1)聖母病院 リハビリテーション科:〒161-8521 東京都新宿区中落合 2-5-1 TEL 03-3951-1111 Email:[email protected] 2)帝京科学大学 医療科学部 理学療法学科 3)帝京科学大学 医療科学部 柔道整復学科 4) 国際医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 受付日 2017 年 12 月 25 日 受理日 2018 年 1 月 23 日
症例研究
足趾踵荷重位での立位姿勢保持運動が足部形態に
与える影響
—扁平足症例に対しての予備的研究—
嶋田裕司
1)4),昇寛
2)3),佐野徳雄
2),小俣彩香
1),丸山仁司
4) 要旨:[目的] 足趾踵荷重位での立位姿勢保持運動が,足部形態に与える影響を明らかにするための予備 的研究の位置付けとした. [対象と方法] 対象は健常成人女性 1 名とした.運動課題は足趾踵荷重位で の立位姿勢保持運動とし,週5 回の介入を 4 週間継続して実施した. [結果] 介入後において内側縦ア ーチ高率,足部柔軟性,最大一歩幅,下腿−踵部角(Leg Heel Alignment),総軌跡長,単位面積軌跡 長,動揺中心変位(x 座標)に改善がみられた. [結語] 足趾踵荷重位での立位姿勢保持運動は,内側 縦アーチ高率が向上し,足関節アライメントも改善させる.さらに,最大一歩幅が向上したことから, 前方向への動的姿勢制御機能を向上させる運動であることが示唆された. キーワード:足趾踵荷重立位,内側縦アーチ高率,足関節アライメントⅠ.はじめに
これまで足趾の運動療法に関して多くの先行研究 が実施されてきた.先行研究でも足趾機能向上によ って姿勢制御能力やバランス能力の向上が期待でき ることが言われている.足趾機能トレーニングには, タオルギャザーなどが一般的に行われているが,近 年では荷重下で様々な姿勢制御課題を実施すること が,足趾機能改善により効果的であるとの報告もさ れている 1).昇らは 2),荷重下での足趾機能トレー ニングを目的とした,足指・踵荷重起立台(実用新 案登録第3201544 号,竹井機器工業株式会社)を考 案,作製化された(図1). この起立台は,足趾と踵部のみが接地した立位姿 勢を取らせることで(以下,足趾踵荷重立位),足趾 屈曲筋群の等尺性収縮を誘発し,足趾把持筋力増強 や姿勢制御機能向上に効果があるとされている.嶋 田らは 3),足指・踵荷重起立台を使用した足指踵荷 重立位時の活動電位を表面筋電図で測定した結果, 短母趾屈筋をはじめ,下肢筋群の活動電位が有意に増加すると報告した.佐野らは 4),足趾踵荷重立位
は既存の足趾トレーニングと比較し足底内在筋の筋 活動を誘発できる運動課題であり,即時的に足趾把 持筋力を向上させると報告した.また,3 週間の実 施によってFunctional Reach Test が向上したこと から,前方向への動的姿勢制御機能を向上させる運 動であると報告した.しかしながら,足趾踵荷重立 位の足部形態に着目した検証はなされていない.そ こで本研究は,足趾踵荷重立位による筋力強化が内 側縦アーチ高率,最大一歩幅,静的バランス能力及 び足部柔軟性,足関節のアライメントから,足部形 態について検討した.
Ⅱ.対象と方法
1.対象 過去1 年間以内に骨折や靭帯損傷,疼痛など下肢 に病的な機能障害を認めない健常な成人女性1 名を 対象とした. 研究を開始するにあたり,対象者には研究の目的 と方法および被験者にならなくても不利益にならな いことを十分に説明し,同意を得た. 2.方法 ⅰ.運動課題 足指・踵荷重起立台を使用した足趾踵荷重立位と し,対象者には両側足指と踵接地で1 日 1 分間,10 セット実施する.4 週間(5 回/週の頻度)の介入を 行う.介入は,原則,検査者の管理下のもと実施し, 検査者の管理下で実施できない場合のみ,自主トレ ーニングを実施する.自主トレーニングを行う際は, 対象者にチェックシートを配布し,実施状況を記載 してもらう. ⅱ.測定項目 内側縦アーチ高率と最大一歩幅,静的バランス能 力,柔軟性,足関節のアライメントの 5 項目とし, 介入前と介入後を計測する. 内側縦アーチ高率の測定は,安静座位で舟状骨粗 面から床面までの距離と足長を計測し,舟状骨粗面 から床面までに距離を足長で除した値を用いる. 最大一歩幅は,裸足の静的立位から利き足を前方 に大きく一歩踏み出し,非利き足を踏み出した利き 足の足部に揃える動作の軸足のつま先から踏み出し たつま先までの距離とし,床面に固定したメジャー で計測する. 静的バランス能力は,開眼時における静的重心動 揺から評価する.静的重心動揺の計測は,重心動揺 計(アニマ社製)を用いて測定する.対象者は,壁 から2m に設置された重心動揺計に開眼立位の姿勢 でのり,1 分間の重心動揺を測定する.重心総移動 距離と重心移動外周面積を計算し,測定値とする. 柔軟性は,足関節の可動域から評価する.足関節の 可動域は,股関節と膝関節90 度の仰臥位におけ る足関節最大背屈角度をグラビティーゴニオメータ で3 回計測し,平均値を測定値とする.また,股関 節と膝関節伸展位における足関節最大背屈角度も同 様に計測する. 足関節のアライメントは,安静立位(足は肩幅) におけるLeg Heel Alignment(下腿部と踵部のそれ ぞれの2 等分線が成す角度,以下 LHA),デジタル カメラで撮影し,その撮影した画像はデジタルデー タのままPC に取り込み,取り込んだ画像は ImageJ というフリーソフトウェアで下腿部と踵部が成す角 度の測定を行う(図2 と図 3). ⅲ.実験に用いる装置と使用方法 足指・踵荷重起立台は,足指と踵で荷重し立位姿 勢を保持する運動機器である.足指と踵で荷重する ことで,内外側縦アーチが宙に浮き,足底筋に張力 を生じさせ立位姿勢の間中,必然的に足底筋の等尺 性 収 縮を 起こ す 設計 であ る .本 体の 寸 法は ,横 360mm,縦 330 mm,基盤厚 10 mm,踵・足指台 厚15 mm,踵台長 340 mm,足指台長 135 mm で ある.基盤上の足指台は移動可能とするため底面と 基盤にマグネット板を張り付けて固定できるように した.足指・踵荷重起立台での立位姿勢は,足のア ーチが浮く構造になっている.適応は,どのような 足指の形状の者でも実施可能である. 尚,本装置は現在日本国特許庁に特許出願済みである(登録第 3201544 号). ⅳ.実験の手続き 手順は次の通りとした.測定前,足指台に MP 関 節より末梢,踵台に踵骨部が乗るように被験者の足 の大きさに合わせて調節する.台上での立位姿勢は, 開眼で 2m・前方の目の高さに設定された目標点を 注視させ,両上肢を体側に付けさせる.前足部と踵 部が同程度の荷重となるように説明する.足指・踵 荷重起立台の足指台と踵台が,足の大きさに合わせ て調節できていることを検査者1 名が十分に確認を する.足指・踵荷重起立台での立位保持を1 分間実 施する. ⅴ.被験者への教示 被験者に対しての教示は,「体全体を真っ直ぐに立 てて,背中を伸ばして自然体で立って下さい」「右足 と左足に均等に体重をかけて下さい」「つま先と踵, 同じように意識を置いて立って下さい」の3 つとす る.ただし,足指・踵荷重起立台での立位姿勢にお いては,その台の形状の特殊性から,理解困難な被 験者には「足のアーチが浮くようにしてください」 と指示も加える. 本研究については申告すべき利益相反はない.
Ⅲ.結果
介入前後の測定結果を表1 に示す.内側縦アーチ 高率,膝関節伸展位での足関節背屈角度,最大一歩 幅,LHA,総軌跡長,単位面積軌跡長,動揺中心変 位(x 座標)では介入前後で主効果が認められた. 本研究では,足趾踵荷重立位運動の介入効果を, 足部形態に与える影響を扁平足症例に対して予備的 研究の位置付けとして実施した.その結果,内側縦 アーチ高率,膝関節伸展位での足関節背屈角度, LHA,総軌跡長,単位面積軌跡長,動揺中心変位(x 座標),最大一歩幅が向上したことから,前方向への 動的姿勢制御機能を向上が認められた.その一方で, 膝関節屈曲位での足関節背屈角度,実効値面積や動 揺中心変位(y 座標)は,介入後でも機能改善を認 めることはできなかった.Ⅳ.考察
足趾踵荷重立位運動によって,舟状骨高が増加す ることを確認することができた.これは,足趾踵荷 重立位運動を実施することで,足趾屈筋群や後脛骨 筋,足底筋膜の筋活動が増大し,舟状骨を頭側に引 き上げたと考えられる.足底筋膜は踵骨から足趾ま で付着しているため,収縮すると起始部と停止部が 近づき,足部の中央部を頭側に引き上げ,内側縦ア ーチを高める作用をもつ.また,後脛骨筋は下腿骨 間膜から舟状骨,内側,外側,中間楔状骨,立方骨, 第2,3,4 中足骨底に付着するため足底筋膜と後脛 骨筋の筋活動が高まることで,舟状骨高が増加し, 内側縦アーチが上昇したと考えられる. 右後足部アライメントは,介入前と介入後を比べ るとLHA13°から LHA5°に,LHA の値が低下した ことから,足趾踵荷重立位運動により距骨下関節の アライメントが回外位に改善された.両足の立位で は,体重の垂線は両足の舟状骨を結ぶ線の中間に落ちる.体重は下腿から足関節を経て距骨に負荷され, 距骨から足根骨,中足骨,趾骨へと分散,伝達され る.距骨は踵骨に対して前上方に位置しており,下 腿からの過度の負荷によって前内方へ滑る傾向があ る.この変化が踵骨に対する荷重負荷の作用中心を 内側へ偏位させ,踵骨を外がえし,底屈させる.踵 骨の外がえし底屈に伴い,内側縦アーチは低下する. 今回の予備的研究の介入後では,内側縦アーチは上 昇した.立位姿勢において足圧中心位置が外側へ偏 移し後足部の踵骨を回外させ,LHA の値の低下を引 き起こしたと推察される. 動的バランスの要素をもつ最大一歩幅で向上が認 められた.これは,本研究のトレーニング期間が 4 週間という短期間であったことから,村田ら 5)が推 察しているように,足指把持力トレーニングにより 足底の固有感覚が賦活されたことによる姿勢制御能 力の向上が考えられた.また,辻野らは 6),足圧中 心位置の前方移動距離と足指を鉛直下方へ圧迫する 力との間には正の相関関係が認められることを報告 している.このことから,最大一歩幅の遂行時には, 鉛直下方へ足指の大きな圧迫力も生じていることが 考えられる.そのため,足趾踵荷重立位運動の足指 への直接的効果により,足指を鉛直下方へ圧迫,把 持する能力が向上したことにより,動的な平衡機能 が向上したことが考えられる. その他,静的重心制御機能に向上が認められなか った要因として,対象者が足部および足趾の関節可 動域制限や整形外科的疾患を持たない健常成人であ ったことが考えられる.若年者においても足趾機能 トレーニングによって足趾機能が改善するとされて いるが,その多くは動的バランス機能や,パフォー マンステストの改善である.健常成人においては, そもそも静止時立位時の重心動揺は少なく,介入効 果が認められなかったと考える. 本研究では,扁平足症例に対しての予備的研究の 位置付けにとどまっており,足部形態に与える影響 を明らかにしてはいない.今後は,対象者を増やし, 今回の結果が当てはまるのか否かを明らかにすると ともに,より足趾機能が低下するとされる高齢者に 対する効果検証も行なう必要があると考える. 本研究は,足趾踵荷重立位運動の介入効果を足部 形態から予備的研究の位置付けとして実施した.そ の結果,内側縦アーチ高率,膝関節伸展位での足関 節背屈角度,最大一歩幅,LHA,総軌跡長,単位面 積軌跡長,動揺中心変位(x 座標)に向上が認めら れた.上記より,足指・踵荷重起立台を使用した足 表1.介入前後の測定結果 介入前 介入後 内側縦アーチ高率(%) 右 13.7 15 左 15.3 16.2 足部柔軟性(°) 右(屈曲位) 20 25 左(屈曲位) 25 25 右(伸展位) 10 20 左(伸展位) 15 20 最大一歩幅(cm) 106.6 113.3 LHA(°) 右 13 5 左 7 7 総軌跡長(cm) 60.6 50.59 単位面積軌跡長(1/cm) 23.95 21.71 実効値面積(cm2) 0.17 0.17 動揺中心変位 x(cm) -0.66 -0.41 動揺中心変位 y(cm) -3.2 -3.28
指踵荷重立位運動による筋力強化は,内側縦アーチ が上昇することが確認され,静的立位バランスには 影響を及ぼさないことが確認された.アーチ高が上 昇されたことにより,踵骨回外位となり後足部のア ライメントが改善された. 足部のアライメントは運動連鎖による影響をうけ 下肢全体に影響を与え,特に膝関節には関係が深い. 扁平足症例に対して有用な運動であると想定してい たが,今回の予備的研究により,膝関節に障害があ る症例に対しても有用な運動であることが示唆され た.
文献
1) Kelly LA, Kuitunen S, Racinais S:Recruitment of the plantar intrinsic foot muscles with increasing postural demand. Clin Biomech,
2012,27:46-51 2) 昇寛,石川孝司,松本泰章:足指・踵起立盤の考 案と作製.日本スポーツリハビリテーション学会 誌,2015,4:35