銘柄フラッシュ
クアルコム
(QUALCOMM Inc.) ティッカー:QCOM(ナスダック)
STAGE コード:08985 セクター:情報技術 業種:半導体・半導体製造装置
17/9 期 Q4 決算フォロー~アップルとの対立が続く
ポイント
QCT 部門が好調な一方、QTL 部門が落ち込む
アップルとの訴訟合戦が泥沼化。同業他社比でパフォーマンスは劣後
ブロードコムによる巨額買収観測をきっかけに株価は大きく反発
2017/11/1 取引終了後に発表された 17/9 期 Q4(17 年 7-9 月)決算は、ライセンス契約をめぐるアップルと
の係争に起因する技術ライセンス収入の落ち込みにより、調整後売上高
*1
と非 GAAP ベース EPS
*2
がともに
前年同期から減少。調整後売上高は前年同期比 3%減の 59.6 億ドル、非 GAAP ベース EPS は同 28%減の
0.92 ドルとなった。ただ、事前の市場予想平均(58.1 億ドル、0.82 ドル。ブルームバーグ集計、以下市場予
想)は上回った。
11/6、半導体大手のブロードコムがクアルコムの買収を提案。買収観測をきっかけにクアルコムの株価は大
きく上昇した。
*1 戦略的イニシアチブ部門等を除く
*2 株式報酬費用等を除く
株価関連指標・業績推移
企業概要
1985年に米カリフォルニア州で創業した通信用半導体メーカー。デジタル無線通信技
術の開発を手がけ、多くの特許を保有する。QCT部門(半導体製品の販売)が売上高
の7割を占めるが、高採算のQTL部門(保有特許からのライセンス収入)を主な収益源と
している。2016年10月に車載半導体大手NXPセミコンダクターズの買収を発表した。
<売上高構成比、17/9期>
地域別 中国・香港65% 韓国16% 米国2% その他16%
部門別 QCT74% QTL29% 戦略的イニシアチブ(QSI)1% その他▲3%
株価チャート
業績推移・財務データ
投資情報部 川尻 賢弥
決算期 売上高 前期比 税引前利益 前期比 純利益 EPS 配当 総資産 有利子負債 株主資本 営業CF
16/9期
23,554
▲7
6,833
5
5,705
3.81
2.02
52,359
11,757
31,778
7,400
17/9期
22,291
▲5
3,020
▲56
2,466
1.65
2.20
65,486
21,893
30,746
4,693
出所:会社資料よりみずほ証券作成
(注)単位はEPS、配当がドル、その他は百万ドル、前期比は%。米国会計基準(US-GAAP)に基づく
株価
(17/12/8)
64.24ドル
52週高値 (16/12/13)
70.23ドル
52週安値 (17/9/8)
48.92ドル
時価総額
947億ドル
売上高(18/9期予想)
229億ドル
EPS(18/9期予想)
3.60ドル
EPS(19/9期予想)
3.82ドル
EPS(12ヵ月先予想)
3.64ドル
PER(18/9期予想)
17.84 倍
PER(19/9期予想)
16.80 倍
PER(12ヵ月先予想)
17.63 倍
EV/EBITDA(18/9期予想)
11.33 倍
配当利回り
3.55 %
PBR(17/9実績)
3.08 倍
(注)ブルームバーグ集計による予想平均。EPSは
特別項目調整後
出所:ブルームバーグのデータよりみずほ証券作成
配当利回りは直近四半期実績(0.57ドル)年換算
40
50
60
70
80
14/12
15/5
15/10
16/3
16/8
17/1
17/6
17/11
出所: ブルームバーグのデータよりみ ずほ 証券作 成
(年/月)
(ドル)
(週次:14/12/8~17/12/8)
ポイント解説
QCT 部門が好調
な一方、QTL 部門
が落ち込む
QCT(半導体製品)部門の Q4 売上高は前年同期比 13%増の 46.5 億ドル、税引前利
益は同 42%増の 9.7 億ドルとなった。主力の MSM チップの Q4 出荷実績が同 4%増の
2.20 億個となり、Q3(4-6 月)決算発表時点での同社見通し(2.05 億~2.25 億個)の
中央値を上回った(図表 1)。需要の拡大や製品ミックス改善を背景に、収益性の改
善がみられた。税引前利益率は 21%と、15/9 期 Q1(14 年 10-12 月)以来となる 20%
超の水準となり、前年同期比でみると 6 四半期連続で成長している(図表 2)。
地域別にみると、中国での 5G 関連ビジネスが良好。5G 商用化、サービス拡大期に
入る 2019~20 年に向けて、5G 対応端末が投入されるとみられ、それにともないモバ
イル機器や通信基地局に使われる半導体チップも 5G 対応を迫られる。中国 OEM 向
けに MSM チップの出荷が伸びており、17 年の同社シェアは拡大している。3G から 4G
への移行時と同様に、端末の高機能化やさまざまな周波数帯への対応等による部品
搭載数の増加や単価の上昇等が考えられ、この恩恵を受ける可能性がある。
一方、QTL(技術ライセンス)部門の Q4 決算は、売上高が前年同期比 36%減の 12.1
億ドル、税引前利益が同 48%減の 8.3 億ドルとなった。同社の独占的な地位を問題視
するアップルとの司法対立の影響を Q3 に続いて受けており、ライセンス収入の減少
や訴訟費用の増加等、業績面でのネガティブな影響が顕在化している(図表 3)。
0
5
10
15
20
25
30
35
14/9 15/3 15/9 16/3 16/9 17/3 17/9
QCT部門
QTL部門
(億ドル)
(年/月)
0
5
10
15
20
25
30
14/9
15/3
15/9
16/3
16/9
17/3
17/9
(%)
(年/月)
21%
図表 3:QCT 部門と QTL 部門の
税引前利益推移
(四半期:2014/9~2017/9)
出所:会社資料よりみずほ証券作成
図表 2:QCT 部門の税引前利益率の推移
(四半期:2014/9~2017/9)
出所:ブルームバーグのデータよりみずほ証券作成
図表 1:同社の MSM チップの出荷数量
(四半期:2012/3~2017/12)
(注)QCT 部門の売上高に影響する。
17 年 10-12 月は会社見通し中央値
出所:会社資料よりみずほ証券作成
0
2
4
6
8
10
12
12
13
14
15
16
17
10-12月
7-9月
4-6月
1-3月
(年)
(億個)
ブロード コム によ
る巨額買収観測を
きっかけに株価は
大きく反発
11/6、半導体大手ブロードコムは、クアルコムに対し 1,050 億ドル相当の買収を提案
したと発表した。同社は、クアルコム株式を 1 株当たり 70 ドル(現金 60 ドルおよびブ
ロードコム株式 10 ドル相当)で買い付けを提案しており、実現すれば、2015 年のデル
による EMC の買収額を上回り、ハイテク業界の M&A では過去最大となる。
ブロードコムは、Wi-Fi 製品をはじめとした通信用製品を供給しており、16/10 期の売
上高では、アップル向け売上高
*
が全体の 10%超を占めた。ブロードコムとクアルコム
の両社にとって、アップルは重要な顧客であり、買収実現のキーファクターとなる可能
性があることから今後の動向が注目される(図表 6)。
一方、前述のようにクアルコムも NXP セミコンダクターズの買収手続きを進めている
(図表 7)。ブロードコムによるクアルコムの買収が実現すれば、同社は世界有数の巨
大半導体メーカーとなり、特にスマートフォン向け半導体では業界トップの立ち位置と
なる。
* OEM 経由と直接取引を合計した金額
図表 5:クアルコムとアップルの訴訟経緯
出所:各種資料よりみずほ証券作成
原告 被告 公表日 アップルの主張 クアルコムの主張
ライセンス料の割引分である10億ド
ルの支払いを求める -
ライセンス料を計算する基準に半導
体製品価格を使うべき
スマートフォン等端末価格を基準と
して使うのが業界慣習であり、法律
に違反していない
端末1台当たりのライセンス料に上
限が設定されていない 設定されている
クアルコム アップル 2017/4/11 -
・ ク ア ルコ ム 製 チッ プ を 搭載 した
iPhoneの性能を意図的に低く抑え
たことを明かさないよう、アップ ル側
から強要された
・アップルの提訴の内容は誤っ た内
容を含んでおり、虚偽の陳述をした
等を理由に、逆提訴
アップル クアルコム 2017/6/20
単一の通信接続用部品だけの供給
にもかかわらず、「技術利用に関す
るライセンス料」と「チップ そのもの
の対価」の二重請求を何年も要求し
続けており、アップルの技術革新に
負担をかけている
-
クアルコム アップル 2017/7/6 -
・電池の長寿 命化 や高 速処 理化
等、「iPhone」の心臓部で使われて
いる携帯電話技術特許6件が侵害
されたと主張
・米国際貿易委員会(ITC)に申し立
て、一部の「iPhone」等製品につい
て米国への輸入差し止めを求める
アップル クアルコム 2017/1/20
2016/12/30 の株価終値を 100 とした、同業他社との比較を図表 8 に示す。ブロードコ
ムの買収観測前の 10 月末までは、クアルコム株価は年初から 2 割強下落しており、
同業他社の株価と比較してもパフォーマンスが劣後する状態が続いていた。しかし、
11/3 に買収観測が報道されたことをきっかけとして、クアルコムの株価は上昇してい
る。
40
60
80
100
120
140
160
180
200
220
12/30 01/30 02/28 03/31 04/30 05/31 06/30 07/31 08/31 09/30 10/31 11/30
NVDA
AVGO
QRVO
SWKS
INTC
QCOM
(月/日)
(注 1)2016/12/30 の株価終値を 100 としたときの株価推移
(注 2)NVDA:エヌビディア、AVGO:ブロードコム、QRVO:コルボ
SWKS:スカイワークス・ソリューションズ、INTC:インテル、QCOM:クアルコム
(注 3)QRVO はみずほ証券より投資勧誘ができません
出所:ブルームバーグのデータよりみずほ証券作成
図表 8:同業 6 社の株価比較
(日次:2016/12/30~2017/12/8)
出所:各種資料、ブルームバーグのデータよりみずほ証券作成
図表 6:クアルコムとブロードコムの比較
出所:各種資料よりみずほ証券作成
図表 7:クアルコムが発表している買収予定企業
クアルコム(QCOM)
ブロードコム(AVGO)
64.24ドル
259.91ドル
947億ドル
1,060億ドル
223億ドル
176億ドル
①QCT部門(半導体製品の販売)
②QTL部門
(保有特許のライセンス収入)
③QSI部門(戦略的イニシアチブ)
①有線インフラ
②無線通信
③エンタープライズストレージ
④産業用・その他
株価(12/8)
時価総額(12/8)
直近4四半期売上高合計
保有部門
クアルコム(QCOM)
NXPセミコンダクターズ(予定)
詳細
・2016年10月に買収を発表
・18年初頭までの買収完了を目指す
金額
約470億ドル
買収(予定)企業
(16/12/30=100)