8 章 天井から目薬程度の太田川ダム水害防止効果 8-1 太田川ダムは利水兼用穴あきダム 一般的なダムのイメージは、大水のときにダムのゲートを開閉して水量のコントロールを行う発電 用のダムであろう。しかし近年利水、治水を目的としたダムの建設が多くなるに従い、ダムに穴を あけておき、大雨の時にはその穴から設定された水が放流され、それ以上の水量はダムに貯水す る通称「穴あきダム」の建設が盛んになろうとしている。 治水専用の穴あきダムでは当然穴はダムの底部に作られる。 太田川ダムは利水も行うダムであるので、「穴」は利水のための貯水量を確保した上に設けられ る。太田川ダムの場合の「穴」の位置を図 8-1に示す。 図8-1 太田川ダムの放流口 平成20年10月1日 著者撮影
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放流口 13.5m写真
放流口 13.5m ダム天端 オーバーフロー放流口 当初は 3.5m×3.5m、2個の予定であったが 4.8×4.8 の穴 1 個に変更された。 大雨が降った場合、200m3/sまではそのまま流すがそれ以上はダムに貯水する仕組みであ る。 50年に一度降るかもしれない大雨では太田川に流れ込む水量は550m3/sと予想されており、 太田川ダムでは 550-200=350m3/sの洪水調節機能があるとされている。 小生は少年時代岐阜県恵那市の木曽川の川べりで過ごした。そこは笠置ダムの上流であった が、大雨が降ると木曾から高価な木材が流れてきた。勇敢な人々は急流に船をこぎ出し、流木を 岸に寄せて収入の足しにしていた。 素朴な疑問として、もし、山崩れが発生し、枝のついた流木が太田川ダムの狭い「穴」に流れ着 いたときに、無事にここを流れることができるのであろうか。 この穴が閉塞したとしても、越流提があるのでそれほど心配なないがーーー。 8-2 基本高水流量5200m3/秒はダムを建設するための方便 太田川ダムは 1974 年の通称七夕豪雨で太田川が決壊した経験を踏まえ、50 年に一度は起き るかもしれない大雨に対しても洪水が起きないように建設されるものである。 この 50 年に一度起きるかもしれない大雨は「1/50 計画降雨量」と呼ばれ、太田川の場合ダム上流域では 536.5mm/24 時間(時間平均雨量 22.35mm)、その他の地域では 355.1mm/24 時 間(時間雨量 14.80mm)である。この雨が平均して降った場合の太田川最下流の基準点豊浜に おける流量を計算すると 1667m3/sとなる。しかし、雨は時間に対して均等に降るわけではなく、 時には時間当たり 100mmを超える降雨量が観測されている。この雨の降り方を考慮して「基本高 水流量」が決められる。これは過去の洪水時のデーターを統計的に処理して算出されるが、その 方法には数種類ある。静岡県は 50 年に一度は起きるかもしれない大雨に対して「1/50 基本高 水流量」5200m3/sを定めた。一番大きな数値が出る方式である。ダム反対の立場からいえば始 めにダム建設ありきの結論から、この方式が採用されたのではないかという疑念がぬぐえない。し かし、住民の安全を守るためには最悪の数値を考えて対策を進めることは一概に非難はできな い。 「1/50 計画降雨量」と七夕豪雨のときの太田川の流量は図 8-2のように計算されている。 出典:太田川ダム事務所ホームページ、太田川ダム建設に関する質問と回答(一般編) Q1-3 太田川の1/50確率の洪水流量は七夕豪雨と比べてどのくらいの大きさか 2200 1590 390 5200 2300 550 0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 福田町豊浜基準点 袋井市延久 七夕豪雨破提地 ダム地点 m3 /秒 七夕豪雨流量 1/50確率の洪水流量 図8-2 太田川1/50確率洪水流量と七夕豪雨の比較 静岡県の洪水対策は、ダム群により500m3/s削減しようとするもので、このうち350m3 を太田 川ダムが受け持つ計画である。残りの150m3/sは太田川支流の三倉川にダムを建設する案が 検討されたことがあるようであるが、現時点では具体的な計画はない。 5200m3/sから削減目標 500m3/sを引いた 4700m3/sは太田川の「1/50 計画高水流量」 と呼ばれ、太田川の治水計画の基本的な目標値である。 ただし、現実の問題として、七夕豪雨の豊浜での流量2200m3/sですら堤防が決壊している 現状で、4700m3/sの水を安全に流そうとすれば、現在の太田川と同じ程度の排水路を建設す る必要がある。 そもそも自然は過去の履歴を持って現在に至るのであり、50年に一度、5300m3/s程度の洪 水が発生していたのであれば、太田川はそれに見合った川幅、深さになっていると考える。 平成 16 年時点で、豊浜で流下可能な流量は 2500m3/sであり、これを静岡県は平成 32 年に 3200m3/sまで拡大する計画である。
いままで述べてきた治水計画を図にまとめると図 8-3になる。 図8-3 太田川の洪水対策計画の模式図 5 2 0 0 4 7 0 0 2 5 0 0 3 2 0 0 3 5 0 1 5 0 0 1 0 0 0 2 0 0 0 3 0 0 0 4 0 0 0 5 0 0 0 6 0 0 0 基本 高水 流量 計画 高水 流量 H2 0 流下 能力 H3 2 目標 流下 能力 太田 川ダ ムで の削 減 三倉 川ダ ムで の削 減 流量 ( m 3 / 秒 架空の計画 平成 32 年には河川改修+太田川ダムで3550m3/sまでは大丈夫な体制にしますというシナ リオである。しかし、5200m3/sの水が本当に襲ってくると考えれば、こんな悠長な計画はありえな いはずである。このことは静岡県自身もこんな大水はありえないと考えていると推測される。 このように考えると、基本高水流量5200m3/sは太田川ダムを建設するために過大に見積も られたと考える。また、基本高水流量を高めに設定することは、全国でダムを建設するために良く 使われる手法である。 いろいろいいたいことはあるが、このダムで太田川の洪水が根本的に解決できれば安いもので はないかとも考えられる。 8-3 天井から目薬程度の効果しか期待できない太田川ダムの水害防止 図 8-2に示したように、静岡県の計画は七夕豪雨のときの 2.4 倍近い雨が降っても大丈夫という 大変心強い治水計画ではある。これを実現するためには太田川ダム建設と河道整備と太田川ダ ムの二つが必要であるが、静岡県の計画は最初に太田川ダムを作りましょうという作戦である。 本当に太田川ダムが洪水防止に効果があるのであろうか? 太田川ダムの洪水調節機能は350m3/sであり、これの豊浜基準点に及ぼす効果は 350/ 5200=6.73%である。結構大きな効果といえる。 豊浜から上流の太田川流域に占める太田川ダム上流の面積が 4.93%であるのに対し、6.73% の効果が出るのは、「1/50 計画降雨量」でダム上流域の雨量がその他の地域に比べて 1.51 倍 多く降ると仮定されているためである。雨が流域に均等に降ったと仮定し、太田川ダムから 1 滴も 流さなければ、その効果は 4.93%である。流入量の半分を流せば効果は半減して 2.5%弱であ る。 2.5%弱だって効果は効果であるが、問題はその効果がどれだけの時間持続するかである。 計画雨量のとき、太田川ダムには550m3/sの水が流れ込み、350m3/sの水が貯水されて いく。ダムの洪水用貯水容量は 600 万m3であるので、これが満水になるまでの時間は 6,000,000 /(350×60×60)=4.76 時間。雨が降り始めて5時間少々でダムが満杯になり、後は垂れ流しと
なり、550m3/sの水が流れていくことになる。24時間の長丁場の中で、5時間を待たずダムの洪 水調整機能は失われる。 以上の議論は、太田川ダム上流域に他の地域の 1.51 倍の雨が降った場合であり、天井からの 目薬のたとえのように、この雨が他の地域に降った場合には何の役も果たさない。 効果の有無の検定は、品質管理の世界では5%が一つの基準となり、5%も影響を与えなかっ た要因に対しては効果なしと判定する。太田川ダムの場合、豊浜上流の面積 405.6km2に対し、 ダム上流の面積 20km2の比、4.93%であり、品質管理的に判定すれば効果はないと結論される。 太田川ダムの治水効果は極めて限定的であり、比喩的に表現すれば、量的にいえばすずめの 涙程度、確率的にいえば天井から目薬程度といえよう。 8-4 堆砂により短年月で機能を失う太田川ダム 天竜川水系、大井川水系に建設されたダムは予想外の速さで進む堆砂に悩まされている。これ は、2 つの河川が中央構造線に近く、岩石が地殻変動により細分化され、雨水に乗って流出しや すいためである。 太田川は天竜川と大井川の中間にあり、天竜川、大井川水系のダムと同じように、短い年月で ダムが堆砂により埋まってしまう可能性がある。 堆砂物質の中で、大きいものの代表が砂礫であり、小さなものがシルトと呼ばれる泥である。佐 久間ダムの上流域ではシルトが堆積し、冬から春の渇水時に河原が乾燥すると風に乗って砂塵 が舞い上がる。 静岡県は、太田川の東側を流れる原野谷川の原野谷ダムの実績をベースに、太田川ダムの堆 砂は年間 0.8 万m3と推算し、それに対するダムの堆砂容量 80 万m3であり、100 年間は大丈夫と 主張している(1)。これが真実であれば、100 年後でも利水容量、洪水調節容量はまったく損なわ れない素晴らしいダムといえる。しかし、原野谷ダムは農業用水と洪水調整の多目的ダムで、ダム の底部に排水口がついた穴あきダムである。穴あきダムは基本的には堆砂はないと考えられるが、 原野谷ダムは春から夏にかけて農業用水確保のために貯水するので、ある程度は堆砂が進む。 しかし、それ以外の期間は貯水は行われず、穴あきダムの機能としての排砂が行われるのでダム の堆砂は少ない。これを太田川ダムと比較するのは論理にすり替えもはなはだしい詐欺的な行為 である。 水がダムに留まる時間と堆砂量に相関関係があることが知れれている(2)。 太田川ダムと原野谷ダムの総貯水容量は 1160 万m3と 125 万m3であり、太田川ダムは原野谷 ダムの 9.3 倍である。「太田川ダム研究会」は太田川ダムと原野谷ダムの大きさの比 9.3 を考慮す ると、太田川ダムは 73 年で利水容量 480 万m3が堆砂で埋め尽くされるだろうと予想している。 しかし、先に述べたようにこの推定には原野谷ダムが穴あきダムであることが考慮されていない。 著者はこれよりももっと早くダムは埋まると予想する。 利水容量が埋まっても穴あきダムだから洪水調節容量は無傷で確保されるだろうという期待は 甘い。なぜなら、上流部ではダムの穴の位置よりも高い位置に土砂の堆積が進むからである。 静岡県は試験湛水前の 2008 年 6 月には貯砂ダム(費用約2億円)を完成させた。堆砂に対し 100 年の余裕を持つダムであれば、貯砂ダムは無用の長物のはずである。また、堆砂の状況を見 ながら堆砂トラップを建設しても遅くはないはずである。 静岡県は表向きは強気でも、内心は堆砂を心配しているといえよう。 貯金はいくら貯まっても処分に困ることはないが、砂は貯まりすぎると処分に困る。 尚、貯砂ダムに溜まった土砂は貯水位が低下したときに搬出し、ダム下流の河道に積み置きし て、出水時に自然に流れる計画とのこと(3)。 (1) 太田川ダム事務所ホームページ、太田川ダム建設に関する質問と回答(一般編) Q3.環境 について 3-6 堆砂についてどのような検討がされているのか。
http://doboku.pref.shizuoka.jp/desaki/ootagawa1/7/q3/qa3-6.html (2) 岡本尚、山内征郎、「ダム堆砂量は何によって決まるか」、「応用生態工学」4、P185-192、 2001 年 (3) 公開質問状に対する回答、2008 年 10 月 14 日 コラム:静岡県庁御用達「静岡新聞」が許す静岡県の無駄な公共事業 静岡県は無駄な公共事業の一例として全国ニュースでもしばしば報道される「静岡空港」 で有名である。なぜ静岡県でこのような無駄な公共事業が行われるのであろうか? その一つの要因が静岡県の朝刊発行部数の約60%の圧倒的な力を誇る「静岡新聞」が静 岡県庁を代弁して世論誘導を行うからである。 「静岡新聞」がいかに静岡県庁と親密な関係にあるかは、2008 年 12 月 6 日の「週間ダ イヤモンド」P136,137 に詳細に記述されている。以下その代表的な記述を紹介する。 ・静岡新聞の論調を代表するのが、この主筆であるA 氏だ。石川嘉延知事を支えるブレー ンであるとともに「盟友」であることは、県職員のあいだでは周知の事実である。 ・A 氏が主筆として目を光らせる静岡新聞で石川知事の責任を追及することはありえない。 県職員らは静岡新聞を「県庁御用新聞」と揶揄する。 ・記者がなにか県に不都合なことを取材しても、県幹部を通じて A 氏へ連絡を入れれば、 それで解決する。石川知事に楯突くような記事は全く掲載されない仕組みをつくった、と いう。 そして、 「静岡県民にとって本当に不幸なのは、良識ある地方紙を持たないことかもしれない」 と結んでいる。 静岡県民として正に腑に落ちる一言である。 天井から目薬程度の効果でも、地元には立派な道路ができたし、建設業も潤ったし、そんなに 目くじらを立てることもなかろうという意見もあろう。ただしそれは副作用がなければの話である。 この太田川ダムが地震を誘発し、しかも東海地震の引金を引くかもしれないとあれば、少なくとも 静岡県に湛水だけは諦めてくださいとお願いするしかない。 これから述べる太田川ダム誘発東海地震仮説は、現在の地震学の通説:「地震は断層により起 きる」という説に対し、「地震は核融合により起こる」とするものであり、学会ではまったく認知されて いない。しかし、現在の地震学が断層探しに明け暮れている間に、2008 年 6 月には断層がない岩 手・宮城内陸地震(M7.2)が起きた。 著者は、現在の地震学は岩手・宮城内陸地震で無力であることが証明されたと思う。以下の著 者の仮説は間違っているかもしれないが、現在の地震学がダメなら、それ以外の新説の方が検討 する価値が十分あると考える。