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2 学校図書館における電子書籍利用の現状と課題 植村八潮 抄録大学図書館や公共図書館における電子書籍の導入 利用が進む中,ICT 活用教育の流れに合わせて, 学校図書館における電子書籍利用への期待が高まっている 本稿では, 大学図書館 公共図書館における電子書籍の導入と電子書籍市場の背景を踏まえ,

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課題

植村八潮 抄録 大学図書館や公共図書館における電子書籍の導入・利用が進む中,ICT 活用教育の流れに合わせて,学校図書館における電子 書籍利用への期待が高まっている。本稿では,大学図書館・公共図書館における電子書籍の導入と電子書籍市場の背景を踏まえ, 学校図書館における電子書籍利用の現状について述べる。 ◎キーワード 電子書籍,電子図書館,学校図書館,大学図書館,公共図書館

Current Status and Issues of E-Book Use in School Libraries

Yashio Uemura Abstract

As the introduction and use of e-books in university libraries and public libraries has been progressing, expectations for the use of e-books in school libraries have been increasing in line with the trend of ICT utilization education. This paper describes the current state of e-book use in school libraries, based on the background of the e-book market and the introduction of e-books in university libraries and public libraries.

Keywords: e-book, electronic library, school library, university library, public library

1

はじめに

学術情報資源の電子化が先行した大学図書館に続き, 一般に電子書籍が普及する中で,公共図書館においても 電子書籍の導入と利用が進展している。学校図書館では ICT利活用教育の流れを受けて,電子書籍の利用が一部 で始まっている。また,2019 年 6 月に「視覚障害者等 の読書環境の整備の推進に関する法律(読書バリアフ リー法)」が施行されたことで,公共図書館における音 訳サービスや,学校教育でディスレクシアなどの障害児 童に対して,アクセシブルな電子書籍の活用が期待され ている。 筆者らの研究グループは,2013 年より毎年,電子出 版制作・流通協議会と共同で,「電子図書館・電子書籍 貸出サービス調査」を行い,調査報告書を刊行してい る[1]。また,2015 年に「学校図書館における電子資 料・電子情報資源に対する現状調査」を行い,この成果 をもとに 2016 年に「学校図書館における電子書籍利用 モデルの構築」および,科学研究費助成事業「学校図書 館における電子書籍利用環境構築のための実証的研究」 に取り組んできた。 本稿は,これらの研究成果をもとに,学校図書館にお ける電子書籍利用の現状と課題について述べていく。研 究調査に着手した頃は,学校図書館での電子書籍利用実 績は皆無であったが,この 6 年間で検討が進み,この数 年でわずかながら導入実績が出てきた。現在,全国で 50校程度(2019 年 12 月時点)であり,その大半が私立 学校である[2] 本稿で使用する用語について確認しておく。図書館情 報学や図書館の現場では,電子書籍を広く電子情報資源 ととらえ,「電子資料」あるいは「電子図書」と呼ぶこ とも多いが,本稿では「電子書籍」を主に用い,必要に 応じて他の名称を用いる。また,日本図書館情報学会用 語辞典編集委員会編『図書館情報学用語辞典(第 4 版)』[3]では,電子図書館について,「〈1〉電子図書の 提供サービスだけではない,〈2〉全文データベースサー ビスだけではない,〈3〉単なるネットワーク情報資源の 蓄積ではない,などは,必要条件となろう」と解説して いる。これに従えば,図書館における電子書籍の貸出 サービスは「電子図書館」の一部機能に過ぎない。な お,「電子書籍貸出サービス」という表現は,書籍貸出 の延長線上で理解しやすいことから一般化しているが, 正確な表現とは言い難い。電子書籍はデータであって所 有できないことから「貸出」はできず,「閲覧サービス」 と表現することが正確である。

2

電子書籍市場の現状

2.1

市場規模 2010年の電子書籍ブーム以降,電子書籍の売り上げ は伸び続けている。全国出版協会・出版科学研究所の調 査によると,2019 年の紙と電子を合算した推定販売金 額は前年比 0.2% 増の 15,432 億円である。2014 年に電子 連絡先:yashio@isc.senshu-u.ac.jp 専修大学・文学部

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出版市場の統計を取り始めて以来,紙と電子の合計で初 めて前年を上回った。 電子出版市場は 3,072 億円(対前年比 23.9% 増)とな り,出版市場全体における電子のシェアは 19.9% で,ほ ぼ 2 割を占めるまでに成長した。なかでも電子コミック は 2,593 億円(同 29.5% 増)に急増している。文字系電 子書籍は 349 億円(同 8.7% 増)と伸びが緩やかだが, 電子化の作品点数も確実に増えており堅調である。

2.2

電子書籍の流通点数 現在,流通する電子書籍の点数について,はっきりし た数はわからない。国立国会図書館オンライン小委員会 (2019 年 12 月 20 日)[4]での大手電子取次に対するヒア リングによると,電子書籍を発行している出版社数は 1,300社,500 サイトの電子書店と取引をし,電子書籍 タイトル数は 60 万点で,1 年で約 6 万タイトル増えて いる。この場合のタイトル数は 1 作品を 1 点と数える。 電子図書館で提供されている点数は,大手電子図書館 ベンダー(TRC-DL)で 73,000 点,そのうち epub ファ イル形式のリフロー型電子書籍(HTML のような文字の 再流動型)が 42,000 点で,残りは主に pdf ファイル形 式のフィックス型電子書籍(固定レイアウト型)であ る。フィックス型である電子コミックの大半は,図書館 向けに提供されていないとはいえ,電子書籍の販売点数 に比べ,まだ少ない状況である[5] 安形ら(2018)[6]は,国会図書館所蔵資料を対象に, 各年 5,000 点の無作為抽出による電子書籍化率の調査を 行っている。それによると,2017 年の電子書籍化率は, 平均 36.8% で,なかでも大手出版社である講談社が 75.4%,小学館が 67.4%,KADOKAWA が 84.6% と,高い 水準を示している。大手出版社の電子化率はその後も進 み,現在では絵本など一部を除き,大半の出版物が電子 化されている。特に新刊では紙版と電子版は同時発売さ れている。

3

図書館における電子書籍の現状

3.1

電子図書館が扱う電子書籍 公共図書館が扱う対象となる電子書籍は,一般書や文 芸書,実用書などを電子化したものである。 電子図書館のサービスベンダーとしては,図書館流通 センターと紀伊國屋書店などが組んだ LibrariE & TRC-DL[7]やメディアドゥが代理店となっている OverDrive Japan[8]がある。これに対して大学図書館では,主に大 学教科書や学術書を電子化した電子書籍が提供されてい る。サ ー ビ ス ベ ン ダ ー と し て は,丸 善 雄 松 堂 の

Maruzen eBook Library[9] や 紀 伊 國 屋 書 店 の KinoDen[10]がある。 前者は主にリフロー型電子書籍で,後者はフィックス 型電子書籍が多いなど,今のところ取り扱う電子書籍に 違いはある。しかし,今後,両者の違いはなくなり,公 共図書館,大学図書館,学校図書館を問わずサービスを 展開して,図書館の電子書籍プラットフォームとして競 い合うことが期待される。

3.2

大学図書館での電子資料 大学図書館では,1990 年代の電子図書館構想に始ま り,電子ジャーナルや機関リポジトリの構築など,四半 世紀にわたり電子資料の導入と利用が進んできた。 「平成 29 年度学術情報基盤実態調査(旧大学図書館実 態調査)」[11]によると,2016 年度における大学図書館に おける図書館資料費では,電子媒体資料費(電子ジャー ナルと電子書籍)が 315 億円となり,紙媒体資料費(図 書と雑誌)302 億円を初めて超えている。これは国公私 立大学計 783 大学(国立 86,公立 89,私立 608)に対 する調査結果(回答率 100%)の合計値であることから, 電子資料の利活用が進んでいる自然科学系学部を擁する 大学ではもっと早い段階で超えていたと考えられる。 大学図書館における「電子書籍サービス」の利用は 97%にのぼり,「電子ジャーナル」「データベース提供 サービス」「機関リポジトリ」と並ぶ基本的な電子資料 サービスの 1 つに成長した。

3.3

公共図書館での電子書籍 公共図書館で電子書籍サービスの検討が本格化したの は 2010 年代である。しかし,全国で 3,292 館ある公共 図書館(中央館 1,377 館)のうち,実施館は,88 館(91 自治体)にすぎない(2020 年 1 月 1 日現在)[12]。大学 図書館と比較して極めて低い率にとどまっている。ま た,筆者らの 2019 年の調査[13]によると,公共図書館に よる地域の学校図書館への支援活動のうち,紙の資料・ 書籍については,回答をよせた図書館のうち 391 館 (93.1%)が支援を行っていた。また,「小中学校の生徒 向けに,学校図書館・公共図書館の活用の説明を行って いる」についても 223 館(53.1%)が実施しているとい う回答であった。一方,「デジタル資料・電子書籍に関 する支援」は 8 館(1.9%)で,2018 年の 5 館(1.0%) よりは増加したものの,まだ大半の図書館でデジタル資 料等の支援が実施されていないという結果であった。

(3)

4

学校図書館における電子書籍利用の検討

4.1

学校図書館における検討経緯 児童生徒が変化の激しい情報化社会を生きていくため には,主体的に学んでいくことが重要であり,学校図書 館を読書センターとしてだけでなく,学習・情報セン ターとして機能させていかなければならない。そのため には,学校図書館では図書だけでなく視聴覚資料や電子 資料・電子情報資源などの多種多様なメディアが必要と なる。このような学校図書館における学習・情報セン ターとしての機能については,情報化社会の到来が喧伝 され始めた 1990 年代半ば頃から検討されてきた。 最近では,学校教育および学校図書館においても電子 書籍利用の検討が始まっている。その背景にあるもの は,一般における電子書籍ブームではなく,初等中等教 育における ICT 活用教育への注目と期待であり,教科 書のデジタル化である。 いち早く「指導者用デジタル教科書」を手がけたの は,2005 年の光村図書出版である[14]。2019 年 4 月 1 日 から学校教育法等の法改正により「学習者用デジタル教 科書」が制度化され,2020 年度以降,本格的な導入が 予定されている。 このようなデジタル教科書や ICT 教育への注目に比 して,学校図書館における電子資料の利用は,遅れてい る。2016 年 10 月に公表された文部科学省「学校図書館 の整備充実に関する調査研究協力者会議」の報告書『こ れからの学校図書館の整備充実について(報告)』[15]で, 学校図書館における図書館資料として,「電子資料」の 項目が登場した。ただし,電子書籍を図書館で利用する ための環境整備や,司書教諭・学校司書など現場の担当 者が必要とするスキルなど,具体的方法については検討 されていない。 文部科学省は,2017 年 11 月に,この報告書を受け て,『学校図書館ガイドライン』[16]を定めている。この ガイドラインでは,学校図書館における図書館資料につ いて「図書資料のほか,雑誌,新聞,視聴覚資料(CD, DVD等),電子資料(CD-ROM,ネットワーク情報資源 (ネットワークを介して得られる情報コンテンツ)等), ファイル資料,パンフレット,自校独自の資料,模型等 の図書以外の資料が含まれる」として,電子資料を取り 上げている。学校図書館を「情報センター」として機能 させるために,電子書籍(電子図書)に着目したもの の,外国語教育や支援教育といった限定的な利活用でし かなく,普通教育において図書に代わって活用すること に考えは至っていない。 筆者らは,このような状況を背景に調査研究や実証実 験を行い,その成果をもとに学校図書館における電子書 籍の必要性や利活用について,文部科学省など関係方面 に働きかけてきた。共同研究者の野口武悟は,2017 年 度の「子供の読書活動推進に関する有識者会議」委員と して,成果をもとに電子書籍による読書活動の正当性を 発言している。その結果,2018 年 4 月に閣議決定した 「子供の読書活動の推進に関する基本的な計画(第四 次)」[17]において,初めて読書について「電子書籍等の 情報通信技術を活用した読書も含む」と明示された。

4.2

学校図書館における電子書籍未導入の問題 学校図書館における電子書籍の導入にあたって,植村 ら(2016)は,次の問題点を指摘している[18] ① 学校図書館におけるパソコン導入率が極めて低く, 求められる機能・将来像と現状の間で乖離している。 ② 学校図書館の電子書籍の利用にあたって,問題点や 課題抽出ができていない。このため,求められる機能 やインターフェースが不明である。 ③ 司書教諭・学校司書における電子書籍に対する理解 度調査が行われていないため,具体的な導入に向けて の研修カリキュラムが確立できていない。 ④ 児童生徒の学校外でのスマートフォンの利用,SNS による情報収集が高まる一方で,学校図書館は未だ紙 の書籍主体にとどまっている。 ⑤ 学校においては,デジタル教科書などを生徒用にタ ブレット端末で利用するモデルは示されているもの の,それらの電子書籍を学校内でどのように蓄積・共 有・提供するのかについては十分に検討されていな い。 ⑥ 図書館資料の会計処理の問題(電子書籍をモノとし て処理できるのかどうか),その判断根拠となる法律 上の不備(現行「学校図書館法」上の図書館資料の定 義に電子書籍が明確に位置づけられていない)が指摘 できる。 ⑦ 学校図書館の電子書籍の利用や導入が進まない一方 で,大学図書館では電子書籍,電子ジャーナル,デー タベースなどの多様な電子資料が整備され,講義にお いても学生の積極的な利用が推奨されている。高校と 大学の図書館利用に断絶がある。

5

学校図書館における電子書籍の活用

5.1

学校図書館向け電子書籍利用実証調査 筆者らは,学校図書館で電子書籍を導入・利用できる 環境を試験的に構築し,学校図書館向け電子書籍利用の

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実証的検討を行った。 具体的には,公共図書館で既に利用実績のある 2 つの 電子図書館システムを流用して,11 校の公立・私立学 校(小学校~高等学校)に協力をいただき,電子書籍を 実践的に利用できる環境を各学校の学校図書館に整え た。これらのシステムをおよそ 3,000 人の児童生徒と教 職員に実際に利用してもらい,アンケートを実施し,お よそ 1,900 人から回答を得た。実証調査期間は,2016 年 10月~12 月である。 2つのシステムとは,商用電子図書館サービスをベー スとした「クラウド型(電子図書館システム)」と電子 書籍専用端末を用いた「スタンドアロン型(電子書籍専 用端末)」である。本実証事業に参加する協力校の環境 や要望にあわせて,両者,あるいはどちらかだけのシス テムを利用した。実証調査期間中の電子書籍利用は,24 時間マルチアクセス可能とした。この結果,児童生徒は 同じ作品を同時に読むことが可能となった。 また,出版社 8 社の協力を得て,著作権者の許諾と理 解のもと,学校図書館のコレクションにふさわしい 789 点の作品を提供いただいた。スタンドアロン型では,メ モリの制限から搭載できる電子書籍の点数に限りがあ り,小学校向け作品 97 点,中学校・高等学校向け作品 111点を選別して搭載した。提供いただいた電子書籍 は,講談社が 198 点,偕成社が 88 点,学研が 100 点, 岩崎書店が 35 点,KADOKAWA が 121 点,ポプラ社が 21点,小学館が 219 点,ポット出版が 7 点である。 この実証実験の結果,児童生徒の電子書籍利用につい て,いくつかの特徴的な傾向を指摘できた。その一つと して,電子書籍を読むことを「読書」として捉えている ことが明らかになった。従来型の読書調査では,「小説 家になろう」などのネット文芸作品(=デジタル小説) を閲覧することを「読書」ととらえてはこなかった。ま た,今まで「本を読まない子」として扱われ,紙の本を 読むように読書指導されてきた児童生徒(“不読者” と して統計処理されている)の中には,ネット文芸作品を 読んでいる児童生徒が少なからずいることがわかった。 なお,同調査報告は既に公表しており,詳しいデータ 等は「学校図書館における電子書籍の利用モデルの構築 報告書」[19]を参考にしていただきたい。

5.2

読書調査と電子書籍 児童生徒を対象とした読書調査としては,「学校読書 調査」(全国学校図書館協議会・毎日新聞)が知られて いる。1963 年から継続的に行われているが,2019 年の 調査においても電子書籍を読書対象として取り上げては いない[20] 高校生に限っては,文部科学省委託「高校生の読書に 関する意識等調査」(平成 26 年度)[21]が,電子書籍につ いて言及した初めての調査である。同報告書によると 「電子書籍を読んでいる生徒は全体の 2 割弱であり,高 校生に電子書籍が広く浸透しているわけではない」とあ る。 この 5 年後,「新しい時代における電子メディアと読 書に関する調査」をテーマにして文部科学省委託「子供 の読書活動の推進等に関する調査研究」[22]が行われた。 これは,筆者らの実証研究以降,初めて図書館における 電子書籍利用を取り上げた調査である。同報告書による と,過去 1ヶ月間において「電子書籍を読んだ」子供 は,小学生で 16.1%,中学生で 18.7%,高校生で 21.4% である。いずれも,オンライン書店でダウンロードして 読むよりも,無料のサイトやアプリで電子書籍を読むこ とが多い結果となった。 紙の本は読んだが電子書籍を読んでいない小学生・中 学生は半数おり,電子書籍だけで読んだ割合は,小学 生,中学生,高校生のいずれも少ない結果となった。し かし,紙の本を読んでいる子供のうち,電子書籍を読ん だ子供の割合は 28.1%で,読書習慣のある子供は,紙で も電子でも読む傾向があった。 小学生,中学生,高校生のいずれも,4 割台の子供が 図書館等において電子書籍を借りられるようになるとよ いと思っている。なかでも電子書籍での読書をした子供 に限っては約 7 割が電子書籍を借りられるようになると よいと思っている。 2019年 12 月に公表された,国立青少年教育振興機構 「子供の頃の読書活動の効果に関する調査(速報版)」[23] によると,「1 か月に読む電子書籍の量」を 1 冊以上と 回答した割合は 5 年前の調査の 8.5% から約 10 ポイント 増加して 19.7% となった。

6

おわりに

2019年 12 月に,経済協力開発機構(OECD)の国際 的な学習到達度調査「PISA」の結果が公表され,読解 力の低下が大きな話題となった。読売新聞の社説[24] は,「スマートフォンの普及により,子供たちのコミュ ニケーションでは,仲間同士の短文や絵文字のやりとり が中心になった。長い文章をきちんと読み,分かりやす い文章を書く機会が減っている」として,「文部科学省 は今後,小中高校の国語の授業などで,文章の論理展開 を重視した指導を充実させる方針だという。論理的思考 力の涵養に加え,文学に親しむ時間もしっかりと確保し

(5)

て,他者への共感性や想像力を培いたい」と続けてい る。「最近の若者は本を読まずにスマートフォンでは絵 文字を使い,SNS の短文ばかり読んでいるのも問題だ。 学校では国語教育や図書館を使って,より一層,読書推 進活動を盛んにしなければいけない」といった主張に受 け取れる。 では,スマートフォンを目の敵にして,子供たちに紙 の本を読むことを強要することで,読解力は回復するだ ろうか。本離れは今に始まったことではない。前述した 「学校読書調査」[25]によると,高校生の平均読書冊数は, この 30 年間で 1.5 冊前後を推移している。読解力が 4 位となった 2012 年と比較すると,中学生の読書率はわ ずかながら上がっている。 2003年に読解力が大きく順位を下げ,「PISA ショッ ク」と呼ばれたことはまだ記憶に新しい。当時の「ゆと り教育」が批判された契機ともなって,学習指導要領の 改訂や学校図書館での読書活動の推進が行われた。その 後,読解力は向上したが,前回の 2015 年から再び下が っている[26] その理由として,前回から冊子ではなくコンピュータ を使ったテストとなっている点がある。子供たちはス マートフォンやゲームの利用時間が長くても,長文をデ ィスプレイでスクロールして読むことになれていない。 そもそも,学校教育でスマートフォンを利用することは ないだろう。しかし,今の時代に長文を読むことは紙に 限らないし,むしろ,紙ではなく,ディスプレイ上のほ うが多いのではないだろうか。紙とディスプレイでは空 間把握や一覧性においてリテラシーに違いがある。学校 図書館に電子書籍を導入し,国語教育でもディスプレイ で長文を読むことを取り入れることを検討すべきと考え る。 これからの子供たちには,インターネット上の情報を 収集・分析し,理解する力が求められている。本をよく 読む子供は,電子書籍も読んでいることはすでに述べ た。「紙の本を読むことが読書である」といった読書観 は,繰り返し大人たちから子どもたちに押しつけられ, 構築されてきたメディア感でもある。従来型の読書概念 や書籍の範疇外で,新たな「読書」と「電子書籍」が普 及し始めているともとらえることができる。ディスプレ イに抵抗感のない小学校の段階で,電子書籍で作品本来 のおもしろさ,読書の楽しみに早く出会うことが,良質 な「デジタル読書」へとつながっていく可能性を持つと 考える。 謝辞 本研究の一部は,公益財団法人図書館振興財団による 平成 28 年度振興助成事業「学校図書館における電子書 籍利用モデルの構築」の研究成果,平成 28~31 年度科 学研究費助成事業(基盤研究(C)(一般))「学校図書 館における電子書籍利用環境構築のための実証的研究」 (課題番号 16K00443)の研究成果,植村八潮,野口武 悟,電子出版制作・流通協議会による「電子図書館・電 子書籍貸出サービス調査報告」の研究成果に基づいてい る。 参考文献 [1] 植村八潮・野口武悟・電子出版制作・流通協議会,電子図書 館・電子書籍貸出サービス調査報告 2019,印刷学会出版部, 2019 [2] 植村八潮・野口武悟,学校図書館における電子書籍利用環境 構築のための実証的研究成果報告書,95 頁,https://aebs. or.jp/Publication.html [3] 日本図書館情報学会用語辞典編集委員会編,図書館情報学用 語辞典(第 4 版),丸善出版,2013,165 頁 [4] 国立国会図書館オンライン資料の補償に関する小委員会 (2019 年 12 月 20 日),https: //www. ndl. go. jp/jp/collect/ deposit/council/r1_1_syoiinkai_yoroku.html [5] 前掲書[1],52 頁 [6] 安形輝・上田修一,日本における電子書籍化の現状-国会図 書館所蔵資料の電子書籍化率調査-,日本図書館情報学会 誌,65 巻(2019)2 号,p.84-96 [7] https://www.trc.co.jp/solution/trcdl.html [8] https://overdrivejapan.jp [9] https://kw.maruzen.co.jp/ln/ebl/ebl_01.html [10]https://www.kinokuniya.co.jp/03f/ebook/kinoden/index.html [11]文部科学省,平成 29 年度学術情報基盤実態調査,https://

www. mext. go. jp/b_menu/toukei/chousa01/jouhoukiban/ kekka/k_detail/1402585.htm

[12]電子出版制作・流通協議会,電子図書館(電子貸出サービ ス)実 施 図 書 館,https: //aebs. or. jp/Electronic_library_ introduction_record.html

[13]前掲書[1],30 頁 [14]前掲書[2],50 頁

[15]文部科学省,これからの学校図書館の整備充実について(報 告), https: //www. mext. go. jp/b_menu/shingi/chousa/ shotou/115/houkoku/1378458.htm

[16]文部科学省,学校図書館ガイドライン,https://www.mext. go.jp/a_menu/shotou/dokusho/link/1380599.htm

[17]文部科学省,子供の読書活動の推進に関する基本的な計画 (第 四 次),https: //www. kodomodokusyo. go. jp/happyou/

hourei_download_data.asp?id= 28

[18]植村八潮・野口武悟・他,電子図書館・電子書籍貸出サービ ス調査報告 2016,印刷学会出版部,2016,61 頁

[19]専修大学電子書籍研究プロジェクト・他,学校図書館におけ る電子書籍の利用モデルの構築報告書,http://www.aebs.or.

(6)

jp/pdf/School_library_e-book_usage_model_report.pdf [20]全国学校図書館協議会・毎日新聞社,学校読書調査,学校図

書館,No.829,2019 年 11 月号

[21]浜銀総合研究所,高校生の読書に関する意識等調査,https: //www. kodomodokusyo. go. jp/happyou/datas_download_ data.asp?id=28

[22]創研,子供の読書活動の推進等に関する調査研究報告書, https: //www. kodomodokusyo. go. jp/happyou/datas_ download_data.asp?id=62 [23]国立青少年教育振興機構,子供の頃の読書活動の効果に関す る調査研究報告書(速報版),2019 年 12 月,https://www. niye.go.jp/kanri/upload/editor/140/File/gaiyouban.pdf [24]読売新聞,社説 PISA 調査 読解力低下に歯止めかけたい, 2019年 12 月 4 日朝刊,https://www.yomiuri.co.jp/editorial/ 20191203-OYT1T50294/(2020 年 4 月 6 日閲覧) [25]前 掲 書 [20] な お,以 下 の ウ ェ ブ サ イ ト で 公 開。https: // www.j-sla.or.jp/material/research/dokusyotyousa.html [26]国立教育政策研究所,OECD 生徒の学習到達度調査 2018 年

調 査(PISA2018)の ポ イ ン ト,https: //www. nier. go. jp/ kokusai/pisa/pdf/2018/01_point.pdf 2020.2.27受理 2020.4.6 掲載決定 著者略歴 植村八潮(うえむら やしお) ◎現在の所属:専修大学文学部 ◎専門分野:出版学・電子出版論 ◎主な著書:『電子出版の構図:実体のない書物の行方』印刷学会出版 部,2010

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