原 著 〔東女医大誌 第61巻 第4号頁308∼312平成3年4月〕
東京女子医大NICUにおける未熟児網膜症の統計的観察
東京女子医科大学 眼科(主任:内田幸男教授). オオツカ トモコ マツモト ジユン サ サ キァツコ 大塚 朋子・松本 純・佐’々木淳子 ヤ ギ イクコ カメヤマ カズコ八木 郁子?亀山 和子
(受付 平成2年12月18日).A St覗dy of Retinopathy of Prematurity at Neonatal I血tensive Care Unit(NICU)of’
Tokyo Women,s Medical Co皿ege
Tomoko OTSUKA, Jun MATSUMOTO, Atsuko SASAKI, Ikuko YAGI
and Kazuko KAMEYAMA
Department of Ophthalmology(Director:Prof. Yukio UCHIDA) Tokyo Women’s Medical College
The prevalence of retinopathy of prematurity(ROP)was examined at the Neonatal Intensive Care Unit(NICU)of Tokyo Women’s Medical College.
Three hundred and fifty six cases of low birth weight(16ss than 2,500 g)infants underwent the
fundus examination at NICU in the period from October 1984 unt三1 December 1988. In total, the incidence of ROP was 30。9%, and in 63 infants less than 1,000 g birth weight, the incidence was 92.1%.
The incidence of severe ROP over stage III moderate was 8,1%in total of the low birth weight infants, and 33.3%in premature lnfants less than 1,000 g.
Acorrelation between ROP and birth weight, gestational age, and Apgar score was found. It was found that the premature infants with a low Apgar score and short gestasional age had a higher inc三dence of severe ROP.
Ninety two percent of the total cases attained practical visual acuity of over 40/1000f these
sixteen eyes in 8 cases were treated with cryotherapy.
緒 言 近年では周産期医学の進歩とともに未熟児網膜 症(ROP)の重症癩痕;期症例が減少してきている. しかし,出生体重1,500g未満の極小未熟児や 1,000g未満の超未熟児の生存率が高くなりROP の発症率は必ずしも減少してはいない. ROP発症に関しては様々な研究がなされ最も 関係するものとして出生体重,直読台数などの周 産期因子としての未熟性と,生後の環境因子とし て酸素の投与などがあげられている1)∼4). 私達は東京女子医大の未熟児室で管理された未 熟児の眼科管理を1978年より行い,ROPの発症状 況を報告してきた5)∼8).今回は母子総合医療セン
ターNICUが設立された1984年10月からのROP
の現状について特に超未熟児を中心として検討し .たので報告する. 対 象 1984年10月から1988年12月までに東京女子医大母子総合医療センターNICUに収容され管理さ
れた低出生体重児(在胎週数37週未満または出生 体重2,500g未満)鉤6例である.内訳は出生体重は 420gから2,490gで平均1,592gであり,在胎週数 は24週から40週平均32.2週であった.1論 50 0 []0期 【=15 n=85 n≡77 n=75 n壽104 醗]1 l疑 ! _ P 一 ノ 國皿 / 、、 A ! 二_ 一 、 一 ! ■曜皿 、、 、、 、、A 、、 、、 59年 60年 61年 62年 63年 図1 年度別網膜症発症割合 ■曜皿中期以上 50 40 症30 例 数20
m
0 5960616263 5960616263 5960616263 5960616263年 ∼28週 28∼32週 32∼36週 36週∼ 団0期 園1期 國2期 國3期 圓4期 図3 在胎現数と網膜症病期 40 30 症 例20 数 10 0 5960616263 5960616263 5960616263 5960616263年 ∼10009 1000∼15009 1500∼20009 2000∼2500g 口0期 團1期 閣2期 囲3初期闘3中期以上 図2 体重と網膜症病期 方 法 前報と同様にミドリンPとネオシネジンを用 いて十分な散瞳のうえで眼底検査を行った.バン ガーター未熟児用開場器と未熟児鉤を用いてボン ノスコープと+20Dのレンズにより周辺部まで眼 底を観察し,網膜症の分類は厚生省の新分類に 従った9).ROPの病期に左右差のあるものでは重 症の方の病期とした.治療はIII中期以後なお進行 するものにたいして網膜冷凍凝固術を行った. 結 果 1.未熟児網膜症の発症率母子総合医療センターNICUにおけるROPの
発症を年次別に示したのが図1である.5年間の 発症率は30.9%でありHI中期以上となったものは 8.1%であった.このうち混合型は3例(5.4%) であった.2.出生体重とROP
出生体重とROPのstageとの関係を図2に示
す.超未熟児では92.1%にROPが発症しそのう 16 14 12 症10 例 8数6
4
2
0
RDS 1 RDS 2 RDS RDS 3 園0期 國1期 闘2期 Z3初期 図4 RDSと網膜症病期 RDS 4 團3中期以上 ちの33.3%がIII中期へと進行した.極小未熟児で はROPは44.0%の発症率であったがIII中期へと 進行したものはそのうちの8.3%とかなり少なく なっている.3.在胎週数とROP
在胎週数とROPとの関係を図3に示した.在
胎週数28週未満では90.3%と発症率は高く更にm 中期へと進行したものは約38.5%であった.28週 以上,32週未満の発症率は52.7%であったがIII中 期以上へと進行したものは8.8%と低くなってい る.4.RDS(新生児呼吸窮迫症候群)とROP
RDSを生じた54例についてROPとの関係を
みたのが図4であるが,両者の間に相関は認めら れなかった.5.Apgar値とROP
出生時の状態すなわち出生時仮死を判定するApgar指数1分値とROPとの関係をみたのが図
5である.0−2ではROPの発症は63.9%,3
−5は62.1%,6−10は18.1%であり,Apgar値 5以下にROPの発症が多い.更にHI中期以上で は0−2が25.0回目最も多く,他の約3倍であっ た. 250 200 症150 例 数100 50 0 AP O−2 AP 3−5 AP 6一 不明 Apgar指数(1分) ZO期 国1期 團2期 囮3初期圓3中期以上 図5 Apgar指数と網膜症6.超未熟児とROP
超未熟児について年次別にROPの発症を調べ たのが表1である.超未熟児は年々増加している がROPの発症率は1988年には75.0%でやや減少 している,出生体重,在胎回数とROPの関係を図2,3に示したが体重が少なく週数の短い児に
ROPの発症が多い傾向が見られた.1987年までは 超未熟児の100%,全例にROPが発症していた. またIII中期以上にまで進行する症例も年々減少し てきた. 7.治療 治療例は表2に示すように8例16眼であった. 全例心拍数,呼吸等が不安定であり保育器から連 れ出すことが不可能であったためすべて網膜冷凍 凝固術を行った.それにもかかわらず4例5眼は 表1 超未熟児における年度別網膜症発症数 0 1 II III初 III中以上 計(%) 1984年 P985 P986 P987 P988 00003 00002 0 @1 @3 @4 P0 03664 45741 4(6.3) X(14.3) P6(25.4) P4(22.2) Q0(31.7) 計 3 2 18 19 21 63(100) 表2 治療例 症例 生年月日 工数 体重i9) 網膜症 i活動期) 網膜症 i癩痕期) 右 左 右 左 1 s60。4,13 28.3 L590V
IVV
II 2 s60,12.8 24.6 526V
V
IV IV 3 s61.1.6 26.2 671 m中 III中 1 1 4 s61.3.27 28.4 680 III中 III中 II H 5 s61.1.22 26.2 750 III中 In中 1 1 6 s61.8.6 27.5 511 IV 正V II II 7 s62.11.20 25.2 800 m中 III中 1 1 8 s63。3.28 25.1 775 IV IVV
IV 表3 疲痕期と視力 視 力 計 1.0以上 0.8−1.0 0.6−0.8 0.4−0.6 0.1−0.4 SL 疲痕期 0度 29(7) 13(1) 15(2) 13(3) 2(2) 0 72 1度 5(3) 0 0 2(1) 1(1) 0 8 1度CRC 0 0 0 0 0 0 0 2度 0 0 1 1 0 0 2 2度CRC 0 0 ”1 ”1(1) ”1(1) 0 3 4度・ 0 0 0 0 0 ”2(2) 2 5度 0 0 0 0 0 ”1 1 計 34 13 17 17 4 3 88 (%) (38.6) (14.8) (19.3) (19.3) (4.5) (3.4) (100) 単位:眼数,”:治療例,():超未熟児網膜剥離を生じた. 8.視力 視力測定の可能な44例88眼についての癩痕と視 力の関係を示すのが表3である.実際の生活に必 要な視力である0.4以上が92.0%であった. 考 察 未熟児網膜症は1960年代に発症が多く,その治 療法をめぐって問題となっていたが,未熟児への 酸素の投与を下げることによってその発症は減少 した.しかし酸素の投与量をさげることにより中 枢神経への障害が問題となってきた.また未熟児 の管理技術の進歩により極小未熟児や超未熟児の 生存率が増加してきたため,再びROPの発症が 増加した.同時にROPの原因が酸素のみではな く,動脈内二酸化炭素濃度分圧,在船留数,出生 体重をはじめとして,RDS,無呼吸発作の頻発等 いわゆる未熟性が大きく関係することがわかって きた10).私達もこれらの諸条件とROPの関係に ついて前日で述べてきた5)8).これと比較すると全 未熟児に対する極小未熟児の割合は23.6%と大差 ないが超未熟児は増加している.しかしROPの 全体の発症率は大きな増加はみられず,むしろ治 療を行った症例は減少している. ROPは本来自然治癒傾向の強い疾患であるが, 治療例が少ないのは重症のROPが減少したこと ぽかりではなく治療の要否をきめる診断技術が向 上したことも否定できない. ROPの発症率は30.9%と前記と大きな差はな く,文献上にみられる発症率と比べても特に多く はなかった11).しかし出生体重1,000g未満の超未 熟児に関して検討すると厚生省分類で92.1% ROPの発症をみたが,このうちIII中期以上の重症 となったものが33.3%であった.超未熟児のROP 発症に関する報告12)はいずれも高い発症率となっ ている.しかし1,500g未満の極小未熟児では, ROPの発症率は44.0%と全体に比して高率であ るにもかかわらずIII中期以上へ進行したものは 8.3%と減少している. 在胎選挙との関係においても28週未満の未熟児 では発症率も90.3%と高く,更にIII中期まで進行 したものも約半数の38.5%であったが,28週以上 ではIII中期以上の重症例は3.0%と減少している. これは未熟児の環境因子の作用よりも未熟性が より大きくROPの発症に関係することのひとつ のあらわれと考えられる.
出生時の児の状態をあらわすApgar指数1分
値が5点以下のものにROPの発症が多く(p〈
0.05),更にIH中期以上になった症例はApgar指 数2点以下に多かった.趙らの報告lo)でも同様の ことがのべられている.このことからも,周産期 末期から出生時にかけての胎児の状態がROPの 発症に何らかの関係をもつことが疑われる. 超未熟児のみについて網膜症の発症をみると,表1に示したようにNICUの開設された1984年
には全例にROPが発症しそれは全てIII中期以上 の重症となったが年々重症のROPは減少してお り,1988年には1期以下が4分の1を占め,重症 例はわずか5%となっている.これは未熟児の呼 吸管理技術の向上と新しいレスピレーター13)14)の 開発により環境因子が改善されてきているためと 思:われる. 次いでROPを発症した超未熟児についてその 未熟性を示すものとして何がROPの進行,重症化に関係するかをみた.出生体重は400gから
1,000gまで一定の関係はなかったが在園週数で は佐藤ら3)は25週以下に発症が多いと述べている が,私達は28週未満で重症化の傾向を示したが統 計的には有意差を認めなかった. 治療例は8例16眼であったがそのうちの7例は 超未熟児であった.これは未熟児全体の2.2%で ROP発症例110例中の7.3%であるが超未熟児に 関しては63例中7例(11.0%)と増えている.かつ ては治療の主体はxenon光凝固術であったが超 未熟児が多くなった現在では全例に冷凍凝固術を 行っている.この理由として超未熟児は保育器内 での治療が必要であったことがあげられる.保育 器外で治療可能な:ものではargon laserで治療で きるよ.うな装置が考えられているが15),私達の症例はすべてNICU内で保育器内の治療であるた
め冷凍凝固術であった.全身状態が非常に不安定 で,1眼を数回に分けて施行しなけれぽならない 症例もあった.全身状態の良好な症例ではm中期まで進行しても,それ以上増殖せずに進行がおさ まりやがて消退するものも多かった. 治療の時期については,厚生省の治療の基準で III中期でなお進行するものとあるが,この時期の 決定が当初は難しく,早期に治療を行った例が多 かった.しかし最近ではHI中;期で増殖が始まって も,頻回に検査をしていると2∼3週間進行の停 止した状態にとどまり,やがて消退するものが多 く,大部分は疲痕1度あるいは搬痕を残さずに治 癒した.前報7)より今回の方が治療例が少ないの は治療する時期を決定するに際してこのような症 例が比較的多かったためと考えられる.
ROPの治療としてビタミンE等の投与を行う
という報告16)17)もあるが私達は行ったことはな い. 冷凍凝固術を行った症例に関しては重症の視力 障害を残したのは2例3眼であった.過去の治療 症例の視力予後とほとんど同様であった.しかし 成長に伴いこれらの癩痕がどのような経過をとる か今後の経過観察が必要である. 結 論東京女子医大母子総合医療センターNICUで
管理された低出生体重児356例の未熟児網膜症の 発症状況につき検討した. 1.未熟児網膜症の発症は厚生省分類で全体の 30.9%であり,そのうちでIII中期以上になったも のが8.1%であった.超未熟児では92.1%に発症し III中期以上になったものが33.3%であった. 2.在胎計数28週未満では90.3%に発症しその うちでIII中期以上に進行したものは38.5%であっ た.3.未熟児網膜症は出生時仮死をあらわす
Apgar 1分値の低い例に発症率,重馴化する率と も高かった(p<0.05).すなわちApgar 5点以下 では62.7%に網膜症が発症し,2点以下ではIII中 期以上に進行する例が多かった. 4.治療を行った8例16眼であり全体の視力予 後は92%が0.4以上であった. 以上より未熟児網膜症の発症は出生後の環境因 子の作用も関係するが,周産期因子である未熟性 が主な要因と考えられた. ご協力いただきましたNICUの諸先生方,ご指導, ご校閲いただきました内田幸男教授に深謝致します. 文 献 1)永田 誠,寺田博夫,竹内 篤ほか:多施設によ る未熟児網膜症の研究.臼眼会誌 92:646−657, 1988 2)小笠原博宣,吉田晃敏:未熟児網膜症の発症因子 に関する研究.眼紀 10:1336−1339,1989 3)佐藤健二,登坂良雄,川野修司ほか:未熟児網膜 症の国際分類による検討.臨眼43:759−762, 1989 4)稲用和也,竹中康雄:未熟児網膜症の統計学謎解 析.臨眼 43:763−767,1989 5)亀山和子,宮坂由美子,山西律子:東京女子医大 における未熟児網膜症の経験.眼点74:1142 −1146, 1980 6)大井いく子,風見宣生,亀山和子ほか:東京女子 医大における未熟児網膜症の概況.眼臨 77:23 −27, 1983 7)亀山和子,大井いく子,木戸口裕ほか:東京女子 医大における未熟児網膜症の追跡.眼臨 80:622 −625, 1986 8)鈴木真理,大井いく子,木戸ロ裕ほか:東京女子 医大における未熟児網膜症眼臨80:2024−2028, 1986 9馬嶋昭生:未熱児網膜の分類.あたらしい眼科 2:515−521, 1985 10)趙容子,斎藤喜博,大本達也:未熟児網膜症と 周産期因子の検討.眼紀 40:1933−1938,1989 11)外園千恵,柄谷里実,青木繁明ほか:未熟児網膜 症の統計的観察.あたらしい眼科 5:1089−1095, 1988 12)大島由美,山之内宏一:未熟児網膜症の検討.眼 系己 41 :142−146, 1990 13)宮坂勝之:新生児小児でのパルスオキシメーター の臨床応用.小児科臨床 41:685−690,1989 14)河野寿夫:高頻度人工換気療法,小児科Mook 44:217−227, 1986 15)馬嶋昭生:未熟児網膜症に対する仰臥位レーザー 光凝固.臨眼 41:142−146,198716)Schaffer DB, Johnson I・, Quinn GE et al:
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