• 検索結果がありません。

パネルディスカッション デザインの哲学

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "パネルディスカッション デザインの哲学"

Copied!
2
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)パネルディスカッション デザインの哲学~豊かさを再考する デザインは、「安心」と「欲望」の狭間で何を考えるか 松岡由幸. MATSUOKA Yoshiyuki. 慶應義塾大学. Keio University. 日本デザイン学会. Japanese Society of the Science of Design. 『デザインは、「安心」と「欲望」の狭間で何を考えるか』。. にとり込みながら、多くの付加機能、付加価値を生み出すため. 実は、このタイトルは、もう10年近く前になりますが、平凡. の手段として行われてきました。また、この手段は、消費者の. 社から出ている『現代デザイン事典』に寄稿させていただいコ. 利便性や実用的な「欲望」を満たすだけでなく、生産者の経営. ラムのタイトルそのままです。以下はその冒頭のくだりです. 的「欲望」をも満たすという意味で大変都合の良いものでもあ. が、少し読みあげてみたいと思います。. りました。もちろん「欲望」はそれ自体が悪いわけではありま せん。むしろ、創造の源であり、人類にとって大切なもので. 『確かに、今日までのデザインは、人々の生活を豊かにして. しょう。しかしながら、この「大規模化・複雑化」には、「功」. きた。美しさ、機能性、利便性など人々の様々な「欲望」を満. と「罪」の両方が内在しています。「功」の部分は、いうまで. たすべく、多くの特性を人工物や人工システムに埋め込み、便. もなく、人々の生活を便利にして物質的な豊かさをもたらして. 利で快適な社会を実現してきた。そして、その実現のための手. くれています。また、この「大規模化・複雑化」は、経済効果. 段として、デザインは、人工物や人工システムの大規模化・複. も大きく、これからも必要なものだろうと考えられます。. 雑化を推し進めてきた。……(中略) では、これらの副作用に内在する根源的理由は何であろう. デザイン科学[How 問題]とデザイン哲学[What 問題]. か?その一つに、これまでのデザインの多くが、利益優先の商. 一方、「罪」の部分については、大きく分けて二つあると思. 業システムに組込まれてしまい、単なる経営の道具と化してい. います。一つは、地球環境問題や大規模事故といった安全・安. ることが挙げられる。元来、デザインは、哲学とそれに基づく. 心をおびやかすものです。人工物が「大規模化・複雑化」を志. 未来観のもとに、在るべき社会の実現を目指して進められるべ. 向する状況下では、事故さえも「大規模化」してしまうので、. きものであろう。私見では、かつてのデザインは、自らの哲学. 結果として被害は甚大なものになってしまいます。これはデザ. に基づき、認識された在るべき社会の実現に向けて進められて. イン研究としての重要な課題ですが、その対応策として「いか. いたと考える。しかしながら、今日のデザインは、ニーズの高. にデザインをするか」ということを考えねばなりません。すな. 度化や多様化、経済面のさらなる高効率化といった時代の要請. わち “How” の問題ということです。我々の研究領域でいうと、. と戦いつづけながら、いつしか、自らの哲学とそれに基づく主. デザインの理論・方法論、すなわち、デザイン科学がそれにな. 体性を失っていった。経済至上主義の支配のもとに、消費者の. ります。本デザイン学会ではその知を結実させるべく、現在. 実用的欲望と生産者の経営的欲望に応えようと必死に頑張って. 『デザイン科学事典』の編纂を進めており、来年刊行の予定で. きた。その結果、それらの「欲望」と「安心」の狭間で、デザ. す。. インは時として、間違いを起こしてきたようである。』. もう一つは、「何をデザインすべきか」すなわち “What” の 問題です。例えば、よくある話ですが、便利な道具が生まれた. 今、読んでみるとやや強い主張の表現になっている気もしま. とします。生活は物質的には豊かになります。しかし、結果と. すね。実は、このコラムは、私自身の実務時代の反省も込め、. して人と人の触れ合いなど、人間社会や精神文化において何か. このようなことを書いたと記憶しています。このコラムは問題. 大切なものが失われていったということがよくあります。この. 提起に留まっていますが、本日はこの続きをお話したいと思っ. ような問題は “What” の問題であり、何をつくるべきかといっ. ています。. た哲学の重要性を示しているといえるでしょう。しかしなが ら、最近このような本質的な議論が非常に少ないと感じてお. 36. 人工物の大規模化・複雑化。その「功」と「罪」. り、寂しい限りです。このことは先ほど GK の田中一雄先生も. まず、このコラムではデザインが進めてきた「人工物の大規. お話されていましたが、その通りだと思います。私が学生のと. 模化・複雑化」に注目しています。この「大規模化・複雑化」. きには、たしかデザイン学会には「デザイン哲学」というセッ. は、人々の様々な欲望を満たすために、先端的な科学技術を常. ションがありました。いまそれは影を潜めています。“How”. デザイン学研究特集号 special issue of japanese society for the science of design Vol.24-2 No.94 2017.

(2) の問題は科学的で論文になりやすいのですが、“What” の問題. 分化されると、デザイナーが主体性を持って意見を押し通すこ. は論文になりにくいということも、背景の一つにあったのかも. とが構造的に難しくなるのです。そのため、結果的に、主体性. 知れません。. を失ったデザインが商業システムにたくみに組み込まれてしま うのです。私はかつての自動車メーカでの経験から、この傾向. 物の豊かさ、心の豊かさ. を実感しています。デザインは時として商売の道具として表層. “What” の問題の重要性に気づかせてくれることに、毎年内. 的な役割を負わされることがあります。デザインの専門化・細. 閣府が行なっている「国民生活に関する世論調査」がありま. 分化では、主体性を発揮しづらい環境を誘発し、そのような傾. す。この調査には、「これからは心の豊かさか、まだモノの豊. 向を助長することはよくあります。しかしながら、「専門化・. かさか」というアンケートがあり、この結果によると、かつて. 細分化」は人工物の「大規模化・複雑化」を実現するために必. は物の豊かさを欲していた世論が、1989年くらいから逆転し、. 要であり、どうしても通らなければいけない道であるともいえ. 心の豊かさを求める傾向が高まり、モノを求める傾向との差は. るのです。. ますます乖離しています。今でもその傾向は顕著に進んでいま す。. 継続的な哲学共考の必要性. そして、この傾向はデザインが世論に対して十分に応えてい. では、どうすれば良いのでしょうか?その答えとしては、ひ. ない、つまり、我々がそれをやり切れていない現状を映して. たすら哲学論議を続けることしかないのではないかと私は考え. いるともとれるのです。デザインを取り巻く環境を見渡すと、. ています。「マッキンゼーの7S」の話をご存知だと思います. 今、人工知能や生命科学は日進月歩で発展し、我々が議論す. が、7つの S のうち、仕組みやシステムはすぐにできても、最. べき課題は山積です。さらに社会情勢も急激に変化しており、. 終的な価値観の問題については継続的に議論するしか対応策. デザインが心の豊かさに目を向け、何を創ってゆくかという. はありません。これと同様に、デザインにおいても継続的な. “What” の問題が一層大事な時期に来ているといえるのではな. “what” の問題に関する哲学論議が、今、必要と考えています。. いでしょうか。. そのためにも、学会においても、今回のような哲学としてデザ インを思考する場をつくり、取り組んでいければと思っていま. デザイナー個人の未来観と主体性. す。. 私がここでお話したいことは、「どのような哲学や未来観を. ご存知のように、西周(にし・あまね)は私たちが毎日のよ. 持つべきか」ということではありません。ただ、デザイナーが. うに使っている「芸術」や「科学」「哲学」「技術」という言葉. 何を作るべきかという “What” の問題についてもっと考えてゆ. を生み出したことで知られていますが、彼の思想を示す『百学. く必要があり、そのためには、自らの哲学とそれにもとづく未. 連環』という書籍があります。この書では、様々な縦割りの学. 来観のもとに、主体性を持ってデザインを考えることが大切だ. 問を連関させる横串として哲学を捉えていたようです。哲学と. と思うのです。たしかにそれは現場にいると難しいことかも知. いう言葉には多義性があり、特定の思想という狭義から、より. れません。経済を軸に回っている現実において、本当にデザイ. 幅広い教養としての “Philosophy” という広義まで様々です。. ンが主体性を持ち続けることができるのか?口にするのは簡単. 『百学連環』では、後者の “Philosophy” に近い意味で用いられ. ですが、実は大変困難なことだと思います。これには様々な要. ていますが、我々もそれに学び、様々な教養を含んだ哲学とい. 因が考えられます。. うものを横串として、今回のように様々な団体の枠を超え、と もに考える場があればと考えます。. デザインの専門化・細分化 デザインの現場について考えるべきは、「専門化・細分化」. デザイン哲学が真の創造性と経済効果を生む. に伴う問題です。これまで、人工物の大規模化・複雑化という. 最後になりますが、このような哲学論議において、決して、. ことにフォーカスしてきましたが、そのような人工物を生み出. 論議のみにとどまらない期待を持っています。そのような議論. す現場ではこの「専門化・細分化」により、結果としてデザイ. を通じて得られた哲学とそれにもとづく未来観のもと、あるべ. ンが主体性を持ちづらい状況が生まれています。例えば、自動. き社会の実現を目指してデザインを行うことは、魅力的なデザ. 車の場合、一つの車に多くのデザイナーが関わっています。首. インを生むと同時に、デザインするという喜びを深化させてく. 尾よく協働しているうちは良いですが、多くのデザイナーが関. れるのではないでしょうか。つまり、哲学論議は、真の創造性. 与し、協働でデザインが行われる場合、とかくデザインの主体. を育むものと考えています。そして、結果的に哲学論議が大き. 性が失われることが多々あります。行為としてのデザインが細. な経済効果を生むものと、私は確信しています。 デザイン学研究特集号 special issue of japanese society for the science of design Vol.24-2 No.94 2017. 37.

(3)

参照

関連したドキュメント

いない」と述べている。(『韓国文学の比較文学的研究』、

Amount of Remuneration, etc. The Company does not pay to Directors who concurrently serve as Executive Officer the remuneration paid to Directors. Therefore, “Number of Persons”

関西学院大学手話言語研究センターの研究員をしております松岡と申します。よろ

経済学研究科は、経済学の高等教育機関として研究者を

学側からより、たくさんの情報 提供してほしいなあと感じて います。講議 まま に関して、うるさ すぎる学生、講議 まま

授業は行っていません。このため、井口担当の 3 年生の研究演習は、2022 年度春学期に 2 コマ行います。また、井口担当の 4 年生の研究演習は、 2023 年秋学期に 2