• 検索結果がありません。

メタボリックシンドローム,2型糖尿病を伴う変形性股・膝関節症患者に対するチーム医療における運動療法

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "メタボリックシンドローム,2型糖尿病を伴う変形性股・膝関節症患者に対するチーム医療における運動療法"

Copied!
6
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

緒  言  近年,生活習慣の“文明化”に伴い,身体運動の機会が減少 し,欧風化した食事(高脂肪食)も相まって,2 型糖尿病,メ タボリックシンドロームなどが増加している。また,高齢社会 はその傾向に拍車をかけている。  適度な食事制限と身体トレーニングは個体のインスリン抵 抗性を改善し,上記の病態の予防,治療に有用である。しか し,運動療法実施に際して膝・足関節の障害を招くことも少な くない。ことに,変形性股・膝関節症など下肢の変形性関節症 を伴うメタボリックシンドローム,2 型糖尿病患者の運動療法 は,下肢荷重・運動時痛のため制約を受けることがある。また メタボリックシンドロームの基盤である肥満症は,変形性膝関 節症の発症因子にもなっている1‒3)。下肢関節手術適応の場合 も,肥満症,糖・脂質代謝障害は,術中から術後にかけてのリ スクを高め,術後運動療法の進行を遅らせる要因にもなる。こ のような複合疾患は日常臨床でよく遭遇するにもかかわらず, 下肢変形性関節症と肥満症・メタボリックシンドローム・2 型 糖尿病の間で,相互の疾患を治療におけるリスクとして捉えら れることはあっても,両者とも積極的治療対象として捉えられ ることはほとんどない。しかし筆者らの経験によると,特に運 動療法においては両者とも積極的治療対象と捉えて介入した 方が,両疾患においてもより治療効果が上がる可能性があると 思われる。  当院では,そのような患者に対し,生活習慣病サポートチー ムによる独自の視点での介入を行っている。本稿では,この生 活習慣病サポートチームによる介入と理学療法士による運動療 法介入の実際を紹介するとともに,チーム医療における運動療 法介入の有効性と介入の主目的である体重減少が各評価指標の 変化に及ぼす影響について検討した結果を報告する。 生活習慣病サポートチームと理学療法士による運動療 法介入の紹介 1.生活習慣病サポートチームによる介入法  チームの役割は,代謝疾患を中心とした生活習慣病を伴う整 形外科疾患患者に対して介入を行い,病態の改善をはかってい くことである。構成職種は,整形外科医,内科医,リハビリテー ション専門医,理学療法士,管理栄養士,薬剤師,看護師である。  介入目的は,①体重コントロール,②メタボリックシンド ローム関連指標の改善,③ 2 型糖尿病例に対しては血糖コント ロール改善,④下肢荷重時痛軽減,⑤筋力と全身持久力の増強, ⑥歩行能力改善による日常生活における活動量増大,⑦日常生 活活動能力の改善などであり,具体的な目標値は,各症例の病 態を考慮しながら個別に設定し,原則として目標値達成を介入 終了の目安としている。  介入形式には,メタボリック外来における指導と,屋外歩行 困難,自己管理困難などの理由で外来対応が難しいと思われる 患者に対する約 1 ヵ月間の教育コントロール入院がある。患者 の状態によっては,入院中に手術が実施されることもあり,そ の時は入院期間が延長される。メタボリック外来は,各専門医 が一室で共同診察を行い診療科の枠を越えた包括的介入をする ことが特徴で,理学療法士と管理栄養士も参加する。介入頻度 は,開始月が月 2 回,その後は月 1 回を原則としている。  チーム介入においては,各専門職が下記のような役割分担を している。①整形外科疾患の管理と痛みの管理:整形外科医, ②代謝疾患と循環器系の管理:内科医,③理学療法プログラムの 管理とリスク管理:リハビリテーション専門医,④減量・代謝改 善プログラムの作成と運動療法:理学療法士,⑤栄養指導:管理 栄養士,⑥服薬指導:薬剤師,⑦日常生活指導:看護師。 2.運動療法介入法 1)運動療法介入の形式  理学療法士は,主治医からの依頼に基づき次のような形で運 動療法介入を行う。①外来において日常生活における運動指導 介入を行う(1 ∼ 2 回 / 月)。②①に加えて,患者が定期的に外 来通院をして,理学療法室における運動を行う(1 ∼ 3 回 / 週)。 ③①と②に加えて,患者が途中で教育コントロール入院をして, その中で理学療法室における運動を行う(5 ∼ 6 回 / 週)。 2)日常生活における運動指導介入  日常生活における運動指導は,次のような内容で行ってい

メタボリックシンドローム,2 型糖尿病を伴う変形性股・膝関節症患者に

対するチーム医療における運動療法

横 地 正 裕

**

専門領域研究部会 内部障害理学療法 特別セッション「教育講演」

Physical Exercise Prescribed by a Medical Support Team on Osteoarthritis of Hip and/or Knee Combined with Metabolic Syndrome and/or Type 2 Diabetes

**

医療法人三仁会あさひ病院リハビリテーション科 (〒 486‒0819 愛知県春日井市下原町字村東 2090)

Masahiro Yokochi, PT, PhD: Department of Rehabilitation, Sanjinkai Asahi Hospital

キーワード: メタボリックシンドロームと 2 型糖尿病,変形性股・ 膝関節症,チーム医療における運動療法

(2)

る。① 1 日の目標活動量の設定と管理:患者に生活習慣記録計 (ライフコーダ EX,スズケン社製)を 1 ∼ 2 週間装着し,そ の結果に基づき 1 日の目標総消費エネルギー量,歩数を処方す る。その後は,生活習慣記録計を月 1 回解析し,患者に結果を フィードバックしながら指導する。②筋力増強運動の指導:毎 食後と就寝前に自宅,あるいは病室で患者が行う上下肢・体幹 の筋力増強運動を指導する。③歩行運動指導:歩行補助具(各 種杖やウオーキングポールなど)の処方と使い方の指導,痛み の対処法・歩行速度・継続時間・時間帯・頻度などの個別指導 を行う。④足に適した靴の指導と装具療法。⑤ホームユース用 下肢自転車エルゴメーターの使い方の指導と販売斡旋。 3)理学療法室における運動療法  理学療法室では,次のような内容の運動を行う。①おもに 徒手での下肢痛軽減をはかりながらの軟部組織モビライゼー ション,下肢筋ストレッチ,関節可動域運動,筋力増強運動。 ②歩行運動:平行棒,各種歩行補助具,トレッドミルより患者 にもっとも適切な物を選択して,30 分間継続できることを目 標に行う。③空気圧抵抗筋力向上トレーニングマシン(HUR, Helsinki University Research 社製)による運動:1 種目 5 ∼ 10 分で 6 ∼ 8 種目,30 ∼ 40%最大酸素摂取量相当の強度より 実施する。④上肢と下肢の自転車エルゴメーター運動。⑤バラ ンス練習。⑥日常生活活動練習。運動プログラム時間は,2 ∼ 3 時間である。入院患者の場合,それを 1 日 2 回行う。 チーム医療における運動療法介入の有効性に関する検討 1.方法 1)対象  当院において 2004(平成 16)年 8 月∼ 2010(平成 22)年 7 月末までに生活習慣病サポートチームにより介入を行った患者 の中で,肥満症,メタボリックシンドローム,2 型糖尿病のい ずれかひとつ以上を伴う変形性股・膝関節症患者 61 例(男女 比:4 / 57,平均年齢±標準偏差:68.3 ± 9.6 歳,罹患関節数: 109 関節)を対象とした。  肥満症の判定は,2000(平成 12)年に日本肥満学会より出 された「新しい肥満の判定と肥満症の診断基準」により行い, BMI 25 以上を肥満とした。メタボリックシンドロームの診断 は,2005(平成 17)年に 8 学会合同で出された「メタボリック シンドロームの定義と診断基準」に沿って行った。また 2 型糖 尿病の診断は,1999(平成 11)年に日本糖尿病学会から出さ れた「糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告」に沿って 行ったが,2010(平成 22)年の診断基準にも適合していた。  対象者には,本研究の目的と方法,被験者としての権利およ び個人情報の保護について書面と口頭にて十分説明を行い,同 意を得た。なお本研究は,三仁会あさひ病院倫理委員会の承認 を得て行った。 2)評価  介入開始時と終了時の代謝疾患関連指標,整形外科疾患関 連指標,生活習慣記録計によって測定された活動量,健康関 連 QOL を比較検討し,介入の有効性と課題について検討した。 次に体重減少率が各評価指標の変化量に及ぼす影響について検 討した。  代謝疾患関連指標は,体重,BMI,体脂肪率,ウエスト周囲 長,血圧,および血液生化学的検査値として,中性脂肪,HDL コレステロール,空腹時血糖値,HbA1c(2 型糖尿病患者 32 例のみ)を用いた。体重と BMI,体脂肪率の測定には,体成 分分析装置(In Body,Biospace 社製)を用いた。HbA1c は ラテックス凝集比濁法(latex coagulating nephelometry)に よって測定した。整形外科疾患関連指標としては,日本整形 外 科 学 会 股 関 節 機 能 判 定 基 準:The Japanese Orthopaedic Association’s evaluation criteria of hip joint function(JOA score of hip),日本整形外科学会変形性膝関節症治療成績判定基 準:The Japanese Orthopaedic Association’s evaluation crite-ria of treatment result for osteoarthritis of knee(JOA score of knee),visual analogue scale(VAS),6 分 間 歩 行 距 離 (6MD),10 m 歩行,大腿四頭筋の weight bearing index(WBI)

を用いた。WBI は,下肢筋力評価訓練装置(コンビット,ミ ナト医科学社製)を用い,坐位で膝関節 70 度屈曲位からの等 尺性最大伸展筋力を測定し,その数値を体重で除した値とし た。生活習慣記録計による測定値は,運動療法介入開始前 1 ∼ 2 週間における 1 日あたりの平均値と,終了月 1 ヵ月間の 1 日 あたりの平均値を用いた。健康関連 QOL の指標には,質問紙 法である SF-36ver.24)を用いた。 3)統計学的解析  介入前後の比較検討を行うための統計学的解析には,対応の あるt検定を用いた。また体重減少率と各評価指標における変 化量との関係は,Spearman の相関係数を用いて評価した。統 計処理には SPSSver.13(Windows 版)を用い,有意水準は 5% 未満とした。 2.結果  診断名の内訳は,肥満症 56 例,メタボリックシンドローム 49 例,2 型糖尿病 32 例,高血圧症 51 例,高血糖(空腹時血糖値 110 mg/dl 以上)37 例,脂質異常症 34 例,変形性膝関節症 56 例, 変形性股関節症 9 例(それぞれの疾患の重複あり)であった。  Kellgren / Lawrence score によるレントゲン写真からみた変 形性関節症の重症度分類5)では,グレード 1 が 5 関節,2 が 26 関節,3 が 56 関節,4 が 22 関節で,中等度以上の変形が多かった。  開始時の代謝疾患関連指標(平均値±標準偏差)は,BMI 29.8 ± 3.7, ウ エ ス ト 周 囲 長 98.9 ± 9.0 cm, 中 性 脂 肪 159 ± 91 mg/dl,収縮期血圧 148 ± 19 mmHg,空腹時血糖値 120 ± 39 mg/dl,2 型糖尿病患者の HbA1c は 7.3 ± 1.3%であった。 処方された食事摂取エネルギー量は 1,320 ± 136 kcal/day で, 薬物は降圧薬を 41 例,脂質異常症改善薬を 27 例,経口血糖降 下薬を 21 例が服用していた。  平均介入期間±標準偏差は 4.7 ± 1.6 ヵ月(2 ∼ 10.8 ヵ月) であった。理学療法は,全例に実施した。介入形式としては, メタボリック外来のみが 42 例,メタボリック外来と教育コン トロール入院が 9 例,メタボリック外来と教育コントロール入 院に手術による介入を追加した者が 10 例であった。手術の内 容は,全人工股関節形成術(Total Hip Arthroplasty:THA) 3 例,全人工膝関節形成術(Total Knee Arthroplasty:TKA) 5 例,片側人工膝関節形成術(Unilateral Knee Arthroplasty: UKA)1 例,脛骨高位骨切術(High Tibial Osteotomy:HTO)

(3)

1 例であった。  介入前後における各評価指標の変化をみると,代謝疾患関連 指標については,体重,BMI,体脂肪率,ウエスト周囲長,脂 質代謝,血圧,糖代謝など全項目において有意な改善を認めた (表 1)。整形外科疾患関連指標も,全項目有意に改善した(表 2)。1 日平均活動量は,全項目有意に増加した。ことに運動に よるエネルギー需要量(以下,運動量),運動量/体重,歩数 はほぼ倍増した(表 3)。健康関連 QOL は,全項目有意に改善 した。特に「全体的健康感」「活力」「心の健康」は,同年代の 国民平均点数も上回った(図 1)。  体重減少率の平均±標準偏差は,10.3 ± 3.9%であった。体 重減少率と各評価指標における変化量との関係をみると,体 重,BMI,ウエストにおいて非常に高い相関がみられ(表 4), 体脂肪率,HbA1c,総消費量エネルギー量/体重において高い 相関がみられた(表 4,5)。HDL コレステロール,収縮期血圧, 膝と股関節を合わせた日本整形外科学会変形性関節症機能判定 基準(JOA score),WBI においても軽度の相関がみられた(表 4,5)。健康関連 QOL(以下,HRQOL)の変化量では,8 項 目中 6 項目において体重減少率と相関がみられた(表 6)。 3.考察  今回の対象症例は,全例すでに他の整形外科クリニックで治 療を受けていたが,症状改善にまで至らなかった。しかし当院 において,生活習慣病サポートチームによる介入と代謝改善プ ログラムを取り入れた運動療法介入を実行することで,症例の 日常生活における活動量が増大し,代謝疾患関連指標だけでな く整形外科疾患関連指標も著明に改善した。さらに健康関連 QOL においても,著明な改善を得ることができた。 1)肥満症を伴う下肢変形性関節症に対する改善効果について  Huang ら6)は,BMI 30 以上の肥満症を伴う女性の変形性 膝関節症患者を 7 ∼ 12 kg 減量させると,VAS は 30 ∼ 60% 表 1 代謝疾患関連指標の変化 n 介入開始時 介入終了時 変化量 体重(kg) 61 68.3 ± 11.0 61.1 ± 9.7 ** ‒ 7.2 ± 3.1 BMI(kg/m2) 61 29.8 ± 3.7 26.7 ± 3.3 ** ‒ 3.1 ± 1.4 体脂肪率(%) 61 38.3 ± 3.8 35.4 ± 3.7 ** ‒ 2.9 ± 2.1 ウエスト周囲長(cm) 61 98.9 ± 9.0 90.5 ± 8.0 ** ‒ 8.3 ± 4.5 中性脂肪(mg/dL) 61 159 ± 91 111 ± 44 ** ‒ 48 ± 69 HDL コレステロール(mg/dL) 61 59 ± 15 61 ± 16 * 2 ± 9 収縮期血圧(mmHg) 61 148 ± 19 126 ± 11 ** ‒ 22 ± 16 拡張期血圧(mmHg) 61 81 ± 11 73 ± 9 ** ‒ 8 ± 9 空腹時血糖値(mg/dL) 61 120 ± 39 98 ± 14 ** ‒ 22 ± 36 HbA1c(%) 32 7.3 ± 1.3 6.0 ± 0.5 ** ‒ 1.2 ± 1.1 * P < 0.05,** P < 0.01(介入開始時との比較) 表 2 整形外科疾患関連指標の変化 n 介入開始時 介入終了時 変化量 JOA score/100(膝関節) 99 66.8 ± 17.9 83.7 ± 13.4 ** 17.0 ± 12.9 JOA score/100(股関節) 10 55.2 ± 25.1 68.6 ± 21.7 ** 13.4 ± 12.8 VAS(膝関節;cm) 99 4.8 ± 3.0 1.2 ± 1.3 ** ‒ 3.6 ± 2.6 VAS(股関節;cm) 10 6.8 ± 2.8 3.0 ± 2.5 ** ‒ 3.8 ± 2.9 6 分間歩行距離(m) 48 352 ± 112 415 ± 99 ** 63 ± 54 10 m 歩行(秒) 38 8.8 ± 3.0 7.5 ± 1.8 ** ‒ 1.3 ± 2.0 WBI(大腿四頭筋) 68 0.58 ± 0.22 0.67 ± 0.22 ** 0.09 ± 0.12 * P < 0.05,** P < 0.01(介入開始時との比較) 表 3 活動量の変化 n 介入開始時 介入終了時 変化量 総消費量(kcal/ 日) 61 1,669 ± 216 1,755 ± 231 ** 86 ± 109 総消費量 / 体重(kcal/ 日 /kg) 61 24.7 ± 2.3 28.9 ± 2.7 ** 4.3 ± 2.1 運動量(kcal/ 日) 61 125 ± 73 241 ± 103 ** 116 ± 90 運動量 / 体重(kcal/ 日 /kg) 61 2.0 ± 1.2 4.0 ± 1.7 ** 1.9 ± 1.5 歩数(歩 / 日) 61 4,748 ± 2,420 8,749 ± 2,876 ** 4,001 ± 2,500 * P < 0.05,** P < 0.01(介入開始時との比較)

(4)

図 1 SF-36ver.2 による健康関連 QOL の変化(点 /100) 表 4 体重減少率と代謝疾患関連指標の変化量との関係 変化量 体重減少率 n 相関係数 P 値 体重 61 0.943 ** BMI 61 0.929 ** 体脂肪率 60 0.634 ** ウエスト周囲長 61 0.779 ** 中性脂肪 61 0.109 NS HDL コレステロール 61 0.312 * 収縮期血圧 61 0.280 * 拡張期血圧 61 0.138 NS 空腹時血糖値 61 0.148 NS HbA1c 32 0.472 **

* P < 0.05,** P < 0.01,NS:not signifi cant(有意差無し)

表 5 体重減少率と整形外科疾患関連指標,活動量の変化量との関係 変化量 体重減少率 n 相関係数 P 値 整形外科疾患関連指標  JOA score(膝関節) 99 0.277 **  JOA score(股関節) 10 0.136 NS  VAS(膝関節) 99 0.094 NS  VAS(股関節) 10 0.363 NS  6 分間歩行距離 48 0.068 NS  10 m 歩行 38 0.052 NS  WBI(大腿四頭筋) 68 0.311 ** 活動量  総消費量 61 0.052 NS  総消費量 / 体重 61 0.526 **  運動量 61 0.089 NS  運動量 / 体重 61 0.102 NS  歩数 61 0.172 NS

(5)

減少し,歩行速度も改善したこと,また超音波と低周波を用い た膝に対する物理療法よりも,減量の方が疼痛軽減,膝機能改 善においても有効であったことを報告している。それらの研究 を参考にして,我々はまず 5 kg 以上の減量を目指して介入し た。結果,4.7 ヵ月間で 7.2 kg の減量を達成することができ, VAS,歩行速度,および運動機能評価などにおいて著明な改善 を認めた。  肥満症を伴う変形性股関節症患者に関しては,これまでの研 究で減量が変形性関節症に伴う症状を改善させるということは あきらかにされていない。しかし,今回の症例数は少なく 9 例 であったが,このうち手術を行わなかった 6 例についてみると, VAS,運動機能評価,6MD などにおいて改善が得られた。今 後,症例を増やして検討してゆきたい。 2) メタボリックシンドロームと肥満症に対する改善効果につ いて  対象患者の中で,メタボリックシンドロームは 80.3%,肥満 症は 91.8%を占めている。それらを改善させるための介入法に ついては,Yamanouchi らが食事療法と運動療法併用の必要性 を報告している7)。Anderssen8)らは,運動実践よりも食事改 善,食事改善よりも両者の併用が,メタボリックシンドローム 改善には有効であると報告している。また Okura ら9)も,食 事改善のみよりも,食事改善に運動実践を加えた方が,メタボ リックシンドロームの改善度が高まると報告している。運動の 種類については,有酸素運動がすすめられる8‒10)。一方,メタ ボリックシンドロームと下肢筋力は関連しており11)12),筋力 増強運動によりそのリスクを軽減できる13)という報告もある。 運動強度は中等度でより効果があり10)14),運動量については, 消費エネルギー量と体重減少速度の間で正相関がみられる15)。 以上のことより,我々は生活習慣病サポートチームを発足さ せ,食事療法と運動療法を組み合わせた介入を行ってきた。運 動療法介入に関しては,歩行運動や自転車エルゴメーターによ る中等度の強度での有酸素運動と筋力増強運動を組み合わせて 行い,運動量については,生活習慣記録計によるデータをもと に消費エネルギー量を増やすように,対象患者に指導した。  メタボリックシンドロームと体重減少との関係をみると, Nakata ら16)は,少なくともひとつのメタボリックシンドロー ム構成因子を基準値内まで改善するためには 8%以上の減量が 必要であり,腹部肥満や高血糖の改善のためには 13%以上の減 量が必要である,としている。我々の介入結果は,10.3%の減 量で,3 つのメタボリックシンドローム構成因子はすべて基準 値内まで改善したが,ウエスト周囲長は開始時 98.9 cm,終了 時 90.5 cm で,基準値内には至らなかった。中田らの報告を参 考にすると,さらに 2 ∼ 3%の減量が必要であると考えられた。 3)2 型糖尿病に対する改善効果について  2 型糖尿病の代謝指標改善においても,メタボリックシンド ロームと同様に食事療法と運動療法の組み合わせが有効であ り,特にインスリン抵抗性改善において,運動療法は重要であ る17)。運動の種類は,有酸素運動,筋力増強運動,あるいは 両者の組み合わせが有効であるとされている17‒23)。運動量に ついては,1 日の歩数が多いほど糖代謝率が向上し,インスリ ン抵抗性が改善するという報告がある7)。また,活動量が増え ると,血糖コントロールも改善する24)。これらの報告に基づ き,我々はメタボリックシンドローム,肥満症に対する介入法 と同様に,32 例の 2 型糖尿病患者に対し,食事療法と運動療 法を組み合わせた介入を行ってきた。その結果,血糖コント ロールの指標である HbA1c は介入前 7.3%から介入終了後は 6.0%まで改善した。 4)体重減少率と各評価指標における変化量との関係について  体重減少率と各評価指標における変化量との相関をみると, 体重減少率が大きくなると体重,BMI,体脂肪率,ウエスト周 囲長の変化量が大きくなる傾向にあることがわかった。また体 重減少率と HbA1c の変化量との間に高い相関がみられ,HDL コレステロールと収縮期血圧の変化量との間にも相関がみられ たことから,体重減少率は血糖コントロール,脂質代謝,血圧 改善に関わりがあるということが示唆された。さらに体重減少 率と JOA score の変化量との間にも相関が認められた。整形 外科疾患関連指標の中には,WBI の変化量のように相関がみ られるものと VAS,10 m 歩行速度,6MD の変化量などのよ うに相関がみられないものもあるが,総合的に JOA score を 用いて運動機能を評価すると,変形性関節症の運動機能改善 は,体重減少率と関わりがあるということが示唆された。  健康関連 QOL の変化量では,8 項目中 6 項目において相関 がみられた。このことより,同じように痛みが軽減して全身耐 久性が向上しても,体重減少率の高い人の方が満足度において 表 6 体重減少率と健康関連 QOL(SF36-ver.2)との関係 変化量 体重減少率 n 相関係数 P 値 身体機能 59 0.285 * 日常役割機能(身体) 59 0.201 NS 身体の痛み 59 0.331 * 全体的健康観 59 0.142 NS 活力 59 0.273 * 社会生活機能 59 0.417 ** 日常役割機能(精神) 59 0.350 ** 心の健康 59 0.282 *

(6)

高くなると考えられた。体重減少率が高いと体型の変化,周囲 の人からの賞賛,服のサイズの変化など,実感できる項目が増 えることも QOL 向上に寄与していると考えられた。 5)運動療法介入が各評価指標を改善する過程  運動療法介入が各評価指標を改善する過程を考察すると,他 の介入法との相加作用もあり,活動量,全身持久力増大が体重 減少,糖・脂質代謝,血圧改善を,体重減少が下肢荷重時痛軽 減,歩行能力改善をもたらし,それらがまた活動量,全身持久 力増大に結びつくという循環ができたと考えられた。そして, その循環が繰り返される毎に QOL が向上していったと考えら れた(図 2)。またメタボリック外来において各専門医がコメ ディカルも含め共同で診察,介入することにより,診療科の枠 を超えたチームとしての包括的介入が可能になったことも,こ の過程を促進し,治療効果を上げることに結びついたと考えら れた。  本研究の限界としては,第一に対照群がないことである。し かし対照群をつくることは,病院の臨床業務では現実的に困難 である。第二に医療法による算定日数の上限に運動療法介入期 間が制限されてしまうため,途中で手術介入がなければ 6 ヵ月 以上の長期介入が困難であるという点である。  今後も限られた期間の中ではあるが,より有効性のある介入 法について検討してゆきたい。 おわりに  本介入は,代謝疾患関連指標だけでなく整形外科疾患関連指 標の改善においても著明な効果を上げることができ,この結果 は運動療法介入の有効性とともに,多職種連携によるチーム医 療の重要性を示唆していると考えられた。また体重減少率は, 代謝疾患関連指標,運動機能および健康関連 QOL の改善に関 する多くの項目と関連が認められ,体重コントロールの重要性 が示唆された。 文  献

1) Felson DT, Zhang Y, et al.: Risk factors for incident radiographic knee osteoarthritis in the elderly: the Framingham Study. Arthritis Rheum. 1997; 40: 728‒733.

2) Anderson JJ, Felson DT: Factors associated with osteoarthritis of the knee in the fi rst National Health and Nutrition Examination Survey (HANES 1): evidence for an association with overweight, race and physical demands of work. Am J Epidemiol. 1988; 128: 179‒189.

3) Niu J, Zhang YQ, et al.: Is obesity a risk factors for progressive

radiographic knee osteoarthritis. Arthritis Rheum. 2009; 61: 329‒ 335.

4) Institute for Health Outcomes and Process Evaluation Research: Fukuhara S, Suzukamo Y. Manual of SF-36v2 Japanese version 2004.

5) Kellgren JH, Lawrence JS: Radiological Assessment of Osteo-Arthrosis. Ann Rheum Dis. 1957; 16: 494‒502.

6) Huang MH, Chen CH, et al.: The effect of weight reduction on the rehabilitation of patients with knee osteoarthritis and obesity. Arthritis Care Res. 2000; 13: 398‒405.

7) Yamanouchi K, Shinozaki T, et al.: Daily walking combined with diet therapy is a useful means for obese NIDDM patients not only to reduce body weight but also to improve insulin sensitivity. Diabetes Care. 1995; 18: 775‒778.

8) Anderssen SA, Caroll S, et al.: Combined diet and exercise intervention reverses the metabolic syndrome in middle-aged males: results from the Oslo Diet and Exercise Study. Scand J Med Sci Sports. 2007; 17: 687‒695.

9) Okura T, Nakata Y, et al.: Eff ect of aerobic exercise on metabolic syndrome improvement in response to weight reduction. Obesity (Silver Spring). 2007; 15: 2478‒2484.

10) Sato Y, Nagasaki M, et al.: Clinical aspect of physical exercise for diabetes/metabolic syndrome. Diabetes Res Clin Pract. 2007; 77(Suppl 1): S87‒S91.

11) Jucica R, Lamonte MJ, et al.: Association of muscular strength with incidence of metabolic syndrome in men. Med Sci Sports Exerc. 2005; 37: 1849‒1855.

12) 南島大輔,牛 凱軍,他:日本人成人男性における脚伸展筋力と メタボリックシンドロームに関する横断的研究:仙台御商研究. 体力科学.2010; 59: 349‒356.

13) Wijndaele K, Duvigneaud N, et al.: Muscular strength, aerobic fi tness, and metabolic syndrome risk in Flemish adults. Med Sci Sports Exerc. 2007; 39: 233‒240.

14) Johnson JL, Slentz CA, et al.: Exercise training amount and intensity effects on metabolic syndrome (from Studies of a Targeted Risk Reduction Intervention through Defi ned Exercise). Am J Cardiol. 2007; 100: 1759‒1766.

15) Ross R, Janssen I: Physical activity, total and regional obesity: dose-response considerations. Med Sci Sports Exerc. 2001; 33: S521‒S529.

16) Nakata Y, Okura T, et al.: Factors alleviating metabolic syndrome via diet-induced weight loss with or without exercise in overweight Japanese women. Prev Med. 2009; 48: 351‒356. 17) Colberg SR, Sigal RJ, et al.: Exercise and Type 2 Diabetes: The

American College of Sports Medicine and the American Diabetes Association: joint position statement. Diabetes Care. 2010; 33: e147‒e167.

18) Sigal RJ, Kenney GP, et al.: Eff ects of aerobic training, resistance training,or both on glycemic control in type 2 diabetes: a randomized trial. Ann Intern Med. 2007; 147: 357‒369.

19) Marcus RL, Smith S, et al.: Comparison of combined aerobic and high-force eccentric resistance exercise with aerobic exercise only for people with type 2 diabetes mellitus. Phys Ther. 2008; 88: 1345‒1354.

20) Larose J, Sigal RJ, et al.: Eff ect of exercise training on physical fi tness in type II diabetes mellitus. Med Sci Sports Exerc. 2010; 42: 1439‒1447.

21) Reid RD, Tulloch HE, et al.: Eff ects of aerobic exercise, resistance exercise or both, on patient-reported health status and well-being in type 2 diabetes mellitus: a randomised trial. Diabetologia. 2010; 53: 632‒640.

22) Kitamura I, Takeshima N, et al.: Eff ects of aerobic and resistance exercise training on insulin action in the elderly. Geriatr Gerontol Int 2003. 2003; 3: 50‒55.

23) Tokudome M, Nagasaki M, et al.: Eff ects of home-based combined resistance training and walking on metabolic profi les in elderly Japanese. Geriatr Gerontol Int 2004. 2004; 4: 157‒162.

24) 横地正裕,新実光朗,他:糖尿病運動療法の指導介入を長期に 継 続 す る こ と の 有 効 性 ─ 生 活 習 慣 記 録 計 を 用 い て の 1 年 間 の prospective randomized controlled study ─. 糖 尿 病.2002; 45: 867‒874.

図 1 SF-36ver.2 による健康関連 QOL の変化(点 /100) 表 4 体重減少率と代謝疾患関連指標の変化量との関係 変化量 体重減少率 n 相関係数 P 値 体重 61 0.943 ** BMI 61 0.929 ** 体脂肪率 60 0.634 ** ウエスト周囲長 61 0.779 ** 中性脂肪 61 0.109 NS HDL コレステロール 61 0.312 * 収縮期血圧 61 0.280 * 拡張期血圧 61 0.138 NS 空腹時血糖値 61 0.148 NS HbA 1c
図 2 運動療法介入が各評価指標を改善する過程

参照

関連したドキュメント

 図−4には(a)壁裏 1.5m と(b)壁裏約 10m における振動レベル の低減量を整理した。 (a)壁裏 1.5m の場合には、6Hz〜10Hz 付 近の低い周波数では 10dB

C =&gt;/ 法において式 %3;( のように閾値を設定し て原音付加を行ない,雑音抑圧音声を聞いてみたところ あまり音質の改善がなかった.図 ;

冷却後可及的速かに波長635mμで比色するド対照には

る、関与していることに伴う、または関与することとなる重大なリスクがある、と合理的に 判断される者を特定したリストを指します 51 。Entity

therapy後のような抵抗力が減弱したいわゆる lmuno‑compromisedhostに対しても胸部外科手術を

ABSTRACT: [Purpose] In this study, we examined if a relationship exists between clinical assessments of symptoms pain and function and external knee and hip adduction moment

医師の臨床研修については、医療法等の一部を改正する法律(平成 12 年法律第 141 号。以下 「改正法」という。 )による医師法(昭和 23

青色域までの波長域拡大は,GaN 基板の利用し,ELOG によって欠陥密度を低減化すること で達成された.しかしながら,波長 470