 場 を念 頭 に大 法廷 は、 本 件 中立 人 の 公有 住 宅 の貸 借 契 約 の 終 了 が 条 約 違 反 の 主 張 を根 拠 づ け る事 実 で あ る こ とは認 め たが 、 当該 終 了 の 時期 が い つ で あ った の か とい う時 間 的管 轄 の 問 題 は別 途検 討 す る必 要 が あ る と し た吻。 終 了 時 期 の 検 討 につ い て は、 公 有 住 宅 の 貸 借 契 約 の終 了 を確 定 させ る 国内 判 決 が 既 判 力 を得 た(res judicata)時 点 で あ る と し、本 件 で は、 条 約 発 効 後 の1999年 憲 法 裁判 所 決定 は最 高 裁 判所 の判 決 を支 持 した だ けの もの で あ り、 時 間 的管 轄 を検 討 す る た め の侵 害行 為 発 生 日は、 最 高 裁 判 所 判 決 が確 定 した1996年2月15日 で あ る と した㈲。 また 契 約 の 終 了 事 態 は即 時 的行 為 で あ り、 申立 人 が 主 張 す る よ うな⑳ 「継 続 的 侵 害 」 は存 在 して い な い との判 断 を 下 した(25)。 最 後 に大 法 廷 は 、 憲 法裁 判 所 の 最 高 裁 判所 判決 の取 消 請 求 に対 す る棄 却 が 条 約 違 反 で あ る か に つ い て検 討 し、 憲 法 裁 判所 が 求 め られ た救 済付 与 は 、貸 借 契 約 の終 了 とい う先 行 行 為 自体 が 条約 違 反 で あ る とい う前 提 に立 た な け れ (ao) (21) (22) (23) ㈲
Yagci and Sargin v, Turkey, Judgment of 8 June 1995, Application nos. 16419/90 and 16426/90 § 40, Series A no. 319-A, Kopecky v. Slovakia [GC] , Judgment of 28 September 2004, Application no.44912/98, § 38, ECHR Reports, 2004-IX.
Bleèiè v. Croatia, op. cit., paras. 77 — 82. Ibid., para. 83.
Ibid., para. 85. Ibid., para. 58. Ibid., para. 86.
208 京女 法学 第1号 ば な らず 、 また憲 法 裁 判所 の機 能 は、 最 高 裁 判 所 判 決 の合 憲 性 を判 断 す る こ とで あ り、本 事 件 の 事 実 が発 生 した時 点 で は、 条 約 は 国 内法 とは な って い な か っ た た め 、 憲 法 裁 判 所 は 条 約 適 合 性 を 検 討 す る こ と は で き な か っ た と の 結 論 を示 し た 囲。 特 に ウ ィ ー ン 条 約 法 条 約 第28条(条 約 の 不 遡 及)⑫のに 関 し 、ヨ ー ロ ッパ 人権 条 約 は、相 互主 義 に基 づ く条 約 とは異 な り個 人 の 権 利 を直接 創 設 す る性 質 か ら、 条 約 の不 遡 及 原 則 は、 人 権 裁 判 所 だ け で な く締 約 国の 国 内裁 判所 の 判 断 に、 第 一 にそ して最 も影 響 を及 ぼす こ とに な り、 人 権 裁 判所 の補 完 的性 質 か ら、 国 内裁 判 所 にお け る条 約 の 遡 及 適用 を強 い る こ とはで きな い と述 べ て い る点 は注 目に値 す る圏。 大 法 廷 は 、11対6の 評 決 に よ り 自 らの 時 間 的 管 轄 を否 定 し、 本 件 を 受 理 不 能 と し た 。 しか し こ の 決 定 に 際 し て 、6名 の 裁 判 官 が 反 対 意 見 を 付 して い るX29)。 反対 意見 の 内容 は、 大 き く分 け て① 条 約 義 務 へ の 違 反行 為 発 生 日の 設 定 、② 大 法 廷 にお け る受理 可 能性 審査 の権 限㈹に 関 す る もの で あ るが 、 こ こで は本 (26)Ibid.,paras.87‐89. 吻 条 約 法 に 関 す る ウ ィ ー ン条 約(ウ ィー ン条 約 法 条 約)。1969年 採 択 、1980年 発 効 。 第28条(条 約 の 不 遡 及) 条 約 は 、 別 段 の 意 図 が 条 約 自体 か ら明 ら か で あ る 場 合 及 び こ の 意 図 が 他 の 方 法 に よ っ て 確 認 さ れ る 場 合 を 除 くほ か 、 条 約 の 効 力 が 当 事 国 に つ い て 生 ず る 日前 に 行 わ れ た 行 為 、 同 日前 に 生 じた 事 実 又 は 同 日前 に 消 滅 し た 事 態 に 関 し、 当 該 当 事 国 を拘 束 し な い 。 (28) Ibid., para. 90.
(29) Loucaides, Rozakis, Zupanèiè, Cabral Barreto, Pavlovschi, Davfd Thor Bjorgvinsson. (30)Cabral Barreto裁 判 官が単 独 で付 して い る反対 意見 は、特 に この点 につい て次 の よう な議 論 を展 開 してい る。大 法廷 の多 数意 見 が、① ク ロアチ ア政 府が 、小 法廷 の審理 に お い て 時間 的管轄 に関す る先 決 的抗 弁 を持 ち 出 して いな いの に、大 法廷 で はそ の 点 を 提 起 したの は禁反 言 で はな いか、 ②小 法廷 が 自 らの意 思 に よつて時 間 的管 轄 の検討 を 行 っ て はい るが、 そ の結論 に拘 わ らず、 大法 廷 が 自 らその 時 間的管 轄 につ い て審査 を 行 う ことは裁 判所 規則 第55条 に照 ら して 認 め られ る、 と述べ た こ とに対 して、① 対 審 手 続 の原 則や 武器 平等 に照 らせ ば、 当事 者 らは大 法 廷 にお い て も時 間 的管轄 の 問題 を 提 起 す る機会 を与 え られ るべ きであ るが 、② 締約 国が、 国 内救済 不 完 了 につい て は受 理 可 能性 審査 で提 起 しなか った場 合 に は、本 案 審査 で それ を持 ち だす こ とは禁 じ られ てい る こ とか ら、 時 間的管 轄 の 問題 につ い て も、政 府が 受 理可 能性 審査 の段 階 で提 出 しなか った要件 の不備 につい て、 本案段 階 で持 ち 出す こ とは阻 まれ るべ きで あ る。
国 際義務 の 「継 続 的侵 害 」概念(前 田) 209 稿 の 趣 旨 に鑑 み① に つ い て考 察す る に とどめ る。 大 法 廷 判 決 に 反対 票 を投 じた6人 全 員 が 共 同 で付 した 反 対 意 見 に お い て、 人権 裁 判 所 の 時 間 的管 轄 を決 す る期 日は、 ク ロア チ ア憲 法 裁 判 所 の 決 定 が 出 され た1999年11月8日 で あ るべ き と主 張 され て い る。 国 内裁 判 にお け る終 結 判 決 が 出 され た 日、す な わ ち 申立 人 の権 利 侵 害 の主 張 に 関す る決 定 が確 定 し、 そ れ 以 上 に争 うこ とが 不 能 とな った 期 日が 、 時 間 的管 轄 を判 断 す る期 日で あ る と し、 本件 の場 合 、 憲 法 裁 判 所 決 定 の1999年11月8日 は、 ク ロ アチ ア に対 す る 条 約 及 び 条 約 に 基 づ く個 人 申立 の 受 諾 に 関 す る 選 択 議 定 書 の 発 効 日 (1997年11月5日)よ りも後 で あ る こ とか ら、 人 権 裁 判 所 は 時 間 的 管 轄 を有 す る との異 見 を示 した。 また この反 対 意 見 で は、判 決 の多 数意 見 が 参 照 して い る先 例 ⑳につ い て も、 国家 に よる権 利 侵 害 行 為 自体 は条 約発 効 日 よ りも前 に完 結 して お り、 当該 侵 害 行 為 は 後 の そ れ に 関 す る 司 法 手 続 とは 切 り離 さ れ て独 立 した も の(an autonomous event)で あ る と指 摘 して い る。 す な わ ち 本 事 件 で は、 権 利 回 復 や 救 済 の 可 能 性 を 絶 つ 確 定 的 な(de丘nitive)な 決 定 の存 在 自体 が 条 約 上 の権 利 侵 害 を構 成 す るの で あ るか ら、 条 約 発 効 後 の 憲 法 裁 判所 の棄 却 決 定 が そ れ に あ た り、 裁 判所 の 時 間 的 管轄 は認 め られ る と解 す べ き と して い る。 さ ら に この 点 につ い て、Zupancic, Cabral Barreto両 裁 判 官 の 共 同反 対 意 見 は次 の よ う な問 題 を提 起 して い る。 多 数 意 見 が 最 高 裁 判所1996年 判 決 を本 事 件 の 中核 的 侵 害 行 為 と して採 用 した 理 由 と して、 「後 の 憲 法 裁 判 所 の 決 定 は、 権 利 侵 害 を生 じさせ 、 また そ れ を確 定 的 に させ る行為 で あ る最 高 裁 判所 判 決 を許 容 し、 支 持 す る にす ぎな い もの で あ る」㈱と述 べ て い る こ とに対 し、 憲 法 裁 判 所 は単 に、権 利 侵 害 を是 正 す る こ と を行 わ なか っ た と結 論 づ け る こ とが 可 能 で あ るの か 、 す な わ ち、 憲 法 裁 判 所 に も権 利 侵 害 を容認 し是 正 しな か っ た 「不 作為 」 とい うaが あ る の で は ない か と指摘 して い る。
㊨】)Blecic軌Cア リatia, op. Cll., paras.73-76。 (32)Ibid., para.85.
210 京 女 法学 第1号 この両 裁判 官 の 指摘 は興 味深 く、 申立 の受 理 可 能性 要件 で あ る 国内 救 済 完 了 原則 と6箇 月 ル ー ル㈱の 判 定 と も密 接 に か か わ って くる 問題 で あ ろ う。 つ ま り多 数 意見 の よ うに、最 高 裁 判 所 判 決 を管 轄権 に関 す る侵 害 行 為 とす れ ば、 当該 時 点 で 国 内救 済 が完 了 して いた か 、 また そ の 時 点 か ら申立 人 が 人 権 裁 判 所 に 申立 を行 うまで が6箇 月以 内で あ っ たか が 審 査 され るべ き と考 え られ る が、 そ うで あ る とす る と、6箇 月 ル ー ル は満 た さ な い(最 高 裁 判 所 判 決 は 1996年ll月8日 、 人権 裁判 所 へ の 申立 日は2000年5月6日)こ とに な り、 ま た ク ロ ア チ ア 国内 法 に お い て憲 法 裁 判 所 へ の 提 訴 の可 能性 が 残 され て い る場 合 に は 、 国 内救 済 が尽 くされ て い な い と判 断 され る可 能性 も濃 厚 とな る。 管 轄 権 と受 理可 能 性 は切 り離 して考 え られ うる と して も、両 者 の審 査 にか か る 期 日や対 象 が 異 な る こ と を合 理 的 に説 明す る こ とは難 しい。 また この よ うな 「技術 的 」側 面 か ら離 れ、 仮 に憲 法 裁判 所 が 最 高 裁 判 所 判 決 を破 棄 して い た と した ら、 本 件 中立 て は な さ れ なか っ た とい うこ とを考 慮 す る と、 なぜ 最 高 裁 判所 判 決 が 権 利 侵 害 の構 成 要 素 で あ っ て、 同判 決 を黙 認 した 憲 法 裁判 所 が そ うで な い の か を多 数 意 見 は 明確 に説 明 して い な い と言 わ ざ る を得 な い で あ ろ う。 (2)vS'lih v. S'oveη 侮 図 大 法 廷 判 決(2009年4月9日) 本 事 件 は 、 §ilih夫妻(申 立 人)に よ る 息 子 の 死 亡 原 因 は 医 療 過 誤 で あ る と 主 張 す る 中 立 で あ る 。 息 子 の 死 亡 日 は1993年5月19日 、silih夫 妻 が 、 担 当 医 師 に 対 す る 刑 事 上 の 責 任 追 及 に 関 す る 国 内 手 続 を 開 始 し た の は 、 息 子 の 死 亡 直 前 の1993年5月13日 で あ っ た 。 こ れ と あ わ せ て 同 夫 妻 は 、 病 院 と担 当 医 師 に 対 す る賠 償 請 求 の た め の 民 事 訴 訟 を1995年7月6日 に付 託 し た 。な お 、 ス ロ ベ ニ ア 政 府 の ヨー ロ ッパ 人 権 条 約 に お け る 個 人 中 立 権 受 諾 日 は1994年6 (33)ヨー ロ ッパ 人権 条約 第35条1 「裁 判所 は、 一 般 的 に認 め られ た 国際 法 の 原則 に従 っ てす べ ての 国 内的 な救済 措 置が尽 くされ た後 で、 か つ、最 終 的 な決定 が な され た 日か ら6箇 月の期 間 内にの み、事 案 を取 り扱 うこ とが で きる。」
国際義務 の 「継続 的侵 害 」概念(前 田) 211 月28日 で あ る 。 人 権 裁 判 所 へ の 本 事 件 の 申立 日は2001年5月19日 で あ り、 申立 人 は息 子 の 死 亡 に対 す る責 任 追 及 の た め の ス ロベ ニ ア国 内 にお け る司 法 制 度 が 不 十 分 で あ る と して、条 約 第2条(生 命 につ い て の権 利)㈲、3条(拷 問 の 禁止)(36)、6 条(公 正 な 裁 判 を 受 け る権 利)働、13条(効 果 的 救 済 に つ い て の権 利/(38)及び 14条(差 別 の 禁 止)(39)違反 を訴 え た 。 事 件 は 第3小 法 廷 に て、 受 理 可 能 性 と 本 案 が 同時 に審 査 され 、事 件 は、 条 約 第2条 の 手続 的要 素 、 第6条 の 国 内 で の 司 法 手 続 の 遅 延 、効 果 的 な 国内 救 済 の 欠 如 に 関す る13条 につ い て は、 部分 的 に受 理 可 能 で あ り(条 約 第3条 及 び14条 につ い て は 受 理不 能)、 本 案 に 関 して は 、 条 約 第2条 に 関す る手 続 的 権 利 侵 害 につ い て認 定 が され 、 国 内 にお け る 司 法 手続 の 遅延 及 び刑 事 手 続 上 の 不 公 平 に 関す る条 約 第6条 及 び13条 に (35)ヨー ロ ッパ 人権 条 約第2条(生 命 につ いて の権 利) 1 すべ て の者 の生 命 につ い ての権 利 は、 法律 に よって保 護 され る。 何 人 も、故 意 に そ の生 命 を奪 わ れ ない。 ただ し、 法律 で死刑 を定 め る犯 罪 につ い て有 罪 の判 決の 後 に裁 判所 の刑 の 言 い渡 しを執行 す る場 合 は、 この限 りで な い。 2 生 命 の剥 奪 は、 そ れが 次の 目的の た め に絶 対 に必 要 な、 力 の行使 の 結果 で あ る と きは、本 条 に違 反 して行 われ た もの とみ な され ない。 (a)不 法 な暴力 か ら人 を守 るた め (b)合 法 的 な逮 捕 を行 い又 は合 法 的 に抑留 した者 の逃亡 を防 ぐため (c)暴 動又 は反 乱 を鎮 圧 す るた めに合 法 的 に とっ た行為 の ため (36)ヨー ロ ッパ 人権 条約 第3条(拷 問の禁 止) 何 人 も、拷 問 又 は非 人 道的 な若 し くは 品位 を傷つ け る取 扱 い若 し くは刑 罰 を受 け ない。 働 ヨー ロ ッパ 人権 条約 第6条(公 正 な裁 判 を受 け る権 利) 1 す べ て の 者 は、 その 民事 上 の権 利 及 び 義務 の決 定 又 は刑 事 上 の 罪 の決 定 の ため 、 法 律 で 設置 され た、独 立 の、 かつ 、公 平 な裁 判所 に よる妥 当 な期 間内 の公 正 な公 開 審 理 を受 け る権利 を有 す る(以 下、 省 略)。 2-3 省 略 (38)ヨー ロ ッパ 人権 条約 第13条(効 果 的救 済 につ いて の権 利) この条 約 に定 め る権 利及 び 自由 を侵 害 され た もの は、公 的 資格 で行 動 す る者 によ りそ の侵 害 が行 わ れた場 合 に も、 国 の機 関の前 におい て効果 的 な救済 措 置 を受 け る。 (39)ヨー ロ ッパ 人権 条約 第14条(差 別 の禁 止) この条 約 に定 め る権 利及 び 自由の享 受 は、 性 、人種 、皮 膚 の色 、 言語 、宗 教 、政 治 的 意見 そ の他 の意見 、 国民 的若 し くは社 会的 出 身、少 数 民族 へ の所属 、 財 産、 出生 又 は 他 の地位 等 に よる いか なる差 別 もな しに、 保 障 され る。
212 京 女 法学 第1号 か か る 申 立 人 の 主 張 は 、 別 途 の 検 討 を 行 う 必 要 な し と の 判 断 が 下 さ れ た 。 2007年9月27日 ス ロ ベ ニ ア 政 府 は 大 法 廷 へ の 回 付 を要 請 し、 人 権 裁 判 所 の 検 討 パ ネ ル は こ れ を 認 め 、2009年4月9日 に 大 法 廷 判 決 が 下 さ れ た 。 大 法 廷 判 決 で は 第3小 法 廷 に お い て 受 理 可 能 と さ れ た 部 分 に つ い て の み 審 査 が 行 わ れ た(40)。ス ロ ベ ニ ア 政 府 は 、 条 約 第2条 に 関 し て 、 人 権 裁 判 所 に は 時 間 的 管 轄 が な い こ と、 当 該 中 立 は 国 内 救 済 完 了 原 則 を 満 た し て い な い と い う二 点 の 先 決 的 抗 弁 を 提 出 した(41)。 時 間 的 管 轄 に つ い て は 、 小 法 廷 は 、 政 府 の 先 決 的 抗 弁 に 依 ら ず 自 ら の イ ニ シ ア テ ィ ブ で そ の 検 討 を 行 い 、Blecic事 件 に な ら い 、 事 件 の 事 実 関 係 と権 利 の 射 程 に 応 じて 時 間 的 管 轄 を 有 す る と し 、 医 療 過 誤 に よ る 死 亡 事 故 自体 は ス ロ ベ ニ ア の 個 人 中 立 権 受 諾 日(決 定 期 日)よ り も前 の 出 来 事 で は あ る が 、 そ れ と は 切 り離 して 、 医 療 過 誤 に 関 す る 原 因 と責 任 の 追 及 の た め の 実 効 的 な 司 法 制 度 を 備 え る と い う 条 約 第2条 に か か る 国 家 の 義 務 は 、 自 律 的 (autonomous)な も の で あ る と位 置 づ け た 。 そ し て そ の 義 務 違 反 が 、 裁 判 所 の 時 間 的 管 轄 の 範 囲 内 で あ る か を検 討 し 、 国 内 で の 刑 事 手 続 が1996年7月4 日以 降 に 再 開 さ れ て い る こ と 、 損 害 賠 償 請 求 の 民 事 手 続 も1995年 か ら 開 始 さ れ て い る こ と に鑑 み 、 人 権 裁 判 所 は 時 間 的 管 轄 を 有 す る と の 判 断 を 示 し た(42)。 人 権 裁 判 所 大 法 廷 は 、 条 約 法 条 約 第28条 の 条 約 の 不 遡 及 原 則 を あ げ て 、 条 約 締 約 国 は 決 定 期 日前 の 行 為 は 条 約 上 の 義 務 の 対 象 と な ら な い と確 認 し た う え で 、 そ う した 決 定 期 日 よ り も 前 に 生 じ た 「権 利 侵 害 」 行 為 が 、 期 日 以 降 の 条 約 義 務 違 反 を構 成 す る 事 実 と 関 連 性 を有 す る 場 合 が あ る が 、 前 者 が 裁 判 所 の 管 轄 に 服 さ な い の で あ れ ば 、 そ の 後 の 手 続 的 義 務 の 問 題 も 裁 判 所 の 時 間 的 管 轄 に は含 ま れ な い と したBlecic事 件 で の 原 則 を本 事 件 に も適 用 す る と し た(43)。 条 約 第2条 の 手 続 的 義 務 に 関 す る 時 間 的 管 轄 の 決 定 に つ い て は 、大 法 廷 は 、 (40)Ibid., paras.119-121. (41)Ibid., Para.123. (42)Ibid., paras.124-126. (43)Ibid., paras.140-147.
国際 義務 の 「継続 的侵 害」 概念(前 田) 213 実 質 的義 務 と手 続 的 義務 との分 離 可 能性(detachability)に つ い て検 討 して い る。 裁 判 所 は先 例 ㈲に お い て、 既 に条 約 第2条 や 第3条 に手 続 的義 務 が含 まれ てお り、 そ れ は同 条 を履 行 す る う えで不 可 欠 な 要素 で あ る こ と を確 認 し てい る と し、 さ ら に、① 本 事 件 でに 死 亡 事 故 自体 は 決定 期 日の前 の 出 来 事 で あ り、 締 約 国 政府 に よ る手続 上 の作 為 ・不作 為 の み が人 権 裁 判 所 の 時 間 的管 轄 の 範 疇 とな り う る こ と(45)、② 死 亡 事 故 と条 約 の締 約 国 に対 す る効 力 発 生 と の 間 に は、 手 続 的 義 務 が 発 生 す る う え で の 真 正 な 連 関(agenuine connection)が あ る こ と、 の 二 点 か ら、 決 定期 日 よ り後 に と るべ き手続 的措 置 が 、 第2条 に お い て 重要 な比 率 を 占め て い る 、 む しろ 占 め るべ きで あ る と 結 論 づ け た㈹。 また 死 亡事 故 とス ロベ ニ ア に対 す る条 約発 効 日が接 近 してお り、 国 内 に お け る手 続 が 一 部 の初 期 の もの を除 い て 、 条 約発 効 後 に 開始 ・実 施 され て い る こ と、 政府 側 が そ れ らの 国 内手 続 に対 す る 中立 人 の 主張 に対 して 争 って い な い こ と を理 由 と して 、 条約 第2条 の 手続 的 義務 に 関す る争 点 は、 裁 判所 の 時 問的 管 轄 に服 す る と判 断 した㈲。 条 約 第2条 との 関係 に お い て、 小 法廷 で は 本事 件 へ の 国 内救 済 完 了 原則 の 適 用 につ い て 次 の よ うに審 査 して い る。 中立 人 が 息子 の 医療 過 誤 に よ る死 亡 につ い て 十分 な調 査 が され なか った こ とに 関 し、 手続 の不 当 な遅 延 を主 張 し て い る こ と につ い て ス ロベ ニ ア政 府 は、 行 政 裁判 所 や憲 法 裁 判 所 で 争 う可 能 性 が 残 され て い た こ と をあ げ て、 人 権 裁 判所 へ の 申 し立 て は 国 内救 済 を尽 く して い な い と抗 弁 した 。 これ につ い て小 法廷 は 、 申 立人 の主 張 にか か る問題 は、 単 に手続 が合 理 的期 間 内 に行 われ た か とい う点 で は な く、 条 約 第2条 の も とで 要 請 され る 手続 的要 件 を 国家 が満 た して い た と言 え る か どうか とい う (44) (45) (46) ㈲
McCann and Others v. the United Kingdom, Judgement on 27 September 1995 [GC] , Application no. 18984/91, Series A no. 324.
Šilih v. Slovenia [GC], op. cit., para. 162. Ibid., para. 163.
214 京 女 法学 第1号 点 に あ り(48)、刑 事 手 続 につ い て はす べ て の手 段 が尽 くされ て い る し、 民事 手 続 に 関 して は、 ま さ に第2条 との 関係 につ い て 本 案 で検 討 す べ き問題 だ と し て不 受 理 とはせ ず㈲、 同時 に行 った 本 案 審査 に お い て、 第2条 違 反 を認 め た 。 そ の後 に本 件 が 回付 され た大 法 廷 にお いて も、 国 内 救済 完 了 原 則 の判 断 に関 して は、 小 法 廷 判 決 が 支持 され た(50)。 Bratza, Turmen両 裁 判 官 はス ロベ ニ ア 政 府 に よ る時 間 的管 轄 へ の先 決 的 抗 弁 を退 け る決 定 及 び条約 第2条 の手 続 的 義 務 の 違 反 認定 につ い て反 対 票 を 投 じ、 そ の共 同反 対 意 見 に お い て次 の よ うに述 べ て い る。 この指 摘 は、 手 続 的義 務 へ の不 作 為 に よ る継 続 的侵 害 の位 置 づ け を考 え る上 で重 要 性 を持 つ 。 Blecic事 件 判 決 で 問題 とされ た、 個 人 申立 権 の義 務 的 管 轄 を定 め る条 約 の 当該 締 約 国 に対 す る効 力発 生 日 よ り も前 に発 生 した事象 に起 因す る、 同 効 力 発 生 日 よ りも後 に生 じた 国家 の救 済 義 務 の違 反 は、 本事 件 で は 問題 とされ て い な い 。 中立 人 が条 約 第2条 の も とで提 起 したの は、効 力 発 生 日 よ り も前 で あ る 息子 の死 亡 事 件 へ の 調査 義務(積 極 的義 務)の 違 反 で あ る。 そ れ に もか か わ らず本 事件 の判 決 で はBlecic事 件 判 決 で の 原則 を重 要 視 してい るが 、 も し手続 的 義務 が 条約 第2条 か ら生 じる とす れ ば、 死 亡 事 故 の 時 点 で 国家 に調 査 の 義務 が あ っ た か どうか で あ る。 条 約 第2条 か ら 自律 的 な手続 的義 務 が 読 み 取 れ る とい う こ と に は 同 意 す る が、 そ れ は まず は、 同条 か ら の実 質 的 な (substantive)義 務 違 反 が 存 在 して こそ の こ とで あ る。 そ う で な け れ ば、 条 約 は 、 本事 件 で の死 亡 事 故 や そ れ に対 す る調 査 の不 作 為 とい う事 実状 況 に 関 して 、 そ れ が た とえ条 約 発効 日前 で あ っ て も、 当該 締 約 国 を拘 束 す る とい う こ と にな って し ま うであ ろ う⑳。 (48) (49) (50) (5D
Šilihu Slovenia, Judgment of 28 June 2007 [Third Section], application no. 71463/01, para. 103
Ibid., para. 105.
Šilihu Slovenia [GC] , op.cit, paras. 168 —170.
国際義務 の 「継続 的侵 害 」概 念(前 田) 215
(3)Varnava and Others v.π 」炊ey6⇒ 大 法 廷 判 決(2009年9月18日)
本 事 件 は 、1974年 に トル コ 軍 が 北 キ プ ロ ス に 侵 攻 した 際 に 、行 方 不 明 と な っ た 者 た ち に 関 して 、 トル コ 政 府 が 十 分 な 捜 索 な ど の 調 査 を行 っ て い な い こ と が 、 条 約 第2条 、3条 、5条(自 由 及 び 安 全 に つ い て の 権 利)(53)、そ の 他 第4、 6、8、10(表 現 の 自 由)、12(婚 姻 に つ い て の 権 利)、13、14条 違 反 が 申 し 立 て ら れ た 事 例 で あ る 。 大 法 廷 は 、 条 約 第2、3及 び5条 に つ い て は 、 トル コ 政 府 が 十 分 な 調 査 を行 わ な か っ た こ との 不 作 為 責 任 を 認 め 、 そ れ は 申 立 人 で あ る 失 踪 者 の 家 族 た ち へ の 継 続 的 な 権 利 侵 害 に あ た る と し て 、 締 約 国 の 条 約 違 反 を 認 定 した 岡。 本 判 決 で は 、 トル コ 政 府 が 抗 弁 し た 時 間 的 管 轄 及 び6箇 月 ル ー ル に つ い て そ れ ぞ れ 検 討 が 行 わ れ て い る 。2008年1月10日 の 小 法 廷 判 決(55)では 、政 府 は 、 時 間 的 管 轄 に 関 す る 先 決 的 抗 弁 つ い て 、 前 記 のBlecic事 件 を 何 度 も 引 用 し、 条 約 発 効 後 に 生 じ た 事 実 に の み 締 約 国 は 責 任 を 負 い 、 救 済 手 続 が 申 立 人 の 利 益 に な ら な か っ た こ と を も っ て 、 条 約 義 務 違 反 を 問 わ れ る も の で は な い と 主 張 し た(56)。し か し こ の 点 に つ い て 小 法 廷 は 、2001年Cyprus u Turkey事 件 大 法 廷 判 決 ㈲が 、 多 くの ギ リ シ ャ系 キ プ ロ ス 住 民 の 失 踪 者 の 安 否 や 事 件 の 背 景 な ど に つ い て 十 分 な 調 査 を 怠 っ た トル コ政 府 に 対 し、 条 約 第2条 に 関 す る 継 続
(52)Varnava and Others v. Turkey, Judgment of 18 September 2009 [GC], Application nos, 16064 —16066/90, 16068 —16073/90. (53)ヨー ロ ッパ 人 権 条 約 第5条(自 由 及 び 安 全 につ い て の 権 利) 1.す べ て の 者 は 、 身 体 の 自 由 及 び 安 全 に つ い て の 権 利 を 有 す る 。 何 人 も、 次 の 場 合 に お い て 、か つ 、法 律 で 定 め る 手 段 に基 づ く場 合 を 除 くほ か 、そ の 自 由 を奪 わ れ な い 。 (後 略) (54)大法 廷 に お け る 評 決 は16対1. (55) 岡 ㈲
Varnava and Others v. Turkey, Judgment of 10 January 2008 [Third Section] , Application nos. 16064 —16066/90, 16068 —16073/90.
Ibid., para. 104.
Cyprus v. Turkey, Judgment of 10 May 2001 [GC], Application no. 25781/94, ECHR 2001-IV. Loukis G. Loucaides, The Judgment of the European Convention of Human Rights in the Case of Cyprus v. Turkey, 15 Leiden Journal of International Law 225 — 236, 2002.
216 京 女法 学 第1号 的 侵 害 を 認 定 し た こ と を 援 用 し、 本 事 件 も 同 様 に 、 第2条 に 関 す る 人 権 裁 判 所 の 時 間 的 管 轄 が 認 め ら れ る との 決 定 を 行 っ た 働。 大 法 廷 で の 審 理 に お い て トル コ 政 府 は 、 同 国 が 個 人 申 立 権 を 受 諾 した1987 年1月28日 以 降 に の み 条 約 上 の 義 務 が 発 生 す る と し て 、1974年10月 よ り後 に 発 生 し た 失 踪 事 件 へ の 責 任 を 否 定 す る と と も に 、 条 約 発 効 日以 降 に 、 同 事 件 に 関 す る 救 済 手 続 が 手 当 て さ れ な か っ た と し て も 、 そ の こ と は 時 間 的 管 轄 に 影 響 を 及 ぼ す もの で は な い 、 締 約 国 は 申 立 事 実 の 原 因 と切 り離 さ れ た 恒 常 的 な 手 続 的 義 務(freestanding procedural obligation)を 負 う わ け で は な い と 主 張 し た働。 人 権 裁 判 所 大 法 廷 は 、 時 間 的 管 轄 の 決 定 期 日 は トル コ に 対 す る 個 人 申 立 権 が 受 諾 さ れ た1987年1月28日 で あ る と し た う え で 、Blecic事 件 判 決 を 引 用 し て 、 条 約 法 条 約 第28条 の 不 遡 及 原 則 に 照 ら し 、 締 約 国 は 条 約 発 効 日 よ り も 前 に 発 生 しか つ 終 了 して い る 行 為 に対 す る 条 約 上 の 責 任 は 負 わ な い こ と、 ま た 締 約 国 の 作 為 ・不 作 為 あ る い は 条 約 違 反 と な る よ う な 決 定 に 対 す る 国 内 の 救 済 手 続 が 、 条 約 発 効 前 か ら発 効 後 に か け て 継 続 し て い る 場 合 に は 、 当 該 手 続 は 、 事 件 に 対 す る 人 権 裁 判 所 の 時 間 的 管 轄 を 決 定 す る 事 項 と は な ら な い との 一 般 原 則(general principle)を 確 認 し て い る㈹。 そ の う え で本 件 固有 の 事 情 と し て 、 失 踪 事 件 に 関 す る 調 査 と い う 条 約 第2条 に 含 ま れ う る 手 続 的 義 務 の 性 質 と射 程 に つ い て の 検 討 を 行 っ た 。 こ こ で 大 法 廷 は 、 条 約 第2条 か ら導 か れ る 手 続 的 義 務 は 、 た と え 国 家 が 事 件 に 直 接 か か わ っ て い な く と も、 失 踪 者 の 捜 索 や 責 任 者 の 追 及 を 行 う こ と で あ る こ と は 先 例 ㈹か ら 明 ら か に さ れ て お り、 トル コ 政 府 が 持 ち 出 し た 条 約 第35条1項 に か か る 国 内 救 済 と は 異 な る の で 、 こ の 点 に つ い て の 締 約 国 政 府 のBlecic判 決 の 援 用 の 仕 方 は 誤 っ て い (58) (59) (so)
Varnava and Others v. Turkey [Third Section] , op.cit., paras. 108 —113. Varnava and Others v. Turkey [GC] , op.cit., paras. 122 —124.
Ibid., paras. 130 —131.
(61)事 例 は 多 い が 、 例 え ばFinucane a the United Kingdo〃2, Judgment of l July 2003[Fourth Section],Application no.29178/95, ECHR Reports,2003-VIIIな ど 。
国際義 務 の 「継 続 的侵 害 」概 念(前 田) 217 る と 断 じ た(62)。ま た トル コ 政 府 が 、 失 踪 被 害 者 ら が 上 記 決 定 期 日前 に 死 亡 し て い た 蓋 然 性 が 高 い 状 況 下 で の 政 府 の 調 査 義 務 を 否 定 し た の に 対 し、 た と え そ う で あ っ て も、 条 約 第2条 に 含 ま れ る 調 査 な どの 手 続 的 義 務 の 存 在 は 確 立 し て お り、そ れ は 被 害 者 の 生 存 や 死 亡 と は 切 り離 し可 能 な 義 務(a"detachable obligation")と し た(63)。 しか し こ こ で の 人 権 裁 判 所 の 検 討 は 、 す で に ヨmッ パ だ け で な く米 州 人 権 条 約 や 自 由 権 規 約 上 も確 立 し て い る 失 踪 事 件 に 関 す る 国 家 の 調 査 義 務 に つ い て 敷 術 し て い る の で あ り、 先 のBlecic事 件 で 問 題 と な っ た 、 条 約 発 効 日 よ り も前 の 行 為(時 間 的 管 轄 の 問 題 が な け れ ば 条 約 違 反 と位 置 付 け ら れ る 蓋 然 性 が 高 い 作 為 ・不 作 為)に 対 す る 、 条 約 発 効 後 の 黙 認 に あ た る か も し れ な い 国 内 救 済 の 手 続 に つ い て 、 特 に 明 確 な 意 見 を 示 して い る わ け で は な い 。 さ ら に続 く6箇 月 ル ー ル(条 約 第35条1項)の 検 討 で は 、 い くつ か の 先 例(64) に お い て 、 継 続 的 侵 害 に 関 す る 事 件 の 場 合 に は 、 タ イ ム リ ミ ッ トを 計 算 す る う え で の 侵 害 の 終 了 時 期 が 毎 日更 新 さ れ る こ と に な る の で6箇 月 ル ー ル の 適 用 は な い と さ れ て い る こ と を あ げ 、 本 事 件 に 関 わ る 誘 拐 失 踪 に つ い て の Cyprus a Turkey事 件(2001)に お い て こ の 点 明 確 に さ れ て い な か っ た こ とか ら、 本 事 件 に お い て 継 続 的 侵 害 状 況 へ の6箇 月 ル ー ル の 適 用 に つ い て 検 討 す る と し た(65)。そ し て 、 事 件 の 事 実 解 明 に つ い て 国 連 人 権 委 員 会(66)(当 時)の 失 踪 者 委 員 会(Commission on Missing Persons:CMP)の 調 査 に 託 し た が 、 そ の 結 果 に 望 み が な い こ と が 明 ら か に な つ た 時 点 か ら、6箇 月 ル ー ル の カ ウ ン トが 始 ま る と い う基 準 を 提 示 し 、 失 踪 か ら ヨ ー ロ ッパ 人 権 委 員 会(当 時) へ の 申 立 ま で に 十 数 年 が 経 過 し て お り、 人 権 裁 判 所 へ の 申 し立 て に 不 当 な 遅 (62) (63) (64) (65) (66)
Varnava and Others v. Turkey [GC] , op.cit., paras. 136 —137. Ibid., para. 138.
Agrotexim Hellas S.A. and others v. Greece, Decision (Commission) on 12 February 1992, Application no. 14807/89, Decision and Reports, vol. 71 t' e.
Ibid., para. 159.
218 京 女法 学 第1号 延 が あ っ た とい う政 府 の先 決 的 抗 弁 につ い て も、 申立 人 側 は、 トル コ政 府 や CMPに よる調 査 の 結 果 を見極 め る必 要 が あ っ た た め や む を得 な か っ た と結 論 づ け た㈲。 締 約 国側 は、 本 件 に対 す る人 権 裁 判所 の 時 間 的管 轄 と と もに、 受 理 可 能 性 要 件 で あ る6箇 月ル ー ル の適 用 に関 して 先 決 的抗 弁 を提 起 して い るが 、 後 者 に つ い て は 、Spielmann、 Power両 裁 判 官 に よ る 共 同 同 意 意 見 と、 Ziemele 裁 判 官 の 単 独 の 同 意 意 見 に お け る 考 察 が 興 味 深 い(ss)。6箇 月 ル ー ル は 、 条 約 第35条 に お い て 、(人 権)「 裁 判 所 は 、 一 般 的 に す べ て の 国 内 的 な 救 済 措 置 が 尽 く さ れ た 後 で 、 か つ 、 最 終 的 な 決 定 が な さ れ た 日 か ら6箇 月 の 期 間 内 に の み 、 事 案 を 取 り扱 う こ と が で き る 」 と 定 め ら れ て お り、 国 内 的 救 済 完 了 原 則 と も密 接 に 関 係 して い る と こ ろ 、 こ こ で は 特 にZiemele裁 判 官 の 意 見 に つ い て み て み た い 。 Ziemele裁 判 官 は ま ず 、 本 件 の よ う な 失 踪 事 件 に 対 し て 、6箇 月 ル ー ル を 一 律 適 用 す べ き か ど う か に つ い て、ILC国 家 責 任 条 文 第14条2項(69)を 参 照 し な が ら次 の よ う に 述 べ て い る 。 「裁 判 所 は 、6箇 月 ル ー ル に 関 す る 理 由 づ け に お い て 、CMPに 進 展 の 望 み
(67)Varnava and Others u Turkey[GC],op. Clt., para.170.
(ss)その 他Villiger裁 判 官 は 、 条 約 違 反 を 認 定 した 多 数 意 見 に 同 意 す る と しつ つ も、 本 件 に お け る 申 立 人 の 人 権 委 員 会 へ の 申 立 時 期 は 、合 理 性 の な い 遅 延 に あ た り、6箇 月 ル ー ル に 抵 触 す る と い う単 独 の 同 意 意 見 を付 して い る 。
(69)The International Law Commission's Draft Articles on Responsibility of States for Internationally Wrongful Acts
Article 14 Extension in time of the breach of an international obligation
1. The breach of an international obligation by an act of a State not having a continuing character occurs at the moment when the act is performed, even if its effects continue.
2. The breach of an international obligation by an act of a State having a continuing
character extends over the entire period during which the act continues and remains not in conformity with the international obligation.
3. The breach of an international obligation requiring a State to prevent a given event occurs when the event occurs and extends over the entire period during
which the event continues and remains not in conformity with that obligation.
国際義 務 の 「継 続 的侵害 」概 念(前 田) 219 が な い と い う こ とが 明 らか に な っ た 時 点 か ら6箇 月 ル ー ル の カ ウ ン トが 始 ま る と し た(判 決 パ ラ170)の は 、 誤 っ た 論 理 展 開 で あ る 。(中 略)未 だ トル コ の 条 約 第2条 に 関 す る 手 続 的 義 務 の 違 反 は 継 続 し て い る と い う 裁 判 所 の 判 決 か らす れ ば 、 ま さ に 今 も ま だ 条 約 義 務 の 継 続 的 違 反 の 只 中 に あ り、 裁 判 所 は そ れ ゆ え 、 過 去 の 継 続 的 侵 害 事 件 に対 す る6箇 月 ル ー ル の 不 適 用 と い う判 例 法 に 従 う べ き で あ っ た(判 決 パ ラ159)。(中 略)特 に 強 制 的 失 踪 な ど の 犯 罪 を扱 う場 合 に は 、継 続 的 性 質 を 有 す る 国 際 的 義 務 の 違 反 に 対 して 、6箇 月 ル ー ル を 適 用 し な い とす る こ と は 、 誘 拐 実 行 犯(perpetrators)が 処 罰 を 免 れ る こ と を 防 ぐ と い う重 要 な 目的 に 資 す る も の で あ る 。Jbo) こ の 部 分 に つ い て は 、Spieimann、 Power両 裁 判 官 の 同 意 意 見 に お い て も 賛 意 が 示 さ れ て い る 。 しか しZiemele裁 判 官 は 、 続 い て 次 の よ う に も補 足 し て い る 。 「し か し な が ら、(6箇 月 ル ー ル の)不 適 用 の 推 定 は 、 反 論 可 能 な も の で あ る 。 判 決 で も述 べ ら れ て い る よ う に(判 決 パ ラ165)、 裁 判 所 は 各 事 件 の 個 別 の 事 情 を精 査 す る で あ ろ う。 ナ ウ ル 燐 鉱 地 事 件 判 決 ⑳で 国 際 司 法 裁 判 所 が 述 べ て い る よ う に 、 『時 間 の 経 過 が 申 立 て を 不 受 理 と す る か ど う か を 、 そ れ ぞ れ の 事 件 の 状 況 に 照 ら し て 決 定 す る の は 裁 判 所 で あ る 。』(中 略)強 制 的 失 踪 の 問 題 に 対 処 す る 有 効 な 対 応 が と ら れ て お ら ず 、 問 題 が 継 続 して い る こ と か ら 、 申 立 の 提 出 期 限 に 関 す る 時 間 経 過 の 引 き 金 を ひ く と考 え られ る事 象 や 行 為 が あ つ た か ど う か を 検 討 す べ き で あ っ た 。 換 言 す れ ば 、 時 間 の 経 過 を 中 断 させ る事 象 が あ っ た か で は な くて 、6箇 月 ル ー ル の 適 用 を 開 始 す る に あ た る 事 象 が あ る か ど う か で あ る 。(後 略)」 爾 同 裁 判 官 は 、 多 数 意 見 がCMPへ の 調 査 依 頼 及 び そ の 結 果 を 適 切 な 救 済 と
(70) Para. 10 in Concurring Opinion of Judge Ziemele, Varnava and Others v. Turkey Judgment [GC] op. cit..
(71) Case concerning Certain Phosphate Lands in Nauru (Nauru v. Australia), ICJ, Judgment of 26 June 1992.
220 京女 法学 第1号 して 位 置 づ け た こ と に 賛 成 して お らず 、 本 件 に6箇 月 ル ー ル を 適 用 可 能 と し た 大 法 廷 判 決 を 批 判 し て い る 。 こ の 意 見 は 、1978年Cyprus u Turkey事 件(73)にお い て ヨ0ロ ッ パ 人 権 委 員 会 (当 時)が 、 法 律 上 の 措 置 や 行 政 慣 行 の 条 約 適 合 性 を 問 題 とす る 中 立 て の 場 合 に は 、 国 内 救 済 完 了 原 則 や そ れ に 伴 う6箇 月 ル ー ル の 適 用 は な い と決 定 し た こ と(74)、ま た 次 章 で 触 れ る 国 際 法 委 員 会 の 国 家 責 任 条 文 草 案 の 作 成 過 程 に お い て 示 さ れ た 、 国 際 義 務 違 反 の 行 為 が 継 続 し て い る 場 合 に は 、 そ の 継 続 的 侵 害 が 存 在 す る 限 り、6箇 月 ル ー ル の 適 用 は 開 始 さ れ な い と い う 理 解 と共 通 し て い る㈲。
3 国際義務の継続的侵害 と認定基準の相対性
そ れ で は前述 の 事件 に対 して 人権 裁 判 所 が示 した継 続 的 侵 害 認 定へ の ア プ ロー チ は、ILC国 家 責任 条文 に お い て規 定 され て い る、 国 際 義務 の継 続 的侵 害 概 念 に照 らす と どの よ うに評価 で きる か につ い て、 本 章 で は若 干 の予 備 的 検 討 を試 み た い 。 特 に こ こで は、 国 際 義務 の違 反 の時 間的 範 囲 に関 す る国家 責 任 条 文 第14条 、 国 に対 して有 効 な 国 際義 務 に 関す る 同第13条 の 射 程 につ い て 概 観 した う えで 、 人権 裁 判 所 が継 続 的侵 害 を認 定 す る際 の基 準 の相 対 性 に つ い て触 れ た い 。 (1)国 家 責 任 条 文 第14条(国 際 義 務 の 違 反 の 時 間 的 範 囲)1項 及 び2項 ILC「 国 家 の 国 際 違 法 行 為 に 対 す る 責 任 に 関 す る 条 文 」(以 下 、 国 家 責 任 条 文)第14条 で は 、 国 際 義 務 の 違 反 の 時 間 的 範 囲(Extention in time of the breach of an international obligation)に つ い て 、1項 で は 「国 の 継 続 的 性 (73) Cyprus v. Turkey, Decision of 10 July 1978, Application no. 8007/77, Decision andReports, vol. 13, p. 52.
(74) Ibid., p. 152.
国 際義務 の 「継続 的侵 害 」概念(前 田) 221 質 を 有 し な い 行 為 に よ る 国 際 義 務 の 違 反 は 、 そ の 効 果 が 継 続 す る 場 合 で あ っ て も 、 そ の 行 為 が 行 わ れ る 時 点 で 発 生 す る 」、 つ づ く2項 で は 、 「国 の 継 続 的 性 質 を 有 す る行 為 に よ る 国 際 義 務 の 違 反 は 、 そ の 行 為 が 継 続 し か つ 国 際 義 務 と 一 致 し な い 状 態 が 続 くす べ て の 期 間 に 及 ぶ 」⑯と規 定 さ れ て い る 。 ILCの コ メ ン タ リ ー で は 、1項 は 、 義 務 違 反 の 行 為 の 効 果(effect)や 結 果(consequence)が 継 続 し て い て も、 違 反 行 為 自体 は 完 了(complete)し て い る 状 況 を対 象 と し て お り、 そ の 一 方2項 は 、 継 続 的 な 違 法 行 為 が 、 国 家 が あ る 国 際 義 務 に 拘 束 さ れ て い る 場 合 に 、 そ の 行 為 が 当 該 義 務 に 適 合 し な い 形 で 継 続(continues)・ 存 在(remains)し て い る 状 態 が 、 あ る 一 定 の 期 間 全 体 を 占 め て い る 状 況 を 対 象 と し て い る㈲。 た だ し 違 法 行 為 が 完 了 し て い る の か 、 継 続 的 性 質 を 有 し て い る の か に つ い て は 、 一 次 義 務 と個 別 事 件 の 状 況 に よ り異 な り、 ま た 両 者 の 区 別 は 相 対 的 で あ る と さ れ て い る 。 一 例 と し て 、 強 制 失 踪 の 事 件 に 関 し て 、 米 州 人 権 裁 判 所 が 失 踪 被 害 者 の 所 在 が 確 認 さ れ て い な い 状 況 で は 継 続 的 侵 害 行 為 に あ た る と の 判 断 を 示 し て い る ㈱。 特 に 財 産 権 保 障 に 関 連 す る 継 続 的 違 反 行 為 と し て 、 ヨ ー ロ ッパ 人 権 裁 判 所 のLoizidou事 件h9)な ど の 例 を と りあ げ 、 財 産 の 収 用 行 為 自体 が 締 約 国 に対 す る 条 約 実 施 機 関 に よ る 審 査 権 限 の 発 効 日 よ り も 前 で あ り、 収 用 は 即 時 的 行 為 で あ っ た と し て も、 同 発 効 日 よ り も後 に 当 該 締 約 国 に よ っ て 、 個 人 の 財 産 へ の ア ク セ ス が 阻 害 さ れ て い る 場 合 に は 、 財 産 権 へ の 継 続 的 侵 害 を構 成 す る と して い る 。 ま た コ メ ン タ リ ー は 、 自 由 権 規 約 委 員 会 が 、Lovelace事 件 に お い て 、 イ ン デ ィ ア ン女 性 の 身 分 に 関 す る カ ナ ダ 法 が 、 同 国 が 個 人 通 報 権 を 受 諾 ㈹ 『ベ ー シ ッ ク 条 約 集 2011 (前 掲)参 照 。 (7わ (7s) (79)
ILC Commentary on Article 14, § (2) — (3) . ILC Commentary on Article 14, § (4) — (5) .
Loizidou v. Turkey (Merits) , Judgment of 18 December 1996, Application no. 15318/89, ECHR Reports 1996-VI, p. 2216.
222 京女 法学 第1号 の の ち も、 通 報 者 の 自由権 規 約 第27条(so)に基 づ く権 利 に対 し、 阻 害 的 影 響 を 及 ぼ して い る こ と を もっ て継 続 的 侵 害状 況 を認 定 した こ とは、 継 続 的 違 反 の 判 断 に、 条 約 実 施 機 関 の管 轄 権 だ け で な く、事 実 に 関連 す る権 利 規 定 の適 用 が 問 題 で あ る こ と を指摘 してい る剛。 この よ う に人 権 条 約 にお け る実 行 も考慮 に入 れ た 国家 責 任 条 文 第14条 で あ るが 、 コ メ ン タ リ0の §(12)に は、 次 の くだ りが あ る。 「こ の よ うに 、 過 去 の あ る時 点 に 開始 さ れ た行 為 で 、 そ の 時 点 で違 反 を構 成 した(あ るい は、 仮 に そ の時 点 で 当 該 国家 に対 して 関連 す る一 次 規 則 が 効 力 を 有 して い た と す れ ば 、 違 反 を構 成 し て い た で あ ろ う)行 為 は 、 継 続 し う る し、 現 在 にお い て も継 続 的違 法 行 為 とな りうる の で あ る。」(下 線 筆 者) 右 下 線 部 分 につ い て は、 何 を意 味 す るの で あ ろ うか。 国家 に対 して、 そ の 行 為 時 に は拘 束 的 で な か っ た一 次 規則 が 、仮 に事 後 に拘 束 的 な もの とな っ た 場 合 に、 そ の 遡 及 的 効 果が 推 測 され る、 とい う こ とな の で あ ろ うか。 こ の よ う な見 方 をす る と、Silih事件 大 法 廷 判 決 に対 す る反 対 意 見 でBratza裁 判 官 が 批 判 した、 ヨー ロ ッパ 人権 条 約 第2条 の 手続 的 義務 が、 個 人 中立 の管 轄 権 受 諾 日よ り も前 の 第2条 に かか る実 体 的 義務 の存 在 をあ た か も前 提 と して い る状 況 も、 継 続 的 侵 害 の一 形 態 と して 許 容 され る と も考 え られ る の で あ る。 (2)国 家 責 任 条 文 第13条(国 に 対 し て 有 効 な 国 際 義 務) 国 家 責 任 条 文 第13条 は 国 に 対 して 有 効 な 国 際 義 務(lnternational Obligation in force for a State)を 、 「国 の 行 為 は 、 行 為 が 生 じ る と き に そ の 国 が 関 連 す
(so)自由権規 約
第27条(少 数民 族 の権利)
種族 的、宗 教 的 又 は言語 的少 数民 族 が存在 す る国 にお いて 、 当該少 数 民族 に属 す る者 は、 そ の集 団 の他 の構 成 員 と と もに 自己 の文 化 を享 有 し、 自己の宗 教 を信 仰 しかつ 実 践 し又 は 自己 の言語 を使 用す る権利 を否定 され な い。
国際義 務 の 「継 続的 侵害 」概 念(前 田) 223 る義 務 に拘 束 され てい るの で な け れ ば 、国 際義 務 の 違 反 を構 成 しな い 」幽(下 線 筆 者)と 規 定 して い る。 この 時 際法 の原 則 は、 仲 裁 裁 判 をは じめ 国 際裁 判 の 多 くの事 例 で す で に適用 され て お り、 国家 実 行 の 支持 も得 て い る。 す べ て の 国 際 義 務 に適 用 す る こ とが適 当 で あ る こ とか ら、 第13条 は 一般 的 内容 であ る と言 え る(83)。さ ら にILCコ メ ンタ リー で は、 行 為 時 に 国際 義 務 違 反 で は な か った 行 為 の 結 果 と して発 生 した損 害 に対 す る賠 償 につ い て、 国家 の 同意 を 妨 げ る もの で は な く、 実 際 に そ の よ うな事 例 は稀 で あ ろ うが、 行 為 時 に違 法 で はな か った 行為 に対 して遡 及 的 に 国家 の責 任 を問 う よ うな取 極 め は、 国家 責 任 条 文 第55条(特 別 法)の も とで 対 応 可 能 で あ る と して い る㈱。 コ メ ン タ リー は 最 後 に 、 第13条 が示 す 時 際 法 原 則 は確 立 され た もの で あ るが 、 国際 義 務 の発 展 的 解 釈 飼に よ り、 行 為 時 に 当 該 国 家 に と っ て 国 際 義 務 違 反 で は な か っ た行 為 に つ い て も、 国際 義 務 の 発 生 後(条 約 の発 効 後)の 違 反 認 定 の 際 に 関 連 事 実 と して考 慮 され る可 能 性 が あ る と指 摘 してい る(86)。こ こで は 人権 侵 害 の 事 例 圃を念 頭 に、 裁 判 手 続 きの重 大 な遅 延(公 正 な裁 判 手 続 の 侵 害) に 関 し、 国家 が遅 滞 な く審 理 を行 う こ と を確 保 す る義 務 が 、 決 定 期 日前 の期 間 に つ い て は、 賠 償 責 任 を伴 う よ う な違 反状 態 で は な い け れ ど も、 決 定期 日 後 の義 務 違 反 の検 討(例 え ば裁 判 手 続 きの 遅延 期 間 の積 算)の 際 に は、事 実 と して の 関連 性(be relevant as facts)が 問 われ る こ と も想 定 され て い る。 (s2)
(83) (84)
The International Law Commission's Draft Articles on Responsibility of States for Internationally Wrongful Acts
Article 13 International Obligation in Force for a State
An act of a State does not constitute a breach of an international obligation unless the State is bound by the obligation in question at the time the act occurs.
ILC Commentary on Article 13, § (4) — (5) . ILC Commentary on Article 13. § (6 ).
(85)南 西 ア フ リ カ 事 件 勧 告 的 意 見(Case concerning Legal Consequences for States of the Continued Presence of South Africa in Namibia(South West Africa) notwithstanding Security Council Resolution 276)、 ICJ,多 数 意 見P16, Para.53. (ss)
⑱の
ILC Commentary on Article 13, § (9) .
Zana v. Turkey, Judgment of 25 November 1997, Application no. 18954/91, ECHR Reports, 1997-VII, p. 2533.
224 京女 法学 第1号 (3)認 定 基 準 の 相 対 性 特 に ヨー ロ ッパ 人権 条 約 にお い て 、 条約 上 の 国家 の 義 務 に 関す る発 展 的解 釈 か らい わ ゆ る 「積 極 的 義 務(positive obligation)」が 締 約 国 に 課 され る こ とは 、す で に判 例 に よ り確 立 して い る(sa)。条約 第2条(1項)に つ い て も、「す べ て の者 の 生命 に つ い て の権 利 は、法 律 に よっ て保 護 され る。 何 人 も、 故 意 にそ の 生命 を奪 わ れ な い。(後 略)」 との規 定 に、 強 制 失 踪 事 件 にお け る調査 等 を含 む 迅 速 な対 応 ・救 済 義 務 が 明記 され て い る訳 で は な いが 、 本 稿 で と り あ げ た 事 例 が し ば し ば引 用 して い るC)ψr薦 怯Turkey事 件 判 決 に お い て も、 米 州 人権 裁 判 所 や 国 連 自由権 規 約 委員 会 の判 決 や 決 定 に も触 れ なが ら、 そ う した 国 家 義務 の存 在 を認 め、 締 約 国 の不 作 為 につ い て、 継 続 的 侵 害 を認 定 す る とい う解 釈 が 定着 して い る こ とは確 か で あ る。 勿 論 、 条 約 上 の 国 家義 務 の内 容 、 範 囲及 び性 質 が 、 時 を経 て ど う変 化 して きた か とい う発 展 的解 釈 に伴 う積 極 的義 務 の 問題 と、 そ の 義 務 が あ る特 定 の 行 為 の 時 点 で 、 当該 国家 に対 して拘 束 的 で あ っ た か とい う時 際 法 や 条 約 の不 遡 及 原 則 の 問 題 は厳 密 に は 区別 され るで あ ろ うが 、 前 章 で 扱 っ た事 例 で 示 さ れ た よ う に、 実 体 的 権利 規 定 に、 継 続 的行 為 で あ る調 査 や 救 済 に 関す る手 続 的義 務 を組 み 込 ませ る こ とで、 そ の 手 続 的 義務 が持 続 的要 素 で構城 され てい れ ば、 国際 義 務 の 国 家 に対 す る発 効 日を また い で存 在 す る事 象 へ の対 応 は可 能 とな る。 そ うで あ れ ば こそ 、 条約 実 施 機 関 が継 続 的侵 害 を認 定 す る 際 に用 い る基 準 の相 対 性 と、 そ れ に伴 う判 断結 果 の 非 同 一性 ・非 一貫 性 は排 除 で きな い。 こ の点 につ いて 、ILCの 国家 責任 条 文 コメ ン タ リー は、 継 続 的侵 害 の認 定 に あ た り、 国 家 責任 条 文 第14条 で 問題 とされ た 一 次規 則 ・義 務 に つ い て の条 約 実 施 機 関 に よ る解 釈 の 相対 性 が 、 決 定期 日前 の行 為 の決 定 期 日後 の違 反 行 為 に 関す る 事 実 認 定 に影 響 を及 ぼす こ と を指 摘 して い る。 例 え ば 本 稿 で扱 った (88) Alstair Mowbray, The Development of Positive Obligations under the European Convention
on Human Rights by the European Court of Human Rights, Hart Pulishing, 2004.
国 際義務 の 「継続 的侵 害 」概念(前 田) 225 Blecic事 件 にお い て は、 当事 国 に対 す る条 約 上 の義 務 の 効 力 発 生 日よ りも後 の 憲 法 裁 判所 判 決 で は な く、 当該 期 日よ り も前 の 最 高 裁判 所 判 決 を 当該 国 の 最 終 行為 と位 置 付 け 、ヨー ロ ッパ 人 権 裁 判 所 は 自 らの 時 間 的管 轄 を否 定 した 。 憲 法 裁 判所 に お け る審査 が、 条 約 上 の権 利 の 救 済 手 続 にあ た る のか が 議 論 さ れ た 一 方 で 、判 決 の 反対 意見 で指 摘 され た よ う に、 背 後 に控 え る多 数 の 同種 事件 へ の対 応 とい う現 実 的課 題 を条 約 実 施 機 関 が 全 く念頭 に置 い て い ない と も言 い切 れ な い と思 わ れ る。 条 約 上 の手 続 的権 利 に 関 し、 特 に継 続 的 侵 害 が 問 わ れ る状 況 に お い て は 、 何 を最 終 的 な 国 内 的救 済 と見 なす か とい う問 題 が 、 理 論上 は 区別 され る時 間 的 管 轄 と受理 可 能性 の双 方 の判 断 に、 重 複 的 に決 定 的 重 要性 を有 す る こ と に な る。 4 お わ り に 本 稿 で 扱 っ た ヨ ー ロ ッパ 人 権 条 約 の 事 例 に お い て 、 権 利 侵 害 行 為 の 発 生 日 と権 利 侵 害 状 況 の 「継 続 」 が 、 条 約 当 事 国 に 対 す る 義 務 の 効 力 発 生 日 を 挟 ん で 存 在 す る 場 合 に も、 条 約 実 施 機 関 が 、 条 約 の 不 遡 及 原 則 を 明 示 的 に 不 適 用 と す る 姿 勢 は 見 ら れ な い 。 し か し、 誘 拐 失 踪 事 件 や 公 権 力 に よ る 殺 害 事 件 に 関 す る締 約 国 の 十 分 な 対 応 が な か っ た とい う 不 作 為 に つ い て は 、 継 続 的 侵 害 を 認 め る 判 例 が 広 く確 立(89)して お り、そ れ を ヨ0ロ ッ パ 人 権 条 約 に 関 して は 、 第2条 に 関 す る 積 極 的 義 務(90)とい う 、 人 権 法 の 解 釈 ア プ ロ ー チ の 特 殊 性 ゆ え と 結 論 づ け る こ と は 一 定 程 度 可 能 で あ ろ う 。 採 択 さ れ た 国 家 責 任 条 文 に 関 す るILCの コ メ ン タ リ ー で は 、 条 約 を は じ め と す る 人 権 法 に お け る 実 行 に つ い て も検 討 さ れ て お り、 む し ろ そ れ ら の 例 (89)米州 人権 裁判 所 ・委 員 会 や 自由権 規約 委 員 会 の も とで も、強 制失 踪 に 関 して は、例 え 当事 国 が直接 事 件 に 関与 してい な くと も、調 査 や救 済 の手 続 きを条約 上 の義務 の効 力 発 生 日以 降 に怠 って い る場 合 に は、条 約義 務違 反が 認 定 され てい る。 (90)Mowbray, op.ciz., pp.27‐40.