教育として学生に現象をより身近に感じてもらうためには 現実的な範囲内に近いことが望ましい.そこで,CO2濃度 は2000 ppm 以下とし,かつ供給後 30 分間で CO2濃度も定 常状態に到達させることを目標に装置の改良に取り組む. 具体的には,濃度および圧力を調整したN2-CO2混合気で 置換するためのガス調整部を装置外部に設ける.ガス調整 部は,供給後における装置内の気体の状態を予め調査して 設定された条件の数だけ設置されたガス容器群によって構 成される.同じ濃度で圧力を変えた条件を用意することで, 圧力効果の検証が可能となる.このガス容器群から条件を 選択し,短時間での置換を可能にするため複数箇所から実 験装置に供給する.これらの改善を行っても2000 ppm 以 下の範囲で温室効果の違いが明確に見られない場合は,光 源装置をより出力の高いものに変更し,光量を増やすこと を検討する.また,より実際の現象を精確に模擬し,温室 効果を模擬地球全体としての温度で評価するために,模擬 地球を支える軸を回転させることで地球の自転を再現する ことが必要である. 地球温暖化を模擬するためには,今回注目したように光 源,大気層,模擬地球における放射/吸収スペクトルを再現 することが必要である.さらに,鉛直方向の大気の温度分 布が相似則の候補となる.具体的には,対流圏における気 温減率 =-dT / dz(z は高度)に対応する値が,実際の値 (約6.5 K/km)と一致すれば現象の前提が同等であるとみ なせる9).したがって,本模擬実験においても,模擬大気 層の鉛直方向の温度分布を測定し, を再現することが求 められる.しかし,大気層の厚みは模擬地球の直径に対し て極めて小さいことから,通常の実験系ではこの相似則を 成立させかつ太陽‐地球‐宇宙間のマクロなふく射輸送を 模擬することは困難である.一方,本実験系では,ガス層 の最大厚みである模擬地球表面からサファイアレンズ部ま での距離を対流圏と見立てることで部分的ではあるものの を再現できる可能性があり,それらを両立できるポテン シャルを有する.このように,圧力効果を含む大気層のス ペクトル特性ならびに鉛直方向温度分布の再現が相似則の 観点から重要であるため,大気層はCO2ガスを用いて模擬 し,CO2濃度についても現実的な範囲内に収める必要があ る.さらに,本模擬実験装置では,散乱性微粒子を浮遊さ せることでH2O を用いずに雲の影響を模擬する(散乱アル ベドを制御する)ことや,CO2が大気の主成分である金星 や火星と地球との違いを示すことも可能である.よって, 装置の改良を進めることで,模擬実験としての精度を高め つつ,ふく射伝熱における多角的な学習教材としての利用 が期待できる. 5.結 論 地球温暖化のメカニズムについての理解不足を補うた めの教材として,ふく射に関するエネルギー収支の再現に 主眼を置いた室内型模擬実験装置を開発した.模擬実験手 法としては,温室効果ガス層としてプラスチック板を用い るのではなく,直接CO2ガスを用いる方が有効であること が示された.後者の実験では,CO2濃度が非現実的に高く かつ違いも大きい条件での比較であったものの,CO2濃度 によって温室効果に差が現れることが確認できた.今後, 冷却をより低温で行うことやガス調整部を設けるなど装置 の改良を行うことで,質の高いデモンストレーションと将 来予測に繋がる実験が実現できる見込みが示された. 謝 辞 本研究は,JSPS 科研費 JP17K01059 の助成を受けたもの です. 参 考 文 献
1) The Intergovernmental Panel on Climate Change (IPCC), Fifth assessment report: https://www.ipcc.ch/assessment-report/ar5/ 2) Ministry of the Environment Government of Japan, Summary of
IPCC AR5 (in Japanese): http://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/ 3) Ito, T.: Global warming skepticism and environmental information
(in Japanese), Departmental Bulletin Paper, School of Social
Information Studies, Otsuma Women’s University, 16 (2007).
149-159.
4) Maruyama, S., Global warming problem and prediction of climate change in 21st century, Japanese Society of Radiation Safety Management, 8-2 (2009), 113-114(in Japanese).
5) Nakayama, S., Murakami, R. and Shigematsu, H.: Example of practicing science study program with global warming experiment device (in Japanese), Memoirs of the Faculty of Education
(Educational science), Shimane University, 42 (2008), 7-11.
6) National University, College of technology: Syllabus 2017 (in Japanese), for example, https://www.kobe-u.ac.jp/campuslife/edu/ syllabus/index.html, https://www.akashi.ac.jp/life/syllabus 7) Nagai, N.: Lecture “mechanism and measure of global warming” in
education on regional nature and envirionment (in Japanese),
Mechanical Engineering Congress 2018 Japan, 18-1(2018),
S2020002.
8) Besson U., Ambrosis A. D. and Mascheretti P.: Studying the physical basis of global warming: thermal effects of the interaction between radiation and matter and greenhouse effect, European
Journal of Physics, 31 (2010), 375–388.
9) Hokkaido Universtity Graduate School of Environmental Science,
Science of Global Warming (in Japanese), Hokkaido University
Press (2007), 11.
円柱表面速度境界層計測に特化した熱線流速計プローブの開発
剱 地 利 昭
*,本 村 真 治
**,山 田 誠
**,川 合 政 人
**Development of a Hot-Wire Anemometer Probe
Specializing in Measuring the Boundary Layer of a Circular Cylinder
Toshiaki KENCHI, Shinji HONMURA, Makoto YAMADA and Masahito KAWAI
The boundary layer and velocity shear layer that develop around a circular cylinder placed in a flow have a significant effect on lift and drag depending on whether it is laminar or turbulent. These shear layers are so thin that special measures are required for the experiment. In this study, a specially shaped probe was developed to measure the boundary layer using a hot-wire anemometer. An experiment was performed using with that probe at Re = 1.6×104. As a result, the velocity distribution and the velocity fluctuation distribution of the extremely thin boundary layer of 0.5 mm were measured. The frequency analysis showed that the separated laminar shear layer transitioned to turbulent flow near the boundary with the separated region.Keywords: Circular cylinder, Hot wire anemometer, Boundary layer, Laminar-turbulent transition, Flow separation
1.緒 言 円柱まわりの流れに関する研究は古くから数多く行われ ている1),2).工学的にも流れの中に静止円柱,回転円柱や加 熱円柱などが置かれる状況は多く見られる.著者らは凹凸 を有する円柱の抗力低減と,その円柱が回転した場合の高 揚抗比を工学的に応用することを目指している.例えば, 塔や電柱など構造物の強風対策,船舶などでの回転円柱に よる操舵を想定している. ここでまずは従来の研究で明らかになっている円柱まわ りの流れについて説明する.円柱まわりの流れの様子はレ イノルズ数(Re=UD/ν,ここで U は主流の速度,D は円柱 の直径,ν は流体の動粘性係数である)を用いて整理される. 円柱後流の流れの様子に関しては数多く研究されており, 例えば松井1)はTable 1 のように分類し,次の事項を記して いる.レイノルズ数が非常に小さい場合は円柱表面の流れ は剥離せず円柱表面に沿って流れる.レイノルズ数が3 を 超えると円柱表面の境界層が剥離し,その層流せん断層は 再付着せず円柱背面で渦を巻き,円柱背面に付着した双子 渦を形成する.レイノルズ数が増加しRe < 300 程度の純カ ルマン渦列領域では,双子渦の強さと規模が大きくなり, 円柱背面に安定して付着することができず,左右交互に放 出されて後流にカルマン渦列を形成する.さらにレイノル ズ数が大きい亜臨界領域Ⅰでは層流剥離したせん断層内に 不安定性に起因する微小撹乱が発達し小さいせん断層渦が 発生(第1次の渦度集中)し渦列となる.両側からの渦列 が円柱背面から少し離れた位置で,交互にさらに大きな渦 を形成(第2次の渦度集中)し,千鳥状のカルマン渦列と
Table 1 Types of flow past a circular cylinder1)
Re < 3 ~ 5 No-vortex region 3 ~ 5 < Re < 60 ~ 70 Twin-vortex region 60 ~ 70 < Re < 150 ~ 300 Pure Karman-vortex region 150 ~ 300 < Re < 6 × 103 Sub-critical region I
6 × 103 < Re < 3.5 × 105 Sub-critical region II
Re ≈ 3.5 × 105 Critical region
3.5 × 105 < Re < 1.5 × 106 Super-critical region
Re ≈ 1.5 × 106 The second critical region
1.5 × 106 < Re Hypercritical region なる.亜臨界領域Ⅱでは,剥離した層流せん断層は渦列発 生前に乱流へ遷移する.この乱流せん断層内で渦度の集中 が起こり乱流せん断層渦が形成される.この渦が亜臨界領 域Ⅰと同様に第2次の渦度集中でカルマン渦列を形成する. 一方,レイノルズ数が3.5×105付近は臨界領域と呼ばれ抗力 が大幅に減少することが知られている.ここでは剥離した 層流せん断層から遷移した乱流せん断層が円柱表面に再付 着して剥離泡を形成する.再付着後の境界層は乱流境界層 であり層流境界層の剥離点(よどみ点から80 °程度)に比 べかなり下流側(よどみ点から140 °程度)で再び剥離す る.これにより後流の幅が小さくなるため抗力が大幅に減 少する.この臨界領域では剥離泡のでき方が不安定で片側 だけの時もあり,安定した後流の渦は確認されない.さら にレイノルズ数を上げた超臨界領域では剥離泡が安定して 形成されるため,再付着後に再剥離した乱流せん断層が後 流にて渦列を形成する.さらにレイノルズ数が高い1.5×106 付近では第2臨界領域と呼ばれ,この領域では境界層の様 子がこれまでとは異なる.よどみ点から発達する層流境界 層が剥離せずに乱流境界層に遷移するため,剥離泡が形成 されない.乱流境界層の剥離位置はよどみ点から115 °~ 120 °付近になる.この遷移過程では局所的に乱流楔が発 生しており剥離泡の生成・消滅は不連続になるため後流に 原稿受付 2020 年 3 月 31 日 * 正会員 函館工業高等専門学校(〒042-8501 北海道函館 市戸倉町14-1) ** 函館工業高等専門学校(〒042-8501 北海道函館市戸倉町 14-1) 265 39 -実験力学 Vol. 20, No. 4 pp.265―271(2020 年 12 月) 7
-連続的な渦列は発生できない.さらにレイノルズ数を上げ ると超々臨界領域となり乱流境界層への遷移が連続的にな り,乱流境界層が剥離した乱流せん断層が規則的な渦列を 形成する.このように円柱まわりの流れは詳細に調べられ ており,円柱表面の境界層および剥離したせん断層が層流 なのか乱流なのかは後流の構造を決定づける非常に重要な 情報である. 一方,回転円柱の場合は,流れと垂直方向に揚力が働く マグナス効果が知られている 3).その揚力発生のメカニズ ムは,円柱の回転に伴う円柱表面の移動により剥離位置が 非対称になり後流が曲げられ,その力の反作用が揚力とし て円柱に作用すると言われている 4).高レイノルズ数にお いて円柱の回転数がある特定の条件においては揚力の方向 が反転する負のマグナス効果が存在することも古くから知 られている.これはレイノルズ数が3.5×105 の臨界領域付 近では流速のわずかな違いでも境界層やせん断層の状態が 異なり剥離位置が急激に大きく移動していることに起因し ている.円柱表面の移動と流れとの相対速度を考えると, 表面が流れと同じ方向に移動する面では相対速度が遅く低 レイノルズ数のときのように剥離点は上流側にある.反対 の面は相対速度が速く高レイノルズ数のときのようにせん 断層の再付着により再剥離点が下流側に移動するため,後 流は円柱表面が流れと同方向に移動する面側に向け曲げら れ,円柱にはその反対方向に揚力が作用する.この力の方 向が通常と逆のため負のマグナス効果と呼ばれている. 工学的な観点では,円柱のみならず流れの中に置かれた 物体の抗力低減の要求は数多くある.解決方法として何ら かの方法で剥離位置を強制的に下流側にずらし後流の幅を 狭め抗力を下げている.例えばゴルフボールでは表面に多 数のディンプルを加工し,くぼみで剥離したせん断層を遷 移させ再付着させることで剥離点を下流にずらし,後流幅 を狭め抗力低減,すなわち飛距離の向上を実現している. 本研究では円柱および回転円柱に凹凸を加工し揚力や抗 力の変化を工学的に役立てることを目指している.そのた めには,円柱まわりの流れを明らかにすることが必要で, 特に境界層とせん断層が層流か乱流かは凹凸形状の効果の 検証になくてはならない情報である.現在は計算機および 数値計算技術の向上で境界層内の流れは計算されてい る 5),6),7)が,実験的検証の必要性から,より詳細な表面極近 傍の実験データの取得も望まれている.そこで実験にて円 柱表面極近傍の速度分布および変動速度分布を精度良く計 測する必要がある.境界層の実験には熱線流速計が適して いるが円柱まわりの境界層は非常に薄く,従来型のプロー ブでは円柱表面極近傍の計測は困難である.そこで本研究 では第1 段階として円柱まわりの境界層計測に特化した特 殊形状のプローブとトラバース装置を開発した.本報では, 開発したこの装置の特徴と,この装置を用いて行った静止 円柱まわりの実験結果について報告する. 2.実験装置および方法 2.1 熱線流速計 本研究での境界層計測には熱線流速計を用いる.熱線流 速計とは流れの中に挿入された微小直径の金属細線に電流 を流し加熱し,流速に応じた放熱量から流速を見積もる流 速計である.直径が微小のため熱容量が小さく,瞬間的に 温度が変化するため瞬時速度の計測に適しており乱流の速 度計測に古くから使用されている8),9).電気回路を適切に設 計すると数キロヘルツの応答性は比較的簡単に得ることが できる.例えば 20 kHz で 100 秒間計測するとサンプリング の定理から 0.01 Hz~10 kHz の広い範囲の変動速度を計測 することができる.この時系列データを周波数解析し乱流 に含まれる渦のスケールを知ることができる.もう一つの 特徴として,微小ゆえに空間分解能が小さいことがあげら れる.境界層やせん断層などの速度勾配が大きい流れ場で センサー位置を少しずつ移動させ計測することで速度分布 を得ることができる.一方,熱線流速計のデメリットは点 計測のため画像計測のように瞬間的な流れ場全体の様子を 捉えることができない点である.対策として複数本のセン サーを並べ同時計測する10)ことで特徴的な流れ構造を捉え た例もある.また,流れの中にセンサーを挿入する必要が あり流れに影響を与えてしまうことや,一本のセンサーだ けでは流れの方向がわからないこと,周囲温度の変化が流 速の変化として検出されてしまうことなどが挙げられるが, センサー形状の工夫11)や校正実験をこまめに行うことで対 応可能である.今回の実験では自作した熱線流速計回路を 使用しA/D ボードを介して出力信号を PC に取り込んだ. 回路の時間応答性は西岡ら12)と同様に矩形波試験を行い確 認した.これはパルス状の電圧変動を熱線流速計回路に印 加し,そのときの出力波形の形状(値の漸近する時間)か ら計測システムの時間応答性を確認するものである.西岡 らは200 Hz の矩形波を印加し回路の調整を行い,10 kHz 程 度の応答性を確認している.本研究では320 Hz の矩形波を 印加し出力波形をもとに回路の調整を行った.西岡らと同 等の漸近時間になることから 10 kHz 程度の時間応答性が 得られていることを確認している.出力電圧の校正は,実 験ごとに熱線流速計プローブとピトー管を並べて設置し, ピトー管に繋がれた圧力計からの圧力を流速に換算し得ら れた流速と,熱線流速計回路の出力電圧との校正曲線を求 めた. 2.2 開発した熱線流速計プローブ Fig. 1 に今回製作したプローブの概略図を示す.この特 徴は先端のセンサー部が円柱表面に極限まで近づけられる 構造を有することである.厚さ1 mm のステンレス鋼板を 鍬形(くわがた)にレーザー加工機にて切断した.先端を 直径0.5 mm に仕上げた真鍮ピン(長さ 25 mm,一辺 0.64 mm の正方形断面)をプロングとし,両側のピン先間距離が 8 mm,互いの角度を 90 °に固定できる治具を用いて,ス テンレス鋼板の先端に瞬間接着剤にて接着した.ピンの先 連続的な渦列は発生できない.さらにレイノルズ数を上げ ると超々臨界領域となり乱流境界層への遷移が連続的にな り,乱流境界層が剥離した乱流せん断層が規則的な渦列を 形成する.このように円柱まわりの流れは詳細に調べられ ており,円柱表面の境界層および剥離したせん断層が層流 なのか乱流なのかは後流の構造を決定づける非常に重要な 情報である. 一方,回転円柱の場合は,流れと垂直方向に揚力が働く マグナス効果が知られている 3).その揚力発生のメカニズ ムは,円柱の回転に伴う円柱表面の移動により剥離位置が 非対称になり後流が曲げられ,その力の反作用が揚力とし て円柱に作用すると言われている 4).高レイノルズ数にお いて円柱の回転数がある特定の条件においては揚力の方向 が反転する負のマグナス効果が存在することも古くから知 られている.これはレイノルズ数が3.5×105 の臨界領域付 近では流速のわずかな違いでも境界層やせん断層の状態が 異なり剥離位置が急激に大きく移動していることに起因し ている.円柱表面の移動と流れとの相対速度を考えると, 表面が流れと同じ方向に移動する面では相対速度が遅く低 レイノルズ数のときのように剥離点は上流側にある.反対 の面は相対速度が速く高レイノルズ数のときのようにせん 断層の再付着により再剥離点が下流側に移動するため,後 流は円柱表面が流れと同方向に移動する面側に向け曲げら れ,円柱にはその反対方向に揚力が作用する.この力の方 向が通常と逆のため負のマグナス効果と呼ばれている. 工学的な観点では,円柱のみならず流れの中に置かれた 物体の抗力低減の要求は数多くある.解決方法として何ら かの方法で剥離位置を強制的に下流側にずらし後流の幅を 狭め抗力を下げている.例えばゴルフボールでは表面に多 数のディンプルを加工し,くぼみで剥離したせん断層を遷 移させ再付着させることで剥離点を下流にずらし,後流幅 を狭め抗力低減,すなわち飛距離の向上を実現している. 本研究では円柱および回転円柱に凹凸を加工し揚力や抗 力の変化を工学的に役立てることを目指している.そのた めには,円柱まわりの流れを明らかにすることが必要で, 特に境界層とせん断層が層流か乱流かは凹凸形状の効果の 検証になくてはならない情報である.現在は計算機および 数値計算技術の向上で境界層内の流れは計算されてい る 5),6),7)が,実験的検証の必要性から,より詳細な表面極近 傍の実験データの取得も望まれている.そこで実験にて円 柱表面極近傍の速度分布および変動速度分布を精度良く計 測する必要がある.境界層の実験には熱線流速計が適して いるが円柱まわりの境界層は非常に薄く,従来型のプロー ブでは円柱表面極近傍の計測は困難である.そこで本研究 では第1 段階として円柱まわりの境界層計測に特化した特 殊形状のプローブとトラバース装置を開発した.本報では, 開発したこの装置の特徴と,この装置を用いて行った静止 円柱まわりの実験結果について報告する. 2.実験装置および方法 2.1 熱線流速計 本研究での境界層計測には熱線流速計を用いる.熱線流 速計とは流れの中に挿入された微小直径の金属細線に電流 を流し加熱し,流速に応じた放熱量から流速を見積もる流 速計である.直径が微小のため熱容量が小さく,瞬間的に 温度が変化するため瞬時速度の計測に適しており乱流の速 度計測に古くから使用されている8),9).電気回路を適切に設 計すると数キロヘルツの応答性は比較的簡単に得ることが できる.例えば 20 kHz で 100 秒間計測するとサンプリング の定理から 0.01 Hz~10 kHz の広い範囲の変動速度を計測 することができる.この時系列データを周波数解析し乱流 に含まれる渦のスケールを知ることができる.もう一つの 特徴として,微小ゆえに空間分解能が小さいことがあげら れる.境界層やせん断層などの速度勾配が大きい流れ場で センサー位置を少しずつ移動させ計測することで速度分布 を得ることができる.一方,熱線流速計のデメリットは点 計測のため画像計測のように瞬間的な流れ場全体の様子を 捉えることができない点である.対策として複数本のセン サーを並べ同時計測する10)ことで特徴的な流れ構造を捉え た例もある.また,流れの中にセンサーを挿入する必要が あり流れに影響を与えてしまうことや,一本のセンサーだ けでは流れの方向がわからないこと,周囲温度の変化が流 速の変化として検出されてしまうことなどが挙げられるが, センサー形状の工夫11)や校正実験をこまめに行うことで対 応可能である.今回の実験では自作した熱線流速計回路を 使用しA/D ボードを介して出力信号を PC に取り込んだ. 回路の時間応答性は西岡ら12)と同様に矩形波試験を行い確 認した.これはパルス状の電圧変動を熱線流速計回路に印 加し,そのときの出力波形の形状(値の漸近する時間)か ら計測システムの時間応答性を確認するものである.西岡 らは200 Hz の矩形波を印加し回路の調整を行い,10 kHz 程 度の応答性を確認している.本研究では320 Hz の矩形波を 印加し出力波形をもとに回路の調整を行った.西岡らと同 等の漸近時間になることから 10 kHz 程度の時間応答性が 得られていることを確認している.出力電圧の校正は,実 験ごとに熱線流速計プローブとピトー管を並べて設置し, ピトー管に繋がれた圧力計からの圧力を流速に換算し得ら れた流速と,熱線流速計回路の出力電圧との校正曲線を求 めた. 2.2 開発した熱線流速計プローブ Fig. 1 に今回製作したプローブの概略図を示す.この特 徴は先端のセンサー部が円柱表面に極限まで近づけられる 構造を有することである.厚さ1 mm のステンレス鋼板を 鍬形(くわがた)にレーザー加工機にて切断した.先端を 直径0.5 mm に仕上げた真鍮ピン(長さ 25 mm,一辺 0.64 mm の正方形断面)をプロングとし,両側のピン先間距離が 8 mm,互いの角度を 90 °に固定できる治具を用いて,ス テンレス鋼板の先端に瞬間接着剤にて接着した.ピンの先 に銀被覆された直径5 μm の白金線(ウォラストン線)を, 中央部の 2~3 mm を直線的に残して 90 °に曲げはんだ付 けした.その後中央部のみを 5 %の硝酸で電圧をかけなが らエッチングし銀被覆のみを除去しセンサー部となる白金 線を露出させた.エッチング時にはんだ付けなどでの残留 応力や,収縮膨張などで細線部が断線することがあるが, 線を真っ直ぐに伸ばしてはんだ付けするよりも予め曲げて おいたほうが断線は少ない.エッチングで線が曲がった場 合は顕微鏡下でセンサー部を直線かつプロング先端よりも 先の位置になるように慎重に微調整する.図のようにセン サー部を最先端にすることで円柱表面に極限まで近づくこ とができる. 保持部を鍬形にした理由はプローブの挿入方向が従来と 異なるためである.通常のプローブは流れに及ぼす影響を 最小化するために,センサー部を最上流部にし,かつ流路 への投影面積が最小になるようにプローブを下流側から挿 入する.これでは円柱上流側の表面近傍は測定できず,プ ローブを傾斜させるか形状の違うプローブに付け替える必 要があった.実験中に背圧に影響を与えるため計測してい るデータが変化してしまう恐れがあり,投影面積が変化す るプローブの傾斜や付け替えは極力避けるべきである.そ こで本研究では,プローブの付け替えをせずに円柱表面近 傍の流れを計測するために,流れに垂直な方向からプロー ブを挿入する.従来のプローブを垂直に設置する場合,プ ロングとセンサー部の距離が近いため,例えば円柱上流側 の計測の場合には,プロングで生じた乱れが円柱に衝突し, 表面の流れを変える恐れがある.そこで図のようにプロン グの間隔を広げ,センサー部のまわりに空間ができる鍬形 に決定した. 2.3 風洞およびトラバース装置と計測位置 Fig. 2 に実験装置を上からみた模式図を示す.使用した 風洞は自作の吹出式風洞で,ノズル出口は一辺が 150 mm の正方形で絞り比は4 である.ノズルは塩ビ板を滑らかに 曲げて作成し,断面がどの位置でも正方形である,いわゆ る三次元形状のノズルである.ノズルの上流には一辺が 300 mm の整流洞がありその中には2枚の整流金網を入れ た.送風機は直径300 mm のダクトファンで整流洞とは布 筒で繋がれている.流速調整はダクトファンの入力電圧を スライダックにて調整している.風洞の乱れ強さは流速が 10 m/s のときに 1 %程度であった.円柱は直径 26.0 mm の 塩ビパイプを使用し,ノズルの中心位置に振動しないよう に固定した.流れ方向の距離は円柱中心がノズル出口から 50 mm の位置とした.円柱の長さはノズル出口の幅より十 分に長く,端面は流れに影響していない.風洞の出口寸法 に対し円柱直径がやや大きく,閉塞比は17.3 %となってい る.円柱表面の境界層計測のためには円柱直径が大きいほ どセンサー位置の誤差は相対的に小さくなり,得られる分 布はより正確なものになる.今回はプローブの評価を重視 したため計測のしやすさを優先しこの円柱寸法を採用した. この閉塞の影響を調べるためにノズル中心から 40 mm の
Fig. 1 Dimension of developed probe
Fig. 2 Schematic diagram of the experimental device and measurement position 位置での流れ方向の速度分布を確認した.ノズル出口から 50 mm まで平均速度のずれが 1%以内であったためここで の流速を主流速度U0とし,今回はU0 = 9.0 m/s で実験を行 った.この条件でのレイノルズ数はRe ≈ 1.6×104である.本 実験での計測点はよどみ点からの角度 θ = 50 °,70 °, 80 °,90 °,110 °の位置での速度境界層を計測した.円 柱表面からの距離をy[mm]とし,円柱表面を y = 0 mm とし た.計測はFig. 2 のようにプローブを微動トラバース装置 に取り付け,ダイヤルゲージで位置を計測した.このトラ バース装置は円柱座標系に沿ってプローブを移動すること ができる.円柱表面位置の計測は,流速波形をオシロスコ ープで観察しながらプローブを主流側から円柱表面に近づ け,壁面直前もしくは瞬間的に接触する位置を円柱表面と した. プローブの校正は円柱を外してピトー管とプローブ先端 がノズル出口から50 mm の位置で 10 mm 離して固定し, 実験力学 Vol. 20, No. 4(2020 年 12 月) 267 41 -剱地,本村,山田,川合:円柱表面速度境界層計測に特化した熱線流速計プローブの開発 266 40
-連続的な渦列は発生できない.さらにレイノルズ数を上げ ると超々臨界領域となり乱流境界層への遷移が連続的にな り,乱流境界層が剥離した乱流せん断層が規則的な渦列を 形成する.このように円柱まわりの流れは詳細に調べられ ており,円柱表面の境界層および剥離したせん断層が層流 なのか乱流なのかは後流の構造を決定づける非常に重要な 情報である. 一方,回転円柱の場合は,流れと垂直方向に揚力が働く マグナス効果が知られている 3).その揚力発生のメカニズ ムは,円柱の回転に伴う円柱表面の移動により剥離位置が 非対称になり後流が曲げられ,その力の反作用が揚力とし て円柱に作用すると言われている 4).高レイノルズ数にお いて円柱の回転数がある特定の条件においては揚力の方向 が反転する負のマグナス効果が存在することも古くから知 られている.これはレイノルズ数が3.5×105 の臨界領域付 近では流速のわずかな違いでも境界層やせん断層の状態が 異なり剥離位置が急激に大きく移動していることに起因し ている.円柱表面の移動と流れとの相対速度を考えると, 表面が流れと同じ方向に移動する面では相対速度が遅く低 レイノルズ数のときのように剥離点は上流側にある.反対 の面は相対速度が速く高レイノルズ数のときのようにせん 断層の再付着により再剥離点が下流側に移動するため,後 流は円柱表面が流れと同方向に移動する面側に向け曲げら れ,円柱にはその反対方向に揚力が作用する.この力の方 向が通常と逆のため負のマグナス効果と呼ばれている. 工学的な観点では,円柱のみならず流れの中に置かれた 物体の抗力低減の要求は数多くある.解決方法として何ら かの方法で剥離位置を強制的に下流側にずらし後流の幅を 狭め抗力を下げている.例えばゴルフボールでは表面に多 数のディンプルを加工し,くぼみで剥離したせん断層を遷 移させ再付着させることで剥離点を下流にずらし,後流幅 を狭め抗力低減,すなわち飛距離の向上を実現している. 本研究では円柱および回転円柱に凹凸を加工し揚力や抗 力の変化を工学的に役立てることを目指している.そのた めには,円柱まわりの流れを明らかにすることが必要で, 特に境界層とせん断層が層流か乱流かは凹凸形状の効果の 検証になくてはならない情報である.現在は計算機および 数値計算技術の向上で境界層内の流れは計算されてい る 5),6),7)が,実験的検証の必要性から,より詳細な表面極近 傍の実験データの取得も望まれている.そこで実験にて円 柱表面極近傍の速度分布および変動速度分布を精度良く計 測する必要がある.境界層の実験には熱線流速計が適して いるが円柱まわりの境界層は非常に薄く,従来型のプロー ブでは円柱表面極近傍の計測は困難である.そこで本研究 では第1 段階として円柱まわりの境界層計測に特化した特 殊形状のプローブとトラバース装置を開発した.本報では, 開発したこの装置の特徴と,この装置を用いて行った静止 円柱まわりの実験結果について報告する. 2.実験装置および方法 2.1 熱線流速計 本研究での境界層計測には熱線流速計を用いる.熱線流 速計とは流れの中に挿入された微小直径の金属細線に電流 を流し加熱し,流速に応じた放熱量から流速を見積もる流 速計である.直径が微小のため熱容量が小さく,瞬間的に 温度が変化するため瞬時速度の計測に適しており乱流の速 度計測に古くから使用されている8),9).電気回路を適切に設 計すると数キロヘルツの応答性は比較的簡単に得ることが できる.例えば 20 kHz で 100 秒間計測するとサンプリング の定理から 0.01 Hz~10 kHz の広い範囲の変動速度を計測 することができる.この時系列データを周波数解析し乱流 に含まれる渦のスケールを知ることができる.もう一つの 特徴として,微小ゆえに空間分解能が小さいことがあげら れる.境界層やせん断層などの速度勾配が大きい流れ場で センサー位置を少しずつ移動させ計測することで速度分布 を得ることができる.一方,熱線流速計のデメリットは点 計測のため画像計測のように瞬間的な流れ場全体の様子を 捉えることができない点である.対策として複数本のセン サーを並べ同時計測する10)ことで特徴的な流れ構造を捉え た例もある.また,流れの中にセンサーを挿入する必要が あり流れに影響を与えてしまうことや,一本のセンサーだ けでは流れの方向がわからないこと,周囲温度の変化が流 速の変化として検出されてしまうことなどが挙げられるが, センサー形状の工夫11)や校正実験をこまめに行うことで対 応可能である.今回の実験では自作した熱線流速計回路を 使用しA/D ボードを介して出力信号を PC に取り込んだ. 回路の時間応答性は西岡ら12)と同様に矩形波試験を行い確 認した.これはパルス状の電圧変動を熱線流速計回路に印 加し,そのときの出力波形の形状(値の漸近する時間)か ら計測システムの時間応答性を確認するものである.西岡 らは200 Hz の矩形波を印加し回路の調整を行い,10 kHz 程 度の応答性を確認している.本研究では320 Hz の矩形波を 印加し出力波形をもとに回路の調整を行った.西岡らと同 等の漸近時間になることから 10 kHz 程度の時間応答性が 得られていることを確認している.出力電圧の校正は,実 験ごとに熱線流速計プローブとピトー管を並べて設置し, ピトー管に繋がれた圧力計からの圧力を流速に換算し得ら れた流速と,熱線流速計回路の出力電圧との校正曲線を求 めた. 2.2 開発した熱線流速計プローブ Fig. 1 に今回製作したプローブの概略図を示す.この特 徴は先端のセンサー部が円柱表面に極限まで近づけられる 構造を有することである.厚さ1 mm のステンレス鋼板を 鍬形(くわがた)にレーザー加工機にて切断した.先端を 直径0.5 mm に仕上げた真鍮ピン(長さ 25 mm,一辺 0.64 mm の正方形断面)をプロングとし,両側のピン先間距離が 8 mm,互いの角度を 90 °に固定できる治具を用いて,ス テンレス鋼板の先端に瞬間接着剤にて接着した.ピンの先 連続的な渦列は発生できない.さらにレイノルズ数を上げ ると超々臨界領域となり乱流境界層への遷移が連続的にな り,乱流境界層が剥離した乱流せん断層が規則的な渦列を 形成する.このように円柱まわりの流れは詳細に調べられ ており,円柱表面の境界層および剥離したせん断層が層流 なのか乱流なのかは後流の構造を決定づける非常に重要な 情報である. 一方,回転円柱の場合は,流れと垂直方向に揚力が働く マグナス効果が知られている 3).その揚力発生のメカニズ ムは,円柱の回転に伴う円柱表面の移動により剥離位置が 非対称になり後流が曲げられ,その力の反作用が揚力とし て円柱に作用すると言われている 4).高レイノルズ数にお いて円柱の回転数がある特定の条件においては揚力の方向 が反転する負のマグナス効果が存在することも古くから知 られている.これはレイノルズ数が3.5×105 の臨界領域付 近では流速のわずかな違いでも境界層やせん断層の状態が 異なり剥離位置が急激に大きく移動していることに起因し ている.円柱表面の移動と流れとの相対速度を考えると, 表面が流れと同じ方向に移動する面では相対速度が遅く低 レイノルズ数のときのように剥離点は上流側にある.反対 の面は相対速度が速く高レイノルズ数のときのようにせん 断層の再付着により再剥離点が下流側に移動するため,後 流は円柱表面が流れと同方向に移動する面側に向け曲げら れ,円柱にはその反対方向に揚力が作用する.この力の方 向が通常と逆のため負のマグナス効果と呼ばれている. 工学的な観点では,円柱のみならず流れの中に置かれた 物体の抗力低減の要求は数多くある.解決方法として何ら かの方法で剥離位置を強制的に下流側にずらし後流の幅を 狭め抗力を下げている.例えばゴルフボールでは表面に多 数のディンプルを加工し,くぼみで剥離したせん断層を遷 移させ再付着させることで剥離点を下流にずらし,後流幅 を狭め抗力低減,すなわち飛距離の向上を実現している. 本研究では円柱および回転円柱に凹凸を加工し揚力や抗 力の変化を工学的に役立てることを目指している.そのた めには,円柱まわりの流れを明らかにすることが必要で, 特に境界層とせん断層が層流か乱流かは凹凸形状の効果の 検証になくてはならない情報である.現在は計算機および 数値計算技術の向上で境界層内の流れは計算されてい る 5),6),7)が,実験的検証の必要性から,より詳細な表面極近 傍の実験データの取得も望まれている.そこで実験にて円 柱表面極近傍の速度分布および変動速度分布を精度良く計 測する必要がある.境界層の実験には熱線流速計が適して いるが円柱まわりの境界層は非常に薄く,従来型のプロー ブでは円柱表面極近傍の計測は困難である.そこで本研究 では第1 段階として円柱まわりの境界層計測に特化した特 殊形状のプローブとトラバース装置を開発した.本報では, 開発したこの装置の特徴と,この装置を用いて行った静止 円柱まわりの実験結果について報告する. 2.実験装置および方法 2.1 熱線流速計 本研究での境界層計測には熱線流速計を用いる.熱線流 速計とは流れの中に挿入された微小直径の金属細線に電流 を流し加熱し,流速に応じた放熱量から流速を見積もる流 速計である.直径が微小のため熱容量が小さく,瞬間的に 温度が変化するため瞬時速度の計測に適しており乱流の速 度計測に古くから使用されている8),9).電気回路を適切に設 計すると数キロヘルツの応答性は比較的簡単に得ることが できる.例えば 20 kHz で 100 秒間計測するとサンプリング の定理から 0.01 Hz~10 kHz の広い範囲の変動速度を計測 することができる.この時系列データを周波数解析し乱流 に含まれる渦のスケールを知ることができる.もう一つの 特徴として,微小ゆえに空間分解能が小さいことがあげら れる.境界層やせん断層などの速度勾配が大きい流れ場で センサー位置を少しずつ移動させ計測することで速度分布 を得ることができる.一方,熱線流速計のデメリットは点 計測のため画像計測のように瞬間的な流れ場全体の様子を 捉えることができない点である.対策として複数本のセン サーを並べ同時計測する10)ことで特徴的な流れ構造を捉え た例もある.また,流れの中にセンサーを挿入する必要が あり流れに影響を与えてしまうことや,一本のセンサーだ けでは流れの方向がわからないこと,周囲温度の変化が流 速の変化として検出されてしまうことなどが挙げられるが, センサー形状の工夫11)や校正実験をこまめに行うことで対 応可能である.今回の実験では自作した熱線流速計回路を 使用しA/D ボードを介して出力信号を PC に取り込んだ. 回路の時間応答性は西岡ら12)と同様に矩形波試験を行い確 認した.これはパルス状の電圧変動を熱線流速計回路に印 加し,そのときの出力波形の形状(値の漸近する時間)か ら計測システムの時間応答性を確認するものである.西岡 らは200 Hz の矩形波を印加し回路の調整を行い,10 kHz 程 度の応答性を確認している.本研究では320 Hz の矩形波を 印加し出力波形をもとに回路の調整を行った.西岡らと同 等の漸近時間になることから 10 kHz 程度の時間応答性が 得られていることを確認している.出力電圧の校正は,実 験ごとに熱線流速計プローブとピトー管を並べて設置し, ピトー管に繋がれた圧力計からの圧力を流速に換算し得ら れた流速と,熱線流速計回路の出力電圧との校正曲線を求 めた. 2.2 開発した熱線流速計プローブ Fig. 1 に今回製作したプローブの概略図を示す.この特 徴は先端のセンサー部が円柱表面に極限まで近づけられる 構造を有することである.厚さ1 mm のステンレス鋼板を 鍬形(くわがた)にレーザー加工機にて切断した.先端を 直径0.5 mm に仕上げた真鍮ピン(長さ 25 mm,一辺 0.64 mm の正方形断面)をプロングとし,両側のピン先間距離が 8 mm,互いの角度を 90 °に固定できる治具を用いて,ス テンレス鋼板の先端に瞬間接着剤にて接着した.ピンの先 に銀被覆された直径5 μm の白金線(ウォラストン線)を, 中央部の 2~3 mm を直線的に残して 90 °に曲げはんだ付 けした.その後中央部のみを 5 %の硝酸で電圧をかけなが らエッチングし銀被覆のみを除去しセンサー部となる白金 線を露出させた.エッチング時にはんだ付けなどでの残留 応力や,収縮膨張などで細線部が断線することがあるが, 線を真っ直ぐに伸ばしてはんだ付けするよりも予め曲げて おいたほうが断線は少ない.エッチングで線が曲がった場 合は顕微鏡下でセンサー部を直線かつプロング先端よりも 先の位置になるように慎重に微調整する.図のようにセン サー部を最先端にすることで円柱表面に極限まで近づくこ とができる. 保持部を鍬形にした理由はプローブの挿入方向が従来と 異なるためである.通常のプローブは流れに及ぼす影響を 最小化するために,センサー部を最上流部にし,かつ流路 への投影面積が最小になるようにプローブを下流側から挿 入する.これでは円柱上流側の表面近傍は測定できず,プ ローブを傾斜させるか形状の違うプローブに付け替える必 要があった.実験中に背圧に影響を与えるため計測してい るデータが変化してしまう恐れがあり,投影面積が変化す るプローブの傾斜や付け替えは極力避けるべきである.そ こで本研究では,プローブの付け替えをせずに円柱表面近 傍の流れを計測するために,流れに垂直な方向からプロー ブを挿入する.従来のプローブを垂直に設置する場合,プ ロングとセンサー部の距離が近いため,例えば円柱上流側 の計測の場合には,プロングで生じた乱れが円柱に衝突し, 表面の流れを変える恐れがある.そこで図のようにプロン グの間隔を広げ,センサー部のまわりに空間ができる鍬形 に決定した. 2.3 風洞およびトラバース装置と計測位置 Fig. 2 に実験装置を上からみた模式図を示す.使用した 風洞は自作の吹出式風洞で,ノズル出口は一辺が 150 mm の正方形で絞り比は4 である.ノズルは塩ビ板を滑らかに 曲げて作成し,断面がどの位置でも正方形である,いわゆ る三次元形状のノズルである.ノズルの上流には一辺が 300 mm の整流洞がありその中には2枚の整流金網を入れ た.送風機は直径300 mm のダクトファンで整流洞とは布 筒で繋がれている.流速調整はダクトファンの入力電圧を スライダックにて調整している.風洞の乱れ強さは流速が 10 m/s のときに 1 %程度であった.円柱は直径 26.0 mm の 塩ビパイプを使用し,ノズルの中心位置に振動しないよう に固定した.流れ方向の距離は円柱中心がノズル出口から 50 mm の位置とした.円柱の長さはノズル出口の幅より十 分に長く,端面は流れに影響していない.風洞の出口寸法 に対し円柱直径がやや大きく,閉塞比は17.3 %となってい る.円柱表面の境界層計測のためには円柱直径が大きいほ どセンサー位置の誤差は相対的に小さくなり,得られる分 布はより正確なものになる.今回はプローブの評価を重視 したため計測のしやすさを優先しこの円柱寸法を採用した. この閉塞の影響を調べるためにノズル中心から 40 mm の
Fig. 1 Dimension of developed probe
Fig. 2 Schematic diagram of the experimental device and measurement position 位置での流れ方向の速度分布を確認した.ノズル出口から 50 mm まで平均速度のずれが 1%以内であったためここで の流速を主流速度U0とし,今回はU0 = 9.0 m/s で実験を行 った.この条件でのレイノルズ数はRe ≈ 1.6×104である.本 実験での計測点はよどみ点からの角度 θ = 50 °,70 °, 80 °,90 °,110 °の位置での速度境界層を計測した.円 柱表面からの距離をy[mm]とし,円柱表面を y = 0 mm とし た.計測はFig. 2 のようにプローブを微動トラバース装置 に取り付け,ダイヤルゲージで位置を計測した.このトラ バース装置は円柱座標系に沿ってプローブを移動すること ができる.円柱表面位置の計測は,流速波形をオシロスコ ープで観察しながらプローブを主流側から円柱表面に近づ け,壁面直前もしくは瞬間的に接触する位置を円柱表面と した. プローブの校正は円柱を外してピトー管とプローブ先端 がノズル出口から50 mm の位置で 10 mm 離して固定し, 実験力学 Vol. 20, No. 4(2020 年 12 月) 267 41 -実験力学 Vol. 20, No. 4(2020 年 12 月) 267 41
-複数の流速において計測して 30 秒間の平均値で校正曲線 を求めた.境界層の実験はサンプリング周波数10 kHz で 20 秒間計測した. 3.結果と考察 3.1 平均速度分布および乱れ強さ分布 Fig. 3 に得られた平均速度分布と Fig. 4 に乱れ強さ分布 を示す.縦軸は円柱表面からの距離y [mm]で,横軸はそれ ぞれの位置における平均速度 umと変動速度の二乗平均平 方根urmsで,主流速度U0 = 9.0 m/s で無次元化した.Fig. 3 の分布形状を見るとθ = 50 °,70 °,80 °では円柱表面近 傍で速度の減速している部分が見られる.そのy 方向の厚 さは 0.5 mm 以下であり非常に薄い.円柱に衝突した流れ が局所的に加速しているため主流側が um / U0 = 1.0 を超え ている.壁面に近づくほど滑らかに減速する特徴は平板な ど他の物体周りの境界層の特徴と一致している.Fig. 4 の 乱れ強さ分布では,図中の拡大表示をみると,壁面近傍で 乱れ強さが増加しており,さらにθ が大きくなるほど壁面 付近の乱れ強さが増加していることもわかる.主流より壁 面近傍で乱れが強くなることも一般的な境界層の特徴と一 致している.これらのことからこの領域は速度境界層と考 えられ,開発したプローブでこの極めて薄い領域の速度分 布を得ることができたといえる.θ = 90 °では分布の形状 が大きく異なる.Fig. 3 の平均速度分布では y < 1.3 mm で 減速し,y < 0.3 mm では低速かつ変化が少ない.Fig. 4 の乱 れ強さ分布でも 0.3 < y < 1.3 mm で乱れが大きくなってお りy = 0.64 mm にピークがあり,y < 0.3 mm では値が小さい. 今回は一本のプローブのため逆流は検出できず,かつ熱線 流速計の原理上無風を計測できないが,このy < 0.3 mm で は高速の流体がないことはこの結果から明らかである.同 様な分布は望月ら13)による剥離する境界層をI 型プローブ で計測した結果でも観察されており,剥離を伴う境界層の 速 度 分 布 の 特 徴 で あ る と い え る . こ れ ら の こ と か ら y < 0.3 mm は剥離領域の中であり 0.3 < y < 1.3 mm での速度 勾配のある部分は上流からの境界層が剥離したせん断層で あると言える.θ =110 °でも似た分布形状になる.平均速 度分布では1.4 < y < 3.0 mm で速度勾配があり y < 1.4 mm で は低速で大きな変化は見られない.ここでも剥離したせん 断 層 が 計 測 で き て い る と い え る . せ ん 断 層 の 厚 さ は θ = 90 °のときよりも増加し,剥離している領域も厚くな っている.乱れ強さ分布もθ = 90 °と似た形状で,せん断 層と考えられる1.4 < y < 3.0 mm で,せん断層の厚さ中央付 近にピークを持つ分布になっている.剥離している領域と 考 え ら れ る y < 1.4 mm に お い て , せ ん 断 層 に 近 い 0.8 < y < 1.4 mm では乱れがあり分布が直線的に変化してい ることから何らかの特徴的な乱れ構造があることが示唆さ れる. 円柱周りの境界層の速度分布は可視化実験などで古くか ら観察されているが,熱線流速計を用いた速度分布の報告 は近年では稀であり,さらに後述する熱線流速計の利点を
Fig. 3 Profile of the mean velocity at 𝑅𝑒 ≈ 1.6 × 104
Fig. 4 Profile of the velocity fluctuation at 𝑅𝑒 ≈ 1.6 × 104 生かした周波数特性を明らかにできることは貴重なデータ が得られたと言える.これらのことから今回開発したプロ ーブの有用性を示すことができた. 3.2 瞬間速度波形 Fig. 5 および Fig. 6 に θ = 90 °と 110 °の特徴的な位置 における瞬間速度波形をそれぞれ示す.各計測点での波形 を任意の時刻で0.1 秒間だけ切り出し並べて表示した.同 時計測ではない点に注意が必要である.縦軸はそれぞれの 計測点での瞬時流速u と,その位置における平均流速 umと の差を,主流速度U0で無次元化している.各波形での0.0 は図中のum/U0に対応する.Fig. 5 に表示した計測位置を乱 れ強さ分布と照らし合わせると,主流側から円柱表面に順 に,円柱から遠いy = 2.64 mm,乱れ強さが増加し始めるせ ん断層外縁付近のy = 1.14 mm,乱れのピークより主流側の
Fig. 5 The instantaneous flow velocity at θ = 90 ° y = 0.84 mm,乱れのピークである y = 0.64 mm,乱れのピー クより円柱側のy = 0.34 mm,円柱表面極近傍の y = 0.02 mm である.ほぼ主流の y = 2.64 mm では大きな速度変動は見 られない.y = 1.14 mm でも大きな変動は見られないが 0.02 秒や 0.093 秒にわずかに減速する部分が見られる.この y 位置は平均速度分布では減速し始め,乱れ強さ分布では増 加し始める位置にあたる.円柱の影響を受けて減速した境 界層もしくはせん断層の一部がこの位置まで間欠的,断続 的に広がっていると推測できる.速度せん断層内での主流 側のy = 0.84 mm では,0.01 秒や 0.065 秒付近に低速部分が 見られる.その減速の量は y = 1.14 mm よりも大きくなっ ている.乱れ分布のピークである y = 0.64 mm では, - 0.3 < ( u - um ) / U0 < 0.1 すなわち 0.28 < u/U0 < 0.68 の広範 囲にわたり大きく変動する波形が見られる.全体的にはっ きりとした周期は見られないが,0.015 秒から 0.035 秒付近 では0.01 秒程の周期の波に見える部分もある.この波につ いては剥離周波数に関連し後に考察する.乱れのピーク位 置より円柱表面側の y = 0.34 mm ではピークの上側とは逆 の形の波形で,u/U0 = 0.13 程度の遅い流体中に,0.05 秒や 0.075 秒に見られるような間欠的な速い流体が到達してい ることがわかる.円柱表面に近いy = 0.02 mm では,ほとん どの時間で u/U0 = 0.05 と低速で一定であるが 0.01 秒や
Fig. 6 The instantaneous flow velocity at θ = 110 ° 0.055 秒で瞬間的に速い部分が見られる. Fig. 6 は θ = 110 °における瞬間速度の波形である.縦軸 はFig. 5 と同様である.乱れ強さ分布では θ = 90 °と同様 にピークを持つ分布となったため同様な点を示している. それに加え剥離領域のせん断層側に乱れ強さ分布の傾きが 異なる特徴的な点があったためその点(y = 1.14 mm)も追加 している.まずほぼ主流であるy = 3.84 mm では u/U0 = 1.08 程度で一定で大きな変動は見られない.せん断層の外縁付 近のy = 2.84 mm では平均値はほぼ主流と等しいが 0.08 秒 付近に短い周期の変動の塊が見られる.この変動は0.005 秒 間で約5 周期あるので 1 kHz 程度の周波数である.せん断 層の乱れのピーク位置の y = 1.94 mm およびその主流側の y = 2.34 mm では,θ = 90 °のときと同様にとても大きな振 幅の振動がみられ,断続的な低速部分が見られる.乱れの ピークのy = 1.94 mm では 0.04 秒付近で流速が遅い部分に 細かい周期の変動が見られる.乱れのピーク位置より円柱 側の y = 1.64 mm ではピーク位置のような大きな変動に加 え 0.02 秒から 0.05 秒にかけて低速で周期の短い変動が続 いている.乱れ強さ分布で傾きに特徴的な変化のあった y = 1.14 mm では振幅の大きな緩やかな変動が観察されず, 短い周期の変動が増加し振幅も大きくなっている.円柱近 傍のy = 0.02 mm では低速の中に断続的に短い周期を持つ 剱地,本村,山田,川合:円柱表面速度境界層計測に特化した熱線流速計プローブの開発 268 42 -複数の流速において計測して 30 秒間の平均値で校正曲線 を求めた.境界層の実験はサンプリング周波数10 kHz で 20 秒間計測した. 3.結果と考察 3.1 平均速度分布および乱れ強さ分布 Fig. 3 に得られた平均速度分布と Fig. 4 に乱れ強さ分布 を示す.縦軸は円柱表面からの距離y [mm]で,横軸はそれ ぞれの位置における平均速度 umと変動速度の二乗平均平 方根urmsで,主流速度U0 = 9.0 m/s で無次元化した.Fig. 3 の分布形状を見るとθ = 50 °,70 °,80 °では円柱表面近 傍で速度の減速している部分が見られる.そのy 方向の厚 さは 0.5 mm 以下であり非常に薄い.円柱に衝突した流れ が局所的に加速しているため主流側が um / U0 = 1.0 を超え ている.壁面に近づくほど滑らかに減速する特徴は平板な ど他の物体周りの境界層の特徴と一致している.Fig. 4 の 乱れ強さ分布では,図中の拡大表示をみると,壁面近傍で 乱れ強さが増加しており,さらにθ が大きくなるほど壁面 付近の乱れ強さが増加していることもわかる.主流より壁 面近傍で乱れが強くなることも一般的な境界層の特徴と一 致している.これらのことからこの領域は速度境界層と考 えられ,開発したプローブでこの極めて薄い領域の速度分 布を得ることができたといえる.θ = 90 °では分布の形状 が大きく異なる.Fig. 3 の平均速度分布では y < 1.3 mm で 減速し,y < 0.3 mm では低速かつ変化が少ない.Fig. 4 の乱 れ強さ分布でも 0.3 < y < 1.3 mm で乱れが大きくなってお りy = 0.64 mm にピークがあり,y < 0.3 mm では値が小さい. 今回は一本のプローブのため逆流は検出できず,かつ熱線 流速計の原理上無風を計測できないが,このy < 0.3 mm で は高速の流体がないことはこの結果から明らかである.同 様な分布は望月ら13)による剥離する境界層をI 型プローブ で計測した結果でも観察されており,剥離を伴う境界層の 速 度 分 布 の 特 徴 で あ る と い え る . こ れ ら の こ と か ら y < 0.3 mm は剥離領域の中であり 0.3 < y < 1.3 mm での速度 勾配のある部分は上流からの境界層が剥離したせん断層で あると言える.θ =110 °でも似た分布形状になる.平均速 度分布では1.4 < y < 3.0 mm で速度勾配があり y < 1.4 mm で は低速で大きな変化は見られない.ここでも剥離したせん 断 層 が 計 測 で き て い る と い え る . せ ん 断 層 の 厚 さ は θ = 90 °のときよりも増加し,剥離している領域も厚くな っている.乱れ強さ分布もθ = 90 °と似た形状で,せん断 層と考えられる1.4 < y < 3.0 mm で,せん断層の厚さ中央付 近にピークを持つ分布になっている.剥離している領域と 考 え ら れ る y < 1.4 mm に お い て , せ ん 断 層 に 近 い 0.8 < y < 1.4 mm では乱れがあり分布が直線的に変化してい ることから何らかの特徴的な乱れ構造があることが示唆さ れる. 円柱周りの境界層の速度分布は可視化実験などで古くか ら観察されているが,熱線流速計を用いた速度分布の報告 は近年では稀であり,さらに後述する熱線流速計の利点を
Fig. 3 Profile of the mean velocity at 𝑅𝑒 ≈ 1.6 × 104
Fig. 4 Profile of the velocity fluctuation at 𝑅𝑒 ≈ 1.6 × 104 生かした周波数特性を明らかにできることは貴重なデータ が得られたと言える.これらのことから今回開発したプロ ーブの有用性を示すことができた. 3.2 瞬間速度波形 Fig. 5 および Fig. 6 に θ = 90 °と 110 °の特徴的な位置 における瞬間速度波形をそれぞれ示す.各計測点での波形 を任意の時刻で0.1 秒間だけ切り出し並べて表示した.同 時計測ではない点に注意が必要である.縦軸はそれぞれの 計測点での瞬時流速u と,その位置における平均流速 umと の差を,主流速度U0で無次元化している.各波形での0.0 は図中のum/U0に対応する.Fig. 5 に表示した計測位置を乱 れ強さ分布と照らし合わせると,主流側から円柱表面に順 に,円柱から遠いy = 2.64 mm,乱れ強さが増加し始めるせ ん断層外縁付近のy = 1.14 mm,乱れのピークより主流側の
Fig. 5 The instantaneous flow velocity at θ = 90 ° y = 0.84 mm,乱れのピークである y = 0.64 mm,乱れのピー クより円柱側のy = 0.34 mm,円柱表面極近傍の y = 0.02 mm である.ほぼ主流の y = 2.64 mm では大きな速度変動は見 られない.y = 1.14 mm でも大きな変動は見られないが 0.02 秒や 0.093 秒にわずかに減速する部分が見られる.この y 位置は平均速度分布では減速し始め,乱れ強さ分布では増 加し始める位置にあたる.円柱の影響を受けて減速した境 界層もしくはせん断層の一部がこの位置まで間欠的,断続 的に広がっていると推測できる.速度せん断層内での主流 側のy = 0.84 mm では,0.01 秒や 0.065 秒付近に低速部分が 見られる.その減速の量は y = 1.14 mm よりも大きくなっ ている.乱れ分布のピークである y = 0.64 mm では, - 0.3 < ( u - um ) / U0 < 0.1 すなわち 0.28 < u/U0 < 0.68 の広範 囲にわたり大きく変動する波形が見られる.全体的にはっ きりとした周期は見られないが,0.015 秒から 0.035 秒付近 では0.01 秒程の周期の波に見える部分もある.この波につ いては剥離周波数に関連し後に考察する.乱れのピーク位 置より円柱表面側の y = 0.34 mm ではピークの上側とは逆 の形の波形で,u/U0 = 0.13 程度の遅い流体中に,0.05 秒や 0.075 秒に見られるような間欠的な速い流体が到達してい ることがわかる.円柱表面に近いy = 0.02 mm では,ほとん どの時間で u/U0 = 0.05 と低速で一定であるが 0.01 秒や
Fig. 6 The instantaneous flow velocity at θ = 110 ° 0.055 秒で瞬間的に速い部分が見られる. Fig. 6 は θ = 110 °における瞬間速度の波形である.縦軸 はFig. 5 と同様である.乱れ強さ分布では θ = 90 °と同様 にピークを持つ分布となったため同様な点を示している. それに加え剥離領域のせん断層側に乱れ強さ分布の傾きが 異なる特徴的な点があったためその点(y = 1.14 mm)も追加 している.まずほぼ主流であるy = 3.84 mm では u/U0 = 1.08 程度で一定で大きな変動は見られない.せん断層の外縁付 近のy = 2.84 mm では平均値はほぼ主流と等しいが 0.08 秒 付近に短い周期の変動の塊が見られる.この変動は0.005 秒 間で約5 周期あるので 1 kHz 程度の周波数である.せん断 層の乱れのピーク位置の y = 1.94 mm およびその主流側の y = 2.34 mm では,θ = 90 °のときと同様にとても大きな振 幅の振動がみられ,断続的な低速部分が見られる.乱れの ピークのy = 1.94 mm では 0.04 秒付近で流速が遅い部分に 細かい周期の変動が見られる.乱れのピーク位置より円柱 側の y = 1.64 mm ではピーク位置のような大きな変動に加 え 0.02 秒から 0.05 秒にかけて低速で周期の短い変動が続 いている.乱れ強さ分布で傾きに特徴的な変化のあった y = 1.14 mm では振幅の大きな緩やかな変動が観察されず, 短い周期の変動が増加し振幅も大きくなっている.円柱近 傍のy = 0.02 mm では低速の中に断続的に短い周期を持つ 実験力学 Vol. 20, No. 4(2020 年 12 月) 269 43 -剱地,本村,山田,川合:円柱表面速度境界層計測に特化した熱線流速計プローブの開発 268 42