1 原 著
〔書画蔑。8第鞍、肇錆〕
高濃度酸素48時間曝露によるモルモットの
気流抵抗および気道過敏性への影響
東京女子医科大学衛生学公衆衛生学教室 ニガウリ ヨウコ オジマ ヒロシ ナカダテ トシオ カガワ ジユン苦瓜 洋子・尾島 博・中館 俊夫・香川 順
(受付 平成4年4月15日) The Effect of 1009602 Exposllre for 48 Hours on Total Respiratory Flow Resistance and Airway Sensitivity in Guinea Pigs Yoko NIGAURI, Hhloshi OJIMA, Toshio NAKADATE and Jun KAGAWA Department of Hygiene and Public Health, Tokyo Women’s Medical College The effect of hyperoxia on lung function in guinea pigs was investigated. Total respiratory flow resistance(RTR), airway reactivity(△R)and airway sensitivity(PC200)to the inhalation of histamine aerosol were measured by a sine wave oscillation method before one week of exposure and immediately after exposure to 1009602(the O2 exposure group, n=5)or room air(the control group, n=4)for 48 hrs. No significant change was observed in RTR and△R among the two groups. A significant increase of PC200 after room air exposure for 48・hrs was observed in comparison with PC2Go before l week, but no significant increase was observed after O2 exposure for 48 hrs. PC2000f O2−exposure group may be expected to increase with growth before O2 exposure as well as the control group. However PC200 after exposure to O2 for 48 hrs was not significantly different from that before exposure to O2. It is suggested that O2 exposure for 48 hrs may三nduce hypersensitivity to histamine aerosol in gulnea plgs・ 緒 言 大気圧下での高濃度酸素吸入の死因は呼吸不全 であり,実験的酸素中毒で死亡した動物の肺では, 形態学的に無気肺,肺水腫,線維化が認められて いるn.一方,高酸素の吸入が気道にどのような影 響を及ぼすかについての見解は一定していない. Becketら2)は,ヒトでは,95%の酸素を12時間吸 入後,肺活量の低下はみられるものの,メサコリ ン吸入に対する気道反応性の充進は認められない と報告している.しかし,高濃度酸素を吸入する ことにより気道の反応性が:躍進する可能性を示唆 する報告もみられる.Szarek3)はラットについて, 85%酸素7日間曝露後にin vivoおよびin vitro で5−hydroxytryptamine投与により気道収縮が 充進ずることを認め,比較的高濃度酸素の長期間 吸入により気道のcholinergic functionが変化す る可能性があることを示唆した.Katsumataら4) はキサンチンおよびキサンチンオキシダーゼ吸入 により局所で産生された外因性のスーパーオキサ イドが気道収縮ならびにアセチルコリンに対する 反応性の充進を引き起こすことを報告している. 今回我々はモルモットについて高濃度酸素48時間 曝露直後の全呼吸気流抵抗,気道過敏性および気 道反応性の変化について検討したので報告する. 実験方法 1.実験動物 Hartley系SPF雄性モルモット約5週齢(平均 体重303.4±3.9g)を9匹使用した. 2.曝露条件 容積481(縦×横×高さ,60cm×40cm×20cm) 一605一2 のプラスチック製チャンバーの一端から100%酸 素を20∼251/min(換気率約0.5回/min)で送気し, 反対側から自然排気を行い,チャンバー内の酸素 濃度(テレダイン社製TED200)を96%以上とし』 大気圧に保持した.対照群(空気曝露群)は室内 空気を用い,同チャンバー内酸素濃度は20%で あった.両群とも曝露期間中のチャンバー内二酸 化炭素濃:度(オメダ社製5200CO2モニター)は 0.3%以下,温度20∼25℃,湿度30%であった.餌 と水は自由摂取とし,照明は1日12時間とした. 3.全呼吸気流抵抗,気道過敏性および気道反応 性の測定 全モルモットについて,サイン波加圧法5)によ り,全呼吸気流抵抗の測定とヒスタミン.・エーロ ゾル吸入試験による気道過敏性および気道反応性 の測定を曝露開始1週前および曝露直後に行っ た.モルテッドのヒスタミンに対する気道過敏性 は個体差が大きいため,曝露開始1週前の測定結 果に基づき,気道過敏性の指標となるPC2。。の値 に有意差がないように対照群4匹,曝露群5匹を 振り分けた.また振り分けのための測定と,曝露 開始の間に1週間の間隔をあけたのは,ヒスタミ ンチャレンジの肺に対する影響からの回復時間を 考慮したためである. 各回の測定では∫始めに全呼岐気流抵抗を測定 し,これを全呼吸気流抵抗の基礎値(RTR−B)とし, 引き続きヒスタミン吸入試験を行った.ヒスタミ ン吸入試験はネブライザー(Babinton社製)によ り発生させた生理食塩水エーロゾルの吸人直後の 気流抵抗(RTR・P)を測定後,この気流抵抗の2倍 以上の上昇が観察されるまで,低濃度から順次ヒ スタミン・エーロゾル濃度を増加させながら吸入 させた,塩化ヒスタミンは生理食塩水で希釈し, 0.0625, 0.125, 0.25, 0.5, 1.0, 1.5, 2.0, 2.5% の溶液を用いた. PC2。。と∠Rは気流抵抗とヒスタミン濃度の dose−response curveから図1に示す方法で算定 した.すなわちX軸にヒスタミン濃度の対数値 を,Y軸に気流抵抗をプロットし,生理食塩水の エーロゾル吸入直後のRTR・Pに対して,1.5倍の 上昇がみられる直前のヒスタミン濃度と,2倍以 自TR(、mH20/mレsec) 1.2 1.o O,8 0,6 O.4 0.2 △R 鵬 ×2隔ne ・i ・1.51・・e・…一…一・…峯・…一…一・ 回 8 1 ロ コ ■ i PC200 i/ α01 0.1 tO Histamine ConCentration(%) 図1 PC2。。と4Rの計算方法 RTR:全呼吸気流抵抗,□:生理食塩水吸入直後の RTR(RTR−P),■:ヒスタミン吸入直後のRTR, 上の上昇がみられた濃:度の間の測定点について回 帰直線を計算し,この直線でYがRTR−Pの2倍に なるときのXをPC2。。とし,直線の傾きを∠Rと した.PC20。は気道過敏性の指標,∠Rは気道反応 性の指標として使用した. 4.統計学的検討 曝露の有無および曝露前後の平均値の比較には t・検定およびpaired t検定を行い,また曝露前後 の値の変化を,曝露の有無で比較するため乱塊法 型の分散分析を行った.なおこの際PC2。。につい ては,データの分布が正規分布からかけ離れてい るため対数変換値を用いて検定を行った. 結 果 曝露開始1週前の各測定値は,曝露群と対照群 間で有意な差を認めなかった,また曝露前後の平 均値を比べると,全呼吸気流抵抗は対照群,曝露 群ともに有意な変化を認めなかった(表).一方気 道過敏性を示すPC20。は,対照群では曝露1週前 の値に比して,48時間空気曝露後に有意な上昇が 認められたが,曝露群では曝露1週前に比して, 曝露後に上昇する傾向は認められるものの有意な 差ではなかった(表).図2は,曝露1週前と曝露 48時間後のPC2。。の対数値を対数スケール上に表 一606一
3 表 曝露群(100%酸素48時間曝露)と対照群(室内空気曝露)の全呼吸気 流抵抗(RTR), PC2D。および」Rの曝露前後の平均値の比較 曝露開始1週前 48時間曝露後 t値 F値 対照群(n=4) 0.469±0.091 0.414±0.020 1.25 2.19 RTR−B @ 曝露群(n=5) 0.378±0.052 0389±0.038 0.54 対照群(n;4) 0.267±0.071 1.366±0.161 10.40## 6.89串 PC200 曝露群(n=5) 0.337±0214 0.701±0.797 1.33 対照群(n=4) 1.419±0.507 2.918±1.119 3.88# 1.77 』R @ 曝露群(n;5) L825±1,215 1.671±L565 0.14 RTR−B:cmH20/m1/sec, PC20。:% ##p<0.01,#p〈0.05(各群の曝露前後間の平均値の比較はpaired t−test) 串p<0.05(2高間の曝露前後の平均値の変化の比較は分散分析) PC200(%) 1.0 o,1 姪・ exposure for48 hOurs o a匿「exposure ・ 02exposure ○:対照群, 分析). before exposure after exposure to air or O2 to airor O2 for 48 hours 司喝一一一一一一一一 9days一一一一一一一〉 図2 曝露群と対照群の曝露前後のPC2。。の変化の比較 ●:曝露群,*p<0.05(2群間の曝露前後の平均値の変化の比較は分散 し,両群の曝露前後の変化を比較したものである. 分散分析の結果,この曝露前後のPC2。。の変化の 大きさには,曝露群と対照三間で有意差が認めら れた.また」Rは,曝露群では曝露前後に有意な変 化がみられなかったが,対照群では曝露前に比し 曝露後に有意な増加がみられた.しかし両群問の 曝露前後の∠Rの変化の大きさには有意な差はな かった(表). 考 察 酸素に対する感受性は動物の種類とその幼若に より異なるが,Frankら6}によると,モルモットの 100%酸素のLD50を引き起こす曝露日数は3.9日, ラットは2.8日である.ラット7)8)やラビット9》では 100%酸素を曝露した際,LD5。のおよそ半分以上 の曝露時間で,血管内皮細胞の透過性の充進や形 態学的変化がみられている.本実験ではモルモッ トの,肺胞に酸素による影響が現れていると推測 される48時間曝露後の,気道系への影響について 検討した. その結果,曝露1週前と48時間曝露後の値を比 一607一
4 較すると,対照群において気道過敏性が有意に低 下し,一方曝露群では,PC2。。が若干増加している ものの,有意な気道過敏性の変化は認められな かった.そして両群間での曝露前後のPC2。。の変 化のパターンに有意な差があることが示唆され た.本実験は,晶群とも曝露前の測定は約5週齢