日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-66 252
-発達障害児をもつ母親の養育ストレスと問題解決スキルの関連
―子どもの問題行動とソーシャルサポートに注目して―
○早川 真央1)、金澤 潤一郎2)、堀内 ゆかり3) 1 )特定医療法人 さっぽろ悠心の郷 YouII放課後等デイサービス、 2 )北海道医療大学心理科学部、 3 )九州産業大学人 間科学部 【目 的】 発達障害児をもつ母親は障害のない子どもをもつ母 親に比べて,様々な心理的な負担や困難を抱えている (渡部他, 2002)。これまで,発達障害児をもつ親の養 育ストレスへの関連要因は,主に,子どもの問題行動 や ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト が 検 討 さ れ て き た (Phetrasuwan, & Shandor Miles, 2009)。しかし,Dilek & Filitz(2015)は発達障害児をも つ親への介入は問題解決の方法を習得することも重要 であると示し,母親個人の特性や能力にも介入する必 要性を示唆している。問題解決の方法として問題解決 スキルが議論されており,母親の問題解決スキルへの 介入では母親の苦痛の低減や気分の向上が報告されて いる(Abbeduto et al., 2004)。 これまでに,発達障害児をもつ母親の養育ストレス について子どもの問題行動とソーシャルサポートの影 響を考慮した上での問題解決スキルの関連は十分に検 討されていない。よって,子どもの問題行動,ソー シャルサポートおよび母親の問題解決スキルを含めた 養育ストレスとの関連を検討する。 【方 法】 研究協力者 医療機関や療育施設に通う発達障害児を もつ母親で,以下の基準に合致した母親49名(平均 40.63±5.38歳)を分析対象者とした:1. 過去に,医 療機関及び児童相談所でADHD,ASD,LDと診断,また は疑いがあると指摘された子どもをもつ母親,2. 子 どもが4-17歳,3. 子どもが他の発達障害(ダウン症, レット障害,脆弱性 X 症候群,脳性まひ,肢体不自由, 知的能力障害)の診断を受けていない。 測定指標 1. 母親の年齢,最終学歴,家族構成,子 どもの年齢,性別,障害名および出生順位について2. 日本語版Strengths and Difficulties Questionnaire (SDQ;Sugawara et al., 2006)25項目, 3 件法。“情 緒不安定”,“行為”,“多動・不注意”,“仲間関係問 題”,“向社会的行動”の 5 因子構成。本研究では“向 社会的行動”の得点を除いた得点を子どもの問題行動 として測定した。3. ソーシャルサポート(Social Support:SS)尺度(家族SS,公的SS;山根, 2013) はそれぞれ 4 項目, 4 件法。家族SSは“夫”と“親”, 公的SSは“医療機関”と“療育機関”の総得点の平均 点 を 算 出 し た。 得 点 が 高 い 程 母 親 の 知 覚 さ れ た サ ポートが高いことが示される。4. Problem Solving Inventory(PSI;高橋他,2013)18項目, 5 件法。得 点が高い程問題解決スキルが高いことが示される。5. Stress Response Scale-18(SRS-18;鈴木他, 1997) 18項目, 4 件法,得点が高い程育児で経験する感情や 行動の困難が示される。なお,教示文を「あなたのこ こ 2 , 3 ヶ月間の子育てで経験する感情や行動の状態 はどのくらい当てはまりますか」に変更した。 倫理的配慮 本研究は北海道医療大学心理科学部・心 理科学研究科倫理委員会の承認を得た上で行われた。 また,紙面で目的や内容,個人情報の取り扱いについ て説明し,調査の同意が得られた研究協力者のみ回答 を求めた。同意の有無は,調査用紙への回答で同意の 意思を確認した。 【結 果】 本研究協力者49名の合計得点の平均は,SDQが16.10 ±4.56点,家族SSが20.77±6.29点,公的SSが24.77± 4.66点,SRS-18が17.36±11.28点,PSIが64.40±8.54 点であった。子どもの平均年齢は7.25±2.36歳,診断 名 は A S D が 3 6 名,A S D・A D H D が 1 0 名,A D H D が 2 名, ASD・ADHD・LDが 1 名であった。各変数間の相関係数 を算出した(Table 1)。 養育ストレスに子どもの問題行動やソーシャルサ ポートおよび母親の年齢を含めた上で問題解決スキル が影響するかを検討するため,母親の年齢(Step1), 家族SS・公的SS,子どもの問題行動(Step2),問題解 決スキル(Step3)を独立変数,SRS-18を従属変数と する,強制投入法による階層的重回帰分析を行った (Table 2)。有意な関連が認められた変数は,Step1 で,母親の年齢(β = -.29, p < .01),Step3で, 問題解決スキル(β = -.47 , p < .01)のみがスト レス反応を予測した。標準編回帰係数(β )の値から, 家族SS(β = -.11, p = .35)と公的SS(β = .03, p = .80),子どもの問題行動(β = .19, p = .13),母 親年齢(β = -.23, p = .06)はストレス反応を予測 せず,問題解決スキルが(β = -.47, p < .01)ス トレス反応を予測する可能性が示された。 【考 察】 本研究は,発達障害児をもつ母親を対象に,母親の 問題解決スキルが子どもの問題行動やソーシャルサ ポートを考慮した上での養育ストレスへの影響の検討
日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-66 253 -が目的であった。母親の年齢,子どもの問題行動およ びソーシャルサポートの影響を考慮しても,母親の問 題解決スキルが高いことで,養育ストレスが低減する ことが明らかになった(Table2)。この点に関しては, Da Paz & Wallander(2017)が指摘した,発達障害児 をもつ家族への支援に,母親の養育ストレス低減が不 可欠であるという示唆を支持する結果で,子どもの問 題行動の程度に関わらず母親の支援に役立つ可能性が 考えられる。 子どもの問題行動について,問題行動に対して母親 が対処可能であると評価することでストレッサーの脅 威が低減し,ストレス反応が高まらない可能性が考え られる。発達障害児をもつ母親のストレッサ―尺度 (例えば,山根, 2013)では,これまで問題行動は母 親のストレッサーになると示されてきたが,項目に問 題行動への対処に関する認知的評価にあたる表現も含 まれており,問題行動に対する効力感が関連する可能 性が考えられた。 ソーシャルサポートについては,知覚されたサポー トは養育ストレスを低減することが報告されている (道原・岩本, 2012)。しかし,本研究で有意な影響が 認められなかった理由として,サポートを受容できる 信念は,当面の状況をストレスフルと評価しなくなる ことに寄与するため(Cohen et al., 2000),ソーシャ ルサポートはストレス反応に直接寄与せず,間接的に 養育ストレス低減へ寄与する可能性がある。 母親の養育ストレス低減を目的とした介入の際,母 親個人の心理社会的要因として問題解決スキルを取り 扱うことで,母親の養育ストレスが低減する可能性が 示唆された。現在行われている母親への支援はペアレ ントトレーニング(Parent Training:PT)や自助グ ル―プ,情報提供が主で,子どもの問題行動の低減・ 母親への心理教育が中心である(原口他,2014)。し かし,Osborn et al.(2008)は母親の養育ストレス の高さが心理教育の介入効果に影響することを報告し ている。よって,発達障害児をもつ母親への支援に際 して,心理教育に加えて養育ストレスを扱うことで, 介入効果を補助できる可能性が示唆できた。 今後の課題は,本研究の研究協力者が放課後等デイ サービスを利用する母親に限定されていたため,支援 機関を利用していない母親も含める必要がある。 今後の展望として,問題解決スキルを介入に含むPT による介入研究を行い,縦断的に養育ストレスへの影 響を検討する。