ファジィ理論とビジネス応用
浅 居 喜代治
1 ま え が き ファジィ理論は,正しくはファジィ・システム理論(Fuzzy Systems The− ory)のことで,1965年にL. A. Zadehによって提案されたファジィ集合 1) (Fuzzy Sets)に基づいて発展したもので,このファジィ集合と,ファジィ 測度(Fuzzy Measure)とから構成されている。ファジィ集合の方は,さら にファジィ論理への発展があり,多くの推論形式が提案されて,人工知能 (AI)や制御に実用されているし,ファジィ測度の方は,可能性や必然性な: どを表わす測度として,また評価の測度として種々の応用が試みられている。 ここで,ファジィ集合は,ヒトの言葉の意味や,概念にあるあいまいさを対 象とし,従来のクリスプ集合の拡張と考えられる。また,ファジィ測度は,ヒ トの判断や評価に見られるあいまいさを対象とし,従来の確率測度(ルベーグ 測度)の拡張と考えられる。 ファジィ理論は,ヒトのあいまいな思考・判断のプPセスの模擬という目的 を持っており,その実現には電子計算機が用いられる。この目的では,従来の ディジタル計算機を用いることもできるが,高速化のために,ファジィ推論や 2) ファジィ演算を行うための専用の計算機も幾つか作られている。また,ファジ 3) 4) イ化されたProlo9やLispなどのソフトウェアも開発されている。 ここでは,経営や経済の分野におけるビジネス応用を前提としてファジィ理 論を取り上げたいと思う。まず,ヒトのあいまいさや,ファジィ集合論のうち のあいまいさの数量化と演算について述べ,次に,ファジィ理論の応用を概説 し,その上で,ファジィ理論のビジネス応用に入り,ビジネスの現状とファジ2 吉井典章教授退官記念論文集(第253・254号) イ理論への期待,ビジネス用ファジィ方法論の概要,ビジネス応用の特徴など について考えたい。 5)一一11) なお,ファジィ理論とその応用についての解説書のうち邦書を巻末に示して おくので参考に供せられたい。 II ヒトのあいまいさ ファジィ理論は,ヒトのあいまいさの取扱いに重点を置き,ビジネス応用で も,経営者,管理者,ビジネスマンの主観的判断を活用しようとしている。こ こでは,この意味で,ヒトのあいまいさについて考えてみよう。 ヒトの思考・判断について考えてみると,種々の状況や情報を,必要な程度 に検知して,あらかじめ蓄えられている知識・経験と組み合わせてある結論を 出していることが分かる。必要な程度に検知するとは,ヒトが知覚・判断する のに適当な程度ということで,これはかなり“あいまい”なものである。例え ば,道路上を自動車(A)に続いて自動車(B)が走向しているものとする。Bの ドライバーは,Aとの車間距離を安全の立場から適当に保っている。自分の基 準よりも「少し長くなる」ことを視覚によって知ると,今までよりもアクセル を「少し踏み込む」し,逆に,「少し短かくなる」ことを視覚によって知ると, 今までよりもアクセルを「少しゆるめる」ようにして,車間距離を保つ。車間 距離が「かなり開く」と,制限速度内でアクセルを「かなり踏み」前の車に近 づくし,また車間距離が「かなり接近する」と,ブレーキを「やや強く踏む」。 このように,車間距離についての状況を, 「少し」や「かなり」という言葉で 示されているように,あいまいに検知して,自動車を同様にあいまいに制御し ている。ここで,「あいまい」という言葉を使っているが,これは,日本では 古くから, 「あやふや」とか「でたらめな」などの良くないイメージで用いら れてきたが,ここでは,そのような意味ではなく,必要な程度の正確さという ことである。ヒトは,きわめて多くの現象や問題の認識・判断を次々と行うた めに,柔軟に対応し,限られた感覚能力や知能を用いて,限られた時間内に思 考・判断し,限られた言語によってその結果を表現しなければならない。この
ために,現象や問題をあいまいな形で把握し,かつあいまいな形で表現せざる を得ないと考えられる。この場合,ヒトはすぐれた感覚器官を備えていて,正 確ではない動作をしても,その良否を検知してフィードバックを行い,動作の 修正ができるから最終的には所期の目的を達成することができ,問題になるこ とは少ない。別の例として,ヒトとヒトとの対話がある。ヒトの言葉にはあい まいさがあり,不明確という欠点はあるが,反面この言葉を受け取る側の自由 度が尊重され,自主性を伸ばしたり,対人関係を好ましい状態にするなどの利 点も多い。私どもが,かなり正確に把握できる現象や問題は,簡単・小規模な ものだけであって,この場合,一般には限られた知識・経験や情報・データを 用いて現象や問題を表現できるが,これが複雑・大規模になると,情報などが 不十分であいまいさを伴うようになる。このとき,無理に正確に表現しようと することは,かえって不正確になり,むしろヒトのように,あいまいにとらえ, あいまいに表現することがかえって正しいといえる。 皿 あいまいさの数量化と演算 IIで述べたヒトのあいまいさの数量化にファジィ集合論が提案された。これに よるあいまいさの数量化と,その演算について次に述べる。 (1)あいまいさの数量化 ヒトの自然言語として用いられる「大変美しい」,「やや大きい」,「良い商品」 などの太字部分や, 「美人」,「老人」,「優等生」などの概念は,いずれも明確 に規定できず,個人的な主観でその認識に若干の差があり,あいまいである。 このような表現を数学的に表わすためにファジィ集合論が体系化された。この 集合論は,従来の集合論の拡張と考えられるもので,メンバシップ関数(Mem・ bership Function;MFと略称)を用いて,集合への要素の含まれる程度を 表わす。 例えば, 「老人」は,式では, け 4=黒μムω/x・ =0/0十〇/10十〇/20十〇.07/30十〇.18/40+0.4/50十〇.7/60
4 吉井典章教授退官記念論文集(第253・254号) 1 0 ︵璽︶く篭麟匪。卜碁︽伽、ふス 『}
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,”ノ” ノ ..22(・〈A”i ファジィ集合(老人)A 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 年 齢 xi 込’:ファジィ集合(どちらかといえば老人) △”:ファジィ集合(かなり老人) 第1図 老人の集合のメンバシップ関数 十〇.85/70+O.92/80+1.0/90十1.0/100 … t一・・・・・・・・・… 一… 一・・… (1) ただし,分数形は分数ではなく,その分母が年齢,分子がその年齢のヒトが 「老人」という集合に含まれる度合を示している。また,+は論理和の意味で あって加算ではなく,一般には,FtA(x、)が0のところは省略されることが多 い。これを図示すると,第1図の実線の曲線のようになる。式(1)でも,第1 図の実線の,ある年齢差ごとのサンプル値でも,計算機に入力できる。すでに, 2) このような入力を受け入れ,後述の演算を高速に行える専用の計算機もアメリ カ,日本,中国で開発されている。 (2)演算 演算はすべてMFで行われ,これには,形容の変換,論理,関係,合成など がある。 i) 形容の変換 例えば,第1図において,老人の集合をAとし,“どちらかといえぽ老人” という集合A’のMFは, AのMFの値を例えば0.5乗ずればよく,また, “かなり老人”という集合A”のMFは, AのMFの値を例えば2乗ずる。こ の場合,0.5や2という値は,MFの決定の場合と同様に,ある個人について 計測するもので,ヒトが変われば少し変化する。図において,例えば,60歳のヒトは,“老人”の集合に0.7,“どちらかとい えば老人の集合”に0.84,また“かなり老人”の集合に0.5の程度でそれぞれ 含まれることを示していて,私どもの直観によく合っている。 ii)論理 従来の集合で用いられていた論理演算として,論理和,論理積,補集合とい うのがあったが,ここではこれらをファジィの領域に拡張.している。いま,全 体の集合をΩとして,これらの演算を図示すると,それぞれ第2図の(a),(b),
n
AAUB
B (a)論理和 nA
BAnB
ユ む (R柱y罪緊・ゆ弐ス 写 (ヒu麟匪。二二ゆ\ ユ (b)論理積 nA
A
A∼ Au昼A
O.4 ユ む (娩苧ル罪封〆公・八 (c)補集合 B毬AnB
A∼ A一 1 ・xO x。 要素κ ス 要素κ 要素κ (a■) 言論]i里禾[J (bノ) 言命理積 (c〆) 季甫集合 第2図 従来の集合(a,b, c)およびファジィ集合(a’, b’, c’)の論理演算: (c)となり,斜線部分が演算結果である。 次に,ファジィ集合の場合には,MFについて演算が行われ,次のように定 められている。 (a)論理和のMF IUAuE(x)ニmax{μゑ(x),μ£(x)}………・…・……・…(2) (b)論理積のMF μム哩(x)=min{μム(x),μ昆(x)}…………・一・…・…………・…・…(3) (・)補集合のMF . μ至1(x)=1−StA(x) ・・・・・・・・… 。・・・・・… 。… 。。・。・。・・・・・・・… 。。・… 一。・… 。・・・・… (4)6 吉井典章教授退官記念論文集(第253・254号) ここで,maxまたはminは,それぞれ,侮(x)および険(x)のいずれか 大きい方または小さい方をとることを示している。式(2)∼(4)の演算を図示 すると第2図(a’),(b’),(c’)のようになる。いずれも太線で示したものが演 算結果であって,従来の集合の場合の斜線部分の演算結果と対比すれば,相互 の差異がよく分かる。以上の演算方法は,三つ以上の集合についても同様であ る。 次に,これら論理演算の意味を図の(aう,(b’),(c’)によって説明しよう。 論理和は,例えばκを年齢にとって,Aを若い人, Bを老人とすると,若い 人と老人との両方の集合を示すMFとなる(従来の集合A, Bでは両方の集 合の全体)。また,論理積は,例えばκを労働者の賃金にとって,嗅(x)を経 営者の賃金額に対する満足度,侮(x)を労働者の方の満足度とすると,労使 の賃金交渉による妥協結果の満足度を示している。この場合,労使両方の満足 度は,x=x。のときに最大となるから,妥結賃金はκ。となる。労働者側が, この満足度では不満のときは,経営者側にそのMFの曲線Aを右の方に推移 させるように交渉し,賃金ならびに満足度をさらに上げるようにするだろう。 更に,補集合は,例えば,xを身長にとり, IUA(x)を身長の低い人のMF とすると,身長の低くない人のMFとなる。 iii) 関係 例えば,「Xはyよりもずっと大きい」という関係は,一例として,次のよ うなMFで示すことができる。
一撫[1::ll二llll;;一㈲
iv)合成 二つのファジィ関係を一つにまとめた y り,一つのファジィ集合と一つのファジ ィ関係とを一つにまとめる演算をファジ n合成と呼んでいる。R
V四 第3図 ファジィ合成例えば,第3図に示すような入出力を持つシステムにおいて,入力(ファジ ィ集合)Uと,入出力間のファジィ関係Rとを与えて,出力(ファジィ集合) Vを,次のようにして演算する。 〔例〕 UとRとの合成(演算記号。) y−uoR=(o.s, o.3]o[glg g16, 8[2] ==[max{min(O.8, O.6), min(O.3, O.8)}, max{min(O.8, O.6), min(O.3, O.5)}, max{min(O.8, O.8), min(O.3, O.6)}] = [max {O. 6, O. 3} , max {O. 6, O. 3} , max {O. 8, O. 3} ) = (O. 6, O. 6, O. 8) この例の意味を,医療診断の例で説明しよう。第3図において,Uは病因また は病名,Vは病状であり,これら両者の関係Rは医師の知識・経験によってあ らかじめ与えられる。上例は,Vが,患者の訴えとして,「少し熱があり(MF O.6),頭の後頭部がやや痛み(MFO.6),肩がかなりこる(MFO.8)」とな り,これに対して,医師が,「あなたは普通の風邪と思われる(MFO.8)が, いま流行の流感の疑い(MFO.3)もある」と答える場合に相当する。この場 合は,関係Rと,病状Vとを与えて,病因か病名を探すことを目的としており, これは,ファジィ合成の逆演算の方法によって行われるが,ここでは省略する。 また,多くの病例についての,入出力U,Vから関係Rを,あらかじめ求めて おくことを同定(Identification)といい,医学に限らず,多くの分野での知 識・経験の整理・保存として大切であり,このようなデータベースを持つエキ スパートシステム(Expert System)は,機器や設備の故障診断や,経営に おける意思決定,制御などに用いられつつある。 演算には,以上のほか,ファジィ集合の関数や,ファジィ集合間の任意の演 算を定義するために拡張原理というものがあり,またそのほかにタイプ2のフ ァジィ集合といって,あいまいさの程度を取り入れたものもある。
8 吉井典章教授退官記念論文集(第253・254号) N ファジィ理論の応用の概況 ファジィ理論は,ヒトのあいまいな知的情報活動の過程をモデル化すること を出発点としているので,この立場から応用分野を分類すると次のようになる。 (1)ヒトの知的情報活動のモデルを作って,ヒト個人や社会,組織の特性を 調べたり,社会・組織・機器などの最適設計 (2)ヒトのすぐれた能力(情報検索・処理)の模擬,専門家達の豊富な知識 ・経験(計画・評価・判断・決定・制御など)の活用 第1表は,この立場から分類して,応用の現状を示したものである。 第1表 ファジィ理論の応用
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清デ 的モ 知の の動 ト活 ヒ報ル のや 旧識用 能知活 の・の ト擬験 ヒ模経 制 御 ・プロセス制 御 ・列車制御 ・ロボット 情 報 ・表 示 ・ディスプレイ ・音声出力 ・各種エキスパー トシステム ・各種データベー ス ・音声入力 ・パターン認識 (文字・図形) ・ファジィ・コン ピュータ ・ファジィ。ソフ トウェア (Prolog, Lisp) 経 営 ・商品評価 ・人事評価 ・組織設計 ・人間関係特 性 ・広告・PR ・意思決定支 援システム 社 会 ・集団行動特 性 ・医療診断支 援システムその他
・教育成果評 価 ・官能検査 ・学生相談支 援システム ・リスク分析 ・事故予知 (原子炉な ど) ・地震予知 応用のうち,制御は早くから実用化され,コントローラの製品も発売されて いる。これは,制御対象が複雑で,その数学モデルが作りにくいとか,非線形に なるような場合に,従来は熟練作業者に依存していた分野に応用が進められて いる。簡単なコントローラを用いて,対象の特性の変化にも順応して人間らしい柔軟な制御を実現している。産業・社会・交通などの分野にひろがりつつある。 次に,応用のさかんなのはエキスパートシステムである。この場合も,あい まいさに対してプログラムを複雑にせず,即座に,与えられた情報のあいまい さに見合う程度の正確さの答えを出すことができ,信頼できる点が好評である。 産業・社会・医療・教育などの分野にひろがりつつある。 以上の応用のうち,今後発展が考えられるビジネス応用について以下に考え てみよう。 V ビジネスの現状とファジィ理論への期待 企業や官公庁などの経営組織体では,業務を効率化し,経営のトップや管理 者の意思決定を適確に行うために,帳票や情報を活用して事務(busimess) とその管理を行っている。日本では,「ビジネス」という言葉が用いられてい るが,これは,事務やその管理よりは広い概念で,営業・取引・計画・打合わ せなどの業務も含んでいる。ここでは,この広義の言葉として「ビジネス」を 用いることとする。 次に,ビジネスの最近の状況について述べ,その方法論として適当と考えら れるファジィ理論や方法論につい一t考える。 最近のビジネスの特徴は,従前に比べて,だんだんと大規模・複雑化し,か つ変化に富み,従来の蓄積データからの予測が困難になってきているといえる。 従って,ビジネスの適確・効率化のための方法論として,ファジィ理論に期待 が集められている。すなわち,ファジィ理論では,大規模・複雑な対象のモデ ル化を,対象からの不十分なデータを用いて,大体行い得ることや,エキスパ ートの知識・経験を自然の言語で受けてルール化できることなど,人間に近い 概括的な知的行動を模擬することができ,これにより,急速に変化する環境条 件に対して,柔軟に対応していくことができる。 このような,ビジネスの特徴が顕在化してきたのは,世界および日本におけ る社会・経済状勢の変化によることは周知のとおりで,オイルショックを境と して,世界の経済が高度成長から低成長に移行したことによる。市場が急に狭
10 吉井典章教授退官記念論文集(第253・254号) められたにもかかわらず,高度成長時代からの多数の企業がそのまま市場に参 入し,ここに激しい販売競争を展開して現在に至っている。そのために,物的 商品およびサービスのいずれもユーザ側の選好を重んじ,多品種・変動型でし かも各品種ごとの少量生産へと移っていくこととなった。これに付随して,ビ ジネスの方も,多様化かつ変動型となり,しかも,競争に有利なように,市場 ・生産・販売・流通という縦のトタル化と,本社を中枢とする全事業所の連 けいという横のトータル化すなわち大規模化が推進されるようになった。多様 化・変動型・トータル化は,ビジネスをますます複雑なものにしていくことと なった。 以上の状況は,企業以外の官公庁や学校などの組織体にも波及し,これに対 処するための有力な方法論やツールが望まれるようになった。ファジィ理論は, これに応える:方法論として,データベースや,各種計画・管理手法を生み出し, 従来からのディジタル計算機やソフトウェアでの活用はもちろん,さらに高速 のファジィコンピュータや,有効なファジィ・ソフトウェアを用いて,その効 果が発揮されつつある。 M ビジネス用ファジィ方法論の概説 ビジネスは,企業の場合を例にとると,マーケッティング,製品開発,人事, 経理,生産,流通などの分野があり,また,その主な仕事は,情報やデータの 収集,計画(評価,意思決定を含む),管理などが考えられる。第2表に,こ のような分野,仕事に対するファジィ方法論を示す。 次に,これらの方法論の概要を,第2表に記載の順序に従って示そう。 8) (1)ファジィ・データベース ビジネスのいろいろの場面で,統一的に整理・蓄積されたデータベースがあ れば大へん便利である。この場合,人間が直接に関係を持つヒューマン・イン ターフェイスの分野,たとえば人間一機譜系,自然言語処理,意思決定などで は,あいまいなデータが沢山あり,これを積極的に,有効に利用するのにファ ジィ・データベースが要望され,提案されている。方法としては,大部分が,
第2表 ビジネスとファジィ方法論
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産 流 通その他 データ収集 ファジィ・データベース 計 画 目標設定と 代替案 モデル化 解析と評価 最適化と意 思決定 管 理 ル デ モ ● イ ジハUノ覇囲
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室 ファジィ多変量解析(*数量化理論1∼N) ファジィ積分 ファジィAHP ファジィ数理計画法 ファジィ意思決定支援システム(DSS) ファジィ多目的計画法 ファジィ多属性意思決定法 ファジィ統計的意思決定法 行動科学 へのファ ジィ理論 の適用 証券投資へ のファジィ 理論の適用 ファジィ生産管理 ファジィ。エキスパ ートシステム(加工 ・故障診断) ファジィQC (注)GMDH:Group Method of Data Handling AHP : Analytic Hierarchy Process DSS: Decision Support System QC: Quality Control 通常のデータベースにおける関係モデルをファジィの領域に拡張している。用 途として,今後,経営や管理における各種のレベルの意思決定支援システムや, あらゆる分野でのエキスパートシステムにとって不可欠のものとなるだろう。 12, 13) (2)ファジィ構造モデル 経営における各レベルでの組織・ビジネスでの種々の計画問題などの複雑で 大規模なシステムをグラフを用いてマクロに表現した定性モデルを構造モデル と呼んでいる。これは,経営組織や計画問題の分析・設計・解決に用いられる が,グラフの節と節との対応関係を0,1の2値論理で表わすので,実状に合 い難いから,これをメンバーシップ関数:に置き換えてファジィ化が図られてい 13) る。その一例として,FSM(Fuzzy Structural Modeling)という手法が提12 吉井典章教授退官記念論文集(第253・254号) 案され,集団による意思決定などに利用されている。 8) (3)ファジィ回帰モデル ビジネスにおける予測などの計画問題において,専門家などから得られるデ ータを用いて,ファジィ回帰モデルを作ることができる。この場合,回帰モデ ルの係数にファジィ数が用いられ,データに含まれるあいまいさを表わし,可 能性を示す情報とも考えられる。 (4) ファジィGMDH ビジネスにおける予測などの計画問題において,システムの構造に関する知 識を事前に必要としないで,入出力データから,発見的自己組織化の原理に基 づいて,複雑・大規模な:非線形システムのモデル化を行う方法がGMDHであ る。ここで,モデルのパラメータをファジィ数によって同定し,あいまいな現 象やシステムのモデル化を行う方法がファジィGMDHである。 8) (5)ファジィ数量化理論 ヒトの思考や判断によるアンケート・データを基にして,集団や社会の考え 14) 方や方向を統計的に調べようとする数量:化理論を,ヒトのあいまいさを考慮し て拡張したものにファジィ数量化理論がある。企業の市場調査や,新製品開発 の動向調査などに効果を上げている。ファジィ数量化理論には,1,II,皿, W類の4手法がある。 1類は,たとえば,いくつかの店舗の周囲にどの程度ショッピングセンター があるかによって,各店舗の生活用品の売上高にどのような影響が出るかを調 べるような問題に用いられる。この場合,ショッピングセンターの規模の程度 および生活用品の取扱いの程度がメンバーシップ関数で与えられている。 II類は,たとえば,ある二つのメーカの同程度の製品について,性能・価格 ・外観などの評価項目からみて,顧客の購買意欲の程度がどのようになるかを 調べるような問題に用いられる。この場合,顧客が,各評価項目を考慮する程 度および各メーカの製品の購買意欲の程度がメンバーシップ関数で与えられて いる。ここでは,同一の顧客が,二つのメーカの製品に対して,異なる購買意 欲を持っているような,現実に自然に起こる状況を取扱っている。
111類は,たとえぼ,若者達がある商品を買うときの,購入場所・商品知識 ・ブランド商品などについての調査データから,若者達の購買行動を幾つかの パターンに分類しようとするような問題に用いられる。この場合,若者の年齢 などからみた若さの程度をメンバーシップ関数で与え,若者達を,商品知識が 無く,ブランド商品に傾倒し,百貨店で購入するグループ,どのような商品で もよく,スーパーマーケットで購入するグループ,商品知識が豊かで,専門店 で主にブランド商品を購入するグループ,および,自分の商品知識を重んじて, ブランドにこだわらずに専門店などで購入するグループに分類している。 IV類は,皿類と同様のパターン分類を目指しているが,問題の取り上げ方 が異なり,幾つかの対象(商品,作品,人物など)と,これらを選好する人達 (顧客,愛好家,ファンなど)との関係を考慮して,同一対象を選好する人達 や,同一の人達から選好される対象には強い親近性があると考えようとしてい る。この場合,対象や,人達が,含まれるグループを考え,それへの帰属度を メンバーシップ関数で与えていて,これらのグループのパターンを調べようと している。 8) (6)ファジィ積分 新製品を開発するとか,商品の購買意欲を調べるなどの場合に,顧客がどの ようにして品物の評価をしているのかを知る必要がある。いま,品物の評価に 当って,幾つかの評価項目(性能・人間工学的特性・経済性など)を挙げ,こ れらの重視度を一対比較法などを用いて計測し,品物全体としての総合評価値 を決めようとするときに,従来の線形結合では,異質の各評価項目について和 をとるという問題点がある。これを,人間的な思考・判断に近い総合評価演算 を目指すのがファジィ積分である。ここでは,四則算法で用いられる加法性の 条件をゆるめ,単調性に基づいて定式化が行われ,人間の主観的特性を示そう としている。この方法は,品物に限らず,人物や,考え方など多くの対象の評 価や選好に用いられる。 (7) ファジィAHP 前述の(6)のファジィ積分と同様の評価に用いるために開発されたAHP(階
14 吉井典章教授退官記念論文集(第253・254号) 層化意思決定法)のファジィ化を試みたものが,ファジィAHPである。幾つ かの対象の評価に当っては,一対比較法によって,各評価項目の重視度を決定 し,これらを用いて各対象の総合評価値を求めるという考え方は,(6)の場合と 同様であるが,重視度を可能性測度および必然性測度とし,各重視度の和を1 とする条件をゆるめ,重視度を求めるのに固有ベクトル法を用いている。また, この方法は,経営やビジネスにおいて,評価問題に限らず,多くの代替案から 採用すべき案を意思決定する場合に広く用い得るものと考えられる。 8) (8)ファジィ数理計画法 経営や生産におけ’る種々のレベルの計画や意思決定に際して,数理計画法が よく用いられているが,この場合は,明確な目的関数および制約条件が用いら れている。現実の問題では,利益や損失などを表わす目的関数や,投資可能金 額などを表わす制約条件に余裕があり,あいまいになっている方が流動的で考 えやすい場合が多い。このような状況に副い柔軟に対応できちファジィ数理計 画法が,各種提案されている。 (9>ファジィ多目的計画法 経営や生産における計画・意思決定においては,多くの,相対立する目的を 満足する解を求めなければならない場合が多い。たとえば,市場に供給される 商品やサービスの品質・価格・納期などは,相互に対立し,いずれも同時に満 足する方向に持っていくことはできず,妥協が必要である。現実の問題を取扱 う場合には,さらに,目的関数や制約条件にあいまいさが含まれる。以上のよ うな問題に対しては,前述の(7),(8)のファジィAHPや,ファジィ数理計画法 も用い得るが,目的関数や制約条件のあいまいさを与えるメンバーシップ関数 を,計画あるいは意思決定者と対話しつつ試行的に同定していくことにより, 現実のシステムとの近似度の高いモデル化を図ろうとする方法がファジィ多目 的計画法として提案されている。 ao)ファジィ多属性意思決定法 前述の,(6),(7),(9)のファジィ積分,ファジィAHP,ファジィ多目的計画 法で取り上げているように,多くの評価項目(属性ともいう)を持つ,幾つか
の代替案から適切なものを選ぶ場合に,線形結合式で与えられている総合評価 式をどのように同定するかに重点を置いているのが多属性意思決定法である。 現実の問題では,各評価項目の重視度および評価値は,ファジィ数や言語表現 で与えられることが多いので,この場合に対して,ファジィ多属性意思決定法 が提案されている。 8) {ll)ファジィ統計的意思決定法 経営上の種々の意思決定において,とり得る幾つかの行動から適切なものを 選ぶ場合に,それぞれの期待効用を計算し,最大値を与える行動に決定するの が統計的意思決定法である。現実の問題では,行動がたとえば, 「どちらかと いえばこうする」のようにあいまいであったり,また,状態がたとえば,「品 物がよく売れる」のようにあいまいであったりする場合が多い。このような場 合に拡張されたのがファジィ統計的意思決定法である。 以上,ビジネスに用いる各種方法論を,その応用と特徴に重点を置いて概説 してきたが,これら以外に,基礎的なブァジィ集合論や,ファジィ推論が,意 思決定や管理などに,エキスパートシステムなどとして用いられていて,第2 表に示されている。 W ビジネス応用の特徴 ファジィ方法論をビジネスに適用する場合に,従来の計画・管理手法と異な る点は,計画や意思決定者の判断を多くとり入れる点と,言語のようなあいま い情報を活用できることであろう。たとえば,モデルの係数やパラメータの決 定,評価における評価項目や重視度の決定,制約条件の決定などにメンバーシ ップ関数や可能性・必然性測度あるいはファジィ数を用いることや,与えられ た情報のあいまいさに見合うように,あいまいな形で解が与えられることであ る。現実のシステムや問題を,無理に簡単なモデルに近似するよりは,自然に 素直な形で,人間参画の上でモデル化し,得られた解にも幅を持たせて,人間 に分かりやすい形で示して,その最終判断を仰ぐという形態をとっている。こ のような意味から,最近の変転きわまりない状況下でのビジネスにおいて,フ
16 吉井典章教授退官記念論文集(第253・254号) アジィ方法論が,人間と協働できる柔軟な方法論と考えられる。ただ,ファジ ィ方法論の実用に際しては,まだ未解決の問題が多く,現場からの活きた経験 をフィードバックして,その発展を図る必要があろう。 ここで,特に注意すべきことは,ファジィ理論による計画・管理や評価・意 思決定に際して,与えられた結果は,従来のオペレーションズ・リサーチなど の経営科学よりは柔軟で,ヒトの判断に近いとはいえ,最終の判断や決定はヒ トにあることである。また,与えられた問題や,周辺の状況により,データベ ースにとどめるべきか,計画手法を用いるか,あるいは意思決定支援システム やエキスパートシステムの助けを借りるかは,またヒトが判断することになる。 参 考 文 献 1) L.A. Zadeh “Fuzzy sets”, lnformation and Control, VoL 8, No. 3, pp. 338 ”一353 (1965). 2)山川 烈:FUZZYコンピュータの発想,講談社(1988)。 3) 内殿・武田・沈・丁:“FUZZY PROLOG について”,第3回ファジィシステム シンポジウム講演論文集,173∼178頁(1987)。 4)馬野元秀:“Lispによるファジィ集合処理システム”,第3回ファジィシステムシ ンポジウム講演論文集,167∼172頁(1987)。 5)浅居・Negoita(編著):ファジィシステム理論入門,オーム社(1978)。 6)西田・竹田:ファジィ集合とその応用,森北出版(1978)。 7)寺野寿郎(監修):あいまい工学のすすめ,講談社(1981)。 8)寺野・浅居・菅野(編著):ファジィシステム入門(1987)。 9)水本雅晴:ファジィ理論とその応用,サイエンス社(1988)。 10)菅野道夫=ファジィ制御,日刊工業新聞社(1988)。 11)菅野道夫:ビジネスマンのための「ファジィ」読本,サイエンス社(1988)。 12)浅居喜代治(編著):システム工学,7章(48∼55頁),放送大学教育振興会(1986)。 13)天笠美知夫:システム構成論一ファジィ理論を基礎として,森山書店(1986)。 14)林知己夫:数量化の方法,東洋経済新報社(1972)。