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京都大学大学院文学研究科 心理学研究室

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Academic year: 2021

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DOI: http://dx.doi.org/10.14947/psychono.34.31 193 蘆田: 京大文学研究科心理学研究室

京都大学大学院文学研究科 心理学研究室

蘆 田   宏

京都大学大学院文学研究科

Department of Psychology, Graduate School of Letters, Kyoto University

Hiroshi Ashida

Graduate School of Letters, Kyoto University

京都大学には多くの心理学関連研究室があり,いろい ろな部局に点在しています。小さな研究室には意思決定 がしやすいなど良い面もありますが,広大な心理学のご く一部しか対応できませんし,集まることにはやはりメ リットがあります。欧米では心理学者が数十名の大所帯 を形成するのが普通ですし,国内でも心理学の学部や学 科が増えてきたようです。私たちも長らく議論してきま したが,今は「京都大学心の先端研究ユニット」という ヴァーチャルな組織を作って両方のいいとこ取りを目指 しています。詳しくはユニットのホームページ(http:// www.kokoro-kyoto.org/)をご覧いただければ嬉しいので すが,たとえば医学部を抜けることができない臨床医の 先生に参加いただくなどヴァーチャルゆえの利点があ り,当面はこのような形をうまく活かしていきたいと考 えています。とはいいましても,京都大学で心理学を学 びたいという方にはたいへんわかりにくい状況であるこ とは否めません。本稿が少しでも助けになれば幸いで す。なお,ここでは大学院をターゲットとして書いてい ますが,文学部・文学研究科については学部もまったく 同じ構成です。 さて,本題の文学研究科心理学研究室です。文学部の 心理学は小さいながら歴史は古く,1906年に京都帝国大 学に文学部の前身,文科大学ができたのと同時に設置さ れました。元良勇次郎教授が東大に最初の心理学研究室 を作り,それと前後して元良教授の下で学んだ松本亦太 郎教授が京大に心理学講座を創設しました(後に東大に 戻られました)1)。歴代の教授は私自身を含めて 16人, 110年に迫る歴史の中で意外に少ないですね。今は言語 学,社会学,地理学とともに行動文化学系という枠組み に入っていますが,創設以来長らく哲学科の一員であ り,今でも哲学の問題意識を大切にしています。方法論 は違いますが,成果だけではなく自分でよく考える過程 そのものが重要だと考えていることは哲学に通じる部分 でしょう。 文学研究科の心理学研究室は「実験心理学」「基礎心 理学」「基礎行動学」という3つの講座から成り立って いますが,実際にはこの枠はあまり意識せず,研究室が 一体となって運営しています。扱う内容は基本的に「実 験心理学」であり,また,「基礎」を重視しています。 実験的手法を用いる限り多少は応用に関連する問題も扱 いますが,臨床心理学は対象外で(教育学研究科にあり ます),健康心理学や犯罪心理学などの応用分野への対 応も難しいと思います。 現在の教員は教授4,助教1となっていますが,定員 削減の嵐の渦中で流動的な面が大きく,数年後にどう なっているか,私たちにもわかりません。まったく困っ た状況で,もう少し教育研究に専念させてほしいと切実 に思いますが,もちろんそれはうちだけではないでしょ うね。 研究室内には,比較認知科学,発達科学,知覚認知の 3つのグループがあります。それぞれ,教室伝統の学習 心理学,発達心理学,知覚心理学の系譜を引きながら, 心理学を超えた学際性を持つ新しい枠組みを形成しつつ あります。 比較認知科学の藤田和生教授は,さまざまな動物の知

The Japanese Journal of Psychonomic Science

2015, Vol. 34, No. 1, 193–195

紹  介

Copyright 2015. The Japanese Psychonomic Society. All rights reserved. Corresponding address: Department of Psychology,

Graduate School of Letter, Kyoto University, Yoshida-Honmachi, Sakyo-ku, Kyoto 606–8501, Japan. E-mail: ashida@psy.bun.kyoto-u.ac.jp

1 東 大 心 理 学 研 究 室 の 歴 史 http://www.l.u-tokyo.ac.jp/

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194 基礎心理学研究 第34巻 第1号 覚や感情,知性,社会性など幅広い問題を実験的に調べ ています。実験室にはハト,新世界サル,デグー,その 他が飼育されていますが,最近では飼い主の協力を得る かたちでイヌやネコの研究にも力を入れています。すべ ての研究に通底するのは動物への深い愛情であり,彼ら の潜在的な認知能力を深く理解することでよりよい関係 を築いていくことを目指しています。James R. Anderson 教授はScotland出身で,藤田教授の共同研究者として毎 年のように当研究室を訪問されていましたが,昨年より 京都大学に移籍しました。霊長類の社会的知性を中心 に,幅広い研究を行っています。また,研究室の英語リ ファレンスとしてもたいへんお世話になっていますし, 日本心理学会の英語論文ワークショップでお話を聞いた 方も多いのではないでしょうか。 発達科学の板倉昭二教授は,赤ちゃんの社会的知性の 発達を中心に,幼児や学童,さらには生涯発達まで研究 対象にしています。工学など他分野との連携も積極的に 進め,ロボットとヒトの関わりなどを探求するDevelop-mental Cybernetics という枠組みを提唱しています。赤 ちゃんが,ロボットをどのように認識するかということ を通して,赤ちゃんの心の働きを調べているのです。 知覚心理学の蘆田宏教授は視覚科学が専門で,ヒトを 対象とした心理物理学,脳画像研究を行い,計算理論と の橋渡しを目指しています。運動視が主テーマですが, 最近はクロスモーダル知覚,視覚的記憶,実験美学など 徐々に拡がりつつあります。他の教員があまり成人を対 象にしないので認知心理学に近い分野も担当してきまし たが,本来はより低レベルの感覚・知覚が守備範囲で, 今年から認知神経科学の矢追健助教の参加を得て少し肩 の荷が下りた状況です。その矢追助教の中心テーマは自 己認識で,心理実験と fMRIを用いています。ただし, 記憶や思考,感情などのいわゆる認知心理学的な研究を したいという方には,教育学研究科・教育認知心理学講 座のほうが強力な布陣です。 実験心理学は,ほぼ理系と言っていい研究手法を採る ため,文学研究科の中では多少異質な存在です。それで も私たちは人文学的な部分を大切にしたいと思ってお り,それがもっとも端的に表れるのは学生さんの研究 テーマの選び方でしょう。理系,特に工学系では研究室 が明確なテーマを持ち,学生は呈示されたサブテーマの 中から選択することが多いのではないかと思いますが, 文学研究科では,大学院生といえども自らのテーマに関 しては一国一城の主であり,指導教員といえどもそこを 侵すことはできません。学生は自分でテーマを決め,自 分で考えて論じていきます。もちろん教員はきちんと道 案内をするのですが,自分の考えを押しつけすぎてはい けません。当研究室でも,この点は全く同様です。他の 心理学研究室では,より理系的なチーム方略をとるとこ ろもあると思いますし,実験研究のためにはそのほうが 研究の効率がよさそうだとも思うこともあります。しか し,文学研究科である限り,自分で選んで自分で考える ということは譲れない一線だと思います。実際には,教 員や先輩に感化されて研究テーマを受け継ぐこともあり ますし,それはそれで歓迎されます。また,動物や赤 ちゃんの研究はチームで実施しないと辛い面もありま す。それでも各人が自分で決め,責任をもって進めてい くことには違いありません。もちろん,資金,研究倫理 など制約は多々あるので,テーマを決める際には教員と よく相談することが重要です。私自身の研究室は比較的 自由に,視知覚に関係しさえすればよいということで各 人がいろいろ好きにやっており,指導どころかついてい くのもなかなかたいへんです。 もうひとつ,当研究室の特徴は国際色が豊かなことで しょう。教員はそれぞれ海外の研究者と連携しており, たびたび来客が訪れます。比較的著名な研究者に来てい ただいた時は,公開の講演会を開くこともあります(京 都国際心理学セミナー: http://www.bun.kyoto-u.ac.jp/psy/ seminar/KPIS.html)。共同研究のための滞在も多く,若 手が来てくれたときは院生さんらとの交流も盛り上がり ます。幸い,実験心理学では英語だけで十分です,とい うと英語でも嫌という声が聞こえてきそうですが,実 際,英語しか共通語がないですよね(某研究所にいたと きは数式やC言語で直接会話する人たちも見ましたが)。 いろいろな国の人々と交流すること,ありていにいえば 飲んで盛り上がること,は研究を超えた楽しみでもあり ます。営利が絡まず,世界中の人と何でも気軽に話し合 えるのは基礎研究者の醍醐味だと思いますので,ここは なんとか努力してほしいところです。論文を書くうえで も,話せるかどうかでずいぶん感触が違ってきますし。 ちなみに,文学部の教員には多国語を自由に使える人た ちが多く,セミナー等も多国語で行われるので私たちは 肩身が狭い思いをしたりもしています。 京都大学では海外の大学との包括的な交流協定を積極 的に進めています。私自身は英国ブリストル大学との連 携に参加しており,新たに台湾国立大学との連携を計画 中です。他の先生方もフランス,カナダ,ハンガリーな ど多くの国との研究協力を行っています。そういう枠組 みで大学院生を派遣招聘することもあります。海外から の留学生はまだそれほど多いとはいえませんが,アジア 諸国を中心に少しずつ増えつつあり,欧州からの人もい

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195 蘆田: 京大文学研究科心理学研究室 ます。本稿の読者諸氏にはあまり関係ないかもしれませ んが,修士課程は日本語力を重視し,博士後期課程は英 語だけでも大丈夫です。生活には日本語がある程度いる と思いますが,それは他の国でも似たようなものでしょ うか。 以上,簡単に説明してきましたが,これを読んで,当 研究室で大学院生として学びたいと思っていただけまし たでしょうか。入学試験は,修士課程は 8月と2月の2 回,博士後期課程は2月に1回行っています。試験はそ れなりに厳しく,自分の専門分野だけではなく先述の3 分野すべての知識を問いますので,ある程度勉強する必 要があります。まずは,ぜひ一度実際に研究室に来てい ただき,希望する研究がうまく進められそうか,院生た ちの様子はどうかなど,ご自身の目で確かめていただき たいと思います。訪問を希望される場合は,教室ホーム ページ(http://www.psy.bun.kyoto-u.ac.jp/)などで各教員 の研究活動について調べたうえ,近いと思われる教員に 連絡してください。

参照

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