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(シンポジウム 注目すべき感染症とその対策)MRSAの現状と対策

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シンポジウム 〔東女医大誌 第62巻 第4号頁 313∼319平成4年4月〕

注目すべき感染症とその対策

MRSAの現状と対策

東京女子医科大学   キク      チ

  菊  池

臨床中央検査部    ケン    賢 (受付平成4年1月10日) Epidemiology and Control of Me血icillin・resistant 3謬窺ρ1蛇心co¢c一側兜衡s(MRSA)         Ken KIKUCH互 Central Clinical Laboratory, Tokyo Women’s Medlcal College   Methicillin resistant S野牛10ω06〃3醐7召〃5(MRSA)have become increasing common significantly in many Japanese hospitals during the past decades. A notable feature of MRSA is the ease with which it spreads epidemically. The frequency of methicillin resistance inε砺紹麗s isolated from inpatients in Tokyo Women’s Medical College Hospital increased from 36.5%in 1988 to 70.8%in 1990. The frequency of MRSA in all isolates in our laboratory was 14.2%and was the top from January to June 1991.Another problem of MRSA is the resistance to many other antimicrobials and the effective treatment of serious infections is very difficult。 But, MRSA rarely cause primary pyrogenic inf㏄tion in previously healthy patients. Many infections of MRSA have occurred in patients with severe underlying diseases and immunocompromised conditions. The control of the epidemic outbreaks of MRSA has been usually difficult indeed. In this review, the epidemiological survey and the control plan of MRSA in our hospital were discussed.          緒  言  MRSA(メチシリソ耐性黄色ブドウ球菌)は現 在の院内感染の主要な起因菌として広く蔓延して いる.その本質はβ・ラクタムはもとより,他の多 くの抗菌剤にも耐性を示すことにある.また, MRSAは黄色ブドウ球菌としての病原性を持ち, 皮膚や咽頭,鼻前庭などに定着し,院内感染の流 行を起こし易い特徴を有している.本論文ではこ のMRSAの現状と対策について当院の例を取り 上げて述べてみたい.

      MRSAの出現背景

 黄色ブドウ球菌はベンジルペニシリンが使用さ れ始めてから一度,多剤耐性菌が繁栄した時代が あったが,耐性ブドウ球菌用ペニシリン,第一世 代セフェムの開発で沈静化し,グラム陰性菌が感 染症起因菌の主体に代わった1}.この時代,最初の 耐性ブドウ球菌用ペニシリンであるメチシリンが

開発された翌年には早くもMRSAが報告されて

いるが2》,今日のような大々的な蔓延をきたした のは我が国では1980年代始めからである.この時 期はいわゆる第三世代セフェムと呼ばれる当時最 も問題となっていたグラム陰性菌を標的とした広 域β一ラクタム剤が使われるようになった時代と 一致している1).  これらのβ一ラクタム剤は腸内細菌属を始めと するグラム陰性菌や緑膿菌に優れた感受性を持つ ものの,ブドウ球菌に対する抗菌力が第1世代β・ ラクタム剤に比べ劣って.いた.これらの抗菌剤が 繁用された結果,黄色ブドウ球菌が選択されて残 りやすい環境となり,院内感染の形を取り易い点

とあいまって急速にMRSAが広がってきたので

ある.

(2)

       MRSAの耐性機構

 β一ラクタム剤の作用点はペニシリン結合蛋白 (PBP)と呼ばれる細胞壁合成酵素であるが,この 酵素は菌の増殖のために必須のものである.黄色 ブドウ球菌の場合,このPBPのうち,1種類の酵 素があれぽ増殖が可能であると言われている3). MRSAはこれらのうち, PBP2が変化し,β一ラク タム剤の作用することのできないPBP2’を作り 出した菌である4).この耐性は従来の黄色ブドウ 球菌の耐性として知られていたペニシリンとは異 なり,染色二上にmecAと呼ばれる耐性を規定し た構造遺伝子を持ち5),ファージなどを介して簡 単にその性質を伝播することはできない.この点 が,ペニシリナーゼ産生菌がペニシリン使用開始 から程なく広まって行ったのに対して,MRSAは 発生以来,大規模な蔓延をきたすのに20年ほどの 歳月がかかった理由かも知れない.  また,MRSAの根本的な問題はβ一ラクタム剤 のみならず,多くの抗菌物質や一部の消毒剤にす らも耐性を示すことにある.この理由にはMRSA がトランスポソンの組み込み頻度が高いことな ど6),耐性を取り入れやすい性質が挙げられる.

      MRSA感染症の特徴

 MRSAは確かに多くの薬剤に耐性を呈し有効

な治療方法が殆どないのも事実だが,MRSAの耐 性が強いからといって,MRSAの病原性や伝染性 が強いことにはならない.MRSAの耐性ぽかりが 強調されるため,MRSA感染症は曲解されている 傾向がある.これはMRSAが検出された場合の 対応を考えるうえで非常に重要なことである. MRSAも黄色ブドウ球菌であるので,その感染症 は基本的には従来の黄色ブドウ球菌感染症と同じ である.MRSA感染症の臨床像は皮膚軟部組織や 肺膿瘍などの化膿性病変と感染性腸炎が代表的な もので,健康な成人に重症な全身感染症を起こす ことは稀である.  MRSAが感染を起こし易い患者は,白血病や 癌,重度の熱傷などの免疫不全者,寝たきり老人, 未熟児,レスピレーターなどの器具の装着者,大 手術後などのいわゆるcompromised hostに限ら れる.『MRSAが検出された』ことが即, MRSA 感染症発症ではない.

    当院におけるMRSAの現況

 実際に現在,どの程度MRSAが蔓延している のか,当院を例にとって説明してみる.  図1は最近1年間に当院中央検査部で分離され た菌に占めるMRSAの割合を示す. MRSAは入 院患者由来の分離菌のトップを占め,外来由来株 でも3.6%に上っている.  図2は1988年から1991年までの黄色ブドウ球菌

の分離件数に占めるMRSAの比率を半年毎に

追ったものである.黄色ブドウ球菌全体の分離件 入院 17334 株   外来 3.6

%\

■MRSA

□その他 図1 東京女子医大臨床中央検査部分離総冊数におけ  るMRSAの頻度(1990年7∼1991年6月) 2000 1000 澱 o

入院由来

500 果18払t21響 潤2果10匹12 鴨1      分離年度 1 % 1 651      632   726 % 1       B15  798 756

外来由来

閉蘭SSA

國MRSA

図2 黄色ブドウ球菌分離件数に占めるMRSAの年  度別推移(当院集計)

(3)

数が増加しているが,中でもMRSAの増加が目

立ち,1990年以降は入院株の70%を占めるに至っ ている.すなわち,病院に入院している患者から 黄色ブドウ球菌が検出された場合,MRSAである 確率が高く,実際に感染症を起こしている所見が

あった場合にはMRSAを考えた治療を選択しな

ければならないということになる.また,外来か らも10%前後の分離があり,関連病院などとの患 者の行き来などに伴って,院内感染源としての MRSAの伝播に一役買っているものと思われる. この結果は即,MRSA感染症の発生件数を意味す るものではないが,MRSA感染のリスクの高い患 者を抱える病棟にとっては相当な脅威であろう.

こうしたMRSA感染・・イリスク患者にMRSA

感染を起こした場合は感染症の初期段階で除菌す る必要があり,素早く殺菌力に優れた薬剤を十分 な量与えねぽならない.しかし,MRSAの場合は 従来からある抗菌剤の中で,良好な感受性を示す 薬剤はミノサイタリン,クロラムフェニコールの ように殺菌作用の劣ったものや,ニューキノロン のように現時点では経口のみで注射薬のないもの など,実際に臨床的に使用できる有効な薬剤は殆 どない.  このような状況下,従来からある抗菌剤の中で 比較的目的に適つた薬剤にアミノ酸素体のネチル

マイシンが挙げられる.当院分離MRSAに対す

るこの薬剤の耐性率は10%以下で,しかも全体で はここ4年間耐性の増加を認めていない.この理 由は特に高齢者では使用しにくい腎障害を始めと するアミノ乙子体の副作用を懸念し,使用頻度が 低いためと思われる.しかし,このような有効性 が期待される薬剤でも使用方法を誤り,いたずら に濫用が行われれば耐性菌が選択されてくる.図 3は1991年1月より6月までの半年間の入院由来

MRSA株に対するネチルマイシソの耐性率を診

療科別に見たものである.グラフ上の横線は耐性 率の平均値を示しているが,D科で飛び抜けて耐 性株の分離率が高いのがわかる.この株の中には

現在市販されているMRSAに対する薬剤の中で

最も有効なアルベカシン耐性株も含まれている. D科で使用するネチルマイシン量は群を抜いて多 100 80

難60

蓑40

 20

0 全体耐性率

       ABCDEFGHI

      診療科 図3 入院由来MRSAに対する診療科別ネチルマイ  シン耐性率(1991年1∼6月) 100 75 墨,。 葉  25    8817.12  89’1−6  7■12  90’1,6  7圏コ2  91’1ロ6        分離年度 図4 当院由来MRSAに対するフロモキセブ耐性率  年度別推移 く,病院全体の約30%にも及んでいた.MRSAの 今日の蔓延が第三世代β一ラクタム剤の濫用に あったことを考えると,この菌がまた病院に広が りはしないかと恐れているが,今のところ他の診 療科に波及する傾向はないようである.

 MRSAが種々の薬剤に対し急速に耐性を獲得

しやすいことは既に述べたが,その実例を示す.

図4は当院分離MRSAのフロモキセブ耐性率の

年度別推移である.この薬剤はβ・ラクタム剤の中 では比較的,MRSAに感受性を有するとされてい るが,1988年の発売以来,急速に耐性を獲得して いったことがわかる.現在のフロモキセフ耐性は

ほぼMRSAの90%に達するが,診療科によって

は耐性率に差が認められた.

 薬剤使用量とMRSAの耐性率の間に有意の相

関関係が認められれぽ両者の因果関係がはっきり する.図5は代表的な2診療科と病院全体の1991 年上半期の注射用β一ラクタム剤の使用頻度を示 す.MRSAの蔓延の誘因となった第3世代セフェ

(4)

全体 B

A

□第一世代セフェム ロモノバクタム Te㎞acydhe5  2.1%          tota131282749 図6 当院における経口抗菌剤使用頻度(1991年1  ∼6月) 圏第二世代セフェム 圓力ルバペネム 圖第三世代セブニム 翻ペニシリン 図5 当院における注射用β・ラクタム剤使用頻度  (1991年1∼6月) ムの使用量はほぼ25%で,他の病院の報告に比べ ると低いほうに属し,概ね使用は適切であろうと 考えられるが,A科は第3世代セフェムの使用量 が多く,病院全体の平均を大きく上回る.この中 で最も使用頻度が高い薬剤がフロモキセブであっ た.このことに起因してか,A科はフロモキセブ 耐性菌の検出率が高かった.一方,A科はイミペ ネムの使用頻度も高く,量的にも病院全体の20% におよんでいる.B科では第3世代セフェム,イ ミペネムの使用量は少なく,病棟からのイミペネ ム耐性菌はA科の78.3%に対して51.4%と低い 傾向を示した.B科も一時期はイミペネムが濫用 されていたが,耐性菌の増加とともに使用制限を 科したと聞いている.各注射用抗菌剤の使用量と 耐性率の間には残念ながら有意な相関を認めな かったが,この理由には使用頻度が耐性へ反映し てくるのにある程度の時間がかかるためと思われ る.  現在,多くの病院でMRSAのキノロン耐性増 加が問題になっているが,当院ではあまり耐性率 に増加傾向がみられない.この理由には図6に示 すように当院における経口抗菌剤の使用頻度では それほど高くなく,キノロン耐性がそれほど増え ていないことと関係するかもしれない.

       MRSAへの対策

 では,MRSAが発生した場合にはどのような対 応をとれぽよいのだろうか.基本的には,発生さ せないことである.抗菌剤の適翅な使用は重要ポ イントになろう.予防的投与を謹むのは当然だが, 感染症を疑った場合にあまりにも画一的な薬剤使 用法を取っていないだろうか.個々の感染症はそ れぞれ起因菌,病態生理,患者背景などが異なり, それぞれに最も適した治療法がある.悪寒戦藻を 伴った突然の発熱のように敗血症を疑い,empiric therapyが選択される場合でも,症状,その病院の 院内感染情報,患者背景などからある程度起因菌 を想定した薬剤を選択する理論的根拠が必要であ る.数少ない治療手段をできる限り長く,有効に 用い,耐性菌を選択させないためには,ネチルマ イシンの例を見るまでもなく,いたずらにMRSA に感受性のある薬剤を濫用しない努力が重要であ る.  一度病院内に蔓延してしまうと,発生した MRSAを消滅されるのは殆ど不可能である。その

(5)

理由は,皮膚を介して伝播されること,体に装着 された器具や一旦,咽頭や鼻前庭などに定着した 菌は容易には除去できず,保菌という状態で知ら ず知らずのうちに感染源となることなどが挙げら れる.

 MRSA患者が発生した場合には病院内貯留物

体(感染または保菌患者,職員と病院内環境汚染

物)を明らかにし,病院内でのMRSAの蔓延状

況,感染経路を掴み,その拡大を防止し,MRSA 貯留物体を消滅させねぽならない.我が国では残 念ながら英国の病院感染学会の定めた詳細なプロ トコール8)のように公的機関や学会などによる一

定のMRSA対策基準はない.各病院毎に院内感

染委員会を設け,それぞれの現状にあった対応を 取っているようである.基本的には,MRSAの伝 播は医療従事者の手を介するため,いかにこの経 路を分断するかが対策の主体となる9).  MRSAが検出された患者は理想的には隔離し,

MRSA患者を管理しやすい簡所に集中させると

同時に,MRSA感染をおこすリスクの高い患者か ら遠ざける,即ち,逆隔離も必要となろう.ただ し,これには患者の人権問題を十分考慮する必要 がある.あくまで性行為感染症などとは違い,患

者自身の落ち度からMRSAにかかった訳ではな

いので,その点の十分な説明と患者自身の納得が 欠かせない.  消毒は日々の対策の中で最も基本的かつ重要な 点である.現在,MRSAがこれだけ院内に存在し ている事実を考慮に入れ,MRSA患者であるなし に拘わらず手と手の触れる物については頻回に消

毒を行い,患者から患者へのMRSAの運び屋に

ならない努力が必要である.これには手洗いと器 具の消毒の徹底,ディスポーザブル器具が推奨さ

れる.Casewe11らはMRSA患者の処置にはマス

クは必要なく,ビニール製のディスポーザブルの ガウンを着用し,二作急減に廃棄することを薦め ているlo).日本の保険医療の現状では費用負担に 無理があるが,実績を上げている方法である.日 常の診療の際の手指の消毒にはある程度残存効果 を有するヒビスコール⑧やウェルパス⑭が推奨さ れる.また,手指のみならず診察に用いるカート や診察器具はできれぽ患者専用とし,使用後に必 ず消毒すべきである.患者のカルテは病室へ持ち 込まず,診療内容はメモ用紙に記入して一回一回 使い捨てにするなどの細かい配慮も必要である.

MRSAの存在環境に入った物にはMRSAが付

着したと考えるべきなのだ.MRSAの消毒剤耐

性11)12)は我が国では今のところそれほど問題化し ていないが,消毒剤の効力は有機物存在下で著明 に低下することを頭に入れておかねばならない.  保菌者の問題は重要である.MRSAに限らず, 黄色ブドウ球菌の院内感染源として,医療従事老 の鼻前庭や咽頭に定着した菌が関与している報告 が古くからある13).この菌が医療行為に伴い患者 に伝染していく訳だが,MRSA保菌者を除去する ことは容易でない.幾つかの試みが成されたが, 一旦消失しても再発が問題となっている14)∼16).そ の中で効果が期待されるものにCasewellらによ るmupirocin軟膏(Bactroban⑧)の鼻腔内投与が あるlo)17)18).図7にmupirocinの当院臨床分離株 に対する感受性測定の結果を示す.この薬剤は他 の抗生物質とは異なる化学構造を持ち,蛋白合成 阻害により抗菌作用を発揮する19).MRSAを含め たブドウ球菌,肺炎球菌,溶連菌などの主にグラ ム陽性菌に抗菌スペクトラ「ムを有するが,生体内 では代謝されるため,皮膚科などの局所投与に用 いられている19).この薬剤の短期間の鼻腔内投与 により,保菌者は確実に消失し,しかも再定着が ほとんど見られないとされる.現在,当院を始め 璽 暮 § 含 信 書 舞 δ 100 80 60 40 20 0 Mupirocin(Pseudomonic acid A)        

咄蒼癒か脚

0.0250.05 0.1  0.2 0.39 0.78 t56 3冒12 6.25 12.5 25.O       MIC(mg/1) 図7 臨床分離MRSA 25株に対するMupirocin感  受性分布

(6)

50 40  30 忍 野2。 詮 Σ  10 0

‡含

十 C

50 40 蝋  30 蓮 霊 2・ 毘 Σ  10 0 90.78 910111291.12       分離月 3 4 5 6

‡昌

嗣一「一 K   90.7 8  9  10 11 129t1 2  3  4  5  6          分離月 図8 当院6病棟におけるMRSA検出件数推移    上段:減少例,下段:増加例 として,幾つかの機関で治験の開始を検討中だが, この処置により,MRSA院内感染が収束に向かっ た報告もあり,期待される.図8は当院の昨年7

月から今年6月までの6診療科でのMRSA発生

件数を示す.上段に示す3診療科は一過性の

MRSA蔓延があったものの,感染患者の隔離手

洗いの徹底,術後抗生物質の使用制限などを設定 し,MRSA感染患者の消失,減少をみ,検体から

のMRSAの分離がMRSA流行以前のレベルま

で回復した.このように的確な対応を取ることに より,MRSA流行を0にすることは難しし.・もの の,減少させることは可能である.下段は同じ時

期の別の3診療科のMRSA発生件数を示す.こ

こは逆にMRSA分離が増加している診療科で, たとえ,院内感染対策で一時的に広がりが抑えら れても,対応策,予防策がおろそかになると,必 ず再燃する.院内感染は一人が徹底できなかった 場合ですら決壊が起こり得る.そのためには十分 な院内感染予防,対応に関する教育の徹底が必要 である.院内感染が発生するしないに拘わらず, 予防策がきちんと取れているかどうか監督する責 任者を設置することが望ましい.我が国では欧米 のinfection control nurseのような院内感染に対 する専属のスタッフを設置している病院はなく, また,院内感染予防ないしその対応にかかる費用 を保険医療から捻出させることは認められていな い.感染症治療に使用する抗生物質もむしろ使用 規制が必要なのに,、保険医療上では使用すればす るほど利潤が上がるようになっており,耐性菌を 生みやすい環境と言ってよい.このため,院内感 染対策はその重要性を理解していても,徹底した 管理体制がとれない現状である.しかし,院内感 染は本来あってはならないものである.まず,医 療従事者のみならず,病院職員すべてがこの問題 を認識してできることからはじめなければならな い.          おわりに

 MRSA感染症も我が国で問題になり始めて10

年以一ヒが経過しようとしているが,その蔓延は一 向に収まる兆しを見せていない.最近ではマスコ ミもこの問題を取り上げ,厚生省も研究班を設置 し,取り組む姿勢を見せ始めた.化学療法剤の開 発が続く限り耐性菌との戦いは続くだろうが,こ れからはecologica1な立場から感染症治療に取 り組む態度が次世代に向けて必要となろう.          文  献  D紺野昌俊:MRSAの疫学. B.本邦の黄色ブドウ   球菌.rMRSA感染症のすべて」(紺野昌俊編),   pp34−65,医薬ジャーナル社,大阪(1991)  2)Jevons MP:‘℃elbenin” resistant sta−   phylococci. Br Med J 1:124−125,1961  3)生方公子:PBP−2’と誘導耐性.「MRSA感染症の   すべて」(紺野昌俊編),pp78−109,医薬ジャーナ   ル社,大阪(1991)  4)Utsui Y, Yokota T:Role of an altered   penicillin−binding protein in methicillin−and   cephem−resistant S彪助夕♂oωoαだα鰯6彿s. Anti:ni−   crob Agents Chemother 28:397−403,1985  5)Matsuhashi M, Song MD, Ishino F et al:   Molecular cloning of the gene of a penicillin−   binding Protein supPosed to cause high resis−   tance toβ一lactam antibiotics in S妙勿106066鰐   α宛紹%s.JBacteriol 167:975−980,1986  6)Berger・Bachi B: Increase in transduction   efヨciency of Tn551 mediated by the methicillin

(7)

resistance marker. J Bacteriol 154I533-535,

1983

7) di ta K iS zl<gAR5 l MRSA pt ve fi-Fl *iFo Sll %h>5. JOHNS 8:117-121, 1992

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phJ,lococcets aurezas and Gentamicin-resistant

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