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インド経済見通し~公共投資と農村部の回復で7%台半ばの成長を維持

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Academic year: 2021

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| |ニッセイ基礎研レター 2018-09-07|Copyright ©2018 NLI Research Institute All rights reserved (経済概況:消費主導の力強い成長軌道に) 4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比 8.2% 増と、高成長だった前期の同 7.7%増から更に 上昇し、2 年ぶりの 8%成長に到達した(図表 1)。 インド経済は 16 年 11 月の高額紙幣廃止や 17 年 7 月の物品サービス税(GST)導入を背景とす る景気停滞局面を脱し、消費主導の力強い成長 軌道が戻りつつある。 GDP を需要項目別に見ると、民間消費の拡大 が成長率を押し上げた。 民間消費は同 8.6%増(前期:同 6.7%増)と 加速し、過去 6 四半期で最大の伸びとなった。 また投資も好調だった前期の同 14.4%増に続 いて同 10.0%増の二桁成長を記録した。政府消 費は同 7.6%増(前期:同 16.9%増)と低下し たものの、堅調を維持した。比較対象となる昨 (図表 1) (図表 2) ▲3% ▲2% ▲1% 0% 1% 2% 3% 4% 5% 6% 7% 8% 9% 10% 11% 2015 2016 2017 2018 民間消費 政府消費 総固定資本形成 在庫変動 貴重品 純輸出 統計誤差 実質GDP成長率 インドの実質GDP成長率(需要側) (前年同期比) (四半期) (資料)CEIC -30% -20% -10% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 2015 2016 2017 2018 インドの乗用車・二輪車販売台数 (資料)CEIC (月次) (前年同月比) 二輪車 乗用車

2018-09-07

基礎研

レター

インド経済見通し

~公共投資と農村部の回復で 7%台半ばの成長を維持

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠 (03)3512-1780 msaitou@nli-research.co.jp ニッセイ基礎研究所 インド経済は高額紙幣の廃止や物品・サービス税(GST)導入による景気停滞局面から脱 し、消費主導の力強い成長軌道に戻ってきている。経済の先行きは、7-9 月期までは昨年の景気 低迷の反動から高めの成長が続き、その後はベース効果の剥落によって成長率が低下するだろ う。しかし、来春に総選挙を控えるなかで公共投資と農村部の消費が拡大して成長ペースは 7% 台半ばで堅調を維持すると予想する。もっともインド政府の財政余力は小さく、不良債権問題 を背景に設備投資の本格回復には時間がかかるため、モディ政権が狙う8%台の経済成長の達 成は依然として見込みにくい。

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| |ニッセイ基礎研レター 2018-09-07|Copyright ©2018 NLI Research Institute All rights reserved 年 4-6 月が高額紙幣廃止後の現金不足や GST 導 入前の経済の混乱で消費と投資が鈍化していた ことから、ベース効果が民間消費と投資の伸び を押し上げたと考えられる。実際、現金購入割 合が多い二輪車の販売台数は通貨供給量の回復 により好調が続いており、6 月の乗用車販売台 数は昨年 GST 導入に伴う値下げを控えて落ち込 んだ反動により大きく上昇している(図表 2)。 雇用情勢はやや悪化傾向にあるが、昨年低迷し た消費者マインドが都市部を中心に持ち直して きていることも、消費拡大をサポートとしたとみられる(図表 3)。また政府が取り組むインフラ整備 事業や農村支援策、中小企業の法人税減税なども内需拡大に寄与したとみられる。 外需については、まず輸出が同 12.7%増(前期:同 3.6%増)と大きく上昇し、ベース効果やルピ ー安などを背景に過去 4 年間で最大の伸びを記録した。また輸入についても同 12.5%増(前期:同 10.9%増)とやや上昇した。結果として、純輸出の成長率寄与度は▲0.4%ポイント(前期:▲1.5% ポイント)と大きく改善した。 (経済見通し:年度後半に景気減速も 7%台半ばの成長ペースを維持) 経済の先行きは、7-9 月期までは GST 導入による景気減速の反動から高めの成長が続きそうだ。そ の後はベース効果の剥落によって成長率の低下は避けられないが、来春に総選挙を控えるなかで公共 投資と農村部の消費が拡大することから景気は堅調を維持するだろう。 まず公共部門は引き続き成長ドライバーとなるだろう。モディ政権は今年度予算で財政赤字目標 (GDP 比)を後退させてインフラ整備や農村・中小企業支援策に重点配分しており、来春の総選挙を 控えて政府支出を拡大1させるだろう。もっともインドは中期的な財政健全化計画の途上にあり、総選 挙後には財政再建を進める可能性が高く、19 年度後半には公共部門の景気の押上げが期待できなくな りそうだ。 民間消費は堅調を維持しそうだ。農作物の最低調達価格(MSP)の引上げと今年のカリフ作の穀物生 産の拡大を背景に農業所得が回復、建設労働者の雇用も増加することから雇用・所得環境は改善に向 かうだろう。一方、今後の物価上昇が家計の実質所得を目減りさせるほか、RBI の連続した利上げが 重石となってくるため、更なる消費の加速は見込みにくい。 民間投資については、まずインフラや住宅開発などの政府プロジェクトが呼び水となって建設投資 を引き続きサポートしよう。また内需拡大を背景として、製造業の設備稼働率が上向いて企業が生産 能力の拡張に前向きになってきているほか、景気が回復したインド市場を魅力的な投資先とみて外国 直接投資が前年を上回って推移していることから、設備投資も底堅く推移しそうだ。さらに今後は GST 導入や破産倒産法などモディ政権の構造改革のプラス効果が顕在化することも投資の持続的な拡大を 1 インド政府は今年度予算案の公表時に、財政赤字目標(GDP 比)を従来の 3.0%から 3.3%に修正している。今年度の連邦政府予算案の歳 出は前年度比10.1%増と、地方開発や農産品の最低支持価格(MSP)の引上げなど選挙色の強い内容となっている。 (図表 3) 80 85 90 95 100 105 110 16/1 16/4 16/7 16/10 17/1 17/4 17/7 17/10 18/1 18/4 18/7 インド 消費者信頼感指数 全国 都市部 農村部 (資料)BSE,CMIE (2015年9-12月=100) (年/月)

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| |ニッセイ基礎研レター 2018-09-07|Copyright ©2018 NLI Research Institute All rights reserved サポートするものと見込まれる。一方、金利が上昇するなか、国有銀行は不良債権処理を進めていく ことから鉱工業向けの貸出は伸び悩むだろう。設備投資の本格回復には時間がかかりそうだ。 外需は米中貿易戦争を背景とする世界貿易環境の悪化が懸念されるものの、世界経済の持続的拡大 や GST 導入に伴う混乱の収束から輸出の増加傾向が続くだろう。一方、輸入も内需拡大によって堅調 に推移することから、外需は今後も成長率に対してマイナスに働くものと見込まれる。 実質 GDP 成長率は 18 年度が 7.4%、19 年度が 7.3%となり、高額紙幣廃止と GST 導入に伴う混乱に よって低下した 17 年度の 6.7%から上昇し、概ね巡航速度の成長ペースが続くと予想する。 (農村部の消費回復を左右するカリフ作) 南西モンスーンの雨に依存するカリフ作(雨季作、6-9 月)は、過去 2 年間概ね平年ベースの雨量 が得られ、穀物生産量は 2 年連続で増加しているが、穀物や豆類は大幅な生産増を背景に市場価格が 低迷しており、農業所得の増加を阻んでいる(図表 4)。一部の州では農民に対する債務免除を実施す る事態にまで発展しており、2022 年までの農家の所得倍増を掲げる政府の思惑通りには進んでいない。 来春に総選挙を控えるモディ政権は選挙での集票を意識しており、7 月 4 日に今年のカリフ期に収 穫される作物の最低調達価格(MSP)の引上げ(前年比 14.8%増、加重平均ベース)を発表した(図 表 5)。これを受けてカリフ期の作付けが伸びてきているほか、南西モンスーンの雨量が今年も通常レ ベルになると見込まれるため2、カリフ作の穀物生産は 3 年連続で増加すると期待できる。農産物の価 格と生産量が揃って拡大すると農業所得が増加し、農村部の購買力は向上する。実際、足もとの農村 部の消費者信頼感指数は 2 カ月連続で上昇している(図表 3)。民間消費は都市部に続いて農村部の回 復がサポートすることになりそうだ。 (為替の動向)ルピー安が進行 インドルピー(対米ドルレート)は足元で 1 ドル 70 ルピーまで下落して、史上最安値を更新してい る(図表 6)。昨年こそ世界同時景気回復を背景にリスクオンの相場展開が続いて増価したが、今年は 一転して下落傾向にある。米国の金融引き締めを背景とした米ドル高にはじまり、米中貿易戦争の過 2 インド気象庁(IMD)によると、今年の南西モンスーンの降雨量は 8 月までで通常の 94%程度(やや雨不足)となっているが、9 月まで に通常の97%程度(平年並み)まで雨量が回復すると予想されている。 (図表 4) (図表 5) -15% -10% -5% 0% 5% 10% 15% 20% 14/1 14/7 15/1 15/7 16/1 16/7 17/1 17/7 18/1 18/7 穀物価格と就農者賃金 農村部賃金(就農者) 卸売穀物価格 (前年同月比) (資料)CEIC,Bloomberg (年/月) ▲10% ▲5% 0 +5% +10% +15% +20% +25% +30% +35% 0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600 1,800 2,000 00 02 04 06 08 10 12 14 16 18 コメの最低調達価格の推移 コメの最低調達価格 伸び率(前年比、右目盛) (ルピー/quintal) (年度) (資料)農業・農民福祉省

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| |ニッセイ基礎研レター 2018-09-07|Copyright ©2018 NLI Research Institute All rights reserved 熱による世界経済の悪化観測と人民元安、米国 のイラン産原油の禁輸制裁3等による原油価格 の上昇、そして 8 月には対米関係の悪化をきっ かけにトルコショックが起き、新興国からの資 金流出は現在まで続いている。市場の矛先は経 済のファンダメンタルズが脆弱なアルゼンチン やトルコ、ブラジル、南アフリカといった国に 向いているが、経常赤字を抱えるインドも資金 流出圧力が相対的に強い新興国の1つとなって いる。なお、6 月と 8 月にはインド準備銀行(中 央銀行、RBI)がインフレ加速を背景に 2 会合連 続の利上げを打ち出したが、ルピー相場は一時 的な上昇に止まった。 先行きもルピーは下落傾向が続くだろう。今 後も欧米の金融政策の正常化が続くことから新 興国からの資金流出が続く可能性は高そうだ。 また原油高や農産物価格上昇によるインフレ加 速や貿易赤字の拡大が懸念されるほか、景気回 復局面がピークを迎えつつあることもルピー売りの材料となると予想される。さらに来年の総選挙を 控えて通貨が不安定化する恐れもある。直近の世論調査を見ると、モディ首相個人の人気は依然とし て高いものの、与党連合に対する支持が低下している結果が出た調査もあり(図表 7)、来年の総選挙 の混戦模様が浮かび上がってきている。 (物価・金融政策の動向)年内は物価安定、金融政策も据え置きを予想 インフレ率(CPI 上昇率)は、2015 年から 2016 年にかけては原油価格の低迷などから概ね 4-5%台で 推移していた後、高額紙幣廃止とGST導入に伴う経済の混乱と景気減速を受けて2017年半ばには+2% を下回るまで低下した(図表 8)。昨年後半からは消費需要の回復や原油価格の上昇を背景にインフ レ率は一時+5%を上回ったものの、年明け以降は食品価格の低迷により物価上昇圧力が後退して+ 5%弱(RBI の物価目標 4±2%の範囲内)で推移している。 先行きのインフレ率は、ベース効果の剥落から当面落ち着いて推移するだろうが、年明け頃から再 び上向くと予想する。11 月以降のカリフ作の収穫期には政府による農作物の最低調達価格(MSP) の引上げによる食品価格の上昇が見込まれるほか、農村部の消費需要が拡大でコアインフレも加速す るだろう。また当研究所では、原油価格の先行きは上値が重いが、緩やかな上昇を予想している。石 油を輸入に頼るインドにとって燃料価格の値上げは勿論のこと、貿易赤字の拡大にも繋がるために新 興国市場からの資金流出との相乗効果で通貨ルピー安が進み、輸入品の価格上昇が引き続き物価上昇 3 インドは中国に次いでイラン産原油輸入の世界 2 位であり、米国からイランからの原油輸入を停止するように要請されている。 (図表 6) (図表 7) 60 62 64 66 68 70 72 20,000 22,000 24,000 26,000 28,000 30,000 32,000 34,000 36,000 38,000 40,000 15/1 15/7 16/1 16/7 17/1 17/7 18/1 18/7 インドSENSEX指数 ルピー相場(対ドル、右目盛) インドの株価指数と為替レート (年/月) (資料)CEIC (ポイント) (ルピー/ドル) (ルピー高) (ルピー安) 45 40 37 29 30 32 26 30 31 20 25 30 35 40 45 50 17年5月 調査 18年1月 調査 18年5月 調査 2019年総選挙で投票する政党 国民民主同盟(NDA、与党連合) 統一進歩同盟(UPA、野党連合) その他 (資料)Lokniti-CSDS (%)

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| |ニッセイ基礎研レター 2018-09-07|Copyright ©2018 NLI Research Institute All rights reserved 要因として働くことになるだろう。 インド準備銀行は 2015 年以降、原油価格の下落等により低めのインフレ環境が続いたことから昨年 8 月にかけて計 7 回の利下げ(計▲2.0%)を行うなど緩和的な金融政策を続けてきたが(図表 9)、 昨年後半からのインフレ加速を受けて 6 月と 8 月の金融政策委員会(MPC)で 2 会合連続の利上げに踏 み切った。声明文では、コア CPI の上昇傾向や原油価格上昇によりインフレリスクが高まったことを 利上げの背景として挙げている。 RBI は声明文で「今後数ヶ月はインフレ率を巡る不確実性について注視する必要がある」としつつ、 金融政策のスタンスは「中立」を維持している。当面はインフレ率が落ち着いて推移するほか、2 会 合連続の利上げの効果を見極めるため、RBI は金融政策を据え置くだろう。しかし、年明け頃からイ ンフレ率が再び上向くと、RBI は引き締め気味の政策スタンスに転じると予想する。 (お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供 が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。 (図表 8) (図表 9) -2% 0% 2% 4% 6% 8% 10% 12% 2013 2014 2015 2016 2017 2018 食料・飲料・たばこ 燃料・光熱 衣類・家具 その他 CPI上昇率 インドの消費者物価上昇率 (前年同月比、%) (月次) (資料)CEIC 4 5 6 7 8 9 10 11 13/1 13/7 14/1 14/7 15/1 15/7 16/1 16/7 17/1 17/7 18/1 18/7 (%) (年/月) インド 政策金利と銀行間金利 レポ金利(政策金利) 限界貸出ファシリティ金利 リバース・レポ金利 銀行間翌日物金利 (資料)CEIC

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