*1聖路加看護大学(St Luke's College of Nursing) *2聖母大学(Seibo College of Nursing)
*3聖路加看護大学看護実践開発センター 客員研究員(St Luke's College of Nursing Research Center for Development of Nursing Practice) *4大阪赤十字病院(Osaka Red Cross Hospital) *5順天堂大学医療看護学部(Juntendo University School of Nursing)
*6慶應義塾大学看護医療学部(Keio University, Faculty of Nursing Medical Care)
2009年7月1日受付 2010年1月31日採用
原 著
母乳育児をしている母親の混乱や
不安を招いた保健医療者のかかわり
Breastfeeding mothers identify attitudes
and actions of healthcare professionals that resulted
in confusion and anxiety about breastfeeding
永 森 久美子(Kumiko NAGAMORI)
*1土江田 奈留美(Narumi DOEDA)
*2小 林 紀 子(Noriko KOBAYASHI)
*3中 川 有 加(Yuka NAKAGAWA)
*4堀 内 成 子(Shigeko HORIUCHI)
*1片 岡 弥恵子(Yaeko KATAOKA)
*1菱 沼 由 梨(Yuri HISHINUMA)
*5清 水 彩(Aya SHIMIZU)
*6 抄 録 目 的 母乳育児中および母乳育児の経験がある母親の体験から,混乱や不安を招き,母親の自信を損なうな どといった効果的でなかった保健医療者のかかわりを探索する。 対象と方法 研究協力者は都内の看護系大学の母乳育児相談室を利用した母親35人と,第2子以降の出産をひかえ た家族ための出産準備クラスに参加した母親5人の計40人であった。データ収集は研究倫理審査委員会 の承認を得て,2007年8月∼11月に行った。データ収集方法は半構成インタビュー法で,内容は,「授乳 や子どもの栄養に関して困ったこと,不安だったことは何か」,「それらの困ったこと・不安だったこと にどのように対処したか」などであった。録音されたインタビュー内容を逐語録にしたものをデータと し,母親が受けた支援で,「混乱を招いた」,「不安になった」などというような医療者のかかわりを抽出 した。抽出された内容をコード化しサブカテゴリー,カテゴリーに分類した。 結 果 母乳育児をしている母親が混乱や不安を招くような保健医療者のかかわりとして,【意向を無視し押 し付ける】,【自立するには中途半端なかかわり】,【気持ちに沿わない】,【期待はずれなアドバイス】,【一 貫性に乏しい情報提供】の5つのカテゴリーが抽出された。母親は保健医療者から頻回授乳や人工乳の補足を強いられているように感じ,授乳の辛さや不安を受け止められていないと感じていた。その結果, 母親は後悔の残る選択をし,授乳に対して劣等感や失敗感を抱いていることがあった。また,母親が自 分で判断・対処できるようなかかわりでなかったために,自宅で授乳や搾乳の対応に困難を抱えたまま でいることもあった。 結 論 母親は母乳育児への希望を持っていたが,保健医療者のかかわりにより混乱や不安を感じていること があった。保健医療者には,母親の意向を考慮した母親主体の支援,母親が自立していくための支援, 母親の気持ちを支える支援,適切な観察とアセスメント能力,一貫性のある根拠に基づいた情報提供が 求められていると考えられた。 キーワード:母乳育児,育児支援,母親,保健医療者,質的記述的研究 Abstract Objective
The purpose of this qualitative study was to identify those attitudes and actions by healthcare professionals that detracted from the breastfeeding mother's confidence in nursing her infant.
Methods
The subjects of this research were a convenience sample of 40 mothers: 35 were recruited at a breastfeeding counseling room at a nursing college in Tokyo and five from a sibling preparation class at the same location. Data were collected from August through November 2007 following established ethical procedures. Researchers used semi-structured interviews about problems and coping with breastfeeding and providing nutrition for their infant. All interviews were taped and transcribed. The data were systematically analyzed. Codes were extracted and then aggregated into sub-categories from which categories were created. A research team provided conformability. Results
Regarding breastfeeding support, the interviews revealed that some interactions with health care profession-als were described as: "unhelpful", "causing anxiety", and "results in confusion". Identified were five categories of behavior of healthcare professionals that failed to support the breastfeeding mother thus, contributing her sense of confusion and anxiety about nursing her infant: (i) intrusive behavior of healthcare professionals dismissing the mother's wishes and intentions to breastfeed, (ii) insufficient help to become independent with breastfeeding, (iii) dismissing the mothers' feelings, (iv) discordant advice from the mothers' expectation, and (v) provision of inconsistent information. Mothers desired to institute frequent breastfeeding including the addition of human milk substitute provided by healthcare professionals. Unfortunately those health care providers did not listen to their requests nor did they respond empathically to the mother's sense of suffering and anxiety of breastfeeding and the child rearing. Mothers choose to breastfeed; they felt a sense of commitment to providing the best nutrition that could to protect their infants. The lack of support and concern by health care providers left mothers with a burden of regret and a sense of failure about their ability to breastfeed. The sense of failure continued after discharge and they continued to experience challenges and difficulties about their breastfeeding or expression of their milk at home. Mothers were left alone to manage their breastfeeding problems.
Conclusions
Women were motivated to breastfeed but their interactions with health care providers resulted in feelings of failure, confusion and anxiety. Health care providers need education to promote: (i) mother-driven support consid-ering mother's intentions, (ii) support for mothers to be independent breast-feeders, (iii) empathy for the mother's feelings, (iv) adequate observation and assessment ability, and (v) provision of consistent information based on an evidence.
どのように母親の気持ちを支えているか(野口,1999) という視点での研究はあるが,授乳中の母親に対する 効果的でなかった保健医療者のかかわりに焦点をあて た研究は少ない。そこで,本研究は,母乳育児中およ び母乳育児経験のある母親の体験から,混乱や不安を 招き,母親の自信を損なうなどといった効果的でなか った保健医療者のかかわりを探索することを目的とし た。
Ⅱ.研 究 方 法
本研究は,母乳育児中および母乳育児の経験のある 母親の体験から保健医療者のかかわりを分析し,記述 することを目的とするため,質的記述的研究を選択し た。 1.研究協力者 都内にある看護系大学が主催する母乳育児相談室を 利用している母親35人と,第2子以降の出産をひかえ ている家族のための出産準備クラスに参加した母親5 人の計40名である。研究協力者は全員が母乳育児中 または母乳育児を経験した母親であった。 2.研究協力者が利用した事業の概要 1 )母乳育児相談室 本母乳相談室は来所(週2回)と訪問(随時)で相談 を行っている。目的は,母親の育児不安,特に母乳育 児に不安を持っている母親の不安を解消し,育児支援 をしていくことである。相談内容は,母乳分泌不足感 などの母乳の分泌に関することが最も多く,次いで乳 房のトラブルである。利用者は生後数日から1年以上 を経過した母子であり,初回の利用は生後1ヶ月まで が半数以上を占める。 2 )第2子以降の出産のための準備クラス 対象は幼児期の子どもと妊娠中の母親と父親である。 1時間半のプログラムで,前半は親子を対象にして実 物大の胎児人形,紙芝居などを用いて「赤ちゃんが生 まれるまでのプロセス」などを紹介し,後半は親を対 象にして上の子とのかかわり方などをテーマにディス カッションを行う。本クラスの目的は2点ある。1点目 は新しく兄姉になる子ども達が,妊娠・出産のプロセ スを学び,弟妹を迎えるための準備をし,自分の存在 を肯定し,性・生の大切さを育むこと,2点目は家族 の不安を共有し,安心感をもつことである。毎回約 10組の家族が参加している。プログラムの詳細とクⅠ.は じ め に
母乳育児は疫学調査からも母子への様々な健康上の 利点が明らかにされており,健やか親子21の課題「子 どもの心の安らかな発達の促進と育児不安の軽減」に おいても,出産後1ヶ月の母乳育児の割合の増加が目 標に挙げられている。また,1989年にWHO/UNICEF は「母乳育児成功のための10か条」を提唱し,世界的 に母乳育児支援の方向性を示している。しかし,日本 においては,妊娠中には「母乳で育てたい」と思って いる母親が90%以上なのに対して,生後1ヶ月に母乳 のみを与えている母親は半数以下に過ぎず,その割合 は減少傾向にある(厚生労働省,2006)。 現代の母親たちの育児環境は,核家族化,都市化, 地域の交流の希薄化など母親の置かれている状況は厳 しくなる一方であり,とりわけ出産後早期から課題と なる母乳育児に不安や困難感を訴える。特に初めて授 乳をする母親は,母乳が良いというイメージや周囲と のかかわりから「なんとなく母乳で育てたい」と思い, 「母乳は自然に出るもの」と考えているが,授乳が確 立するまでの頻回な授乳などを「母乳が出ないとつら いもの」と感じている(井上・久米,2008)。また,試 行錯誤しながら自分なりの授乳を確立していく(土江 田,2005)。このように母親は容易ではないプロセス を経て授乳を確立していく。 授乳の継続には,入院中に出産後早期からの授乳開 始,母子同室,夜間授乳の開始を行うこと,糖水・人 工乳を与えないこと,母乳分泌を保障されることが関 連しており,退院後は適切な支援を受け,母乳分泌 不足感がないことが関連している(中田,2008)。また, 母乳育児に関する情報提供,母乳を継続するようにか かわること(Blyth, Greedy, & Dennis, et al., 2004),母 親の母乳育児に関する価値観や自信が授乳の継続に関 連があるとしている(Blyth, Greedy, & Dennis, et al., 2002)。このように母親が授乳を確立・継続していく ためには,保健医療者からの支援が重要であり,その かかわり方によって結果を大きく左右させる要因のひ とつであると考える。しかし,一方では保健医療者か らの支援は,周産期にある女性にとってポジティブな ものとネガティブなものがあるという報告もある(相 川,2004)。 授乳を確立するまでの母親の体験(土江田,2005)や その過程でどのような要因が母乳育児をしていく上で 母親の支えになったか(井上・久米,2008),助産師がラス受講後の親子の変化については,中村・片岡・堀 内他(2006),片岡・須藤・永森他(2008)によって報 告されている。 3.データ収集方法 データ収集は,2007年8月から11月の期間にインタ ビューガイドに基づいた半構成インタビュー法で行っ た。インタビューの内容は,「授乳や子どもの栄養に 関して困ったこと,不安だったことは何か」,「それら の困ったこと・不安だったことにどのように対処した か」などであった。インタビューは一人1回行い,所 要時間は30分から80分で,承諾を得てICレコーダー に録音した。 4.データ分析方法 録音されたインタビュー内容を逐語録にしたものを データとした。逐語録を熟読し全体の意味を把握し, 母親が育児をしていく中で,「助けにならなかった」, 「不安になった」,「混乱を招いた」というような支援に ならなかった保健医療者のかかわりを抽出し,コード 化した。見出されたコードの相違点,共通点を比較し ながら分類し,サブカテゴリーを抽出した。さらに類 似しているサブカテゴリーを検討してカテゴリーを抽 出し,抽象度を上げていった。これらの過程はグレッ グ(2007)の方法を参考にした。 データ分析は,主に二人の研究者が行い,他の研究 者ひとりにスーパーバイズを受け,分析内容の妥当性 と信頼性を確保することに努めた。 5.倫理的配慮 研究への協力は自由意志であることを保障するため, 研究協力の説明・依頼は,ケア提供者・クラス講師以 外のものが文書と口頭で行った。研究参加は自由意志 であること,研究協力を承諾した場合でも断る権利の あること,匿名性を確保すること,本研究以外の目的 では使用しないことを保障した。同意書の提出をもっ て同意が得られたものとした。なお,本研究は聖路加 看護大学研究倫理審査委員会(承認番号07-042)の承 認を得ている。
Ⅲ.結 果
1.研究協力者の背景 研究協力者の属性は,20歳代が5人(12.5%),30歳 代が29人(72.5%),40歳代が6人(15%)であった。一 人を除き全員が都内に在住しており,パートタイム を含み就業中のもの(産休・育児休業中含む)は,23 人(57.5%)であった。第1子を育児中の母親は34人 (85%),第1子と第2子を育児中の母親は1人,第2子 を妊娠中の母親が3人,第3子を妊娠中の母親が2人で あった。第1子の年齢は,6ヶ月以下が13人(32.5%), 7ヶ月から1歳が19人(47.5%),1歳以上が8人(20%) であった。出産施設は,一人が自宅出産であった以外 は,病院・診療所での出産であった。家族形態は,一 人を除き核家族であった。 2.母親の混乱や不安を招いた保健医療者のかかわり 母親の混乱や不安を招いた保健医療者のかかわりは, 【意向を無視し押し付ける】,【自立するには中途半端 なかかわり】,【気持ちに沿わない】,【期待はずれなア ドバイス】,【一貫性の乏しい情報提供】という5つの カテゴリーが抽出された(表)。以下にそれぞれの内 容を記述する。【 】内はカテゴリー,〈〉はサブカテゴ リー,「 」は母親が語った内容で,( )は筆者が内容 を補足したものである。 1 )【意向を無視し押し付ける】 授乳確立に必要な産褥早期の頻回授乳などの〈根拠 を示さずただやるように指示する〉,〈充分な説明と選 択肢を示さない〉,〈母乳を早く止めるように勧める〉 というような【意向を無視し押し付ける】かかわりが 抽出された。 ①〈根拠を示さずただやるよう指示する〉 保健医療者は,出生後の新生児の覚醒や睡眠の傾向, 表 母親が混乱や不安を招いた保健医療者のかかわり 【意向を無視し押し付ける】 根拠を示さずただやるよう指示する 充分な説明と選択肢を示さない 母乳を早く止めるように勧める 【自立するには中途半端なかかわり】 判断できない曖昧な情報を提供する 対処できるかどうか確認しない 見通しを説明しない 【気持ちに沿わない】 気持ちを見逃す 指導や指示ばかりで共感しない 【期待はずれなアドバイス】 疑問が解決されない 不適切な判断をする 【一貫性に乏しい情報提供】乳汁分泌が確立される仕組みや産褥早期の頻回授乳の 必要性を母親に伝わるように十分に説明しないで頻回 授乳を勧めていた。その結果母親は,授乳をやらされ ているように感じ,「仕事のような感じ」,「切ない」と いう辛い体験になっていた。 「しょっちゅう子どもが授乳に連れてこられて,仕事 のような感じだった。出なくてもやっぱり頻回に授乳 をしなきゃいけないのかなと思った」 「全然(母乳がでないのに),生まれた日からずっと母 乳,母乳で辛かった。(乳首が)痛いし,切れるし血だ らけで。それでもどんどん(子どもが新生児室から自 分のいる病室へ)運ばれてきて切なかった」 また,母乳分泌量に不安を感じている母親に,母乳 相談を担当した助産師は「吸わせればいい」という対 処方法のみを説明していた。説明の根拠を伝えられな かった母親は,そのままでいいのか不安になっていた。 「母乳相談に行ったけど,指導自体がとりあえず吸わ せればいいからみたいな感じで,それから2週間後に また来てくださいと言われただけで,ちょっと不安が あった」 ②〈充分な説明と選択肢を示さない〉 母乳育児を推進している施設では,母乳育児のみが 正解であるかのような印象を母親に与えていた。そし て,母親は母乳以外の選択肢がないかのように感じて いた。 「産んだ病院が(母乳育児に関して)凄く厳しかったの で,そこで(母乳育児をしていくことを)叩き込まれ た感じです。有無を言わさず母乳だった」 「病院で母乳がいいといっていたので,母乳で育てな きゃと思い込んでいるところがあった」 また,保健医療者は乳汁産生のしくみや見通しを十 分に説明せずに人工乳の補足を勧め,母親の選択肢を 狭めていた。 「母乳のことで,なぜそうするのかっていうこと(頻 回に授乳することで分泌が促進されること)をお聞き していたら,もう少し(人工乳を補足せずに,母乳を 継続することが)できていたかもしれないし,自分で 色々選択できていたと思う」 入院中にかかわった助産師は,人工乳の補足は母乳 栄養の確立に影響を及ぼすこと,授乳が確立するまで はある程度の日数を要すること等を十分に説明せずに, 人工乳の補足を勧めていた。そのため母親は後悔の残 る選択をしていた。 「母乳で育てるときには,初めにミルクを足さないほ うがいいという説明がなくて,『ミルク(の補足を)ど うしますか』って聞かれて,何もあげないとこの子が 餓えて死んでしまいそうな気がして,最初から混合に なりました。なんかそこで失敗したなって言うのがあ った」 さらに,母乳で育てたいという母親の意向や母子の 状態を確認・判断せずに,一律に施設の方針を押し付 つけ,人工乳を補足することがあった。 「一人目,二人目のときは退院の時に母乳だけで順調 だった。なるべくなら,今回も母乳だけでいきたかっ たけど,(3人目の出産後,子どもの)体重が前日より 増えていないと退院できないと言われて,退院の前日 から(体重が増え退院できるように)慌ててミルクを 足してもらった」 ③〈母乳を早く止めるように勧める〉 1歳健診を受診した母親は,虫歯になることを理由 に,断乳を勧められることがあった。保健医療者は母 親の意向を確認することなく,誤った情報を提供し, 母乳育児を中断することを勧めていた。 「1歳の歯科健診で,母乳は虫歯になるから早く母乳 を止めなさいと言われた。そろそろおっぱいの量を減 らして卒乳ですねって。ほっといてくださいって思う んですけど」 【意向を無視し押し付ける】は,方針を決定するの は保健医療者が主体であり,母親の意向が尊重されず, 母親自らが意思決定できるようなかかわりではなかっ た。時には母親の意に反する選択を強いることもあっ た。 2 )【自立するには中途半端なかかわり】 自立をするには中途半端なかかわりでは,〈判断で きない曖昧な情報を提供する〉,〈対処できるかどうか 確認しない〉,〈見通しを説明しない〉の3つのサブカテ ゴリーから構成された。 ①〈判断できない曖昧な情報を提供する〉 母乳相談の助産師は,曖昧で根拠のない子どもの特 徴や対処方法を説明していることがあった。母親が自 ら判断し対処できるようなかかわりではなく,かえっ て困難を招くようなかかわりであった。 「(授乳の回数が多いことに対して)赤ちゃんには口唇 欲求があるから,おしゃぶりを与えたほうがいいと言 われた。でも本当に母乳が欲しいのか,口唇欲求なの かわからなくて,二人で泣いたこともあった」 また,入院中は人工乳の補足をしていた母親に対し
て,母乳の分泌量や子どもの状態について説明せず, 退院後の人工乳の補足方法のみを曖昧に説明していた。 「退院の時は,母乳をあげるということだけで,ミル クをどういう風に与えるかという説明はなかった。不 安だったので,どうしたらいいか聞いたら,50から 20ccくらいで,自分で(ミルクの補足量を)決めてい いですって感じだった」 ②〈対処できるかどうか確認しない〉 保健医療者は状況の説明はするが具体的にどのよう に対処すべきなのかを説明をしておらず,自宅で母親 が授乳方法を改善するには不十分なかかわりであった。 退院後は母親が自分なりの方法で授乳をしていくしか なかった。 「最初のうちは,(子どもの)口が小さかったからあま り口が開かなくて,上手に飲んでくれなくて。病院 で『浅飲みね』と言われたけど,飲み方を変えられず そのままだった。そんなにトラブルもなく,この子も 元気だったので,自分で無理やり子どもの口を開ける ように授乳している間に普通に飲めるようになってき た」 また,母乳相談の助産師は搾乳することを勧め,助 産師自身が搾乳したのみで,母親自らが搾乳を出来る かどうかは確認しなかった。自宅に帰った母親は搾乳 できずにいた。 「(助産師に)ただ搾ればいいと言われて,搾ってもら った。(自宅で)自分でトライしてみたけど,上手くは できなかった」 ③〈見通しを説明しない〉 乳房の緊満には個人差があり,退院後に生じること もある。退院後どのように乳房が変化する可能性があ り,どのように対処するとよいのかを説明されていな かった母親は自宅で対応に困っていた。 「(母乳に関する)説明はなかった感じです。入院中に おっぱいも全然張らなくて,開通しなかった。自宅 に帰って1週間位してやっぱりすごく張ってきて困っ た」 保健医療者は,母親が自立して育児ができるよう入 院中からかかわっていくことが必要である。しかし, 母親のセルフケア能力を十分に発揮できるような支援 ではなく,【自立するには中途半端なかかわり】になっ ていることがあった。 3 )【気持ちに沿わない】 母親の辛い〈気持ちを見逃す〉ことや,〈指示や指導 ばかりで共感しない〉ことで,保健医療者は母親の【気 持ちに沿わない】かかわりをしていた。 ①〈気持ちを見逃す〉 子どもが上手く吸えないことや,乳汁分泌が遅いこ とに対する母親の気持ちを理解せず,エモーショナル サポートが充分でないことがあった。その結果,母親 は劣等感や恐怖感を抱くことになっていた。 「入院中はおっぱいが上手く吸えたかどうかと聞かれ ることに恐怖を感じていた」 「病院では,自分は全くおっぱいが張らない痛くもな い。張って痛くっていうお母さんも周りにはいっぱい いて。(私は)1時間もくわえさせているのに,1グラム も増えていないっていうのがずっと続いて,ひたすら 病院では劣等感があった」 このように母乳育児に恐怖感や劣等感を抱いた母親 は,助産師に母乳外来を勧められるが退院後の継続的 なケアを拒否するという選択をしていた。 「退院の時,母乳外来を勧められたけど,母乳外来っ ていう言葉が,おっぱいの出ない人のための補習教室, 落ちこぼれた人の為のクラスのように感じていた」 ②〈指導や指示ばかりで共感しない〉 保健医療者は一方的に指導や指示ばかりを行い,母 親がどのように感じているのかを確認しないことがあ った。 「助産師さんがすごい速さで説明するんですよね。し ゃきしゃき仕事をこなして『はい,自分でやる(授乳 する)練習です』って」 「他の母乳外来に相談に行ったけど,(助産師の態度や 説明が)うまい具合に気に入らなくって。相性ってい うか,すごくレクチャーするんですよね。すごく勉強 になるけど,その人の考えが私にはちょっと難しかっ た」 また,母親は保健医療者に母乳育児の大変さや辛い 気持ちを受け止めてもらえず,受け流されていると感 じていることもあった。 「入院中に母乳を始めて,1時間ごとに授乳している時 期は,まったく休めなくて辛かった。『今は乗り切る しかない』,『そういう時期です』と言われて諦めた」 「知識としては,赤ちゃんは泣くものだってわかって いる。でも感情がついていかなくて,それを(保健医 療者に)往なされるのはちょっと(納得できない)」 このように保健医療者は指導や指示に主眼をおき, 上手く授乳できないことや,母乳分泌の開始が遅いと 感じている母親への劣等感や恐怖感や,育児が大変で
あるという感情や不安な気持ちを充分受け止めておら ず母親の【気持ちに沿わない】かかわりになっていた。 4 )【期待はずれなアドバイス】 母親が健診や訪問の際に保健医療者に不安や疑問を 投げかけても,保健医療者は〈疑問が解決されない〉 や〈不適切な判断をする〉ことで,【期待はずれなアド バイス】をしていた。 ①〈疑問が解決されない〉 保健医療者は母親のニーズを理解しておらず,健診 や育児相談時の母親の疑問や質問に対し,母親の疑問 の解決策になるような回答をしていないことがあった。 「1か月健診のときに出産した産婦人科や新生児訪問 で,おっぱいのことを聞きたかったけど,何か的を射 るような,自分が求めているような答えではなかっ た」 「保健師さんが訪問してくれたけど,お母さんの精神 状態はどうですかっていうのをすごく聞かれたけど, 赤ちゃんの育児に関しては,あんまりアドバイスをも らえなかった」 また,分泌不足を不安に思っていた母親に対して, 乳房の状態や授乳状況を確認せずに「吸わせれば出る」 と言うだけで,根本的な解決策を示さないことがあっ た。 「保健師さんにおっぱいの相談をしたけど,『吸わせれ ば(母乳は)出ます』って言われたけど,『ものすごい 吸わせているんですけど,出ないんです』みたいな感 じで,的を射た回答を得られなかった」 ②〈不適切な判断をする〉 乳房の緊満や疼痛を相談に行ったが,母乳の分泌不 足を指摘されただけで,直後に乳腺炎を発症したとい う母親もいた。 「産んだところの病院の母乳外来に行ったのですが, (痛みや張りは)改善しなくって。病院ではおっぱい の出が悪いので,マッサージが必要ですねって話だけ だった。うちに戻ってすぐに乳腺炎になった」 保健医療者は情報収集不足と不適切なアセスメント により,母親の真のニーズを見極めることができず, 【期待はずれなアドバイス】をしていた。 5 )【一貫性に乏しい情報提供】 母親は不安や疑問を解決しようと,複数の保健医療 者から情報を収集していた。しかし保健医療者による それぞれの立場からの異なる情報や一貫性のない指導 は,さらに母親を戸惑わせることになっていた。 「果汁をいつ始めるかとか,おっぱいの回数を減らせ って言う人もいたりして。おしゃぶりをつかったほう がいいかとか良くないとか,保健師さん毎に違ってい て,いろんな情報が氾濫している」 「病院では,(子どもの)体重の増えが悪いからミルク を足しましょうと言われたけど,母乳相談室では,飲 ませちゃ駄目といわれて,どうしようと葛藤した」 また,小児科医と助産師間での情報交換がないため に,母親は正反対の指示をされていた。母親は判断に 戸惑いを感じていたが,一方の指示に従っていた。 「1 ヶ月健診時に,出生時から300グラムしか増えてな くて,ちょっと少なすぎだと言われた。でも母乳相談 にいったところでは,ミルクを足さないように言われ て……乳腺炎もよくなったし,その人(母乳相談の助 産師)の言うことを信じるしかないと思った」 授乳中に薬剤を使用することになった母親は,医師, 薬剤師,保健師からそれぞれ異なる情報を提供され, 自己判断で内服する薬剤を決めていた。 「蕁麻疹ができたとき,塗り薬で我慢するか,(薬を飲 むなら)母乳を我慢してもらうかありませんと言われ た。母乳をやめることにして(内服薬を)処方しても らったけど,薬剤師さんに聞いたら,『二つのうち一 つのクスリは安全だ』と言われ,一つだけ飲んだ。そ の後,保健センターで『その薬は赤ちゃんにも処方さ れている薬だから大丈夫』と言われた」
Ⅳ.考 察
母乳育児をしている母親および母乳育児経験のある 母親への保健医療者のかかわりは,必ずしも効果的な 支援ばかりではなかった。以上の結果より,保健医療 者に求められているのは,①母親の意向を考慮した母 親主体の支援,②母親が自立していくための支援,③ 母親の気持ちを支える支援,④適切な観察とアセスメ ント能力,⑤一貫性のある根拠に基づいた情報提供の 5点であると考える。ここではこれら5つの視点から 考察する。 1.母親の意向を考慮した母親主体の支援 母親は子どもを母乳で育てるか否か,正しい情 報に基づいて判断する権利を持っている(Percival, 2000/2002)。しかし,〈根拠を示さずただやるように 指示する〉などといった【意向を無視し押し付ける】か かわりは,その母親の権利を奪うような体験になっていた。 保健医療者の〈根拠を示さずただやるように指示す る〉かかわりは,母親に母乳育児を「仕事のようだ」, 「切ない」と感じさせ,母乳分泌不足に対する不安の 解消には至らなかった。母親の意思を確認した上で, 新生児の特徴や授乳が確立するための方法を母親が理 解するように説明していれば,頻回な授乳を必要なプ ロセスだと前向きにとらえることもできたのではない かと考える。 また,保健医療者が〈充分な説明と選択肢を示さな い〉ことで,母親は母乳育児を押し付けられたように 感じていた。子どもと母親の状況の説明をされずに, 「ミルク(の補足を)どうしますか」などと人工乳の補 足を尋ねられた母親が,母乳育児を希望していたにも かかわらず,人工乳を補足することを選択し,結果 的に混合栄養になったことを後悔していた。この場 合,人工乳を補足する必要があったのか否かの判断を 保健医療者は母親に伝えておらず,母親の意思決定の プロセスが阻害されていたといえる。授乳が確立する 過程においては,昼夜問わずの頻回な授乳が推奨され ている。この頻回な授乳や授乳後に子どもが泣くこと に対して,母親は母乳不足を感じ,人工乳を補足した ほうがいいのではないかと思うことがある(葉久・大 橋,2004)。保健医療者はこの母親の母乳不足感に対 して,本当に母乳不足が生じているのかを慎重に判断 する必要がある。なぜなら,産褥早期の不必要な人工 乳の補足は,授乳間隔が延びて母乳栄養の確立を妨げ る要因になるからである。人工乳の補足が必要な場合 には,その必要性と見通しを母親が理解し納得できる よう説明し慎重に行い,「失敗した」と母親が思わない ようにかかわるべきである。 また,子どもの体重が増加しないと退院できないと いう方針の施設では,人工乳の補足を余儀なくされて いた母親もいた。その施設ルーチンの基準を押し付け ずに,個々の状況を判断し,母親が選択できるような 充分な説明と選択肢を示すことが必要である。 さらに,出産直後から始まる母乳育児についての充 分な説明と選択肢を示すには,妊娠中からのかかわり も重要であると考える。Lin, Chien, Tai, et al.(2008) は,妊娠中からの母乳育児に関する教育は,出産後の 母乳育児に関する満足度,知識,態度に有効である と報告している。また,Noel-Weiss, Rupp, Gragg, et
al.(2006)は,妊婦を対象にした母乳に関するワーク ショップを行った結果,ワークショップに参加した母 親の母乳育児率は,ワークショップに参加しなかった 母親よりも高かったと報告している。このように妊娠 中から新生児の特徴や,授乳が確立されるまでの経過 などを理解することで,母親は出産後の生活のイメー ジを持つことができ,母乳栄養確立のために必要な昼 夜を問わない頻回な授乳への心の準備ができると考え られる。妊娠中から母乳育児への心の準備をしておく ことで,母親が出産後の生活によりスムーズに適応し ていくことにつながると考える。保健医療者は妊娠中 から育児期間中を通して,母親に母乳に関する正しい 情報提供し,母親が自分で自己決定していけるように かかわり,母親の意向に配慮して支援していく必要が あると考える。 2.母親が自立していくための支援 入院中に授乳できるようになるための,必要な技術 を習得して退院することは,特に初産の母親にとっ て重要なことであるが,【自立するには中途半端なか
かわり】をしていることがあった。Hong, Callister, &
Schwarts(2003)は,入院中の看護師の不適切な判断 やアドバイスは,退院後の母親の混乱を招き,フラス トレーションを増強させると指摘している。本研究に おいては,〈判断できない曖昧な情報を提供〉をするこ とで,母親が口唇欲求と空腹とを区別できずに混乱し, 「子どもと二人で泣く」という状況を助長させるよう なかかわりがあった。 また,「浅飲み」と言われるだけで,対処方法を知ら されないまま退院した母親は,どのように対応してい いのわからないまま,自分で対処するしかない状況に あった。その対処が上手くいかない場合には,乳頭ト ラブルや子どもの体重増加不良などを招く可能性もあ った。そして,搾乳を勧められたものの,「(助産師に) 搾ってもらったけど,(自宅では)上手に出来なかっ た」という母親もいた。自宅でも搾乳が必要な場合に は,このようなかかわりでは意味がなく,母親が自宅 で自立して行えるようにかかわるべきである。母親は 授乳行為を保健医療者に してもらう より どのよう にするか 見せてもらう 方を好むのではないかとい う指摘もある(McInnes & Chambers, 2008)。保健医 療者から してもらう ばかりでは,母親自身が自立 して授乳するまでには至らない。最近では,母親と子 どもが自ら授乳を学べるような支援として,ハンズ・ オフ・テクニック(柳澤,2008)が紹介されるようにな った。母親の主体性を引き出し,自立してセルフケア
できるようにかかわることが必要なのは,搾乳が必要 なときの支援でも同様であると考える。 3.母親の気持ちを支える支援 授乳を確立するプロセスは,母親にとって容易な 体験ではなく,特に母乳分泌量が不足していると感 じることは辛いことである(土江田,2005;井上・久 米,2008)。授乳のリズムが確立するまでの産褥早期は, 母親は昼夜問わずの頻回な授乳を行うことになる。頻 回に子どもが授乳をすることは,母乳が出ていないの ではないかという不安を引き起こす。また,頻回な授 乳や夜間の授乳のために睡眠不足などを訴える母親も 中にはいる(石井,2004)。その状況がいつまで続くの か,今後どのように状況が変化していくのかなどの先 の見とおしを示しながら,大変さを共感することも必 要であると考える。本研究では保健医療者がその〈気 持ちを見逃す〉ことにより,「劣等感」や「恐怖感」を感 じている母親がいた。このような母親の自信を喪失さ せるような保健医療者のかかわりは,母乳育児継続す るか否かを決定する要因にもなりうる。さらに,「劣 等感」を抱いた母親は長期にわたりその気持ちを抱き 続ける可能性もある。 また,「助産師さんがすごい速さで説明する」という 母親の気持ちを無視するような〈指導や指示ばかりで 共感しない〉かかわりは,指示や指導の内容が母親に 受け入れられないという状況を引き起こしていた。保 健医療者には,情報を提供することと,母親の気持ち を受け入れ,共感するというバランスが求められてい ると考える。 4.適切な観察とアセスメント能力 母親は保健医療者に疑問や不安を解決するようなア ドバイスや状況を改善するような対処を求めている。 しかし,その期待に沿うことなく,【期待はずれなア ドバイス】をしていることがあった。 〈疑問が解決されない〉のは,保健医療者と母親の コミュニケーション不足より,母親のニーズが見極め られなかった結果生じていると考えられる。このよう なコミュニケーションの不足は,母親の期待と保健医 療者の対応にズレを生じさせることになる(McInnes & Chambers, 2008)。本研究でも母親の期待に応えか るかかわりではなかったために,「求めていたような 回答ではなかった」と語る母親がいた。母親の反応を 確認しながら対応することも必要であると考える。 また,母乳の分泌を促進するには,頻回な授乳が必 要であるが,頻回な授乳をしていても,有効な吸着が できていないと母乳の分泌促進にはつながらない。頻 回に授乳している母親に「吸わせれば(母乳は)出ます」 というのみのアドバイスだけでなく,授乳回数や有効 な吸着がされているかなどの観察が必要であり,そ の観察からどのような対策が必要かを提示する必要が あった。また,母乳分泌が真に不足していた場合には, 子どもの体重減少などの成長にも影響を及ぼすことが ある。 〈不適切な判断をする〉に至ったのは,子どもの吸い 付きや乳房の状況と乳汁の分泌状況,それまでの経過 を関連付けてアセスメントされないことで,乳房の硬 結と疼痛があるにもかかわらず,「おっぱいの出が悪い」 と判断したと考えられる。一例ではあるが,相談した にもかかわらず,「すぐに乳腺炎になった」という状況で は,保健医療者への信頼感の喪失にも関わることである。 5.一貫性のある根拠に基づいた情報提供 母親は不安や疑問に対する納得のいく結論を得るま で,複数の保健医療者から情報や指示を得ていた。本 研究では,人工乳の補足と薬剤使用時の対応について 保健医療者は【一貫性に乏しい情報提供】をしていた。 母親は混乱しながらも,示された情報や指示の一つを 選択していた。 保健医療者が【一貫性に乏しい情報提供】をするこ とで,母親と保健医療者間で葛藤が起こる。同時に母 親はどちらの情報を選択すべきかと,自身の中でも葛 藤することになり,二重の葛藤を体験することになる。 また,糖水や人工乳の補足については,約半数の施 設が医学的な必要がないのに実施しており,人工乳首 やおしゃぶりを用いて授乳している施設は約8割であ った(谷口,2007)。不必要に糖水や人工乳を補足しな いことや母乳で育てられている子どもに人工乳首やお しゃぶりを与えないことは,「母乳育児成功のための 10か条」に謳われている。「母乳育児成功のための10 か条」が提唱されてから約20年が経過しているが,こ のような理論と実践のギャップは,保健医療者によっ て異なった情報提供を行う原因となりうる。本研究結 果からも施設間あるいは,保健医療者間により異なる 情報を提供したことにより,母親が授乳をしていく上 で混乱をきたしていた。 また,「(薬を飲むなら)母乳を我慢してもらうしか ありません」と言われた母親は,保健医療者に薬剤の
ことを医師,薬剤師,保健師の3人に相談していたが, 3人とも回答が異なっていた。保健医療者がどのよう な情報にアクセスしているのか,どのような意識を持 っているのかなどによって提供する情報が異なり,母 親を混乱させることになっていたと考えられる。日本 の授乳中の薬剤の使用について,河田・伊藤(2002) は日本の薬剤添付書に投与中の授乳は避けるようにと 記載されているが,その薬剤がどの程度乳汁に移行す るかの記載があるものは皆無であったと報告している。 また,一般的な参考書には,母乳を介する乳児の薬物 暴露の良質な情報源はないという指摘もある(米国小 児学会,2005)。このような背景から,医師は授乳中 の母親に薬剤を処方する際に,一時的に授乳を中止す るように指示することがある。そして,そのように指 示された母親は搾乳した母乳を破棄し,子どもは人工 乳を補足されることになる。しかし,授乳中に禁忌 の薬剤はわずかであるといわれており(米国小児学会, 2005),本当に授乳を中止する必要がある場面は多く ない。このように過去には推奨されていたケアや基準 が修正されることはしばしばある。一貫性のある根拠 に基づいた情報提供するためには,保健医療者が定期 的に最新の情報を入手するような努力が個々に必要で ある。また,最新の情報を共有できるような職場環境 も大切であろう。 また,施設間の情報交換がないために,人工乳の補 足について小児科医と母乳相談の助産師から正反対の ことを言われていた母親がいた。母乳外来などの退院 後の支援も継続的に行えるような出産施設もあるが, 里帰り出産などの場合には支援を受けにくい。出産後 の育児支援の多くは,地域の保健センターに委ねられ るため,出産施設と地域との連携が必要であるが,そ のような取り組みをしている自治体は全体の30%に 満たないのが現状である(厚生労働省,2007)。一貫性 のあるケアを行うためにも異なる施設や職種の壁を越 え,母子の情報を共有ができるような環境やシステム を整える必要もあると考える。
Ⅴ.結 論
母乳育児中および母乳育児経験のある母親の体験か ら,混乱や不安を招き,母親の自信を損なうなどとい った効果的でなかった保健医療者のかかわりを分析し た。その結果,【意向を無視し押し付ける】,【自立する には中途半端なかかわり】,【気持ちに沿わない】,【期 待はずれなアドバイス】,【一貫性に乏しい情報提供】, という5つのカテゴリーが抽出された。 これらの結果から,母親が保健医療者に求めている のは,母親の意向を考慮した母親主体の支援,母親が 自立していくための支援,母親の気持ちを支える支援, 適切な観察とアセスメント能力,一貫性のある根拠に 基づいた支援であると考えられた。Ⅵ.本研究の限界と課題
本研究の主な協力者は,一箇所の母乳育児相談室の 利用者であり,母乳育児に関する何らかの課題を抱え ているという特徴があった。また,語られた内容は入 院中から出産後1年以上と長期間で,保健医療者のか かわった場面も多岐にわたっている。今後は母親と保 健医療者の双方の視点からの分析や,対象の時期や場 面を絞り母乳育児支援をより深く検討していく必要が あると考えている。 本研究は平成19年度児童関連サービス調査研究等 事業の一環として,財団法人こども未来財団の委託を 受けて実施したものの一部を加筆・修正したものであ る。 最後に研究にご協力くださいましたお母様方に深く 感謝いたします。 引用文献 相川祐里(2004).周産期の女性が体験した医療者からの ポジティブ・サポートとネガティブサポート.日本助 産学会誌,18(2),34-43.Blyth, R., Creedy, D.K., Dennis, C.L., Moyle, W., Pratt J., & De Vries, S.H. (2002). Effect of maternal confidence on breastfeeding duration: an application of breastfeeding self-efficacy theory. Birth. 29(4), 278-284.
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