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時系列歩行データに基づく環境知能型すり足検知システム : 転倒検知から転倒察知へ(<特集>人の認知を拡張し健康を促進する環境知能)

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Academic year: 2021

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1.は じ め に

超高齢化社会に突入した我が国が直面する最も重要な 問題の一つとして,独り暮らしの高齢者の増加があげら れる.同居人がいる場合の高齢者や介護施設に入居して いる高齢者と比べ,独り暮らしの高齢者は,在宅にて人 目に触れることが少なく,親族でさえも家の中の状況を うかがい知ることはできない場合が多い.そのため,発 作や急病,予期せぬ事故によるケガは,寝たきりの原因 になるばかりでなく,最悪の場合,孤独死を招き兼ねな い.このような背景から,独り暮らしの高齢者の安全と 健康を見守る仕組みが急務となっている. それでは,日常生活において高齢者の安全と健康を 脅かす一番危険なものは何であろうか.東京消防庁の報 告 [東京消防庁 14] によれば,高齢者の緊急搬送におい て全体の 70%を占めるのが「転倒」によるケガであり, その半数は自宅で発生している.この事実から,我々は “すり足歩行”(以下,すり足と呼ぶ)を転倒事故の主た る原因として着目する.なぜなら,すり足になると足の もつれや何かにけつまずき,転倒する可能性が極めて高 くなるからである.ここでいうすり足とは,老化ととも に脚の筋肉が衰えた結果,足を地面から離すことなく地 面を擦るようにして歩行することを指し,多くの高齢者 はこのようなすり足状態にあることを自覚できない.し かも,すり足の悪化は徐々に進むため,転倒事故の危険 が迫っていることを高齢者だけでなく,一緒に住んでい る家族でさえ認識することが困難になっている. このような問題に対処するために,各種センサを用 いた自動転倒検知手法が近年盛んに探究されている. 例えば,床に圧電センサなどを内蔵するものとしては [Alwan 06, Savio 07]などの研究があげられる.また, 加速度センサやジャイロスコープなどを内蔵したデバイ スをユーザが身に着けるものとしては [Huynh 15] など の研究があり,Microsoft 社製 Kinect を用いた方法とし ては [Rantz 15] などが提案している.さらに,転倒検知 システムが構築・販売されている例もある.例えば,フィ リップス・レスピロにクス合同会社はユーザである高齢 者に対して加速度センサ・高度・気圧センサを内蔵した ペンダントをもたせることで,転倒自動検知を含めた見 守りシステムを考案・販売している [PHILIPS]. しかし,高齢者が転倒すると,たいていの場合,骨折 するか足を痛め,車椅子生活か寝たきり状態になり,再 び歩くことはほぼ皆無となる.つまり,転倒検知は事後 対処しかできず,真の意味で高齢者の安全と健康を達成 できていないのである.そのため,「転倒検知」ではなく, 「転倒察知」が重要であり,そのような技術ができれば, バリアフリーにする場所を増やすことや,手すりの数を 増やすなど事前にいろいろな対応が取れるようになる. このような転倒察知のための見守りシステムを構築する には,(1)すり足を検知し,ユーザに注意を促すこと,(2) ユーザの自然な状態を観察するために,システムは環境 に同化していること,すなわち,センサは非接触である ことが要となる.このような背景から,本論文では一般 的な圧電素子を用いた小型パネルセンサによるすり足検 知システムを構築し,その有効性を被験者実験によって

時系列歩行データに基づく環境知能型

すり足検知システム

─転倒検知から転倒察知へ─

Ambient Intelligence Oriented Sliding Feet Detection System

Using Time Series Walking Data

 ─ From Fall Detection to Fall Prediction ─

髙玉 圭樹

電気通信大学大学院情報理工学研究科総合情報学専攻

Keiki Takadama Department of Informatics, Graduate School of Informatics and Engineering, The University of Electro-Communications. [email protected], http://www.cas.hc.uec.ac.jp

小峯 嵩裕

(同   上)

Takahiro Komine [email protected]

Keywords:

ambient intelligence, sliding feet detection, time series data, fall prediction, mimamori function. 「人の認知を拡張し健康を促進する環境知能」

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検証することを目的とする. 本論文の構成は以下のとおりである.以下,2 章では 関連研究をまとめる.3 章では我々の提案するすり足検 知システムを述べる.4 章では実験方法と結果を示し, 5章では環境知能の増強の可能性について議論し,最終 章の 6 章で本論文をまとめる.

2.「 歩 行 」を 測 る

圧力センサを用いた歩行の計測,定量化そして解析は 多くの分野でさまざまな試みがなされてきた.例えば, 大和らはリハビリテーションをはじめとする医療現場で の利用を想定した比較的大きなサイズのセンサを用いる 手法を提案した [大和 01].また,数藤らは同じく圧力 センサから得られた足圧画像を解析することで,歩行パ ターンを性別と年齢によって特徴付けることを可能にし た [数藤 96].これらの研究は歩行に関する多くの知見 をもたらしたが,研究の興味はあくまで一般的な歩行で あり,高齢者の特異な歩行(すり足など)を検知するこ とが目的ではない.さらにいえば,それらの研究では比 較的大きなサイズ(具体的には,1 921×430 mm)の センサを用いている.長い廊下や縁側を有する地方に多 く見られる住宅に設置することはできるだろうが,とり わけ都心部の住宅事情,特にアパートやマンションを考 慮すると長い帯状のセンサの導入は困難となる. また,内藤らは臨床的背景に基づく歩行を定量化する ために,脳卒中による半身不随患者の転倒防止に向けて, 小型で簡易かつ低コストのセンサを開発し,靴底に内蔵 した [内藤 14].モチベーションとしては我々と近いが, センサは靴底への内蔵を前提としていることから,素足 や靴下をはいた状態でのすり足は検知できない.

3.環境知能型すり足検知システム

3・1 技術的課題とその解決 1章で述べたように,我々は高齢者の特異な歩行であ るすり足検知を対象とし,かつ,ユーザの自然な状態を 観察するためにセンサそのものを認識させない(環境に 同化した)システムを目指している.さらに,日常的な 生活を考え,設置場所が限られた都心部の住宅事情をも 考慮したすり足検知システムに展開する.このようなシ ステムを構築するために,(1)歩行とすり足の識別,(2) 歩行速度などの個人差によらないすり足検知,(3)設置 位置や場所を限定しないすり足検知センサという技術的 な課題を解決することが重要である.以下,それらにつ いて説明する. (1)歩行とすり足の識別 歩行とすり足の状態を把握するために,圧電素子を埋 め込んだパネル複数枚を床の上に敷き,その上での歩行 やすり足を考える(具体的には,パネルが(足から受けた) 圧力に比例した電圧が出力されるため,その電圧の変化 を見る).まず,通常の歩行の一歩に着目すると,かか とが地面に着き,続いて足の裏が着いた後,足の指で地 面を蹴るようにして足は地面から離れる.これら一連の 動作はごく短い時間で行われる.この一歩によって生み 出される圧力に比例した電圧の波形はおおよそ図 1(a) のようになる(縦軸は電圧,横軸は時間を表す).つまり, 一般的な歩行の一歩が生み出す波形は,かかとが地面に 接したときと地面を蹴るときに大きな二つの山(二つは 逆向き)として現れる. 一方,すり足の場合を考えると,すり足の傾向にある 高齢者は脚の筋力の低下から,片脚で姿勢を維持するこ とができず,片方の足が十分に床から離れないまま足を 前方に滑らせようとする.このとき,足と地面との摩擦 によって細かな振動が,さらに身体から生み出される微 動が足を通して地面に伝わることで,細かな波が多数合 成されたような振動を生み出すことになる.すなわち, すり足の一歩によって生み出される波形は,おおよそ図 1(b)のようになる. 本稿ではこれらの違いを識別するために,一歩が生み 出す足の圧力の波の形状の違いからすり足を検知するこ とを考える.具体的には,フーリエ変換(実際は高速フー 図 1 通常の歩行による波形(a)とすり足による波形(b) (a) 通常歩行の一歩による電圧の時間変化 (b) すり足の一歩による電圧の時間変化 図 2 歩行とすり足識別 周波数成分 標準化されたパワースペクトル

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リエ変換(FFT)[Cooley 65])による周波数解析を用い て,その波を構成する幾多の波の比率を特徴量として扱 う.図 2 にその識別方法のイメージ(縦軸は標準化され たパワースペクトル,横軸は周波数成分)を示す.通常 歩行は赤色で,模擬すり足歩行は青色で示している.こ の図で主張したいことは,図 1(b)に示すように,通 常の歩行に比べてすり足のほうが,さまざまな周期の波 から構成されていることから,ある周波数成分の領域で はすり足状態のパワースペクトル(厳密には,標準化さ れたパワースペクトル)は,通常歩行に比べて高くなる と予想されることである.特に,その傾向が顕著になる 範囲(図 2 では第 7 ~ 13 周波数成分の範囲)を特定す れば,歩行とすり足の識別可能になる. (2)歩行速度の個人差によらないすり足検知 歩行の一歩に着目する方法で注意しなければならない のは,歩行速度などの個人差である.この問題に対処す るために,一歩分の波を切り出し,切り出した波の長さ を標準化する.具体的には,連続する N 個のデータを 取得し,データの値が変化し始めて落ち着くまでの間を 一つの波として切り出す(具体的には,連続する N 個 のデータの分散値を算出し,しきい値を超える範囲を一 つの波として切り出す).その例を図 3(横軸は時間(× 0.1 s),縦軸は電圧)を示す.ここで,センサが出力し た電圧を実線で示すと,破線で示すフラグが値 1 をとる 範囲(しきい値を超えた範囲を意味する)でデータを切 り出す. (3)設置位置や場所を限定しないすり足検知センサ 大和らの研究で用いられたような縦に長いカーペット 状のセンサ(図 4(a))[大和 01] は,病院や介護施設な ど長い廊下を有する施設には適しているが,一般的な住 居,特に都心部のアパートやマンションを考慮した場合, 長いセンサを敷設するだけのスペースの確保が問題とな る.そこで,図 4(b)に示すような複数の小さなセン サパネルを敷き詰めることを考える.センサパネルをパ ズルのように組み合わせることで,家具などの障害物を 避けつつ,また住居に対して大規模な工事をせずとも敷 設することができる.提案手法で重要なことは,(1)歩 行の一歩を計測できればよいので,大人の平均的な一歩 をカバーする 30 cm 程度でよいこと,(2)30 cm 四方の センサであれば,連続して一列に配置されている必要は なく,図 3(b)に示すような複雑な配置であっても支 障はないことである. 3・2 提案システムの概要 図 5 に提案システムの概要とすり足検知アルゴリズム の一連の流れを示す.システムは複数のパネルからなっ ており,歩行者がすべてのセンサパネルを歩き終えた直 後,図 5 に示す七つの処理を順次実行する. ● 手順 1:各センサパネルが観測した歩行者の一歩分 の電圧の波形を切り出す.例えば,システムが 6 枚 のセンサパネルから構成されている場合,6 歩分の 波を得ることになる. ● 手順 2:歩行者の歩行速度による個人差に対応する ために,手順 1 で切り取られたおのおのの波の横幅 (時間の長さ)を標準化する.具体的には,FFT に 図 3 波の切出し 図 5 提案システムの概要と流れ 図 4 すり足検知センサ (a)従来の大きなセンサ (b)提案センサ

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よる周波数解析に必要なデータ長に調整する(例え ば,図 3 では 17 個(8 × 0.1 ~ 24 × 0.1 s)のデー タを 32 個に引き延ばす). ● 手順 3:FFT を用いてすべて(ここでは 6 歩分)の 波の周波数を解析し,おのおのの波のパワースペク トルを算出する. ● 手順 4:波を構成する幾多の波の分布比率を歩行の 特徴量として扱うために,手順 3 で得られたおのお ののパワースペクトルを標準化する. ● 手順 5:標準化されたスペクトル(ここでは 6 歩分 の波のスペクトル)を周波数成分ごとに平均する. 図 2 に一例を示す. ● 手順 6:歩行者の特徴量を,同様の方法で事前に算 出された正常な歩行の特徴量と比較する. ● 手順 7:それら二つの特徴量に差異が認められた場 合,歩行者が正常な歩行をしていない(すなわち, すり足状態である)と判断し,歩行者に注意を促す.

4.被 験 者 実 験

4・1 ケ ー ス 提案手法の有効性を検証するために,(1)すり足傾向 にある被験者(完全なすり足状態に至っていない)の歩 行に対してすり足状態であることを検知可能か実証する とともに,(2)さまざまなセンサパネル配置状況のもと で,同様の検知が達成できるかを実証する.これらの目 的のため,次の 3 通りでセンサパネルを配置する. ● ケース 1:図 6(a)に示すように,9 枚のセンサパ ネルを一列に並べる. ● ケース 2:図 6(b)に示すように,はじめ 5 枚はセ ンサパネルを,残り 4 枚はダミーのパネルを一列に 並べる.ただし,センサパネルとダミーパネルは色 が異なるが,被験者はどちらがセンサパネルかを知 らない. ● ケース 3:図 6(c)に示すように,センサパネルと ダミーパネルを交互に一列に並べる.ただし,セン サパネルとダミーパネルは色が異なるが,被験者は どちらがセンサパネルかを知らない. なお,被験者は A,B および C の 3 名で,被験者 A は男性で体重は約 65 kg,被験者 B は女性で体重は約 50 kg,被験者 C は 80 代女性で体重は約 40 kg である. 被験者 A および B には歩行障害などはないが,被験者 Cはすり足の傾向が見られる.また,連ねたセンサパネ ルからはみ出ることなく,また途中で飛び跳ねる,立ち 止まることなしに歩き切るデータを用いて評価する. 4・2 セ ン サ パ ネ ル 各センサパネルはポリウレタン製で,寸法は 300 mm 四方,厚さ約 7 mm である.また五つの圧電素子を内蔵 しており 0.1 秒ごとに圧力に比例した電圧を出力する. 図 7 にセンサパネルの構成を示し,図 8 に被験者実験で 使用した実物を示す. 4・3 評 価 基 準 評価基準としては,各ケースともにシステムのすり足 判定成功割合を評価する.具体的には,被験者 C がセン サパネルを歩き終えた時点で,被験者 C の歩行特徴量を 算出し,同様の方法で事前に算出された被験者 A および Bの歩行特徴量と比較し,すり足判定成功割合を測る. この評価を実施するために,事前に被験者 A と B の 合計 90 歩分のデータを図 5 に示した手順 1 ~ 5 と同じ 処理を施し,被験者 A と B の歩行特徴量を算出した. さらに,被験者 A と B がすり足を模擬した歩行から, 同様に特徴量を計算し,両者の差異が一番大きい周波数 成分(分散を考慮しても両者の差が顕著になる周波数成 分)を求めたところ,第 9 ~ 13 周波数成分(図 2 では 図 6 センサパネル配置 図 8 被験者実験の様子(写真中央がセンサパネル) 図 7 センサパネルの構成

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第 7 ~ 13 周波数成分)となった.この事前実験から, すり足の検知基準を次のように設定する. ● 歩行特徴量を表すパワースペクトルのうち,第 9 ~ 13 周波数成分のみに注目する. ● 上記の周波数成分において,通常歩行のパワースペ クトルと比較して大きい周波数成分が一つでもあれ ば,すり足の傾向があると判断する. 4・4 実験結果と考察 図 9 に各ケースにおける正答割合を示す.ケース 1 と 2では提案システムは全 5 試行をすり足歩行と判定して いるのに対して,ケース 3 では 1 試行のみすり足歩行で はないと判定を下している. 次に,すり足の判定基準である歩行特徴量のうち第 9 ~ 13 周波数成分を分析する.ここでは代表してケース 一ついて着目した結果を図 10 に示す.通常歩行(被験 者 A と B)の標準化されたパワースペクトルは赤色(左), すり足状態(被験者 C)のものは青色(右)で示している. 4・3 節で説明したように,通常歩行のパワースペクトル よりも高い周波数成分(赤い棒グラフより大きい青い棒 グラフ)が,一つでも存在するとき,システムはすり足 と判定するが,この図からわかるようにどの周波数成分 も高い値を示しており,顕著にすり足を検出できている ことがわかる. しかし,ケース 3 の 1 試行目のみ,提案システムは被 験者 C の歩行をすり足とは判定しなかった.これは誤判 定なのだろうか.提案システムが下した判定が適切であ るかを判断するために,図 10 と同様の分析をしたとこ ろ,第 10 周波数成分を除いて図 10 に示す結果と「逆」 の傾向を示した.この結果から,ケース 3 のその試行は 通常歩行として正しく判断していることがわかる.そこ で,定性的な検証として実験時に撮影された動画を確認 したところ,被験者 C が両足を地面から離して歩く様子 が見られたため,提案システムの判定は誤判定でなく, 適切なものであったと結論付けられる.特に,被験者 C は重度なすり足ではなく,軽度であるため(すり足の傾 向が見られるほうであるため),5 試行中 1 回は通常歩 行のような歩き方になったと推察される.

5.環境知能の増強の可能性

本章では,提案システムを本特集号のテーマである「ヘ ルスケアに関する環境知能」の観点から議論する. 5・1 すり足の悪化度合の推定 提案システムでは,歩行かすり足かの 2 値判定に焦点 を当てているが,その間の状態,すなわち,すり足の悪 化度合いを推定することにも展開できる.例えば,4・4 節の実験結果のうちケース 3 では,5 試行中 1 試行のみ 歩行と判定しているが,前章で議論したように被験者は 完全なすり足状態ではない.つまり,すり足の状態が悪 くなりつつあると推定できる(例えば,すり足の状態は 80%(= 4/5(5 試行中 4 試行すり足判定のため))であ ると示唆できる).また,提案システムでは,図 10 の周 波数成分が一つでも通常歩行のパワースペクトルよりも 大きければすり足の傾向があると判断しているが,この 数が増えればすり足状態が悪化していると捉えることも 可能である.このように歩行かすり足かの 2 値判定だけ でなく,すり足悪化度合いを推定することで,環境知能 の向上の可能性が広がる. 5・2 環境知能の提供とコスト 環境知能の恩恵を受けるには,環境知能を提供するシ ステムを構築・設置する必要があり,そのためのコスト がかかる.このとき,金銭的な観点で環境知能を提供す るシステムを構築・設置できなければ,良い環境知能を 実現できるシステムがあっても活用できない.同様に, 提案システムもすり足検知機能を埋め込んだパネルを数 多く部屋に敷けば,すり足の状態をどこでも判定可能に なるが,それにはコストが伴う.しかし,4 章の被験者 実験からわかるように,提案システムはセンサを埋め込 んだパネルを全面に敷かなくてもすり足の判定は可能で ある.さらに,識別精度は悪くなるが,もっとまばらに 置いてもすり足の判定は実現できることが特徴である. つまり,識別精度はセンサ数にある程度依存するものの, 各人の金銭的な状態に合わせて,導入パネル枚数を調整 図 9 すり足判定成功割合 図 10 ケース 1 の結果 周波数成分 標準化されたパワースペクトル (左)通常歩行(被験者 A と B)の特徴量 (右)被験者 C の歩行の特徴量

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できることに大きな意義がある.このように,今後の環 境知能は提供する・しないの 2 値ではなく,ユーザの状 況や希望に応じて提供できるレベルを変更できることが 求められる.

6.本研究のまとめ

本稿では高齢者のすり足歩行の検知を目的とし,圧電 素子内蔵のセンサパネルを用いたすり足検知システムを 提案した.このシステムの特徴としては,(1)歩行速度 などの個人差によらないすり足検知を実現し,ユーザに 注意を促すこと,(2)パネルという環境にセンサを埋め 込むことで,ユーザにセンサを接触させることなく,通 常の生活を送っている中ですり足状態を測れること,(3) 都市部の住宅事情を考慮し,省スペース,かつ,直線が 確保できない複雑なスペースでも対応できるように,設 置位置や場所を限定しないことがあげられる. 提案システムの有効性を検証するために,被験者実験 をしたところ,提案システムは正常にすり足を検知する ことに成功した.ただし,これらの実験結果は非常に少 ない被験者のデータから構築した判定基準によるもので あり,提案手法の一般性を保証し,かつ妥当性をより確 かなものにするためにも被験者数を増やす必要がある. これに加えて,(1)判定基準の構築に際して学習の概念 を取り入れる,具体的にはサポートベクタマシン(SVM) [Vapnik 98]や学習分類子システム(LCS)[Holland 78] に代表される機械学習手法を用いること,(2)より複雑 かつ直線的でないセンサパネルの配置のもとで被験者実 験を実施し,同精度の判定を実現することが,今後の課 題としてあげられる. 謝 辞 本研究の一部は,文部科学省の科学研究費補助金(基 盤研究(A),課題番号 15H01720)と株式会社日本アレ フとの共同研究の支援によって行われた.

◇ 参 考 文 献 ◇

[Alwan 06] Alwan, M., Rajendran, P. J., Kell, S., Mack, D., Dalal, S., Wolfe, M. and Felder, R.: A smart and passive floor-vibration based fall detector for elderly, Information and

Communication Technologies(ICTTA’06),Vol. 1, pp. 1003-1007, IEEE (2006)

[Cooley 65] Cooley, J. W. and Tukey, J. W.: An algorithm for the machine calculation of complex fourier series, Mathematics of

Computation, Vol. 19, pp. 297-301(1965)

[Holland 78] Holland, J. H. and Reitman, J. H.: Cognitive systems based in adaptive algorithms, D. Waterman and F. Hayes-Roth (eds.) Pattern-directed Inference Systems, Academic Press (1978)

[Huynh 15] Huynh, Q. T., Nguyen, U. D., Irazabal, L. B., Ghassemian, N. and Tran, B. Q.: Optimization of an accelerometer and gyroscope-based fall detection algorithm, J.

Sensors, Vol. 2015 (2015) [内藤 14] 内藤裕太郎,木村美子,橋元 隆,森 政男,竹本良美:イン ソール式足圧力モニター装置を用いた歩行の定量的評価─慢性 期脳卒中片麻痺患者に対する臨床応用,産業医科大学雑誌,Vol. 36, No.1, pp. 41-48(2014) [PHILIPS] http://www.hmservice.philips.co.jp/ [Rantz 15] Rantz, M., Skubic, M., Abbott, C., Galambos, C.,

Popescu, M., Keller, J., Stone, E., Back, J., Miller, S. J. and Petroski, G. F.: Automated in-home fall risk assessment and detection sensor system for elders, The Gerontologist, Vol. 55, No. S1, pp. 78-87(2015)

[Savio 07] Savio, D. and Ludwig, T.: Smart carpet: A footstep tracking interface, 21st Int. Conf. on Advanced Information

Networking and Applications Workshops(AINAW’07),Vol. 2, pp. 754-760, IEEE(2007) [数藤 96] 数藤恭子,嶌田 聡,大塚 作一,伴野 明:足圧センサを 用いた加齢による歩行変化の解析,信学技報,ME とバイオサ イバネティックス(MBE),Vol. 96, No. 379, pp. 19-26(1996) [東京消防庁 14] 東京消防庁:年齢区分から見た事故,救急搬送デー タからみる日常生活の事故,pp. 78-80(2014)

[Vapnik 98] Vapnik, V.: Statistical Learning Theory, New York: John Wiley(1998) [大和 01] 大和淳司,嶌田 聡,大塚作一,伴野 明:大面積圧力セン サを用いた歩行パターン計測装置の開発,信学論,Vol. 84, No. 2, pp. 380-389(2001) 2015年 8 月 1 日 受理

著 者 紹 介

髙玉 圭樹(正会員) 1998年東京大学大学院工学系研究科博士後期課程修 了.同年,国際電気通信基礎技術研究所(ATR)入 所.2002 年東京工業大学大学院講師を経て,2006 年電気通信大学助教授,2007 年准教授,2011 年教 授,現在に至る.博士(工学).マルチエージェン トシステム,強化学習,創発的計算手法の研究に従 事.著書に「マルチエージェント学習─相互作用の 謎に迫る─」など.IEEE,情報処理学会,計測自動制御学会,日本ロボッ ト学会,電子情報通信学会などの各会員. 小峯 嵩裕 2014年電気通信大学情報理工学部総合情報学科卒 業.同年,同大学院情報理工学研究科総合情報学専 攻入学,2015 年米国スタンフォード大学に短期留学, 現在に至る.学士(工学).学習分類子システムを 用いたデータマイニング,ならびに生体信号モニタ リングの研究に従事.

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