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小学校における経済教育実践の可能性

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Academic year: 2021

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要旨  文部科学省から次期学習指導要領の改訂に向けて,「論点整理」や「ワーキンググループ(たたき台)」 などが公表されている。学校現場では,キーワードのひとつである「アクティブ・ラーニング(深い・対 話的・主体的な学び)」に向けての授業実践の質的改善が動き始めている。しかし,従来の問題解決学習 や体験学習,あるいは ICT の活用等でよしとする動きがある。  何の省察もせずに授業実践の質的改善はありえない。本実践記録は,岩田(2012)の「経済教育のツ ボ」をベースに,これまで本校で実践してきた経済体験学習を省察し,アクティブ・ラーニングにするた めの方向性を明らかにした試みである。 キーワード:小学校経済教育実践,経済体験学習,アクティブ・ラーニング

Ⅰ.問題の所在

 小学校における経済教育のねらいは,子どもに身近 な経済生活を理解させ,社会への参画意欲を高めるこ とにある。子どもの日常生活と現実の経済社会をつな ぎ,理解と意欲を育てていくことである。  小学校の経済教育は,生活科・社会科・総合的な学 習の時間などの問題解決学習に体験活動を位置づけた 実践が展開されている。  次期学習指導要領改定のキーワードはアクティブ・ ラーニングである。中央教育審議会(2017)は改定の 前に「論点整理」を出し,アクティブ・ラーニングの 実現に向けて次の 3 点で,日々の教育実践の省察と指 導方法の不断の見直しを求めている。1)  ⅰ) 習得・活用・探究という学習プロセスの中で, 問題発見・解決を念頭に置いた深い学びの過程 が実現できているかどうか。  ⅱ) 他者との協働や外界との相互作用を通じて,自 らの考えを広げ深める,対話的な学びの過程が 実現できているかどうか。  ⅲ) 子供たちが見通しを持って粘り強く取り組み, 自らの学習活動を振り返って次につなげる,主 体的な学びの過程が実現できているかどうか。  今日の小学校における経済教育実践では,これまで の経済体験学習を省察し,アクティブ・ラーニング (深い・対話的・主体的な学び)へと質的向上を図っ ていくことが喫緊の課題である。本論文の目的は,筆 者が実践してきた経済体験学習を省察し,深い理解を ねらうアクティブ・ラーニングにしていくための改善 の可能性を明らかにすることにある。

Ⅱ.小学校における経済体験学習の意義

 小学校では,子どもの発達段階を踏まえて体験学習 を重視している。社会生活を動的・具体的に理解させ るために,生活科・社会科・総合的な学習の時間など で体験学習を問題発見・解決の学習過程に位置づけて 授業実践を展開している。  梶田叡一(1987)は,生活科誕生当初の約 30 年前 から,次のように体験学習の意義や必要性を論じてい る。  「教育がたんに知識や技能を身につけさせるだけの ものでなく,感性を耕し,意味や価値の感覚を獲得さ

Instructional Practice

The Journal of

Economic Education No.35, September, 2016

実践記録

小学校における

経済教育実践の可能性

─経済体験学習をアクティブ・ラーニング

にするために─

A Possible Practice of Economic Education in Elementary School: From Economic Experience Learning to Active Learning

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せ,自分なりの生き方を探求させる,というところま で含むものであるとしたならば,教科書中心の座学だ けではとうてい無理です。体験を通じ,経験を通じて 考えていってはじめて実現していく,といってよいで しょう。」2)  本校でも,これらの考え方をベースに,経済体験学 習を実施している。生活科 2 年の「まちたんけん」で は,商店街の果物店の見学や,店の人との対話学習を 実施している。子どもたちは自分たちの町の「ステ キ」をたくさん発見している。また,社会科 3 年の 「店ではたらく人」では,スーパーマーケットのバッ クヤードの見学を実施している。店長や店員の工夫や 努力,他地域や世界とのつながりなどを実感として理 解できるようにしている。これらの教科学習を踏まえ て,キッザニアでの経済体験学習や,地域サマーフェ スティバルの「お店体験」に参加する学習などへと発 展させているところである。  中央教育審議会(2013)は,青少年の体験活動の意 義・効果について,「社会を生き抜く力」の養成とし て,次のように明示している。  「体験活動は教育的効果が高く,幼少期から青年期 まで多くの人とかかわりながら体験を積み重ねること により,「社会を生き抜く力」として必要となる基礎 的な能力を養うという効果があり,社会で求められる コミュニケーション能力や自立心,主体性,協調性, チャレンジ精神,責任感,創造力,変化に対応する力, 異なる他者と協働したりする能力等を育むためには, 様々な体験活動が不可欠である。」3)  小学校経済教育は,子どもに経済生活を理解させ, 参画意欲を高めていく教育である。社会を生き抜く力 を子ども一人一人に確実に身につけさせていくために, 体験学習は必要不可欠であり,アクティブ・ラーニン グの実現の基幹となる学習活動である。

Ⅲ.キッザニアを活用した経済体験学習の

実践 

1.子どもの現実生活と経済体験学習の必要性  今日の多くの小学生はスマホ・ゲーム機生活に埋没 している。保護者はシングルや貧困連鎖などの課題を 克服しようと夜遅くまで働き,子育てに踏ん張ってい る。様々なコンフリクトなどが指摘されているが,子 どもも大人も急激に進展する不透明な経済社会を懸命 に生き抜いているところである。  このような子どもたちに,まわりの人々の仕事につ いて理解させ,地域社会の一員として経済生活に参画 していく意欲を高める学習が,小学 3 年社会科「地域 の人々の仕事とわたしたちのくらし」でにある。子ど もたちに,自分の保護者やまわりで暮らす地域の人々 は,一生懸命に働き,稼ぎ,幸福な生活を追求して生 き抜いていることを学ばせる社会科学習である。  本校では,次の表 1 のような指導計画で社会科地域 学習や経済体験学習を展開している。 表 1 小学 3 年社会科「地域の人々の仕事とわたした ちのくらし」の指導計画 単元名 主な学習活動 体験時数 単元時数 スーパーマーケッ トで働く人々 商品を整理・加工するバックヤードの見学 2 8 消しゴム工場で働 く人々 原料・工程・製品について副読本で学習 0 8 キッザニアで仕事 体験を楽しもう ものづくり・サービス・販売の体験学習 4 6  店で働く人々の工夫や努力の学習については,学校 の隣にあるが日常は入れないスーパーマーケットの バックヤードを見学させている。働く人々の姿や全国 各地から届く大量の商品を実感する見学学習,少人数 の職員で深夜まで営業している工夫などに関する店長 や店員へのインタビュー学習など,いわゆる社会科体 験学習を実施している。  また,工場で働く人々の工夫や努力については,市 内の消しゴム工場を事例に学習している。副読本やイ ンターネットから写真や資料を読み取り,自分の筆箱 に入っている消しゴムの原料や製造工程,新製品の開 発などから働く人々の工夫や努力を,販売エリアなど から他地域や世界とのつながりについて学んでいる。 これらは,いわゆる副読本活用学習であり,体験学習 ではない。  キッザニアの存在を知り,見学や副読本学習などを さらに一歩踏み込んだ経済体験学習をさせたいと考え た。子どもたちからは,学習中に「自分も,やってみ たい。」「自分にもできるかも。」「行ったことがある。」 などの声が出ていた。そこで,学校から社会見学の一 つとしてキッザニアへ連れて行くことにした。学校で は実現できない経済体験学習を楽しませることで,経 済活動への参画にポジティブなイメージを育てること ができると考えたからである。

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2.キッザニア甲子園での経済体験学習 (1)実践の概要  キッザニアは,リアルな街の中で子どもたちが職 業・社会体験ができる屋内型の施設である。3 才から 15 才までの子どもたちが利用でき,関西圏にはキッ ザニア甲子園がある。病院や新聞社,商店街や劇場な どの多数のパビリオンと約 90 種類のアクティビティ (社会・職業体験)が用意されている。  キッザニアの街では,キッゾという独自通貨が流通 している。職業体験をすると給料がキッゾで支払われ る。子どもたちはキッゾを使ってパビリオンで買い物 をしたり,サービス体験をしたり,銀行窓口での預金 や ATM での引き出しなどの経済体験学習を行うこと ができる。子どもたちが体験活動を楽しみながら生き た経済を学ぶことができるエデュテインメントタウン (エデュテインメントとは,エデュケーション「学び」 とエンターテインメント「楽しさ」を組み合わせた造 語)である。  平成 26 年 11 月 13 日,本校の 3 年生 75 名はキッザ ニア甲子園で社会見学を実施した。事前に自分がやっ てみたい仕事を考えてきた子ども,家族と相談してパ ビリオンを選んでいた子ども,当日のアクティビティ を見てから面白そうな仕事にチャレンジした子どもな ど,それぞれの思いや願い,インセンティブによる キッザニアでの経済体験学習であった。なお。キッザ ニア甲子園の入館料等は校長経営戦略予算(加算)を 活用し,体験学習にかかりがちな保護者負担を軽減し て実施した。  子どもたちは,エデュテインメントタウンのルール やマナー,混雑状況などを考えて,自分がやってみた い仕事を選択し,体験していた。また,仕事の結果と して得られた通貨に喜び,働くことの意味や意義を実 感していた。 (2)帰校後のアンケートから  帰校後,次のアンケートを実施し,自らの経済体験 学習を振り返らせた。  アンケート 1 では,子どもたちにキッザニア甲子園 で体験したアクティビティを想起させ順に列記できる ようにした。表 2 はそれらの結果を整理したものであ る。参加した 75 名の子どもたちは昼食時間も含めて 約3時間30分の在館時間であった。要領よくまわる子, 混雑していても自分のこだわるアクティビティを待ち 3 年体験学習・アンケートシート

キッザニアへ行ってきました!!

3 年 組 名前(        )

1 どんなアクティビティを体験しましたか?   (朝から行ったところを順番に書きなさい。)   ①   ②   ③   ④   ⑤ 2 そのなかで,いちばん楽しかったアクティビティは何ですか? 3 その理由をえらびなさい(一つだけえらぶ)   ① 自分が将来やってみたい仕事だから   ② はじめてやってみて,おもしろかったから   ③ むずかしかったけど,「やりとげてよかった」と感じたから   ④ ものを作ったり売ったりするのが好きだから   ⑤ サービスなどをしてお客さまによろこんでもらうことが好きだから   ⑥ その他    (       ) 4 来年の 3 年生に教えてあげたいことを書きなさい。

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続ける子など様々な選択があった。平均すると一人当 たり約 3.8 件の仕事体験をしたことになる。 表 2 キッザニアでのアクティビティの子どもの選択 状況 体験したアクティビティの件数 人数 2 件 2 3 件 28 4 件 31 5 件 13 6 件 1 合計 75 名  アンケート 2 では,いちばん楽しかったアクティビ ティを選択させた。いちばん人気を集めたのは「ベー カリー」であった。75 名の子どものうち 8 名が「ベス トアクティビティ」に「ベーカリー」を選んだ。小麦 粉やバターなどでつくられた原料シートから小さな切 抜きを取り出し,それらを丸めて焼くクロワッサンを つくる仕事である。  アンケート 3 では,自分にとってのベストアクティ ビティを選択した理由を書かせた。表 3 は「ベーカ リー」を選んだ子どもの理由を整理したものである。 表 3 ベストアクティビティに「ベーカリー」を選ん だ理由 理由 人数 はじめてやってみて,おもしろかったから 3 自分が将来やってみたい仕事だから 2 ものを作ったり売ったりするのが好きだから 2 サービスなどをしてお客さまによろこんでも らうことが好きだから 1  アンケートを実施することで 75 名の子ども全員が 自分のキッザニアでの体験学習を振り返ることができ た。また,自分のベストアクティビティを選択した理 由を記録し事後の授業に生かすことができた。

Ⅳ.地域サマーフェスタでの経済体験学習

の実践

1.子どものコミュニティ参加を促進する経済 体験学習  少子高齢化と子どもの貧困連鎖が同時進行ですすん でいる。身のまわりの生活や社会に無関心な子どもた ち,シングル世帯等で多忙な保護者層,地域のよさや 持ち味を伝えようと苦心する高齢者層のアンバランス が地域課題である。そんな中でコミュニティの活性化 に出番を与えられたのが,学校と地域が一丸となった 地域サマーフェスタでの経済体験学習である。  PTA 会長からの提案があった。「学校でキッザニア に連れて行っているのなら,地域でも経済体験学習が できますよ。」の一言からはじまった。毎年,本校の PTA 等は地域サマーフェスタに夜店を出している。 今年は子どもたちにこの店を任せてみようと言うので ある。サポートは PTA がやるので,仕入れから準備, 実際の営業,儲けの実感までを子どもたちに体験させ たいとのことである。  地域活動協議会からの資金 60000 円で,スーパー ボールすくいの店を出すことになった。PTA 実行委 員会 8 名と子どもの参加希望者 32 名のスタッフが集 まった。スーパーボールやポイ,景品のお菓子などは PTA が問屋街に行って仕入れてくれた。子どもたち は当日の午後 3 時から水運びやルール確認などの準備 をはじめ,午後 4 時から 7 時まで子ども中心で営業活 動をした。安全確保のために午後 7 時以降から閉店ま では大人が中心の営業活動であった。子ども・保護 者・地域が一丸となって地域イベントを活性化しよう とする盛り上がりの中での経済体験学習「お店体験」 であった。 2.地域サマーフェスタでの経済体験学習  (1)実践の概要  平成 27 年 7 月 19 日,本校の前にある児童公園で地 域サマーフェスタがはじまった。どの子も参加できる ようにと,事前に全児童 496 名に 100 円相当のお楽し みチケットも配布していた。午後 4 時のスタートと同 時に,にぎやかに経済体験学習がはじまった。  そして,子ども中心の営業時間(午後 4 時から 7 時 間)で,お楽しみチケット 307 枚,現金 10000 円程度 の儲けがあった。 (2)体験後の子どもたちの声  7 月 25 日の終業式の後,子どもと大人スタッフが集 まり,精算報告会を実施した。今年の「PTA・地域 支援の子どもお店体験コーナー」の成果を共有するこ とができた。  今回の現金の儲け分については,子どもスタッフの ジュース・おみやげ代に費用として使ったことを共通 理解した。たくさんのお客さんが集まり,働きの成果 として儲けがあったことを互いに実感することができ た。 参加した子どもたちから,さまざまな意見や感想が出

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てきた。 1 年生女子「 たくさんのお客さんが来て,びっくりし た。」 1 年生男子「 ほんまにもうかった。お店ごっこと思っ ていたのに。」 4 年生女子「 小学生のほとんどはチケットやったけれ ど,他の人はほんとうにお金を支払って くれた。何かほんとうに働いている感じ だった。」 4 年生女子「 何回も来る子にはむだづかいはアカンと 注意した。」 5 年生女子「 たくさんの人が喜んでくれた。それで儲 か っ た。PTA の 人 に か な り 助 け て も らった。」 6 年生男子「 サービスをして,楽しんでもらって,お 金をもらった。働いたらほんまに稼げる ことがわかった。」 6 年生男子「 お金は,お客さんの喜びと僕らのがんば りで,1 回 100 円動いたと思った。働い て稼ぐっていうことが,ちょっとはわ かってきた。」 6 年生女子「 地活協からの資金があるから儲けが出た けど,ほんまに稼ごうと思ったらもっと 難しいと思う。店をするってたいへんな んやとわかった。来年もやってみたい。」  整備されたキッザニアとは異なり,地元の手づくり, 素朴な経済体験学習らしい成果が出てきている。他者 との関わりが希薄と言われている本校の子どもたちが, 多くの人々のインボルブメントによって,コミュニ ティに参加させてもらうことができた。経済体験学習 が,子どもと多くの人々とが関わり,互いに学びあう ことを促進するという効果があることが明らかになっ た。

Ⅴ.経済体験学習をアクティブ・ラーニン

グにするために

 先述の 2 つの実践「キッザニアを活用した経済体験 学習」と「地域サマーフェスタでの経済体験学習」は, アクティブ・ラーニングと言えるのか。省察を試み展 望を持ちたい。  これまで小学校の生活科・社会科・総合的な学習の 時間などの体験学習を重視してきた。しかし,「活動 あって学びなし」や「お調べ発表会ばかりで考える学 習になっていない」などと揶揄されてきたところであ る。つまり,体験学習に時間をかけて問題解決学習を 展開しているが,意味追求などの深い理解につながっ ていないことが指摘されているのである。また,教員 自身に子どものパフォーマンスを掬い取り,紡いでい く授業づくりをする意識が弱いということである。  そこで,岩田(2012)の「経済教育のツボ」をヒン トに 2 つの実践がアクティブ・ラーニング「深い学 び・対話的な学び・主体的な学び」を実現しているか を省察することにした。経済教育のツボは,「1 まず, 日常の生活体験や生活実感のある話材がぜひ必要」「2  対比するものやアナロジーが関心を起こす」「3 原因 を追及していく姿勢が大切」「4 副作用を含む因果の 連鎖を示す・・破壊されずにすすむ経済の理解にはこ れが必要」「5 メッセージが伝わらないときはなぜか を考えて,早く対応を」と深い経済理解を育む指導・ 支援・評価の要諦を明確にしている。4)  子どもにとって身近な社会的事象に注目させ,比 較・関連・意味追求などを通して社会生活の理解や社 会的なものの見方や考え方を育んでいくのが小学校の 社会科学習である。「経済教育のツボ」は,小学校の 社会科教育がだいじにしてきた指導の要諦と重なると ころである。実生活・実社会についての理解を深め, 経済社会に参画していく意欲を高めていくディープな アクティブ・ラーニングをねらう指標となる。 1.日常の生活体験や生活実感のある話材か ?  キッザニア体験は,閉ざされた空間での疑似的な仕 事体験である。しかし,日常生活を支えている多様な 仕事を体験できるメリットがある。本校の子どもたち は事前にスーパーマーケットのバックヤードを見学し ている。大型トラックで多様な商品が届く様子,惣菜 コーナーやパンコーナーの後方で調理作業をしている 店員の様子などを見学している。自分もやってみたい という気持ちもある。キッザニア体験の仕事は多種多 様であるが,消費者のニーズをとらえて,サービスを 提供し,利益をあげるという経済活動の共通点はある。 エデュテインメントタウンにおける仕事体験でもリア ルな経済体験にまで導くことが可能である  地域イベントにおけるお店体験も同様である。 PTA や地域住民によってつくられ,守られた環境で の体験学習である。サマーフェスタということで子ど も自身が店を開いて参画しているという意識も高める ことができる。ただし,示唆にもあるように「学生や 生徒の目先を変えるだけでは,その場での関心を引く ことはできても系統性のある知識を与えることはでき

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ない。」ということを十分に踏まえておかなければな らない。お楽しみ体験ではない。経済体験学習なので ある。 2.対比するものやアナロジーで関心を起こし ているか ?  多様な体験活動に出会わせるということは,比較し 共通点・相違点を見出し,自ら判断し選択させるとい うことである。一つの体験に没頭している場面はある が,必ず他の仕事体験を見たり,友だちから情報を得 たりしている。自分はこの仕事を選ぶという活動は, キッザニアでもサマーフェスタでも見られた。指摘に もあるように「物事を比較し,共通点と相違点を見出 すことはあらゆる分野で頭脳活動の第一歩である。」 3.原因を追及していく姿勢が育っているか ?  小学校社会科学習の基礎・基本は「事実認識」と 「意味追求」である。体験学習では,大人が仕事をし ている様子から,材料や手順などを学ぶとともに, 「なぜ,わざわざこんなことをするのか」という問い をもたせ,働く人々の工夫や努力にまで迫れるように しなければならない。仕事体験を通して,また,事 前・事後指導の中で意味追求をさせている。示唆にも あるように「経済事象をよく調べる中で何が本質的な ことで,何が雑多で一時的偶発的なことかを追究して いくことが経済認識の方法である。」を忘れては「お 調べ発表会」の経済学習となってしまうのである。 4.因果の連鎖を理解しているか ?  子どもの経済学習と言っても,体験だけではすまさ れない。自分が体験した仕事が,どのように他の仕事 につながるのか。消費者の思いや願いをどのように受 けとめているのか。この仕事は,どんなことで意味が あり価値があるのかなどを因果の連鎖として理解させ なければならい。  自動車の仕事にこだわる男児の例である。この子は 事前から祖父とキッザニア体験学習について話し合っ ていたようである。「おじいちゃんはトラックの運転 手で夜遅くにがんばっている。おじいちゃんは自動車 の免許を取っておけといつも言っている。ぼくも将来 はトラックの運転をしたい。」とのことであった。彼 が選択したアクティビティを振り返ってみると,まず 運転免許取得からはじめた。そして,レンタカーで自 動車運転を体験したり,ガソリンスタンドでドライ バーへのサービスを体験したりしている。祖父の影響 や憧れから自動車に関係するアクティビティを選択し ている。彼のパフォーマンスに子どもなりの因果の連 鎖を見抜き,授業につないでいくことにした。 5.メッセージが伝わらないときはなぜかを考 えて,早く対応をしているか ?  授業を展開していくにあたって,指導と評価の一体 化が基本である。子どもから見方や考え方を引き出し, みんなで承認しあうことが指導技術の基本である。体 験学習を実施しているときには,観察法で子どもたち の言動をとらえたり,気になる子どもにはフォーカス インタビューをしたりするなどの指導と評価の一体化 が必要不可欠である。さらに,事後には自らの体験活 動を振り返るアンケート調査を実施し,参加児童全員 の体験学習を量的に把握する必要がある。  先述の自動車の仕事にこだわる子どもの思いやパ フォーマンスなどは,学級担任の観察や聞き取り,ア ンケートなどから掬い取ることができた評価であり, 承認である。事後の授業でもこの子の思いを学級全体 に広め,仕事に対するこだわりや学びを共有すること ができた。「すべての授業で言えることだが,教員は 学生や生徒の気配に敏感に対応対処しなければ勉強を 深めさせることはできない。」という示唆を噛みしめ, 子ども一人一人の思いや願いを掬い取り,紡いでいく アクティブ・ラーニングを実現しなければならない。

Ⅵ.今後の可能性

 以上のように,これまで本校で実施してきた経済体 験学習は,アクティブ・ラーニングにアプローチする 意義があり,価値がある実践であると考える。しかし, 今後はさらに深い学習や問題解決学習の質的向上の可 能性を追究していく必要がある。  体験学習が「活動あって学びなし」などと揶揄され ることのないように,カリキュラムデザインやパ フォーマンス評価のスキルを教員一人一人に身に着け させる必要がある。  G. ウ ィ ギ ン ズ / J. マ ク タ イ( 西 岡 加 名 恵 訳 ) (2012)は,これまでのカリキュラムデザインで「双 子の過ち」を指摘している。「活動」に焦点を合わせ た指導と「網羅」に焦点を合わせた指導の双子の過ち を克服するために,「逆向き設計」論を提案している。 カリキュラムデザインの順序を「求められている結果 を明確にする」→「承認できる証拠を決定する」→ 「学習経験を計画する」としているところが逆向きと

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いうことである。5)  経済体験学習は「活動」に焦点を合わせた指導であ るが,「日本学術会議(2014)を参照したゴールの明 確化」→「パフォーマンス評価を計画してエビデンス を確認」→「経済体験学習を位置づけた問題発見・解 決学習の計画」で「活動あって学びなし」を克服しな ければならない。  さらに,子どもの思考や表現を可視化するパフォー マンス評価を活用していく必要がある。子どもの経済 体験学習から強い思いやこだわりを掬い取り,紡いで いくことで,現実の経済社会に参画していく人財を育 てるアクティブ・ラーニングを実践していきたい。 註 1) 中央教育審議会(2015)教育課程企画特別部会「論点整 理」p.18 より引用。 2) 梶田叡一(1986)『たくましい人間教育を─真の自己教育 力を育てる─』金子書房 p.88 より引用。 3) 中央教育審議会(2013)『今後の青少年の体験活動の推進 について(答申)』p.5 より引用。 4) 岩田年浩(2012)「経済教育のツボ」岩田年浩・水野英雄 編著『教員養成における経済教育の課題と展望』三恵社  pp.7-10 より引用。 5) G. ウィギンズ/ J. マクタイ(西岡加名恵訳)(2012)『理 解をもたらすカリキュラム設計』日本標準 pp.19-25 よ り参照。 参考文献 [1] 中央教育審議会(2015)教育課程企画特別部会「論点整 理」。 [2] 中央教育審議会(2013)『今後の青少年の体験活動の推進 について(答申)』。 [3] D. ハート(田中耕治監訳)(2012)『パフォーマンス評価 入門─「真正の評価」論からの提案─』ミネルヴァ書房。 [4] G. ウィギンズ/ J. マクタイ(西岡加名恵訳)(2012)『理 解をもたらすカリキュラム設計』日本標準。 [5] 石井英慎(2015)『[増補版]現代アメリカにおける学力 形成論の展開─スタンダードに基づくカリキュラム設計 ─』東信堂。 [6] 岩田年浩(2012)「経済教育のツボ」岩田年浩・水野英雄 編著『教員養成における経済教育の課題と展望』三恵社。 [7] 梶田叡一(1986)『たくましい人間教育を─真の自己教育 力を育てる─』金子書房。 [8] 日本学術会議経済学委員会 経済学分野の参照基準検討 分科会(2014)「報告 大学教育の分野別質保証のための 教育課程編成上の参照基準 経済学分野」。 [9] 西岡加名恵(2005)ウィギンズとマクタイによる「逆向 き設計」論の意義と課題『カリキュラム研究』第 14 号, 日本カリキュラム学会。 [10] 西岡加名恵(2008)『「逆向き設計」で確かな学力を保障 する』明治図書。 [11] 松下佳代(2015)『ディープ・アクティブラーニング─大 学授業を深化させるために─』勁草書房。 [12] 溝上慎一(2014)『アクティブ・ラーニングと教授学習パ ラダイムの転換』東信堂。

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