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03 気象情報の手話 CG システムの開発と評価 1 加藤直人宮﨑太郎井上誠喜 金子浩之 2 比留間伸行 1( 株 )NHK テクノロジーズ, 2( 一財 )NHK エンジニアリングシステム Development and Evaluation of a Machine Translation Sy

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Academic year: 2021

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03

気象情報の手話CGシステムの

開発と評価

加藤直人  宮﨑太郎  井上誠喜

※1

  金子浩之  比留間伸行

※2

※1(株)NHKテクノロジーズ,※2(一財)NHKエンジニアリングシステム

Development and Evaluation of a Machine

Translation System from Japanese Texts to Sign

Language CG Animations for Weather News

Naoto KATO, Taro MIYAZAKI, Seiki INOUE

※1

, Hiroyuki KANEKO and Nobuyuki HIRUMA

※2

※1 NHK Technologies,※2 NHK Engineering System

要 約 手話サービスの拡充を目指し,日本語テキストを手話CG (Computer Graphics)アニメーションに機械翻訳(手 話CG翻訳)する技術の研究を進めている。その第一歩 として,気象情報を対象にした手話CG翻訳システムを 開発した。このシステムは,言語翻訳とCG生成から構 成されている。言語翻訳では,当所で構築している大規 模手話コーパスを用いて機械学習した翻訳モデルに基づ いて,日本語から手話のテキストに翻訳している。また, CG生成では,当所で開発した大語彙の手話CG辞書に より,手話のテキストを手話のCG動作データに変換して いる。本稿では,開発した手話CG翻訳システムの概要 を説明するとともに,評価実験の結果について報告する。 ABSTRACT

We have been studying machine translation from Japanese text to sign language CG (Computer Graphics) animations to deliver more sign language information. As a first step to realize the sign language information service, we developed a machine translation system for weather news. The developed system consists of a language translation module and a CG synthesis module. The language translation module transforms Japanese text into sign language text descriptions, by using a translation model estimated by machine learning from our own bilingual corpus. The CG synthesis module converts the sign text descriptions to the sign CG movement animations by using our own sign motion dictionary. We also conducted a series of experiments to evaluate the developed system.

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先天的あるいは幼少時に失聴した聾者にとって,手話 は第一言語であり,日本語より理解しやすい。したがっ て,そのような聾者に情報を提供する場合,日本語より も手話の方が望ましい。しかしながら,手話による情報 を増やすことは容易ではない。これは,日本語から手話 への“翻訳”という作業を伴うからである。手話は日本 語とは異なる言語であるので,日本語の情報を手話で提 供する場合,日本語から英語への翻訳のように,日本語 から手話へ翻訳しなければならない。そのためには手話 へ翻訳できる人材が必要となるが,英語への翻訳ができ る人材に比べ,はるかに少ない。その結果,手話による 情報提供が十分ではないのが現状である。 このような課題の解決手段の1つとして,機械翻訳の 利用が考えられる。実際に,異なる音声言語の間では, ある言語(原言語)のテキストを他の言語(目的言語) のテキストに機械翻訳する研究が盛んに行われている。 同様に手話においても,音声言語を手話に機械翻訳する ことが考えられる。この場合,手話は加工しやすいCG (Computer Graphics)アニメーションで生成される場合 が多い。本稿では,音声言語のテキストを手話CGアニ メーションに機械翻訳することを「手話CG翻訳」と呼ぶ。 当所でも手話サービスの拡充を目指し,手話CG翻訳 の研究を進めている。その第一歩として,気象情報を対 象にした手話CG翻訳システム(以下,本システム)を 開発した。気象情報を当面の翻訳対象に設定した理由は 2つある。1つは実用面からの理由であり,ここ数年, ゲリラ豪雨や竜巻などによる気象災害が増え,気象情報 の重要性が増しているが,深夜や早朝では手話通訳者を 確保することが難しいからである。もう1つは研究面か らの理由であり,気象情報は語彙が限られていて,定型 的な表現が多いので,機械翻訳でも比較的精度よく翻訳 することができると考えたからである。 従来の手話CG翻訳システムでは,単語単位の翻訳や 文体単位のテンプレート翻訳のように,非常に単純な機 械翻訳を用いていた。それに対して本システムでは,用 例ベース翻訳*1 と統計的機械翻訳*2 を節・句単位に適 用し,翻訳結果を合成するという言語翻訳を行っている。 さらに,大規模な手話の対訳コーパス*3 を利用するこ とにより,さまざまな手話テキストを手話CGアニメー ションに変換することを可能にしている。対訳コーパス としては,今回は,総数約47,000文(そのうち気象情報 は約5,300文*4 )を独自に構築・利用しているので,気 象情報に範囲を限ってはいるものの,従来の手話CG翻 訳よりも広範な文を翻訳対象とすることが可能となる。 また,CG生成においても,大語彙の手話CG辞書(手話 語彙約4,900語,日本語語彙約86,600語*5 )を利用する ことにより,さまざまな手話テキストを手話CGアニメー ションに変換することを可能にしている。さらに,手 話CGの動作データは高解像度の光学反射式モーション キャプチャー*6 によって取得しており,従来のサイバー グローブ式*7 に比べ,高精度に取得することができる。 光学反射式モーションキャプチャーには,手話演者の動 作が制限されにくいという利点もある。 本稿では,開発した手話CG翻訳システムの概要と, 評価実験の結果について報告する。

2.手話CG翻訳システム

2.1 システムの概要 当所で開発した手話CG翻訳システムの概要を1図に 示す。システムは大きく分けて,言語翻訳とCG生成か ら成る。 言語翻訳1) 2)では,入力された日本語テキストを手話 テキストに変換する。例えば,1図では,日本語テキス ト「東日本から西日本は夕方から雷雨となるでしょう」 を,手話テキスト“[日本][東][から][西][雷][雨][夢] N*8 ”に変換している。ここで,手話テキストはgloss *1 あらかじめ用意した節・句単位での対訳用例を適用して翻訳する方式。 *2 大規模な対訳コーパス(脚注3参照)から機械学習によって得られた翻 訳モデル(確率が付与された節・句単位の対訳データ)により翻訳する 方式。 *3 ある言語とそれを人手で翻訳した他の言語の実例を集積した大規模な データベース。 *4 2013年1月末現在までに構築した対訳コーパスにおける値。 *5 2011年12月末現在までに開発した手話CG辞書における値。日本語語彙 は自動拡張1)による語彙も含む。 *6 再帰性反射材(光を入射方向に反射する素材)でコーティングされた複 数個のマーカーを被写体に装着し,レンズ周辺に赤外線LEDを搭載した 複数台の赤外線カメラを用いて反射光を収録することにより,被写体の 動作を記録する方式。 *7 特殊なセンサーが取り付けられた手袋をはめて,指の動きを計測する方 式。 *8 「N」は頷うなずきを表す。手話では,句や文末など意味のまとまりの境界で頷 きが入る場合が多い。 手話ニュース コーパス 手話CG 辞書 TVML 1図 手話CG翻訳システムの概要

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表記*9で表現している。このような言語翻訳は,音声言 語間の場合と同じであり,本システムの言語翻訳では コーパスベースの手法を用いた。コーパスベース翻訳に は2言語間の対訳コーパスが必須なので,当所では「手 話ニュースコーパス」という日本語と手話の対訳コーパ スを独自に構築している。 CG生成では,手話テキスト“[日本][東][から][西] [雷][雨][夢]N ”の各単語をCGアニメーションに変 換する。すなわち,gloss表記された各手話単語は,手 話CG辞書により各単語のCGアニメーションに置き換え られる。手話CG辞書は,日本語単語,その訳語である 手話単語のgloss表記,およびCGデータから成る。CG生 成では,手話単語のgloss表記を,手話CG辞書から得ら れた各単語のCGデータで置き換えて,一文にまとめる。 そして,一文にまとめられたCGデータに対し,TVML (TV program Making Language)*10 によってレンダリ

ング(CGの生成)を行う。 本章では,NHKの手話CG翻訳システムを構成する言 語翻訳,手話ニュースコーパス,CG生成,手話CG辞書, TVMLについて,それぞれ説明する。 2.2 言語翻訳 (1)翻訳方式の検討 一般に,言語翻訳の方式は,規則ベース翻訳*11,用 例ベース翻訳,統計的機械翻訳に大別することができる。 気象情報の手話CG翻訳に,これら3つの手法を適用で きる可能性について次のように検討した。 規則ベース翻訳では,原言語と目的言語の構文構造に 基づいて言語変換しているので,それぞれの言語に対す る文法的知識が要求される。しかし,手話に関する文法 は翻訳システムに実装できるほどには明らかになってい ない。したがって,規則ベース翻訳を採用することは現 実的ではない。 統計的機械翻訳では,原言語や目的言語の文法が分か らなくても,機械翻訳システムを開発することができる が,翻訳知識の学習には大規模な対訳コーパスが要求 される。例えば,日本語-英語の統計的機械翻訳では, 100万~ 1,000万文規模の対訳コーパスが使われている。 しかし,日本語-手話の対訳コーパスには,それほど大 きなものは存在しない。当所でも現在,日本語-手話の 対訳コーパスを構築しているので,将来,コーパスサイ ズが拡大すれば統計的機械翻訳の適用も考えられるが, 現時点では難しい。 一方,用例ベース翻訳は,統計的機械翻訳と同様にコー パスベースの翻訳手法ではあるが,翻訳知識は人手で作 成する。もちろん,人手で翻訳知識を作成するには手話 に関する言語的知識が要求されるが,規則ベース翻訳ほ どの高度な専門的知識は必要ない。 そこで,本システムの言語翻訳では,用例ベース翻訳 を主として用い,統計的機械翻訳を補助的に使用するこ ととした。まず,節や句が完全に一致する部分で用例ベー ス翻訳を適用する。気象情報は定型的な表現が多いので, j 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 i 9 11 10 8 7 5 4 3 2 1 6 東日本 から 西日本 は 夕方 から 雷雨 と なり そう です t(3,9) t(2,11) t(2,2) t(2,4) t(4,4) t(5,11) 用例1により埋められたCYKテーブル 2つのマスを結合して得られるCYKテーブル t (2,2) ={“[日本][東][から]”} :「東日本/から」 t (2,4) ={“[日本][西]”} :「西日本/は」 t (4,4) ={“[日本][東][から] [西]”} :「東日本/から/西日本/は」 t (3,9) ={“[雷][雨]”} :「雷雨/と/なり」 t (2,11) ={“[夢]”} :「そう/です」 t (4,4) = {“[日本][東][から] [日本][西]”} t (5,11) = {“[雷][雨][夢]”} :「雷雨/と/なり/そう/です」 2図 テキスト翻訳におけるボトムアップ処理の例 *9 手話単語の意味(gloss)に近い日本語単語を括弧[ ]でくくって手話 単語を表記する手段。日本語ラベルとも呼ばれる。gloss表記は,手話 CGを最終的な出力とすると,機械翻訳における中間言語の役割をしてい るとも言える。 *10 当所で研究開発した映像コンテンツ記述言語。http://www.nhk.or.jp/ strl/tvml/index.htmlを参照。 *11 人手で作成した辞書と文法規則を使用して翻訳する方式。市販の翻訳ソ フトはこの方式を用いている。

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用例ベース翻訳による精度の良い翻訳が期待できる。し かし,節や句が用例と完全に一致するという制約は強い ので,用例ベース翻訳では翻訳できなかった節や句が残 る場合がある。そのような節や句には統計的機械翻訳を 適用する。統計的機械翻訳は,節や句よりも小さい単位 で翻訳ルールを学習しているので,翻訳できる言語表現 の範囲は広いが,誤った翻訳ルールを学習することもあ るので,統計的機械翻訳は補助的に使用することにした。 本来は統計的機械翻訳の方がうまく翻訳できる場合も ある可能性はあるが,用例ベース翻訳を主としたのは, さらにCG生成での利点も考慮したからである。用例ベー ス翻訳で利用する用例は,あらかじめ人手で作るが,そ の際に,対応する手話CGアニメーションも検査し,手 話単語間のCGの修正などの調整を人手で行っている。 したがって,用例ベース翻訳が適用された箇所のCGア ニメーションは,統計的機械翻訳が適用された箇所より も自然な動きとなっている。 以上のような理由により,言語翻訳においては用例 ベース翻訳を優先している。 (2)CYKテーブルによる用例ベース翻訳と統計的 機械翻訳の併用 用例ベース翻訳と統計的機械翻訳を併用する場合,入 力日本語テキストの各単語列に,それぞれどちらの翻訳 手法を適用するかを見つけ出さなければならない。本シ ステムの言語翻訳では,2図と3図に示すようなCYK テーブル4)*12 を使うことによってこれを実現している。 CYKテーブルによる翻訳処理は,ボトムアップ処理 とトップダウン処理から成る。ボトムアップ処理は, CYKテーブルの下段から上段に向かって,部分的な翻 訳候補でマスを埋めていくことにより用例ベース翻訳を 行う(2図)。また,トップダウン処理は,上段から下 段に向かって空であるマスを見つけることにより統計的 機械翻訳を適用すべき単語列を見つけ,翻訳する(3図)。 以下,具体的な例を用いて説明する。今,日本語テキ スト1を翻訳することを考える。 日本語テキスト1:  「東日本から西日本は夕方から雷雨となりそうです」 ただし,用例として「用例1」が与えられているものと する。 用例1:  「東日本から」→ “[日本][東][から]”  「西日本は」→ “[日本][西]”  「東日本から西日本は」→ “[日本][東][から][西]”  「夕方まで」→ “[夕方][まで]”  「朝から」→ “[朝][から]”  「雷雨となり」→ “[雷][雨]”  「そうです」→ “[夢]” 各用例には尤度(もっともらしさを表す値)が付けら れており,その尤度の算出には,コーパス中の出現頻度 を利用している。 (3)CYKテーブルのボトムアップ処理 ボトムアップ処理の例を2図に示す。 ボトムアップ処理ではまず,入力テキスト1と用例 1で日本語単語列が一致した場合,その手話単語列で *12 CYKテーブルの各マスは,入力文中の部分単語列に対する翻訳結果を表す。 j 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 i 9 11 10 8 7 5 4 3 2 1 6 東日本 から 西日本 は 夕方 から 雷雨 と なり そう です t(3,9) t(2,11) t(2,2) t(2,4) t(4,4) t(5,11) 用例ベース翻訳 統計的機械翻訳 用例ベース翻訳 3図 テキスト翻訳におけるトップダウン処理の例

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CYKテーブルの各マスを埋めていく。2図のt(i, j )は, 入力テキストのj番目の単語までの,i個の単語の部分翻 訳を表す。t(1, 1)→t(1, 2)→…と順に各マスを埋めて いくことを考えると,例えば,t(2, 2)では日本語単語 列「東日本から」が用例1と一致したので,t(2, 2)={“[日 本][東][から]”}とマスを埋める。 次に,下段から上段に向かって2つのマスを結合して いく。例えば,t(4, 4)は,t(1, 1)とt(3, 4),t(2, 2) とt(2, 4),t(3, 3)とt(1, 4)の3通りの結合(2図中の 黒の矢印)を考え,そこで実際に得られた部分翻訳で埋 めることにより,一時的にt(4, 4)={“[日本][東][か ら][日本][西]”}となる。さらにもともと埋められて いたt(4, 4)={“[日本][東][から][西]”}も加えて, 最終的にはt(4, 4)={“[日本][東][から][日本][西]”, “[日本][東][から][西]”}となる。2つの部分翻訳 結果が得られるが,部分翻訳結果はそれぞれ個々の用例 に付けられた尤度と言語モデル*13の尤度の和で順序づ けられている。言語モデルの尤度とは,コーパスから機 械学習によって得られる言語モデルの確率値である。 CYKテーブルの最上位のマスt(11,11)が空でなけれ ば,入力日本語テキストが用例ベース翻訳で機械翻訳で きた場合であり,翻訳結果としてt(11,11)を出力すれ ばよい。t(11,11)が空である場合には,トップダウン 処理を行う。 (4)CYKテーブルのトップダウン処理 トップダウン処理の例を3図に示す。トップダウン 処理では,上段から下段に向けて探索することにより, t(4, 4)とt(5, 11)が空でないので「東日本から西日本は」 と「雷雨となりそうです」がそれぞれ,例えば,“[日本] [東][から][西]”と“[雷][雨][夢]”に翻訳される。 また,「夕方から」が,用例ベース翻訳では手話テキス トに翻訳されなかったことが分かる。 用例ベース翻訳で翻訳されなかった「夕方から」は, 統計的機械翻訳で翻訳する。この場合,それぞれの単語 「夕方」は用例1の「夕方まで」,「から」は「朝から」 に含まれているので,統計的機械翻訳の学習フェーズ で「夕方」→“[夕方]”,「から」→“[から]”と対訳が あらかじめ機械学習され,「夕方から」は統計的機械翻 訳の翻訳フェーズで,それをつないで“[夕方][から]” と翻訳される。 2.3 手話ニュースコーパス コーパスベース翻訳では,2言語間の対訳コーパスの 存在が前提となる。したがって,本システムでも日本語 と手話間の対訳コーパスが必要となるが,手話では音声 言語ほどコーパスの構築が進んでいない。 手話コーパスの構築が進んでいない要因の1つは,手 話の表記法が確立されていないことである。また,もう 1つの要因は,データ収集が難しいことである。パソコ ンやインターネットが普及して,世の中には電子化され た文字情報があふれているので,それらを収集すれば音 声言語のコーパスは構築することができる。一方,手話 の話者人口は少なく,手話の映像情報も少ないので,デー タ収集が難しく,手話コーパスの構築が困難となってい る。そこで当所では,独自に手話コーパスの構築を進め ている5)。この手話コーパス(手話ニュースコーパス)は, Eテレで放送されている「手話ニュース」をデータベー ス化したものである。手話ニュースコーパスの構築に用 いた番組に関する情報を1表に示す。 NHK手話ニュースはほぼ毎日放送されているので,映 像データの収集は容易である。また,ニュースを対象と しているので,会話とは異なり構文的に適格な文である。 さらに,放送するまでに複数人のチェックが入るので, そこで使われる言語表現の普遍性は高いと考えられる。 2013年1月末の時点で,2009年4月~ 2011年8月までの 2年4ヶ月分の手話ニュースから手話ニュースコーパス を構築し,約47,000文の対訳データが得られた。さらに, 手話ニュースの映像や番組情報もデータベース化し,手 *13 単語と単語のつながりやすさ等を与える確率モデル。 1表 手話ニュースコーパスの構築に用いた番組 番組名 放送時間 手話ニュース 月曜~金曜 13:00 ~ 13:05( 5分)土曜・日曜 19:55 ~ 20:00( 5分) 手話ニュース845 月曜~金曜 20:45 ~ 21:00(15分) 週間手話ニュース 土曜 11:40 ~ 12:00(20分) 日本語・手話対訳 検索キーワード入力 検索結果 4図 手話ニュースコーパスの管理・検索システム

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話ニュースコーパスの管理・検索システムを開発した。 4図にその例を示す。 2.4 CG生成 CG生成は,手話テキストを手話動作のCGアニメー ションに変換する。CG生成では,まず,手話CG辞書を 使って,gloss表記された文中の各手話単語を手話CGの 動作に変換する。次に,変換された手話CGの動作を文 頭から順につないでいく。なお,手話CGの動作をつな ぐ箇所は,手話CG辞書中の手話単語すべてに対して, あらかじめ人手で付与されている。文中のすべての手話 CGの動作をつなぎ終えると,一文としての手話CGが完 成する。 2.5 手話CG辞書 本システムの手話CG辞書は,日本語語彙約86,600語 と手話語彙約4,900語から成る大語彙辞書である。手話 CGの動作は,骨格構造を持った人体CGモデル(CGア バター)を,モーションキャプチャーによって取得した 動作データにより駆動することで実現している。 CGアバターの骨格構造は,手や各指の関節の他に, 親指の付け根や手のひらの細やかな動きが可能となるよ うに定義した。また,鎖骨の関節を増やすことで,肩周 辺の動作が可能となるようにした。 モーションキャプチャーには,身体動作の制限を受け にくい光学反射式(脚注6参照)を採用し,1,600万画 素の高解像度を持つカメラ42台を使って動作データを取 得した。光学反射式モーションキャプチャーは,映画や ビデオゲームでも用いられる技術であり,自然な動作を 再現することが可能である。 モーションキャプチャーで得られた動作データは, さ ら にCGア バ タ ー の 動 作 デ ー タ に 変 換 さ れ,BVH (BioVision Hierarchy)ファイル形式*14で保存される。 BVHファイルはアスキー形式*15で記述されており,ファ イル内容を直接編集することができるので,動作データ の変更が容易である。

手話動作はCODA(Children of Deaf Adults)*16の手

話通訳士にお願いした。手話動作のうち指や顔の動きは 細かいので,これらに多くの光学反射マーカーを付けた。 2.6 TVML CGアバターはDirectX*17ベースのTVMLでレンダリ ングしている6)。TVMLでは,DirectXにより,骨の動 きに合わせて皮膚表面の形状が滑らかに曲がる*18高品 質なCGのレンダリングが可能である。 また,TVMLでは,番組台本(TVMLスクリプト) を記述するだけで,パソコン上でテレビ番組を制作す ることができる。例えば, CGアバター,字幕,気象動 画を1つの画面に配置したい場合には,それぞれを配置 するコマンドをTVMLスクリプトに記述すればよい7) TVMLプレーヤーは,TVMLスクリプトの記述に従っ て,CGアバターなどを配置した映像をリアルタイムで 出力する。

3.評価実験

開発した手話CG翻訳システムを評価するために評価 実験を行った。 3.1 実験の設定 (1)評価者 評価者は,日本語と手話の両言語が分かる15名とした。 評価者の情報を2表に示す。15名のうち2名は聴者(聴 覚に障害がない人)であるが,CODAであり,かつ手話 通訳士でもあるので,手話能力は高いと考えた。一方, 聾者については,デフファミリー*19の者や,兄弟に聾 者がいる者が半数近くおり,日常的に手話を使用してい る。また,評価には日本語によるコメントも記述しても らっており,そのコメントを見て,評価者の日本語能力 に問題はないと判断した。 (2)実験に用いたデータ 実験に用いるデータは,NHK手話ニュースに出現し た気象情報の文とした。ただし,番組の最後に放送され る気象情報コーナーの文だけではなく,台風情報や地震 情報など,番組中の気象情報の文も対象としている。 評価データと学習データは次のようにして選択した。 ま ず, 評 価 デ ー タ と し て,2009年4月 ~ 2011年2月 の NHK手話ニュースの気象情報に出現した約5,300文の中 から,異なる100文をランダムに選んだ。その残りの文を, 手話の意味的まとまりも考慮しつつ,日本語の節・句単 位に人手で分割し,手話単語との対応付けを行った。そ *14 CGアバターの各関節の動きをベクトルで表したデータフォーマット。 詳細はhttp://www.biovision.com/を参照のこと。 *15 アスキー文字(半角のアルファベットや,数字,記号など)のみで書か れたデータフォーマット。 *16 聾者の両親を持つ聴者(聴覚に障害がない人)。 *17 DirectXはMicrosoft社が開発したグラフィック処理のためのAPI(Appli-cation Programming Interface)。詳細はhttps://www.microsoft.com/ ja-jp/directx/を参照のこと。

*18 スキンメッシュアニメーションと呼ばれる。 *19 家族全員が聾者である家族のこと。

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の結果,節・句単位の異なる対訳対が約3万対得られた。 この節・句単位の約3万対のデータを,用例ベース翻訳 の用例にするとともに,統計的機械翻訳の学習データと した。 統計的機械翻訳のツールにはMoses*20を用いた。言語 モデルの学習データは文単位とし,モデル学習のツール にはSRI言語モデルツールキット*21を用いた。 評価データの提示方法は,日本語字幕を画面左上に, 手話CGを画面中央に配置して評価者に提示した。評価 データの提示の例を5図に示す。 (3)手話CG翻訳システムの実装 手 話CG翻 訳 シ ス テ ム の 実 装 は,Windows7マ シ ン (CPUはIntel Core i7-3930K3(20GHz),メモリーは8.0 ギガバイト,GPUはNVIDIA GeForce GTX580)上で 行った。評価データを実際に翻訳してみたところ,手話 CG翻訳の処理に要した時間は平均1.7秒であり,そのう ち約90%が言語翻訳にかかった時間であった。また,手 話CG翻訳システムで最も大きなファイルは手話CG辞書 (手話CG単語約7,000語)であり,その容量(すなわち BVHファイルの容量)は約18.1ギガバイトであった。 (4)実験方法および評価基準 評価実験では,まず,手話CGへの翻訳結果について, 6図に示す評価基準により5段階評価をしてもらった。 さらに,その評価基準で5と評価されなかった文に対し ては,問題点や改善点などに関するコメントを記述して もらった。 今回の5段階評価では,6図に示した1種類の評価 基準で評価したが,機械翻訳では通常,翻訳の正確さ (adequacy)と目的言語側での流暢さ*22(fluency)と いう2種類の評価基準で評価することが多い。今回もこ のような2種類の評価基準を作成して事前実験を行った ところ,手話CG翻訳では2種類の基準に切り分けるこ とが困難なことが分かった。その原因として,従来の2 種類の評価方法は,原言語と目的言語がテキスト同士と いう同じメディア間の翻訳に対する評価方法であって, 手話CG翻訳のように目的言語がCGアニメーションであ り,翻訳によってメディアが変わる場合には適していな いことが考えられる。テキスト同士の言語翻訳の場合に は,テキストというかなり限定された情報の中での比較 であるのに対して,CGアニメーションへの翻訳におい 2表 評価者の情報 評価者 年齢 聴者/聾者 生育地 手話ニュース その他 A 40代 聴者 神奈川 よく見る 手話通訳士,CODA B 30代 聴者 東京 ときどき見る 手話通訳士,CODA C 20代 聾者 東京 週1回程度見る デフファミリー D 40代 聾者 鹿児島 毎日見る デフファミリー E 30代 聾者 東京 よく見る デフファミリー F 30代 聾者 東京 ときどき見る デフファミリー G 20代 聾者 東京 よく見る 両親聴者 H 40代 聾者 神奈川 あまり見ない デフファミリー I 30代 聾者 東京 ときどき見る 両親聴者 J 30代 聾者 鹿児島 ときどき見る 両親聴者,兄弟にろう者 K 20代 聾者 鹿児島 ほとんど見ない 両親聴者 L 30代 聾者 鹿児島 ときどき見る 両親聴者,兄弟にろう者 M 40代 聾者 鹿児島 ときどき見る 両親聴者 N 30代 聾者 鹿児島 よく見る 両親聴者 O 30代 聾者 鳥取 よく見る 両親聴者 5図 評価データの提示の例 *20 統計的機械翻訳のオープンソフトウェア。詳細はhttp://www.statmt. org/moses/を参照のこと。 *21 言語モデルを機械学習するオープンソフトウェア。詳細はhttp://www. speech.sri.com/projects/srilm/を参照のこと。 *22 今回の場合は,手話CGの自然性。

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ては,映像という情報量が多いメディアとの比較である ため,評価すべき点が増えてしまい,正確さと流暢さを 切り分けることが難しいと今回は判断した。したがって, 今回は6図の1種類のみの評価基準とした。 評価作業をするにあたっては,作業前に,評価に関す る注意事項を書いたA4の紙1枚を読んでもらった。そ の際に,分からないことがあれば,聾者には手話でも説 明することを手話通訳者にお願いした。また,映像は何 回繰り返し見てもよいなど,映像を再生する際の制約は 設けなかった。 3.2 実験結果 (1)5段階評価 5段階評価の結果を3表に示す。15 人の評価者によ る5段階評価の平均値は3.4であった(ただし,聴者2 名の平均値は3.0,聾者13名の平均値は3.5であった)。 (2)コメント 5段階評価で5と評価されなかった文に対しては,評 価者にコメントを記述してもらった。コメントは,評価 データの1文に対して複数ある場合もあった。コメント で指摘された問題点や改善点を分析したところ,大きく 分けて「翻訳」,「動作」,「顔表情」,「口型」,「頷き」,「指 差し」の6つに分類することができた。例えば「翻訳」は, 言語翻訳に関するコメントである。評価者ごとの分類別 コメント数を4表に示す。 (3)言語翻訳の翻訳率 言語翻訳の翻訳率*23を測定した。ただし,日英翻訳 のような言語翻訳とは異なり,出力である手話テキスト には,手話CGを十分に生成するための情報が含まれて いるわけではない。そこで本稿では,翻訳率を次のよう に定義した。 評価データに対するコメントのうち,「翻訳」のコメ ントが次のような場合には翻訳結果は正解とした。 ・「翻訳」に関するコメントがない場合。 ・「翻訳」に関するコメントがあっても,「・・・の方が よい」のように,元の表現でも許容範囲である場合。 ・「翻訳」に関するコメントがあっても,学習データで はそのように訳されている場合。例えば,「青空」は 学習データでは“[青][明るい]”という手話に翻訳 されていた。一方,評価者の中には“[青][空]”と 6図 翻訳結果の5段階評価基準 評価5 て問題ない。原文(日本語)の意味を正しく理解できる手話である。手話とし 評価4 一部不適切な訳語がある,あるいは,一部におかしな手話や不要 な手話はあるが,原文(日本語)の意味を十分理解できる手話 である。 評価3 な手話はあるが,原文(日本語)の情報は大体含まれており,おかしな手話や不要原文(日本語)をおおむね理解できる手話である。 評価2 な手話や不要な手話が多いため,原文(日本語)を部分的にし原文(日本語)の情報があまり含まれていない,あるいは,おかし か理解できない手話である。 評価1 原文(日本語)の情報が失われており,原文(日本語)を全く理解できない手話である。 *23 翻訳率=正解文の数/評価文の数(今回は100文)。 3表 15 人の評価者による5段階評価の結果 評価者 評価5 評価4 評価3 評価2 評価1 評価平均 A 0 51 41 2 1 3.4 B 0 5 47 41 7 2.5 C 26 32 13 20 9 3.5 D 5 34 29 21 11 3.0 E 28 24 36 10 2 3.7 F 44 31 21 4 0 4.2 G 34 25 6 14 21 3.4 H 21 9 45 25 0 3.3 I 12 41 30 8 9 3.4 J 39 39 9 11 2 4.0 K 0 1 22 59 18 2.1 L 4 15 37 30 14 2.7 M 29 42 19 9 1 3.9 N 35 45 17 3 0 4.1 O 15 53 25 7 0 3.8 4表 15 人の評価者による分類別コメント数 評価者 翻訳 動作 指差し 頷き 顔表情 口型 合計 A 63 164 33 80 13 42 395 B 101 131 23 19 47 19 340 C 74 12 4 0 4 2 96 D 115 120 27 75 3 0 340 E 56 28 15 0 2 3 104 F 50 7 7 0 1 0 65 G 59 13 5 1 4 0 82 H 53 9 12 0 0 1 75 I 110 37 11 0 3 0 161 J 63 13 15 0 4 0 95 K 178 73 14 0 17 15 297 L 130 59 14 6 3 1 213 M 84 7 7 0 0 1 99 N 66 28 10 0 0 1 105 O 68 38 15 0 0 0 121 合計 (49.1%)1,270(28.6%)739 (8.2%)212 (7.0%)181 (3.9%)101 (3.2%)85 (100%)2,588

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いう手話に訳すべきという意見もあったが,言語翻訳 の結果が“[青][明るい]”の場合も正解とした。 上記の定義により,評価データ100文に対して,今回 の言語翻訳の翻訳率を求めたところ,72%(=72/100) であった。

4.考察

4.1 5段階評価のばらつきについて 5段階評価について,3表を見ると,評価平均の値は 2.1から4.2と評価者によるばらつきがあることが分かる。 その原因は,評価者によって評価の厳しさや甘さがある 場合も考えられるが,評価データの文によっては評価が 大きく割れた場合もあった。 例えば,「本州の太平洋側を中心に晴れ間が出るでしょ う」という文では,評価5が5人,評価4が3人,評価 3が4人,評価2が3人と評価が割れた。評価2を付け た2人のコメントを見たところ,日本語「晴れ間が出る」 の翻訳が手話単語“[明るい]”(日本語の「晴れ」の意 味)だけでは不十分であるという指摘があった。日本語 では,「晴れ間が出る」と「晴れ」ではニュアンスに違 いがあり,その違いが手話には反映されていないという 指摘である。そこで,「晴れ間が出る」を手話ニュース コーパスで検索してみたところ,手話キャスターの多く は“[明るい]”と単純に翻訳していたが,“[明るい][来 る]”や“[明るい][光]”と日本語のニュアンスをくみ 取って翻訳する手話キャスターもいた。今回の翻訳結果 では,システムは出現頻度が高い“[明るい]”を選択し たが,どちらが適切なのかは難しい問題である。 また,評価が割れた別の例として,「台風の影響で各 地では被害が相次いでいます」という文があった。その 評価は,評価5が3人,評価4が3人,評価3が5人, 評価2が2人と割れていた。各評価者のコメントを見た ところ,評価3や2を付けた評価者からは,「各地」の 前に「日本」や「九州」が必要という指摘があった。こ れは「各地」がどの地域の各地なのかが明確でないとい う指摘である。今回の評価では,評価データはランダム に選んでおり,文脈情報が失われているのが原因である と考えられる。1つの解決策は,言語処理技術で文脈情 報を補うことである。例えば,前の文が全国の気象情報 を伝えているのであれば,「日本の各地」と「日本の」 を補うことである。あるいは,もっと単純な解決策とし て,手話CGと同時にニュース映像も提示することが考 えられる。今回の実験では出力にはニュース映像を使用 していないが,1つの目標であるテレビ番組に手話CG を付与するという状況を考えれば,ニュース映像を同時 に使用することも可能である。その場合には「日本の」 を補わなくても,ニュース映像に全国地図が出ていれ ば,手話CGを見る側が自然に「日本の」に相当する情 報を補うことができると考えられる。したがって,今後 はニュース映像も含めた評価実験も必要であろう。 しかしながら,評価が分かれる原因の分析は今後の課 題である。今後は,評価結果をさらに精査し,あるいは 評価者数を増やすなどして,さらに詳細な分析を行う予 定である。 4.2 コメントについて (1)分類別のコメント数について 6つに分類されたコメントのうち,「翻訳」,「頷き」 は主に言語翻訳に関するコメントであり,「動作」,「顔 表情」,「口型」,「指差し」は主にCG生成に関するコメ ントであった。すなわち,現時点での手話CG翻訳シス テムには,言語翻訳にもCG生成にも問題があることが 分かる。 最も多かったのは「翻訳」に関するコメントであり, 全コメントの約半分を占めている。次に多かったのは「動 作」に関するコメントであり,全体の約3割を占めてい た。3番目にコメントの多かった「指差し」までは,評 価者によらず一様に指摘されているが,4番目から6番 目の「頷き」,「顔表情」,「口型」に関しては,評価者に よって指摘数に片寄りがあった。すなわち,聴者である 評価者AとBは,「頷き」,「顔表情」,「口型」に関するコ メントが多いが,その他の評価者は少ない。手話では,「頷 き」,「顔表情」,「口型」のような非手指動作は重要な言 語情報であるが,聴者が手話を使う場合にそれらの運用 は難しい。非手指動作の運用は,手話指導では特に強調 されるので,手話通訳士である評価者AとBもそのよう な指導を受けてきていると考えられる。したがって,今 回の評価でも特に非手指動作に意識が向かい,コメント が多かったと考えられる。一方,他の評価者は聾者であ り,「翻訳」や「動作」などの大きな問題に意識が向き, 非手指動作の問題を指摘するまでには至らなかったと考 えられる。 以下,本節では,各分類のコメントについて,代表的 なものを考察する。 (2)「翻訳」 「翻訳」に関するコメントには次のようなものがあった。 (a) コーパス量の不足

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日本語「暦とは裏腹に」,「積雪となる」が翻訳されて いないという指摘があった。翻訳されなかった原因を調 べたところ,この2つの日本語表現が学習データに出現 していなかったためであることが分かった。「暦とは裏 腹に」,「積雪となる」は気象情報では珍しい表現ではな いので,コーパス量をさらに増やすことが必要であると 考えられる。また別のコメントとして,日本語「西日本」 や「北日本」の「日本」が翻訳されていないという指摘 があった。学習データを見ると,手話キャスターによっ て「日本」を翻訳したり,省略したりする場合があった。 どちらも使用されるようであるが,今回は出現頻度の差 から省略される場合が選択された。この場合も,コーパ ス量を増やし,どちらを選択すべきかの精度を向上させ る必要がある。 (b) コーパスの記述不足 日本語「(雨が)激しく降る」が手話では“[雨]”と だけ翻訳され,「激しい」が翻訳されていないという指 摘があった。あるいは,日本語「雲が広がる」が手話で は“[雲]”とだけ翻訳され,「広がる」に対応する手話 がないという指摘があった。翻訳されなかった原因は コーパスの記述不足である。現在の手話ニュースコーパ スは,顔表情や動作の大きさまでは記述していない。す なわち,「(雨が)激しく降る」の対訳は“[雨]”のみ, 「雲が広がる」の対訳は“[雲]”のみであった。手話で は,「(雨が)激しく降る」の「激しい」は顔表情を厳し くすることで表し,「雲が広がる」の「広がる」は“[雲]” の手指動作が通常よりも大きくなっていく雲の動作で表 す。現在の手話ニュースコーパスにはこのような情報が 記述されていないために情報が落ちてしまった。今後は, 顔情報や動作の大きさ情報をコーパスに記述する必要が ある。 (c) 他の表現がある 日本語「でしょう」は“[らしい]”と手話に翻訳して いたが,“[予想]”と翻訳した方がよいという指摘があっ た。ただし,「・・・の方がよい」という指摘であり, 必ずしも“[予想]”にすべきであるという指摘ではない。 コーパスをみると,「でしょう」は,“[らしい]”にも“[予 想]”にも翻訳され,その頻度差はあまりない。その文 の内容によって使い分ける可能性はあるが,その判断は 難しい問題である。 他にも「・・・の方がよい」という指摘はかなりあり, 今後は評価者に直接インタビューするなどして分析する 必要がある。 (d) 数量表現 日本語「台風18号」の「18」や,「28度」の「28」が 翻訳されていないという指摘があった。現在の手話CG 翻訳システムでは数量表現に対する特別な処理は行って いない。しかし,気象情報には数量表現が頻出するので, 今後は数量表現処理を設ける必要がある。 (e) 意訳 日本語「晴れ間が出る」は,“[明るい]”(「晴れ」の意味) と簡単な翻訳にすべきではなく,“[空][明るい][太陽]” と翻訳すべきという指摘があった。コーパスでは「晴 れ間が出る」を“[明るい]”と意訳していたが,“[空][明 るい][太陽]”は直訳に近い。手話ニュースにおいては, 聾者への伝わりやすさや,日本語音声との同期を考慮 して,意訳しているのであろう。どちらの翻訳がよい のかは,聾者にインタビューするなどして分析する必 要がある。 (3)「動作」 「動作」に関するコメントには,手話動作のリズムが 一定であるという指摘があった。これは,現在の手話 CGはモーションキャプチャー時の動作速度のままであ るので,手話速度には強弱がないからであると考えられ る。例えば,日本語「激しい雷雨」を手話で表現する際 には,「雷雨」の動作速度は速くしたほうが「激しい」 という意味が伝わりやすい。そのためには,手話CG翻 訳システムで手話CGの速度を変えられるようにする必 要がある。 また,別のコメントとして,日本語「関東から北海道 にかけて」を手話で表現する際には,日本地図に合わせ てそれぞれ位置を変えて表現するのがよいという指摘が あった。現在の動作データは,手話演者が正面の空間の みで演技したものである。したがって,手話CGでは「関 東」も「北海道」も正面の空間での動作となってしまう。 本来の手話では,正面に日本地図を思い浮かべ,日本地 図の関東がある辺りで「関東」の手話を,北海道がある 辺りで「北海道」の手話動作を行う。その一般的な解決 には,正面でモーションキャプチャーした動作データを 左右など他の空間に移動するCG生成技術の改善が必要 である。一方,現実的な解決策として,「関東から北海 道にかけて」のような句を1つの単語としてモーション キャプチャーすることが考えられる。現在は翻訳対象を 気象情報に限定しているので,地名を含む句は限られて いる。さらに,モーションキャプチャーで一連の動作を 取得した方が自然な動きとなるという利点もあるので,

(11)

このような気象情報に頻出する句は,一連の動作として モーションキャプチャーすることも進めている。 (4)「指差し」 「指差し」に関するコメントには,日本語「東京と埼 玉では」の2つの指差し(“pt3”と表記)の位置がおか しいという指摘があった。指差し“pt3”は,手話では 代名詞の役割を持つ。「東京と埼玉では」は言語翻訳の 結果,“[東京][埼玉]pt3 pt3”と翻訳されるので,指 差し“pt3”が2回出現する。現在の手話CG辞書には指 差し“pt3”はある空間を指差すという1種類の動作し か登録されていないので,手話CGでは同じ箇所を指す 動作を2回繰り返してしまう。しかし,本来は,まず“[東 京]”と“[埼玉]”は,正面に仮想した地図上で表出す る。そして,1番目の指差し“pt3”は“[東京]”が表 出された箇所を指し,2番目の指差し“pt3”は“[埼玉]” が表出された箇所を指す。このような表現を実現する 根本的な解決策は,1番目の指差し“pt3”は“[東京]” を指す代名詞であり,2番目の指差し“pt3”は“[埼玉]” を指す代名詞であるという照応解析*24を行い,CG生成 では,“[東京]”,“[埼玉]”が手話CGで表出された箇所 を指差すという処理が必要である。しかし,この場合も 現実的な解決策として,前述の「関東から北海道にかけ て」の場合と同様に,“[東京][埼玉]pt3 pt3”のよう な句は1つの単語としてモーションキャプチャーするこ とも考えられる。 (5)「頷き」 「頷き」に関するコメントには,必要なところに頷き が入っていなかったり,不要なところに頷きが入ってい たりするという指摘が多かった。現在の手話CGシステ ムでは,頷きに対する特別の処理はしていない。言語翻 訳の結果として挿入されているだけである。しかし,頷 きは,手話では節や句など意味的なまとまりの切れ目を 表すという重要な言語標識である。したがって,言語処 理技術で節や句を特定し,頷きを挿入するという処理が 必要であろう。 (6)「顔表情」 「顔表情」に関するコメントでは,顔表情が付いてい ない,顔表情と分かりにくいという指摘が多かった。顔 表情も手話では重要な言語情報である。また,顔の表情 が付いているほうがCGとしての自然性も向上する。現 在,CGアバターの顔表情についても,モーションキャ プチャー時に取得した動きをそのまま使っている。しか し,その動きは僅かであるため,現在は所望の顔表情が 得られていない。そこで,当所では人手で制作した顔表 情を使用する研究を進めている8) 9)。当面は,心理学で 感情を表すと指摘されている6つの顔表情,「幸せ」,「驚 き」,「悲しみ」,「怒り」,「恐れ」,「嫌悪」を人手で作成 し,手話CGに付加することを進めている。 (7)「口型」 「口型」に関するコメントでは,不適切な口型が入っ ているという指摘があった。現在,口型もまた顔表情と 同様に,モーションキャプチャー時に収録した動きをそ のまま使っている。そのため,手話単語が使われる状 況によっては不適切になる場合もある。例えば, 手話の “[夢]”は日本語の「夢」の意味として使用することを 前提としてモーションキャプチャーを行ったので,口型 は「ユメ」となる。しかしながら,“[夢]”は日本語の 文末表現「でしょう」という未来の意味で使われること も多い。この場合,口型は,例えば「ヨソウ」となるが, 現在はモーションキャプチャー時の口型である「ユメ」 となってしまう。そこで,現在,口型を改良する研究を 進めている。口型を付与する際には,次の2つの課題を 解決する必要がある。 課題1:どの手話単語に口型を付ければよいか 課題2:どのような口型を作成すればよいか 当所ではこれらの課題を解決するために,課題1に対し ては手話ニュースコーパスの拡張10)を,課題2に対し ては口型作成システムの開発11)を行っている。 4.3 評価が低い文の分析 今回の評価実験では,評価が低い文(5段階評価の結 果が評価者平均で2.0未満の文)が10文あった。これら の文は,5段階評価で評価1を付けた評価者が多い文で もある。 その原因は,いずれもコーパスベースによる言語翻訳 の問題であった。4文はコーパス量の不足(4.2節の (2)の(a))によるものであり,6文は数量表現(4. 2節の(2)の(d))を処理していないことによるも のであった。今後は,コーパス量を増やすとともに,言 語翻訳において数量表現処理を設ける必要がある。

5.むすび

手話CG翻訳実現への第一歩として開発した,気象情 *24 指示代名詞などが指示している対象を推定すること。

(12)

報を対象とした手話CG翻訳システムについて述べた。 開発したシステムは,言語翻訳とCG生成から構成され ている。言語翻訳では,用例ベース翻訳と統計的機械 翻訳を相補的に適用し,節・句単位で翻訳している。 CG生成では,高解像度の光学反射式モーションキャプ チャーによる動作データを使って,手話CGアニメーショ ンを生成している。また,本システムを支える基盤とし て,手話ニュースコーパスと手話CG辞書を構築した。 本システムに対して評価実験を行ったところ,5段階 評価で平均が3.4であることが分かった。また,5段階 評価で5と評価されなかった文に対して得られたコメン トを分析し,今後の課題を明らかにした。 今後は,実験で得られた課題を中心に改善していきた い。特に顔表情や口型については重点的に取り組み,手 話CG翻訳システムの精度向上を図りたい。 また,手話は地域や年代によっても異なるため,広範 囲の人を対象とした評価も行いたいと考えている。その 一環として,翻訳結果をインターネット上で公開し,評 価してもらうという試みも始めている。 謝辞 本研究の一部は,工学院大学長嶋祐二教授との 共同研究によるものである。長嶋祐二教授に感謝の意を 表します。 本稿は,電子情報通信学会論文誌に掲載された以下の論文を元に 加筆・修正したものである。 加藤,宮﨑,井上,金子,比留間,長嶋:“気象情報を対象にした 手話CG翻訳システムの開発とその評価,”信学論D,Vol.J100-D, No.2,pp.217-229(2017)

(13)

1) 加藤,金子,井上,清水,長嶋:“日本語-手話対訳辞書の構築 ~日本語語彙の拡張~,”電子情報通信学会 HCGシンポジウム2009,I-3(2009)

2) 加藤,宮﨑,金子,井上,梅田,比留間,長嶋:“気象情報の日本語-手話CG翻訳,”言語処理学会年次大会, PA1-21,pp.275-278(2012)

3) 加藤:“日本語テキストから手話CGへの翻訳技術,”NHK技研R&D,No.134,pp.45-52(2012)

4) A. V. Aho and J. D. Ullman:The Theory of Parsing, Translation, and Compiling (Vol.I: Parsing),Prentice-Hall(1972) 5) 加藤:“手話ニュースコーパスの構築,”言語処理学会年次大会,PA2-5,pp.494-497(2010) 6) 金子,浜口,道家,井上:“TVMLによる手話アニメーションの一検討,”信学技報,WIT2008-82,pp.79-83 (2009) 7) 加藤,宮崎,井上,梅田,比留間,清水,長嶋:“気象ニュースを対象とした手話CG翻訳システム,”電子 情報通信学会HCGシンポジウム2013,pp.433-438(2013) 8) 加藤,宮崎:“日本語-手話の単語アライメントによる非手指動作の検出,”言語処理学会年次大会,A1-1, pp.286-289(2014) 9) 加藤,宮崎,井上,東,梅田,比留間,長嶋:“顔表情を部分的に挿入した手話CG翻訳システム,”電子情 報通信学会HCGシンポジウム2014,pp.33-38(2013) 10) 加藤,宮崎:“手話ニュースコーパスの拡張 : ニュースに出現する口型の分析,”信学技報,WIT2015-45, pp.47-52(2015) 11) 加藤,宮崎,井上,内田,東,梅田,比留間,長嶋:“手話CGアニメーションに対する口型生成,”電子情 報通信学会HCGシンポジウム2015,pp.111-116(2015) 参考文献 比ひ留る間ま 伸のぶ行ゆき 1984年入局。長野放送局,放送技術研究所視覚 情報研究部,名古屋放送局,放送技術研究所研 究企画部,ヒューマンインターフェース研究部 などを経て,現在,(一財)NHKエンジニアリ ングシステムに勤務。人間の情報受容特性,知 識情報処理の研究に従事。博士(工学)。 井 いの 上うえ 誠せい喜き 1980年入局。名古屋放送局を経て,1983年か ら放送技術研究所において,映像処理,CGを 使ったコンテンツ制作の研究に従事。1995年 から1998年までATR知能映像通信研究所に出 向。2002年から2005年まで放送技術局に勤務。 現在,(株)NHKテクノロジーズに勤務。博士(工 学)。 加か藤とう 直なお人と 1988年入局。同年から放送技術研究所におい て英語と日本語間の自動翻訳,自動要約等の言 語処理の研究に従事。その間,ATR音声翻訳通 信研究所,ATR音声言語コミュニケーション研 究所に出向。現在,放送技術研究所スマートプ ロダクション研究部上級研究員。博士(情報科 学)。 金 かね 子こ 浩ひろ之ゆき 2002年入局。仙台放送局を経て,2006年から 放送技術研究所において,コンテンツ記述・制 作および手話CG生成技術の研究に従事。現在, 放送技術研究所スマートプロダクション研究部 副部長。 宮 みや 﨑ざき 太た郎ろう 2006年入局。山形放送局を経て,2011年から 放送技術研究所において,SNS分析や情報検索, 機械翻訳などの自然言語処理の研究に従事。現 在,放送技術研究所スマートプロダクション研 究部に所属。

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