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農 業 水 利 施 設 の 長 寿 命 化 の た め の 手 引 き

平成23年5月

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第1章 本書の目的と活用 ··· 1 1.1 目的と活用 ··· 1 第2章 劣化の要因 ··· 3 2.1 総 論 ··· 3 2.2 材料・設計・施工の要因 ··· 4 2.3 環境などの要因 ··· 5 第3章 劣化のメカニズム ··· 6 3.1 総 論 ··· 6 3.2 中性化 ··· 7 3.2.1中性化の要因 ··· 7 3.3 塩害 ··· 11 3.3.1塩害の要因 ··· 12 3.4 アルカリ骨材反応 ··· 15 3.4.1 アルカリ骨材反応の要因 ··· 16 3.5 凍害 ··· 21 3.5.1 凍害の要因 ··· 22 3.6 化学的腐食 ··· 25 3.6.1 化学的腐食の要因 ··· 26 3.7 摩耗 ··· 28 3.7.1 摩耗の要因 ··· 28 第4章 変 状 ··· 30 4.1 総 論 ··· 30 4.2 主要な変状 ··· 31 4.2.1 ひび割れ ··· 31 4.2.2 すり減り・欠損 ··· 32 4.3 付属的な変状 ··· 33 4.3.1 ひび割れに起因する付属的な変状 ··· 33 4.3.2 すり減り・欠損に起因する付属的な変状 ··· 35 4.3.3 中性化に起因する劣化進行過程 ··· 36 4.3.4 塩害に起因する劣化進行過程 ··· 37 4.3.5 アルカリ骨材反応に起因する劣化進行過程 ···· 38 4.3.6 凍害に起因する劣化進行過程 ··· 39 4.3.7 化学的腐食に起因する劣化進行過程 ··· 40 4.3.8 摩耗に起因する劣化進行過程 ··· 41 4.4 劣化加速要因 ··· 42 4.5 農業水利施設の変状の特色 ··· 43 第5章 対策工法の選定 ··· 46 5.1 基本的事項 ··· 46 5.2 中性化による劣化に適した材料・工法 ··· 47 5.3 塩害による劣化に適した材料・工法 ··· 51

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5.4 アルカリ骨材反応による劣化に適した材料・工法 ···· 53 5.5 凍害による劣化に適した材料・工法 ··· 55 5.6 化学的腐食による劣化に適した材料・工法 ··· 57 5.7 摩耗による劣化に適した材料・工法 ··· 59 参考文献 主要用語関連資料

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第1章 本書の目的と活用 1.1 目的と活用 農業水利施設の長寿命化のための手引き(以下「本書」という。)は、既設の農業水 利施設の長寿命化対策を実施するに当たり、自然条件、地域条件や設計・施工条件によ り異なる施設の劣化状況を踏まえた上で、最適な材料及び工法を選定するための視点や 考え方を具体化することをもって、リスク管理を行いつつ、施設のライフサイクルコス トを低減し、施設機能の監視・診断、補修、補強などを機動的かつ確実に行う新しい戦 略的な保全管理を推進していくことを目的としている。 (解説) 1.背 景 昭和24年に土地改良法が制定されて以降、大規模な水源開発、頭首工や用排水路、揚 水機場・排水機場や管理施設の造成などが本格的に行われ、基幹的な農業水利施設は約2 5兆円の資産価値を有している。これらの施設は安定的な用水の供給や排水の改良など、 農業生産の基盤であるばかりでなく、地下水のかん養や洪水被害の軽減、地域用水として 農村の景観を形成し生態系を保全するなど多面的機能を発揮している社会資本である。 基幹的な農業水利施設は、多くが戦後に集中的に整備されてきたことから、老朽化が急 速に進行し、耐用年数を超過した施設は年々増加するとともに、突発事故の件数も増加し ている。一方で、国と地方の厳しい財政状況を踏まえ、既設の農業水利施設に適切な長寿 命化対策を講じることにより、ストックの有効利用を図ることが求められている。 このようなことから、食料・農業・農村基本計画(平成 22 年3月 30 日 閣議決定)で は、リスク管理を行いつつ、施設のライフサイクルコストを低減し、施設機能の監視・診 断、補修、補強などを機動的かつ確実に行う新しい戦略的な保全管理を推進していくこと としている。これを進めるためには、既存ストックの有効活用を図りながら農業水利施設 の機能保全を行うための統一的な仕組みや技術指針の整備が急務である。そのため、機能 保全に関する基本的な考え方を整理した上で、施設機能の診断、計画的な施設の更新・保 全管理を実施できるよう「農業水利施設の機能保全の手引き」の整備を図ってきた。 一方で、日本列島は南北 3,000km に及び、冷帯から温帯、亜熱帯にいたるまで6つに区 分される多様な気象条件を有し、地域特性に応じ、水田単作、水田表裏作、畑作など様々 な営農がなされており、水利用の形態は地域ごとに異なる。このため、既設構造物の適切 な長寿命化対策を実施するためには、自然条件、地域条件や設計・施工条件により異なる 農業水利施設の劣化状況を踏まえた上で、最適な材料及び工法を選定する必要があり、こ れに資するための技術的手法の充実が求められている。 2.手引きの目的と内容 (1)目 的 本書は、農業水利施設の長寿命化対策を実施するに当たり、自然条件、地域条件や設計・ 施工条件により異なる施設の劣化状況を踏まえた上で、最適な材料及び工法を選定するた めの視点や考え方を具体化することをもって、リスク管理を行いつつ、施設のライフ サイクルコストを低減し、施設機能の監視・診断、補修、補強などを機動的かつ確実に行 う新しい戦略的な保全管理を推進していくことを目的としている。

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(2)内 容 本書は、農業水利施設が存する地域の気温や湿度などの自然条件、設置場所による地域 条件、施設の施工条件や施工年代などの様々な劣化要因及びそれに起因する劣化メカニズ ム並びにこれらから生じる変状につき、主として農業水利施設のコンクリート構造物を対 象にこれらを体系的に整理するとともに、既設の農業水利施設の長寿命化対策に最適な材 料及び工法を選定するための視点や考え方を具体化している。 また、本書は、既設の農業水利施設の長寿命化対策を実施するに当たり、これら様々な 劣化状況を踏まえた上で、最適な材料及び工法を選定する際に活用する参考図書で、劣化 の要因やメカニズムをわかりやすく解説している。学術上定義されていない事項について は、ここで新たに定義し用いている用語もある。 なお、実際の農業水利施設の劣化は、複数のメカニズムにより発生している場合がほと んどである。本書で体系的に整理したメカニズムの特色を理解し、現場において確認され る変状からメカニズムを把握することが必要である。 (3)利用にあたって 本書は、農業水利施設のコンクリート構造物を主な対象として、構造的な劣化の要因や メカニズムに応じた対策技術の基礎的な考え方を整理したものであり、農業用施設の長寿 命化対策にかかわる技術系職員への基礎的かつ共通的な資料として利用されることを想定 している。 農業水利施設の長寿命化対策を効率的に実践していくには、現在、開発が進められてい る長寿命化技術の中から、施設の規模や地域の気象・立地条件等に応じた最適な技術を選 定し、機能保全コストを低減していく必要がある。 このために、施設の使用条件・使用環境と劣化の進行や内容の関係を体系的に把握・整 理して標準化し、その情報を関係者で共有することが必要である。 本書は、特定の長寿命化技術を選定するものではなく、劣化のメカニズムと過程に対応 した標準的な土木工学的知見を整理したものであるため、農業水利施設の機能の保全をよ り適切に実施するためには、その使用環境や特殊性を十分に把握する必要がある。

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第2章 劣化の要因 2.1 総 論 農業水利施設のコンクリート構造物の劣化の要因は、「材料・設計・施工の要因」と 「環境の要因」に大別される。 劣化要因により、中性化、塩害、アルカリ骨材反応、凍害、化学的腐食及び摩耗が引 き起こされ、「ひび割れ」、「すり減り・欠損」の主要な変状が生じる。 長寿命化工法の選定においては、これらに着目の上、最適の材料及び工法を選定する 必要がある。 (解説) 劣化は、自然環境作用・荷重、内存する化学物質、内部応力等によってコンクリート 及び鉄筋コンクリート構造物に経年的に生じる幾何学的性質(形状・寸法)及び物理的 性質の変化、さらには、それらの変化に起因して性質・機能が低下する現象である。劣 化要因には、物質、熱、光、力などがある。劣化メカニズムは、コンクリート構造物に 劣化要因が作用し、環境条件に応じて劣化の事象が生じる仕組みを意味する。 農業水利施設は、ダムやため池などの水源施設、河川などから用水を取り入れる頭首 工、幹線水路、支線水路、末端水路、主要分水工や末端分水工などから構成される用水 施設と、末端排水路、支線排水路、幹線排水路、排水樋門、排水機場などから構成され る排水施設に大別される。用水施設と排水施設では、使用状況が大きく異なるため、同 一地区であっても劣化メカニズムが異なる場合がある。また、農業水利施設は営農と密 接に関連して機能を発揮しており、例えば、営農時期のみ取水を行う地区、通年で取水 を行う地区など、使用状況も様々である。さらに、同一の地区内であっても、例えば、 河川から取水直後の幹線水路と末端水路では、流量や流速、流水内に含まれる土砂の量 など施設の置かれる状況が大きく異なり、劣化のメカニズムも様々である。 これらの農業水利施設の置かれている様々な状況を理解した上で、劣化の要因を把握 する必要がある。構造物は新規に建設されてから時間の経過とともに劣化し、使用に耐 えなくなるか、又は過重な維持補修費がかかるようになり、いずれは更新することにな る。劣化速度の遅い施設ほど耐久性が高いといえる。劣化速度は、施設の使用環境が同 じであっても、材料や設計、施工の良否により大きく影響を受ける。 本書では、劣化要因を、材料、設計、施工、施工年代の「材料・設計・施工の要因」 と気温や湿度などの「環境の要因」に大別し、類型化した。劣化要因からは、中性化、 塩害、アルカリ骨材反応、凍害、化学的腐食及び摩耗の劣化メカニズムが引き起こされ、 「ひび割れ」「すり減り・欠損」の主要な変状が生じる。この主要な変状が、環境の要因 などにより加速され、漏水や鉄筋露出などの数々の付属的な変状へとつながっていく。 なお、本書では、変状をわかりやすく解説するため、便宜上、主要な変状と付属的な変 状に区分しているが、学術上これらの区分は明確にされていない。 長寿命化工法選定の際には、劣化の要因を把握の上、劣化メカニズムに適した材料を 選定する必要がある。この材料の選定を誤れば劣化を更に進めてしまう可能性もあるこ とに留意する必要がある。また、対策工法の選定の際にも、変状に留意しつつ、劣化の 要因、過程、工法の特性を十分に検討した上で最適の工法を選定することが必要である。 なお、地盤の変状、載荷重の増大、地震などにより生じる損傷や施工時あるいは施工直 後に発生した初期欠陥は劣化とは異なることに留意する必要がある。

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2.2 材料・設計・施工の要因 農業水利施設のコンクリート構造物の劣化要因のうち、材料、設計、施工及び施工年 代によるものは、「材料・設計・施工の要因」に体系化しうる。 (解説) 農業水利施設のコンクリート構造物の劣化要因は、 ① セメント、骨材、混和材料など材料に起因するもの ② 配合、仕上げ、かぶり厚など設計に起因するもの 1 ③ 不適切な運搬・打ち込み(コールドジョイントの発生 )・締固め、及び仕上げ、養 生不足、不十分な継目処理など施工に起因するもの ④ 基準や規制により材料の品質が異なることなど施工年代に起因するもの があり、これらは「材料・設計・施工の要因」に体系化できる。 「材料・設計・施工の要因」を判断するためには、施設の履歴情報を活用すること が重要である。使用材料によりコンクリート構造物の劣化メカニズムは様々であり、 また、劣化メカニズムに対応した対策が行われることで、劣化の進み具合も異なる。 さらに、施工方法や技術が劣化に影響を及ぼすこともある。既存施設の中には、設計 や施工時の情報が保存されていないこともある。このような場合には、近傍の類似施 設の情報を活用することも検討する必要がある。また、施設の維持管理や長寿命化対 策の円滑な実施のため、設計や施工時の情報を保存していくことが必要である。情報 の蓄積を通じて、構造物の劣化要因などをより適切に把握することができる。 農業水利施設のコンクリート構造物の劣化は、初期欠陥や構造外力によるものか、 劣化メカニズムによるものか、両者の複合要因によるものかの判断が困難な場合があ り、適切な対策工法が実施されない懸念がある。このため、初期欠陥や構造外力によ る劣化の見分け方や対策工法なども検討する必要がある。 1) コールドジョイント:コンクリートを打重ねる時間の間隔を空け過ぎて打設した場合に、コンクリー トが一体化しない状態となって、打重ねた部分に不連続面が生じる現象。

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2.3 環境などの要因 農業水利施設のコンクリート構造物の劣化要因のうち、気温や湿度、場所や地域性に よるものは「環境などの要因」に体系化しうる。 (解説) 農業水利施設のコンクリート構造物の劣化要因の中には、 ① 気温、湿度、水分、日射量など自然条件に起因するもの ② 海からの飛来塩分や融雪剤の散布の影響や海砂の使用頻度など地域性に起因するも の があり、これらは「環境などの要因」に体系化できる。 「環境などの要因」を判断するためには、施設の置かれている状況を把握することが 重要である。使用環境によりコンクリート構造物は、気温の変動、湿度、水分の供給の 有無、日射量の違いなどによって、その受ける影響は様々である。また、施設の設置場 所、例えば寒冷地であるか、海岸線から近いかなどにより、劣化が異なるため、現地の 状況を適切に確認することが重要である。このためには、施設管理者への聞取りなどを 実施することが有効である。

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第3章 劣化メカニズム 3.1 総 論 農業水利施設のコンクリート構造物の劣化メカニズムは、中性化、塩害、アルカリ骨 材反応、凍害、化学的腐食及び摩耗に大別される。 (解説) 農業水利施設のコンクリート構造物は、様々な劣化要因により、「中性化」、「塩害」、 「アルカリ骨材反応」、「凍害」、「化学的腐食」及び「摩耗」の劣化メカニズムが引き起 こされる。これにより、「ひび割れ」、「すり減り・欠損」の主要な変状と、変色、漏水な どの付属的な変状が引き起こされる。 「ひび割れ」は「中性化」、「塩害」、「アルカリ骨材反応」、「凍害」及び「化学的腐食」 により引き起こされる。「すり減り・欠損」は「摩耗」及び「化学的腐食」により引き起 こされる。 農業水利施設では「凍害」によりひび割れを生じる事例が多く報告されている。「塩害」 や「アルカリ骨材反応」、「化学的腐食」によるひび割れは一部地域に限られるとともに 「中性化」による事例はほとんど報告されていない。 中性化 塩 害 アルカリ 骨材反応 凍 害 劣化メカニズム 主要な変状 ひび割れ 付属的な変状 剥離剥落 漏水 粗骨材脱落 錆汁 鉄筋露出 変色 変形たわみ 析出物 材料の選定 劣化要因 材料・設計・施工 の要因 ①材料,②設計、 ③施工、④施工年代 環境等要因 環境等要因 劣化加速要因 【長 寿 命 化 工 法 選 定の 視点 】 工法の選定 中性化 塩 害 アルカリ 骨材反応 凍 害 通気性の少ない材料(仕上材) 塩化物イオンが侵入しにくい材料 高濃度アルカリ・十分な水分が侵入 しにくい材料 耐凍害性材料(コンクリート) 劣化要因の 遮断 劣化速度の 抑制 表面処理工法(表面被覆、含浸) ひびわれ補修工法(表面塗布、注入、充填) 断面修復工法(左官、吹付、充填) 目地補修工法 接着工法(鋼板接着、パネル接着) 打換え工法(打換え、増厚) 摩 耗 すり減り・欠損 or 摩 耗 摩耗抵抗性の向上 劣化メカニズム別に ・劣化過程を判断 ・性能を選択 対策工法を選定 劣化要因の 除去 構造の改善 Ⅰ 潜伏期 Ⅱ 進展期 Ⅲ 加速期 Ⅳ 劣化期 劣化過程 性 能 対 策 工 法 損 傷 化学的 腐食 化学的 腐食 腐食性物質が侵入しにくい材料 【 劣 化の メカニ ズ ム】 図 3-1 劣化メカニズムと長寿命化工法選定の視点

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3.2 中性化 中性化に起因するひび割れは、本来アルカリ性であるコンクリートが中性化すること により、鋼材が発錆し体積が膨張することで生じる。 (解説) 中性化は、本来高アルカリ性(pH12 以上)であるコンクリートが中性(pH8.5~10) に近づく現象であり、最も一般的な中性化は大気中の二酸化炭素がコンクリート内へ侵 入し、コンクリートの空隙中の水分のpHを低下させる。大気中の二酸化炭素がコンク リート中の空隙1)に侵入し、内部へ拡散するため、コンクリート表面から内部へと進行 する。 腐食による膨張 ひび割れの発生 鉄筋 図 3-2 中性化の進展概要 中性化による鉄筋コンクリートの劣化は、コンクリート内部の鋼材の不動態皮膜の破 壊(腐食保護機能の低下)による鋼材の発錆・腐食の発生により生じる。コンクリート は高アルカリ性であり、鋼材はこのような環境下では腐食しない。しかしながら、二酸 化炭酸がコンクリートに侵入しつづけ、コンクリートのpHが低下すると、不動態皮膜 が破壊され、鋼材の腐食が始まり、これに伴い鋼材が膨張し、ひび割れ、剥離・剥落、 鋼材断面の減少が発生する。コンクリート中の水分と酸素の量により、鋼材の腐食進行 速度は異なる。 3.2.1 中性化の要因 中性化は、コンクリート自体の品質、気温・湿度や、融雪剤の散布などの要因により 影響を受ける。 (解説) 中性化の進行速度は、コンクリート自体の品質、気象や地域性により、複雑な影響を 受けている。 1) 空隙:コンクリートを練混ぜる際や施工する際に必要なセメントの硬化反応以上の水の添加に起因す る空隙(孔径 2nm~1μm)。 中性化深さ 中性化領域 アルカリ性領域 CO2 コンクリート 表面

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①材料・設計・施工の要因 「セメント」、「骨材」、「混和材料」が材料に起因する中性化の要因である。高炉セメ ントは高炉スラグを混和材として使用しているが、スラグの使用量が増えると、ポゾラ ン反応によりコンクリート中の水酸化カルシウムが消費され中性化速度は増大する。通 気性の高い骨材を使用した場合、炭酸ガスの拡散が促進されるため中性化の速度は増大 する。 コンクリートの表面仕上げを実施する場合やコンクリートのかぶり厚が大きいほど、 大気中の炭酸ガスの侵入が抑制されるため、コンクリートの中性化は進みにくい。締固 め不足による豆板(ジャンカ)1)及びコールドジョイントがあるほど、大気中の炭酸ガ スの侵入が促進されるため、コンクリートの中性化は進みやすい。さらに、中性化の原 因となる炭酸ガスはコンクリート中の空隙(孔径 2nm~1μm)より侵入する。したがっ て、コンクリートに水を多く添加するほど粗大な空隙が出来るため、水セメント比が大 きいほど中性化が進みやすい。また、水セメント比の違いにより、コンクリートの強度 特性は異なる。 さらに、鉄筋かぶりと設計基準強度がコンクリート標準示方書に規定されたのは 1978 年であるので、それ以前に施工されたコンクリート構造物では、これらの考え方が反映 されていないため、中性化が起こりやすい可能性がある。 ②環境などの要因 中性化は、気温・湿度が高い地域、海から多く塩分が飛来する地域、融雪剤が散布さ れる地域で発生しやすい。中性化の進行速度は、湿度 50~60%で最大となり、それ以上 になれば、湿度が上がるほど小さくなるとともに、気温が高いほど大きくなる。 また、塩化物イオンによりコンクリート中の水酸化カルシウムが消費され、pHが低 下するため、海からの飛来塩分が多い地域や融雪剤散布がなされている地域では中性化 の進行速度は速くなる。 図 3-3 モルタルの炭酸化深さに及ぼす相対湿度の影響(曝露 2 年) 出典「コンクリート診断技術’10[基礎編]」2010(社)日本コンクリート工学協会 P.36 1) 豆板(ジャンカ):打設されたコンクリートの一部がセメントペースト、モルタルの廻りが悪く粗骨 材が集まってできた空隙の多い構造物の不良部分。

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中性化によるひび割れの要因 中性化によるひび割れの要因 中性化によるひび割れの要因 ③施工 かぶり 仕上げ ⑤環境 気温 湿度 ②設計 混和材料 骨材 セメント 水セメント比 締固め不足 コールドジョイント 表面仕上げを行う 方が影響が小さい 塩化イオン含有量が多い ほど影響が大きい コールドジョイントがあるほど 影響が大きい 大きいほど中性化 速度が大きくなる 1978年以 前の施工 湿度50~60%で中性化速度が 最大、上がるほど小さくなる。 気温が高いほど 速度が大きい 塩化物イオンによるpH低下 海からの飛来塩分 の影響のある地域 かぶりが大きいほど 影響が小さい 1978年に鉄筋被りと 設計基準強度を規定 融雪剤の散布の 影響がある地域 材料・設計・施工 環境 締固め不足による、豆板やジャンカ があるほど影響が大きい 中性化 ④施工年代 ①材料 混和材の量が増えるほど 影響が大きい 高炉セメントの場合、混合物 が多いほど影響が大きい 通気性の高い骨材の場合 影響が大きい 図 3-4 中性化によるひび割れの要因 (1)中性化と塩害による複合劣化 中性化の進行により、コンクリート内部の塩化物イオン濃度が濃縮され塩害が促進さ れる。 (解説) 中性化の進行により、セメント水和物に固定されたフリーデル氏塩1)が、細孔溶液中 に塩化物イオンとして解離する。解離した塩化物イオンは、濃度拡散に伴いコンクリー ト内部へ移動する。内部に移動した塩化物イオンは、アルカリ性領域で再びフリーデル 氏塩となる。中性化の進展とともに、この現象が繰り返し起こり、コンクリート内部の 塩化物イオン濃度が濃縮され、塩害が促進される。 1) フリーデル氏塩:塩化物イオンがセメント鉱物と反応し生成される代表的な化合物。化合物の状態で は塩害に関与しないと考えられているが、分解され塩化物イオンを解離することで塩害を促進する。

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中性化の進行までは細孔溶 液中の Cl-は一様に分布 中性化により中性化領域 のフリーデル氏塩が分解 し、Cl-が細孔溶液中に溶 出 濃度拡散により、細孔溶 液中の Cl-が内部へ移動 アルカリ性領域に達する と再びフリーデル氏塩と なる 濃度拡散がなくな るまで反応が続く 図 3-5 塩化物イオンの濃縮現象の概念図 出典「コンクリート診断技術’10[基礎編]」2010(社)日本コンクリート工学協会 P.38 農業水利施設は、農業用水を送排水するものであることから、高湿度の使用環境にお かれているものが多く、比較的中性化し難い環境にある。一方、地下水及び土壌と接す るパイプライン(PC管)では、地下水及び土壌中の侵食性炭酸1)によるカバーコート の劣化(中性化)について指摘されるケースが散見される。侵食性炭酸が多く含まれて いる場合は中性化が進行しやすいので特に注意する必要がある。 農業水利施設は中性化による劣化事例が少なく十分な知見が得られていない。このた め、今後とも、中性化と塩害の複合劣化メカニズムなどについて調査、検討を行う必要 がある。 1) 侵食性炭酸:地下水などに溶けている炭酸ガスで侵食性があるもの。

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3.3 塩害 塩害に起因するひび割れは、コンクリート中に塩化物イオンが蓄積されることで、鋼 材が腐食し体積が膨張することで生じる。 (解説) 塩害は、コンクリート中に蓄積された塩化物イオンにより鋼材の不動体皮膜が破壊さ れ鋼材が腐食し、これに伴う体積の膨張圧によって、コンクリートにひび割れ、剥離、 鋼材径の減少などが生じる事象である。 コンクリート中に蓄積される塩化物イオンは、骨材や混和剤などに由来する初期内存 塩分と、海水や融雪剤など外来塩分により供給される。 塩化物イオンによる鋼材の腐食発生限界濃度は、コンクリート1m3当り1.2kg2) を目安とされている。 外来塩分 塩化物イオンを 腐食による膨張 図 3-6 塩分による塩化物イオンの侵入 2) コンクリート1m当り1.2kg:「コンクリート標準示方書 維持管理編」P.102 Cl -Cl -Cl -Cl- 融雪剤 ひび割れの発生 鉄筋 含んだ骨材 Cl -コンクリート 塩化物イオン 表面 図 3-7 塩害による劣化の進行過程 出典「農業水利施設の機能保全の手引き」 平成 19 年(社)農業土木事業協会 P.参-58

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3.3.1 塩害の要因 塩害は、塩化物イオンを含有した骨材のコンクリートへの過度の使用、海からの飛来 塩分や融雪剤に含まれる塩分などにより生じる。 (解説) ①材料・設計・施工の要因 「セメント」、「骨材」、「混和材料」が材料に起因する塩害の要因であり、これらが塩 化物イオンを基準値以上含有していると、塩害の影響が大きくなる。一方で、高炉セメ ントは空隙構造が緻密になるため塩害には強い。 「仕上げ」と「かぶり厚」が設計に起因する塩害の要因であり、表面仕上げを実施す る場合やかぶり厚が大きいほど、外部からの塩化物イオンの侵入が抑制されるため塩害 の影響が小さくなる。 設計・施工に起因する塩害の要因は、「コールドジョイント」、「養生」、「水セメント比」 である。コールドジョイントで初期ひび割れが発生しているほど、外部からの塩化物イ オンの侵入が促進されるため塩害の影響が大きくなる。養生不足及び水セメント比が大 きい場合、緻密でないコンクリートとなり塩化物イオンが拡散しやすくなるため塩害の 影響が大きくなる。また、塩化物総量の規制が、コンクリート標準示方書に規定された のは 1986 年であり、それ以前に施工されたコンクリート構造物ではこの考え方が反映さ れていないため、塩害が起こりやすい可能性がある。 ②環境などの要因 「海からの飛来塩分の影響がある地域」と「融雪剤散布の影響がある地域」では塩害 が発生しやすい。 塩害によるひび割れの要因塩害によるひび割れの要因 塩害によるひび割れの要因 ②設計 かぶり 仕上げ ⑤環境 混和材料 骨材 セメント ③施工 コールドジョイント 表面仕上げを行う 方が影響が小さい 初期ひび割れが発生している ほど影響が大きい 1986年以 前の施工 かぶりが大きいほど 影響が小さい 1986年に塩化物総量 の規制0.3kg/m3以下 塩化物イオンによるpH低下 海からの飛来塩分 の影響のある地域 融雪剤の散布の 影響がある地域 ④施工年代 材料・設計・施工 環境 塩害 ①材料 養生 養生不足で脱型すると 影響が大きい Ⅰ種 0.02%以下 Ⅱ種 0,02%を超え0.20%以下 Ⅲ種 0.20%を超え0.60%以下 JISA6204による塩化物イオン量に よる混和材の区分 細骨材の総乾質量の0.04%以下 JISA5308による砂の塩化物量の品質基準値 高炉セメントは緻密になるため有効 水セメント比 小さいほど緻密になり 影響が小さい レディミクスコンクリートの塩化物含有量は 0.3Kg/m3以下 JISA5308の品質基準値 図 3-8 塩害によるひび割れの要因

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(1)塩害範囲地域 冬の季節風の影響がある東日本の日本海側と、台風の影響がある沖縄では、海からの 飛来塩分の影響が他地域に比べて大きい。 (解説) 冬の季節風の影響がある東日本の福井県以北の日本海側と、台風の影響がある沖縄で は、海からの飛来塩分の影響が他地域に比べて大きい。 ※地域区分の詳細は下記参照 図 3-9 塩害範囲地域(道路橋) 出典「道路橋示方書・同解説Ⅰ共通編Ⅲコンクリート橋編」平成 14 年(社)日本道路協会 P.172 塩害の影響地域(道路橋)は、次の範囲である。 地域区分A:沖縄県(海岸から 300m まで) 地域区分B:北海道のうち、宗谷支庁の礼文町・利尻富士町・利尻町・稚内市・猿払村、 豊富町、留萌支庁、石狩支庁、後志支庁、檜山支庁、渡島支庁の松前町、 青森県のうち、外ヶ浜町、今別町、北津軽郡、西津軽郡、大間町、佐井村、 むつ市、秋田県、山形県、新潟県、富山県、石川県、福井県(海岸から 300m まで) 地域区分C:上記以外の地域(海岸から 50m まで)

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(2)塩害と凍害による複合劣化の可能性がある地域 塩害と凍害による複合劣化は、西日本の平野部を除いた全ての地域で発生する可能性 があると考えられる。 (解説) 1) 2) 塩害は、凍害によるスケーリング やポップアウト に 害は、腐食が進行してもひび割れが発生しにくく外観の変状だけでは判断が難しい た 塩害と凍害による複合劣化は、その劣化速度や耐久性の低下に与える影響などが把握 さ よってコンクリートが剥離・剥 落し、塩化物イオンがコンクリート中に浸透しやすくなることで促進される。また、塩 化物イオンは、凍結融解作用によって濃縮されるので、さらに凍害が促進されることと なる。このように劣化は、複数の要因が相乗的に影響し合い複合的に生じることがある。 塩 め、複合劣化を見落とすことがあるので注意を要する。塩害と凍害による複合劣化は、 西日本平野部を除く全ての地域で発生する可能性があり、特に海岸沿いに設置された農 業水利施設では注意する必要がある。このため、塩害の可能性が高いと想定される地域 において、農業水利施設における塩害の実態を把握し、効果的な対策工法について検討 する必要がある。 れていない。このため今後とも、塩害と凍害による複合劣化の可能性が高いと想定さ れる地域において、塩害及び凍害の要因に関する調査を行い、農業水利施設における塩 害と凍害による複合劣化の実態・劣化速度などを把握し、効果的な対策工法について検 討する必要がある。 出典「複合劣化コンクリート構造物の評価と維持管理計画研究委員会 報告書」2001年 図 3-10 塩害と凍害による複合劣化の可能性がある地域 (社)日本コンクリート工学協会 P.62 1) スケーリング:コンクリート表面がフレーク状にはげ落ちること。 2) ポップアウト:コンクリートの表面が飛び出すように剥がれてくること。

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3.4 アルカリ骨材反応 アルカリ骨材反応は、アルカリシリカ反応とアルカリ炭酸塩反応に大別されるが、我 が国で発生しているものは、前者がほとんどである。アルカリシリカ反応性の骨材によ るひび割れは、コンクリート中のシリカ鉱物とアルカリとの反応によりアルカリシリカ ゲルが生成され、アルカリシリカゲルが吸水し膨張することで発生する。 (解説) アルカリ骨材反応は、コンクリート細孔溶液に溶脱したアルカリ成分と骨材中に含ま れる特定の成分が化学反応を起こし、それに伴う膨張圧によってコンクリートにひび割 れや剥離が生じる現象である。 アルカリ骨材反応はアルカリシリカ反応とアルカリ炭酸塩反応の2種類に分類される。 現在、我が国で発生しているアルカリ骨材反応は大部分がアルカリシリカ反応であり、 アルカリ炭酸塩反応の発生事例はない。 アルカリシリカ反応は、コンクリート細孔液中のアルカリ成分と骨材中に含まれるオ パール、カルセドニー、クリストバライト、トリジマイトに代表されるシリカ鉱物や火 山ガラスとの間に生じる化学反応によりアルカリシリカゲルが生成されることにより生 じる。アルカリシリカゲルは吸水性があり、外部から供給された水分を吸水すると膨張 し、コンクリートのひび割れ、剥離・剥落が発生する。 反応性骨材 アルカリシリカゲル 図 3-11 アルカリシリカ反応の膨張機構概要 Na+ K + OH- アルカリ性水溶液と反応 アルカリシリカゲルの生成 膨張圧によるひび割れの発生 アルカリシリカゲル アルカリシリカゲル H2O H2O H2O アルカリシリカゲルの吸水・膨張

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3.4.1 アルカリ骨材反応の要因 アルカリ骨材反応は、アルカリシリカ反応性鉱物が骨材に使用されていることにより 生じる。また、海砂の使用頻度が高い地域や海沿いの地域に多発する傾向にある。 (解説) アルカリ骨材反応は、北陸から東北地方の日本海沿岸、中国四国地方の瀬戸内海沿岸 で多く報告されている。また、海砂の使用量が多い地域に多発する傾向にあるとする報 告もある。 ①材料・設計・施工の要因 アルカリ骨材反応は、骨材にアルカリ反応性鉱物を含む安山岩、流紋岩などの火山岩 系チャート、硬質砂岩などの堆積岩などが含まれていることにより生じる。 表面仕上げを行い、水分やアルカリイオンの侵入を防ぐほどアルカリ骨材反応を抑止 できる。「コールドジョイント」により初期ひび割れが発生しているほど、水分やアルカ リイオンの侵入が促進されるためアルカリ骨材反応が促進されやすい。 また、アルカリ骨材反応抑制対策が、コンクリート標準示方書に規定されたのは 2002 年であり、それ以前に施工されたコンクリート構造物ではこの考え方が反映されていな いことから、アルカリ骨材反応が発生する可能性がある。 ②環境などの要因 アルカリ骨材反応は、「水分の供給」により促進される。 アルカリ骨材反応によるひび割れの要因アルカリ骨材反応によるひび割れの要因 アルカリ骨材反応によるひび割れの要因 ②設計 仕上げ ⑤環境 混和材料 骨材 セメント ③施工 コールドジョイント 表面仕上げを行い水分 アルカリイオンの 進入を防ぐ程、影響が小さい 初期ひび割れが発生している ほど影響が大きい 2002年以 前の施工 2002年にアルカリ骨材反応 抑制対策 (アルカリ総量3.0kg/1m3以下) 海からの飛来塩分 の影響のある地域 水分の供給 アルカリ化合物の供給がある場合は 骨材のアルカリシリカ反応性試験で無害 であっても被害が発生する可能施有り ④施工年代 アルカリ骨材反応 の多発地域 海砂の使用頻度 が高い地域 アルカリ 骨材反応 材料・設計・施工 環境 アルカリ反応性鉱物を含む 火山岩、堆積岩、変成岩 (骨材のアルカリシリカ反応性試験の実施) ①材料 高炉セメント、フライアッシュセメント B種、C種は抑制効果がある 抑制効果のある 混和材料の利用 アルカリシリカゲルが吸水し膨張 図 3-12 アルカリ骨材反応によるひび割れの要因

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(1)アルカリシリカ反応性の骨材分布 アルカリシリカ反応性の骨材は、全国に広く分布している。レディーミクスコンクリ ートに使用される骨材のうち、細骨材で約9%1)、粗骨材で約15% が無害ではないと1) 判定されている(2004年時点)。 (解説) 北海道・東北・北陸の各地域はそれ以外の地域と比べるとアルカリシルカ反応性の骨 材の割合が多い。関東地方でも一定の割合でアルカリシルカ反応性の骨材が含まれる。 近畿地方では、アルカリ骨材反応による構造物の著しい劣化事例も報告されているが、 アルカリシルカ反応性の骨材の割合は比較的小さい。 図 3-13 アルカリシリカ反応性の骨材分布 出典「コンクリートの耐久性向上技術の開発(土木構造物に関する研究成果)」1989年 (財)土木研究センターP.294 図 3-14 骨材のアルカリシリカ反応性試験結果 出典「骨材のアルカリ骨材反応性に関する全国調査結果」2004年(独)土木研究所 1) 無害ではない細骨材、粗骨材の割合:「骨材のアルカリ骨材反応性に関する全国調査結果」より。

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(2)アルカリ骨材反応と塩害による複合劣化の可能性がある地域 アルカリ反応性骨材は全国的に分布する。一方、融雪剤は東日本で広範囲に散布され ており、西日本の平野部を除く全ての地域で、塩害とアルカリ骨材反応による複合劣化 の可能性は高いと考えられる。 (解説) アルカリ反応性骨材は、安山岩、流紋 岩等の火山岩系チャート、硬質砂岩等の 堆積岩系など多種多様であり、全国各地 に存在する。このため、塩害の可能性が ある地域などでは、アルカリ骨材反応で 生じたひび割れによってコンクリート 中の塩化物イオンなどの腐食因子が増 加することで塩害が促進されたり、融雪 剤など外来塩分の侵入によりアルカリ 濃度が上昇してアルカリ骨材反応が促 進されるなど、相乗的複合劣化が生じる 可能性が高くなる。 1) 図 3-15 ASR と塩害による複合劣化の可能性のある地域 出典「複合劣化コンクリート構造物の評価と維持管理計画研究委員会 報告書」2001年 (社)日本コンクリート工学協会P.63 アルカリ骨材反応と塩害による複合劣化は、西日本平野部を除く全ての地域で発生す る可能性があり、融雪剤の散布頻度が高い寒冷地、アルカリ骨材反応の多発地域の北陸 から東北の日本海沿岸地域や、中国四国地方の瀬戸内海沿岸に位置する特に海岸沿いに 設置された農業水利施設では注意する必要がある。なお、融雪剤などの外来塩分だけで なく初期塩分の影響によりアルカリ骨材反応が促進される問題も指摘されている。初期 塩分の濃度に影響を及ぼすひとつの要因として海砂の使用が挙げられる。 --- 【参考】 西日本(特に中国・四国・九州)は、海砂の採取量が他地域よりも多いため、アル カリ骨材反応による劣化が増幅されている可能性があるとの報文もある。 骨材への海砂使用量は、1964 年(昭和 39 年)の東京オリンピック開催の年を境と して増加傾向にあり、2000 年(平成 12 年)以降減少傾向を示している。一方、コン クリート中の塩化物総量の規制は、1986 年(昭和 61 年)にコンクリート標準示方書 に規定されている。このため、1964 年(昭和 39 年)から 1986 年(昭和 61 年)に施 工されたコンクリート構造物は、骨材に塩分を除去していない海砂が使用されている 可能性を指摘しているものもある。 1) ASR:アルカリ骨材反応の略称。

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東京オリンピ ック 塩分総量 規制 図 3-16 骨材供給構造の推移 出典 (社)日本砕石協会ホームページ「骨材需給の推移」より抜粋 図 3-17 海砂の地方別採取量の推移(単位は 106m3、1969~1977 年度調査) 出典「コンクリートが危ない」小林一輔 1999 年岩波新書 P.4

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図 3-20 コンクリートの膨張過程 出典「コンクリート診断技術’10 基礎編」2010年(社)日本コンクリート工学協会P.202 図 3-18 アルカリ骨材反応の多発地域 出典「コンクリートが危ない」小林一輔 1999年岩波新書P.83 図 3-19 年間 10 万 m3以上の海砂を使っ ている地域 出典「コンクリートが危ない」小林一輔 1999 年岩波新書 P.82 --- アルカリ骨材反応が発生している場合は、現状のコンクリートの膨張率並びに今後の 膨張速度及び膨張量について予測することが対策工法の検討の基礎資料となり重要であ る。 農業水利施設においてアルカリ骨材反応の事例は少ないが、発生している事例はいず れも長期供用施設である。このことから、長期供用施設においては「膨張量が収束期に 至っていない」可能性があることを理解しておく必要がある。

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3.5 凍害 凍害に起因するひび割れは、コンクリート中の水分の凍結膨張圧によって発生する。 (解説) 凍害は、寒冷地において、コンクリート中の水分が外気温差や日射による影響を繰り 返し受けることで、水分の凍結膨張圧によりコンクリートにひび割れや剥離が発生する 現象である。コンクリートの空隙を通じて内部に浸入した水分は、凍結する際に約9% の体積膨張を起こす。コンクリートの内部にその体積膨張を吸収するだけの空隙がない 場合、凍結時の膨張を拘束し、この膨張圧によりコンクリートのひび割れ、剥離・剥落 が発生する。凍害によるコンクリート表面のひび割れは、コンクリート自体の膨張に起 因するため、中性化や塩害で発生する鋼材腐食に起因するひび割れとはそのメカニズム が異なる。 毛細管水や空隙水の凍結膨張に伴うひび割れ 水分の凍結・膨張圧の発生 図 3-21 凍害による劣化の進行過程 コンクリート表面の剥離(スケーリング) 吸水率の大きな骨材 骨材の凍結 膨張圧によるポップアウトの発生 水 分 コンクリート 表面 骨材の膨張圧によるポップアウト

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3.5.1 凍害の要因 凍害は、コールドジョイントの発生や、最低気温が低いこと、水の供給などの要因に より生じる。 (解説) ①材料・設計・施工の要因 「セメント」、「骨材」、「混和材料」に起因して凍害は生じる。吸水率の高い骨材を使 用した場合、骨材中の水分の凍結、膨張が生じることから凍害が発生しやすい。また、 混和剤に適正な気泡間隔がなかった場合、凍結による膨張圧を緩和できなくなることか ら凍害が発生しやすい。 表面仕上げを行い水分の侵入を防ぐほど凍害の影響は小さくなる。凍害は「養生」と 「コールドジョイント」に起因している。適切な養生が実施されない場合、コンクリー ト硬化中の温度が低下するため凍害の影響が大きくなる。また、コールドジョイントで 初期ひび割れが発生しているほど水分の侵入が促進されるため凍害の影響が大きくなる。 ②環境などの要因 「最低気温」、「日射量」、「水分の供給」に起因して凍害は発生する。最低気温がゼロ 度以下、乾湿の繰り返しが多いほど、凍害の可能性は高くなる。 凍害によるひび割れの要因凍害によるひび割れの要因 凍害によるひび割れの要因 ②設計 仕上げ ⑤環境 ①材料 混和材料 骨材 セメント ③施工 コールドジョイント 表面仕上げを行い水分 アルカリイオンの進入を 防ぐ程、影響が小さい 初期ひび割れが発生している ほど影響が大きい 最低気温 水分の供給 凍結融解の原因である 外部からの水分の供給 日射量 材料・設計・施工 環境

凍害

乾湿の繰り返しが 多いほど影響が大きい 0度以下の温度で、最低気 温が低いほど影響が大きい 吸水率の高い骨材(凝灰岩、軟質の砂岩等) の場合影響が大きい 気泡間隔係数 200~250μmを推奨 養生 十分な湿潤養生の実施 高炉セメントの場合影響が大 きい 図 3-22 凍害によるひび割れの要因

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(1)凍害危険度の分布 凍害は、山間部、内陸部を中心に発生するおそれがある。 (解説) 各地域の凍害危険度は、年間凍結融解繰り返し日数・凍結融解時の氷点下の温度差・ 凍結融解時の湿潤程度(含水程度)によって算出し、0~5度の6段階に分けて示され ている。 図 3-23 凍害危険度の分布図 「複合劣化コンクリート構造物の評価と維持管理計画研究委員会 報告書」 2001年(社)日本コンクリート工学協会P.34 (2)凍害とアルカリ骨材反応の複合劣化の可能性のある地域 凍害とアルカリ骨材反応の複合劣化は、東日本と中部、北陸地方の山間部で生じる可 能性が高いと考えられる。 (解説) アルカリ骨材反応と凍害による劣化は初期にひび割れを発生する。このひび割れはコ ンクリート内部に水分を容易に供給し、水分移動による複合劣化を促進することが考え られる。

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図 3-24 凍害とASRの複合劣化の可能性のある地域 「複合劣化コンクリート構造物の評価と維持管理計画研究委員会 報告書」2001年 (社)日本コンクリート工学協会 P.64 アルカリシルカ反応性骨材は、全国的に分布しており、凍害を受けるおそれが多い地域 では、凍害とアルカリ骨材反応との複合劣化の可能性が高い。このため、農業水利施設で も凍害危険度が1以上の地域では複合劣化に注意する必要がある。また、このような地域 に位置する農業水利施設では、凍害の発生に伴いアルカリ骨材反応が促進される可能性が 高いため注意が必要である。 開水路は、表面からの用排水及び背面からの地下水の供給により凍害を受けやすい構造 物である。凍結・融解を繰り返しやすい南面の水路肩部において凍害が発生している事例 が多い。 さらに、凍害の可能性が高いと想定される地域(凍害危険度が 1 以上の地域など)では、 農業水利施設における実態を把握し、複合劣化に対して効果的な対策工法を検討する必要 がある。

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3.6 化学的腐食 化学的腐食に起因するすり減り・欠損やひび割れは、コンクリートが外部からの化学 的作用を受け、セメント水和生成物の分解または、膨張性化合物の生成により生じる。 (解説) 化学的腐食は、侵食性炭酸、硫酸、硫酸塩及び動植物性油の成分による化学反応に伴 うセメント水和物の分解及び膨張性化合物の生成による膨張圧によってコンクリート表 面から次第に劣化する現象である。ただし、大気中の二酸化炭素や地中の侵食性炭酸の 作用によるコンクリートの炭酸化は、鋼材腐食の発生を伴うため重要と判断されること から「中性化」として取り扱う(3.2 中性化参照)。 硫酸による劣化は、下水や温泉地の土壌に含まれる硫黄分が空気中で酸化し、細菌の 作用によって酸化が促進されて硫酸が生成され、セメント水和物を分解することで骨材 を露出させる。さらに劣化が進行すると骨材が脱落する。 セメント水和物の分解による 表層部の骨材露出 セメント水和物の分解進行による骨材の脱落 酸の作用・セメント水和物の分解 コンクリート 表面 硫酸が作用 図 3-25 硫酸による劣化の進行過程 硫酸塩による劣化は、海水の越波や飛沫による外来塩分が作用する海岸保全施設や、 硫酸塩を多く含む土壌1)に接する構造物などに見られ、コンクリート中の水酸化カルシ ウムと反応することでエトリンガイト2 )を生成し、生成の際に発生する膨張圧によりコ ンクリートにひび割れや剥離・剥落を引き起こす。 エトリンガイト 図 3-26 硫酸塩による劣化の進行過程 1) 硫酸塩を多く含む土壌:強酸性(pH4 程度)を示す土壌。 2) エトリンガイト:強度を発現に作用する鉱物の一種。 コンクリート 表面 硫酸塩が作用 エトリンガイトの 膨張圧によるひび割れ ひび割れ部の剥離

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3.6.1 化学的腐食の要因 3) 化学的腐食は、アルミネート を含有した骨材の使用、硫酸の混入、硫酸塩などに起 因し発生する。 (解説) ①材料・設計・施工の要因 化学的腐食は、「セメント」、「骨材」に起因して発生する。これらへのアルミネート含 有量が多いほど膨張性のエトリンガイトの生成量が増えるため、化学的腐食の影響が大 きくなる。石灰岩による骨材を使用した場合、酸類に溶解するため化学的腐食の影響が 大きくなる。 表面仕上げを実施する場合やかぶり厚が大きいほど、侵食性物質の侵入が抑制される ため、化学的腐食の影響は小さくなる。締固め不足による豆板(ジャンカ)及びコール ドジョイントがあるほど、化学的腐食物質の侵入が促進されるため、化学的腐食の影響 が大きくなる。さらに、侵食性物質はコンクリート中の空隙(孔径 2nm~1μm)より侵 入するが、コンクリートに水を多く添加するほど粗大な空隙が出来るため、水セメント 比が大きいほど侵入速度が大きくなる。また、鉄筋かぶりと設計基準強度は、コンクリ ート標準示方書に 1978 年に規定されており、それ以前の施工されたコンクリート構造物 ではこの考え方がなかったため、化学的腐食が発生する可能性がある。 ②環境などの要因 腐食性物質の「濃度」と「温度」が高いほど化学的腐食の速度は早くなる。また、「温 泉地」、「酸性河川」、「酸性・硫酸塩土壌」などを有する地域では、化学的腐食は発生し やすい。 温泉地、酸性河川、硫酸塩土壌に造成された農業水利施設は、化学的腐食が促進され る可能性が高くなるため注意が必要である。 3) アルミネート:コンクリートの強度発現に作用する鉱物の一種。 (前述のエトリンガイトはアルミネートの一種)

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化学的腐食によるひ化学的腐食によるひび割れ、すり減り欠損の要因び割れ、すり減り欠損の要因 化学的腐食によるひび割れ、すり減り欠損の要因 図 3-27 化学的腐食によるひび割れ、すり減り欠損の要因 ③施工 かぶり 仕上げ ⑤環境 温度 濃度 ②設計 骨材 セメント 水セメント比 締固め不足 コールドジョイント 表面仕上げを行う 方が影響が小さい アルミネート含有量が多い ほど影響が大きい コールドジョイントがあるほど 影響が大きい 大きいほど腐食速度が 大きくなる 1978年以 前の施工 侵食性物質の濃度が高い ほど速度が大きい 浸食性物質の温度が 高いほど速度が大きい 硫酸塩土壌 かぶりが大きいほど 影響が小さい 1978年に鉄筋被りと 設計基準強度を規定 温泉地・酸性河川等 材料・設計・施工 環境 締固め不足による、豆板やジャンカ があるほど影響が大きい ④施工年代 化学的 腐食 ①材料 酸類に溶解する骨材(石灰岩)の場合 影響が大きい アルミネート含有量が少ない 耐硫酸塩ポルトランドセメントは 抑制効果がある

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3.7 摩耗 摩耗は、コンクリート中のセメント水和物の容脱や外部からの物理的作用によりコン クリートの断面が欠損していく現象である。 (解説) 摩耗は、水に接することでカルシウムなどのイオンがセメント水和生成物から溶脱し て外部へ移動し組織が粗になることや、流水中の土砂による研摩作用や落差による衝撃 力などが組み合わさり、コンクリートの断面が欠損していく現象である。 セメント水和生成物は不溶解性ではないため、長期間水と接するとカルシウムイオン などがコンクリート表面から容脱する。コンクリート内部のカルシウムイオンは、カル シウムイオンが容脱した表面部分と内部の濃度差を緩和するように徐々に表面に移動し、 最終的に接する水に溶解する。これを繰り返すことでセメント水和生成物のカルシウム イオンが消費され、組織が粗になりコンクリートの断面が欠損する。このような現象は 水と接するコンクリートすべてに発生する可能性があるが、劣化速度は極めて遅いもの である。一方、流水中の土砂による研摩作用や落差による衝撃力の影響を受ける場合は、 コンクリートの断面が時間とともに徐々に欠損し摩耗が進行する。このような現象は物 理的作用を受ける特殊な環境下で発生するが、劣化速度は前者よりも速い。 摩耗を受けるコンクリート構造物では、初期の変状としてスキン層(表面のセメント ペースト)の欠損による粗骨材が露出する現象が見られるが、劣化が進行すると粗骨材 を支えきれなくなり粗骨材の脱落が発生する。さらに摩耗が進行すると鋼材の露出や腐 食、断面欠損が発生する。 摩耗レベル1 摩耗レベル2 粗骨材露出 細骨材露出 図 3-28 摩耗による劣化の進行過程 3.7.1 摩耗の要因 摩耗は、接水期間、流水中に土砂が多く含まれることなどを要因として生じる。 (解説) ① 材料・設計・施工の要因 摩耗は、摩擦に弱い材料を使用しコンクリートを保護したこと、強度が低いコンクリ ートを使用すること及びコンクリートの充填不足により生じる。なお、高炉セメントは、 粒子が緻密になるため一般のコンクリートに比して耐摩耗性が高い。 ② 環境などの要因 カルシウムイオンの容脱による摩耗は、「接水」、「水質」などの要因により生じる。接 水期間が長く、接する水の成分濃度が低い(軟水)ほどカルシウムイオンなどが容脱し やすく、コンクリートは摩耗の影響を受けやすい。研摩作用や衝撃力などによる摩耗は、

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「流速」、「流水中の土砂」、「落差のある水叩き部」などにより生じる。流速が速い、流 水中の土砂量が多い、落差が大きいほど摩耗の影響を受けやすい。 塩害や中性化環境下にあるコンクリート構造物は、摩耗によりコンクリートが減少し 鋼材腐食が促進されるため、耐久性への配慮が必要となる。 摩耗によるすり減り欠損の要因 図 3-29 摩耗によるすり減り欠損の要因 摩 摩耗によるすり減り欠損の要因耗によるすり減り欠損の要因 ②設計 仕上げ ⑤環境 ①材料 ③施工 コンクリートの 充填不足 摩耗抵抗性の高い材料で コンクリートするほど影響が 小さい すり減り速度が速くなる 落差のある 水叩き部 落差による衝撃力で 劣化が進行 流水中の土砂 材料・設計・施工 環境 摩 耗 流速 土砂の混入による研磨作用により 劣化速度が速くなる 流速が速いほど劣化速度が速い 摩耗抵抗性 の向上 高強度コンクリートを 採用するほど影響が小さい 接水・水質 接水期間が長く、成分濃度が低 い(軟水)ほど影響が大きい 水セメント比 小さいほど緻密になり 影響が小さい セメント 高炉セメントは耐摩耗性がある 農業水利施設は、施設の機能や構造及び環境要因によって摩耗の特性や進行速度が異 なることから、次のような事柄に注意する必要がある。 ・頭首工では、転石の衝突や流水中の土砂により、摩耗の進行が促進される。 ・開水路では、転石などの影響はないが、長期供用で水に接することによる摩耗が発 生する。かんがい期の水位以下の壁面は、摩耗に曝されやすく、摩耗の進行が早い。 ・流水による摩耗はキャビテーションを誘発して更に加速すると言われていることか ら、水路の急流工などは、摩耗の進行が早い。 ・水路トンネルでは、インバート中央部が集中して土砂の流下があるため、摩耗の進 行が早い。 ・壁厚やかぶりが薄い開水路では、摩耗により粗骨材の脱落や鋼材の露出などの発生 までの期間が短くなる。 コンクリート中のカルシウムイオンなどの容脱による摩耗は、試験研究機関などにお いて調査研究が行われているが、劣化メカニズムの十分な知見が得られていない状況に あり、除去が必要となるぜい弱部の推定方法が確立されていない。このため、今後とも 劣化メカニズムの解明を進めていく必要がある。

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第4章 変 状 4.1 総 論 変状とは、施設が健全な状態で本来期待されている機能や状態と比較して異なってい る状況を示す。本書では変状を、「主要な変状」と「付属的な変状」に大別している。 (解説) コンクリート構造物における変状は、一般的に複数の劣化要因と劣化メカニズムによ り生じている。コンクリート構造物を診断し長寿命化を図るためには、各種の変状に関 する個々の要因、劣化メカニズムを把握する必要がある。 本書では、変状についてわかりやすく解説するために、便宜上、ひび割れ・すり減り 欠損を「主要な変状」、その他の変状を「付属的な変状」と区分しているが、学術上こ れらの区分は明確にされていない。

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4.2 主要な変状 主要な変状の主たるものは、中性化、塩害、アルカリ骨材反応及び凍害により発生 するひび割れと、摩耗により発生するすり減り・欠損が挙げられる。化学的腐食は、 発生要因に応じてひび割れ及びすり減り・欠損の双方を引き起こす。 (解説) ひび割れは複雑で多種多様な要因により発生するが、施工不良や劣化メカニズムなど 発生要因に応じて「初期ひび割れ」、「ひび割れ先行型ひび割れ」、「鉄筋腐食先行型ひび 割れ」に大別される。 すり減り・欠損は、化学的腐食及び摩耗により発生するが、骨材露出の進行程度に応 じ2段階に区分される。 4.2.1 ひび割れ ひび割れは、「初期ひび割れ」、「ひび割れ先行型ひび割れ」、「鉄筋腐食先行型ひ び割れ」に大別される。 (解説) コンクリートは脆性1 )材料であり、現状の技術ではひび割れの発生を完全に防止する ことはできない。また、コンクリートのひび割れの全てが施設への影響が大きいという わけではない。例えば、施工直後に「初期ひび割れ」が現れることがあるが、早い時期 に適切な対策を施せば変状は進行しない。 進行性のひび割れは、劣化メカニズムにより生じるひび割れに該当し、アルカリ骨材 反応、凍害及び化学的腐食により生じる「ひび割れ先行型ひび割れ」と、塩害や中性化 により生じる「鉄筋腐食先行型ひび割れ」に大別できる。 ひび割れが施設の耐久性に及ぼす影響を検討する上では、ひび割れの程度と原因を明 らかにすることが重要である。 1) 脆性:破断に至るまでのひずみの小さい性質。脆い性質のこと。

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表 4-1 ひび割れと状態 ひび割れ種別 定 義 発生要因 初期ひび割れ ・乾燥収縮や温度ひび割れなど施工中や施工直後 に現れるひび割れで、初期の段階で適切な対策を 施せば、劣化が進行しない(あるいは緩慢)タイ プのひび割れ。 ・施工不良 ・不適切材料の使用 ・スパン長が長すぎる こと ・目地間中央や部材拘束部、部材開放部に鉛直に 生じる。 ひび割れ先行型 ひび割れ ・部材表面から劣化が進行するもので、先にひび 割れ症状が現れ、鉄筋腐食はひび割れがある程度 進行してから起こるタイプのひび割れ。 ・アルカリ骨材反応 ・凍害 ・化学的腐食 ・格子状や亀甲状の不規則なひび割れが生じる。 ・開水路の天端及び側壁上部に発生することが比 較的多く見られる。 鉄筋腐食先行型 ひび割れ ・鉄筋腐食が先行し、ひび割れなどの表面劣化が その後に現れるタイプのひび割れ。 ・塩害 ・中性化 ・かぶりの薄い場所から鉄筋に沿った形状で発生 する。 4.2.2 すり減り・欠損 すり減り・欠損は、化学的腐食及び摩耗により生じ、「骨材露出」の進行程度に応 じ2段階に区分できる。 (解説) すり減り・欠損の進行は、細骨材・粗骨材の露出状況と耐久性・耐荷性への影響に 応じて2段階で表すことができる。すり減り・欠損の進行速度は、コンクリートの配 合や強度、使用される骨材の種類、水の流速や衝撃の有無などにより決まる。 ①レベル1 コンクリート表面のセメントペーストがはがれて細骨材が露出している状態で、構 造的な問題は少ない。 ②レベル2 モルタルがはがれて粗骨材が露出した段階で、耐荷力は保持しているが、粗度係数 の増大や断面欠損に伴う漏水など使用性に問題を生じる可能性がある。

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4.3 付属的な変状 1) 付属的な変状の主たるものは、変色、析出物(エフロレッセンス など)、漏水、錆汁 、剥離・剥落、鉄筋露出、骨材の脱落が挙げられる。 (解説) ひび割れに起因する付属的な変状の主たるものは、変色、析出物の流出(エフロレッ センスなど)、漏水、錆汁、剥離・剥落、鉄筋露出がある。 また、すり減り・欠損に起因する付属的な変状の主たるものは、粗骨材の脱落、鉄筋 露出が挙げられる。 表 4-2 付属的な変状 主要な変状 付属的な変状 進行レベル 変色 析出物 小 (エフロレッセンスなど) 漏水 ひび割れ 大 錆汁 コンクリートの剥離・剥落 鉄筋露出 粗骨材の脱落 すり減り・欠損 鉄筋露出 4.3.1 ひび割れに起因する付属的な変状 ひび割れに起因する付属的な変状の主たるものは、「変色」、「析出物」、「漏水」、 「錆汁」、「剥離・剥落」及び「鉄筋露出」がある。 (解説) 「変色」、「析出物」、「漏水」、「錆汁」、「剥離・剥落」及び「鉄筋露出」は、ひび割れ に起因し経年的に発生する。 1) エフロレッセンス:コンクリート中などの可溶成分が水分の移動によりコンクリート表面に移動し、 表面での水分の蒸散や空気中の炭酸ガスなどの吸収によって、溶解していた成分が析出すること。

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表 4-3 ひび割れに起因する付属的な変状の種類と要因 付属的な変 定 義 発生要因 状 変色 ・塩害、中性化、凍害などの劣化因子の作用で変色 を起こすこと、また火災、セメントの水和物の変質 により変色を起こすこと。 ・セメントの水和物の 変色 ・コンクリートの変質 作用による変色 析 出 物 ( エ フ ロ レ ッ セ ンス) ・コンクリート中の可溶成分が水分の移動によりコ ンクリート表面に移動し、表面での水分の蒸散や空 気中の炭酸ガスなどの吸収によって、溶解していた 成分が析出すること、及びその析出物。 ・コンクリート中の水 分または、外部からの 浸入水の蒸発 ・コンクリート表面で塊状に固化しているが、繊維 状の結晶が成長し、綿のように見えたり、つららの ような形状を示すものもある。 漏水 ・部材を貫通するひび割れからの漏水。 ・貫通ひび割れによる 錆汁 ・コンクリート近傍の鋼材または、骨材として使用 される鉄鉱石などが腐食し、その腐食生成物が雨水 などと共にコンクリート表面を流れること。 ・鉄筋及び骨材中の鉄 鉱石の腐食 ・鉄筋の腐食要因に応じて色が異なる。 (中性化:黒 塩害:黒、赤褐色、黄色) 剥離・剥落 ・中性化、塩害、凍害などを原因としてコンクリー ト表面の付着力が低下し、表面から次第にコンクリ ートが剥げ落ちていくこと。 ・鉄筋の腐食 ・かぶり厚 ・剥離は、かぶり厚が比較的少ない場合に、鉄筋腐 食によってコンクリート片が押し出されること。 ・剥落は、押し出されたコンクリート片が落ちた後 の状態のこと。 鉄筋露出 ・鉄筋腐食によってコンクリート片が剥離・剥落し、 鉄筋が露出すること。 ・鉄筋の腐食 ・かぶり厚

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4.3.2 すり減り・欠損に起因する付属的な変状 すり減り・欠損に起因する付属的な変状の主たるものは、「粗骨材の脱落」、「鉄筋 露出」がある。 (解説) 「粗骨材の脱落」、「鉄筋露出」はすり減り・欠損に起因し経年的に発生する。この変 状が開水路などの全面に展開した場合、耐荷力の低下をもたらすおそれがある。 表 4-4 すり減り・欠損に起因する付属的な変状の種類と要因 付属的な変状 定 義 発生要因 粗骨材の脱落 ・摩耗によりコンクリート表面の擦り減りが 進行し、露出した粗骨材が脱落すること。 ・流速 ・流水中の土砂成分 鉄筋露出 ・摩耗による粗骨材の脱落が進行し、鉄筋が 露出すること。 ・流速 ・流水中の土砂成分

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4.3.3 中性化に起因する劣化進行過程 中性化による劣化は、加速期以降にひび割れとともに、錆汁が生じることにより顕著 化する。劣化が進展するにつれ、剥離・剥落が生じる。 (解説) 中性化による劣化は、加速期以降にひび割れとともに、錆汁が生じることにより顕著 化する。劣化が進展するにつれ、剥離・剥落が生じる。 ①潜伏期 中性化深さが腐食発生限界に到達するまでの期間。外観上の変状は見られない。かぶ りと中性化深さの差(中性化残り)が発錆限界(10mm)以上。 ②進展期 鋼材の腐食開始から腐食ひび割れ発生までの期間。外観上の変状は見られない。中性 化残りが発錆限界未満。鉄筋の腐食が開始。 ③加速期 腐食ひび割れ発生により鋼材の腐食速度が増大する期間。前期ではひび割れが発生す る。後期ではひび割れが多数発生し錆汁が見られる。部分的な剥離・剥落が見られる。 ④劣化期 鋼材の腐食量増加により耐荷力の低下が顕著な時期。腐食ひび割れが多数発生し、ひ び割れ幅が大きい。錆汁が見られ、剥離・剥落が生じる。 図 4-1 中性化劣化進行過程の特徴 出典「農業水利施設の機能保全の手引き」平成19年(社)農業土木事業協会P.参-28

図 3-17 海砂の地方別採取量の推移(単位は 106m3、1969~1977 年度調査)
図 3-24 凍害とASRの複合劣化の可能性のある地域  「複合劣化コンクリート構造物の評価と維持管理計画研究委員会 報告書」2001年  (社)日本コンクリート工学協会 P.64    アルカリシルカ反応性骨材は、全国的に分布しており、凍害を受けるおそれが多い地域 では、凍害とアルカリ骨材反応との複合劣化の可能性が高い。このため、農業水利施設で も凍害危険度が1以上の地域では複合劣化に注意する必要がある。また、このような地域 に位置する農業水利施設では、凍害の発生に伴いアルカリ骨材反応が促進される可能性が
表 4-1 ひび割れと状態  ひび割れ種別  定    義  発生要因  初期ひび割れ  ・乾燥収縮や温度ひび割れなど施工中や施工直後 に現れるひび割れで、初期の段階で適切な対策を 施せば、劣化が進行しない(あるいは緩慢)タイ プのひび割れ。  ・施工不良  ・不適切材料の使用  ・スパン長が長すぎること  ・目地間中央や部材拘束部、部材開放部に鉛直に 生じる。  ひび割れ先行型 ひび割れ  ・部材表面から劣化が進行するもので、先にひび割れ症状が現れ、鉄筋腐食はひび割れがある程度 進行してから起こるタイプの
表 4-3 ひび割れに起因する付属的な変状の種類と要因  付属的な変 定    義  発生要因  状  変色  ・塩害、中性化、凍害などの劣化因子の作用で変色 を起こすこと、また火災、セメントの水和物の変質 により変色を起こすこと。  ・セメントの水和物の変色 ・コンクリートの変質 作用による変色  析 出 物 ( エ フ ロ レ ッ セ ンス)  ・コンクリート中の可溶成分が水分の移動によりコ ンクリート表面に移動し、表面での水分の蒸散や空気中の炭酸ガスなどの吸収によって、溶解していた 成分が析出すること
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