白山人類学研究会
雑誌名
白山人類学
巻
24
ページ
157-159
発行年
2021-03
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00012386/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja157 白山人類学 24 号 2021 年 3 月
白山人類学研究会
白山人類学研究会は,東洋大学社会学部社会文化システム学科の教員を世話人として組織 されている。定例研究会は,原則として毎月第3 または第 4 月曜日,東洋大学 8 号館で開催 される。また,2007 年度からは年次フォーラムを開催している。8 ~ 9 月は夏休み,2 ~ 3 月は春休みとし,研究会は開催しない。研究会の案内は電子メールを通じておこなっている。 連絡先:研究会事務局[email protected]白山人類学研究会
2020 年度の活動
□ 2020 年 6 月 29 日第 1 回研究会 演題: 憑依の表れ/現れにおける複層性について――モロッコでの語りと儀礼実践を事例と して 発表者:山口 匠(東京大学大学院総合文化研究科博士後期課程) 要旨:本発表は,現代モロッコにおける憑依に関連する諸事象を事例に,人々の語りから憑 依の現象をめぐる両義性や曖昧性を詳かにすること,そして,儀礼の場において現出する多 的状況を身体性の観点から検討することを目的とした。イスラーム圏ではジンと呼ばれる妖 霊の存在が広く知られており,アラブの国々の中でもモロッコはジンにまつわる様々な実践 が特に盛んであるとされている。とりわけ,明らかな西アフリカの聖霊信仰からの影響が認 められる憑依儀礼は,保護領期の昔から多くの外国人研究者の注目を集めてきた。国内では, 楽器の演奏と激しいトランスを伴うこの種の儀礼は様々な理由から批判を受けがちだが,そ の一方で近年は芸能化が進み,モロッコの文化的伝統のひとつとして再評価されるようになっ てもいる。本発表ではまず,人々の語りからジンに関する信念や実践にも微妙なニュアンス やグラデーションがあることを確認した。そして,今日的な儀礼のあり方を,聖俗二元論な どのような宗教(学)的概念にはよらず,鳴らされる音に対して異なる身体が共在する状況 として分析することを目指した。 □ 2020 年 10 月 12 日第 2 回研究会 演題: 外から埋め込まれた「祭り」の実践とそこからはみ出た実践――地域国際芸術祭に関 する観光人類学的研究 発表者:山田 香織(東洋大学・講師) 要旨:2010 年頃より,3 年ないし 2 年に一度開催されるアートフェスティバルが日本国内の 過疎高齢化のすすむ中山間地域や離島で開催されている。これは,一流アーティストが手が158 白山人類学研究会2020 年度の活動 けるサイト・スぺシフィックなアート作品を社会から「忘れ去られた」場所に設置し,作品 鑑賞の機会を創出することで,ヒト・モノ・カネの移動を生じさせ,地域振興を促すことを 意図した行政主導の事業である。主催者は経済効果や集客数,開催地にみられる新たな動き を根拠にこれに肯定的評価を下している。この事業に対しては学界・アート界からも熱いま なざしが注がれていて,多角的な議論や評価が展開されてきた。しかし,議論がしつくされ たわけではない。たとえば会場となる地域の立場からこの事象にアプローチする議論におい ては,複数の会場・地域からなるひとつのアートフェスティバル(地方国際芸術祭)が一枚 岩的に論じられることが少なくなかった。とりわけ,複数の会場のなかでも周縁的位置づけ にある場所は等閑視されてきた。あるいは,芸術祭の運営からはみだすような実践はほとん ど注目されることがなかった。こうした点をふまえつつ本発表では,四国・香川県で開催さ れている瀬戸内国際芸術祭の会場であるひとつの離島を例にとり,芸術祭の展開とこれにま つわるはみ出しながらおこなわれる実践に迫ることにした。そして真正性の議論を補助線と しながら,この「祭り」にたちあらわれる複層的な実践のありようについて考えた。 □ 2020 年 11 月 16 日第 3 回研究会
演題:From Pain to Activism: The Case of Victims of Coerced Sterilizations in Japan 発表者:Astghik Hovhannisyan(Russian-Armenian University/ Ritsumeikan University) 要 旨:Over 16,500 people were forcibly sterilized under the now-defunct Eugenic Sterilization Law (1948-1996) of Japan. However, in contrast to the somewhat similar case of Hansen’s disease survivors, this issue only gained national attention in recent years, and legal attempts to demand government accountability began as late as in 2018. Many of the victims, who were silent about their experience for decades, found themselves in the position of plaintiffs, as well as active agents of the redress movement. This talk, based on literature survey, interviews with sterilization victims, as well as records of court proceedings, aims to look into reasons why the issue of coerced sterilizations was practically ignored for such a prolonged period of time, as well as to demonstrate how the sterilized persons turned from silent victims to “accidental activists”.
□ 2020 年 12 月 21 日第 4 回研究会
演題:アートにおける関係性,作家としての民族誌家 発表者:鈴木 伸二(近畿大学総合社会学部・准教授)
要旨:報告では発表者自身が作家として参加した「遺され村の美術展」を事例として,アー トと人類学の接触領域でどのようなことが生じるのかについて考察した。この接触領域
159 白山人類学 24 号 2021 年 3 月 における生成を考察するために,本報告では「関係性」と「作家としての民族誌家(the ethnographer as artist)」というキーワードを設けた。人類学においては,アルフレッド・ ジェル以降,人工物のエイジェンシーを考察することにより人間以外の存在を含めた関係性 が議論されるようになった。一方,芸術分野でも関係性が議論されるようになっている。そ の嚆矢となったのが,ニコラス・ブリオーが1998 年に発表した「関係性の美学 Esthetique relationnelle」だった。関係性の美学は作家と観衆からなる恊働そのものが芸術作品として 見なされる理論的な土台となっている。ジェルとブリオーの「関係性」については,すでに 人類学で両者の類似性や相違に関する論考がある。本報告では,これらを踏まえた上で,発 表者自身も含め美術展に参加した作家に生じた変化を関係性の視点から考察した。また,最 近ではインゴルドの「アートとともにある人類学」が人類学の実践として注目されるように なった。これに対して芸術分野においては1990 年代以降,ハル・フォスターのようにアーティ ストを民族誌家になぞらえる流れがある(the artist as ethnographer)。現在はこの二つの 流れが混ざりあい,人類学とアートの接触領域が深化しつつあると言えるだろう。だが,映 像人類学を除いて,人類学者が作家として作品を制作するような状況にはなっていない。アー ティストと人類学者は恊働によって一つの作品を作ることはあっても,制作過程における役 割分担に変化は生じていないのである。これに対して本報告では「作家としての民族誌家」 の可能性について考察した。 □ 2021 年 1 月 25 日第 5 回研究会 演題:スポーツヒーローとしてのトンガ人ラグビー選手 発表者:北原 卓也(早稲田大学人間総合研究センター・招聘研究員) 要旨:南太平洋島嶼国のひとつであるトンガ王国ではラグビーが非常に盛んであり,そのナ ショナルチームは国内だけでなく世界各国に居住するトンガ人から親しまれている。2019 年 のラグビーワールドカップは日本国内でも大きな注目を集めたが,こうした大きな試合の際 には熱狂的な応援を受け,トンガ国内はもとより国外のトンガ人コミュニティも赤に染まる。 チームカラーの赤色のものを身につけたり飾ったりするからだ。選手たちは国際舞台で活躍 する国民的ヒーローである一方,ファンにとって自身が直接,少なくとも一人,二人を介せ ば個人的なコンタクトが取れる範囲の近い繋がりがある存在でもある。本報告では,こうし た熱狂的な人気を集める一方で,フォロワーにとって血縁や地縁,学縁などでつながる身近 な存在でもあるトンガのナショナルチームの選手が,トンガ社会においてどのような象徴的 または具体的な役割を担っているのかについて,調査の中間報告として現時点で明らかになっ ている点を提示した。