腐食センターニュース No. 055 2010 年 11 月 14
大気・室内環境での腐食測定に用いるACM型センサ
辻川 茂男
1. 大気腐食モニタ(ACM) 金属の腐食は電解質溶液と酸化剤との存在下に起こる。通常の 場合前者は水、後者は(空気中酸素が水中に溶け込んだ)溶存酸 素または水中水素イオンである。二つの異種金属を互いに絶縁し た状態で樹脂中に埋め込み、両者の端部を環境へ露出する。水溶 液中ではもちろん、大気または室内環境でも比較的高い湿度条件 ができると、両金属間を水膜が連結するので腐食電流が流れる。 この電流は卑な金属の腐食速度に対応するので、そのセンサとし て 使 え る 。 こ の セ ン サ は 、 大 気 腐 食 モ ニ タ ( Atmospheric Corrosion Monitor)とよばれてきたので、本稿でも ACM 型腐食 セ ン サと よぶ こ とに する 。 この セン サ を最 初に 使 った のは Sereda1)で、図 1 に示す構成のデバイスを製作し、自ら Dew Detector とよんだ。腐食状況を知りたい金属(鋼または亜鉛) 板状に絶縁テープをはさんで白金箔をおけば、ここから腐食情報 を電流の形でとりだせるというわけである。Vernon2)の第二臨界 湿度(相対湿度 86%)をこえる期間をぬれ時間(Time of Wetness) とし、年間平均はカナダ国内で 30~40%であることを測定した。 Tomashov3)が考案した ACM 型センサの構成を図 2 に示す。0.1mm 厚の鋼/10~15μm 厚の雲母またはラッカーの絶縁層/0.1mm 厚の 銅を 1 単位とし、15~20 単位を重ね、それぞれの金属から並列 に端子をとり出すことで電流出力の増大をねらっている。これま でに報告されている主な ACM 型センサの構成を表 1 にまとめた。腐食センターニュース No. 055 2010 年 11 月 15 アノード金属(卑なほうの金属)には鋼(Fe)または亜鉛(Zn)、カソード金属(貴なほうの金属) には銅(Cu)または白金(Pt)が多い。同種金属を組み合わせたものでも、両者間に電圧を印加してお けば同様に電流信号をとり出せる。この印加電圧は表 1 ではみな 100mV である。これらは我が国でも紹 介されている。6)これらのセンサを用いて、出力と相対湿度との関係、この関係に及ぼす金属表面状態、 海塩粒子、亜硫酸ガスの影響が調査された。3)7)8) 2. 従来型センサでの高出力化の検討9) 使用したセンサの構成を図 3 に示す。アノード金属 MA として 99.7%Fe のめっき原板、カソード金属 Mc として 99.99%Cu を用い た。MAの露出面は 20(=1)×0.8mm2、Mc のそれは 20(=1)×2 mm2で ある。これらの電極側面を SiC 紙♯800 まで研磨しエポキシ系塗料 でシールした後、両者間にポリエステルフィルム(デュポン社“マ イラー”)をはさみ、ボルト・ナットで締め付けたままエポキシ樹脂 中に埋め込んだ。マイラーの厚さを変えることにより電極間距離(d) を 31~2000μm と変えた。露出面を SiC 紙♯400 まで研磨した後、 エタノール置換して乾燥しデシケーター中に保存した。 露出面に NaCl 塩を予め付着させる場合には、各種濃度の NaCl 水 溶液をクロマトグラフィー用スプレーを用いて一定圧力で 10sec 間 噴霧後乾燥した。この際の NaCl 付着量は、1000sec 噴霧した場合 の付着量の秤量値の 10/1000 として算出した。相対湿度(R.H.)と 温度とは湿度計(ACE 社、AD-2)により測定した。電極間を流れる センサ出力電流の測定には無抵抗電流計(東方技研社、ポテンシオ/ ガルバノスタット 2090)を用いた。 2a)無塗装センサの挙動 図 3 のセンサの露出面に NaCl 塩を付着させ塗装は施さない試片を 25℃の恒温槽内においた。設定湿
腐食センターニュース No. 055 2010 年 11 月 16 度条件毎に出力電流が定常になったとみなせる 30 分後の値を低湿度側から測定していった。電極間距 離d=31μm、各 NaCl 塩付着量における出力電流と相対湿度 RH との関係を図 4 に示す。0.1nA をしきい 値としたときの臨界湿度は、付着 NaCl なしのとき約 75%であるが、同 0.15mg/cm2のとき約 45%と大き く低下する。出力電流に及ぼす電極間距離 d の影響を図 5 に示した。相対湿度が 65、56%と低下してく ると出力電流の d 依存性が現れるようになり、d が小さいほど大きい出力が得られる。 2b)被膜下に埋め込んだセンサの挙動 Fe/Cu 異種金属対露出面に、直ちに腐食を開始しうるた めの条件として 0.15 mg/cm2の NaCl 塩を付着させたのち、 25℃の恒温恒湿槽内に入れ相対湿度 70%の環境中で、比 較的耐水性に劣るアクリル系クリヤー塗料(大日本塗料 社、“オートアクローゼスーパー”)をアプリケータを用 いてδ=21μm の厚さ塗布し、そのまま乾燥させた。 このようなセンサを 1mol/l NaCl 水溶液中に浸漬し、 10h 後の出力電流を電極間距離(d)に対して整理した結 果を図 6 に示す。測定値は非常にばらつくが、d が小さい ほどばらつきは小さく、かつ下限値は大きいことがわか る。この下限値について、浸漬時間 2 および 5h 後のデー タを併せて、電極間距離(d)毎に出力電流の経時変化を 整理して図 7 に示した。電流は浸漬時間 5h でほぼ定常値 に達しており、その値は d が小さいものほど大きい。d を 200μm から 40μm にすることにより電流出力を約 2 桁 大きくできている。塗膜が健全な場合の下地での腐食機 構10)は図 8 の(a)、(b)の二つに大別できる。腐食電流
腐食センターニュース No. 055 2010 年 11 月 17 は、(a)では 2 度塗膜を貫通するが、(b)では塗膜/下地界面を通り塗膜貫通はしない。出力電流のう ち電極間距離に依存する成分は(b)に示す機構によるものと思われる。 3. 高出力化センサの試み 従来型サイズのセンサでの検討において、電極間距離(d)を短縮してゆくことがセンサの出力を上 げる効果をもつことがわかった。2 の方式では 31μm までが限度であったので、これ以上の短縮は別の 方法によらねばならない。図 9 に示す、2 つの方法を考えた。 図 9(a)は MA、Mc 金属を平面的にくし ・ ・ 形に配置するもので、対抗距離(d)をμm オーダまで短縮す る。制作した Al/Al-同種金属対を図 10 に示す。 100μm 厚の Si 基板上に 0.5μm 厚の SiO2層を介し、 5μm 幅、1μm 厚の Al を図 9(a)のようにくし・ ・形 に配置する。一枚の基板上に約 3 ㎜×3 ㎜の 4 つ のセンサ SP 1,3,10 及び 30 を配置した。10 (c)の付表に示すように、それぞれの対向距離(d) は 1,3,10 及び 30μm である。このセンサの両 極間に 400mV を印加して出力を測定する。無塗装 のまま、室温の 3%NaCl 水溶液中に浸漬して出力 を 90 分間測定した。図 11 に示すように、時間τi の後電流が観察され、以降変化の激しい挙動を示 した。結果は、総電気量(Q)を求め、これを時間 ⊿t(=90-τi)とみかけのセンサ面積 S(=3×3 ㎜2)とで除した平均電流密度(i)で評価すること にした。各濃度の NaCl 水溶液で測定した電極間距
腐食センターニュース No. 055 2010 年 11 月 18 離(d)と、腐食開始時間(τi)との関係を図 12 に、 平均電流密度(i)との関係を図 13 に示す。電極間 距離(d)が小さいほど腐食開始時間(τi)は短く、 平均電流密度(i)は大きい。このことは、d を小さ くするほど腐食を早期に検知し、かつ大きい出力を 得ることを示唆する。電極間距離 10μm の SP10 セ ンサにおける腐食状況を図 14 に示した。5μm 幅の Al アノードが欠落している個所が溶解部分である。 図 9(b)に示したセンサは Sereda のものに類似 で、図 15 に示すように、与えられたアノード金属 MA(図では Fe)の上に絶縁層を介してカソード金 属 Mc(図では Cu)を付与することで構成する。MA として任意のものを選ぶことができるのが第一の 長所である。 また、絶縁層厚さ(d)―平面的配置型センサの対 向距離に相当する―を数μm と薄く塗装しさえす れば d の短縮がはかれ、その他の寸法は 100μm オ ーダーと比較的大きくとることができる。ただし、 これを塗膜(厚さδ)下に埋め込む場合には、絶 縁層厚さ(d)とカソード金属の厚さ(D)との合 計がδに比し十分小さいようにとるのがよいで あろう。この意味で D も d と共になるべく薄くし うるよう工夫すべきである。
腐食センターニュース No. 055 2010 年 11 月 19 水溶液中に完全に浸漬された(没水部の)金属から大気・室内環境の金属の腐食へと、対象が移ると測 定・評価の手法が途端に少なくなる。特に実時間的に腐食情報をとれる手法が少なくなる。この意味で ACM 型センサは有力である。有機・無機の薄膜によって金属材料を保護する必要は増している。外部か らでなく自らを膜下に挺身して情報を送るという健全な役割を果たせるのも、本センサの長所である。 最近にも、潤滑油、グリース等の腐食抑制能力の評価11)に応用されて、“新法”とよばれて発表されて いるのをみても、このセンサはまだ広くは知られておらず、もっと広い応用対象があるものと思われる。 ACM 型センサは、異種金属接触腐食というよく知られた腐食形態の反面であって、その力は電極サイズ を小さくしていっても衰えることのないものである。3 で述べたようなサイズのマイクロ化は高出力化 の他にも興味ある情報をもたらすかもしれない。ただし、リソグラフィー手法など最近進歩の著しいパ ターン形成技術に詳しい専門家のご教授が必要である。
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20 文献
1) P.J.Sereda:ASTM Bulletin No.228, p.53 (1958); ibid.,No.238, p.61 (1958); ibid.,No.246, p.47 (1960). 2) W.H.Vernon:J.Transactions, Faraday Society, 27, 265 (1931); Faraday Society, 31, 1668 (1935). 3) N.D.Tomashov: Theory of Corrosion and Protection of Metals, MacMillan, New York, p.367 (1966). 4) V.Kučera and E.Mattsson: Corrosion in Natural Environment, ASTM STP 558, p.239 (1974).
5) S.E.Haagenrud: Werks. u. Korros., 31, 543 (1980). 6) 鈴木一郎:防食技術, 30, 639 (1981).
7) F.Mansfeld and J.V.Kenkel: Corrosion, 33, 13 (1977). 8) F.Mansfeld: Werks. u. Korros., 30, 38 (1979).
9) 延壽寺政昭,辻川茂男:豊田研究報告,第四十報告,57 (1987). 10) 諸住高:金属表面技術,31,692 (1980).
11) P.J.Kennedy, M.S.Ruzansky and V.S.Agarwala: Corrosion ’88, Paper No.379 (1988).
本稿は、(社)日本防錆技術協会の第 8 回防錆防食技術発表大会(1988 年 7 月)講演予稿集 p.27 に記載 されているもので、同協会の神尾和男専務理事、齊藤宏事務局長のご好意により当センターニュースに 再録することができました。 センターでは ACM 型腐食センサの普及をはかるため市販されるセンサの機能検定を実施してきており、 下図にその状況を示すようにようやく広く利用されるようになってきました。遅まきながら次号からセ ンサの利用方法を中心にその紹介記事を掲載してゆきます。 0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000 16000 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 検定年度(各4月~翌年3月) 検 査 合 計( 枚) 合 格 ・ 不 合 格( 枚)