1. はじめに
国際電子通信エネルギー会議(INTELEC)は,IEEE PELS(IEEE Power Electronics Society, 米国電気電子学 会パワーエレクトロニクスソサイエティ)が運営する情 報通信エネルギー技術を専門とする国際会議で,昨年開 催されたINTELEC 2010は第32回目にあたる。本会議で は,情報通信エネルギーに関する最新の研究成果が議論 されるとともに展示会も併設され,最新の電源機器や電 源システムの展示が行われた。 本報告では,INTELEC 2010で発表された論文と展示 会の情報を通して,情報通信エネルギー技術の最新技術 動向を考察することとする。
2. INTELEC 2010の概要
INTELEC 2010は,2010年6月6日から10日までアメ リカオーランド市で開催された。今回の開催時期は通例の 秋ではなく,6月初旬に設定された。これは参加者のビジネ ススケジュールや学校の休みを考慮したということである。 本会議の参加者数を図1に示す。参加登録総数は事前 登録数で15カ国,337人であった。例年の参加者数は500 人を超えていることから,今回は参加者数からは少しさ びしい大会であった。参加者の国別の内訳は地元アメリ海外調査報告:
INTELEC 2010に見る
情報通信エネルギー技術の動向
取締役 EHS&S 研究センター上級研究員 兼 通信エネルギー技術本部長山 下 司
EHS&S 研究センター上級研究員 兼 エネルギー技術部担当部長室 山 誠 一
カが半数を超える181人で,次いで,カナダ27人(8%), 日本23人(7%),スウェーデン16人(5%),オースト ラリア13人(4%)の順であった。この他の国では,フ ランス,オランダなどヨーロッパ諸国とアジアの中国, インドなどが比較的まとまった参加者となっている。 図2に国別の発表論文数を示す。発表論文の総数は81 件で,例年に比べかなり絞られた数になっている。事務 局によれば,発表セッションの並列数を絞り,聞きたい 講演のセッションに参加しやすくした,とのことである が,これも参加者数の点からはマイナスの効果になって いるように感じられる。国別の発表数では,多い順にア メリカ26件(32%),カナダ14件(17%),次いで日本が 12件(15%)であった。 図3に技術分野別の発表論文数を示す。コンバータ, インバータ,UPS 等の電力変換装置・回路が例年通り 最も多く26件(32%)であった。次いで,再生可能エネ ルギー・スマートグリッド12件(15%),電池10件(12%), アメリカ カナダ 日本 スウェーデン オーストラリア 中国 フランス トリニダード・トバコ インド オランダ ドイツ イタリア サウジアラビア ブルガリア スペイン ブラジル フィンランド 韓国 デンマーク エジプト イギリス 0 50 100 参加人数(人) 150 181 27 23 16 13 9 6 6 6 6 5 5 3 3 3 2 2 2 2 2 2 200 1人:ヨルダン,スイス,ガンビア,台湾 , 南アフリカ,ガーナ, アラブ首長国連邦 ,ノルウェイ,ジャマイカ,メキシコ, オマーン,ヴェネズエラ,アルゼンチン 参加者合計:15カ国 , 337人 アメリカ カナダ 日本 中国 イタリア インド フランス ブラジル エジプト ドイツ その他 国別発表数 (合計 81件) ※筆頭執筆者の 国名による 26 14 12 6 6 4 22 2 2 5 図1 INTELEC 2010の国別参加者数 図2 INTELEC 2010における国別発表論文数 電力変換装置・回路 再生可能エネルギー・ スマートグリッド 電池 高電圧直流給電(HVDC) 給電システム 空調技術 燃料電池 災害・安全 規格・標準化 その他 分野別発表数 (合計 81件) 26 12 10 7 7 6 4 3 3 3 図3 INTELEC 2010における分野別発表論文数図5 高電圧直流給電(HVDC)システム用電源ラック2次試作器の外観1) (a)タイプA (b)タイプB し,無停電でICT 機器に給電する。一方,図4(b)は 蓄電池とICT 機器の距離が離れた場所に設置されるな ど比較的大規模ビルに適用される方式で,蓄電池は専用 の充電器により充電され,蓄電池放電時には電圧補償器 (VC: Voltage Compensator)で蓄電池電圧の低下を電 圧補償(昇圧)しながら給電する。 このHVDC システムに適用される整流器,電圧補償 器の試作結果が報告されている1) 。今回報告されたのは 2次試作器で,1次試作よりも一層の小型化,安全性の 確保,整流器ユニットの軽量化が図られている。試作さ れた電源ラックの写真を図5に,主な仕様を表1に示す。 19インチラックに整流器,電圧補償器を搭載し,出力容 量は100kW である。1次試作器に比較し,最大で1/3の 小型化を達成している。また,導電部の露出をなくすた めに大電流用のコネクタを開発し,採用している。さら 高電圧直流給電(HVDC)7件(9%)などである。今 回の特徴として,高電圧直流給電(HVDC)についてま とまった件数の発表があり,情報通信用電源システムと してますます重要な位置を国際学会でも確立してきたと いうことが実感された。
3. 情報通信エネルギー技術の動向
主要技術テーマごとに発表論文と展示から技術動向を 考察する。 3.1 高電圧直流給電(HVDC) 今回のINTELEC 2010の最大のハイライトは,情報 通信ビルやデータセンターにおける高信頼で高効率な給 電システムとして,NTT グループが先導的に開発を進 めている高電圧直流給電(HVDC)である。本技術につ いては,昨年のINTELEC 2009でも大きな注目を集め ていたが,今回も発表セッションは非常に盛況であった。 NTT および NTT ファシリティーズから試作装置の特性 や実証試験についての報告が3件,外部からはICT 機 器メーカからの給電電圧提案や普及に向けた課題紹介な ど4件の論文が発表された。実装置の開発や実験検証結 果の報告はNTT および NTT ファシリティーズのみで あり,システム開発についてはかなり先行していると思 われる。 HVDC システムの基本構成を図4(a), (b)に示す1) 。 図4(a)は,比較的小規模のビルに適用される浮動充 電方式の構成である。蓄電池は整流器により浮動充電 され,交流入力が停電した場合などには蓄電池が放電 200 V AC 3-phase Rectifier PDU ICT Equipment Utility Grid Transformer Power Unit PFC PSU 48 V DC 12 V DC etc. 400 V DC Supply Charge DC/DC Converter VRLA Battery : 400 V DC Line Rectifier PDU ICT Equipment (narrow range) (a)浮動充電方式によるHVDCシステムの基本構成 (b)電圧補償器を使用した HVDCシステムの基本構成 UtilityGrid Transformer Battery Charger Charger Unit Rectifier Unit PFC PSU 48 V DC 12 V DC etc. 400 V DC DC/DC Converter VRLA Battery : 400 V DC Line Voltage Compensator Unit (VC Unit) Supply Charge 200 V AC 3-phase 図4 高電圧直流給電(HVDC)システムの基本構成1) 表1 高電圧直流給電(HVDC)システムの主な仕様1) Item Value Rectifier Rated power 100kW Size(Width, Depth, Height) 600,800,2,000mm Number of Power Unit(N+1)
(Included Charge Unit) 8 Number of VC Unit(N+1) 6
AC input voltage 210V ±30V Regulation of output voltage 383V ±1%
Power Unit
Rated power 15kW Size
(Width, Depth, Height)
Type-A 480,586,130mm Type-B 480,542,130mm Weight 20kg E ffic ie nc y( % ) O ut pu t V ol ta ge D C( V ) 100 Load Power(kW) 0 20 40 60 80 100 390 96 388 92 386 88 384 84 382 80 380 More than 90% 95.1% at 63kW 4.3V :Efficiency :Output Voltage 図6 高電圧直流給電(HVDC)システムの特性1)
図10 太陽光発電用 DC-DC コンバータを搭載 したキャビネット(Eltek Valere 社) に整流器ユニットの重量は20kg 以下に抑え,ラックへ の搭載や撤去の作業性を向上させている。効率特性は図 6に示すように最大で95%を超え,負荷率が10%でも90 %以上の高効率を確保している。 HVDC システムについては装置開発と並行して実証 試験が行われており,その結果が報告されている2) 。ま ず,HVDC システムの直流給電電圧として電圧階級区分, 蓄電池個数,使用部品の電圧定格などから380V を推奨 することを述べている。この電圧で内外のICT 機器に 対して給電実験を行い,交流200V給電の場合と消費電 力を比較した結果,直流380V 給電の方が17%の消費電 力低減が図られたとしている。 さらにNTT 研究所からは HVDC 用の分電盤について の報告があり3) ,接地方式として両端高抵抗接地の採用, 限流ヒューズによる短絡事故波及の防止などが実験デー タとともに説明された。 これらの発表からHVDC システムの特長が明確にな るとともに,システムの実用化に向け,開発が順調に進 んでいることがわかる。 HVDC システムについては,NTT および NTT ファシ リティーズによる展示が行われ,大きな関心を集めてい た。NTT と NTT ファシリティーズによる共同展示ブー スの写真を図7に示す。電源ラック(タイプA および タイプB),分電盤キャビネットおよび負荷装置を模擬 した19インチラックが展示され,電源装置から負荷装置 までのHVDC システム全体が理解できるように工夫さ れていた。また,HVDC のシステム構成に関するプレ ゼンテーションが常時流され,多くの来訪者でにぎわっ ていた。このシステムはICT 用給電システムとして高 信頼,省エネルギー,小形化などの点で優れ,今後の主 流技術として早期の事業導入が期待される。 ていた。メガソーラーの実証試験では複数種類のPV モ ジュールの出力電力量や性能指数としてCapacity Factor, Performance Ratio の実測値が報告されていた(図8)4) 。 また,追尾型の特性も報告され,追尾システムの効果, コストなどについての議論が行われた。さらに,各種モ ジュールの製造にかかるエネルギーとエネルギーペイ バックタイム(EPT)の算出結果が報告されている(図 9)5) 。比較したモジュールの中では,化合物系太陽電 池が最も環境負荷をかけないという結果になっている。 これらのデータは実測結果に基づいた評価結果であり, 非常に説得力を持っている。今後,長期データに基づく より詳細な評価が期待される。 太陽電池の利用例として,太陽電池入力のDC-DC コ ンバータがエルテック・ヴァレア(Eltek Valere)社か 図7 NTTとNTTファシリティーズによる共同展示ブース (a)全景 (b)来訪者でにぎわうブース EPT 3.6 2.8 2.6 3.0 2.3 2.1 80 E ne rg y in pu t( GJ /k W ) E P T( ye ar )
Single-crystalline HIT crystallineMulti- AmorphousAmorphous/microcrystalCIS 4 60 3 20 40 2 1 0 0 38.1 30.4 27.5 32.4 24.5 22.8 Others Cable,plumbing Support structure PV module C I( G )S a-S i sc-Si pc-Si ta nd em P R( − ) 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 Influence of shadow 図9 北杜メガソーラープロジェクトにおける PV システム評価結果5) (システムごとのエネルギーペイバックタイム:EPT) 図8 北杜メガソーラープロジェクトにおける PV システム評価 結果4) (システムごとの年間平均パフォーマンスレシオ) 3.2 再生可能エネルギー,スマートグリッド 太陽光発電システムなどの再生可能エネルギーを情 報通信用電源として適用する技術の研究は従来から行 われてきているが,特に近年,地球温暖化対策の一つ として重要性が増している。今回の会議ではNTT ファ シリティーズからメガソーラーにおけるPV モジュール やパワーコンディショナの性能に関する実証試験結果が 報告され,実環境における性能評価として注目を集め
図13 整流装置の展示(Dongah Elecomm 社) (a) DC 54 V, 20 kW 出力整流 装置(−54V, 37A 出力ユ ニットが11台搭載) (b)DC 300V, 60 kW 出力整流装置 (300V, 33Aユニットが7台搭載) ら展示されており,注目された。展示されていたシステ ムを図10に示す。DC-DC コンバータモジュールの出力 はDC48V,30A(1,500W)であり,無線基地局やアク セスノード用電源としての適用を想定している。同社は 整流器の小形化,高効率化技術で定評があるが,本製品 により製品の幅の広さをアピールしていた。同社の電源 は世界でもトップクラスのサイズと効率を有しており, 今後とも継続的な情報収集が必要である。 また,今回初めてスマートグリッドに関するセッショ ンが設けられ,分散型電源のプラグ&プレイ機能6)に 関する発表が注目された。分散型電源を構成するインバ ータが電圧,電流,配線長などの情報をもとに自律的に 制御することで分散型電源の効率的な運用,配線ロスの 最小化などを行うことができる。分散型電源は今後一層 の導入が予想されることから,このような技術の展開に 注目しておく必要がある。 3.3 燃料電池 燃料電池はクリーンで高効率な電源として,従来 から注目され,要素技術の検討や実証実験の結果が INTELEC で も 過 去 に 多 数 発 表 さ れ て い る。 今 回 の INTELEC でも主に無線基地局用のバックアップ電源と して,フィールドテストの結果7, 8)や,水素燃料の配送 システムの検討結果9) が報告されている。これと並行 して展示会でも,アイダテック(IdaTech)社がメタノ ール燃料による5kW の燃料電池,レライオン(ReliOn) 社が水素燃料の最大2kW のモジュール型の燃料電池を 発表し,注目された。図11に展示されていた燃料電池を 示す。これらの燃料電池はいずれも固体高分子型で,従 来に比較しシステムの長寿命化が図られているという。 燃料電池は従来から長期にわたり開発が行われてきてい るが本格的な実用化には至っていない。ここにきて多数 のフィールドテストが行われている状況であることから, その結果について注目しておく必要がある。 いる。本会議ではリチウムイオン電池の利用技術に関す る論文が2件発表された 10, 11)。リチウムイオン電池を情 報通信用電源に適用するには,電池の過充電,過放電を 防止するなどの電池管理が重要になる。2件の発表論文 もこのテーマに関するものであった。 また,展示会では48V, 180Ah のリチウムイオン電池 がエナーシス(EnerSys)社から展示されていた(図 12)。この製品は複数の3Ah のセルを直並列に接続して 構成されている。スペースや重量の制約が多い通信用, UPS 用などへの展開を進めようとしているようである。 今後,より大容量のリチウム電池およびその管理技術の 開発が進み,同時に低価格化が図られることにより情報 通信用電源への適用が進んでいくと考えられる。 図11 展示されていた燃料電池 図12 展示されていたリチウムイオン電池 (写真のラック上およびラック最下段 に設置。48V, 180 Ah, EnerSys社) (a)メタノール改質型の燃料電池 (5 kW出力,IdaTech社) (b)水素ボンベを使ったモジュー ル型の燃料電池 (0.6~2 kW出力,ReliOn社) 3.4 高エネルギー密度電池技術 高エネルギー密度電池としてリチウムイオン電池が注 目を集めており,情報通信用電源への適用が期待されて 3.5 電力変換装置・回路 電力変換装置・回路については,本会議の主要テーマ の一つとして多くの発表が継続的に行われている。本会 議でも計26件の発表があり,研究開発は依然として活発 である。コンバータのデジタル制御,ソフトスイッチン グ,高効率化などが主要テーマであった。 展 示 会 で は, 韓 国 の ド ン ガ エ レ コ ム(Dongah Elecomm)社から小形の整流器ユニットが展示され注 目された。整流器ユニットと蓄電池をラックに搭載し た20kW 電源システム(図13(a))は,無線基地局など
さまざまなアプリケーションを想定している。この電源 システムに適用されている整流器ユニットは,入力単相 220V,出力 DC54V, 37A で効率は94%である。また,韓 国のグリーンIT プロジェクト用の DC300V 出力の整 流器(図13(b))が展示されていた。ユニット出力は 10kW で7(6+ 1)ユニット構成により60kW の出力 容量を持つ。同社は電源監視システムやオンボード電源 などの展示も行い,高い技術力をアピールしていた。今 後の製品動向に注目する価値がある。
4. おわりに
INTELEC 2010の論文発表,展示から情報通信エネル ギー技術の動向を考察した。主な結果をまとめると次の とおりである。 ・高電圧直流給電(HVDC)システムは NTT および NTT ファシリティーズから装置開発,実証試験結果 が報告され注目を集めていた。ICT 用給電システムと して高信頼,省エネルギー,小形化などの点で優れて いることが実証され,今後の主流技術になると考えら れる。 ・再生可能エネルギー分野ではメガソーラーの実証試験 報告が注目された。今後,実証試験によるデータを積 み重ね,より経済的なシステム構築技術の確立が期待 される。 ・スマートグリッド関連技術は今回初のセッションが持 たれた。分散型電源を活用する技術として注視してい く必要がある。 ・燃料電池は高信頼化が図られ,無線基地局などのバッ クアップ電源として複数のフィールド試験が行われて いる。長時間のバックアップ電源として適用領域は存 在すると考えられることから,フィールド試験の結果 については引き続き注視しておく必要がある。 ・高エネルギー密度蓄電池としてリチウムイオン電池の 管理技術の発表が行われた。今後,一層の大容量化や 低価格化により,適用範囲拡大が期待される。 ・電力変換技術では,海外の有力メーカや大学による整 流装置やDC-DC コンバータの高効率,高エネルギー 密度化の研究開発が活発である。 INTELEC は,情報通信エネルギー技術について毎回 広範な立場で活発な議論が行われており,継続的な情報 発信,情報収集の場として有効である。 〔参考文献〕1) Akira Matsumoto, Akiyoshi Fukui, Takashi Takeda, and Mikio Yamasaki, “Development of 400 Vdc output rectifier for 400-Vdc power distribution system in telecom sites and data centers”, 4.3, Proceedings of INTELEC 2010, 2010. 6
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