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序 論

 身近な人の死による喪失が人生において重大な出来事 であることに異を唱える人はいないと思われる.しかし その死による個人の苦痛の程度は様々である.死別によ り強く影響を受けている人たちを同定し検討する分野の 研究は始まったばかりである.死別について研究を進め る際,おそらく自分の子を亡くしたときに生じる反応が よりストレスが高いと感じると思われるが,これまでの 多くの研究者は配偶者を亡くした個人を対象に研究をし てきた.本節では死別反応を,親しい他者を喪失した個 人の反応と定義づけ,この死別反応に関する研究に着目 する.死別反応と混同すべきではない他の用語に,悲嘆 (grief)と喪(mourning)がある.悲嘆は死に限定され ない,あらゆる喪失に対する情動的・精神的反応を示す. 喪は慣習や宗教によりしばしば形式化・儀式化された死 別や悲嘆の社会的表現である.  これまで,死別を経験して間もない個人を対象に非常 に多くの長期的な追跡調査が実施されている.親を亡く した遺児に関する優れた研究はあるものの,ほとんどの 研究が配偶者を亡くした個人を対象としている.対象者 の選択方法,回答率,性別,年代,近親者の死から初回 のインタビューまでの時間,比較対照群,評価測度の選 択は,各研究によって大きく異なっており,類似性より も差異の方が勝っている状態である.その他の重要な知 見も示され,さらに議論する必要性があると思われるが, 本節では,主要な結果に焦点をあてる.  死別反応は生体におけるストレスの影響を調べるため には理想的な状態である.これは人種に特有のものでは ないため人種を超えて,またどの世代にも同様の定義づ けができる.また死別は人工的でも想像上のものでも発 明されたものでもなく,実際の出来事であり,現在起き ていることであるため,日時が特定でき,回顧的にでは なく,さらには予測的にでもなく,今直ちに研究するこ とができるという性質を有している.そして最後に,出 来事の重大性は問題にされないという性質をあげてお く.この明確で容易に特定できるストレスに関する罹患 率や死亡率について概観する前に強調しておくべきこと は,死別の経験後の多くの一般的な反応は,非常に短期 間続く茫然自失状態と様々な時期に出現するうつ状態, そしてその後の回復という事実である.回復とは,その 個人が親しい他者が亡くなる前と同じ機能レベルに戻る こと,あるいは肯定的な方向に変化することを意味する. ある個人にとっては回復に数カ月を要し,ある個人は 2 年以上を要す.Lund et al.(1993: 24)は高齢者を対象に 研究を実施し,次のように述べている.わずか 10∼15 % の死別者が慢性的なうつ病に移行し,さらにより少数の 死別者が複雑性悲嘆反応を経験する.この特定のストレ スに関する生物学的側面を調査する際には,異常な反応 だけでなく一般的で自然な反応を特定するためにも,人 口全体を対象に実施すべきである. P J Clayton

American Foundation for Suicide Prevention, New York, NY, USA

© 2007 Elsevier Inc. All rights reserved.

This article is a revision of the previous edition article by P J Clayton, volume 1, pp 304─311, © 2000, Elsevier Inc.

勝倉 りえこ〔訳〕 神田東クリニック 序 論 抑うつ症状と経過 身体症状,物質使用,治療 精神障害(うつ病,不安障害,躁病) 複雑性・外傷性の死別 死亡率 死別が招く病理学的予後とその予測因子 治 療

用語解説

苦しみを伴う,親しい他者を亡くした状 態あるいはその事実,あるいは親しい他 者が亡くなったことによる喪失. 通常の機能が過度に妨害されたもの,あ るいは身体的あるいは精神的に異常な状 態,病気. 喪失に起因する強く悲痛な苦悩. 死別を原因とする(あるいは死別を原因 とするかのようにみえる),深く悲痛な苦 悩の結果として生じた精神的あるいは行 動的に障害された状態. 悲しみの行為,あるいは悲嘆が現れてい る期間. ある成り行きや結末より引き起こされる もの. 死 別 死 別 障 害 障 害 悲 嘆 悲 嘆 複雑性悲嘆 複雑性悲嘆 予後(アウトカ ム) 予後(アウトカ ム)

死別反応

Bereavement

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抑うつ症状と経過

 血縁者を亡くした死別者の反応を研究する際,我々は 3つの異なった対象者からデータを収集した.第 1 の対 象者は,米国のセントルイスにある総合病院で亡くなっ た故人の 40 人の血縁者で構成されたグループである.第 2の対象者は,死亡証明書の中から選択された寡婦・寡 夫から成るグループであり,配偶者の死後 1,4,13 カ月 時点でインタビューが実施された.第 3 の対象者は,45 歳未満の若年の寡婦・寡夫で構成され,配偶者の死後 1 カ月以内のある時点と 1 年後にインタビューが実施され た.第 2 と第 3 対象者は,有権者登録簿(the death certificates)を通じて,これまで 1 親等の親族を亡くし ておらず,また今後の彼らの罹患率や死亡率を正確に追 跡できる,同年齢,同性別の既婚者たちと照合された. 結果を表 1 に示す.これは死別後 1 カ月および 13 カ月 時点で認められた抑うつ症状を示したものである.死別 後 1 カ月時点ではほとんどの対象者が,抑うつ気分(食 欲不振,体重減少,寝つきの悪さ,中途覚醒,早朝覚醒 といった不眠症状,顕著な落涙,疲労感,必ずしも身近 な人とは限らない周囲に対する興味の喪失,落ち着きの なさ,罪責感)を経験した.彼らが経験する罪責感とは, うつ病患者で見られる罪責感とは異なる.ほとんどの場 合,不治の病や死に際して自分が十分にかかわれなかっ たことに対する罪責感である.易刺激性は一般的であっ たが,顕在的な怒りの表出は稀であった.自殺衝動や自 殺念慮はめったにみられなかった.これらの兆候は,妻 を亡くした若年の男性対象者と,子を亡くした男性と女 性対象者にみられた.幻覚は稀な症状ではなかった.訊 ねてみると,多くの寡婦や寡夫が,亡くなった配偶者が 自分たちに触れたと感じたり,配偶者の声を聞いたり姿 を見たり,香りがすることがあることを報告した.また, いないはずなのに故人を人ごみの中で見かけたと見誤る ことは非常によくある体験であった.  我々は我々の調査協力者と,適切に実施された研究の 対象者であったうつ病の入院患者とのデータを照合し た.その結果,Freud(フロイト)が示唆したように,絶 望感,無価値感,重責感,精神運動性制止,死へのとら われ,自殺念慮といった症状において,うつ病患者と死 別者の間に差が示された.  うつ病の身体症状は,死別後 1 年以内で顕著に改善し た.気分の落ち込み(通常,特定の出来事や休暇との関 連がある),落ち着きのなさ,睡眠不足は維持されてい た.稀ではあるがいくつかの精神的な抑うつ症状は,そ う簡単には消失しなかった.我々の研究では,死別者の うつ病症状の出現頻度は,性別,配偶者を突然あるいは 長期に患った後に亡くしたか,結婚生活が幸せだったか 不幸せだったか,信仰深かったかそうではなかったかと いう点において差異は見られなかった.若い死別者の方 がより即座の強い反応を示す傾向があったが,死別後 1 年時点では,それらの影響は他の世代と同様であった. 経済状況と死別が招く結果との間にも関連性は見られな かった.  表 2 で示したように,抑うつ症状の出現頻度を地域住 民対照群と比較した場合,どの症状も死別者の方により 一般的な現象として認められた.  死別後 13 カ月時点で報告された抑うつ症状の出現頻 度について,1 年を通じて症状が持続した死別者と,症 状が最近出現し始めた死別者との間で比較した場合,後 者は,親しい他者を亡くしたことがない対照群と類似の 出現頻度であった(表 3).死別後早期に症状を呈した死 別者たちは,後になっても症状が続く傾向があった.遅 延性の心的外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder:PTSD)と同様に,遅延性の悲嘆は興味深い概 念といえるかもしれないが,これの存在についてはまだ 明らかにされていない.さらには,身体的あるいは精神 的な損傷に対する通常認められる反応は,即座の損傷で < < < 落 涙 89 33d 睡眠障害 76 48d 気分の低下 75 42d 食欲の減退 51 16d 疲労感 44 30c 記憶力の減退 41 23d 興味の喪失 40 23d 集中力の減退 36 16d 2.25 kg以上の体重減少 36 20c 罪責感 31 12d 焦燥(n=89) 48 45 逆行性の日内変動 26 22 易刺激性 24 20 罪責感 22 22 日内変動 17 10 希死念慮 16 12 絶望感 14 13 幻 覚 12 9 自殺念慮 5 3 正気を失う不安 3 4 自殺企図 0 0 無価値感 6 11 死に関する怒り 13 22b 抑うつ気分 42 16d 症 状 頻 度(%) 1カ月後 ( =149 ) 13カ月後 ( =149 ) anは症状により異なるが,大部分が 148; bMcNemarのカイ二乗の結果有意,自由度(df)=1,P 0.02; cMcNemarのカイ二重の結果有意,df=1,P0.01; dMcNemarのカイ二乗の結果有意,df=1,P0.001.Clayton, P. J.

(1982). Breavement. In: Paykel, E. S. (ed.)Handbook of affective disorders. London: Churchill Livingstone.より許可を得て転載.

表 1 死別後 1 カ月および 13 カ月時点の抑うつ症状の頻 度

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あり徐々に消失するものであるため,遅延性の悲嘆とい うのは直感と相いれない現象とも言えよう.これについ ては別の研究によって確認されている.

身体症状,物質使用,治療

 我々は,最近寡婦・寡夫となった死別者と対照群の両 群に対して,大うつ病性障害に通常みられる身体症状に ついて系統的な質問をした(表 4).概して身体症状はど ちらの群にもあまりみられなかった.1 年間観察した場 合でもうつ病による身体症状の出現頻度には両群に差異 は見られなかった.最も差異が見られたのは,主に高齢 の寡婦・寡夫に示された その他疼痛 においてであり, その疼痛の内容は関節炎関連であった.また,死別後 1 年間における医療機関の受診率や入院率についても差異 は示されなかった.この結果には議論の余地があろう.  本調査のもっとも際立った結果を表 4 に示した.死別 のような強いストレスを経験した後,アルコールや精神 安定薬,催眠薬の使用が顕著に増加した.大部分におい て,初めて使用するのではなく,以前使ったことがあっ た人たちであった.また,喫煙の頻度も増加した.死別 反応の影響によって生じた罹患率や死亡率には,こう いった行動的変化が関連している可能性がある.さらに はこのことは人々が強いストレスに曝された後にどのよ うに振舞うのかを浮き彫りにしているともいえる.  別の調査において我々は 249 人の精神科入院患者と, 同様の条件に合致した病院に入院している対照群を比較 検討した.その結果,入院前の 6 カ月間と 1 年間に 1 親 等の親族あるいは配偶者を亡くした率は両グループ間に 差は認められなかった.わずか 2 % が入院前の 6 カ月間 にそういった喪失を経験し,3,4 % が入院前 7∼12 カ 月間に経験していた.この精神科入院患者の主な診断は 気分障害であった.精神科入院患者死別者と対照群の入 院患者死別者の両者に,近親者との死別後に飲酒量が増 加したことと関連した,アルコール依存症の診断がみら れた. < < < < 落 涙 90 14e 睡眠障害 79 35e 気分の低下 80 18e 食欲の減退 53 4e 疲労感 55 23e 記憶力の減退 50 22e 興味の減退 48 11e 集中力の減退 40 13e 2.25 kg以上の体重減少 47 24e 罪責感 38 11e 焦 燥 63 27e 易刺激性 35 21b 日内変動 22 14 希死念慮 22 5e 絶望感 19 4d 幻 覚 17 2e 自殺念慮 8 1c 正気を失う不安 7 5 自殺企図 0 0 無価値感 14 15 うつ病症候群 47 8d 症 状 頻 度(%) 遺 族 ( =149 ) コントロール ( =131 ) anは症状により異なる; bカイ二乗の結果有意,自由度(df)=1,P 0.05; cカイ二重の結果有意,df=1,P 0.01; dカイ二乗の結果有意,df=1,P 0.0005. eカイ二乗の結果有意,df=1,P 0.0001.

Clayton, P. J.(1982). Breavement. In: Paykel, E. S. (ed.)Handbook of affective disorders. London: Churchill Livingstone. より許可を得て 転載. 表 2 死別後 1 年以内のある時点にある群とコントロール 群の抑うつ症状の頻度 表 3 1 カ月後時点の抑うつ症状の頻度 症 状 1カ月後時 点で症状が あった者 1カ月後時 点で症状が なかった者 (新たな症状) % % 落 涙 36 132 6 16 睡眠障害 59 113 11 35 気分の低下 49 111 22 37 食欲の減退 28 76 4 72 疲労感 45 65 19 83 記憶力の減退 34 61 15 88 興味の減退 40 57 12 84 集中力の減退 33 52 6 94 2.25 kg以上の体重減少 22 51 17 92 罪責感 25 49 6 97 落ち着きのなさ 63 43 28 46 逆行性の日内変動 39 38 17 109 易刺激性 37 35 15 113 避難されている感じ 63 32 11 111 日内変動 24 25 7 122 希死念慮 33 24 7 124 絶望感 55 20 6 128 幻 覚 29 17 6 131 自殺念慮 0 8 3 139 正気を失う恐れ 0 5 4 143 自殺企図 0 0 0 147 無価値感 56 9 8 139 死に関する怒り 63 19 16 128 うつ病症候群 27 63 8 86 Clayton, P. J.(1982). Breavement. In: Paykel, E. S. (ed.)Hand-book of affective disorders. London: Chur- chill Livingstone.より許 可を得て転載.

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精神障害(うつ病,不安障害,躁病)

 寡婦・寡夫に関する我々の先の調査では,対象者の 35 % が 1 ヵ月後の時点で抑うつ症状を呈し,4 カ月後で は 25 %,1 年後では 17 % という結果であった.また,45 % が死別後 1 年間のいずれかの時点で抑うつ症状を呈 し,11 % が 1 年を通して継続的に抑うつ症状を示した. これに第 2 対象者である若年対象者を加えたところ,42 % が 1 ヵ月後時点で抑うつ症状を呈し,16 % が 1 年後の 時点でうつ病の診断基準を満たした.対照群が 8 % で あったことに比べ,47 % が 1 年のいずれかの時点で,ま た 11 % が 1 年を通して抑うつ症状を呈した.これらの 結果は,Zisook & Schuchter(1991: 1346; 1993: 157)が 大規模に実施した調査と著しく類似していた.彼らは, 死亡証明書から情報を得た上で,寡婦・寡夫に対して調 査協力のボランティアを募った.最終対象者の人口統計 データは,第 1 群の寡婦・寡夫対象者と酷似していた. 彼らの対象者の 24 % が 2 カ月時点で,23 % が 7 カ月時 点で,16 % が 13 カ月時点で,14 % が 25 カ月時点で抑 うつ症状を呈していた.これらの全ての研究では,13 カ 月時点でのうつ症状を最も予測する因子は,1 カ月時点 での抑うつ症状であった.Zisook & Shuchter の研究で は,過去に抑うつ症状を呈した履歴も 1 年時点での抑う つを予測した.我々の研究では,うつ病患者数が十分で はなかったためか,1 年時点でのうつ病を予測したのは, 配偶者の死を経験する以前の何らかの精神疾患の罹患率 であった.1 年時点での,その他抑うつに関連した一般 的な特徴として,配偶者の死を経験する以前の身体的健 康不良であった.このことから,身体的あるいは精神的 な健康状態の悪化は,13 カ月時点で不良な結果を予測し たといえる.死亡の予測(想定内対想定外)と,死別が もたらす結果(抑うつ,死,再婚など)の両要因を特定 するための方法論上の問題はあるが,我々のデータでは, 想定外の死はより重篤な即座の反応を引き起こすが,13 カ月時点では想定内の死との差異は消失した.他の研究 結果によってこの点についても確認されている.想定外 の死に関する最良の定義は,「これまで健康であった人に 2時間以内で生じる死」である.我々はこの定義を採用 した上で,想定外の死を経験した死別者と,より長期間 末期症状を呈す疾患により亡くなった想定内の死を経験 した死別者を比較した.その結果,想定外の死を経験し た方が罹患率が高く,なかでも医療機関に受診中の死別 者に罹患率の高さと悲嘆が長引く傾向があった.  1 つ以上の研究において,最近死別を経験した死別者 の約 25 % が,死別を経験した直後に何らかの不安障害 の診断基準を満たしていた.しかしながら,その半分以 上が全般性不安障害であり,それがうつ病の重篤度に関 連していた.その他の研究では,不安障害の種類が特定 されておらず,最近死別を経験した個人が罹患する主な 障害は,大うつ病性障害単独か,うつ病と不安障害の併 存であると報告されている.死別後に何らかの不安障害 による新たなエピソードが出現することは稀であった. 不安症状はうつ病に伴って出現すると結論づけるのが賢 明であろう.  双極性の傾向を持つ個人が重大な死を経験した後に, 躁病に発展する場合が時折あるが,これはおそらくスト レスに起因した睡眠不足により 2 次的に生じるものであ ろう.

複雑性・外傷性の死別

  最 初 に 死 別 に 関 す る 論 説 を 記 し た の は 恐 ら く

Lindemann(1944: 24)であろう.これは,Coconut Grove

火災の発生後に Massachusetts General Hospital に入院 した 13 人の死別者に関する前向き観察を実施したもの であった.この死別者たちに,治療中に血縁者を亡くし た Lindemann 自身の患者や,病院で亡くなった彼の患者 の血縁者,そして国防軍(Armed Forces)のメンバーの 血縁者を加え検討した.検討の結果,彼はこれらが通常 の悲嘆反応であると考えていたのだが,おそらく多くの 死別者たちに病的反応があったであろう.研究者たちが 異常な反応について定量化を開始したのはごく最近に なってのことである.Prigerson と共同研究者たち(1995: < < < < 症 状 頻 度(%) 経験群( =149) 対照群( =131) 頭 痛 36 27 月経困難 38 20 その他疼痛 44 18b 排尿回数 30 23 便 秘 27 24 呼吸困難 27 16a 腹 痛 26 11c 霧 視 22 13 挿間性発作性不安 15 8 アルコール使用 19 9a 精神安定薬 46 8d 催眠薬 32 2d 受 診 79 80 受診 3 回以上 45 48 受診 6 回以上 27 29 入 院 22 14 全般的健康不良 10 7 aカイ二乗の結果有意,自由度(df)=1,P 0.05; bカイ二乗の結果有意,df=1,P 0.005; cカイ二重の結果有意,df=1,P 0.001; dカイ二乗の結果有意,df=1,P 0.0001;n は症状により僅か に異なる.

Springer Sciences and Business Media. New results in depression, 1986, Breavement nad its relation to clinical depression, Clayton, P. J. Berlin-Heidelberg: Spring-Verlagより特別の許可を得て転載.

表 4 喪失を経験した群と対照群の死別後 1 年以内の身体症 状発現頻度

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616)は,複雑な悲嘆を測定する評価尺度を作成している が,この尺度は悲嘆反応に特有の症状ではなく,抑うつ 症状の重篤度と関係した項目で構成されていた.この尺 度はすでに開発されていた Texas Grief Inventory や

Grief Measurement Scaleといった尺度を足掛かりとし,

以下のような症状が採用された.死へのとらわれ,泣き 叫び,故人の探し求め,死の事実の懐疑,当惑,死の否 認,故人にまつわる考えにとらわれていることに関する 質問の拒否,怒り,不信感,無関心,回避,故人が経験 した症状の模倣,幻聴や幻覚,罪責感,孤独感,敵意, 親しい他者を亡くしていない人に対する嫉妬.この評価 尺度は信頼性と基準関連妥当性が認められている.しか し,この尺度が最も重篤なうつ病を定義づけしているに 過ぎないかどうかについては,まだ明らかにされていな い.Prigerson ら(1997: 616)は,上記の症状を含めた改 訂版 Grief Measurement Scale を作成する過程で,親しい 他者の死亡前から死亡後 25 カ月までを追跡した,以前の 調査対象者を検討した.その結果,6 カ月時点のその評 価尺度の得点が高かった死別者は,31 カ月時点において も高得点を示し,喫煙や摂食の変化,抑うつ,高い最大 血圧値の間に相関関係があることが認められた.25 カ月 時点ではこれらの死別者には,単項目で測定する項目で ある,心臓の問題や癌に罹患する危険性と,頻繁な自殺 念慮の訴えが増加した.そして 2 カ月時点で複雑な悲嘆 反応を示す対象者を除外すると,これらの相関関係は消 失した.類似の評価尺度を使った研究が他にもあるが, ここでは特にオーストラリアで実施された研究を取り上 げる.これは死別という現象を査定し,核となる死別反 応の項目を測定するための尺度を開発した研究である. この尺度も死に関するイメージ,思考,故人への思慕や 思い煩い,なんらかの悲嘆症状(悲しみ,孤独感,切望, 涙もろさ,喜び感情の喪失)を測定するものである.こ れは,子どもを亡くした親,寡婦・寡夫,成人した遺児 を対象として開発された(この対象者たちの記載順は, この尺度で高い得点を示した順序を示す).しかしなが ら,質問紙と死別が招く結果の相関関係はまだ示されて いない.  これら全ての質問紙にみられる症状のいくつかは, PTSDにおいて呈される症状と類似している.つまり, PTSDが恐れや恐怖感といった気分である一方,死別反 応では喪失に基づいた悲しみや寂しさという気分である という主要な差異を示す新たなカテゴリーの存在の妥当 性を証明するのは困難ということである.これは未解決 の問題として残っている.複雑性の死別反応という診断 をすべきなのか,あるいはある特定の死別(特に突発的 で暴力的な死)を経験した後に,ある特定の個人が通常 大うつ病を併発する PTSD になると理解すべきなのだろ うか ?  この分野の研究者たちが,予後不良な遺族を特 定するための重要な死別反応を明確にしつつあることは 確かである.将来を見越せば,ストレスに対する人間の 反応を研究しているその他研究者たちのために,複雑性 の悲嘆に関する質問紙に示される症状が同定され,研究 されるべきである.より具体的には,こういった症候群 を同定できれば様々な介入法の研究をも可能にすると言 える.

死亡率

 最近の研究法(多数の男女対象者の健康に関するデー タを収集し,将来的に寡婦・寡夫になる時点を追跡し, また他の共変数の影響を統制しながら,死別反応による 死亡率を予測することを目的にした Cox ハザード回帰 法(Cox hazard regression mode)を用いる方法)によ り,死亡率に関するデータの妥当性が大いに高まること が期待されていた.しかしながら残念なことに,いまだ この方法にも議論の余地が残されている.これまで 3 つ の研究によってこの研究法が採用されている.De Leon ら(1993: 519)は,高齢者(初老期),前期高齢者(65 ∼74 歳),後期高齢者(75 歳以上)を対象として,寡婦・ 寡夫になってから 6 カ月以内の死亡率が増加することを 報告した.しかし将来的に寡婦・寡夫になる人と,寡婦・ 寡夫でない人との間には年齢差があったことから年齢が 調整された.その結果,死亡率は有意差が認められない レベルにまで小さくなった.一方,前期高齢期の女性に ついては,最初の 6 カ月間に死亡する危険率が増加し, 年齢を調整してもわずかにその危険率は減少するのみで あり,有意差を認める最低ラインを超すには十分な値で あった.著者らによれば正確には,危険な時期は死別後 6カ月よりもさらに短い時期かもしれない.Schaefer ら (1995: 1142)では,死別反応による死亡率は,年齢,教 育水準,その他死亡率を予測する要因を調整したとして も男性,女性の別なく顕著に高くなると報告されている. この研究において最も高い死亡率が見られた時期は,死 別後 7∼12 カ月間とされている.Ebrahim ら(1995: 834) は 7735 人の中年期の男性(40∼59 歳)を対象に 5 年間 の調査を実施した.対象者は未婚者,離婚者,別居中の 人,寡夫,既婚者であり,フォローアップの期間中に寡 夫になった人の死亡率の増加はみられないことを明らか にした.この結果はフォローアップ期間中に寡夫になっ た人がわずか 24 人であったことから,おそらく本知見の 解釈には限界を要するだろう.Lusyne ら(2001: 281)は 寡婦・寡夫になってから 6 カ月時点での高い死亡率を認 めており,女性より男性の方が高いことを明らかにして いる.他の研究が認めているように,最も若い寡婦・寡 夫(60 歳未満)において最も死亡率が高く,より高齢の 群になるほど率は落ち,最も高齢の群では死亡率がほと んど消失するとされる.また,配偶者を亡くした双子の 死亡率も検討された.一卵性か二卵性かは述べられてい

(6)

ないが,双子においては死別後 1 年間の前期高齢者(70 歳未満)の男女の死亡率が高いことが明らかにされた. 死亡する危険率はより長期に寡婦・寡夫である期間が長 いほど減少する傾向にあった.データは,喫煙状況,過 度なアルコール消費,教育水準,体重,循環器疾患,呼 吸器系疾患,その他慢性疾患の状態により分析され,こ れらは相対的な危険率の評価に影響を及ぼさなかった. その他の研究では,再婚(男性により多くみられる)が 死を予防することを示している.これはより健康な再婚 か再婚自体が保護的な役割を果たすからである.再婚者 の死亡率は同年齢の既婚者と同様である.これらの研究 結果を総合的に考えると,70 歳未満の男女の死亡率が高 い傾向があるという事実を支持しているといえるだろ う.  またこれらの研究からいえることは,癌や循環器疾患 といった何らかの 1 つの特定の原因によって死亡率が高 まるわけではないということであろう.しかしながら, 他の研究では,死別後に自殺率が高くなることが示され ている.より小数の対象者を調べてみると,自殺をした ほとんどの死別者は配偶者の死以前から精神的な疾患に 罹患していたことが認められる.100 人の初老期にあっ た自殺者に関する症例対照研究では,他の原因により自 殺した人と比較すると,自殺者の主要な独立危険因子は 家族間の不和と精神疾患(主にうつ病と物質使用)であっ た.一方,近年の研究ではこの 2 つの群間には差が見ら れていない.

死別が招く病理学的予後とその予測因子

 病理学的予後の予測変数について概観する前に,(残念 なことに寡婦・寡夫になる前のパーソナリティ傾向や変 数を測定したものは存在しないのだが)死亡率に関する 研究も含め,寡婦・寡夫に関する全ての研究が精神的な 安定度が,良好な予後の予測因子であることを強調して いる点をあげておく.また,死別後の最初の 1 カ月間に 睡眠の問題がないことや低い抑うつ得点であることが良 好な予後を予測するとされている.  死別が招く予後を評価する方法は多数ある.孤独感が 死別後の最も特徴的な反応であることは確かであり,こ れが何年もの間持続する.精神疾患の罹患率に関連して 言及するならば,死別 1 年後に測定された慢性的な抑う つと複雑な死別の両者は顕著な罹患率と関連している. 一方,身体的な病気の罹患率もある.死別後に注目した 死亡率については,さらなる研究が必要である.  慢性的な抑うつを明確に予測する要因は非常に少な い.特定の精神疾患(特にうつ病)の既往歴がある場合 と,過去の不良な身体的健康がその予測因子である.ま た死別 1 カ月後の抑うつが確かな予測因子でもある.お そらく突然で全く予測していなかった死による死別経験 が予測因子といえるだろう.予想外という性質ではなく てむしろ,それが暴力的な性質を呈しているかという点 かもしれないが,今後研究データの収集が蓄積されてい けば予測の精度は高まるだろう.その他全ての変数,性 別,年齢の若さ,ソーシャルサポートの不足,所得額は, 慢性の抑うつを予測しなかった.ここで性差について取 り上げておかなければならない.それは,大うつ病性障 害は男性より女性に圧倒的によくみられるのだが,死別 後の慢性的な抑うつについては,そうではないからであ る.ストレスに関連した抑うつはどちらの性にも等しく 影響を与えるのである.

治 療

 喪失を経験したほとんどの死別者たちは,なんらかの 介入がなくとも徐々に回復するだろう.おそらくグリー フカウンセリングといわれるカウンセリングに関する全 ての研究を概観した最近の際立ったレヴューからも,こ の点が示唆されている.それはそのようなカウンセリン グの効果はかなり不十分で,むしろ有害な場合もあると いう指摘である.慢性的なうつや複雑な悲嘆反応を示し ている死別者には,死別後 6 カ月時点での介入が必要と されている.最近の報告によれば,長期(2 年以上)に 及ぶ複雑な悲嘆反応を示す 95 人の対象者が,対人関係療 法(interpersonal therapy:IPT)か,複雑性悲嘆療法(ト ラウマ向けの技法に基づいた認知療法を含めた修正版 IPT)のどちらか一方に無作為に割り付けられた.その 結果,治療を終えた死別者をみてみると,複雑性悲嘆療 法の方が,特に暴力的な死を経験した死別者たちに対し て,IPT より優れた効果を示した.それでも奏功率はわ ずか 51 % であった.また患者らに大うつ性障害と PTSD の高い併存率もみられ,その 45 % が抗うつ剤を服用し た.複雑性悲嘆療法は Jordan & Neimeyer(2003: 765)が 研究者に研究推進を喚起した,死別者の中のある特定の 対象者に必要な療法の一種であるといえるかもしれな い.最も重要なのは,これらの療法の要素が他のストレ ス性の疾患に適用されることかもしれない.  抗うつ剤も使われるようになり効果が認められてい る.たとえばより以前の研究で,高齢になってから死別 を経験した大うつ病性障害患者に対し nortriptyline(訳 注:三環系抗うつ薬)を用いた試みがある.nortriptyline のみ,IPT のみ,nortriptyline と IPT,無治療のいずれか の 治 療 法 が 適 用 さ れ た 結 果,nortriptyline の み と nortriptylineに IPT を加えた治療を実施した群のうつ症 状が顕著に奏功した.IPT のみ群はプラセボ群(無治療 群)とほとんど効果に差がみられなかった.本研究結果 で注目すべき点は,いずれの治療法を実施し終えた後も 再発がほとんど見られなかったことと,nortriptyline を 用いた 2 群とプラセボ群の奏功率が比較的高かったこと

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である.ここで注意を喚起する必要がある点として,患 者が精神病であったり自殺衝動が高い場合は,電気痙攣 療法(electroconvulsive therapy:ECT)の適用を検討す ることも忘れてはならないことを付け加えておく.

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参照

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